社会的ジレンマを解決する方程式?

最近、テレビ番組では、地球温暖化の問題がよく取り上げられています。一般に地球温暖化などの環境問題や公共財の供給問題など、社会的ジレンマを含む問題が解決できないのは、全体にとって有益であっても、個人にとって不利益な行動は実現しにくいからです。しかし全体社会の中の小集団の支持者や利益を分析することで、政策を社会全体に浸透できる可能性があります。近年、社会的な政策は、個別地域に不利益があっても、全体的な政策支持の傾向があれば、実現可能かもしれないと考えられるようになりました。全体的な政策支持の傾向とは何でしょうか?具体的な数理モデルで考えてみましょう。

が得られます。ここでCovは小集団の人数niで重みづけた共分散です。〈xi 〉平均は小集団の人数niで重みづけた平均です。つまり共分散が正で、利得差を凌駕すれば、全体の政策Aの利得は政策Bより大きくなることが示されます。つまり法律や道徳的圧力がなくても、人々が徐々に政策Aを支持する可能性があります。但し小集団間でxiやuiのばらつきがある程度以上ないと、政策の誘導は難しくなる、というところが面白いですね。

プライス博士(George R. Price)は、無神論者で理論的に利他行動の可能性を追求してきたのですが、晩年はキリスト教に帰依して、ホ-ムレスに自分の財産を分け与えるなど利他行動を実践しました。1970年に進化生物学の基本方程式を発見し、1975年53歳のときにうつ病で自殺をしてしまいます。理由はお金がなくなってホームレスを助けることができなくなったから。追悼式に参列したのは、ビル・ハミルトン博士とジョン・メイナード=スミス博士と数人のホ-ムレスだけでした。オレン・ハ-マン教授が「THE PRICE OF ALTRUISM」(利他主義の対価)というプライス博士の伝記を書いています。最後に公式の証明を書いておきましょう。

恐竜博2019が開催中

恐竜博2019が10月14日まで上野の国立科学博物館で開催されています。入場料は大人1600円、高校生以下は600円です。世界で初めて、謎の恐竜デイノケイルスの実物化石と全身復元骨格が公開されています。北海道のむかわ町で発掘されたカムイサウルスの実物化石と全身復元骨格も展示されています。金曜のお昼でもチケット売り場には15分の行列ができていました。常設展ではトリケラトプスやスミロドンの全身復元骨格などを見ることができます。

恐竜博の見学者は男女同数でした。女性も恐竜に興味をもっているのは意外でした。小さい子ども連れの人もいました。子どもたちに、珍しいもの、驚くべきもの、美しいものを見る機会を与えることは、自然や動植物に対する好奇心を育てます。好奇心は学問の種です。なぜなら好奇心をもって触れると、色々な疑問を持ち、想像を巡らせるようになるからです。

小学生の男の子がテーブルに置かれた恐竜の歯を触っていました。隣にいた私はその子に「恐竜の歯はなんで黒いのだろうね?普通、歯は白いでしょう?」と尋ねてみました。それを聞いていたお母さんが感心して、息子に「なんで恐竜の歯は黒いのかしらね?」と聞いていました。もちろんその答えは「その歯は化石だから」です。恐竜の頭蓋骨には、ヒトには見られない、いくつかの大きな穴があります。どうしてなのでしょうか?展示物をよく観察して、小さな疑問を持つこと。これが展示会を楽しむコツです。家に帰って調べてみると、多くのことを学ぶことができます。

フルボ酸鉄でアサリ再生

「森は海の恋人」という本があります。筆者は気仙沼湾の牡蠣漁師の畠山重篤さんです。畠山さんは、海の生物に栄養を供給している森の重要性に気づき、気仙沼に注ぎ込む大川流域の森林形成に尽力してしました。彼は講演会で、広葉樹の葉から生じたフルボ酸が岩から鉄を溶かし込むこと、フルボ酸鉄は川で運ばれ、海藻や貝を育むことを説明していました。

沈没船の周囲に海藻や魚が多いのは鉄が供給されるからだと言われています。しかし通常鉄は海水で酸化され沈殿してしまうので、海藻は鉄を利用できません。フルボ酸鉄は水溶性の2価の鉄Fe2+を供給するので、珪藻は鉄を吸収できます。鉄は珪藻細胞の呼吸系に必要なシトクロムの原料になります。海藻には川からくるフルボ酸鉄が必要であり、海藻を食する貝類や、海藻を住処とする魚を育てます。

 ダムは、飲料水や産業水や電力確保のために建設されますが、森から供給される栄養を堰き止めてしまうため、下流の海は生き物の少ない海になってしまいます。不必要なダムは撤去しなければなりません。しかもダムの底には泥が溜まり、ダムの保水量は低下しています。日本の汚泥の蓄積量は15億m3、廃棄処理費用は14兆円以上と見積もられています。ダムの底泥を安易に山に引き上げると、大雨で流れて大規模な土砂崩れを引き起こしてしまいます。底泥の処理は頭の痛い問題です。

 ダム底泥には有機栄養物とフルボ酸が豊富に含まれています。佐賀大学の兒玉宏樹教授らは、底泥からフルボ酸を取り出し、フルボ酸鉄を用いて海藻の養殖に取り組んでいます。福岡大学の渡辺亮一教授は、木屑と下水汚泥(または食品廃棄物)の発酵処理品と水処理剤として使用されているシリカ・鉄水溶液を混合し、2次発酵させ、安価なフルボ酸鉄シリカのペレット資材を開発しました(特開2018-143907 )。シリカは珪藻にケイ素を供給するために含まれています。そのペレット資材を袋に詰めて海のヘドロの干潟に設置したところ、珪藻が増え、それを食するアサリが顕著に増加し、ヘドロが分解することが確かめられました。

アサリは、濾過摂食者であり、成貝の濾水量は1個体で10L/日と多く、水質浄化と漁獲回復の双方を狙った干潟再生が期待されています。アサリの収量はかつての20万トンから1.4万トンに減少しています。

循環式養液栽培ではアレロパシ-が問題

養液栽培(水耕栽培)とは
近年、安価で高効率なLED光源が利用できるようになり、植物工場では、天候や病虫害の被害に遭いやすい葉野菜(レタス)や果物(イチゴ)などが養液栽培で育てられています。養液栽培は無農薬で栽培できる利点があります。しかし養液栽培では、作物の成長が滞り、収量が低下する問題がありました。これは、成長阻害物質が養液に蓄積し、作物の成長を阻害するからです。従来は定期的に養液を廃棄して、新しいものに交換していました。しかしこれは環境負荷や経済的損失を与えます。活性炭を投入し、成長阻害物質を吸着する方法が提案されましたが、活性炭のコストや使用後の回収・処理について実用的に問題がありました。

鉄のキレート剤とは
作物の成長には、微量の鉄分が必要です。FeSO4などを投入しても、水中の鉄分は酸化・沈殿してしまい植物は利用できません。養液栽培用の鉄養分には、鉄エチレンジアミン四酢酸(=Fe-EDTA)という鉄のキレート剤が用いられています。EDTAはエチレンの両端にある窒素にそれぞれ2つの酢酸(CH3COOH)が付加した構造を有しています。COOH基を多く含む有機物は、金属イオンを捕獲することができます。鉄FeはEDTAの2つの窒素と4つの酸素(=COOH基中のOH基の酸素)に取り囲まれた構造をしています。自然界では、Feをキレ-トしたフルボ酸の形で鉄分が供給されています。EDTAが用いられるのは、それはフルボ酸よりずっと単純な構造をしているので合成が容易だからです。

直流電気分解法(特許第5177739号)とは
2007年に島根大学の浅尾俊樹教授は、養液に直流電流を流し、成長阻害物質を電気分解して、養液栽培作物の収量低下を防止する手法を提案しました。正極にはフェライト(酸化鉄)の棒、負極にはチタン板が用いられています。電圧は10V、電流は0.6A程度です。養液中の微生物が分解する安息香酸は20%未満であるのに対し、一日の通電で80%以上の安息香酸が分解します。
しかしその栽培方法では、電気分解で鉄のキレート剤が分解してしまうので、電気分解を行った後に養液を補充しなければなりませんでした。また通電により培養液の温度が10℃程度上昇し、根が腐敗し易くなるとともに、電気分解を続けることで負極に、リン、鉄やカルシウム等が析出という課題がありました。

交流電気分解法(JP2016-208862)とは
2016年に浅尾教授は、交流電気分解法を提案し、培養液中の成長阻害物質(特に安息香酸)を電気分解することによって、培養液の温度上昇を抑えつつ、培養液中の養分の分解を防止することに成功しました。

交流電気分解法の実験結果
イチゴの養液栽培実験に用いた交流は電流値2A、電圧14V、周波数500〜1000Hzです。家庭用交流の10倍~20倍の周波数にするのがポイントです。2〜3週間に一度、24時間以上電気分解することにより、培養液に蓄積される成長阻害物質の濃度上昇を防止できます。500Hzでは温度上昇はありませんが、1000Hzでは4℃上昇します。安息香酸の濃度は24時間の直流通電で33%減、交流通電で100%減少しました。通電による電気伝導率やpHの変化はありませんでした。直流通電では鉄とカルシウムなどミネラルの減少が見られましたが、交流通電ではミネラルの減少がなく、直流通電法より20%の増収が得られました。

アレロパシ-と連作障害

アレロパシ-とは
アレロパシ-(Allelopathy)は植物が分泌する化学物質によって近隣植物の発芽、成長、結実などの生理現象を抑制する他感作用のことです。これは1937年にオーストリアの植物学者ハンス・モーリッシュにより提唱された用語です。多くの植物は、自種群落を拡大させるために、根から成長阻害物質を分泌して、他の植物の侵入を妨げています。成長阻害物質に対する感受性は植物種によって違います。

連作障害とは
連作障害は同一作物を連続して栽培すると収穫量が低下する現象です。その原因は、栄養供給の不足、ウィルスや微生物や土壌線虫の感染、化学物質、土壌の物理的変化などの影響など多岐にわたり、作物毎に違っています。化学物質は植物自身が分泌する成長阻害物質と他生物残渣の分解産物によるものがあります。アレロパシ-は連作障害の大きな一因になっています。

様々の成長阻害物質
作物の成長阻害物質としては、パセリではアジピン酸、セロリでは乳酸、イネではモミラクトン、ミツバではコハク酸や安息香酸、レタスではパニリン酸や安息香酸、葉ゴボウではコハク酸、春菊やチンゲン菜やケ-ルでは安息香酸やパラヒドロキシ安息香酸やコハク酸があります。被覆植物のヘアリーベッチは根からシアナミド、クルミは葉や根からユグロン、サクラは葉からクマリンを出します。桜餅はクマリンの抗菌作用が用いられています。アレロパシ-は、除草剤や病害抑制剤への利用の観点から、注目されています。またコンパニオン植物は、アレロケミカルを用いて、相互に成長を促進したり、他植物の侵入を防ぐと言われています。

安息香酸(Benzonic acid)とは
安息香酸はベンゼン環にCOOH基が付加した構造をしており、マーガリンや清涼飲料水や醤油に保存料として用いられています。安息香酸は、植物の成長ホルモンであるオ-キシンの作用を阻害するため、イチゴ、レタス、トマト、ナス、キュウリ、ピーマン、ホウレンソウ、コマツナなど幅広い作物でアレロパシ-効果が確認されてます。

アレロパシ-物質や活性の測定方法
プラントボックス法は寒天中で植物を混植し、根から出る物質を検定する方法です。サンドイッチ法は葉から出るアレロパシ-の程度を評価する方法です。これは寒天の培地で、乾燥粉砕した植物の葉などの試料を挟み、培地の上に検査する植物の種を播き、種子根の伸長抑制程度から判定する方法です。

ブナ科13種の葉の水抽出物がレタスの根の伸長をどれだけ阻害するかをサンドイッチ法で調べた結果があります(藤井義晴:農業環境技術研究所)。阻害の程度は、アベマキ(85%), クリ(56%), コナラ(50%)、アカカシワ(40%)、クヌギ(37%)、トチュウ(34%)、ウバメガシ(32%)、アラカシ(28%)、イヌブナ(24%)、アカガシ(19%)、スダジイ(-4%)、ブナ(-7%)、マテバシイ(-9%)。これらを見るとアベマキにはやや強い阻害作用がありますが、ブナやシイの葉は殆どレタスの根の伸張を抑制する作用をもっていません。しかし、ブナ自身の芽生えの成長に対するブナ葉の水抽出物の効果はまだ調べられていないようです。


自家中毒現象
アレロパシ-で面白いのは自家中毒現象(Autotoxication)です。自家中毒現象は、植物の密度が高くなると、他の植物の成長を抑制する物質が自植物の成長をも抑制してしまう現象です。植物は、自種を繁殖させるために、種を遠くに拡散させる様々な手法を発展させてきました。しかし多くの種は親植物の生育地点に留まります。もしそれらの種が発芽して成長すると、親植物の生存を脅かしてしまいます。植物が根から成長阻害物質を出す理由は、自分の種が傍で発芽しないように、自分の身を守るためと考えられます。つまり本来アレロパシ-は攻撃策ではなく防御策ではないか、という考え方です。 種を遠くに飛ばせない植物は、成長阻害物質を分泌し、種を遠くに飛ばせる植物は、成長阻害物質を分泌しないと考える専門家もいます。