藍染めはどうして青色が落ちないのですか?

藍染めは非水溶性のインジゴで染色されているからです。それでは最初にどうやって綿布を非水溶性のインジゴで染めたのかが気になります。実は、綿布を水溶性のインドキシル液(黄色)に漬けて空気中に取り出すと、インドキシルが酸化されて繊維に青色のインジゴが残留して、染色されます。

タデアイ(タデ科)の葉には、インジカンという配糖体が含まれています。これはインドキシル基がついたグルコ-スです。これをアルカリ性の水溶液中で加水分解すると、インドキシル液になります。藍染できる植物には、インド藍(マメ科)、ウォ-ド(アブラナ科)、琉球藍(キツネノゴマ科)などがありますが、どれも種類が異なります。

旧来の製法では、乾燥させた藍の葉に水を加えて3か月ほど発酵させて「すくも」をつくります。すくもに灰汁と小麦ふすまを加えてさらに一週間発酵させて、インドキシル染色液を作ります。染色と乾燥を15~20回おこなって藍色に染色します。現在ではインジゴはアニリン(フェニルアミン)から合成されています。

 絹はタンパク質なので、マイナスのCOOH基やプラスのNH3基があるので、イオン化した染色液で染めやすいです。しかし植物性繊維のセルロ-スには帯電基がないので、染色力が弱いのです。インジゴで染めたジ-ンズは何回も水洗いすると色落ちしてしまいます。逆にその方が、風合いが深まると思われています。

石徹白洋装店にて

戦争中は、贅沢品の藍は栽培が禁止されていましたが、徳島の人たちが藍染を守ってきたと言われています。藍の葉は食べられます。藍の葉の抗酸化力はブル-ベリ-の5倍と言われています。藍栽培では、殺虫剤や除草剤を撒いていたので、藍畑の土壌は汚染されています。そのため食用の藍は水耕栽培で生産されているようです。徳島では藍を麺などに練りこんで、阿波藍ラ-メンなどとして販売しています。

荀子の勧学には「青は藍より出て、藍より青し」という言葉があります。「藍草から出る青色は、元の藍草の色より青い」という意味です。つまり、弟子も努力すれば、藍のように、師匠を超えることができるかもしれない、という意味だそうです。

タンパク質を食べるだけで体内でコラ-ゲンが形成されるのでしょうか?

実はコラ-ゲンの重合にはビタミンCが必要です。ビタミンCは、コラ-ゲンに含まれるプロリンとリシンの水酸化反応を触媒するFeを還元し、再利用する働きがあります。ビタミンCは還元できるHが2個もあり、強い抗酸化力を持ちますが、このような構造を持つ栄養素は珍しいのです。

プロリンに水酸基が付加するとヒドロキシ・プロリン(Hyp)となります。α鎖のProとHyp間には水素結合があります。コラ-ゲン繊維のリシンと水酸化リシン間にはアルドール結合があります。ビタミンCがないと、Hypや水酸化リシンができないので、強固なコラ-ゲンが得られません(2013年、岸本)。ビタミンCが不足するとコラーゲンも不足し、血管や皮膚や骨が脆くなります。つまりビタミンCが不足すると、出血が止まらなくなる壊血病を引き起こすのは、コラーゲンが不足するからなのです。ビタミンCは、抗壊血病因子(anti-scorbutic factor)として発見されたことからアスコルビン酸(ascorbic acid)とも呼ばれます。酸化型はアセト・アスコルビン酸です。

ビタミンCは脂肪代謝にも関わっています。脂肪燃焼を促進するカルニチンはアミノ酸であるリシンとビタミンCから合成されます。ビタミンCはストレス抵抗ホルモンであるアドレナリンの分泌にも不可欠です。ヒトの場合、遺伝子欠損のため、ビタミンCは野菜や果物などの食物から摂取しなければなりません。

 ちなみにヒトやモルモットは体内でビタミンCを合成できません。その理由は、ビタミンC生合成経路の最後に位置するGLO酵素(グロノ-γ-ラクトン酸化酵素)に遺伝子変異があるためです。GLO酵素を用いてグロノ-ラクトンからHを2個奪えばビタミンCが得られるのです。マウスはこのGLO酵素に遺伝子変異がないため、体内で充分量のビタミンCを合成できます。マウスとモルモットは違うのです。

コラ-ゲンは骨を丈夫にする効果があるのでしょうか?

骨粗鬆症モデルラットを用いて、コラ-ゲン由来のジペプチドがラットの骨密度の改善に有効であるという報告があります。

骨の20%はコラ-ゲンでできています。私たちの骨はリモデリングと呼ばれる骨代謝で保たれています。つまり新しい骨を作る骨芽細胞と古い骨を削る破骨細胞の働きで骨が絶えず更新されています。両者のバランスが悪いと骨密度が減少してしまいます。

Pro-Hyp(プロリル・ヒドロキシプロリン)や、Hyp-Gly(ヒドロキシプロリル・グリシン)などのコラ-ゲン由来のジペプチドには骨代謝を促進する働きがあります。Pro-Hypは両骨細胞を活性化します。Hyp-Glyは骨芽細胞を活性化し、破骨細胞を抑制する効果があると言われています。

 Pro-HypやHyp-Glyはジペプチドで吸収され(2012年杉原)、血中に長く存在する傾向があります。Pro-Hypではアミノ酸結合同士がねじれており、酵素で切れにくい構造を取っています。Hyp-Glyでは、Glyは分子が小さく、Hypの陰に隠れてしまい、酵素が切る場所を見つけにくいと考えられます。

コラーゲン由来のペプチドには、関節の軟骨の石灰化を促進するアルカリフォスファターゼ(ALP)活性を抑制する働きをするものがあり、長期の服用で関節の痛みを軽減した例があります。あるいは皮膚の水分量、キメ、透明感、弾力性などを20%程度改善する効果があるという報告もあります。Pro-Hypにはヒアルロン酸合成促進 作用、Gly-Pro には血圧低下作用等が報告されています。摂取カロリ-を考え、有効成分だけサプリメントで摂りたいという人の注目を集めています。

コラ-ゲンはどのように血糖調節に関わっているのでしょうか?

コラ-ゲン由来のトリ・ヌクレオチドが糖尿病患者の血糖値を下げる効果があることが報告されています。膵臓から分泌されるインスリンが食後の血糖値を下げています。インスリンの分泌を促進しているのはインクレチンと呼ばれる腸管ホルモンです。例えば小腸下部のL細胞から分泌されるグルカゴン様ペプチド1 (glucagon-like peptide-1, GLP-1) などがあります。

糖尿病患者はGLP1が少ないので、インスリンの分泌量が減ってしまいます。これは糖尿病患者の体内にはGLP1を分解するDPP4という酵素が多くあるからです。コラ-ゲンが分解してできるGly-Glu-HypやGly-Leu-Hypなど、Glu(グルタミン)やLeu(ロイシン)をもつトリ・ヌクレオチドは、DPP4酵素を阻害し、GLP-1分泌を促進するために、活性なGLP-1を増やす働きがあることが分かってきました(2016年、伊庭)。

コラーゲンの一部は完全にアミノ酸に分解されずに、コラーゲン由来のペプチドとして腸で吸収されるようです。吸収されたペプチドは、血液にのって皮膚、関節、骨、毛髪、爪など全身に運ばれます。但し血中にペプチドが存在するのは1日だけです。豚牛由来のものより魚由来のペプチドの方が、安全で食べやすいと言われています。但し糖尿病に対しては糖質摂取制限をするのが基本です。

コラ-ゲンは人体でどのような働きをしているでしょうか?

コラ-ゲンは、基本的に人体の細胞を支える働きをしていますが、人体のあらゆる組織に存在し、多様な働きをしています。例えば、血糖調節、止血、骨代謝などもコラ-ゲンが関わっています。

止血のメカニズム(参考文献1)は複雑ですが、簡単に説明しましょう。止血を行う血小板の表面にはGP6という糖たんぱく質が突出しており、これがコラ-ゲンの受容体になっています。血管壁が損傷すると、I型やIII型コラ-ゲンのGly-Pro-Hypが、血管内に放出され、血小板のGP6受容体と結合します。血小板は刺激され、損傷部に凝縮し、血管を止血します。但しIV型コラーゲンは血管内皮基底膜の主要成分ですが、GP6を介した血小板凝集活性は認められません。

血管のコラ-ゲンが老化すると血管が固く脆くなります。血管全体の弾力性が失われるため、動脈硬化の原因となり、いわゆる高血圧・脳梗塞・心筋梗塞等のリスクを高めます。骨のコラ-ゲンが劣化すると骨折しやすくなります。プロリンは体内で合成されます。血管や骨をしなやかにするには、日頃からタンパク質を摂取して、運動をする必要があります。

参考文献1 

コラーゲン結合タンパク質を介した生命プロセスの活性化機構 西田 紀貴

http://www.jbsoc.or.jp/seika/wp-content/uploads/2013/11/80-06-03.pdf

コラ-ゲンは何種類あるでしょうか?

28種類のコラーゲンが見つかっています。それらは発見された順番にギリシャ文字の番号が付けられています。それらは異なった性質や役割があります。最初の6種を紹介します。 Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、V、Ⅵは繊維型コラ-ゲン、Ⅳ、Ⅷ、Ⅹはネットワーク型コラ-ゲンです。その他に膜貫通型コラ-ゲンなどがあります。

・Ⅰ型コラーゲン

Ⅰ型コラーゲンは皮膚、腱、筋膜、骨などに見られる基本的なコラ-ゲンです。2本のα1鎖と1本のα2鎖がラセン構造をとっています。3重らせんの間に水分子を溜めることができるため、保水効果を持ち、化粧品などに広く利用されています。

・Ⅱ型コラーゲン

Ⅱ型コラーゲンは軟骨や眼球の硝子体、脊索にあるコラーゲンです。同一の3本のα鎖からなるホモ3量体構造からなる原繊維ですが、会合して細長い繊維を形成しません。

・Ⅲ型コラーゲン

Ⅲ型コラーゲンは、血管、真皮、リンパ組織、脾臓、肝臓、平滑筋などに見られる細網線維や胎生期・創傷治癒の際に出現するコラーゲンで、大量の糖質を含みます。ホモ3量体構造をとります。

・Ⅳ型コラーゲン

Ⅳ型コラーゲンは血管内皮基底膜(血管壁)や腎糸球体をつくるシート状のコラーゲンです。トロポ・コラーゲンが重合せず糖タンパクと結合して網目構造の膜を作ります。

・Ⅴ型コラーゲン

Ⅴ型コラーゲンは角膜をつくるコラ-ゲンです。Ⅰ型コラーゲンと共存し64μm周期の横縞を示す極めて細いコラ-ゲンです。

・Ⅵ型コラーゲン

Ⅵ型コラーゲンは軟骨細胞や基底膜をその下のⅠ型・Ⅲ型コラーゲンの線維に結びつける四量体のミクロフィブリル線維を作ります。64μmの周期性を示します。

皮膚はどのような構造をしていますか?

皮膚は人体最大の器官です。皮膚の面積は2㎡ 、その重さは10kgにもなります。 皮膚は、外部環境に対する保護バリアとして働きます。

皮膚は、表皮と真皮の2層から成り立っています。血管は真皮までで、表皮には血管がありません。表皮真皮接合部で酸素、栄養素および老廃物の交換を行っています。

表皮は、主にケラチノサイト(角化細胞)という細胞からなり、基底層、有棘層、顆粒層、角層(最表面)、という複数の層構造になっています。表皮の厚さは、50μmしかありません。角化細胞が分裂すると、基底層からより表面の層に移動し、一番外側の角質層に到達し、垢となって剝落します。皮膚は1か月かけて再生を繰り返しています。

真皮は、乳頭層、網状層の中に、血管、神経、毛根、汗腺が含まれています。乳頭層にある血管ループは、表皮に栄養素と酸素を運びます。網状層に多く見られるコラーゲンは、真皮の構造を作る主要タンパク質の一つで、皮膚に耐久性を与えます。コラーゲン同士を結びつけるエラスチンは、皮膚に弾力性を与えます。コラーゲンは、主に細胞の足場となるようなネットワーク構造をとり、ヒアルロン酸は、コラーゲンの間を埋め尽くすコンクリートの役割を果たしています。これらの物質が皮膚の真皮や血管、靭帯などに存在することで、肌にハリや弾力を与えています。

サケはなぜ寒い海に生息しているのか?

鮭のコラ-ゲンが変性しないようにするためです。コラ-ゲンに含まれるプロリンは環状の非必須アミノ酸です。プロリンは生体ではコラ-ゲン・タンパク質にのみ含まれています。ヒドロキシ・プロリンの含有量はヒトで9.5%、コイで7.5%、サケで5.4%です。ヒドロキシ・プロリンの含有量が小さいと、ラセンを保つ水素結合が減少するので、変性温度が下がります。コラ-ゲンの変性温度は、ヒトで42℃、コイで36℃、サケで21℃です。42℃はヒトの致死温度です。水温が25℃を超えると、サケは死にますが、コイは生きています。コラ-ゲンは生物の生存限界を決めています。ヒトが熱い風呂に長時間入るのは危険です。

コラ-ゲンの分子構造はどのようなものでしょうか?

コラ-ゲンは、20種類以上ありますが、グリシン(Gly)を含む3つのアミノ酸の繰り返しから成る左巻きラセン型ペプチドが、3本右巻きにねじれながら構成された繊維からなります。

詳しく説明すると、コラーゲンは、Gly-X-Y の3つのアミノ酸残基の並びが繰り返される特徴的なアミノ酸配列をしています。アミノ酸残基とはペプチドの中のアミノ酸のことです。Xにはプロリン(Pro)、Yにはヒドロキシ(水酸化)・プロリン(Hyp) が高頻度で出現します。Yの位置にあるPro残基は、ヒドロキシラーゼによる翻訳後修飾によって、Hyp残基になります。つまり典型的なコラ-ゲンの基本構造はA-[Gly-Pro-Hyp]n-Bです。AとBはテロペプチドと呼ばれ、N末端は16残基、C末端は25残基です。Chemisketchでコラ-ゲンのアミノ酸が脱水縮合する様子を描いて見ました。プロリンは特殊な構造のアミノ酸です。

 分子量はGly(C2H5NO2)が75g/mol、Pro(C5H9NO2)が115g/mol、Hpyが132g/mol、で合計322g/molですが、2H2O脱水しているので[Gly-Pro-Hyp]は286g/molです。つまりコラ-ゲンのアミノ酸残基の分子量は100g/mol程度です。

この配列は動物種間における差が少なく、他動物のコラーゲンを体内に移植することも可能です。多い配列は Gly-Pro-Hyp で、Gly-Pro-Ala、 Gly-Ala-Hypなどです。コラ-ゲンを加熱分解して1本鎖にしたものがゼラチンです。ちなみにグリシンは1820年にフランスのアンリ・ブラコノ-がゼラチンから抽出されました。

1本のペプチド鎖はα鎖と呼ばれ、アミノ酸残基数は1000個、分子量は10万程度です。I型コラーゲンの場合、2本のα1鎖と1本のα2鎖がラセン状に撚り合わされています。Hypが3本のα鎖の間で水素結合をつくってラセン構造の安定化に寄与しています。α鎖の末端はジスルフィド結合されてラセンが解けないようになっています。

ラセンの周期は6nmで50回転しています。よって分子長は300 nm、太さは1.5 nm程度です。この線維性コラーゲン分子が、67nm(=300nm/4.4)ずつずれて自己会合した線維をコラーゲン繊維(collagen fibril) と呼びます。隣接するコラーゲン繊維の末端同士は、α鎖に含まれるリシン(Lys)というアミノ酸と別の繊維のα鎖の水酸化リシンが、リジルオキシダ-ゼによって、アルドール結合(架橋)されています。コラーゲン繊維には67nm周期の横縞が見られます。例えば、骨や軟骨の中のコラーゲンは、このコラーゲン線維をつくっており、骨基質、軟骨基質にびっしりと詰まっています。コラーゲンは化学的に安定で酵素分解を受けにくいので、健康なヒト組織中のコラーゲンは皮膚で15年、軟骨で117年の半減期を有すると報告されています(2000年)。コラーゲンを分解する生体内酵素にはコラゲナーゼおよびMMP(マトリックスメタプロテアーゼ)ファミリーと呼ばれる酵素群があります。

2012年に大阪大学大学院理学研究科の奥山健二氏は3本鎖7/2-helixモデルを提唱しています。そのモデルによると、コラ-ゲンの基本繊維はコイル状のアミノ酸鎖が3本ねじり合った3重ラセン構造をしています。コイルはアミノ酸残基7個で2回転(右巻き)します。一番小さいアミノ酸であるグリシン(黒丸)がラセンの内側に位置することで、コイルが引き締まります。コイルの回転が進むにつれてグリシンの位置がずれます。3本のα鎖をより合わせる時に、グリシンが常にラセンの内側に位置するように、α鎖自体が左巻きに回転した3重ラセン構造をとります(図4-b参照)。グリシンが別のアミノ酸に置き換わると、ラセン構造にまとめられず、コラ-ゲンが不安定になります。

コラーゲンとはどのようなものでしょうか?

コラーゲンは、皮膚や腱などの結合組織や骨や軟骨組織に存在して臓器・組織の構造と機能の保持に重要な役割を果たす不溶性タンパク質です。人体の構成成分は、水分60%、タンパク質20%、脂肪15%、無機質5%です。そのタンパク質の30%はコラ-ゲンです。コラ-ゲンは皮膚の40%、骨の15%、血管の8%を占めている重要なタンパク質です。65kgの人には4kgのコラ-ゲンがあります。5~10g/日程度摂取することが推奨されています。

コラーゲンは、細胞を支える足場の役割と、細胞間を埋め、色々な成分を行き来させる潤滑剤の役割も担っています。老化と共に細胞は劣化し、細胞を取り巻くコラーゲンも減少・劣化していきます。しかし、最近の研究から、コラーゲンを分解したペプチドが細胞に刺激を与え、細胞から作り出されるコラーゲンを増やすことがわかってきています。

コラーゲンが地球で初めて誕生したのは、原生代後期の全球凍結後(6億〜8億年前)と考えられています。この時大気中の酸素濃度が増大したので、多細胞生物が出現します。コラ-ゲンは細胞を接着させるので多細胞動物の出現に大きな役割を果たしました。そのころには真核生物が出現しており、呼吸系が細胞膜から細胞内(ミトコンドリア)に移行していたので、多細胞化が可能になりました。多細胞化により、内部の細胞の環境が安定し、細胞の機能分化が起こり、高機能な生物が出現しました。植物は細胞の接着にセルロ-スを用いました。コラ-ゲンはセルロ-スに比べ、しなやかで弾力性があります。コラーゲンは食肉の生産によって生ずる骨や皮といった廃物から生産できる点も優れています。

コラ-ゲンには様々な応用があります。コラーゲンの中に薬液を染み込ませておくことで、コラーゲンが生体内で分解されると同時に薬液も徐々に放出され、患部に安定して届けることができます。安全なコラーゲンは人工皮膚や人工骨などの生体材料にも利用されています。コラーゲン・ゼラチンは共に優れた形状加工性を有しており、これまでにもスポンジ状、シート状、粒子状など様々な形状に加工され使用されてきました。今後、3Dプリンタやエレクトロスピニングなどの新技術との組み合わせにより、より新しい加工体が生み出されることが期待されています。

最初に陸に上がった魚は何でしょうか?

それはイクチオステガ(Ichthyostega)だと言われています。イクチオステガは、約3.7億万年前(デボン紀最末期)に生息していた原始的四肢を持った魚です。Stegosは肋骨の覆いの意味です。脊椎動物が上陸するためには強い肋骨が必要だったのです。イクチオステガの化石はグリーンランドで発見されました。但し当時のグリーンランドは、赤道直下付近に位置していました。

体長は約1~1.5m。イクチオステガは四肢を使って移動し、尾でバランスを取っていました。少なくとも頭部を水の外に出すための強い前肢を持ち、頑丈な胸郭と背骨は日光浴の助けとなりました。幼魚時代には、優れた運動性により、水中の捕食者から陸上に逃れることができたと思われます。頑丈さゆえに体が重すぎること、尾に肉鰭類のような鰭を持っていること、後肢の先端には7本もの指があることなどから、殆どの時間を水中で過ごしていたと考えられています。3.5億年前の石炭紀前期に生息していたペデルペスが陸上を自由に移動できた最古の四肢動物だと言われています。

スクレロケファルスは、最初に海から陸に上がった開拓者「イクチオステガ」の直系の子孫にあたる両生類の仲間です。短足ですが、大きな体を十分支えることのできる足を持っていました。体長は1.5m程度あります。化石はドイツ(古生代 ペルム紀)で見つかったものです。

最初に肺をもった魚は何でしょうか?

それはユ-ステノ・プテロン(Eusthenopteron:力強い鰭(ひれ)の意)だと言われています。ユーステノプテノンは3.7億年前(デボン紀)に現れた肺魚です。ユーステノプテノンはヒレの中に骨を持ち、肺で酸素呼吸をしていたので、湖沼のある湿地帯で生息することができました。食性は肉食性で、他の魚類を捕食していました。

1981年にアメリカのDonn Eric Rosen(1929―1986)らは、ユ-ステノ・プテロンは総鰭類よりも肺魚に近いと主張しました。ユ-ステノ・プテロンは植物の繁茂する河床に棲息していたため、密生した植物を対鰭でかき分けながら泳いでいたものと考えられています。体長は約30~120cm。体型はやや長い紡錘形で、上下に対称な幅広の尾ヒレがあります。

生息していた場所は海浜の潟湖などの気水域だったと推定されています。こうした場所は潮の満ち引きなどで環境の変化が著しく、水の流れが滞って酸欠状態に陥ることがあったと思われます。このことから、彼らは現在の肺魚と同じように肺呼吸をしていたと考えられます。さらには、鰭内部の骨や背骨、頭骨の構造が最古の両生類に近い特徴を示しています。

最初に背骨をもった魚は何でしょうか?

それはケイロレピス(Cheirolepis)だと言われています。ケイロレピスは3.9億年前(デボン紀初期)に現れた最初に背骨をもった魚です。ケイロレピスには2枚の胸ヒレと2枚の腹ヒレがあります。ケイロレピスの体長は約55cmです。ケイロレピスには顎(あご)と鋭い歯があり、自分の体長の2/3もの大きさの他の魚を食べられます。顎は、鰓(えら)を支える骨が稼働できる様に変化したものだと考えられています。ケイロレピスは背骨を持つことにより強い筋肉を発達させ、すばやく力強い泳ぎができたと考えられます。

淡水中のCa濃度は海水中の1~10%しかありません。ケイロレピスは体内に必要なCaなどのミネラルを骨に蓄積することで、川や湖などの淡水域で生息することができました。カルシウムは、神経の働きや心臓や筋肉が動くために必要です。骨にはMg、P、S、Znさらには鉄など、生命にとって必要なミネラルが海水と同程度の割合で含まれています。

軟骨とはどのようなものでしょうか?

軟骨は軟骨基質と軟骨細胞から成ります。軟骨基質の主成分は、コンドロイチン硫酸などのプロテオ・グリカンです。コンドロイチン硫酸は水和したNaを引き付けるので、軟骨は豊富な水分を含んでいます。軟骨細胞は、軟骨基質の中の軟骨小腔と呼ばれる穴の中に入っています。血管は軟骨の中には侵入せず、軟骨細胞は、組織液を介した拡散によって酸素や養分を受け取り、不要物を排出しています。

軟骨は、軟骨基質の成分によって硝子軟骨、線維軟骨、弾性軟骨の3種類に分けられます。

硝子軟骨は、最も一般的に見られる軟骨で、関節面を覆う関節軟骨、気管を囲っている気管軟骨、胸郭の肋軟骨などがあります。均質、半透明で永久軟骨と呼ばれます。一方、哺乳動物の胎児は、全身の骨格が硝子軟骨として現れ、これが骨に置換されていきます。このような様式を軟骨性骨化といいます。

線維軟骨は、椎間板や関節半月などに見られます。軟骨基質にコラーゲンを多く含むのが特徴です。このため、軟骨としては固く、強い圧力に耐えることができます。靱帯や腱には軟骨成分は見られません。

弾性軟骨には、耳介軟骨や喉頭蓋の軟骨などに見られます。軟骨基質は、弾性線維を多く含むため、硝子軟骨や線維軟骨と比べ、柔軟でかつ弾力があります。

最古のサメは何でしょうか?

最古のサメは4.9億万年前のドリオドゥス(Doliodus problematicus)だと言われています。2017年にサメのような顎(あご)と胸鰭(むなびれ)の化石が見つかっています。サメの体は、殆ど軟骨でできているので、化石になり難いのです。

3.7億万年前(古生代デボン紀後期)の海にはクラドセラケ (Cladoselache) が生息していました。全長は約1.8メートルです。口は体の下側ではなく先端に位置していました。顎はあまり頑丈ではありません。体形が流線形であることから高速で遊泳していたと思われます。ちなみにサメの軟骨組織中には血管、神経、リンパ管はありません。

サメには腎臓がないのでしょうか?

サメには腎臓がないと誤解している人が多いですが、サメやエイにも腎臓があります。サメの腎臓は、尿素を保持するために、尿素を再吸収します。そのためサメの腎臓は複雑な構造をしています。ヒトの腎臓は、尿を濃縮するために、水を再吸収します。水の再吸収時に尿素の浸透圧を利用しています。

初期の硬骨魚は弱者で、塩水域から淡水域に追いやられ、なんとか淡水に適応して生き延びました。現在の海の硬骨魚は、川から海に戻ってきたもので、海水を飲んで水を得ています。サメは海水を飲まずに海水から自然に水を得ています。サメは基本的には海水に適応していますが、ノコギリエイやオオメジロザメは、広塩性種と呼ばれ、海水と淡水の両環境に適応できます。

最初に腎臓をもった魚は何でしょうか?

それはプテラスピス(Pteraspis)だと言われています。プテラスピス属は4.0億年前のシルル紀末に現れた腎臓をもった魚です。プテラスピスの体長は25cmほどです。プテラスピスには顎(あご)がありません。頭部は平たい三角形の外骨格で覆われ、三角形の左右の端と背中に棘が1本ずつ生えています。

海水に適用した魚が淡水に入ると体が膨れて破れてしまします。ステラスピスは体内に入り込んでくる水分を腎臓で体外に排出できたので、淡水域に生息することができました。恐らくこれによってプテラスピスは淡水域が苦手なオウムガイやサメから逃げることができたのでしょう。

サメの尿素はどこで合成されているのでしょうか?

尿素はサメの肝臓で合成されます。肝臓では尿素回路によりアンモニアから尿素を合成して補給します。尿素回路の律速酵素はカルバミルリン酸合成酵素です。尿素濃度が上昇すると、酵素活性が低下して、尿素の合成が止まります。サメの死後には尿素が分解されアンモニアになるので、臭います。しかし防腐効果があるので、内陸ではサメの肉が食されていました。サメの肝臓には肝油があり、肝油の浮力で、サメは遊泳しています。

鰓(えら)には、酸素を取り入れるために、大量の血液が流れています。海水と血液の間には僅かな細胞層で隔離されているため、サメは尿素を失いやすいのです。しかしサメの鰓の細胞膜はコレステロール含量が高いので、尿素の拡散透過性が小さくなっています。

尿素はタンパク質の変性剤として働くので、このままでは酵素活性が失われます。サメは、尿素とトリメチル・アミン・オキシド(TMAO)を2:1の割合に保つことで細胞内の酵素活性を正常に維持しています。サメの代謝系は尿素を前提として働いているので、淡水域のサメでもいくらか尿素を保持しています。

魚はどのようにして体内の浸透圧を調整しているのでしょうか?

外界より体内塩分濃度が高いと、体内が脱水されてしまいます。魚の体内浸透圧の調整方法には3種類あります。クラゲや円口類のヌタウナギなどは、浸透圧順応型動物と呼ばれ、細胞内にグリシンやアラニンなどの中性アミノ酸を蓄積し、体内の浸透圧を外界と等しく保っています。

真骨魚は、浸透圧調節型動物と呼ばれ、過剰なNaCl はおもに鰓(えら)の塩類細胞から、Mg2+やCa2+、SO42-イオンは腎臓から少量の尿として排出されます。

サメやエイなどの軟骨魚やシーラカンスは、尿素浸透圧性動物と呼ばれ、体内に多量の尿素を蓄積することで、体内の浸透圧を外界と等しく保っています。サメの血漿(けっしょう)中のNaClは250~300mM(ミリモル/リットル)、尿素は400~450mMで、合わせて海水濃度700mMとなります。サメは鰓や直腸線からNaClを排出しています。Naは、ATPを使ってKと交換して、細胞外に排出されます。Clは濃度勾配や電荷反発を駆動力として排出されます。

最古の魚は何でしょうか?

最古の魚はアランダスピス(Arandaspis)だと言われています。アランダスピス属は4.6億年前、古生代オルドビス紀中期に出現しました。アランダスピスは体長15cm程度、頭は硬質で、鰭(ひれ)と顎(あご)はありませんでした。1959年にオーストラリアのアリススプリングスにて発見され、原住民のアボリジニのアランダ族から命名されました。

アランダスピスは海底付近をゆっくり泳いで藻類やプランクトンを泥ごと捕食していたようです。早く泳ぐ事が出来なかったため、巨大なオウムガイから逃げるように生活していたと考えられます。鰭がない魚がいたのですね。

同時期に生きていた似たような魚にアストラスピス(Astraspis)がいます。体長20cmで、名前は星の魚の意味です。体側にヤツメウナギのような8つのエラ穴が空いており、頭部の覆いが小さな五角形(星形)の骨片からできています。

究極のツタンカーメン

5月5日に、NHKの地球ドラマチックで「究極のツタンカーメン」(2013年イギリス)の番組が再放送されました。これはエジプト学者クリス・ノ-トンがツタンカ-メン王に関する様々な謎を科学的に解明する番組です。ツタンカーメンの埋葬には異例な点が多いことが知られています。例えば

・墓はなぜ手つかずの状態だったのか?

・なぜ墓がこんなにも小さいのか?

・ミイラに焦げた跡がある理由は?

・ミイラに心臓がなかった理由は?

さらに、有名な黄金のマスクも、顔と頭巾が別人のものだと判明しています。若きエジプト学者が、最先端の科学技術を駆使して、多角的な観点から少年王の謎解きに挑みました。

ツタンカ-メンの父親アクエンアテンは唯一の太陽神を信仰する宗教改革を行い、首都をテ-ベ(ルクソ-ル)からアマルナに移しました。ツタンカ-メンはアマルナで姉と結婚し9歳で即位しました。しかしアマルナでは疫病が流行したので、彼は宗教を元の多神教に戻し、テ-ベに還りました。彼は自分の名前を「アテン神の生きる姿」ツタンカ-テンから「アメン神の生きる姿」ツタンカ-メンに改めました。

ツタンカ-メンのミイラには心臓がありません。それは彼が外地で参戦した時、戦車の車輪に惹かれて、肋骨と心臓を負傷して死亡したからです。ツタンカ-メンには子供がなく、指定後継者は戦場にいたため、権力の空白が生じました。歴代のファラオの相談役であったアイ(70歳)は、ツタンカ-メンの妻と婚姻し、王位を奪ったのです。アイはツタンカ-メンを急いで自分の小さな墓に埋葬したため、様々な奇妙なことが起こりました。

布に浸した亜麻仁油が十分乾かないままに棺に入れてしまったので、油が発火して、ミイラが焦げてしまったのです。また壁画の乾燥が十分でなかったため、壁画にカビが生えてしまいました。ツタンカ-メンの黄金のマスクは、本人の顔の部分と、耳と頭巾の部分は別のものであり、両者は鋲で留められ溶接された跡があります。耳にはイヤリングの穴を埋めた痕跡があり、それは他の女性の王族のものでした。頭巾の青い縞は色ガラスですが、目の周りはラピスラズリ石が用いられています。これは急いで黄金のマスクを用意したからでしょう。他のファラオの装飾品を無理に入れたので、狭い通路には広くするために削られた跡が残っています。アイがツタンカ-メンに魂を入れる口開けの儀式を行った様子が壁画に描かれていますが、時間がなかったので壁画に書き入れるべき文字が書かれていません。

結局アイの政権は4年しかもちませんでした。アイはツタンカ-メンが埋葬されるはずだった大きな墓に埋葬されました。王位継承者の名前を書いた壁には、ツタンカ-メンとその父の名とアイの名が書き入れられませんでした。そのためツタンカ-メンの名は後の盗掘者から隠されたのです。

ツタンカ-メンが埋葬された紀元前1327年の春でした。その年の夏には、鉄砲水が起こり、王家の谷は深さ1m以上の土砂で覆われ、土砂は強い日差しのため、固い石灰岩となりました。3か月の間ツタンカ-メンの墓の6割は盗掘にあいましたが、大きな黄金のマスクは盗掘がばれるので、盗まれませんでした。ツタンカ-メンの墓は王家の谷の一番低いところにあり、土砂に埋もれたので盗掘から免れたのです。

 私もツタンカ-メンの墓を見ましたが、あっけないほど小さなものでした。エジプト人ガイドの同級生は、ルクソ-ルのカルナップ宮殿に住んでいました。宮殿の天井には料理した時についた煙の跡がついています。当時カルナップ宮殿は砂に埋もれていたので、彼はその建物が宮殿だとは知らずに住んでいたそうです。エジプトは空気が乾燥していて、すぐに喉が渇いてしまいます。日本では当たり前に買える牛乳がなくて、ヨ-グルトしか売っていませんでした。

自然の摂理と循環とはどういうことでしょうか?

自然の摂理と循環とは、「自然が、動物(捕食者)、植物(生産者)、菌類(分解者)が相互にバランスを保ち共存する摂理の元で、物質が循環再生産され、生物の持続的な生存と環境を実現している」ということです。菌類は種類が多く眼に見えないので理解が難しいものです。菌類を含めて、自然の循環を理解し、自然の循環に調和した暮らしを目指すことが、私たちの持続的生存を可能にします。

 進化の過程で一年性の被子植物が多く出現しました。一年草は、個体の生存期間を短くすることで、遺伝子の多様性を増やしながら、速く増殖することに成功しました。これらの植物は、種を放出した後には、枯れて、土に還ります。大量の植物遺体が地表を覆えば、種には光が照射されないので発芽できなくなります。

しかし土壌菌は光を使わずに大量の植物遺体を分解します。そのおかげで植物は発芽できるのです。細胞質の糖や核酸は細菌によって比較的容易に行われますが、細胞壁は高分子の多糖類でできているので、分解は容易ではありません。前回は、細胞壁の分解は糸状菌(カビ)、放線菌(抗生物質を分泌する細菌)、担子菌(キノコ)などの多様な菌類の協力によって行なわれることを示しました。根の周囲のムシゲルなどの粘着性多糖類や分解されて残った有機物の一部はアルミニウムと結合し腐植になります。腐植は土壌の団粒化を促進します。腐植もまた徐々に分解されていきます。

増殖した菌類の遺体も菌類によって糖やアミノ酸に分解されます。有機物や菌遺体はさらに細菌によって、植物が吸収しやすい無機態の栄養素に変換されます。植物は、細胞の骨格となる炭素を光合成で得ています。しかしタンパク質や核酸や浸透圧調整に必要な窒素・リン酸・カリ(NPK)の殆どを主に無機物質の形で根から吸収しなければなりません。結局、植物や菌類の遺体の分解によって、遺体に含まれるNPKの栄養素やMg、Ca、Feなどのミネラルが土壌に供給され、それらは植物によって再び吸収され、再利用されます。

植物は、微生物の多様性を高めることで、病原菌から身を守っています。様々な菌がバランスよく生息している土壌は、活性の高い土と呼ばれ、病原菌のみが繁殖し難い状態になっています。植物は根から糖を分泌させることで、根の周りの菌叢のバランスを整えているのです。単一菌叢になると病気や連作障害が生じると考えられます。

植物は、根から糖やペプチドを出して、細菌を集め、グロマリンを放出し、土壌を団粒化し、菌類が棲息しやすい環境つくりをします。多くの植物は、菌根菌と共生し、根より細い菌糸を使って、細部の水分やリンやミネラルをより広範囲の土壌から得ることができます。また土壌の団粒化により、植物は自分自身に必要な水と空気が得られます。

団粒構造を著しく失った土は、降雨時には余剰水の涵水機能が働かなくなるので、畑の表面が川のようになってしまいます。そのような土地は雨があがったらすぐに乾いて、ひび割れを起こし、土埃を巻き上げます。適切な空気と水分がないので、微生物が住めなくなると、有機物は十分に分解できずに蓄積し、地下水を汚染するなどの問題を引き起こしてしまいます。

つまり土壌の団粒化は環境を保全します。団粒化により、降水が素早く深部に浸透するので、栄養素やミネラルが表面流出し難くなります。雑草や雑菌も栄養素やミネラルを土壌に保持する役割を果たしているのです。土壌の安易な耕起は、雑草や雑菌を殺し、土地の乾燥と荒廃をもたらします。団粒化は土壌生物によるものです。土壌の化学性と物理性を向上させには、まず土壌の生物性を向上させなければならないことに私たちは気づき始めたのです。

これからの農業はどのようにあるべきでしょうか?

農に関する考え方

農に関する考え方を改めることは、環境を保全する唯一の道です。従来の農法のように土地を耕起して化学肥料を施肥し、優れた作物だけを収穫しようとすると、様々な問題を引き起こします。これからは自然の摂理と循環をよく理解し、菌相バランスの取れた健全な土壌を育成し、健全な土壌に作物を育成させなければなりません。山、海、川の自然環境と農とのつながりを見直さなくてはなりません。

持続的収穫

慣行農法では、畑の外部から種や肥料や農薬や農業機械など、大量の農業資材を投入しています。こうした農法は長期的には農地を疲弊させ、石油資源の枯渇後にも持続的に収穫していくことができません。

従来のように短期的な増収だけを目標にせず、これからは持続的な収穫を目標にします。そのためには、いきなり作物を栽培するのではなくて、食用にならないイネ科やマメ科の植物を栽培するなどして、時間をかけて健全な土壌を育成することも必要になります。健全な土壌や循環を取り戻した農地は、外から大量の肥料を与えなくても、持続的な収穫が期待できます。堆肥は増収のための手段ではなく、健全な土壌の育成のための過渡的な手段と考えます。堆肥の施肥の仕方も土壌環境を壊さない仕方に変えていきます。作物も単一ではなく多様な作物を栽培し、自然な環境を実現します。農業だけでなく林業や漁業も持続的収穫を目標にしなければなりません。

開かれた農

持続的収穫が実現できれば、農業はすべての人の生業になります。自分が食べる分を自分が作るのが基本になります。農作物を遠隔地に運ぶなどの様々な無駄がなくなります。家族や隣人との関わりも多くなるでしょう。自然から学び、自然と調和した生活は健康的です。土地に適した品種を選び、種採りして育てていくことで、災害に強く、安定した収穫が得られます。人々が広がって住めば、これまでの様々な問題が解決するでしょう。

堆肥の分解はどのように進むでしょうか?

堆肥の分解は、植物の細胞壁の成分を分解できる菌類が分解しやすい順番に分解します。堆肥は、落葉樹の枯葉、イネ科の枯草、米ぬかなどと水を混ぜて、保温して発酵させてつくります。米ぬかのリンPや窒素N分は菌体を作るのに使われます。N源として牛糞や鶏糞を使う人もいます。ときどき水をやり、切り返して均一に混ぜます。水をやらないと乾燥して、糸状菌が増殖せず、ヘミセルロ-スやペクチンの分解が進まないからです。ペクチンが分解すると、セルロ-スとリグニンが残ります。セルロ-スは放線菌が分解します。放線菌は60℃~70℃の高温に耐えられます。最後に残るリグニンは担子菌などが分解します。

分解の過程を調べるために、3種の菌類による植物の分解モデルを考えました。植物がペクチン、セルロ-ス、リグニンからなるとして、3つの分解菌(糸状菌、放線菌、担子菌)が分解する過程を表す数理モデルを立てました。

10元連立非線形方程式を市販のソルバで解いて、植物の分解過程を解釈しました。

植物を構成する成分は、ペクチン、セルロ-ス、リグニンの順番に分解され、十分時間が経つと菌類量は減少し、無害な堆肥が生成します。その様子を簡易モデルで実現することができました。

より複雑なモデルも考えられますが、結果は単純化したモデルと定性的に似ていました。

初期の菌数が少ないと増殖ピ-クを迎える時間が送れますが、定性的な形状は変わりません。分解が不十分な堆肥を施肥すると、残留糸状菌が作物に害を与えます。林の匂いがなくなるまで、堆肥を完熟させてから施肥します。

アゾトバクタの酸素バリアに用いられるアルギン酸はどんな物質でしょうか?

アルギン酸は、マンヌロン酸(M)とグルロン酸(G)という2種類のウロン酸が直鎖重合した構造を持つ多糖類です。アルギン酸の鎖状構造の中で、MとGはランダムに存在し、3種類のブロックを構成しながら共存しています。アルギン酸は、増粘剤、ゲル化剤、乳化剤、安定剤、麺質改良剤など食品の品質を向上する優れた機能を持っています。現在、アイスクリーム、ゼリー、パン、乳酸菌飲料、ドレッシング、即席麺、ビールなどさまざまな食品に利用されています。アルギン酸は、ペットフードや養殖魚の餌などに、結着剤や増粘剤として利用されています。

「落ちない口紅」にもアルギン酸が配合されており、唇の表面に被膜をつくって、口紅が移るのを防いでいます。アルギン酸カリウムは、アルギン酸のカルボキシル基にカリウムイオンが結合したかたちの塩です。その性質はアルギン酸ナトリウムと非常によく似ており、冷水や温水によく溶け、粘性のある水溶液をつくるとともに、Ca2+のような多価カチオンに接触すると瞬時にゲル化します。現在は歯科治療に用いる歯型取り剤(歯科印象剤)のゲル化剤として、国内外で広く利用されています。

窒素固定菌は窒素固定を妨げる酸素をどのように遮断しているのでしょうか?

ニトロゲナーゼは窒素に水素を付加する強力な還元剤ですから、酸素と容易に反応してしまいます。ニトロゲナーゼの金属クラスタは酸素に曝されると秒単位で速やかに分解されます。ニトロゲナーゼが失活しない酸素濃度は5~30 nM(モル濃度:M=mol/L)と非常に低いです。したがって、ニトロゲナーゼを駆動するにはO2を含まない嫌気環境が必要です。しかし生物が利用するATP生産の酸化的リン酸化のためには250 μMの酸素濃度が必要です。そのため窒素固定生物は様々な方法で嫌気環境を実現しています。嫌気性の窒素固定細菌は窒素固定に必要なATPを発酵など,酸素呼吸以外の系路によって生産しています。

根粒菌の場合

根粒菌はダイズの根など、レグヘモグロビンを含む根粒細胞に共生しています。レグヘモグロビンは酸素を強く捉え、酸素濃度に対する緩衝作用を有します。根粒の酸素拡散障壁を介した酸素濃度調節により酸素濃度は60nMとなり、レグヘモグロビンの酸素吸着作用、低酸素濃度での呼吸鎖の電子伝達を可能にする酸素高親和性のバクテロイド・ターミナルオキシダーゼによる酸素消費により、遊離酸素濃度は10nM程度になります。ちなみにヒトの血液の場合、遊離酸素の濃度は1μM程度です。

根粒菌の原形質膜の呼吸系はこの低濃度の遊離酸素を消費してATPを生産しています。そしてアゾトバクタと同様、このATPを利用して遊離酸素のない細胞内部に局在するニトロゲナーゼによって窒素固定を進行させています。この様に小さな細菌ではATP生産と窒素固定を、離れたところで進行させて、両立させています。

アゾトバクタの場合

アゾトバクタは、呼吸保護と呼ばれる細胞内酸素濃度を低く維持するための酸素消費速度の調節機構をもっています。呼吸保護には細胞表層に局在する5つのターミナルオキシダーゼによる酸素消費が大きく寄与します。それとともにアルギン酸が生合成され、細胞が覆われるアルギン酸の殻は細胞内の酸素を低くします。セルロース繊維のネットワ-クに水溶性のアルギン酸が裏打ちされると柔軟で酸素ガスを通さない膜が得られます。

細菌の表面膜の呼吸系で酸素を消費してATPを生産しています。アゾトバクタの細胞膜は酸素バリア膜であるアルギン酸膜で覆われています。外部から拡散してくる酸素は、細胞表面で全部消費されるため、細菌の内部には侵入しません。ニトロゲナーゼは酸素のない細胞の内部に局在し、ここで細胞の表面で生産されたATPを用いて窒素固定を行っています。

図1 アゾトバクタ属ビネランディの細胞の模式図

細胞はアルギン酸のバリア膜(黒)で覆われている。紺色のCydABⅠ、Cco、CydABⅡ、Cox、Cdtは5つのタ-ミナル酸化酵素、水色の4つの膜タンパク質Nuo、Sha、Nqr、NdhはNADHユビキノン酸素還元酵素、灰色のCydR、MucR、AlgUなどは制御タンパク質、赤色はATP合成酵素1とATP合成酵素2、紫色のFeSllとRnf1は呼吸保護に関わるタンパク質、黄緑の四角で囲われたものは、酸素暴露に敏感なタンパク質である。

参考文献:Joao C. Setubal, Virginia Bioinformatics Institute, JOURNAL OF BACTERIOLOGY, July 2009, p. 4534–4545,’Genome Sequence of Azotobacter vinelandii, an Obligate Aerobe Specialized To Support Diverse Anaerobic Metabolic Processes’

窒素固定シアノバクテリアの場合

光合成をするシアノバクテリアにも窒素固定をする種があります。光合成によりO2を発生しながら、酸素に弱いニトロゲナーゼを駆動するのは驚きです。ヘテロシストの膜成分は糖脂質です。細胞隔壁が外部からの気体拡散速度を調節することで細胞内酸素分圧を低減化しています。同時にヒドロゲナーゼ活性を高めることで環境中H2を酸化させて酸素を消費して細胞内酸素分圧を低下させています。糸状性シアノバクテリアは、環境中のC/Nが増加し窒素固定の必要性が高まった場合に、窒素固定専用の細胞(ヘテロシスト)にニトロゲナーゼを局在させ、光合成を行っている細胞からATPと 還元力をもらって、窒素固定を行っています。好気性の窒素固定菌は以上の様にして、酸素が窒素固定を阻害しないようにしています。窒素固定により生成したアンモニアは栄養細胞から供給されるグルタミン酸と反応しグルタミンへと変換され窒素源として栄養細胞に移送されます。

名古屋大学の藤田祐一教授は2018年6月にプレクトネマという窒素固定シアノバクテリアの20.8kbの窒素固定遺伝子のクラスタとCnfRという転写制御タンパク質を見つけ、その発現制御機構を解明しました。これらの遺伝子を、シネコシスティスという窒素固定の能力をもたないシアノバクテリアに導入して、窒素固定能を付与し、脱酸素試薬(ジチオナイト)の添加で、低いが有意なニトロゲナーゼ活性が検出しました。

フランキアの場合

フランキアは球状細胞ベシクルを形成することにより酸素の混入を防ぎ窒素固定を行います。ベシクルはホパノイド脂質の結晶からなる多重膜で覆われています。ベシクルの直径は4~5 μmで、ホパノイド脂質膜の厚さは50nm程度です。ベシクルは植物のミトコンドリアに取り囲まれており、これは酸素分圧を低下させる効果があると考えられています。

ニトロゲナ-ゼの反応中心はどのようなものでしょうか?

ニトロゲナ-ゼの反応中心は、[4Fe-4S]クラスタ、PクラスタとFeMo-coから成ります。Mo型ニトロゲナーゼは、容易に分離する2つのコンポーネントFe タンパク質(NifH二量体)とMoFe タンパク質(NifD-NifKヘテロ4量体)から構成されています。Nifは窒素固定Nitrogen fixationの省略記号です。NifHというのは窒素固定に関わるFeタンパク質をコ-ドしている遺伝子Hの名前です。Fe タンパク質は、ATPを加水分解してエネルギを得て、窒素の還元に必要とされる電子を送り出します。MoFe タンパク質は、Fe タンパク質から送られてきた電子を使って実際に窒素分子の還元を行います。

Fe タンパク質にある[4Fe-4S]クラスタは4つの鉄と4つの硫黄がキュバン(cubane)状(=立方体状)に集合したFe-Sクラスタです。MoFe タンパク質は、[8Fe-7S]構造のPクラスタとFeMo-coと呼ばれる[Mo-7Fe-9S-C-ホモクエン酸]の有機金属クラスタを含み、NifDとNifKの2つのサブユニットによるα2β2というヘテロ4量体構造をしています。[4Fe-4S]クラスタから送られてきた電子は、Pクラスタを経由してFeMo-co(フェモコ)に伝達され、FeMo-co上に結合した窒素分子を還元します。PクラスタからFeMo-coに電子を伝達すると、

  • P cluster(還元型)+FeMo-co(酸化型)→ P cluster(酸化型)+FeMo-co(還元型)

となり、還元型のFeMo-coが得られます。さらに

  • FeMo-co(還元型)+ N2 → FeMo-co(酸化型)+ N2H2

となり、改めて生成されたFeMo-co(還元型)とN2H2が反応し

  • FeMo-co(還元型)+ N2H2 → FeMo-co(酸化型)+ N2H4

さらに改めて生成されたFeMo-co(還元型)とN2H4が反応し

  • FeMo-co(還元型)+ N2H4 → FeMo-co(酸化型)+ 2NH3

によってアンモニアが生成されます。つまり還元型FeMo-coの力を3回使って、窒素からアンモニアが生成されます。

但しこれらの金属クラスタはすべて酸素によって速やかに破壊されてしまいます。また、ニトロゲナーゼの3つの構造遺伝子(NifH、NifD、NifK)に加え、FeMo-coの生合成には8つもの遺伝子が必要です。

窒素固定菌はどうやって窒素をアンモニアに変えるのでしょうか?

窒素固定菌はニトロゲナーゼ(Nitrogenase)という酵素を使って、窒素分子をアンモニアへと変換します。炭化水素のC-H間の結合エネルギは約100 kcal/mol程度であるのに対して、N≡Nの三重結合のエネルギは225 kcal/molと高いので、これを還元的に開裂して2分子のアンモニアに変換することは大変なことです。Hoffman教授はニトロゲナーゼを“Everest of enzyme”と呼んだそうです(2009年)。ニトロゲナーゼは、モリブデンMoを含むMo型、バナジウムVを含むV型それに鉄Feのみを含むFe型の三種類あります。特に、土壌細菌のアゾトバクタ・ヴィネランディ(vinelandii)のMo型ニトロゲナーゼがモデル細菌となっています。ニトロゲナーゼは以下のような反応を触媒します。ここでPiはリン酸を表します。

  • N2 + 8H + 8e +16Mg2+≡ATP + 16H2O ——> 2NH3 + H2 + 16Mg2+≡ADP + 16Pi

電子はフェレドキシンなどの電子供与体から提供されます。ギブスエネルギの変化は

  • ΔG’ = -136 kcal/mol N2

です。標準状態(PH7)にも関わらず大きな発熱を生じます。細胞での酵素反応中にATPは、Mg2+≡ATPの状態を取っています。つまりMg2+はATPの2つのリン酸の酸素イオンOにキレ-ト結合しています。ATPの負電荷を覆うことで、Mg2+≡ATPが酵素反応の活性部位の疎水性の裂け目に結合できます。上記反応ではアンモニアに伴い水素が発生しています。ニトロゲナーゼは、ATPの加水分解と共役したプロトン還元の副反応

  • 2H + 2e + 4ATP + 4H2O ——> H2 + 4ADP + 4Pi

が含まれているからです。実際の生理状態においては16ATPではなく、20~30ATPが必要だとされています。ニトロゲナーゼは、反応特異性が低く、様々な窒素化合物や有機化合物を触媒できます。

窒素固定菌はどれくらいの窒素を固定するのでしょうか?

生物による窒素固定量は年間5300万トンと言われています(植村誠次1977年)。その内、マメ科の根粒菌による窒素固定量は年間1400万トン、ハンノキ型根粒などの非マメ科によるものが500万トンで、全体の36%を占めています。それ以外の66%はアゾトバクタ-やシアノバクテリアなどの単独細菌によるものと考えられます。ちなみに人間が工業的に固定している窒素量は年間3000万トンです。

 化学肥料は1ha当たり60kgの窒素分を投入します。マメ科の植物は68kg/haの窒素を固定し、アゾトバクタ-は50~280kg/haの窒素を固定するようです。アゾトバクタ-を有効利用できれば、窒素肥料は要らなくなりますね。

 高橋英一(1982年)によると、窒素固定量は、ダイズ栽培土壌50~100kg/ha、クローバ栽培土壌100~200kg/ha、サトウキビ根圏土壌~60kg/ha、水田30kg/ha、アカウキクサ栽培池60~120kg/haです。

サトウキビが作物体に貯えた窒素の50%近く、サツマイモでは葉中窒素の40%近くが植物細胞に内生するエンドファイト細菌から供給されていると考えられています(涌井2003年)。すなわち、作物は肥料だけで成長するのではなく、窒素固定菌の働きが想像以上に大きいことが分かります。

窒素固定菌にはどのようなものがあるでしょうか?

窒素固定菌というとマメ科の根粒菌(Rhizobium)が有名ですが、他にも単体で窒素を固定するアゾトバクタ(Azotobacter)、クロストリジウム(Clostridium)、藍藻(diazotrophic cyanobacteria)がいます。またフランキア(Frankia)などの放線菌(Actinomycetales)は多くの樹木と共生し、空気中の窒素をアンモニアに変えて摂取しています。土壌の中のアゾトバクタが十分いれば、作物の幼苗は、窒素肥料を殆ど与えなくても、成長します。窒素肥料を与えてしまうと、アゾトバクタと作物との緩い共生関係は無くなってしまいます。牛糞堆肥などを使う有機農法から無肥料栽培に転換するには、土壌中の窒素成分を減らして、微生物の転換を図らなければなりません。

マメ科の根粒菌

 マメ科植物の多くは根に粒状の根粒を形成し、そのなかに根粒菌が共生しています。根粒菌は植物から糖をもらい、植物に空気中の窒素を分解して得た窒素化合物やホルモンを供給しています。マメ科植物は世界各地に分布しており、現在450属、13,000種ほどが知られています。調査された2,000種のうち、根粒を形成しない種類が約10%ありました。

アルファルファ、クロ-バ、エンドウ豆、インゲン豆、ル-ビン、大豆、カウピ-(落花生)、ミヤコグサ、ダレヤ、イガマメ、ニセアカシア、イタチハギ、タチレンゲソウ、ムレスズメなど約20種類のマメ科の植物は、交互に根粒菌を交換しても根粒が形成されます。根粒菌は、土壌中では鞭毛のある小型の球菌ですが、共生する時は桿状大型化し、不規則な形態のバクテロイドになります。根粒組織中にはレグヘモグロビンという赤色の色素がみられます。根粒の寿命は多くは1年以内であって、結実するころから根粒の内容物は寄主植物に吸収され、根粒内の根粒菌は土中に放出されます。

根粒の形成には、好気的条件が必要です。また窒素肥料が多いと根粒が形成されません。リン酸は根粒形成に不可欠で、根粒形成を促進させます。微量元素の硼素(B)は根粒とバクテロイドの形成に、モリブデン(Mo)は窒素固定に必須の元素です。マメ科作物の種子に根粒菌を接種して根粒を形成させる人工接種の手法が開発されています。人工接種すると、無効菌が先に根に侵入する前に根粒が形成されるので、作物の収穫量と品質が向上するようです。

アゾトバクタ

アゾトとはイタリア語で窒素の意味です。クロオコッカムやビネランジは、シュ-ドモナス科アゾトバクタ属のグラム陰性の好気性細菌です。アゾトバクタ属の細菌は単体で自分のために窒素を空気中から取り入れ固定します。アゾトバクタは1gの炭水化物を消費して5~20mgの窒素を生産します。これは根粒菌の10%程度です。

アゾトバクタは、土壌中に広く分布し、中性付近で窒素固定を行うため、酸性土壌にはあまりいません。植物は根から糖を出し、アゾトバクタはアンモニウムを出して、お互いに緩い共生関係を保っています。特にアゾトバクタは光合成細菌と共生します。アゾトバクタは脂肪酸を提供し、光合成細菌は糖を提供します。そのため光合成細菌を施肥すると窒素固定量が増えます。アゾトバクタは大量の酸素を消費するので、環境が嫌気的になりがちですが、光合成細菌は酸素がなくてもATPを生産できるので、アゾトバクタと共生できるのです。

窒素固定細菌に関しては、アゾトバクター属以外に4属が知られています。

  • アグロモナス属Agromonas 酸素分圧の低いところで窒素固定する。
  • アゾモナス属Azomonas 低いpH(4.6~4.8)域で窒素固定する。
  • ベイゼリンキア属Beijerinckia 37℃で生育、熱帯地方で窒素固定する。
  • デルキシア属Derxia メタンを同化でき、熱帯地方に分布し窒素固定する。

クロストリジウム

クロストリジウムは3~4μmサイズのグラム陽性の嫌気性細菌です。繊毛があり運動します。耐酸性があり、あらゆる土壌に分布しています。但し窒素固定力はアゾトバクタより弱いです。クロストリジウム属細菌は、SODやカタラーゼなどの活性酸素を無毒化する酵素を持たないため、酸素がある通常の環境下では不活化します。酸素存在下では、耐久性の高い芽胞を作って休眠することで、死滅を免れます。ボツリヌス菌や破傷風菌やウエルシュ菌はクロストリジウム属の細菌です。サ-モセラム菌は好熱性で酸素なしにセルロ-スを分解できるため、エタノール生産に利用されています。クロストリジウム属菌はガン細胞を選択的に攻撃することが知られており、その応用が研究されています。

窒素固定シアノバクテリア 

単細胞・糸状体種のシアノバクテリアの半数は窒素固定の能力を持ちます。大部分は単生ですが、真核藻類・地衣類・シダ植物・裸子植物などと共生する種もあります。シアノバクテリアは好気生物でしかも光合成は酸素発生型なので、多くの窒素固定シアノバクテリアでは一部の細胞を、光化学系Ⅱを欠いた窒素固定細胞=ヘテロシスト(heterocysts 異型細胞))に分化させることで光合成系と窒素固定系を空間的に分離し、窒素固定と光合成の起こる時間を分離することで酸素感受性の高いニトロゲナーゼを酸素から保護しています。アナベナ(Anabaena)がその代表例です。しかし、嫌気・微嫌気条件でのみ窒素固定活性を発現するレプトリンビア・ボリアナなどの種も存在します。

ソテツ科の植物は9属90種が知られ、これまでにその約1/3に藍藻類が侵入した根粒の着生が報告されています。ソテツの根粒は地表の近くに形成され、多年生で叉状分岐をしており、10cmもの大きさになるものもあります。最近では、ソテツの根粒は、イヌマキの根粒と同様、微生物と関係のない本来の性質であって、藍藻類などの内生菌は2次的に侵入したものと推定されています。

窒素固定メタン菌

深海熱水環境には窒素固定能をもつ好熱性メタン菌が棲息しています。35億年前の深海熱水性の石英脈に保存された窒素分子と(最古のメタン菌由来と考えられている)有機物の窒素同位体組成の関係を調べたところ、当時の深海熱水環境に生息したメタン菌が窒素固定して増殖していた可能性が高いと考えられています。窒素固定遺伝子の大規模な伝播は地球初期の深海熱水環境で起き、生命の共通祖先もしくはメタン菌(当時の深海熱水環境に生息していた)から光合成細菌の祖先に伝播したと考えられています(2014西澤学)。

フランキア菌

フランキアは放線菌門に属するグラム陽性細菌です。フランキアは1886年Brunchorstにより非マメ科植物の根粒中に見出され、その名は彼の師であるスイスの微生物学者A. B. Frankに由来します。フランキアは、多細胞性の菌糸、ベシクル、胞子の3つのタイプの細胞に分化します。通常は、一般的な放線菌と同様に菌糸として生育します。培地中の窒素源が欠乏すると、ベシクルと呼ばれる球状の細胞を分化させ、そこで窒素固定反応を行います。フランキアはベシクルを形成することにより自分自身で酸素防御を行うため、このような好気状態でも窒素固定を行えます。

フランキアが共生する植物は世界で8科14属、総計158種あります。日本ではハンノキ属16、グミ属13、ヤマモモ属3、ドクウツギ属1の計33種について根粒の形成が報告されています。オランダのグルチノザハンノキを主体とした森林では、毎年60~130kg/haの窒素の蓄積が見られます。アメリカのカリホルニア湖では、湖畔に面してハンノキ林が密生していて、湖畔周囲の土壌及び湖水の水が富栄養化し、プランクトンが旺盛に発育しています。ヤマモモは、瀬戸内の石英粗面岩地帯における粘土質土壌の改良に用いられています。マツと混植後12年間に、毎年80kg/haの窒素増加がみられています。

窒素固定エンドファイト(Diazotrophic endophytes)

サトウキビやサツマイモの内部にはエンドファイト細菌が共生しています。エンド(endo)は体内、ファイト(phyte)は植物の意味です。野生イネから分離されたHerbaspirillumはイネの細胞間隙に生息して、窒素固定をします。サツマイモ体内には、窒素固定活性を持つBradyrhizobium属、Pseudomonas属、Paenibacillus属のエンドファイトが生息しています。これらの菌は、土壌にアミノ酸などの有機体窒素があるときに植物体内に入り込みます。化学肥料では入りません。これらの窒素固定エンドファイトは宿主特異性が低く、広範な作物の窒素栄養の改善に利用できます。窒素固定エンドファイトはススキにもあります。

細菌の増殖能力はどれくらいあるのでしょうか?

大腸菌は20分以内に一回分裂すると言われています。ヒトの皮膚や肝臓の細胞が入れ替わるのには1ヶ月かかります。大腸菌の方が圧倒的に活動的なのです。

20分に一回分裂すると24時間で72回分裂します。10^X倍に増殖するときの指数Xは

  • X=72・log2=72・0.30=21.6 

すなわち理論上10^21個以上に増殖します。実際は栄養がなくなって増殖は止まります。仮に栄養が供給され続けると、大腸菌の重量は700fg(=7×10^-13g/個)ですから、1個の細菌は24時間後には、

  • 7×10^-13g/個×10^21個/日×10^-6(ton/g)=700(ton/日)

700トンという途方もない重量になります。細菌には環境を変える力が備わっています。

土壌中の菌体の栄養分はどれくらいでしょうか?

菌体には、カビと細菌を平均して炭素100gに対し、窒素15g、リン11.6g、カリウム9.8g、カルシウム1.4gが含まれています。つまり菌体にはN:P:K=3:2:2の割合で栄養素が含まれています。菌体のC/N比は6.7です。

糸状菌は炭素100gに対して、窒素5g(4.5g~7.5g)程度含んでいます。糸状菌の場合、

  • C/N比=100g/5g=20

となります。堆肥作製時のC/N比を20とするのはそのためです。堆肥はC/N比10程度まで分解すると、林の匂いがなくなって施用可能になります。ちなみに好気性菌では0.75g~1.5gの窒素を含んでいます。細菌の場合

  • C/N比=100g/1.5g=66

となります。細菌に必要なのは炭素であることが分かります。

畑10a当たり、700kgの菌体がいると考えられています。乾燥菌体量は、約100kg(=700kg×14.3%)になります。内訳は炭素70kg、窒素11kg、リン8kg、カリ7kg、カルシウム1kgとなります。10aの施肥量は、窒素10kg、P2O5が10kg、K2Oが10kgですから、リンは4.4kg、カリウムが8.3kgとなります。つまり、乾燥菌体のミネラルと施肥量はほぼ等しいといいうことになります。土壌中の菌体が死んで肥料として供給されれば、無肥料でも植物は育つことになります。

細菌は摂取エネルギの何%を菌体合成に使っているでしょうか?

好気性細菌は摂取エネルギの5~10%、嫌気性細菌は摂取エネルギの2~5%しか菌体合成に使いません。つまり細菌は摂取エネルギの95%以上を生命維持活動に使ってしまいます(西尾道徳1989年)。細菌を増やすには土壌に大量の炭素が必要なのです。施肥した有機体窒素は、細菌に取り込まれずに余り、硝酸態窒素に変化し、植物に吸収されます。

一方、真核生物であるカビは摂取エネルギの30~50%を菌体合成に使っています。糸状菌などは摂取エネルギの半分を菌糸の伸長に費やしています。糸状菌は細菌よりN、P、Kなどのミネラルが1桁多く必要になります。雑草堆肥などを作るためには、米ぬかなどの窒素分を入れます。糸状菌は湿った土壌を好むので、堆肥が乾かないように時々水を追加して、均一になるように切り返します。

細菌とヒトのどちらの呼吸活性がより大きいのでしょうか?

呼吸活性の値の例を挙げると、静止時では

  • 蝶0.6μl、カエル0.15μl、ヒト0.21μl、マウス2.5μl、

です。正確な単位は[μlO2/mg(乾物)/hour]です。マウスの静止時の呼吸活性がヒトより高いのは、マウスは体が小さいために放熱が大きいからでしょう。活動時は上昇し

  • 蝶100μl(飛翔)、ヒト2μl(走行)、マウス20μl(疾走)

となります。蝶は飛翔するのに静止時の166倍のエネルギを使っています。

細菌の呼吸活性はどうでしょうか? 

  • 藍藻1~10μl、カビ10~50μl、酵母50~100μl、
  • 大腸菌100~300μl、酢酸菌1000μl、窒素固定菌3000μl

大腸菌の呼吸活性はヒトより100倍以上大きいことが分かります。窒素固定菌に至っては1000倍以上です。細菌を増やすには土壌に大量の有機物が必要になりそうです。

ヒトのエネルギ消費量と酸素消費量の間にはどんな関係があるのでしょうか?

体重65kgの18才男子の基礎代謝量は

  • 1640[kca1/day]/65[kg]=25.2[kcal/kg/day]

です。1分当たりに換算すると、1日は1440分(=24×60)なので

  • 25.2×1000[cal/kg/day]/1440[min]=17.5[cal/kg/min]

となります。安静時の酸素消費量は約230[ml/min]です。1kg当たりの酸素消費量は

  • 230[ml/min]/65[kg]≒3.5[ml/kg/min]=1 METS

となります。METSはスポ-ツ生理学で用いられている運動強度の単位です。つまりエネルギ消費量と酸素消費量の比は

  • 17.5[cal/kg/min]/3.5[ml/kg/min]=5[cal/ml]

です。つまり酸素消費量1[ml]当たり5[cal]のエネルギを生み出しています。

従って、エネルギ消費量Xと酸素消費量Yの間には

  • X[cal/kg/min]=5[cal/ml]・Y[ml/kg/min]

の関係が成り立っています。1 METSの消費エネルギは

  • 1 METS=5[cal/ml]・3.5[ml/kg/min]=17.5[cal/kg/min]

です。

ヒトの呼吸活性はどれくらいでしょうか?

呼吸活性とは、1時間に重量1mg当たりの酸素消費量(μl:マイクロ・リットル)のことです。呼吸活性が大きいほど生命活動が活発だと言えます。

ヒトの安静時の酸素消費量は約230[ml/min]です。1kg当たりの酸素消費量は

  • 230[ml/min]/65[kg]≒3.5[ml/kg/min]

となります。

  • 3.5[ml/kg/min]=3.5×1000×10^-6×60[μl/mg/hour]=0.21[μl/mg/hour]

歩行時には5倍、走行時には10倍の酸素消費量になるので、

  • 歩行時 1[μl/mg/hour]、走行時 2[μl/mg/hour]

となります。

ヒトの細胞の呼吸活性は細胞によって異なり

  • 皮膚0.8μl、心臓5μl、肝臓12μl、網膜31[μl/mg/hour]

となっています(1980年柳田)。全体の酸素消費量0.21に比べて、上記の器官は活発に活動していることが分かります。

Alは植物にどんな問題を引き起こしているのでしょうか?

Alは土壌中の希少なリン酸とキレ-ト結合して[Al≡PO3]の非可給態にします。つまりAlはリン酸基O=P(OH)2の2つのOH基の酸素に挟まれて結合します。あるいは種子に含まれるフィチン酸は、6つのリン酸を含みますが、そのうち4つのリン酸がAlとキレ-ト結合し、難分解性の不溶態[4Al≡フィチン酸]を形成します。糸状菌は、フィタ-ゼという酵素でフィチン酸を分解し、植物にPを供給する手助けをします。しかし糸状菌は[Al≡フィチン酸]を分解することはできません。つまりAlはキレ-ト結合してAl≡PO3を形成し、植物がPを吸収するのを妨げているのです。植物は根からクエン酸などを放出して、リン酸を得ます。

  • [Al≡H2PO4] + クエン酸 → [Al≡クエン酸] + H2PO4

リン酸の拡散係数は小さく、同じ土壌において硝酸イオンが1日に3mm拡散するのに対して、リン酸は0.13mmしか拡散しません。従って植物の根の周りはPが欠乏しています。菌体は植物よりP濃度が25倍高いです。植物は根から糖を分泌し、根の周囲に菌体を引き付け、菌遺体のPを吸収します。

植物はどのようにして難分解性の腐植を分解するのでしょうか?

植物の根の細胞壁はAlと結合することができます。例えば

  • [Al≡有機物] + 根細胞壁 → Al≡根細胞壁 + 有機物

といった反応により、有機物が遊離します。細菌やカビには有機物を摂取する口がありません。細菌は外部に酵素を分泌して、有機物を分解して、吸収します。Alと結合した根細胞は脱落し、根の先端のムシゲルに堆積します。これはやがて細菌のエサになります。

根の細胞壁がAlと結合する理由

植物の細胞壁にはヘミセルロ-スが含まれており、多糖類鎖にはフェノ-ル基を有するフェルラ酸などがあり、フェルラ酸同士の結合により多糖類鎖同士が結合しています。隣接するフェルラ酸の2つのフェノ-ル基はAlをキレ-ト結合します。植物の細胞壁に含まれるポリ・ペクチン酸にはカルボキシル基があり、これもAlとキレ-ト結合します。

難溶性の腐植から有機物を遊離させるもう一つの方法は有機酸を使う方法です。植物の根からは有機酸が分泌されています。例えば

  • [Al≡有機物] + クエン酸 → [Al≡クエン酸] + 有機物

といった反応により、有機物が遊離します。遊離した有機物は細菌によって分解されて、植物の養分になります。植物の根から分泌されるクエン酸やシュウ酸やリンゴ酸もAlとキレ-ト結合をします。

植物はどうやって[Fe3+≡リン酸]からFeやリン酸を吸収しているのでしょうか?

野菜は被子植物です。被子植物には双子葉植物と単子葉植物があります。進化的には単子葉植物の方が新しいです。単子葉植物は、草食動物に対抗するために、成長点が低く、種子に養分を集中させています。単子葉は、養分が少なく、ガラス質で消化され難い特徴があります。

双子葉植物には、細胞壁の内側の細胞膜にFe3+をFe2+に還元する膜タンパク質酵素があります。

[Fe3+≡リン酸] + 膜タンパク質酵素 → Fe2+膜タンパク質酵素+ リン酸

となり、還元されたFe2+は根の表皮細胞の膜輸送タンパク質で細胞内部に輸送されます。

Feの還元力は、リン酸があり、鉄欠乏の条件で発揮されます。

単子葉植物の場合は、根からネムギ酸などの有機酸を放出して、水溶性の[Fe3+≡ムギネ酸]の形にして細胞内に吸収します。

但しマメ科のル-ピンは、クエン酸を使って、Feを吸収します(1983年ガ-トナ-)。双子葉のキマメ(樹豆)は[Fe3+≡リン酸]を利用し、イネ科のソルガム(雑穀)は[Ca2+≡リン酸]からリン酸を得ます。

土壌中でAlはどんな働きをしているのでしょうか?

アルミニウムイオン(Al3+)は価数が3価と大きいので、植物には有害です。Alは植物を構成するのに必要な元素ではありません。しかしAlは土壌中で重要な働きをしています。

1.Alは粘土に不可欠な元素

岩石の50%~70%は石英(SiO2)、15%はアルミナ(Al2O3)、残りはFe2O3やK2Oです。だから物理風化で細かくなった一次鉱物はSiAlFeKを含みます。さらに植物にKを奪われ、化学風化を受けて結晶化した二次鉱物はSiとAl(あるいはFe)を含んでいます。つまり粘土はAl2O3とSiO2から出来ており、Alは粘土に不可欠な元素なのです。

2.Alは土壌のミネラルを保持する

Alは正8面体のシート、Siは正4面体のシート構造を形成しています。例えば代表的な粘土鉱物であるカオリナイトは、Alシ-トとSiシ-トが1:1、スメクタイトは2:1に積み重なった構造をしています。粘土鉱物のAl3+がMg2+やCa2+に置き換わることで、結晶表面はマイナスに帯電(但し側面はプラスに帯電)します。これによって粘土はK+やMg2+やCa2+などの陽イオンを引き付け、CEC(陽電荷交換容量)を得ます。ちなみにカオリナイトのCECは3~15meq/100gであるのに対し、スメクタイトのCECは80~150meq/100gもあります。ここでmeqはミリ・エクイバレント(当量)と読みます。つまりAlのおかげで土壌は養分を保持できるのです。

3.Alは腐植を作り、土壌の有機物を保持する

私たちがよく目にする黒ぼく土は、火山灰なので、粒子が細かいために、多くのSiとAl(Fe)が溶出しています。ところでイネやススキなどのイネ科の植物の葉の縁はSiO2のガラス質で鋭くなっています。イネ科植物は大量のSiとKを吸収するので、土壌中に多くのAlが遊離します。一方有機物には大量のカルボキシル基が含まれています。2つのカルボキシル基の酸素はAlを挟み込みキレ-ト結合をします。つまり遊離したAlは有機物と強固に結合し、 [Al≡有機物]を形成します。これは難分解性の不溶態で、有機物を分解され難く、隙間が多い三次元構造にします。これが腐植と呼ばれる黒褐色の有機物です。つまりAlは土壌の有機物(腐植)を長期間保持する働きがあるのです。

菌遺体に含まれるたんぱく質には粘着性があり、土壌を団粒化します。一方、糸状菌は菌糸の耐水性を高めるグロマリンという不溶性タンパク質を分泌しています。団粒構造が安定に保持されるのは、糸状菌の遺体が団粒構造に耐水性を与えるためです。

ちなみに腐植のCECは30~280meq/100gと幅が広く大きいです。腐植にはカルボキシル基が多く含まれているため、負に帯電しています。カオリナイト土質の場合は、腐食を含む堆肥を入れると、CECが増大するので、作物の収量増加が期待できそうですね。

持続的な農業を実現するにはどうしたらいいのでしょうか?

持続的な農業

自然界の生物は、捕食者(動物)、生産者(植物)、分解者(菌類)の三者から成ります。菌類は主に土壌に生息し、全ての生物の遺体を食べるために分解し、土壌に養分を与えています。植物は、光合成で糖を作り、根から菌類が生成した養分(NPKなど)を吸い上げて、タンパク質を作ります。植物には筋肉はありませんが、様々な化学物質を細胞内で合成するための酵素(タンパク質)が必要なのです。自然界の持続的活動は、三者の生物がバランスし、物質が循環することで成り立っています。農業を持続的に実施するためには、自然界のバランスや循環を維持しなければなりません。

慣行農法

植物を土に植えて、化学肥料と水をやれば、植物は成長します。しかし化学肥料は石油や鉱物資源により生産されるので持続的ではありません。また土壌には養分が残留しているので、化学肥料を施肥してよい栄養バランスの土壌を実現することは容易ではありません。過剰に施肥すると害虫が発生します。化学肥料だけでは、連作障害が発生しやすいため、様々な除草剤や農薬を使用することになります。化学肥料を用いた慣行農法では健康な土壌ができず、長期的には土壌の劣化や流出を引き起こします。

農業は土作りだと言われます。なぜなら健康な土壌に、健康な作物が育つからです。土壌は、鉱物(粘土と微砂と砂の混合物)と有機物(生物の遺体の分解物)と土壌生物(細菌、カビ、土壌動物)から成ります。健康な土壌には3つの条件が必要だと言われています。

<健康な土壌の3条件>

1.物理的に団粒構造があり、通気性(水はけ)と保湿性が保たれている。

2.化学的に豊富なNPKやミネラルのバランスが取れ、弱酸性である。

3.生物的に細菌やカビや土壌生物の多様性が保たれ、病害が抑制されている。

土壌の団粒構造を実現するには腐植、すなわち糸状菌が放出するグロマリンが必要です。化学肥料では土壌微生物は育たないので、土壌の団粒構造ができません。そうすると乾燥に弱く、流出し易い土壌になってしまいます。土壌が固くなれば、作物の根はりが悪くなり、養分を吸収できる範囲や吸収率が低下して、作物の品質や収量が低下してしまいます。

有機農業

畑から作物を収穫すると、その分養分が減ってしまいます。持続的に収穫するためには、堆肥を施肥して、養分を補給する必要があります。これがいわゆる有機農業です。堆肥には、多くの炭素と少量の窒素やリンや硫黄などの成分が含まれています。堆肥は土壌生物のエサになります。堆肥を用いた方が土壌生物の多様性が保たれるので、病害を抑制しやすいのです。堆肥は有機態窒素を含むので、日照の少ない冬作物用の肥料として優れています。通常、堆肥を施肥するときには、土壌と混ぜて耕起します。耕起を避けて、最小限に施肥する人もいます。

「土・牛・微生物」(原題Growing a Revolution)

本書は地形学者のデビット・モンゴメリ—が、世界各地を飛び回り、不耕起農法で肥沃な土壌を作った農民たちと出会う旅の物語である。本書は324ページで13章からなる。取材時の様子が文学的に描かれている一方で、巻末には約300編の引用論文が記載されており、内容は極めて科学的である。博士は、米国で起こった不耕起栽培農家を取材し、不耕起栽培こそが環境保全型農業を実現することを示し、この農業革命が成功するための三原則を提案した。日本も不耕起栽培を深く学び、慣行農業を大きく転換することが望ましい。

 Dr. David R. Montgomery

農耕の歴史

これまでの農耕の歴史を振り返ると、革命的技術として、第一は犂(すき)と畜力の農耕、第二は輪作と堆肥の利用、第三は機械化と工業化、第四は化学肥料と遺伝子技術の導入が挙げられる。モンゴメリ-博士が提案するのは、第五の農耕革命である「土壌生物と共生する農業」だ。

耕起の弊害

私たちは、農業とは田畑を耕すことだという固定観念を持っている。耕起の主な目的は雑草を除去することである。雑草は作物から光と栄養を奪うからである。しかし耕起は、短期的には作物の養分を増やすが、長期的には土壌を乾燥させ、養分と微生物を失わせてしまう。これまでの文明社会が滅亡した原因は、耕起による土壌流出である。

耕起の発明は土壌の生産と浸食の均衡を根本的に変化させた

土壌流出

私たちは土壌流出や劣化にあまり馴染みがない。日本は雨が多く、本州の土壌は比較的安定しているからである。しかし世界の土壌劣化は著しい。中国は全部、アメリカではフロリダ半島付近以外の土壌は、全て劣化している。慣行農法では1年に1mmの厚さの土壌が失われるので、300年で殆どの斜面から表土は失われる。しかもトラクタ-の発達によって、牛や飼葉や牧草地が要らなくなり、畜糞による肥沃化もなくなった。

不耕起栽培の発端

アメリカで不耕起農法に関心が集まったのは、皮肉なことに1965年にパラコート(paraquat)という除草剤が販売されたからである。除草剤があれば耕起しなくても除草できる。不耕起だと、雨水がよく地面に浸透し、作物が干ばつを乗り切れる耕運機の燃料代が少なくて済む。作物の切り株を残すと、肥料の出費も少なくなることに気づいた。毎年7万台以上売れていた犂は1991年には1500台になった。1970年にモンサント社がラウンドアップ除草剤とグリホサ-ト耐性をもつ作物を開発したことで、不耕起栽培の採用に拍車がかかった。すると農家は残りの二つの原則も受け入れ始めた。そのうち除草剤や農薬がなくても十分な収量が得られることが分かり、不耕起栽培が環境保全型農業として確立した。

不耕起栽培農地の面積

不耕起栽培が実施されていた面積は、1970年には300万haに満たなかったが、2013年には15700万haを超えた。これは世界の耕地の11%である。その42%が南アメリカで34%が北米とカナダである。2013年現在アメリカ国内の耕地面積の21%(3560万ha)が環境保全型農地になっている。他の地域ではまだ数%程度である。

不耕起栽培の三原則

モンゴメリ—博士は、数々の不耕起栽培農場の視察と膨大な科学技術文献から、土壌生物と共生する農業が成功するための三原則、すなわち

1)不耕起、2)被覆作物、3)多様性輪作

を導き出した。被覆作物と輪作を利用する農法は古くから知られていたが、犂で耕起していたために持続可能な農業ではなかった。この三原則すべてに従えば、慣行農業より少ない投資で同程度以上の収量が得られるという。この不耕起栽培は、化学肥料、農薬、燃料の使用を大幅に抑制できるからである。この三原則のどれか一つでも満たさなければ、有機農業といえども、土壌は疲弊し、収量は低下してしまう。

被覆作物

被覆作物には複数のマメ科の植物とそれ以外の植物を用いる。例えばトウモロコシ畑に大豆を混作する。被覆作物は、土壌を守り保湿するマルチング効果だけでなく、菌根菌を通じて土壌に養分を与える効果があるという。土壌の炭素量を高めるためには、上から下への土づくりが欠かせない。菌根菌は植物の根とつながることで、植物は広い範囲から養分を吸収することができる。

多様性輪作

多様性のある輪作は、連作障害や病害虫から作物を守る効果がある。多様な植物で覆われていると安定した自然状態に近づく。トウモロコシと大豆の輪作は、トウモロコシに窒素肥料を大豆に炭素肥料を与える。化学肥料は微生物の餌にはならないが、炭素肥料は植物と共生する微生物の餌になる。輪作作物の残渣は、空気中のCO2の炭素を土に戻すことになる。イネ科植物は、菌根菌の作用によって、大豆にリンを与えている。ソバのような被覆作物の根は、枯れた時に酸を出し、リンの可溶化を助ける。ソバは種を付ける前に刈り取る。

有機物0.5%の灰土と有機物8%の黒土

牛と菌根菌

牛には収穫後のトウモロコシの株や被覆作物を食べさせる。牛の放牧は土地を痩せさせると言われているが、牛を適度に移動させれば、土地を肥やすことができる。植物は、牛などに葉を食べられると、糖を含む根滲出液を菌根菌に与えるからである。その代わりに菌根菌は植物に防虫剤を与えている。被覆作物の根滲出液は土壌の有機物含有量を増やし、他の微生物の栄養となる。菌根菌は植物に無機の微量元素も与えている。土中のリンはアルミと結合し不水溶性塩になっているが、菌根菌やある種の細菌は、糖液と引き換えに、酸でリンを可溶化して、植物に供給する。耕起は菌糸を切り刻むので、植物の根とのつながりを壊してしまう。

グロマリンによる土壌の団粒化

菌根菌は、菌糸の水漏れを防ぐためにグロマリンという物質を放出する。グロマリンは1996年に米国のサラ・ライト博士(女史)によって発見されたタンパク質である。グロマリンは防水性接着剤の性質をもち、土壌の団粒状態を固定する働きがある。菌類は成長するのに団粒構造を必要とする。グロマリンで固定された団粒は水に浸されても崩壊しないため、菌類の生活環境を守る。健康な土壌の物理的構造は生きた生物によって作られることが証明されたため、グロマリンの発見は日本の不耕起栽培家たちにも大きな希望を与えた。

グロマリンの発見者のサラ・ライト博士

化学肥料の問題点

農地を耕起したため、この100年間でアメリカの土壌の有機物量は6%から3%未満に低下した。耕起すると有機物が酸素に触れてCO2に分解するからである。有機物が減ると乾燥と浸食が増え、災害に弱くなる。痩せた土地で作物を作るために、化学肥料を投入した。化学肥料メ-カは独占企業である。コ-ク社(窒素肥料)やモザイク社(リン酸塩)は望み通りの値段を付けて販売している。農民の稼ぎの殆どは、肥料や農業機器メーカの利益になってしまうため、肥料の販売人は麻薬の売人に例えられている。施肥した窒素とリンの半分は湖沼に流れ込み環境破壊をもたらす。化学肥料は土壌を酸性化させ土壌生物が棲めない環境にしてしまう。

熱帯地方の取り組み

熱帯地方は動植物の種類が多く、環境保全が必要である。しかし熱帯地方は、地温が高くなり、有機物の分解速度が速いため、土壌に有機物が蓄積しにくい。バイオ燃料用の穀皮などの農業廃棄物を低酸素条件下で加熱することで作られるバイオ炭は、多孔質なので、土壌に入れることで、pHや土質を改善し、微生物の生息地となる。土壌中の重金属を吸着し、重金属が植物や水源に入らないようにするのに役立つ。

不耕起栽培が普及しない理由

慣行農法で訓練されてきた人は、やり方を変えたくない思いがある。商品作物中心の補助金と価格維持は単一栽培や単純な輪作に有利である。作物保険制度があると、農家は被覆作物を栽培したがらない。一番の問題は慣行農法に対する政府の補助金である。政府は三年間の土づくりの期間、農家を支える政策をとるなどして、作物保険制度と補助金を土壌の健康を増進するように変えることが望ましい。

街を活性化させる不耕起栽培

ブラント氏は1万エ-カ(4000ha)の農地を取得したら、それを小さく分割し、若い農家に経営させたいと述べている。不耕起栽培は、初期投資や維持費用がかからないので、小規模でも利益が出る。小規模農家が復活すれば、アメリカの小さな街が再活性化すると考えている。環境保全型農業の普及には、若者をよく教育し、農場後継者を探している年配農家とつなげるプログラムが必要であるという。日本でも慣行農業は労働時間が長く若者には人気がない。不耕起栽培は労働時間が大幅に削減できるので、若者に人気がでると思う。不耕起栽培が普及すると、慣行農業に資材を売る人が得ていた利益は、農民に還元されるだろう。

平成の時代が終わろうとしています。平成はどういう時代だったのでしょうか?

NHK総合TVの視点・論点で、「社会保険国家から社会サ-ビス国家へ」と題して、日本社会事業大学の神野直彦教授がお話をしました。

私も、平成はまさに工業社会からサービス社会へ移行する時代であった、と思います。

私たちは工業社会の行き詰まりによるバブル崩壊と長期の経済停滞を経験しました。その中で労働市場が正規と非正規に二極化し、格差と貧困の原因となりました。少子高齢化が進み、家族の形態も大きく変化しました。インタ-ネットや人工知能などの新しいサ-ビス産業が発展し、技術的にサービス社会が到来しました。

工業社会では主に男性が働きに出ていましたが、サ-ビス社会では、女性の働く機会が増えてきました。その結果、これまで女性が担ってきた育児や高齢者ケアをする人が必要になってきたのです。

社会保障の国際比較デ-タを見ると、日本は、年金と医療においては他の先進国と同等の保証を実現していますが、福祉教育サ-ビスの保証は見劣りします。福祉教育サ-ビスとは、保育、子ども、老人に対するケアと職業訓練などの再教育のサ-ビスのことです。工業化社会から知識サ-ビス社会へ変化したのだから、再教育サ-ビスを充実させる必要があります。先進国は、サービス社会に合わせて、現金給付だけでなく、サ-ビス給付を保証しているのです。家族だけをケアしていた時代から、コミュニティのケアをする時代になるのでしょう。

平成の改革は、年金、医療、介護の社会保障制度を継続させるための取り組みでした。年金では、平成16年に給付水準を固定して、保険料を引き上げる制度から、保険料を固定して、給付水準を引き下げる制度に変更されました。医療では、自己負担の引き上げと後期高齢者医療制度が創設され、平成12年には介護保険制度が創設されました。

平成の社会保障は、年金保険と医療保険による現金給付型の社会保障でした。令和では、現金給付だけでなく、福祉教育サ-ビスを充実させた社会保障を行うのが課題です。それによって雇用を維持し、持続的な経済を実現できるでしょう。

細菌の細胞壁は植物と異なるのでしょうか?

菌類や細菌の細胞壁はキチンからなります。キチンはN-アセチル・グルコサミンの重合体です。グルコサミン(Glucosamin)は、グルコースの2位の炭素C2に付いているOH基がNH2基に置換されたアミノ糖です。

細菌の細胞壁(murein)は、グリカン鎖という糖鎖を4つのアミノ酸からなるペプチド鎖で架橋した構造になっています。グリカン鎖はN-アセチル・グルコサミンとN-アセチル・ムラミン酸が交互にβ(1→4)結合している糖鎖です。グリカン鎖が平行に並んでおり、N-アセチルムラミン酸に結合しているテトラペプチド同士が互いに結合し合いグリカン鎖に対して垂直方向への強度を高めています。またテトラペプチド鎖は細胞膜側にも結合できるようになっており、これで細胞膜および細胞壁の結合をより強固なものにしています。

セルロ-スやヘミセルロ-スは中性多糖類で、ペクチンは酸性多糖類です。陸上植物と緑藻植物ではペクチンが使われますが、褐藻植物ではアルギン酸、紅藻植物ではキシランやマンナンの硫酸エステル、菌類ではマンナンのリン酸エステル、細菌類ではムラミン酸が用いられます。糸状菌の細胞壁30%のキチンが含まれていますが、酵母の細胞壁はβ-1,6グルカン(~50%)とマンノプロテイン(40%)を主要構成成分としており、キチンは1%にすぎないです。

最もよく知られたセルロース合成細菌は酢酸菌です。ナタ・デ・ココは酢酸菌によって作られたセルロースです。野菜や穀類から摂取されるセルロースはヒトの消化酵素では分解されませんが、整腸作用など様々な働きがあり、腸内細菌により分解されてエネルギーになります。

ペクチンはフル-チェで有名ですね。ペクチンは牛乳のCaと反応してゲル化して固まります。マンナンは、こんにゃくにも含まれているダイエット食品です。人の消化酵素では消化できず、また胃の中で水を吸って何十倍にも膨れるため効果があります。グルコサミンは、関節痛の健康食品として販売されています。グルコサミンは軟骨の成分「ヒアルロン酸」を構成する2種類の糖のうちの1つです。もうひとつはD-グルクロン酸です。軟骨は主柱となるコラーゲンとそれを束ねるヒアルロン酸と水分を保持するコンドロイチン硫酸などの糖鎖で構成されています。一日100gあまりのブドウ糖が生体組織の合成に使われていますが、そこに1gのグルコサミンを摂取しても、関節の軟骨に十分な量は届かないでしょう。プラゼボ効果も報告されていません。

植物の細胞壁の構造はどうなっているのでしょうか?

植物の細胞壁は、セルロ-ス、ペクチン、ヘミセルロ-スなどの繊維が架橋性多糖やタンパク質で絡み合い、リグニンで固化された構造をしています。強固な細胞壁のおかげで植物は起立しています。そのためよくセルロ-スは鉄筋、ペクチンはコンクリ-トに例えられますが、細胞壁は生きた組織です。なぜなら細胞壁の中には様々な酵素タンパク質が含まれており、細胞の中で起こる生命活動に深く関わっているからです。

セルロースやペクチンは糖の鎖です。セルロースとはD-グルコースという糖がβ-1,4-結合で長く結合した高分子です。グルコ-スにはα型とβ型があります。各々の OH 基のグルコ-ス環に対する上下関係で区別します。C1とC4に結合したOH基がグルコ-ス環に対して同じ側に突き出しているのがα型です。αグルコ-スが鎖状に結合すると水素結合のせいでラセン型のアミロ-ス(デンプン)になります。アミロ-スはマルト-ス(麦芽糖)が重合した構造をしています。βグルコ-スが鎖状に結合するとシート型のセルロ-スになります。セルロ-スはラセン型でないので、ヨウ素デンプン反応を示しません。セルロ-スはセルビオ-スが重合した構造をしています。セルビオ-スは2つのβグルコ-スの片方が裏返されて結合しています。面白いですね。

セルロースの構成する細胞壁繊維は微繊維の集合体から成ります。微繊維は結晶性ミセルが数個集まった構造で直径は30nmです。結晶性ミセルはセルロース分子40本が水素結合で束ねられた構造体(直径5nm)です。微繊維間隙幅は10nmで、この空隙にはキシログリカンなどのヘミセルロースが満たされており、微繊維間の構造的強度を高めています。

図1に植物の一次細胞壁の構造モデルを示します。色とりどりの●と■は多糖類を構成する糖残基を示しています。一次細胞壁は、結晶性のセルロース微繊維がヘミセルロースにより架橋された網状構造が骨格となり、その隙間を巨大分子であるペクチンが埋める構造モデルが広く受け入れられています。

セルロース微繊維は、細胞膜上のセルロース合成酵素により合成されます。合成酵素は細胞内の表層微小管に沿って動くため、微繊維の向きは表層微小管により決定されます。ヘミセルロースやペクチンは、ゴルジ体内で多数の膜貫通型の糖転移酵素の働きで合成された後、膜交通を介して細胞壁中に分泌されます。細胞壁中では、それぞれXTH(=Xyloglucan endoTransglucosylase/Hydrolase)やPME(=Pectin Methyl Esterase)などによる修飾を受けながら、細胞壁の高次構造に組み込まれます。

図2にエンド型キシログルカン転移酵素・加水分解酵素(XTH)による細胞壁中のキシログルカン架橋のつなぎ換え反応による細胞壁再編モデルを示します。つなぎ換え反応の際に切断されるキシログルカン鎖(供与鎖)を青色,つながれるキシログルカン鎖(受容鎖)を赤色で表示しています。細胞壁が伸展するのは、XTHによるつなぎ換え反応により、一次細胞壁のセルロースとキシログルカン網状構造の再編が起こるからです。

ペクチンはポリ・ガラクツロン酸の重合体です。ガラクツロン酸(galacturonic acid)はガラクトースが酸化されたウロン酸です。ガラクトースはC2とC5のOH基が同じ方向を向いている糖です。C5にCH2OHがついているのがガラクトースで、C5にCOOHがついているのがウロン酸です。ちょっとした違いですが、糖鎖の化学は立体異性体の区別が難しいです。

図3にペクチン・メチル・エステラーゼ(PME)による脱メチル化を介したホモガラクツロナン(=HG)のカルシウム架橋の形成モデルを示します。

ペクチンの全ドメイン内で最も大きな領域を占めるHGドメインは、ガラクツロン酸がα-(1→4)-グリコシド結合した直鎖状の多糖として細胞内のゴルジ体で合成されると同時に、ガラクツロン酸残基中のカルボキシル基がメチルエステル化され、電荷をもたない状態で細胞壁中へ分泌されます。一方、PMEは不活性な前駆体(Pro-PME)としてゴルジ体を経て分泌される過程で不活性化ドメイン(PMEI)が切り離され、活性型PMEとなります。 メチルエステル化されたMe-HGは細胞壁中に分泌された後、PME酵素により脱メチル化されます。脱メチル化されることで、HGはCaイオンを介して高度な分子間架橋を形成してゲル化し、植物の細胞に強度と柔軟性を与えます。ペクチンのRGIIドメインは側鎖中のアピオース残基のジオール基間で、ホウ素(B)を介して分子間架橋を形成します。つまりCaやBが植物の必須元素である理由のひとつは、細胞壁を形成するのに不可欠な元素だからです。

ヘミセルロースはキシランやマンナンのほか、グルコマンナンやグルクロノ・キシランなどのような複合多糖もあります。ヘミセルロースは結晶性セルロース微繊維同士の凝集を防ぎ、細胞壁の伸展性を高めています。また化学的に安定な結晶性セルロース微繊維の表面を多様な分子種からなるヘミセルロースで覆うことで、化学反応を伴う細胞壁の形質変化を可能にしています。

多くの被子植物の細胞壁はタイプIと呼ばれ、セルロース、ペクチン、キシログルカンが多く含まれています。イネ目の細胞壁はタイプIIと呼ばれ、セルロース、キシラン、βグルカンが多く、ペクチンやキシログルカンが少ないです。タイプIIではタンパク質含量が低く、代わりにフェノール酸の架橋がその役割を果たしています。

参考文献 横山隆亮他、化学と生物53巻No.2 P107-114 (2015)「植物細胞壁: 高次構造の構築と再編」、東北大学大学院生命科学研究科

植物はどうやって水を光分解するのでしょうか?

植物は葉緑体のチラコイド膜に埋め込まれた光合成系Ⅱ(PSⅡ)の膜タンパク質の中にあるマンガン(Mn)クラスタ-で水を光分解しています。

  • 2H2O + hv → O2 + 4H+ +4e

これによって、チラコイド内腔のH+濃度を高め、H+がATP合成酵素を通過し、ストロマ側でATPが生産されるのでした。光化学系Ⅱの構造は2011年に神谷と沈らのグループによって、0.2nmの精度で解明されました。

Mnクラスタは、4個のMn原子と1個のCa原子、5個のO原子からなる歪んだ椅子のような形状をしています。P680が酸化されるたびにMnクラスタで発生した電子が受け渡されます。

この反応は、Kokサイクル(1970年)と呼ばれ、4段階で進み(S0→S1→S2→S3→S4)、最終的に遷移状態のS4を経てS0状態に戻る際に、水が酸化されて一挙に酸素分子を発生します。S4状態の解明はまだされていないようです。下図にKokサイクルの一つのモデルを示します。椅子の背もたれの肩にある第4番目のMn原子には2個のH2O分子が結合しています。光のエネルギで、そのH2O分子が酸化され、水素と電子が奪われます。

高等植物や藻類やシアノバクテリアは光化学系IIを使った光合成を行うので、Mnが必須であることが分かります。

植物はどうやって光合成をするのでしょうか?

植物は葉緑体の細胞膜に埋め込まれた、PSⅡ、シトクロム、PSⅠの膜タンパク質複合体でATPを生産し、ATPと細胞質にあるカルビン回路を使って、光合成をおこないます。太陽光を吸収したクロロフィルaは電子を放出し、その電子を順次伝達していく過程で、H+を汲み上げ、次のカルビン回路に必要なATPとNADPHを合成します。電子を失ったクロロフィルaは、水の分解で生じた電子を補填されます。水の光分解は、葉緑体のチラコイド膜に埋め込まれた光合成系(PSⅡ)で行われます。

下図はチラコイド膜の側面から見たPSⅡ膜タンパク質複合体の構造図です。PSⅡ複合体は、対称軸の両側にCP41・D1・D2・CP47の構造を有するタンパク質の二量体です。反応中心は、チラコイド内腔(ル-メン)とチラコイド膜の境界(下面)にあります。右側は水分子の分布図です。膜は疎水性なので水は少ないです。反応中心でチラコイド・ル-メンの水を分解しています。

植物はPSⅡ複合体に結合したマンガン(Mn)クラスタ-で水を光分解しています。

  • 2H2O + hv → O2 + 4H+ +4e

これによって、チラコイド内腔のH+濃度を高め、H+がATP合成酵素を通過し、ストロマ側でATPが生産されます。発生した酸素は葉の気孔から放出されます。植物が放出する酸素は、CO2ではなく、根から吸収したH2Oの酸素に由来しています。

Mnクラスタで生じた電子は、チロシン基(Tyr)を経由して、光励起時に電子を失ったクロロフィルa(P680)に供給されます。P680とは680nmの波長光を吸収する色素(Pigment)のことです。P680が光励起された後にMnクラスタから電子が供給されることは重要です。もしも逆だと、発生した電子がMnクラスタ近傍に貯まり、酸素と結びついて活性酸素を生じさせてしまうからです。

P680が放出した電子はフェオフィチンPhe(Pheophytin)、QA、QBの順に受け渡されていきます。Pheはクロロフィル分子からMg2+がとれてH原子2つと置き換わったものです。

QBのプラストキノン(PQ)はチラコイド膜中で自由に動くことができます。このPQはストロマ中の2個のH+を取り込んでジヒドロ・プラストキノン(PQH2)、つまりキノ-ルになります。

PSⅡから飛び出したPQH2は、シトクロムb6/f複合体に電子を渡します。この複合体から再び電子はプラストシアニン(PC)へと渡され、チラコイド内腔を拡散し、光合成系Ⅰ(PSⅠ)に入っていきます。このシトクロムb6/f複合体においてPQH2からPCへの電子伝達で0.4eVのエネルギが生じます。このエネルギでストロマからチラコイド内腔にH+をくみ出しています。

光合成系Ⅰ(PSⅠ)

シトクロム複合体によって還元されたPCは、PSⅠの反応中心にあるクロロフィルP700(吸収波長700nm)に電子を渡します。PSⅠ複合体は数十種のサブユニットから構成され、集光性タンパク質複合体LHCⅠ(Light-Harvesting protein Complex)が光を吸収すると、反応中心のP700が励起され電子を放出します。チラコイド膜上で、それぞれの反応中心を取り巻くように多くのLHCが存在し、太陽光を集めて反応中心に供給しています。

電子は、P700→A0(1分子クロロフィル)→Q(フィロキノン)→Fx→FA・FB(Fe-Sタンパク質)という順に伝達され、フェレドキシン(FD)(Fe-Sタンパク質)に渡されます。電子はストロマの補酵素2NADP+(ニコチン酸アミド・アデノシン・ジヌクレオチドリン酸)に移り、FAD(フェレドキシン-NADP+ レダクターゼ)の助けを借りて2NADPH2+が作られます。電子を失ったP700は、PCから再び電子を受け取ります。

ATPにエネルギが貯えられるとはどういうことでしょうか?

ATPが加水分解するときに自由エネルギが放出されるということです。しかしこれはリン酸同士の結合にエネルギが貯えられているのではありません。さらに注意すべきことは標準状態の自由エネルギ変化値は、細胞内での値とは異なることです。大抵の細胞では、ADPよりATPの方がずっと濃度が高いので、生理的な条件下では標準状態の2倍の自由エネルギが得られます。

ATP(アデノシン三リン酸)はリン酸基を3個もっています。それらは内側からα、β、γと名付けられています。ATPが加水分解により、γリン酸を失い、ADP(アデノシン二リン酸)と無機リン酸Piになるとき-7.3kcal/molの自由エネルギが生成します。どこのリン酸結合が切れても同じ自由エネルギが生成しますが、AMP(アデノシン一リン酸)からαリン酸を加水分解するときには、-3.4kcal/molの自由エネルギしか生成しません。

pH7のとき、ATPは4個の負電荷をもち、それらは近接して反発しています。加水分解すると、

  •  ATP4- + H2O → ADP3- +HPO42-

に分かれ、電気的反発のひずみが緩和され、HPO42-は共鳴混成体をつくり安定化します。電子濃度が高い酸素イオンの配置が異なる4つの状態が共鳴します。

ATPの加水分解時の標準状態の自由エネルギ変化

・ΔG⁰=-7.3kcal/mol

です。ΔG⁰はATPやADPやPiが標準状態、すなわち各濃度が1M(=mol/L)のときの自由エネルギ変化です。細胞内では、それらの濃度は異なっており、通常1Mより遥かに低い濃度です。細胞内での自由エネルギ変化は

  •  ΔG=ΔG⁰+RT・ln{[ADP][Pi]/ [ATP]}

で与えられます。細胞内での典型的な濃度は

  • [ADP]=60μM、[Pi]=5mM、[ATP]=5mM

ですので、

  • [ADP][Pi]/ [ATP]=60μM・5mM/5mM=6×10—5M
  • ΔG=ΔG⁰-6.0kcal/mol=-13.3kcal/mol

となります。大抵の細胞では、ADPよりATPの方がずっと濃度が高いので、生理的な条件下では標準状態の2倍の自由エネルギが得られます。逆にこの程度の影響しかないと捉えるのであれば、細胞内での非平衡性は比較的小さいと考えられます。

ちなみに平衡状態では

  • ΔG=ΔG⁰+RT・ln{[ADP][Pi]/ [ATP]}=0

より、

  • ΔG⁰=-RT・ln{[ADP][Pi]/ [ATP]}=—8.314[J/molK]・310[K] ・ln(1.5×105

=—8.314[J/molK]・310[K]・11.92=—30717[J/mol]=—7.3[kcal/mol]

となっています。

計算の詳細

  • 8.314[J/molK]・310[K] ・ln(6×10—5)=-25.0kJ/mol=-6.0kcal/mol

・ln(6×10—5)=loge10・log(6×10—5)=2.302・(log6-5)=2.302・(0.778-5)=-9.72

溶液の自由エネルギ変化はどう表せるでしょうか?

物質Aの純粋な液体の自由エネルギをG゜、物質Aが溶けた理想溶液の自由エネルギをGとします。溶液中の成分Aのモル分率をxAとすると、成分Aの溶解に伴う自由エネルギの変化は

  •  G-G⁰=RT・lnxA

と表せます。ここで気体定数R=8.314[J/mol・K]、Tは絶対温度です。溶液の自由エネルギを考えるときには、溶液の濃度が効いてきます。

純粋液体Aと平衡状態にある気相の蒸気圧をPA⁰、その自由エネルギをGg⁰とすると、温度変化はないので、自由エネルギの変化はエントロピ項の上昇分となり、

  •  Gg⁰-G⁰=-RT・ln PA

が成り立ちます(導出の詳細は最後に記載)。成分Aが溶けた理想溶液と平衡状態にある気相中の成分Aの蒸気圧をPAとすると、

  •  Gg⁰-G=-RT・ln PA

が成り立ちます。ラウ-ルの法則より、溶液の成分Aの蒸気圧はそのモル分率xAに比例するので、

  •  PA=xA・PA

が成り立ちます。上の2つの式の差をとると、Gg⁰が消去できて、

  •  G-G⁰=RT・ln PA-RT・ln PA⁰=RT・lnxA

の関係式が得られます。これが物質Aの溶解に伴う自由エネルギの変化です。 一般に、純粋な成分の自由エネルギG⁰に対して、

  •  G=G⁰+RT・lnx  (0<x<1)

と書けます。第二項は負なので、溶解により成分の自由エネルギは減少します。

例えばx=0.2、310Kの場合、

  •  ΔG=8.314×310×ln0.2=-8.314×310×1.6094=-4.15[kJ/mol]

減少します。

ところで自由エネルギGは、

  • G=H—TS=U+PV—TS
  • dG=(TdS-PdV)+VdP+PdV-TdS-SdT=VdP-SdT

であるから、

  • V=(∂G/∂P)T、S=- (∂G/∂T)P

(∂S/∂P)T=-(∂V/∂T)P=-R/P when V=RT/P

上式をPで積分すると

  • TΔS=T(S2-S1)=-RT・ln(P2/P1)

が得られます。

ミトコンドリアで活性酸素はどのように発生するのでしょうか?

ミトコンドリアは生体内の約95%の酸素を消費し、そのうち1~3%が活性酸素種に変換されると言われています。ミトコンドリアの内膜には呼吸鎖の4つの膜タンパク質複合体(酵素)が並んでいます。ATP産生に酸素が必要なのは、最終的に伝達電子を受け取って無害な水に換えるためです。前回紹介したミトコンドリアでのATP産生のメカニズムのポイントは以下の通りです。

東邦大学  松本 紋子准教授  

・ミトコンドリアのマトリクス内部のクエン酸回路でつくられたNADHやFADH2が酸化されて、複合体に電子を供給する。

・電子が内膜にある4つの複合体を通過する度に、複合体がマトリクスのプロトン(H+)を膜間腔に汲み上げる。

・膜間腔に溜まったH+が内膜にあるATP合成酵素を通過してマトリクスに放出される際に、マトリクス内でADPがATPに変換される。

・最終的に伝達電子は酸素とH+と反応して水になる。

出典調査中

次にミトコンドリアでの活性酸素の生成についてお話します。酸素分子はミトコンドリアの膜を自由に通過できるので、ミトコンドリア内部には多くの酸素分子があります。複合体間を移動していく伝達電子は高エネルギなので、酸素分子と反応し易くなっています。

・  O2 + e- → O2

そのときにスーパーオキシドラジカルO2・が生じます。ラジカルとは反応しやすい不対電子をもった分子種のことです。O2・が発生するのは、複合体Iのマトリックス側、複合体IIIのマトリックスと膜間腔側です。

 生体内にはスーパーオキシドジスムターゼ(SOD:superoxide dismutase)が存在し、O2-を酸素と過酸化水素H2O2に不均化します。

  •    2O2・ + 2H+ → H2O2 +O2

不均化とは複数の同一分子が反応して異なる分子になることです。膜間腔側に放出されたO2・は活性中心にCu/Znを有するSOD1により、

  •    Cu2—SOD1 + O2・ → Cu—SOD1 + O2   
  •    Cu—SOD1 + O2・ + 2H+ → Cu2—SOD1 + H2O2  

となります。マトリックス側に放出されたO2・は活性中心にMnを有するSOD2により、

  •   Mn3+—SOD2 + O2・ → Mn2+—SOD2 + O2   
  •   Mn2+—SOD2 + O2・ + 2H+ → Mn3+—SOD2 + H2O2  

となります。ミトコンドリアのマトリックスに存在するSOD2の遺伝子をノックアウトしたマウスは胎生致死になります。これはミトコンドリアで発生するスーパーオキシドを消去することは生命維持に不可欠であることを示しています。

 過酸化水素は、ラジカルではありませんが、活性酸素種のひとつです。過酸化水素はグルコースオキシダーゼなどによって酸素分子からの二電子還元によっても生成されます。

過酸化水素はミトコンドリアの細胞膜を通過できるので、細胞内の鉄と反応し、ヒドロキシラジカル•OHを生じます。

  •    H2O2 + Fe2 → •OH + OH + Fe3+

この反応はフェントン反応と呼ばれ、生体内で生じる殆どの•OHはフェントン反応で生じると考えられています。あるいは過酸化水素はO2・と反応し、•OHを生じます。

  •    H2O2 + O2•- → •OH + OH— + O2 

この反応はハーバー・ワイス反応と呼ばれます。•OHは活性酸素種の中でも最も反応性が高く、タンパク質や脂質、糖質、核酸などの生体成分を酸化します。従って、その前駆体である過酸化水素を消去することは重要です。細胞質内にはグルタチオンペルオキシダーゼ/グルタチオンリダクターゼや、ペルオキシレドキシン/チオレドキシン/チオレドキシンリダクターゼ、カタラーゼなどの過酸化水素を還元する抗酸化機構があり、これらの酵素反応によって水へと還元されます。カタラーゼは

  •  2 H2O2 →  2 H2O  + O2

なる反応を触媒します。レバ-にはカタラ—ゼが含まれているので、過酸化水素水にレバ-を浸すと酸素が発生します。グルタチオンリダクターゼは

  • 2 GSH + H2O2 → GSSG + 2 H2O
  • 2 GSH + ROOH → GSSG + ROH + H2O

なる反応を触媒します。GSHは還元型グルタチオン、 GSSGは酸化型グルタチオンです。ROOHは過酸化脂質、ROHはアルコ-ルを表しています。

 酸素分子にある2個の不対電子のスピン[↑][↑]は、三重項酸素(3O2)という比較的安定な基底状態で存在しています。リボフラビンやポルフィリン、抗生物質や抗炎症薬など光増感剤がある物質の存在下では、酸素分子は光反応により励起状態となり、一重項酸素(1O2)[↑↓][ ]になります。空になった電子軌道が電子を求めることにより、一重項酸素は強い酸化力を持ち、二重結合を有する不飽和脂肪酸を過酸化脂質に変えます。また、ポルフィリン症患者は強い日光に当たると一重項酸素により皮膚障害が起きます。

表1に活性酸素種の反応速度定数 (単位:L mol⁻¹sec⁻¹)を示します。・OHはO2・の1億倍も強い酸化力があると言われています。


呼吸鎖複合体をコードしているミトコンドリアDNAは、ヒストン・タンパクによるクロマチン複合体構造が存在せず、DNA修復機能が弱いです。このためミトコンドリアDNAは核DNAに比べ活性酸素種による傷害を受けやすく、遺伝子変異も蓄積しやすいです。ミトコンドリアDNAの傷害は、呼吸鎖複合体の分子構築の異常、電子伝達効率の低下と活性酸素種発生量の増加を引き起こすと考えられています。

このようにミトコンドリアからは絶えず活性酸素種が発生していますが、抗酸化酵素により消去されてレドックス(酸化還元)バランスが保たれています。しかし、老化や疾患などにより活性酸素種の過剰発生や抗酸化能が低下すると、レドックスバランスが崩れ、酸化ストレスが引き起こされます。植物は自分の身を守るために抗酸化物質を蓄えています。私たちが野菜を食べるのは、熱量や必須アミノ酸を摂るだけでなく、野菜が蓄えた抗酸化物質をもらう利点があります。

呼吸は細胞内でどのように行われているのでしょうか?

呼吸は細胞内の細胞小器官であるミトコンドリアで行われています。1個の肝細胞に500~1000個のミトコンドリアが含まれ、細胞容積の15~20%を占めています。ミトコンドリアは活発に移動し、分裂と融合を繰り返しています。

ミトコンドリアは1μm程度の繭のような形をしており、多くの襞(ひだ:クリステ)をもつ内膜とそれを囲む外膜からなります。外膜には孔が多く、ATP、NAD、CoAなどの物質が出入りします。内膜は透過性が低いですが、酸素などの中性の分子は内膜を透過します。内膜には呼吸鎖など100種類以上の膜タンパク質が埋まっています。内膜の表面積は外膜の5倍です。内膜の脂質はコレステロ-ルが少ないため流動性に富んでいます。内膜の内側はマトリックス、内膜と外膜の間は膜間腔と呼ばれています。マトリクスには高濃度のタンパク質が含まれており、DNAやリボソ-ム、クエン酸回路、β酸化、尿素回路などの代謝系があります。ミトコンドリアはピルビン酸と酸素を取り入れて、ATPと水を生産します。ピルビン酸はグルコ-ス(糖)が解糖系で分解された栄養物です。細胞はATPをエネルギ源に使って、糖の合成など様々な代謝反応を行います。

呼吸鎖(respiratory chain)は、クエン酸回路でつくられたNADHやFADH2を使って、ATPを大量合成するシステムです。電子がクリステの内膜にある4つの複合体を通過すると、複合体がマトリクスのプロトン(H+)を膜間腔に汲み上げます。膜間腔に溜まったH+が内膜にあるATP合成酵素を通過してマトリクスに放出される際に、マトリクス内でADPがATPに変換されます。マトリクスはpH8で、膜間腔はpH7(中性)なので、マトリクス内のH+濃度は膜間腔の1/10程度になっています。内膜に生じた電位差と拡散濃度差のエネルギでATPが合成されます。合成の駆動力の80%は電位差によるものです。

ミトコンドリアのH+駆動力pmf(proton motive force)は、膜電位Δψ=160mV、

  • pmf=Δψ-2.303RT・ΔpH/F
  • =Δψ-2.303・8.314[J/mol K]・310K・(-1)/96.491[J/mol mV]
  • =160+62=222mV

一方、葉緑体は、幅2~4μm、長さが5~10μmと大きく、ミトコンドリアより大きい環状のDNAがあります。光合成系はチラコイドという内膜で囲まれた空間で行われます。光のエネルギを使って、チラコイド内腔にある水を酸素とH+と電子に分解します。電子がシトクロム複合体を通過するときに、H+がチラコイド内腔に放出されます。チラコイド内腔の溜まったH+がストロマに放出されるときに、ストロマでATPが合成されます。呼吸鎖とはH+を溜める場所が逆になっています。チラコイド内腔のH+濃度はストロマの1000倍です。合成の駆動力は主に濃度差によるものです。

  • Pmf=30mV(電位差)+120mV(濃度差)=150mV

NADHはニコチンアミドアデニンジヌクレオチド (nicotinamide adenine dinucleotide) の略称です。NADHは、全ての真核生物と多くの古細菌、真正細菌で用いられる電子伝達体です。さまざまな脱水素酵素の補酵素として機能し、酸化型 (NAD+) および還元型 (NADH) の2つの状態があります。

FADはフラビンアデニンジヌクレオチド(flavin adenine dinucleotide)の略称です。真核生物の代謝でのFADの一次供給源はクエン酸回路とβ酸化です。クエン酸回路では、FADはコハク酸をフマル酸に酸化するコハク酸デヒドロゲナーゼのエネルギ源となっています。一方、β酸化ではアシルCoAデヒドロゲナーゼの酵素反応の補酵素として機能します。

ビルトイン型補酵素とはどのようなものでしょうか?

TTQはメチルアミンの酸化還元、CTQはアミンの酸化還元に関与するキノン補酵素です。これらの補酵素は、酵素タンパク質を構成するアミノ酸残基同士の(架橋)結合から直接形成されるので、ビルトイン型補酵素と呼ばれています。これらのビルトイン型補酵素は、酸化還元反応や脱離反応など種々の酵素反応に必須の役割を果たしていることが分かってきました。

TTQはメタノール資化性細菌のメチルアミンデヒドロゲナーゼ(MADH)という酵素、CTQはキノヘムプロテイン・アミンデヒドロゲナーゼ(QHNDH)という酵素に含まれる補酵素であり、どちらも脱水素反応を触媒します。MADHはα2β2サブユニット構造をしています。各サブユニットの構造遺伝子は、11遺伝子で構成されています。

TTQをよく見るとトリプトファン残基が結合した構造を有していることが分かります。

TTQ は、βユニットの57番目のトリプトファン残基のインドール環がオルトキノン型に酸化されている特徴と、同一ポリペプチド鎖内で約50残基離れた位置にある108番目のトリプトファン残基と架橋結合した特徴を有しています。オルトキノンとはベンゼン環に二重結合した2つの酸素原子が隣接した化合物です。インドール環がオルトキノン型に酸化されるのは、αユニットに含まれるヘム鉄と過酸化水素によるものです。

TTQを含有するMADHは、メチルアミンを酸化してホルムアルデヒドとアンモニアを生成する反応

  • CH3NH2 + 1/2・O2 → HCHO + NH3

を触媒します。TTQはこの反応過程でメチルアミンとシッフ塩基を形成して還元型となります。メチルアミンにより2電子還元されたTTQは、セミキノンラジカル中間体を経由して、生理的な電子受容体であるアミシアニンと呼ばれるブルー銅タンパク質に電子を受け渡します。

酵素タンパク質中に新規な補酵素が見つかることは頻繁に起こることではありません。ビルトイン型補酵素の場合、1 9 9 6年にLTQの構造が決定され、2001年にQHNDH酵素に新しい補酵素CTQが発見されました。

QHNDH酵素は、αβγの異なるサブユニットで構成されており、基質アミン類を脱水素してアルデヒドに酸化する反応

  • R-CH2-NH2 + 1/2・O2 → R-CHO + NH3

を触媒します。γユニットの37番目のシスチン(C)と43番目のトリプトファン(W)が硫黄Sを介して架橋結合したものがCTQキノン補酵素です。

あるグラム陰性細菌の培地中に n-ブチルアミンを加えると、エネルギー源として利用するためにQHNDH酵素が細胞膜内に誘導生成されます。αユニットには2分子のヘムcが結合しており、そのヘムはγユニットのCTQの形成に必須であることが分かっています。触媒反応においては、基質アミンに由来する2電子はキノン補酵素、ヘムcを経由して、チトクロム c550などの電子受容体タンパク質に受け渡され、最終的には末端酸化酵素によりO2の水への還元に使われます。

ビルトイン型補酵素には、通常の補酵素にはない利点があります。第一に、水溶液中では不安定な補酵素でも、疎水的なタンパク質内部においては安定していることです。第二に、アミノ酸残基から創りだされる点で、他の生合成系に依存しない合理性があることです。

遺伝暗号にはない新しいペプチド・ビルトイン型補酵素が次々と見つかり、タンパク質の翻訳後修飾による補酵素の生成機構が次第に解明されつつあります。遺伝子配列中に直接的には顕示されていない様々な機能獲得戦略を解明していくことが、ポストゲノム時代の生化学者に課せられた重要な研究課題の一つとなっています。

参考文献:生化学 第83巻 第8号,pp.6 9 1(2011)