ACE2はどのような受容体でしょうか?

ACEとはアンジオテンシン変換酵素(Angiotensin Converting Enzyme)のことです。「Angio」とは「血管の」という意味です。ACEはRAAS(レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系)という血圧制御システムにおいて、血中のアンジオテンシンⅠをアンジオテンシンⅡに変換する酵素です。アンジオテンシンⅡは血管の内皮細胞のAT1受容体に結合して血管を収縮させ、血圧を上昇させます。高血圧の人はACE阻害薬を処方されます。 

ACE2はアンジオテンシンⅠやⅡをアンジオテンシン1-7に変換する受容体です。血中のアンジオテンシン1-7は血管の内皮細胞のMas受容体に結合して血管を拡張させ、血圧を下げます。ACE2はACE阻害薬によって抑制されません。ACE2活性化剤としてはオルメサルタンがあります。

レニンというのは腎臓から分泌されるタンパク質分解酵素で、肝臓から分泌されるアンジオテンシノーゲンというタンパク質(452個のアミノ酸)を10個のアミノ酸からなるアンジオテンシンⅠに分解する作用があります。アルデステロンとは副腎皮質から分泌されるホルモンで腎臓の尿細管でNa+とH2Oの再吸収を促します。これによって血圧が上昇します。高血圧で心機能が弱ると、腎臓の血流量が低下するので、RAAS機構が働いて血圧が上がり、副腎髄質からアドレナリンが分泌されて心拍数が上がるので、心臓に負担がかかります。血管、腎臓、心臓に基礎疾患のある人は、血圧を下げる薬を処方されます。呼吸器疾患のある人、健康な人でも喫煙習慣のある人はACE2受容体の発現リスクが増します。

新型コロナウイルスはどのようにして細胞内に侵入するのでしょうか?

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の受容体はACE2である事は広く知られていました。最近の論文ではACE2の他にCD4、CD147、GRP78の受容体も報告されています。

ACE2は十二指腸、小腸、胆嚢、腎臓、精巣に高く発現しており、副腎、結腸、直腸、精嚢に低く発現しています。ACE2は血圧調節以外に、サイトカイン等の炎症促進物質の抑制、耐糖能の正常化、腸でのアミノ酸の吸収などの働きをしています。高血圧、血管炎症、高血糖、胃腸障害などの基礎疾患がある人はACE2受容体の出現が増加するために、新型コロナウイルスに感染しやすくなると考えられます。新型コロナウイルスにより、ACE2が極度に減少すると、高血圧、急性肺不全、血管の炎症亢進、耐糖性能の悪化、腸障害などの症状がでて、重篤化すると考えられます。このACE2受容体は、炎症を起こし激しい咳き込みを繰り返した時などに多く肺胞細胞表面に発現すると言われています。そのためリコンビナント(組み換え)ACE2の投与実験がマウスにおいて研究されています。大量生産しやすいバクテリア由来ACE2様酵素も症状への効果が期待されています。

新型コロナウイルスが上気道(鼻腔、咽頭、喉頭)に留まっているうちは、ただの軽い風邪です。上気道のACE2密度は低いと言われています。この間は、自然免疫を担うNK細胞(ナチュラルキラー細胞)とウイルスの戦いにより、一週間程度の発熱が続くと考えられています。ウイルスに感染すると発熱するのは、体温を上げてウイルスの活性を低下させるために、血管を収縮させて放熱を下げるような対抗システムが備わっているためです。

肺胞の毛細血管の内皮細胞がACE2受容体を介してウイルスに感染すると、その情報が伝達されて毛細血管の平滑筋細胞が収縮し、体温が上がります。体温が上がると白血球が活性の低下したウイルスを活発に貪食します。ウイルスが消滅すると、体温が回復します。

1918年に流行したインフルエンザでは、感染した米軍兵士がアスピリンを大量に服薬して、症状を重篤化させました。アスピリンは血管を拡張させて頭痛を除去する薬です。血管が拡張すると肺胞に水が溜まり、細菌感染を併発して、多くの人が亡くなったと言われています。流行の第二波ではインフルエンザの変性も生じて、感染率が高くなったと言われています。

新型コロナウイルスが下気道(気管支、肺胞)に拡散すると、自覚症状なく急性肺炎になるので、感染が疑われたら肺のCT画像を撮る必要があります。

CD4(Cluster of Differentiation 4、分化酵素群4)はT細胞、マクロファ-ジ、樹状細胞などの免疫細胞に発現するタンパク質受容体です。CD4はT細胞の分化、B細胞による免疫グロブリン合成の誘導・促進の作用があります。CCD4はインタ-ロイキン(IL)によってTh1、TH2、Th17のヘルパ-T細胞に分化し、それらは各種のインタ-ロイキンやイエンタ-フェロンなどのサイトカインを放出し、細胞内の細菌、寄生虫、細胞外の細菌を攻撃します。しかしそれらのサイトカインが過剰に分泌されると、炎症性疾患、アレルギ-、自己免疫性疾患を生じさせる問題があります。エイズウイルスはCD4受容体から感染するので、免疫系を破壊していまいます。血液1μLあたりのCD4数が200個以下になったHIV陽性患者はAIDSと診断されます。免疫不全になったエイズ患者は弱い細菌に感染して肺炎などで死んでしまいます。新型コロナウイルスはCD4受容体から感染し得るので、免疫系の破壊やサイトカインの過剰分泌を引き起こし、病状が重篤化します。

CD147は、Basiginとも呼ばれるタンパク質受容体で、上皮細胞、がん細胞、活性化されたT細胞に発現しています。免疫が活発になるほどリンパ球が感染して減少するので、がん患者の肺炎が急速に進行します。

GRP78 (Glucose-Regulated Protein)あるいはBiP(Binding immunoglobulin Protein)は、インフルエンザ、エボラウイルスの受容体でもあります。GRP78は細胞内の小胞体に分布しており、タンパク質の折り畳み、癌細胞増殖の阻害、炎症の解消の機能を担っています。新型コロナウイルスがGRP78を介して感染すると、GRP78の機能が障害を受け、肺炎、臓器不全、癌などが進行します。

インフルエンザウイルスはどのようにして細胞内に侵入するのでしょうか?

インフルエンザウイルスはヘマグルチニン突起を感染する細胞の表面にある受容体に結合させて細胞内に侵入します。インフルエンザウイルスの場合、シアル酸 (sialic acid)で終端された糖タンパク質が受容体になります。シアル酸 (sialic acid、C11H19NO9) は、ノイラミン酸 (neuraminic acid) の一種で、ピルビン酸とアミノマンノ-ス(単糖)が結合した物質で、細胞の認識機能を担っています。

60年前にシアル酸に修飾された糖タンパクが受容体であることは分かりましたが、どの糖タンパクであるかは分かりませんでした。2018年に北大の大場雄介らが、シアル酸に修飾された電位依存性Ca2チャネルがインフルエンザウイルスの受容体であることを突き止めました。

 インフルエンザウイルスが電位依存性Ca2チャネルに結合すると、細胞内部のCa2濃度が上昇し、細胞表面のpH(水素イオン濃度)が低下します。pHが低下すると、ウイルスと細胞の融合が生じて、エンドサイトーシス機構によりウイルスが細胞内部に取り込まれます。Ca2+チャネル阻害薬(カルシウム拮抗薬)を与えると、後期エンドソームに存在するインフルエンザウイルスが60%減少し、感染マウスの回復も認められています。

問題はカルシウム拮抗薬には低血圧の副作用があること、経口投与では肺や気道に薬剤が供給できないことです。ドラッグデリバリー技術を開発し、チャネル自体の機能は抑制せずにウイルスのHAとチャネルとの結合を阻害する薬剤を開発するのが理想的です。

ウイルスが感染する場合には、ウイルスのヘマグルチニンの先端部がプロテアーゼによって開裂されて、細胞の受容体に結合するという学説があります。ウイルスは周囲にいる細菌が放出するプロテアーゼの助けを借りていることになります。深くうがいをすると細菌とウイルスのマイクロ飛沫が気管支や肺にまで届く可能性があります。うがいをする場合は、歯磨きにより口の中を減菌してから、うがいをした方がいいかもしれません。

インフルエンザにはどんな種類があるでしょうか?

A型インフルエンザウイルスには、ヘマグルチニン(HA:Hemagglutinin)とノイラミニダーゼ(NA: Neuraminidase)の2種類の突起(スパイク)状のタンパク質があります。B型インフルエンザウイルスにもHAとNAがありますが、それぞれ1種類しかありません。C型インフルエンザウイルスにはヘマグルチニンエステラーゼ(HE)しかありません。流行を起こすインフルエンザウイルスはA型とB型で、C型は軽いかぜ症状のみです。

HA(ヘマグルチニン)は感染しようとする細胞に結合し、ウイルスを細胞の中に取り込む役割をします。NA(ノイラミニダーゼ)は、感染した細胞とHAの結合を切って、複製されたウイルスを細胞から放出させる役割を持っています。タミフルはNAを阻害して、ウイルスを細胞から外に出さないようにする薬です。

A型インフルエンザウイルスのHAには16種類(H1~H16)、NAには9種類(N1~N9)あり、この組み合わせによりA型インフルエンザウイルスにはH1N1~H16N9の144種類の亜型が存在します。ヒトインフルエンザの亜型にはH1N1(スペイン風邪1918年、2009年)、H2N2(ロシア風邪1957年)、H3N2(香港風邪1968年)、H5N1(鳥から人へ感染)、H7N9(鳥インフルエンザ2013年)などがあります。

A型インフルエンザウイルスの宿主と亜型

新型コロナウィルスのPCR検査の検出感度は70%程度だと言われるのはどうしてでしょうか?

PCRのような最先端の遺伝子分析機器の感度が70%というのは考えられないことです。PCR測定の精度は高くても、検体の採取量、採取時の汚染、保管温度、保管時間、RNA精製や測定装置による汚染など、種々の条件によって、測定精度が低下することはあります。こうした前工程の影響を考慮してもPCR検査自体の感度は95%程度はあるはずです。しかし陽性率10%の場合、PCR測定の感度が95%あっても、陽性的中率は68%にしかなりません。医者が新型コロナウィルスのPCR検査の検出感度は70%程度だと言うのはそういう理由だと思われます。陽性率5%以下の場合、PCR測定の感度が95%あっても、陽性的中率は50%以下になってしまいます。つまり入院患者の過半数が非感染者になります。

PCR検査が有効になるのは、陽性率が10%を超えた感染状況の場合です。保健所が、感染者数が少ない初期の状況でPCR検査数を増やしたがらないのは、現行のPCRの精度では陽性的中率が低く、短期間に病床を2倍以上用意するのが困難であり、医療関係者の負担が増えるからなのです。抗原検査キットの陰性感度は98%以上あると言われています。もしそうならば感染拡大の初期段階では高感度の抗原検査キットを使って、感染の有無を確かめるのが有効です。こういう話をきちんと国民に説明するのが感染研究所、保健所、メディアの責任ではないかと思います。

陽性的中率という言葉をご存じでしょうか?

陽性的中率とは、検査を受けて陽性と判定された人の内、本当に陽性である人の割合です。検査数1000人で陽性率10%の事例を考えてみましょう。陽性者は100人、陰性者は900人います。陽性感度90%、陰性感度90%の検査の場合に陽性的中率を計算しましょう。陽性感度90%ということは、陽性者100人の内、陽性判定を受ける人は90人だという事です。残りの10人は偽陰性者、つまり陽性なのに陰性判定を受けた人、となります。ややこしいですね。ちなみに陰性感度は専門的には特異度と呼ばれます。

陰性感度90%ということは、陰性者900人の内、陰性判定を受ける人は810人いるということです。残りの90人は偽陽性者、つまり陰性なのに陽性判定を受けた人、となります。下表を見て下さい。ピンク色が陽性者、水色が陰性者を表しています。

陽性判定を受けた人は、真の陽性者90人と偽陽性者90人の合計180人となります。陽性判定率は0.18(=180人/1000人)となり、真の陽性率0.10より大きくなります。陽性的中率は0.50(=真の陽性者90人/陽性判定者180人)となります。入院患者の半分はコロナウイルスに感染していないことになります。

 陽性感度95%、陰性感度95%の場合では、陽性的中率は0.68(=真の陽性者95人/陽性判定者140人)となります。10人の患者さんの内、感染していない3人が病床を占有してしまいます。陽性的中率が低い原因は、元々陰性者が多いので、陽性判定される陰性者が大量にでてしまうためなのです。陽性的中率を上げるのは、陰性感度をあげなければなりません。ちなみに陽性感度95%、陰性感度70%の場合、陽性的中率は0.26となります。陽性判定者4人の内、3人は陰性者になってしまいます。陰性感度が98%になれば、陽性的中率は0.83となります。

検査数1000人で陽性率5%の感染初期の事例を考えてみましょう。陽性感度95%、陰性感度95%の場合でも、陽性的中率は0.50になってしまいます。

 下図に陰性感度が0.95と0.98の場合の陽性的中率の陽性率依存性を示します。陽性感度は95%としました。感染初期の陽性率が5%以下の状態では陽性的中率は低く、陽性率に比例して増加します。陽性率が10%を超えると陽性率は70%~80%になります。PCR検査が有効になるのは、陽性率が10%を超えた感染状況の場合です。陽性感度が98%を保証できるのであれば、陽性率5%でも70%に近い陽性的中率が得られます。

新型コロナウイルスのプライマー・プローブ配列

島津製作所の試薬キットでは、米国の感染症センターの「2019-Novel Coronavirus (2019-nCoV) Real-time rRT-PCR Panel Primers and Probes」に記載された新型コロナウイルスの核カプシド(Nucleocapsid)を構成するN遺伝子の2か所(N1、N2)の部分を検出するプライマーとプローブが含まれています。プライマーは3’端にOH基を有し伸長起点となりますが、プローブは3’端がブロックされているため伸長できないようになっています。

N1 順方向プライマ-  :5’-GAC CCC AAA ATC AGC GAA AT-3’(20mer)

N1 逆方向プライマ-  :5’-TCT GGT TAC TGC CAG TTG AAT CTG-3’ (24mer)

N1プロ-ブ:5’-ROX-ACC CCG CAT TAC GTT TGG TGG ACC-BHQ2-3’ (24mer)

N2順方向プライマ-    :5’-TTA CAA ACA TTG GCC GCA AA-3’(20mer)

N2逆方向プライマ-   :5’-GCG CGA CAT TCC GAA GAA-3’ (18mer)

N2プロ-ブ:5’-FAM-ACA ATT TGC CCC CAG CGC TTC AG-BHQ1-3’(23mer)

プライマーのTm値は通常55~65℃に設定し、効率的、特異性の高いPCR増幅をめざします。GC含有率は40~60%とし、結合を促進するため3’端はCもしくはGにします。専用ソフトを使ってプライマー内部の二次構造形成を避け、GCリッチ領域とATリッチ領域の分布バランスを取ります。4個以上の連続した同一塩基の配列や繰り返し配列を避け、片方のプライマー内部での3塩基以上の相補的配列や1対のプライマー間での相補的配列は避けます。

プライマーの3’末端側の約8塩基は酵素が結合して伸長反応をプロモートする領域であり最も特異性が求められます。また、5’末端領域は、Tm値と特異性を高める領域として利用します。FAMは緑(515~530nm)、ROXはオレンジ(610~650nm)、Cy5は赤(675~695nm)です。

島津は生体試料からRNAの精製工程を取らずに、直接RT-PCR測定を行うことができるAmpdirect Technologyを開発しました。生体試料に含まれるタンパク質等の正電荷物質は鋳型DNA/RNAに、ある種の糖や色素等の負電荷物質はDNAポリメラーゼに吸着し、PCRを阻害します。Ampdirect中和液にはこれらの物質を抑制する働きがあるので、生体試料から直接RT-PCRが可能になります。

85分で96検体の同時のリアルタイムRT-PCR分析が可能です。

リアルタイムPCRでサンプル中の標的DNAの濃度を求める方法

リアルタイムPCRでは、DNAの増幅量を常時検出して解析する方法であり、迅速性と定量性に優れています。分析にはサーマルサイクラーと分光蛍光光度計を一体化したリアルタイムPCR装置を用います。増幅するPCR産物量をサイクルごとに蛍光物質で標識し、その蛍光強度を測定することで増幅曲線を作成します。初期の DNA 量が多ければ多いほど、増幅するPCR産物量が検出可能な量に達するまでのサイクル数が少なくて済むため、より少ないサイクル数で増幅曲線が起き上がっていきます。

リアルタイムPCRによる定量の原理を下図に示します。段階希釈した既知量のDNA標準資料のPCR解析を行います。初期の DNA 量が多いサンプルから順に等間隔で並んだ増幅曲線が得られます。これをもとに、増幅が指数関数的に起こる領域で一定の増幅産物量になるサイクル数Ct値(Cycle threshold)を横軸に、初発のDNA量を縦軸にプロットし、検量線を作成します。 未知濃度のDNAサンプルについて、同じ条件下でPCRを行い、Ct値を求めます。このCt値と検量線から、サンプル中のDNA濃度を推定します。

TaqManプローブ法とは

新型コロナウイルスのPCR検査には主にTaqManプローブ法による定量RT-PCRが用いられています。TaqManプローブ法は、DNAプローブの5’端に蛍光色素(Reporter)、3’端に消光色素(Quencher)を結合させた蛍光標識されたDNAプロ-ブ(TaqManプロ-ブ)を用いる方法です。一本鎖のDNAの標的配列の3’端側に前方プライマ-、5’端側にTaqManプローブが結合します。アニ-リング段階でPCRプライマ-の伸長反応が進むと、Taqポリメラ-ゼ(DNA合成酵素)が移動して、TaqManプローブに接触します。Taqポリメラーゼの5’→3’エキソヌクレアーゼ活性によりTaqManプローブが加水分解され、塩基がバラバラになります。その後PCRプライマ-の伸長反応が進み、後方プライマまでDNAが合成されます。レポーターとクエンチャーの距離が離れるので蛍光シグナルが発せられます。蛍光強度を検出することで標的配列の複製量を推定できます。プローブの消光作用は双極子-双極子機構によるFRET quenchingです。消光距離は1~10nmで分子同士の接触は必要ありありません。

TaqManプローブ法はプライマー二量体の非特異的な検出がない利点があります。複数のプローブに別の蛍光物質を標識しておけば、マルチプレックス解析を実行できます。

FRETプローブ法

  FRETとは、蛍光共鳴エネルギー転移(Fluorescence Resonance Energy Transfer)のことです。目的mRNAに特異的な2本のオリゴヌクレオチドのうち、一方の3’末端に蛍光物質A、もう一方の5’末端に蛍光物質Bが修飾されているFRETプローブを用いる手法です。  この2本のオリゴヌクレオチドが、PCR産物に同時にハイブリダイズすると蛍光物質Aの蛍光で蛍光物質Bが励起されることで強い蛍光を発すること利用して測定します。

 

ヘアピンプロ-ブ法

ターゲットにハイブリダイズする際に、ステム・ループ構造を有するヘアピン型プローブが引き伸ばされるとクエンチング効果が解け、蛍光を発する測定方法です。蛍光物質はフルオレセイン(6-FAM)、クエンチャーは DABCYL が用いられます。ステム・ループ構造プロ ーブの消光作用は電子交換機構を原理とした 衝突的消光(Collisional quenching)と呼ばれています。有効距離は 0.3~1nm で、これは蛍光物質とクエンチャーの電子軌道が重なる距離です。

リアルタイムPCRとは

リアルタイムPCRは、蛍光物質を利用してPCRサイクルごとに増える蛍光の増加を検出することでDNAの濃度変化を検出する測定方法です。リアルタイムPCRは定量性があるのでqPCR(Quantitative)とも言われます。ウイルス検出の場合RNAをcDNAにしてリアルタイムPCRを用いるので、RT-qPCR法と書きます。RTは逆転写、qが定量つまりリアルタイムの意味です。RT-qPCR法では元のサンプルに含まれているウイルスの量が分かります。従来の PCR 法に比べて、電気泳動が不要なので、クリ-ンに迅速かつ簡便に解析できます。リアルタイムPCRには、インターカレーション法とハイブリダイゼーション法の2つの方法があります。これらは蛍光の検出方法が異なります。

インターカレーション法は、二本鎖DNAの鎖間に入り込み蛍光を発する色素(SYBR Green Ⅰなどの蛍光物質)を用いる方法です。二本鎖DNAの鎖間に入り込むことをインターカレートといいます。この方法では、PCRの伸長反応のときに二本鎖DNAの中に取り込まれた蛍光物質の蛍光強度を測定することによって、増幅したDNA量を推定できます。

インターカレーション法は安価で使用しやすいのですが、蛍光色素に特異性がないため、どの二本鎖DNAにも結合してしまい、プライマ-二量体を検知してしまう欠点があります。

ハイブリダイゼーション法は、蛍光物質で標識したDNAプローブを用いる方法です。DNAプローブはPCRプライマ-と同様の鋳型DNAの内部配列を持つ短い1本鎖DNAです。

ハイブリダイゼーション(分子交雑)とは、DNA核酸の分子がA-TやG-Cなどのように相補的に水素結合して複合体を形成することをいいます。蛍光標識したDNAプローブは、PCRプライマーと同様に、鋳型DNAに結合(Hybridize)するため、その蛍光DNAプロ-ブ量を蛍光強度を測定することで求めることができます。主にハイブリダイゼーション法にはTaqManプローブ法、FRETプローブ法、ヘアピンプロ-ブ法などがあります。

新型コロナウイルスを特定するPCR検査とは

新型コロナウイルスの検査方法には、PCR検査、抗原検査、抗体検査の3種類あります。抗原検査はウイルスの持つたんぱく質、抗体検査はウイルスに対抗して生成された抗体を検出します。PCR検査はウイルスの遺伝子情報用いてウイルスを検出する検査方法です。新型コロナウイルス情報が毎日報道されるので、PCRはすっかり有名になりました。

PCR(=Polymerase Chain Reaction)法は、1983年に米国のキャリー・マリス(Kary Mullis)によって発明され、シータス社によって発展させられたDNAの増幅方法です。DNAポリメラーゼと呼ばれる酵素の働きを利用して、一連の温度変化のサイクルを経て任意の遺伝子領域を検出・検査できる量まで複製増幅する技術です。DNAポリメラーゼは、1本鎖のDNAを元の2本鎖のDNAに修復する酵素です。これは1958年コーンバーグ(A.Kornberg)らにより大腸菌から発見されました。PCRにより培養で増やせない菌やウイルスの種類を知ることができます。なお、新型コロナウイルスの検体の検査にはバイオセーフティレベル2(BSL2)の安全キャビネットと実験室と防護が必要です。作業前後にはUV灯の点灯、次亜塩素酸ナトリウム液やDNAZapもしくはDNA AWAYなどでの内部清拭が必須です。

新型コロナウイルスはRNA型のウイルスです。RNAは増幅できないので、一旦RNAを鋳型に逆転写(Reverse Transcription)して相補的なcDNAを生成させてPCR法で増幅します(cはcomplimentary)。これをRT-PCR法といいます。RTは室温でもリアルタイムのことでもないので、注意が必要です。

1991年にTW. MyersとDH. Gelfandらにより、逆転写酵素活性とDNA合成酵素活性を併せ持つ酵素(Tth DNA Polymerase)が発見され、この酵素と反応条件の工夫により1種類の試薬と1本の反応容器で逆転写反応とPCR反応が連続的に行えるようになりました。 60℃ 30分間の加温により逆転写反応は進行し、その後PCR反応に移行します。

PCR反応液の作り方を説明します。反応液は、増幅するDNAサンプル、プライマー、DNAポリメラーゼ、合成するDNAの素材である遊離ヌクレオチド(dNTP=デオキシ・ヌクレオチド三リン酸)、Mg2+(2mMのMgCl)を含むバッファー溶液(pH7.5~9.5)を混合して作製します。DNAポリメラーゼには高温で動作するTaqポリメラーゼを使います。Taqポリメラーゼはサーマスアクアティカス(Thermus-aquaticus)という好熱菌由来の酵素です。

プライマーは標的DNAの一部に対して相補的な塩基配列を持つ短い一本鎖DNAです。PCRの目的は、ターゲットDNA鎖全体の複製ではなく、対象となる生命体に特有な約100~35,000塩基対のターゲット配列を複製することです。プライマーはこのターゲット配列の両端を定義する役割を持っています。

一般的に、プライマーは20~30塩基の長さからなる1本鎖の合成DNAです。塩基は4種類あるので、16mer(monomeric unit)(16塩基の長さ)のプライマ-の種類は40億(=416=4・230)にもなります。例えばランダムな30億塩基対(ヒトゲノム)のDNAに16merの長さのプライマと同じ配列は1か所にしかないと考えられます。

DNA合成は常にプライマーの3’末端から始まり、1本鎖DNAテンプレートの5’から3’方向へのみ伸長していきます。順方向プライマーと逆方向プライマーを開始点とし、相補的な2本鎖のDNA分子が効率よく合成されます。

PCRサイクルを説明します。PCRは3ステップを1サイクルとして数十回繰り返して、必要な量まで増幅します。第1ステップでは、反応液を94°Cに加熱し、30秒~1分間温度を保ち、2本鎖DNAを変性(Denaturation)させ1本鎖に分かれさせます。塩基間の結合は水素結合であり93℃程度で壊れます。変性が起こる温度は、DNAの塩基構成および長さ(塩基数)によって異なり、一般に長いDNAほど変性温度を高くする必要があります。

第2ステップでは、60℃にまで急速冷却し、1本鎖DNAとそれに結合する短い一本鎖DNAであるプライマーを結合(Annealing)させます。二本鎖DNAの50%が解離して一本鎖となる温度はTm値(melting temperature)と呼ばれています。Tm値は塩基配列の構成と塩基数および反応液の塩濃度などにより決まります。プライマーのTm値の計算には、「Nearest Neighbor法」を用いた計算ソフトがあります。アニーリング温度はプライマーのTm値(65℃)以下に設定します。アニーリング温度がプライマーのTm値以上だとプライマ-が1本鎖DNAに結合しません。アニーリング温度が低すぎると、プライマ-同志が結合してしまいます。プライマーは凍結融解を繰り返すと分解する恐れもあるので、10回程度で使い切るくらいの量に小分けして-20℃で保存します。

第3ステップでは、再び72°Cに加熱して、1〜2分保ちます。酵素は1分間に2~4kbを合成するので、標的配列の鎖長が1kb以下の場合は1分間で充分です。この時2つの1本鎖DNAに結合したプライマ-の隣に反応液中の塩基が次々に結合して伸長(Elongation、Extension)し、2つの2本鎖DNAが得られます。72°Cは、プライマーの分離がおきず、DNAポリメラーゼの活性に至適な温度です。わずか20サイクルのPCRにより、ターゲットのおよそ100万(220)コピーが合成されることになります。通常25~40サイクル行います。

サーマルサイクラーは、サーマルブロックと呼ばれる金属板でプログラム通りに反応チューブを急速に加熱・冷却する機能を持ちます。金属板にはヒーターやペルチェ素子などがついており的確に反応液の温度を上下させます。

PCRでDNAを増幅していくと、いずれPCRの基質(dNTP)やプライマーの枯渇などにより、温度サイクルを増やしてもDNAが増えなくなります(プラトー現象)。そのため初期のDNA濃度に数倍の差があったとしても、数十回のPCRサイクル後には増幅産物の量に差が見られなくなるため、初期DNA量の定量を行うことはできません。

新型コロナ肺炎は大騒ぎするほどのことでしょうか?

日本における死因の第一位は癌などの悪性新生物であり、毎年37万人が死亡しています。第二位は心疾患で毎年20万人が死亡しています。第三位は呼吸器疾患であり、肺炎で10万人、誤嚥性肺炎で4万人、インフルエンザで3千人、全体で毎年19万人が死亡しています。第四位が老衰で11万人、第五位が脳血管疾患で11万人が死んでいます。第六位は不慮の事故で4万人が死んでいます。日本の新型コロナ肺炎では、3カ月で1.6万人が感染し、1万人が回復し、700人が死亡し、5300人が感染治療中です。新型コロナ肺炎の死亡者数は1000人に満たず、季節性のインフルエンザの死亡者数の1/3以下です。

死亡者数だけ見ると、新型コロナ肺炎はそんなに大騒ぎするほどのことではないように思うかもしれません。しかし指定感染症は放置すると、急速に拡大して、医療関係者や他の病気の入院患者も感染し、医療崩壊を引き起こします。医者や看護婦や医療事務員は専門性が高く、短期間で養成することはできません。ウイルス感染の場合は、乾燥した地面に落ちたウイルスは屋内で3日、屋外では数時間で死滅するので、早期に人への感染を抑え込めば、感染者はいなくなります。

1μm程度の飛沫に含まれるウイルスは空中を漂うので、空気感染します。感染防止には時々換気して部屋の空気を入れ替えることが重要です。エアコンのフィルタにはウイルスが溜まるので、誰も部屋にいなくても感染する恐れがあります。フィルタを清掃したり、空気清浄機を用いることは効果があるでしょう。保湿機で湿度を高めるとウイルスの飛沫が重くなるので空気感染のリスクが減ります。薄めた次亜塩素酸水溶液を噴霧するのも効果があります。帰宅したら、靴や外套を玄関で脱いで、ウイルスを寝室に入れない方がいいでしょう。政府は家で大人しくしている人に報酬を与える政策を取るのがいいのです。

指定感染症とは何でしょうか?

日本では2月1日に新型コロナウイルス感染症は「指定感染症」に認定されました。この感染症は2月11日にWHOによってCOVID-19と命名されました。感染症に関する法律は様々な感染症を感染力や危険性に応じて1~5類に分類しています。新型肺炎のように未分類の感染症は政令で暫定的に「指定感染症」に認定され、1~3類の対応が義務付けられています。指定期間は原則1年以内ですが、さらに1年の延長もできます。O157などの大腸菌感染症は3類の感染症であり、消毒と就業制限が義務付けられます。SARS(急性呼吸器不全症候群)や結核は2類の感染症であり、消毒と就業制限に加え入院勧告が義務付けられます。ペストやエボラ出血熱などの1類の感染症は、都市封鎖などの交通制限が加わります。新型コロナは指定感染症なので、感染状況の拡大によって、消毒、就業制限、入院勧告が実施され、交通制限も可能になります。新型インフルエンザでは、交通制限までは実施されません。

新型コロナ肺炎はインフルエンザとどこが似ているのでしょうか?

これら2つのウイルスはエンベロ-プをもつRNA型ウイルスです。エンベロープは、ウイルスのRNAを覆うカプシドを覆う脂質膜です。ウイルスが細胞外に出る際に細胞膜を被ったまま出芽することで獲得したものです。エンベロープには、ウイルス遺伝子がつくるエンベロープ・タンパク質が発現しています。エンベロープタンパク質は細胞側が持つレセプターに結合して、ウイルスが宿主細胞に吸着・侵入する役割を果たします。エンベロープは脂質から成るため、これらのウイルスはエタノールや石けんなどで処理すると容易に破壊できます。コロナ、インフルエンザの他に、風疹、日本脳炎、C型肝炎はエンベロ-プを持つRNA型ウイルスです。

天然痘や帯状疱疹やB型肝炎のウイルスはエンベロ-プを持つDNA型ウイルスです。帯状疱疹ウイルスは、水痘(Varicella)と帯状疱疹(Zoster)を引き起こすウイルスです。初感染時に水痘を引き起こし、治癒後に神経細胞周囲の外套細胞に潜伏しており、免疫力が低下するとウイルスが再び活性化して、皮膚に特徴のある帯状疱疹を引き起こします。ヘルペス用の抗ウイルス薬があります。

エンベロ-プを持たないDNAウイルスにアデノウイルスがあります。エンベロ-プを持たないRNAウイルスには、ノロウイルス、ロタウイルス、A型肝炎ウイルスがあります。エンベロ-プを持たないために、消毒が大変です。

アデノウイルスは直径80nmの正20面体のカプシドとそれに覆われた線状二本鎖DNAからなるウイルスです。アデノウイルスは感染性胃腸炎や風邪症候群を起こします。感染した場合、アデノウイルスは扁桃腺やリンパ節の中で増殖します。プール熱(咽頭結膜熱)とよばれ、高熱と微熱を繰り返す期間が4〜5日ほど続き、扁桃腺が腫れ、のどが痛みます。主要症状がなくなった後、2日間登校禁止となります。80%エタノールによる不活化時間は2分です。リネン類は、85℃10分間以上の洗濯、または水洗後に次亜塩素酸ナトリウム0.1%での消毒をします。

ノロウイルスによる集団感染は学校や養護施設などで散発的に発生しています。ノロウイルスは直径30-38nmの正二十面体のカプシドとそれに覆われたRNAからなるウイルスです。ノロウイルスは乾燥した状態でも、20℃で4週間以上感染力を保ちます。1968年、アメリカ合衆国オハイオ州ノーウォークの小学校において集団発生した急性胃腸炎患者の糞便から初めて検出されたので、ノーウォーク・ウイルスと命名され、ノロウイルスと呼ばれるようになりました。感染は経口感染で、腸から感染して増殖し、新しく複製されたウイルス粒子が腸管内に放出されます。10から100個程度の少数のウイルスが侵入しただけでも感染・発病が成立します。ノロウイルスはエタノールでは消毒できません。

パルスオキシメーターの測定原理

「パルスオキシメーター」は1974年に日本光電工業の青柳卓雄らによって発明された医療機器です。パルスオキシメ-タ-は手術中の酸欠死を激減させた他、酸素過多による未熟児網膜症の防止や救急現場での救命率の向上に貢献しました。1977年にミノルタカメラ社の山西昭夫らによって世界初の指先測定タイプのパルスオキシメータが商品化されました。登山者の高度順化の目安、睡眠時無呼吸症候群のスクリーニング診断にも利用されます。

このセンサは指先の動脈を透過する赤色光と赤外光のパルス強度比を測定します。パルスとは脈動のことです。脈動するのは動脈血管だけなので、透過光のパルス振幅が動脈血の情報を含んでいます。比率を測定するのは、皮膚組織厚や血管の太さや血球密度などHbの酸素濃度以外に透過光強度に与える影響を除去するためです。酸素と結合したHbO2は波長660nmの赤色光を殆ど透過しますが、酸素のないHbは赤色光をよく吸収します。赤外光はどちらも同程度透過します。従って赤色光の透過光強度が減少すると、HbO2が減少したことが分かります。予め血液を採取して別の方法で酸素飽和度を測定し、パルス透過光の強度比変動と対応づけて公正係数を求めておきます。測定したパルス透過光の強度比変動に公正係数をかけることで、動脈血の酸素飽和度を求めることができます。この装置の原理上、一酸化炭素中毒は検出できません。毎日体温・血圧と共に酸素濃度も計っておくといいかもしれません。発明者の青柳卓雄氏は2020年4月18日に84歳で老衰で亡くなられました。

新型コロナ肺炎はサイレント肺炎

新型コロナウイルスは肺胞に感染し、自覚症状がないままに、徐々に肺炎を進行させます。1週間の潜伏期間の後、急に発熱し呼吸困難になる特徴があります。糖尿病や腎臓病などの血管系の疾患がある人は、微熱が2日継続したら甘く見ないで、保健所などに連絡して検査を受けた方がいいでしょう。検査で陽性判定がでたら、公共交通機関を避けて入院するなど、適切に行動する責任があります。肺炎が重篤化したら、人工呼吸や人工心肺装置をつけて酸素呼吸を確保します。自分の免疫反応によりウイルスを抑制していくしかありません。
呼吸困難の目安としてパルスオキシメーターが用いられます。パルスオキシメーターは血中酸素飽和度(SpO2)を手軽に測定する装置です。5,000円~30,000円で入手できます。50gと軽量で携帯できます。血液を採取することなく、リアルタイムにモニタリングできるため肺炎による低酸素血症の早期発見や呼吸管理に役立ちます。
測定方法は、安静な状態で指先を暖めて血流を良くして、測定器に指先を差し込んで、動脈血中の酸化ヘモグロビン(HbO2)と還元ヘモグロビン(Hb)の密度比を測定します。正常値は97%から100%です。呼吸不全はSpO2= 90%に相当します。SはSaturation(飽和度)、pはpercutaneous(経皮的)を意味しています。

インフルエンザと新型コロナウイルスはどこが異なるのでしょうか?

インフルエンザは風邪より高熱が出て、関節痛などが生じる伝染病です。日本では毎年、新型インフルエンザが流行しており、ここ5年間は増加傾向にあります。日本のインフルエンザの感染者数は年間1000万人程度で、毎年3000人程度が死亡しています。つまり致死率は0.1%以下です。感染者の70%は未成年者であり、死亡者の殆どは免疫力の低い70歳以上の老人です。

日本の病院は1000万人のインフルエンザ患者に対応できるのだから、1.5万人の新型コロナ患者を受け入れるのはたやすいことだと考え、日本政府はコロナ感染拡大を誇張して報道させているのではないかと疑っている人がいます。しかし実際はそうではありません。

インフルエンザで入院する患者数は多い年で1万人近くになります。1週間経過後は徐々に回復して退院する人もでてくるので、ピーク時の在院者数は8000人(=9500人×0.85)程度だと推測できます。日本には感染者用の病床が12500床あるので、ピーク時の2月ごろは、毎年病床の40~65%がインフルエンザの患者さんで埋まることになります。これは決して余裕のある数字ではありません。実際は、病院数を削減しているので、高齢化社会になって増加するインフルエンザ患者を受け入れることは深刻な問題なのです。しかしインフルエンザの場合、学級閉鎖はあっても、サラリーマンに在宅勤務や主婦に外出制限をかけることはありませんでした。

社会がインフルエンザを許容しているのはいくつか理由があります。例えばインフルエンザの場合、
1) 重篤化率が1%、致死率が0.1%以下と低い。
2) 感染者の殆どが若者で、1週間程度で回復する。
3) 簡易検査薬や抗ウイルス薬があり、早期対応と症状軽減ができる。
4) 多くは季節性のもので、必ず収束する。
5) 感染後に獲得した免疫が持続するので、同じものには感染しなくなる。
6) 多くの人が免疫を獲得するので、感染が広がりにくくなる。
といった理由があるからです。インフルエンザは毎年流行するタイプが異なるので、完全に適合するワクチンが製造できません。完全に適合するワクチンを所有している人は、その新型インフルエンザウイルスを製造した人でしょう。そうなると流行は自然現象でなくなります。

それでは新型コロナ肺炎(COVID-19)はどうして社会的に許容されないのでしょうか? それは
1) 重篤化率が20%、致死率が4%以下と高い。
2)感染者の多くが高齢者や疾患保持者であり、重症化しやすい。
3)簡易検査薬や抗ウイルス薬が利用できず、早期対応と症状軽減ができない。
4)季節性がなく、潜伏期間が長く、感染が収束する保証がない。
5)感染後に獲得した免疫が持続するか不明である。
6)多くの人に免疫を獲得させられないので、感染が広がりやすい。
といった理由です。免疫の持続性が保証できれば、集団免疫獲得戦略を採用し、医者と病床数を確保できれば、社会的に許容する方向に進むかもしれません。しかし日本は医者の収入を守るために、医師数を厳しく制限しています。

 現在の感染状況を見てみましょう。5月9日現在、東京都の新型コロナウイルス感染症対策サイト(https://stopcovid19.metro.tokyo.lg.jp/)によると、東京都の陽性者は4846人で、死亡者180人、退院者2152人、入院中2514人です。入院中の内訳は、軽症・中等症者2431人、重症者83人です。東京都の病床数は2000床なので、400人余りはホテルに隔離滞在していると思われます。陽性者の致死率は3.7%です。
ダイヤモンドプリンセス号の場合、3711人の乗客乗員のうち、712人が感染し、13人が死亡しました。感染率は19.2%、陽性者の致死率は1.8%でした。これは中国起因の感染で、現在東京都で感染しているウイルスは欧州起因のものだと考えられています。欧州起因のウイルスの致死率の方が2倍高いのかもしれません。

日本人がコロナ自粛から学ぶべきもの

コロナ自粛の継続は、経済的な痛手ではありますが、日本企業にとって社員の健康管理や在宅勤務を取り入れた働き方を推進する良い機会になると思います。長距離通勤は、健康とエネルギと時間の浪費でした。行政を書面処理からオンライン処理に切り替えることで感染を避け、人員を削減できます。教育機関も遠隔教育を取り入れることで幅広い受講生を獲得できるでしょう。機械の身体を得て火星に移住する必要はありません。そんなことを学ぶために受験競争をするのはバカげています。勉強してマスクの一枚も満足に配れない総理大臣になっても仕方がないのです。教育内容は、専門バカを量産する教育から、豊かな生活と健康につながる教養教育に変化するでしょう。

豊かな生活は子どもに恵まれた生活です。産科医療を改革すれば、痛みなく障害のない健康な子どもを産んで育てられ、少子化問題が解決します。遠隔ワ-クにより自然環境のよい場所で子育てすることが可能になります。在宅ワ-クが中心になれば、地域社会に関わる機会が増え、高齢者になっても健康な生活が送れます。残業後にストレス解消にお酒を飲みすぎて体を悪くすることもなくなるでしょう。会社通勤や営業移動のストレスがなくなれば、健康に暮らせるのです。健康ならインフルエンザにかかっても、重篤化しません。早く治そうとして風邪薬を飲むこともなくなります。無駄な移動を無くせば、燃料の節約になり、交通渋滞や事故が減少し、大気汚染も防げるのです。コロナ自粛が日本の社会を改善するよい契機になることを願っています。

社会はウイルス感染症をどの程度許容するべきでしょうか?

これから早急に答えを出していかなければならない難しい問題です。毎年日本では季節性のインフルエンザが流行し、多くの人が感染し、亡くなっています。しかし政府はインフルエンザの感染拡大防止のために外出自粛を要請することはありませんでした。その理由は、多くのインフルエンザの流行は自然現象であり、流行期間は集団免疫の獲得により3カ月程度で終了し、死亡者は老人が多く、社会に対する影響が限られているからです。
 新型コロナ肺炎の場合、政府は7割~8割の接触削減を実現する外出自粛を要請しました。その理由は、国民の生命と生活を守るためです。具体的には
1) 新型コロナ肺炎の致死率が高く、放置すれば多くの死者が発生する。
2) 獲得免疫の持続期間が短ければ、流行が慢性化する。
3) 医療体制が崩壊すると、他疾患の患者が死亡する。
4) 長期の外出禁止政策により失業者が増大し、生活が困窮し治安が悪化する。
などの可能性があり、国民の生命と生活に与える影響が大きいからです。特に糖尿病や高血圧症や心疾患や腎疾患を有する人が新型ウイルスに感染すると重篤化します。

今後このような新型ウイルス感染症が発生するたびに国民の生命と生活が打撃を受けることになるでしょう。この問題が困難なのは、生命を守れば、生活が守れないというジレンマがあるからです。私たちはウイルス感染の拡大を早期に検出分析し、どの程度行動制限をかけるか、どの程度生活補償をするかを迅速に判断できる透明な体制を整えなければなりません。医療介護、小売り、清掃、配達員などの社会基盤維持に不可欠な労働者の生活健康保障も重要です。健康弱者の保護、健康格差の是正にも取り組むべきでしょう。
地震や津波などの自然災害とウイルス感染の流行が重なったら、避難や復興のために人が集まることで感染が拡大してしまします。こうした緊急事態に備え、対処していくことも課題になります。例えば隔離病床に使用できるホテル設計や遠隔医療は重要です。これからの日本の成功は、防災需要で経済を活性化させる仕組みづくりにかかっています。

新型コロナウイルスについて

日本政府は、4月7日に新型コロナウイルスの感染拡大を受け、改正新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく初の「緊急事態宣言」を発令しました。期間は1か月、対象地域は東京、埼玉、千葉、神奈川、大阪、兵庫、福岡の7都府県でした。4月17日に対象地区は7都府県から全都道府県に拡大されました。政府は感染拡大抑制のために、マスクの着用だけでなく、教育機関の授業中止、飲食店の営業自粛、観光客の観光自粛、公共交通の利用自粛、スポ-ツや文化活動の自粛など、全国規模の外出自粛を要請してきました。しかし医療機関は感染患者の受け入れのため病床数を拡大していますが、保健所による感染検査施設の設置は進まず、いくつかの病院では院内感染が発生しています。医療崩壊や介護崩壊を防止するために、日本国民はこれまで政府の自粛要請によく協力してきました。幸い5月6日の時点で感染者数は減少傾向を見せており、一部の地域の外出制限は解除されました。しかし東京都、北海道、石川県での非常事態は継続されており、国民の不安はまだ続いています。集団免疫が獲得できていないため、第二、第三の流行の可能性があるからです。

日中自宅で過ごしていると、新型コロナ関連のネット情報やテレビ番組が数多く報道されています。しかしウイルス感染症に対する科学的な理解を深める番組は殆どありません。マスコミは連日感染者数を報道していますが、具体的な治療内容は報道されていません。自粛要請で仕事を解雇されて、食費を減らさなければならない人も多く発生しています。多くの人は連休中に帰省することさえできなくなっています。地方自治体はすべての公園の駐車場を閉鎖したために、公園を自動車で利用する人は、健康のために公園で散歩することもできなくなりました。
このような社会的・経済的な停滞が長期化すると、国民の生活、健康、教育が疲弊していきます。政府は、この緊急事態にマスコミや支援給付金を利用して権力を強化し、国民を一方的に監視・管理する法律を成立させることもできます。そうなればたとえ感染者が減少しても一度成立した法律は元に戻らず、民主的社会が崩壊する恐れもあります。国家が新型ウイルスを合成し、ウイルス兵器と解毒剤を開発している可能性もあります。
私たちは、
1) 感染症を科学的に理解し、感染症を回避する。
2) 発熱した場合には、適切に行動する。
3)適切な食事や会話や運動をして、心身の健康維持に努める。
4)政府や自治体に合理的な政策を求め、私たちの自由と生活を守る。
5)ウイルスと共存してゆける社会を構築する。
といった新たな課題を実行していかなければなりません。この5つの課題について考えていきたいと思います。