80種類のCO2排出削減対策が30年間で削減できる排出量を試算

11月10日に脱炭素社会に関するNHKスペシャルのテレビ番組が放映されました。22カ国70人の研究者が、80種類のCO2排出削減対策が30年間で削減できる排出量を試算した結果が公表されています。これはとても興味深いです。
冷媒の置換や浮上式風力発電に続いて、食品ロスやベジタリアン化が高い削減効果があるようです。電気自動車は多くの対策の一つにすぎません。CO2の排出量削減には包括的に取り組みが必要だということです。
ちなみに世界のCO2の年間排出量は400億トンだそうです。専門家が危惧する5000億トンの排出まであと12年です。彼らは世界の平均気温があと0.4℃上昇することが後戻りできない事態を引き起こすことを懸念しています。
日本を含む各国は10年で排出量を半減させると明言しています。国内の移動を飛行機から列車に変えると排出量を1/15に削減できるそうです。CO2の排出量が半分の天然ガスを中国が買うため、天然ガスの価格が上昇しています。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

4.東日本の東西圧縮による隆起

1500万年前にフィリピン海プレ-トは、北西方向に移動方向を変更したために、東日本にかかる力は、太平洋プレートだけになりました。フィリピン海プレ-トが北上してきたために、太平洋プレートが東日本に沈み込み難くなり、太平洋プレートの東日本への沈み込み帯(日本海溝)が30kmも大陸側に移動し、東日本を東西に圧縮するようになりました。太平洋プレ-トによる東西圧縮によって、殆どが海底下にあった東日本は隆起して、新潟県の八海山をはじめ奥羽山脈や北アルプスなどが形成されました。

高山の形成により、季節風が大量の降雨をもたらし、土砂が堆積し平野部を拡大させました。急な河川は透明度が高いので、川底の岩に苔が繁茂し、アユが繁殖しました。急で短い河川はCa濃度が低いので、出し汁がよく取れる軟水が得られます。日本の位置と複雑な地形が、四季、絶景、温泉、豊かな水と生態系を生み出し、日本の和食文化を生み出しました。プレ-ト運動により、日本人は数々の災害を受ける一方で、豊かな自然の恵みを享受できるようになったのです。

3.西日本のカルデラ大噴火

1500万年前に高温のフィリピン海プレ-トは、南下する西日本の下に沈み込み、地下に大量のマグマを貯蓄し始めました。フィリピン海プレ-トの沈み込み角度は小さいので、比較的浅い領域にマグマが発生しました。フィリピン海プレ-トと接する、静岡、紀伊半島、四国南岸、九州南岸部の地下には大規模なマグマ溜まり(カルデラ)が形成され、400万年前に大規模なカルデラ噴火を生じました。

紀伊半島のカルデラ大噴火では火山灰が2000mも堆積し、世界の気温が10℃も低下したと言われています。現在の紀伊半島には巨石と温泉が環状に分布していますが、これはカルデラ噴火跡を示しています。溶岩のカルデラが固まって地下に巨大な花崗岩(60km幅、20km厚)が形成されました。花崗岩の密度は玄武岩プレ-トの密度より小さいので、プレ-トの沈み込みにより花崗岩は10kmも隆起して、火山帯のない西日本の南部を山岳地帯に変えました。

2.火山島の連続衝突

太平洋プレ-トはフィリピン海プレ-トの下に沈み込んでいます。沈み込むときに高温高圧により海水を吸った太平洋プレ-トから水が絞り出され、マントルの融点を低下させて、マグマを発生させ、上昇したマグマが火山噴火を起こします。そのためプレ-ト境界線に沿ってフィリピン海プレ-ト上に火山列島が形成されていました。2500万年前にプレ-ト境界の端は現在の沖縄周辺にあり、火山列島は東西方向に並んでいました。

太平洋プレ-トは重く沈み込みが激しいので、マントル対流によってフィリピン海プレ-ト縁を高温に加熱し、引っ張りました。通常沈み込むプレ-トの温度は400℃程度ですが、このとき生成したフィリピン海プレ-トの温度は1000℃もの高温になっていたと考えられています。ちなみに400℃以上になったプレ-トの部分は柔軟になり、地震を起こし難くなります。

2500~1500万年前にかけて太平洋プレ-トとフィリピン海プレ-トの境界線は後退し北東方向に移動しました。1500万年前にプレ-ト境界の移動は止まり、境界線の端は現在の伊豆地方にありました。移動が停止したのは、日本海溝と伊豆小笠原海溝が直線的になり安定したからと思われます。1500万年前に1000℃の高温になったフィリピン海プレ-トが北から北西方向に向きを変え、西日本の地下に沈み込み始めました。その理由はよくわかっていません。

 フィリピン海プレ-トの移動方向とプレ-ト上の火山島の配列方向が一致したために、現在の伊豆地方に火山島が連続衝突して東西日本の間が埋まりました。プレ-ト境界は変形し伊豆地方に食い込み、頂点部の火山活動が活発になり富士山が形成されました。甲府から富士山の方を眺めると、様々な山地が見えますが、それらは衝突した火山島の名残です。火山島の衝突により櫛形山系、御坂山系が生じ、500万年前には丹沢山系、伊豆半島が衝突付加しました。これらは南の火山島であり、丹沢山にはかつて海底にあったことを示す枕状溶岩やサンゴの化石が見られます。丹沢山系の高山から土砂が流れ込み、50万年前に関東平野が形成されました。伊豆半島の両側の相模湾と駿河湾は海溝が形成され、湾内では金目鯛などの深海魚が獲れます。

1.大陸縁の分裂と移動

3000万年前のユーラシア大陸の沿岸部には草原が広がっており。パラケラテリウムなどの大型哺乳類やマチカネワニなどの爬虫類が生息していました。太平洋プレ-トの西端部はユーラシア大陸の縁で深く沈み込んでいました。太平洋プレ-トの西端部は1.3億年と古く、厚さは100kmと冷たく重かったので、深く沈み込んでいたと考えられます。大陸縁の地下では、プレ-トによって押しのけられた深部の高温のマントル(カンラン岩)が上昇し、断面において時計回りにマントルの対流が生じたと考えられます。

 

2017年にコンピュ-タシミュレ-ションによって、対流により浅部のマントルは沈み込むプレ-トを逆方向に押し戻し、プレ-トが沈み込む海溝は徐々に大陸から離れて行くことが示唆されました。これを海溝の自発的後退といいます。ちなみに2018年にはプレ-トが褶曲して沈み込む海溝では、プレ-トに含まれる二酸化炭素の影響で褶曲部付近のプレ-ト直下のマントルが融解し摩擦が低減して、沈み込みやすくなっていることが報告されています。

大陸の縁はマントル対流により引っ張られて、亀裂が生じ、拡大したと考えられます。2500万年前に海水がこの巨大な裂け目に入り込み、日本列島の原型が生まれました。高温のマントルの上昇により、日本海の海底プレ-トは900℃以上の高温になっていたと考えられています。こうした現象は、現在の小笠原諸島の火山島付近の地下において、地震波速度の小さいマグマ領域が観測され、その地域の溶岩に高濃度のZrが含まれており、Hfなどの存在比からプレ-ト由来のジルコン(融点900℃以上)が、沈み込み時の高温で溶出してマグマに混入したことが解明されています(2018年)。

引き延ばされた日本海の海底には大陸と平行に多くの亀裂が入り、枕状溶岩を産出しました。日本海の海底火山の噴火により火山灰が大量に堆積しました。青森県の仏ケ浦では白い火山灰からできた地層が浸食を受け、奇妙な岩石が立ち並ぶ絶景が見られます。富山県の沿岸部には水深1000mの深海が残っており、深海生物のホタルイカがとれます。亀裂には金を溶かした熱水が入り込み、佐渡には金鉱床が出現しました。大陸から引き剥がされたために、日本海側には絶壁の景勝地が数多く形成されています。日本海の中央にある大和塊は大陸の一部が移動してできた海底台地です。

1900~1600万年前にかけて日本列島の原型は大陸から離れ、現在の位置に移動しました。西日本は陸地でしたが、東日本の殆どは海底下にありました。西日本はフィリピン海プレ-トによって引っ張られ、東日本は太平洋プレ-トによって引っ張られたために、両者は観音扉を開くように少し回転しながら移動しました。1500万年より古い溶岩の磁化方向を調べると、東日本と西日本で地磁気の方向がずれていることが、その回転移動の証拠となっています。飛騨地帯の片麻岩は大陸で形成されたものですが、同じものが韓国でも見られます。飛騨川の飛水峡のチャ-ト岩中には、1億年前の放散虫の化石が見られますが、これと全く同じ化石を有するチャ-ト岩がロシアのハバロフスクで見られます。これらは日本列島が大陸の一部であった証拠であると考えられています。

日本列島の誕生の物語

2017年7月に放送されたNHKの番組「GEO JAPANグレ-トネ-チャ―」の再放送で、日本列島誕生の物語が紹介されました。大陸や島は海洋底のプレ-トの運動によって形成されます。日本列島はいつ頃どのようにして形成されたのでしょうか?日本列島の形成過程は長い間謎に包まれていました。近年の研究調査により、日本列島は4つの稀有な地質学的事件により誕生したことが解明されつつあります。

日本列島の原型は、今から3000万年前に太平洋プレ-トの運動によってユーラシア大陸の縁が裂けて、裂け目が拡大して生じ、1500万年前に現在の位置に移動しました。東日本と西日本になる部分は別々にやや回転しながら移動しました。当時、東日本の殆どは海面下にあり、西日本は山がなく乾燥したステップ平原でした。通常大陸が裂ける場合は、亀裂は中央部で生じます。なぜなら大陸に覆われたマントル部は放熱し難いので、大陸の中央部が高温になり、マントルで高温のプル-ム上昇が発生しやすいからです。大陸の縁が裂けたのは、太平洋プレ-トが最大のプレ-トで、大陸の縁が西端に位置していたからだと考えられています。

次に引き延ばされたフィリピン海プレ-トの影響で、太平洋側の各地に巨大なカルデラ噴火が起こり、西日本に山地が形成されました。さらにフィリピン海プレ-トの運動方向が北から北西に変化し、太平洋プレ-トの沈み込み帯が大陸方向に移動して、東日本は東西に圧縮されて隆起し、奥羽山脈や北アルプスなどが形成されました。同時に東日本と西日本の間に伊豆小笠原の火山島が次々と同一地点で衝突し、関東平野が出現し、東日本と西日本が合体して日本列島が誕生したのです。

 大陸から分裂したときの亀裂は絶壁となり、日本海側の切り立った海岸にその面影が残っています。亀裂には金の鉱床が形成され、佐渡の金鉱となっています。日本海沿岸部に深い亀裂が残ったため、富山県沿岸部では深海生物であるホタルイカが獲れます。紀伊半島には火山がありませんが、カルデラ噴火口跡に沿って花崗岩質の巨岩や温泉が環状に点在しています。巨石は神社で信仰の対象になっています。丹沢山地や伊豆半島は、火山島の連続衝突により供給され、富士山が誕生し、高山の風化や河川による浸食作用で関東平野が形成され、広大な稲作地帯となりました。伊豆の相模湾や駿河湾には食い込んだ海溝があり、金目鯛などの美味な深海魚が生息しています。東西圧縮により隆起した東日本の奥羽山脈や南北アルプス山脈は、温帯地域としてトップクラスの降水量をもたらしました。北海道には日高山脈が形成されました。急な清流には、アユなど川底の石についた苔を食べる魚が生息しています。急流の軟水によって昆布の出汁は風味を増します。日本の位置と複雑な地形が、四季、絶景、温泉、豊かな水と生態系を生み出し、日本の和食文化を生み出しました。プレ-ト運動により、日本人は数々の災害を受ける一方で、豊かな自然の恵みを享受できるようになったのです。

和食の旨さはマグマのおかげ?

4月22日午後10時にNHKのEテレで又吉直樹のヘウレーカ「和食の旨さはマグマのおかげ?」が放映されました。神戸大学の地質学者の巽(たつみ)好幸教授が、大引伸昭調理師の和食を食べながら、和食の恵みは日本が火山列島であることに起因していることを説明しました。巽教授は、海底の地質調査により巨大噴火を予測する研究をされていますが、美食地質学を提唱しています。
日本は軟水でフランスは硬水です。水質の違いは食文化に大きな影響を与えます。フランスはチキンスープ、日本は昆布だしを愛好しています。その理由を実験で説明しました。
硬水で加熱すると、肉のタンパク質とカルシウムが結合して灰汁(あく)となり、肉の臭みを除去することができます。しかし硬水は昆布の表面にアルギン酸カルシウムの膜ができて昆布の旨みが十分抽出できません。お米は軟水で炊いた方がふっくらします。
日本の河川は100km程度、フランスの河川は1000km程度あります。日本の河川は急勾配なので、岩石中のカルシウムが水に溶け込む時間が少ないので軟水になります。硬水は1リットル中に1.4gものミネラルを含みますが、軟水は0.4gしか含まれていません。
日本列島は3000万年前に大陸から分離を始め、300万年前から山脈が形成されました。年間数mm程度の隆起速度で1万mもの高さになりますが、風化で3000m級の山脈になったようです。これが日本の水質を決めました。
ホタルイカが採れるのは富山湾が1000mもの深海だからですが、日本列島の形成に起因しています。日本近海で寒流と暖流がぶつかるために魚種の多い漁場が形成されました。
蕎麦の名産地と火山帯は重なります。蕎麦は寒冷で痩せた火山灰土でよく育つからです。縄文人は津波を避けるために、丘陵の端に住んでいました。弥生人は稲作をするために海辺の平野に住んでいました。弥生遺跡には津波の跡が見られます。
日本人は自然の試練と恩恵を受けてきました。自然災害に直面してきたから、日本人は無常観を基調とする仏教を受け入れてきたのかもしれませんね。

黒い津波 知られざる実情 NHKスペシャル

2011年3月11日午後3時に東北地方を襲った津波は黒かったと報告されています。今年3月にNHK取材班は、黒い津波に関する調査を追跡報告しました。黒い津波の原因は、湾内に入り勢いを増した津波が、数mの深さ堆積したヘドロを削り取ったためです。ヘドロ粒子のサイズは数μmと細かく、汚水の密度は海水より10%以上大きいことが分かりました。

中央大学の有川太郎教授は、黒い津波が建物に与える衝撃力を調べました。密度が10%高くなるだけで、衝撃力は海水の2倍以上(556kg重/m2)ありました。汚水は粘性が高いために、海底付近の速度が小さくなり、盛り上がって建物に衝突するからです。汚水は浮力が大きいため、通常2mの浸水で木造家屋は浮きますが、汚水の場合は1mの浸水で家が浮き上がってしまいます。汚水の場合、ひざ下の深さで人は立っていられなくなります。飲み込まれると、ヘドロで窒息死します。津波の後には街がヘドロの粉末で覆われ、舞い上がった粉末は肺炎を引き起こします。

流体力学の専門家は数多くいますが、汚水力学の専門家は殆どいません。今後は早急に、建築基準の見直しなど、汚泥を含んだ津波の対策を立てていかなくてはなりません。

どうしてクジラにはヒゲクジラと歯クジラがあるのでしょうか?

3400万年前のACEイベントに合わせて、原始クジラの一部は大量のオキアミが採れる「ヒゲ」を発達させたことが古クジラの化石研究から分かってきました。このころ数100万年で急速に進化し、完全なヒゲクジラが出現しました。このときにヒゲをもたないプロトケタスは絶滅しました。一方で水中でのエコロケ-ション(反響定位)能力を獲得したマッコウクジラなどのハクジラが出現し、ハクジラも形を変えて生き延びました。

1500万年前にクジラの故郷が消滅

2500万年前~1500万年前は中間的な気候で海水面は現在より100m高かったと言われています。中新世が始まる2300万年前に南極収束線が完成します。南極収束線は、南極を取り巻く潮の境界のことです。ここで南極大陸に沿って輸送される冷たい海水とその外側の亜南極の比較的暖かい海水が出会います。中新世中期1500万年前にテチス海が閉じ、クジラの故郷が消滅しました。クジラはグロ-バルな海生動物になることで、生き延びました。

850万年前の珪藻増大イベントPACE1(=PAcific Chaetoceros Explosion)

1500万年前~1000万年前にヒマラヤ山脈は標高5000mに達し、地球は再び寒冷化します。1500万年前以降には南極に氷床が現れます。この間に多くの種類のクジラが絶滅しました。850万年前には太平洋でキ-トケロス珪藻の産出増大が見つかっており、PACE1イベントと呼ばれています。寒冷化による湧昇の活性化が生じた証拠だと考えられています。PACE1イベントに合わせて、オキアミの種類が増大し、現生14種類のヒゲクジラが出現しました。このころクジラの頭骨化石のサイズが2倍になりました。餌が豊富になったために、イルカ、セイウチ、ペンギン、カワウソやイタチの種類も増加しています。

250万年前の珪藻増大イベントPACE2

270万年前に中央アメリカ海峡が閉鎖されました。温暖なメキシコ湾流が太平洋に抜けられなくなり、大西洋北部に流れ込み、北米に大量の雪を降らせました。それ以降、北半球にも氷床が現れます。250万年前にも太平洋でキ-トケロス珪藻の産出増大が見つかっており、PACE2イベントと呼ばれています。クジラの頭骨化石のサイズが6倍になりました。餌が豊富になったために、アザラシやオットセイの種類も増加しています。

ヒゲクジラ

鯨のヒゲは人間の爪と同じケラチンでできています。クロミンク鯨には長さ50cmの300枚のヒゲ板があります。口を開けて泳ぎ、海水からオキアミやカイアシなどの餌を漉しとって食べます。ヒゲクジラの餌の採り方には3種類あります。漉し採り型のセミクジラ、飲み込み型のナガスクジラ、掘り起し型のコクジラの順番に進化しました。湧昇の活発化により海水が濁り、視界が悪くなったために、ヒゲクジラは漉し採り型で小魚やオキアミを捕獲するようになったのではないかと考えられます。飲み込み型クジラは大量の海水を飲み込むためにアコ-ディオン状の畝(うね)をもっています。掘り起し型クジラは、海表面での競争を避けて、海底に棲む生物を食べるクジラです。巨大なクジラは水族館では見られません。私も巨大クジラはテレビでしか見たことがありません。

クジラの進化史

・クジラの祖先とその環境

5500万年前の始新世の初期は温暖で、海面は現在より200mも高いものでしたが、それから徐々に寒冷化していきました。そのころにはインド大陸は南極大陸から分離して、北上していました。インド大陸にはクジラの祖先であるアンブロケタスなどのカバに似た4つ足の陸生哺乳動物がいました。

3000万年前にインド大陸はユ-ラシア大陸と衝突し、ヒマラヤ山脈を形成し始めます。ヒマラヤ山脈には海底の堆積物が激しく褶曲した地層があり、多数のアンモナイトの化石が発見されています。ヒマラヤ山脈が形成されると、寒冷・乾燥化し、モンス-ン(季節風)が強化されました。ヒマラヤを流れる河川による風化浸食と風塵により、大量の栄養塩が海洋に供給されたと考えられています。

衝突前にはユ-ラシア大陸とインド大陸(あるいはアフリカ大陸)の間にはテチス海(Tethys Ocean)という浅い大海が広がっていました。テチス海は赤道上にあったので、赤道反流が西から東にテチス海を流れていました。温暖な気候の浅海では植物プランクトンが大繁殖しました。その死骸が海底に降り積もってできたのが現代の中東地区の石油だと考えられています。クジラの祖先は河畔から安全で豊富な餌が得られるテチス海に住むようになりました。体型も水中生活に適応し、プロトケタスという尾ヒレをもつ古代クジラが出現しました。

寒冷な漸新世で植物プランクトンが大量発生

漸新世が始まる3400万年前にオーストラリア大陸が南極大陸から離れ、南極還流が形成されました。低緯度地域で発生した暖流が南極大陸に接近できなくなり、急速に寒冷化が進み、両極には氷床が出現しました。氷床は太陽光を反射するので気温が下がり、氷床は拡大します。沿岸の海面が氷結すると塩分濃度の高い海水が大量に発生し沈み込みます。南極海沿岸は栄養塩濃度の高い深層海水が湧昇し、プランクトンやそれを食するオキアミが大量発生しました。植物プランクトンは光合成するので、温室効果ガスであるCO2が減少し、寒冷化に寄与します。

微化石の研究からACE(=Atlantic Chaetoceros Explosion)と呼ばれるキ-トケロス珪藻の爆発的な増大イベントが生じたことが分かっています。キ-トケロス属は湧昇流が活発な地域に生息する珪藻です。栄養状態が悪くなると、キ-トケロス珪藻は休眠胞子状態になり、海底の泥層に沈みます。湧昇流が起こり、栄養状態がよくなると、休眠胞子は表面層まで巻き上げられ、光を受けて休眠から目覚めます。通常、珪藻のガラス殻は薄く、化石として残らないのですが、キ-トケロス珪藻の休眠胞子状態のガラス殻は厚いために、20μm~50μmサイズの微化石として残ります。

三大植物プランクトンをご存知ですか?

海中の三大植物プランクトンは珪藻と渦鞭毛藻と円石藻です。これらは真核生物です。大きさは珪藻が20~50μm、渦鞭毛藻が50μm、円石藻が10μm程度です。

珪藻は、10万種ありますが、球形の中心類と細長い羽状類があり、いずれも弁当箱のようなガラス質(珪質)の殻をもっています。珪藻は細胞がガラスで囲まれているため、光を効率よく吸収できます。珪藻はガラス殻が重いために表層に自ら留まることはできませんが、渦流がある沿岸域や湧昇域では留まることができます。

珪藻は分裂時に内側に殻を形成するので、分裂するたびに少しずつ小さくなります。限界に達すると、有性生殖に切り替わり、増大胞子をつくりサイズを回復させます。沿岸湧昇域に生息するキートケロス属の珪藻は、低栄養塩濃度になると休眠胞子となり、海底に沈み、湧昇が活発になると、浮上してきます。

渦鞭毛藻は、2000種ありますが、半数は動物的なプランクトンです。鞭毛は、栄養塩濃度が低下した周囲の層を攪拌することで、周囲の栄養塩濃度を回復するのに役立ちます。あるいは鞭毛を使って、夜間に栄養塩濃度の高い深層に移動することもできます。単相で分裂して増えますが、栄養状態が悪くなると、複相(DNA2組)で接合繁殖します。休眠シスト状態にもなれます。渦鞭毛藻は赤潮の原因になります。

円石藻は、200種ありますが、すべて海産性です。コッコリスという石灰質円板の鱗片をもつ球形プランクトンです。天然のチョ-クは円石藻が沈殿してできたものです。円石藻が死ぬと沈降しますが、海底に到達する前に溶解してしまいます。円石が堆積するためには、動物プランクトンなどに捕食されて糞ペレット(fecal pellet)になる必要があります。

円石藻は微化石として大量に出土する為、現生種の何倍もの化石種が記載されており、示準化石として利用されています。円石藻の多くは貧栄養の外洋を好みます。Caイオンと炭酸水素イオンからCaCO3を形成する際にCO2を発生させますが、光合成によるCO2消費の方が多いようです。円石の役割には集光、CO2貯蔵、沈降防止、捕食防御など諸説あります。円石藻は白潮の原因になります。

円石藻はジメチル硫黄(DMS)を大気中に放出します。DMSは光化学反応して、SOxに変わります。こうした硫黄化合物は雲の核となり、雲形成を促進し、温室効果や地球の反射率を高める影響があります。

植物プランクトンはなぜ小さいのか?

植物プランクトンは光合成のために明るい表層に浮遊しなければなりません。また栄養塩の少ない表層で効率よく栄養塩を摂取するために、表面積が大きくなければなりません。しかし細胞原形質は海水より密度が高いのです。従って植物プランクトンは数十ミクロンの小さな大きさを保っています。動物プランクトンは、浮遊して小さい植物プランクトンを効率よく食べるために、小さくなっています。

植物プランクトンの生産性

植物プランクトンの寿命は6日程度です。1週間すると1回分裂し、その半数は死んで沈降するか他の動物プランクトンに捕食されます。こうした海洋生物は世代交代が非常に速く生産性が高いのが特徴です。実際、海中生物量は3Pg(炭素換算1012kg)ですが、陸上生物量300Pgの1%に過ぎません。しかし海中生物の炭素移動量は陸上生物の80%を占めています。海洋と陸上の平均的P(年間生産量)/B(生物量)比は

・ P/B(海洋)=152[g/m2/年]/10[g/m2]=15.2 [1/年]

・ P/B(陸上)=721[g/m2/年]/12300[g/m2]=0.059 [1/年]

です。大陸棚のP/B比は36となり、海洋平均値15.2の2倍以上になります。海洋は陸上より生産性が260倍(=15.2/0.059)も高いことになります。生産量の観点からすると海洋は陸上より時間が2桁以上速く流れているのです。

レッドフィールド比(Redfield、1890~1983)について

Redfield博士はアメリカ東海岸沖の深層海水中の炭素と窒素とリンの比率は

・ C:N:P=106:16:1

でほぼ一定であることを見出し、海性植物プランクトンのN/P比も深層水中のN/Pに等しいと考えました(1958)。表層のN/P比はばらつきがありますが、16より小さいです。現在500m以深の海水中の硝酸塩とリン酸塩比の平均値は、大西洋で15.0、太平洋で14.8、インド洋で14.3であると報告されています(Falkowski, 2007)。資源競争条件での化学量論モデルによれば、微細藻類の最適N/P比は、対数増殖期で8.2です(Klausmeier、2004)。近年の調査では、プランクトンの栄養含有比はプランクトンが棲息する緯度によって変わり、栄養が少ない赤道では195:28:1、栄養が豊富な極地方では78:13:1と明らかな違いが見られています(Adam Martiny、2013)。 

クジラはどのように進化してきたのでしょうか?

近年クジラの進化史が解明されつつあります。プレ-トテクトニクスによる大陸移動は、海峡封鎖や造山運動を引き起こし、海流を変化させ、気候を寒冷化させてきました。寒冷化による海底栄養塩の湧昇は、プランクトンやオキアミの大発生を引き起こし、クジラの餌を豊富に供給したのです。クジラヒゲはオキアミを効率よく捕獲できるので、クジラが巨大化しました。

1か月前に名古屋大学の須藤斎(いつき)准教授が書かれた「海と陸をつなぐ進化論」(Blue Bucks)を参考にして、クジラとプランクトンの共進化の歴史を紹介しましょう。ちなみに須藤准教授は珪藻という植物プランクトンの専門家です。須藤氏は珪藻が大発生した3つのイベントと海洋生物の進化の関係を研究されています。

大昔の海水温度を推定する酸素同位体比

酸素には3 種類の同位体が存在ますが、海水の酸素は16O(軽い水)と少量の18O(重い水)で構成されています。海水が蒸発し、積雪によって氷床に取り込まれ易いのは軽い水なので、軽い水が氷床に取り込まれます。そのため、氷床が拡大する氷期の海水は相対的に重い水が多くなり、逆に間氷期の海水は軽い水が多くなります。海水中を漂う石灰質有孔虫は海水を使って石灰質の殻を作ります。この殻には水温が低いほど、重い海水が多いほど多くの18O が取り込まれるので、酸素同位体比18O/16O は水温が低い氷期に大きくなります。

何故日本は国際捕鯨委員会(IWC)から脱退したのでしょうか?

IWCの本来の目的は「鯨類資源の保存と有効利用」と「捕鯨産業の秩序ある発展」の2つでした。しかし1980年代に反捕鯨を唱える非捕鯨国の加盟が急増し、1982年に商業捕鯨の一時停止が採択されました。 そうした状況の中、ノルウェ-は1993年から、アイスランドは2006年から商業捕鯨を再開し、ついに日本も商業捕鯨を再開する方針を固めました。

日本人は縄文時代からクジラ類を食してきた習慣があります。日本にとって鯨類資源は重要な食料資源です。日本は、30年間科学的調査を行い、鯨類資源が持続的に利用可能であることを実証してきました。しかし非捕鯨国は捕鯨国が持続的に商業捕鯨をする必要性を認めようとしませんでした。日本政府は、IWCは本来の目的を実現できないと判断し、2018年12月26日にIWCを脱退しました。今後日本はIWCにオブザーバとして参加し、科学的知見に基づく鯨類の資源管理に貢献します。立場を共有する国々と連携し、IWCの機能回復を目指すとのことです。

実際にクジラを持続的に利用できるのでしょうか? 

クジラの種類によって持続的に利用可能な捕獲数が異なります。例えばクロミンククジラは十分な資源量が確認されているので、持続的利用が可能です。水産庁によると、クロミンククジラの推定数は51.5万匹で、毎年0.2%(1000匹)捕獲しても数量を維持できるとのことです。日本は調査のため毎年850匹を捕獲しています。希少なクジラを保護しながら、数量の多いクジラを計画的に捕獲することは、漁獲量の向上にもつながります。クジラ肉は栄養があり、上手に調理すると大変美味しいと言われています。

日本は2019年7月から30年ぶりに商業捕鯨を再開する予定です。商業捕鯨は、日本の領海及び排他的経済水域に限定され、南半球では捕獲を行いません。捕鯨はIWCの捕獲枠の範囲内で行われます。

6.量子力学的な散乱係数について

ラウドンの「光の量子論」(1994年)に量子力学的な散乱係数の詳細が書かれています。時間に依存した摂動論において、電気双極子相互作用の2次の寄与から散乱光子の放出速度τを計算します。単位時間に散乱によって光子ビ-ムから失われるエネルギ-ℏω/τと、単位断面積を単位時間に通過するエネルギcℏωn/Vとの比で散乱断面積を定義すると、

  • σ=(ℏω/τ)/(cℏωn/V)= (V/nc)・1/τ

放出速度τを散乱断面積σに書き換えられます。1/τには∫dΩが含まれているので、微分断面積が求められます。これがクラマ-ス・ハイゼンベルグの公式です。原子が基底状態に戻る弾性散乱の場合は、

  • dσ/dΩ=(eω/c)4/(4πεoℏ)2
  •      ×∣∑i{(εs・D×ε・D)/(ωi-ω)+(ε・D×εs・D)/(ωi+ω)}∣2

となります。εとεsは入射光子と散乱光子の単位偏光ベクトル、Dは電気双極子相互作用です。ω=ωiで発散しますが、厳密な扱いではωは虚部を有するので発散しません。

ω>ωiとω<ωiの場合を扱う場合には、上式で十分です。

1)トンプソン散乱の場合(ω>ωi

光子の周波数ωが原子の励起周波数ωiより大きい場合には、絶対値の中の和は-ωi/ω2と近似できるので、

  • dσ/dΩ=(eω/c)4/(4πεo)2×∣∑iωi{(εs・D×ε・D)+(ε・D×εs・D) }∣2

原子に束縛されている電子数をZとすると、総和則から

  • iωi{(εs・D×ε・D)=(Zℏ/2m}ε・εs

となるそうなので、微分断面積は

・ dσ/dΩ=[Z・re・(ε・εs)]2

となります。ここでreは古典的電子半径

  • e=e2/4πεo・mc2=2.8×10-15 [m]

です。つまり静電エネルギe2/4πεoeが静止エネルギmc2に等しくなる半径です。

このような高周波入射光の弾性散乱はトンプソン散乱として知られています。トンプソン散乱では散乱断面積は、原子構造と無関係に、電子数Zの2乗に比例します。

2)レ-リ-散乱の場合(ω<ωi

光子の周波数ωが原子のどの励起周波数ωiより小さい場合には、分母のωを無視して

・dσ/dΩ=(eω/c)4/(4πεo ℏ)2∣∑i (1/ωi)・{(εs・D×ε・D)+(ε・D×εs・D) }∣2

となります。水素原子の場合はあらわに計算ができて、

  • dσ/dΩ=(eω/c)4/(4πεo)2×[(9ℏ/16mωR^2) (ε・εs)]2

となります。ここでℏωRは水素の基底状態のエネルギ

  • ℏωR=me4/32(πεoℏ)2

です。結局、水素原子に関するレ-リ-散乱の公式

  • dσ/dΩ=(9re/8)2・(ω/ωR)4・(ε・εs)2

が得られます。

  • ω=2πc/λ

なので、レ-リ-散乱の散乱断面積は波長の4乗に反比例することが量子論でも確かめられました。

3)共鳴散乱の場合(ω=ωi)

減衰係数γiを取り入れた表式は、i番目の準位への散乱断面積は

  • dσ/dΩ=(eω/c)4/(4πεo ℏ)2・(ε・D1i)4/{(ωi-ω)^2+γi2}

となります。励起状態はi=2だけだとして、散乱光子の全方向について積分すると、

  • σ=(eω/c)4/18π(εo ℏ)2・D124/{(ωo-ω)2+γ2}

となります。ここで減衰係数γは

  • γ=e2ωo3D122/3πεo

です。よって散乱断面積は

  • σ=[e2ωoD122/3εo ℏc]・γ/{(ωo-ω)2+γ2}

の形に書き表せます。ω=ωoのとき、散乱断面積は入射光の波長λの2乗

  • σ=2πc22=2π/(2π/λ)2=λ2/2π

となります。原子の第一励起状態との共鳴断面積は、波長だけで決まります。

5.電磁気学の単位系について

電磁気学にはMKSA単位系(SI単位系)とCGS単位系(ガウス系)があります。

一世代前にはCGS単位系が使われていましたが、今ではMKSA単位系が用いられています。少し古い本を読むとCGS単位系が使われているので、CGS単位系とMKSA単位系の関係について知っておくと便利です。以下CGS単位系の物理量にはプライムをつけて区別します。

<CGS単位系とMKSA単位系の違い>

MKSA単位系では、ク-ロン力Fは

・ F=(1/4πε0)・Q1Q2/r2

ですが、CGS単位系では

・ F= Q’1Q’2/r2

とシンプルになります。

MKSA単位系では、電束密度と電界の関係は

・ D=ε0E+P

ですが、CGS単位系では

・ D’=E’+4πP’

となります。CGS単位系はよさそうに見えるのです。

しかしマクスウエル方程式に関してはMKSA単位系の方がすっきりしています。MKSA単位系では、マクスウエル方程式は

・ divD=ρ、divB=0、rotH=i+∂D/∂t、rotE=-∂B/∂t

ですが、CGS単位系では

・ divD’=4πρ’、divB’=0、rotH’=(4π/c)i’+(1/c)∂D’/∂t、

   rotE’=-(1/c)∂B’/∂t

となります。CGS単位系はマクスウエル方程式に4πが出てきて目障りなのです。

<CGS単位系とMKSA単位系の関係>

電場の場合、次の3つの関係

・ Q= root(4πε0)Q’

・ D= root(ε0/4π)D’

・ E=E’/ root(4πε0)

を使えば換算できます。分極P=rQなので、P=root(4πε0)P’の関係です。

・ DS=Q(MKS系) →root(ε0/4π)D’=root(4πε0)Q’ →D’S=4πQ’(CGS系)

・ F=QE(MKS系) →F=root(4πε0)Q’ E’/ root(4πε0) →F=Q’ E’(CGS系)

・ D=ε0E+P(MKS系) → root(ε0/4π)D’=ε0E’/ root(4πε0)+root(4πε0)P’

・  → D’=E’+4πP’(CGS系)

が得られます。分極率αは

・ P=αε0E(MKS系) → root(4πε0)P’=αε0E’/ root(4πε0)

    → P’=(α/4π)E’(CGS系)

と変換されます。

4.分極率と屈折率の関係

計測可能な屈折率nを用いて、分極率を表します。単位体積当たりの分子数をNoとすると、分極率αが古典的に

・ α=(3/No)[(n2-1)/(n2+2)]

と表せることを説明します。

屈折率nの媒質では光速は

・ c=c0/n

と小さくなります。よって

・ n2=(c0/c)2=εμ/ε0μ≒ ε/ε0

となります。

外部電場Eo内に設置された誘電体の内部の分子を含む半径roの球を考えます。分子に分極を引き起こす分子にかかる電場Eは

・ E=Eo+Ep+Ei

の3つの成分に分けて考えることができます。ここでEpは半径roの球をくり抜いた外側の誘電体の分極が球の中心につくる電場とします。Eiは球形の分極した誘電体が球の中心につくる電場とします。なお誘電体は等方的で、印加したEoと同じ方向に分極が生じるものとします。分子の位置を原点とし、外部電場の向きをx方向とし、x軸からの角度をθとします。

分極した誘電体の内部の電場を求めるための図式

1)Epについて

 外側の誘電体の分極により、半径roの球のx>0の内壁に負の面電荷、x<0の内壁に正の面電荷が生じています。角度をθの位置にある微小面積dsの電荷密度σpは

・ σp=∣P∣cosθ

となります。Pは単位体積当たりの双極子モーメントであり、P[Cm/m3]=P[C/m2]より面電荷と同じ次元をもっています。σpdsの電荷が原点につくる電場のx軸方向は

・ dE=∣P∣cosθds/4πεoro2 ・cosθ

角度θとθ+dθに挟まれた内壁の帯状の面積は、幅rodθをもつ半径ro・sinθの円ですから、ds=2πro・sinθrodθとなります。内壁の面電荷が原点につくる電場Epは

・ ∣Ep∣=∫[0、Π] ∣P∣cos2θ/[4πεo・ro2]・2πro2・sinθdθ

・   =∣P∣/2εo∫[-1、1]2dt=∣P∣/2εo・2/3=∣P∣/3εo

・  Ep=+P/3εo

となります。

2)Eiについて

 原点に微小距離d離れた正負の電荷qがあったとします。その点のポテンシャルφを考えると、双極子のエネルギは

・ U=qφ(d、0、0)-qφ(0、0、0)≒qd=p(dφ/dx)0

となります。点rp(xp、yp、zp)にp=qdの双極子があったとき、それが任意の点(x,y,z)につくるポテンシャルφ(x,y,z)は

・ φ(x,y,z)=(p・r)/4πεor3

      =(1/4πεo)・p(z-zp)/{(x-xp)2+(y-yp)2+(z-zp)2}3/2

となります。点Pにある双極子の電場により原点にある双極子がもつエネルギは

・ U=p(dφ/dx)0=(p2/r3)(1-3 zp2/r2

となります。双極子が立方格子状に分布している場合は、格子定数aとすると、整数i、j、kに対して、

・ (xp、yp、zp)=(ai、aj、ak)

となるので、エネルギは

・ U==p2/a3 ∑( i2+j2+k2) -5/2・(i2+j2+k2-3k2

と表せます。和を取る際に(i、j、k)をサイクリックに入れ替えて3で割ると、分母は変わりませんが、

分子=1/3{(i2+j2+k2-3k2)+(k2+i2+j2-3j2)+(j2+k2+i2-3i2)}=0

となるので、U=0となります。したがってEi=0となります。

したがって、分子に働く電場の強さは

・ E=Eo+P/3εo

となります。これをロ-レンツの内部電界といいます。単位体積当たりの双極子数をNo、分子の分極率をαとすると、分極ベクトルPは

・ P=NoαεoE=Noαεo(Eo+P/3εo)

となります。これをPについて解くと

・ P=NoαεoEo/(1-Noα/3)

となります。これを電束密度DにあるPに代入すると

・ D=εoEo+P=εoEo+NoαεoEo/(1-Noα/3)

   =(1+2Noα/3)/(1-Noα/3)・εoEo

一方

・ D=εEo=(ε/εo)εo Eo

なので

・ ε/εo=(1+2Noα/3)/(1-Noα/3)

となります。αについて解くと、双極子の分極率と屈折率の関係式

・ α=(3/No)(ε/εo-1)/(ε/εo+2)=(3/No)(n2-1)/(n2+2)

が得られます。これをクラジウス・モソッティの式(1879年)といいます。

3.双極子散乱の公式の証明

それでは双極子ベクトルP(t0)

・ P(t0)=∫ρ(r’, t0)r’d3r’(t0=t-r/c)

から距離離れた位置に観測される散乱波の電場E(r,t)が、

  • E(r,t) =(1/4πε)(1/ c23)・×[×∂2P(t0)/∂t02] 

と書けることを証明します。ここでcは光速です。

電場と磁場は、電磁ポテンシャルφ、A

・ =-gradφ-∂A /∂t

・ =rot A

なる関係があります。電磁ポテンシャルφ、Aを用いたマクスウエルの方程式は

・ (△-1/c22/∂t)φ=-ρ/ε

・ (△-1/c22/∂t)A=-μi

・  1/c2・∂φ/∂t+divA=0 (Lorentz gauge)

・  1/c2=εμ

で与えられます。電磁ポテンシャルは、電荷密度ρと電流密度iに対して

・ φ(,t)=(1/4πε)∫ρ(r’,t-∣r-r’∣/c)/ ∣r-r’∣d3r’

・ A (,t)=(μ/4π)∫i(r’,t-∣r-r’∣/c)/ ∣r-r’∣d3r’

・      =(1/4πε)1/c2i(r’,t-∣r-r’∣/c)/ ∣r-r’∣d3r’

と表すことができます。必ずしも容易ではありませんが、この定理は上式に代入すると解になっていることで確かめられます。物理学では証明に用いる定理が証明すべき命題より難しいことが時々あります。数学的には1/rがφに係るダランベシアン作用素のグリ-ン関数核なので、ソ-ス項と1/rの積の積分は電磁場方程式の解になるということです。よく知られた定理なので、ひとまずこれを認めましょう。

物理学では大抵の場合、厳密に積分するのは困難です。ここでは電気双極子近似を導入します。電子が存在している領域半径r’ に比べ、観測地点がずっと遠くにある(r’<<r)場合を想定しているので、

・ ∣r-r’∣≒r(1-r・r’/r)

・ 1/∣r-r’∣≒1/r・(1+r・r’/r)=1/r+O(r’/r)≒1/r

・ r=∣r∣=root(x2+y2+z2)

のように近似します。なぜなら

 ∣r-r’∣=root(∣r2-2r・r’+∣r’2) ≒ r (1-2r・r’/r)1/2≒r (1-r・r’/r)

だからです。さらにテ-ラ展開の1次までとると

・ ρ(r’,t-∣r-r’∣/c)≒ρ(r’,t-r /c+r・r’/cr) ≒ρ(r’,t0r・r’/cr)

・    ≒ρ(r’,t0)+[dρ(r’,t0) /dt0]・(r・r’)/cr

となります。上式のρをφの式に代入すると、

・ φ(,t)=(1/4πεr)∫ρ(r’,t0) d3r’+(r/cr2)・(d /dt0)1/4πε∫ρ(r’,t0)r’d3r’

となります。ここで第一項は

・ Q=∫ρ(r’,t0) d3r’

を含みますが、電荷Qは原子に束縛されており、時間的に変化しないので、無視できます。

・ P(t0)=∫ρ(r’, t0)r’d3r’

ですので、スカラ-ポテンシャルは、双極子ベクトルを用いて

・ φ(,t)=(1/4πε) (r /cr2)・(dP(t0) /dt0)

と書けます。同様にベクトルポテンシャルに関して、双極子近似を適用して展開すると

・ (4πε0) A (,t)≒ (1/c2r)∫i(r’, t0r・r’/cr ) d3r’

    ≒(1/c2r)∫i(r’, t0) d3r’+(1/c32)∫di(r’, t0)/dt0 (r・r’) d3r’

    ≒(1/c2r)∫i(r’, t0) d3r’ +O(1/c3)

となり第二項は無視できます。ここで断面積S、長さr’の導線を考えると、電流は

・ i(r’, t0)=1/S・dq/dt0r’/r’=d(q/V)/dt0r’=dρ/dt0r’

と書けるので、

・  A (,t)≒(1/4πε0) (1/c2r) (d/dt0)∫ρ(r’,t0)r’ d3r’

より、ベクトルポテンシャル Aも双極子ベクトルP(t0)を用いて

・  A (,t)=(1/4πε0) (1/c2r) (dP(t0)/dt0)

と表せます。電場の表式に電磁ポテンシャルを代入すると

・(1/4πε0)(r,t)=-gradφ-∂A /∂t

       =-grad[(r /cr2)・(dP(t0) /dt0)]-∂/∂t[(1/c2r) (dP(t0)/dt0)]

となります。ところで第一項のgradのx微分を考えると、

 (d/dx)(r /cr2)=ex /cr2-(2r /cr3) dr/dx=ex /cr2-2rx/cr4=O(1/r2)+O(1/r3)

の部分は、次のx微分の項

・ -(r /cr2)(d/dx)(dP(t0) /dt0)=-(r /cr2)(d(t-r/c)/dx)(d2P(t0) /dt02)

         =-(r /cr2)(-x/cr)(d2P(t0) /dt02) ~ O(1/r)

に比べると十分遠方で早く小さくなるので、無視できることが分かります。結局

・ (1/4πε0)(r,t)≒(r/cr) [(r /cr2)・(d2P(t0) /dt02)]-(1/c2r)d2P(t0) /dt02

・    =(1/c23){r [r・d2P(t0) /dt02] -(rr) d2P(t0) /dt02

・    (r,t)=(1/4πε0) (1/c23) r×(r×d2P(t0) /dt02)

により公式が得られます。最後の等式は、A=B=C=d2P(t0) /dt02とおいて恒等式

  BA・C)-(A・BCA×(B×C

を適用して得ました。すこし難しくなってしまいましたが、双極子放射の公式が電磁気学の基本方程式から得られることを確かめました。次回は古典的な分極率の導出についてお話します。

2.レ-リ-散乱のメカニズム

<双極子放射とは>

 レ-リ-散乱のメカニズムについて古典力学的に考えましょう。太陽光は様々な波長の電磁波の集まりです。電磁波が空気分子の様な微小粒子に衝突すると向きが変わるのは何故でしょうか?

 それは電磁波が微小粒子に入射すると、粒子内で誘導分極が生じ、粒子から双極子放射が生じるからです。誘電分極とは、粒子に電場が掛かると、粒子の負電荷(電子)の中心と正電荷(原子核)の中心がずれて分極つまり電気双極子が誘導される現象です。電気双極子の大きさは正電荷と負電荷の間の距離(t)と電荷qの大きさの積です。

・ P(t)=q・(t)

電気双極子の向きは、負電荷から正電荷の向きで、入射電場と常に平行です。粒子にかかる電場の向きや大きさが変化すれば、双極子の向きも大きさも変化します。電磁波では、電場が常に振動しているので、双極子も電場に合わせて振動します。振動する双極子から再び電磁波が放出されます。これが双極子放射です。

<双極子放射がつくる電場>

入射波の電場を

  • E(t)=Eo・exp(iωt)

とおきます。tは時間、ωは角振動数です。ωは波数kとの間に

  • ω=ck

の分散関係があります。ここでc は光速です。波数は1mの中にある波の数です。波数kは波長λとの間に

  • k=2π/λ

の関係があります。粒子内に生じる双極子ベクトルをP(t)とすると、

  • P(t) =αε0E(t)=αε0Eo・exp(ickt)

とかけます。αは粒子の分極率です。P(t)は振動すると周囲に電場を形成します。時刻tに双極子から距離離れた位置に観測される散乱波の電場をE(r,t)とすると、

  • E(r,t) =(1/4πε0)(1/ c23)・×[×∂2P(t0)/∂t02]

と書けます。×はベクトルの外積です。この公式は後で証明します。ここで、時刻t0は双極子の加速振動が生じた時刻で、散乱波の観測時刻tとの間に

  • t0=t-r/c

なる関係があります。つまり時刻t0は時刻tよりr/c秒前の時刻です。方向の単位ベクトルeを導入すると、

  • =re

と書けます。散乱光の電場は

  • E(r,t) =(1/4πε0)(1/ c2r)・e×[e×∂2P(t-r/c)/∂t2]
  • =(α/4π)(1/ c2r)・e×[e×∂2Eo・exp[ick(t-r/c)]}/∂t2]
  • =-(α/4π)(k2/r)・e×[e×Eo ] ・exp[ick(t-r/c)]
  • =ElEr

となります。2回単位eベクトルと外積を取るので電場の向きは変わりません。

<θ方向の散乱強度>

いま入射電磁波はy方向に進行しており、電場Eoのz成分をEor、x成分をEolと書くことにしましょう。

  • EoEolEor=(Eol、0、Eor)

粒子の位置を原点として、散乱波の方向はxy平面内にあるものとします。x軸と散乱波の方向のなす角度をγと書きます。進行方向と散乱方向のなす角度をθ(=π/2-γ)とします。

  • e×[e×Eo ]=e×[e×Eol ]+e×[e×Eor ]=AB

を計算します。ABは直交しています。

  • e=(cosγ、sinγ、0 )、Eol=Eol(1、0、0 )
  • e×Eol =Eol(0、0、sinγ)、
  • A =e×[e×Eol ]=Eol(sinγsinγ、-sinγcosγ、0 )
  • A∣/ Eol =root[(sinγsinγ)2+(-sinγcosγ)2 ]=sinγ=sin(π/2-θ)=cosθ
  • e=(cosγ、sinγ、0 )、Eor=Eol(0、0、1 )
  • e×Eol =Eol(sinγ、-cosγ、0)、
  • B=e×[e×Eor ]=Eol(0、0、-cosγcosγ-sinγsinγ)=Eol(0、0、-1)
  • B∣/Eol =1

したがって、θ方向の散乱強度Iは

  • I(θ)E(r,t) ∣2=∣El2+∣Er2
  • El2=∣-(αk2/4πr)A exp[ick(t-r/c)]∣2=(αk2/4πr)2・∣A2
  •    =(αk2/4πr)2(cosθ)2・Eol2
  • Er2=∣-(αk2/4πr)B・exp[ick(t-r/c)]∣2=(αk2/4πr)2・∣B2
  •    =(αk2/4πr)2・Eor2

両者を加えて、

  • I(θ)(αk2/4πr)2(cosθ)2・Eol2+(αk2/4πr)2・Eor2

となります。散乱体から離れると1/r2で強度が減少します。散乱強度は波数の4乗に比例し、散乱の方向は等方的です。cosθの因子から分かるように、双極子ベクトルの方向には電場が形成されません。電場の水平成分Eolは進行方向に垂直な方向には散乱されませんが、前方と後方に等しく散乱されます。電場の垂直成分Eorは参照面内で等方的に散乱されます。粒子が大きくなるとミ-散乱となり、後方散乱は縮小し、前方散乱だけになります。ElとErの見かけの違いは、参照面をxy面にしているために生じているものであって、ElとErの全体の散乱形状に違いはありません。

<1粒子当たりの散乱断面積>

ここで入射強度Ioに対し、入射電場強度は

  • Io/2=Eol2=Eor2

を満たすとします。結局、θ方向の散乱強度として

・ I(θ)(αk2/4πr)2 [(cosθ)2+1]/2・Io

・  =(α/4πr)2・(2π/λ)4 [(cosθ)2+1]/2・Io

が得られます。散乱強度が波長の4乗に反比例しています。全方向の散乱強度は

・ I=∫dφ∫dθr2sinθ・I(θ)

・ =Io・2π∫dθr2sinθ(α/4πr)2・(2π/λ)4 [(cosθ)2+1]/2

・ =Io 2π(2π/λ)4・(α/4π)2・(1/2)∫dθ[sinθ+ sinθ(cosθ)2]

・ =Io 2π(2π/λ)4・(α/4π)2・(1/2)(2+2/3)

・ =Io 2π(2π/λ)4・(α/4π)2・(4/3)

結局、1粒子当たりの散乱断面積は

・ σ[m^2/個]=I/Io=128π5・(α/4π)2/3λ4

となります。

<分極率と屈折率の関係>

1個の分子の分極率は計測できないので、計測できる屈折率を用いて、分極率を表します。

単位体積当たりの分子数をNoとすると、分極率は

・ α=(3/No)[(n2-1)/(n2+2)]

と表せます。これについては後で説明します。δ=n-1≒10^-4<<1ですから、δの2乗のオ-ダ-を無視すると

・ α≒(3/No)2(n-1)/3=2(n-1)/No

と近似できます。n-1の波長や温度に対する依存性に関してはEdlenの実験式があります。

<散乱断面積の換算>

また1粒子当たりの散乱断面積に

・ No[個/m3]/ ρ[kg/m3]=No/ρ[個/kg]

をかけて1kg当たりの散乱断面積に換算します。同時にαを代入すると

・ σ[m2/kg]=σ[m2/個]・No/ρ[個/kg]

・ =128π5・[2(n-1)/No/4π]2/3λ4・No/ρ

ですから、結局、1kg当たりの散乱断面積の公式

・ σ[m2/kg]=32π3・[n-1]^2/[ 3Noρλ4]

が得られました。

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1.レ-リ-散乱係数と減光率

太陽光の放射強度Iは、大気中を通過する際に散乱されて減衰します。散乱体の密度ρ[kg/m3]と散乱係数σ[m2/kg]を用いると、地表での放射強度をIoとすると、高度zでの放射強度Iは

  • I=Io・exp{-∫σρdz}

と表せます。波長λの光のレ-リ-散乱係数σRは、古典電磁気学的には

  • σR=32π^3・(n-1)^2/3Noρoλ^4

と表せます(1871年)。ここでNo[個/m3]は空気の分子数、nは空気の屈折率(=1.000292@1atm,0℃)です。

  • ρo=1.22[kg/m^3] 標準状態での空気の密度
  • No=1.22[kg/m^3]・6.02×10^23[個]/28.964×10^-3[kg]=2.54×10^25[個/m^3]

空気の屈折率(n-1)の波長依存性はEdlenの式を用いました。波長が大きくなると屈折率と散乱係数σRは減少します。

分子量Mwに対して、理想気体の状態方程式より

  • ρ=MwP/RT=(Mw/RT)Po・exp[-z/H]=ρo・exp[-z/H]
  • I=Io・exp{-σR∫ρdz}=Io・exp{-σRρoH }

となります。ここでHは高さパラメ-タで、大気の厚さH=8kmとしました。減光率は

  • (Io-I)/Io=1-exp{-σRρH}

で求めました。減光率が小さいということは散乱され難いということです。

減光率は可視領域で波長が大きくなると、急速に減少します。近紫外領域(λ~0.3μm)では40%もの太陽光が失われます。青色光(λ~0.4μm)では30%、緑色光(λ~0.5μm)では12%、赤色光(λ~0.65μm)では4%、近赤外領域(λ~0.94μm)では1%しか失われません。様々な太陽高度と波長を考慮すると、大気に入射する平均太陽放射のうち13%がレイリ-散乱されているそうです。その半分が散乱光として地表面へ到達し、残り半分は宇宙空間へ放射されます。夕焼けのときは、8km以上の距離を太陽光が進むのでその間に青色光は殆ど散乱されてしまい、赤色光だけが届くことになります。

0.動物と植物の元素構成はどのようなものでしょうか?

ヒトは重量換算で61.5%が水分で、タンパク質は17%、脂質が14%、糖質が1.5%、ミネラルが6%です。C、O、Hの3元素だけで全質量の94%を占めます。体重70kgのヒトの場合、水分は42kgで、その中にO(37.3kg)、H(4.7kg)が含まれています。水分を除いたヒトの固形分にはC(16kg)、O(5.7kg)、H(2.3kg)、N(1.8kg)、Ca(1.0kg)、P(780g)の多量元素が含まれています。多量元素には筋肉や骨を構成する元素が多く含まれています。さらにS(140g)、K(140g)、Na(100g)、Cl(95g)、Mg(19g)の少量元素が含まれています。少量元素の多くは細胞の浸透圧を調整するアルカリ金属です。それ以下の微量元素にはSi(18g)、Fe(4.2g)、F(2.6g)、Zn(2.3g)、Cu(72mg)などがあります。SiとFの他に数十mgのRb、Sr、Br、Pbなどの非必須元素も含まれています。微量必須元素としてはFeとZnの量が多いことが分かります。これらはタンパク質と結合して代謝反応を促進する酵素として働きます。

典型的な植物は90%が水分で、10%が固形物です。植物の固形物の90%はC(40%)、O(40%)、H(4%)、N(4%)、P(1%)、S(1%)の6元素から成ります。残りはK(0.4%)、Ca(0.3%)、Mg(0.3%)で、その他は僅かです。植物は、デンプンやセルロ-スが多く、筋肉や骨がないから、殆ど炭水化物でできており、タンパク質に含まれるNやS、骨の元になるPやCaは少ないのです。S(硫黄)は土壌に比較的多く含まれているので、土壌に不足しやすいN、P、Kが肥料の三要素となっています。Caは細胞壁のペクチンに、Mgは葉の葉緑体に含まれています。Ca、Mgはミネラル肥料として施肥されます。

地球の海水が絶妙な量なのはなぜか?

地球上の海水量は、地球質量の0.02%であり、大陸を形成するのにちょうどよい水量になっています。生命が存在するには、プレ-トテクトニクス(大陸移動)が生じる必要があり、海水が今の半分になるとプレ-トテクトニクスが止まると言われています。海水が現在の2倍増えると、陸地が水没して、大陸から生命に必要な元素が風化作用で供給されなくなります。氷を含む彗星が地球に衝突すれば、地球は水没してしまうのです。地球の海水が生命誕生に必要な絶妙な量であったのはどのような偶然なのでしょうか?惑星への水の供給量はどのような条件で決まるのでしょうか?地球は太陽からちょうどよい距離にあるので、液体の水が存在できます。しかし宇宙空間には液体は存在できません。つまり惑星に水が供給される際には、必ず氷の形になっていなければならないのです。

地球への元素供給の問題
系外惑星に海をもつものはたくさんありますが、そこに生命のもとになる有機物が含まれているかを推定するのに、惑星への元素供給理論が必要になります。従来、地球の水や有機物の起源は隕石によるものであると説明されてきました。つまり木星の重力で小惑星帯の炭素質コンドライト隕石が飛来して、地球に水や炭素や窒素などの元素を供給したと考えられています。しかしそれで安心するのはまだ早いのです。なぜ小惑星帯に炭素や窒素などの元素が存在しているかはまだ説明できていないからです。こうしたCO2やNH3の軽元素は、100K以下の低温で凝縮します。天王星のある20天文単位以上離れた低温の場所でしか軽元素は惑星に取り込まれないのです。それらの軽元素が地球の近くまで運ばれたとしても、温度が上昇して蒸発するので、地球には取り込まれません。

井田教授の雪線移動説
雪線は水の凝縮する中心星からの位置です。現在の雪線は2.7天文単位はなれた小惑星帯にあります。氷塊は雪線の外側で存在可能です。井田教授は、雪線が地球の内側に移動して、地球に氷粒が供給されたと主張しています。有機物は氷粒とともに地球に降り注いだと考えています。氷粒に張り付いた有機物は紫外線の作用で複雑化して昇華点が上昇するからです。複雑化した有機物の凝縮線が地球に届いた可能性があるからです。

どうして雪線が移動するのでしょうか?
原始惑星系円盤のガスは中心星に吸い込まれていくので、円盤のガス密度は徐々に低下します。ガス密度が低下すると乱流発熱が低下して温度が下がります。中心星近傍のガス密度が高いと、中心星の光を遮るために、惑星の温度が下がりますが、中心星近傍のガス密度が低くなると、光が透過し、惑星の温度が上がります。このようにして雪線が移動すると考えられます。雪線が地球の近くにくると、地球の外側を回転しているガス中の水蒸気が凝縮し、氷ダストを発生させます。残りのガスは乾燥して地球に届くので、大量の氷ダストが一気に地球に降り注ぐことはありません。生じた氷ダストは小石サイズに成長し徐々に中心星に移動していきます。その一部が地球に取り込まれていったと考えています。

小石集積モデルとは?

井田教授らは、小石の生成を仮定した上で、メートルの壁を避けるために、小石集積モデルを検討しています。小石集積モデルは、膨大な数の小石が太陽の周囲を回転しながら徐々に太陽に近づいていく際に渋滞が生じて、小石とガスの密度に濃淡ができるモデルです。実際に系外恒星のガス円盤を観察すると同心円状の模様が観察されます。従来は微惑星の内側と外側の両方から小石が供給されるモデルでした。小石集積モデルでは、小石の密度が高い領域に微惑星が形成されると考え、小石は微惑星の外側から供給されます。小石が微惑星に降り注ぐことで微惑星が原始惑星に成長します。小石集積モデルは、小石同士の合体集積を仮定することなく、微惑星や原始惑星の成長を説明できる点が優れています。現在はそのような小石の渋滞が生じるのかを計算機シミュレ-ションで確かめています。

小石集積モデルの問題点は?
微惑星が原始惑星サイズに成長すると、大気を持つようになります。小石が大気圏に突入すると大気との摩擦で小石が蒸発するために、原始惑星には小石が供給されなくなる問題があります。
小石集積モデルでは原始惑星への成長速度が速いので、多くの原始惑星が残存ガスを吸い込んで成長します。しかし3個以上の巨大ガス惑星が形成されると、それらの軌道不安定性から、内側の巨大ガス惑星が落ち込み、反動で外側の巨大ガス惑星が系外に弾き飛ばされると考えられます。そうしたことが起これば、地球はひとたまりもないので、小石集積モデルは系外惑星を説明できても、太陽系は説明できないかもしれません。

グランドタックモデルは信じられるか?
グランドタックモデルは、ある初期条件の下で、木星が太陽に向かって動き、やがて現在の位置に引き返したというモデルです。このモデルは、火星が小さいことや小惑星帯があることを説明できます。つまり太陽系がある特殊な初期条件を満たしていたら、現在の問題を解決できるということです。井田教授は、「グランドタックモデルは太陽系の考古学だ」と言いました。つまりそのような可能性はあるが、特殊な初期条件を満たす確率は高いとは言えない、と考えているようです。このモデルは太陽系の惑星形成を普遍的な理論で解明する立場とは異なる立場をとっています。惑星形成理論は、普遍性と特殊性の両方を検討しなければならない面白さがあります。

そもそも小石ができる理由が分からない

これまでの惑星形成論では、小石と小石が万有引力で衝突してより大きな石になっていく過程を仮定してきました。しかし小石の形成や集積は自明ではありません。なぜなら小石間の万有引力は極めて小さいからです。確かに塵同士は静電気力で引き合い大きくなりますが、小石は帯電しないので静電気力は働かないのです。私は小石を含む氷塊同士が衝突するなら、圧力融解と氷結により合体する可能性があると思います。しかしそれだけでは太陽に近い惑星の形成を説明できません。

できた小石は太陽に落下してしまう

実はガスは小石より僅かに遅く太陽の周りを回転しています。つまり小石は向かい風を感じているのです。その結果、小石はガス抵抗を受けて速度が小さくなるから、軌道半径が小さくなるように思うかもしれません。しかし実際は、小石の軌道半径が小さくなるとき、速度は大きくなります。小石はガス抵抗のせいで次第に太陽に引き寄せられていきます。たとえ小石が集積するとしても、小石が1mサイズに成長する頃には太陽に落下してしまうのです。これでは惑星はできません。この困難は「メートルの壁」と呼ばれています。

小石の軌道半径が小さくなるとき、小石の速度が大きくなる理由は以下の通りです。中心星の質量をM、その周りを軌道半径aの円運動する小石の質量をmとすると
・  GmM/a^2(重力)= mV^2/a(遠心力)
が成り立つので、小石の速度は
・  V=root(GM/a)
となります。軌道半径aが減少すると、回転速度Vは増大することが分かります。

そのときの小石の全エネルギEを調べてみましょう。Eは
・  E=K(運動エネルギ)+U(ポテンシャルエネルギ)
で与えられます。小石の速度Vを代入すると、運動エネルギは
・  K=1/2・mV^2 = GmM/2a
となり、ポテンシャルエネルギUは
・  U=-GmM/a
ですから、小石の全エネルギEは
・  E=GmM/2a-GmM/a = -GmM/2a
となります。

軌道半径が⊿a(<0)変化すると、
・  ⊿K=-GmM/2a^2・⊿a (=-⊿U/2)>0
・  ⊿U=+GmM/a^2・⊿a <0
ですから、全エネルギ変化⊿Eは
・  ⊿E=⊿K+⊿U=-⊿U/2+⊿U(=⊿U/2)<0
となります。

すこし分かりにくいかもしれませんが、結局、小石がガス抵抗を受け、軌道半径が⊿a(<0)小さくなると、ポテンシャルエネルギは⊿U減少し、運動エネルギは-⊿U/2増加し、エネルギは⊿U/2減少します。減少した小石のエネルギはガスの温度上昇に使われます。

井田モデルとは?

井田教授が提案した寡占成長モデルは標準理論を発展させた惑星形成モデルです。井田モデルでは、1kmサイズの多数の微惑星が衝突して、地球の1/10サイズの原始惑星が一定の間隔で形成されます。やがて微惑星がなくなると、原始惑星同士の相互作用により、原始惑星が円軌道を保てなくなり、巨大衝突が起きて、地球や金星が誕生します。

井田モデルの問題点は?

井田モデルでは、惑星の岩石部の質量は距離に比例して大きくなっていきます。そうであれば地球の外側にある火星は地球より大きくなくてはなりません。モデルに基づいて計算機シミュレ-ションをすると火星の位置に地球より大きい質量の惑星が誕生します。しかし実際には火星は地球の1/10の質量しかないのです。また火星の外側には、地球より大きな質量の惑星がなければならないのに、そこには小惑星帯しかないのです。
また井田モデルでは、木星がガスにトラップされて、中心星のすぐ近くまで移動してしまう問題や、木星がガスを取り込み始めると僅か10万年で太陽に落下してしまう問題もあります。ガスの集積時間が軌道半径の3乗に比例するため、遠くの惑星ほどガスの集積時間が長くなります。木星がガスを集積する時間がガスの存在時間より長くなってしまう問題も生じます。それでも様々なシナリオのパーツを作っていけば、いつかは矛盾のない組み合わせが見つかると考えています。

ジャイアントインパクト仮説にも疑問点あり
巨大衝突による月の形成に関しても、新たな疑問が出ています。これまでティアと呼ばれる火星サイズの原始惑星が原始地球に衝突して、地球のマントルが飛ばされて、月ができたと考えられてきました。月の研究から、月の大部分は地球のマントルという岩石成分からなっていることが分かっています。計算機シミュレ-ションでも月の形成に成功しています。しかしこの仮説にも疑問が生じています。
宇宙線の作用により個々の惑星の酸素同位体比は異なります。よって原始惑星と地球でも酸素同位体比は異なるはずです。しかし2012年3月30日のNASAの発表では、これまでは月を構成している破片の約40%がティア起源だと考えられてきましたが、シカゴ大学のJunjun Zhang氏らの酸素同位体比の研究によれば、月のほとんどは原始地球の破片からなっていたと報道されています。この結果は衝突で両者が溶けて完全に混ざり合わなければ生じません。

従来の惑星形成モデルはどのようなものでしょうか?

従来の惑星形成モデルは京都大学の研究者が発展させました。これは太陽系形成の標準モデルと呼ばれています。標準モデルは金星や地球のような岩石惑星、木星や土星のようなガス惑星、天王星や海王星のような氷惑星が形成される様子とそれらが太陽の周りを円軌道で周回する様子をうまく説明できました。この標準モデルは円盤仮設と微惑星仮説に基づいています。円盤仮設とは、太陽質量の1%が円盤の質量であり、その99%は水素とヘリウムのガスで、残りの1%が塵であるというものです。微惑星仮説とは、円盤赤道面に沈殿したダスト層が割れてできた塊が、自重力で収縮して多数の小天体(1kmサイズの微惑星)を同時に形成し、それらが合体成長して惑星ができたというものです。回転するガスは常に円運動しているために、ガスを吸い込んでできた巨大惑星も円運動することになります。

どうして系外惑星には太陽系と異なるものが多いのでしょうか?
いくつか理由が考えられます。まず初期の円盤質量が標準モデルよりかなり大きいものがあるのではないかということです。これまで太陽系の再現を目標に研究されてきたので、初期の円盤質量が大きい場合は、殆ど研究されてきませんでした。円盤のガスは乱流状態なので殆どのガスは400万年ほどかけて中心星である太陽に吸い込まれます。但し一部のガスは角運動量をもらって外部に消え去ります。ガスが消失すると、成長した原始惑星同士は、重力相互作用により交差し、やがて衝突したり、跳ね飛ばされたりして、楕円軌道になったりするのです。系外惑星の発見により、惑星が軌道半径を大きく変えることが、頻繁に起こっていたと考えられるようになってきました。
ちなみに円盤の質量の殆どはガスの質量ですが、ガスは観測できません。円盤の大部分を占める低温(<100K)のダストが発するサブミリ波長帯の電波を電波望遠鏡で観測して、ダストの質量を求め、それを100倍したものをガス質量とします。なぜなら太陽ではガスはダストの100倍の質量をもつからです。

惑星形成理論は混迷の時代

井田教授のお話しでは、地球形成の問題は、新設が乱れ飛び、現段階では全く答えを出せない状況だそうです。私は半年前に井田教授が書かれた「惑星形成の物理(共立出版2015年)」という本を読んで、井田先生の学説を把握していましたが、この1年でさらに井田先生の考えは大きく変わったようです。とにかく解明しつくされたと思っていた古典力学の領域の問題でお手上げの状態が何十年も続いており、しかもそのことを殆どの人が知らない、という興味深い事態が起こっているのです。

系外惑星とは何でしょぅか?
近年、「系外惑星」と呼ばれる太陽系以外の惑星が次々と発見されています。その中に地球に似た惑星もいくつか見つかっており、大きな注目を集め、生命の存在が期待されています。天文学者が驚いたのは、系外惑星の多様な姿です。その多くは太陽系とかなり異なっていました。惑星形成理論は、太陽系だけでなく、太陽系以外の惑星形成をも説明できるものでなければなりません。また地球が形成されたときに生物の原料である元素はどのように地球に供給されたのかを説明しなければなりません。

そもそもなぜ最近になって、惑星が見つかってきたのでしょうか?
1995年に最初に発見された系外惑星はペガサス座51番星bでした。これは中心星のすぐそばを周回する木星より大きい巨大ガス惑星でした。銀河系にある中心星の前を惑星が通り過ぎると、中心星の明るさが数十日間で変化するので観測できたのです。当時は誰も巨大ガス惑星が中心星のすぐそばを周回しているとは思いもしませんでした。例えば木星は地球の5倍以上も太陽から離れているので、太陽の僅かな光の変化を捉えるのは容易ではありませんでした。運よく惑星が太陽の前に横切ってくれるとは限りませんし、木星なら太陽の前を横切るのを待つのに12年(公転周期)以上かかります。だから誰も系外惑星を観測しようと思わなかったのです。しかし一度系外惑星が観測できることが分かってくると、次々に見つかり、観測精度の向上により、今では4000個もの様々な惑星が見つかっています。

典型的な系外惑星は?
系外惑星は、数個の岩石惑星のみからなる場合、2個の巨大ガス惑星のみからなる場合が半分を占め、残りは、岩石惑星と巨大ガス惑星が入り混じって存在する惑星群であることが分かってきました。また系外惑星には楕円運動しているものが数多くあります。

「地球はどのようにしてできたか」

新宿の朝日カルチャ-センタで、東工大の地球生命研究所の井田茂教授が「地球はどのようにしてできたか」というタイトルで講演を行いました。観客は40名のシニア層です。井田教授のご専門は惑星形成の理論です。これは、太陽のような中心星の周りに円盤状に分布・回転している気体(ガス)と塵(ダスト)がどのように集積して多様な惑星が形成されたのかを説明する理論です。現役の教授から研究の最前線のありのままの様子を伺うよい機会になりました。

新宿駅まで一緒に帰る途中でお話をしました。最近のシニア層は文系の大学に入る人が増えているが、理系の大学にも来てほしいそうです。学生さんは大量の天体デ-タを深層学習の人工知能で解析しているそうです。そんな時代に果たしてシニア層がなじめるかは分かりません。

PL先生のサイエンス倶楽部「地球の空気はどうやってできたの?」

9月29日に甲府のコミュニティ・カフェ・へちまで開催された子ども向けのサイエンス・セミナ-に参加しました。タイトルは、第11回PL先生のサイエンス倶楽部「地球の空気はどうやってできたの?」です。参加費は1ドリンク付きで、大人800円、子供500円です。講師の中村安志さんバイオ系企業研究所で勤務していた方で、今は甲府で学習塾を営んでいます。ご専攻は宇宙生物学です。参加者は、子ども7人、大人12人でした。

中村さんは留学先のカルフォルニアで日本人向けの学習塾をご夫婦でやっていた経歴があります。月に1回、先端科学について、子どもたちにセミナ-を行っています。「科学との出会い」を通じて、「夢」や「あこがれ」をもって、「自分の未来」を考え、実現する教育を目指しているそうです。

セミナ-ではパワ-ポイントを使って、2時間のプレゼンテーションをしました。声が大きく、一つの紙に一つの文章のシンプルな発表をしていました。子どもたちに問いかけたり、知識の合間にエピソ-ドを入れて、飽きさせない工夫をしていたので、子どもたちは長い時間よく話を聞いていました。大人からの質問にも真摯に答えていました。

学校では習わないサイエンスの面白い話を上手に伝えていました。地球史について講演ができる科学者はとても少ないです。ましてそれを子どもたちに話して聞かせる人が、日本にいるとは驚きでした。

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