オイラ-の不思議な級数の値

1749年にオイラ-は

  • Z=1+1+1+1+1+・・・=-1/2

という不思議な級数の値を求めました。時々皆さんも目にすることがあると思います。今日はこの式の意味する所を考えてみます。

まず関数

  • f0(x)=1/(1+x)、f0(1)=1/2

を考えます。この関数を展開すると

  • f(x)=1-x+x2-x3+x4-x5+・・・ for |x|<1

と表すことができます。但しこの関数はx=1では定義されていません。

形式的にx=1を代入し、その値をYとします。

  • f(1)=1-1+1-1+1-1+・・・=Y

となります。元の関数をxのn次までの展開した関数を

  fn(x)=Σk=0~n (-x)k → 1/(1+x) x≠1 as  n→∞

と定義します。グラフにn=10,20、100、1000の場合の関数形を表示します。

nが無限大の極限で、関数fn(x)はx<1で関数1/(1+x)に一致することが分かります。つまりx→1の片側極限で

  • lim x→1 f(x)=1/2

が成り立っています。そこで

  • f(1)=1/2

と定義すれば、関数f(x)は0≦x≦1で1/(1+x)に一致します。これは

  •  Y=1-1+1-1+1-1+・・・=1/2

を示しています。ZもYと同じような意味で値を持つと考えます。そうすると

 2Z=   2+   2+   2+  2+・・・

  Z=1+1+1+1+1+1+1+1+・・・

を辺々引くと

 Z=2Z-Z=-1+1-1+1-1+1-1+・・・

が得られます。両辺に1を加えて

 1+Z=1-1+1-1+1-1+1-1+・・・=Y=1/2

なので、関数の極限の意味で

 Z=1/2-1=-1/2

となっている可能性があります。

実はこの話はゼ-タ関数

 ζ(s)=1+1/2s+1/3s+1/4s+1/5s+・・・

のs→0での極限値が-1/2であることにつながっています。s=0での値を

 ζ(0)=-1/2

と定義すると、ゼ-タ関数はs=0で滑らかな関数になります。これは

 Z=1+1+1+1+1+・・・=-1/2

を表しています。

ワクチン開発が加熱する理由

2社独占体制の場合を考えます。企業1が先に生産量を決定するときの利得を計算します。

企業1は「企業2が企業1の生産量q1に対して最適生産q2*を取らざるを得ない」と予測できます。企業1は企業2の生産量q2*に対して最適な生産q1*を決定します。

企業2の収益は

  • u2={a-c-k・(q1+q2)}・q2
  •  =-k{ q2-1/2k・(a-c-k・q1)}2+1/4k・(a-c-k・q1) 2

となるので、企業1の生産量q1に対する企業2の最適生産量は

  • q2*=1/2k・(a-c-k・q1)
  • u2*=1/4k・(a-c-k・q1) 2

となります。この時の企業1の利益は

  • u1={a-c-k・(q1+q2*)}・q1
  •  ={a-c-k・q1-1/2・(a-c-k・q1)}・q1

   =1/2・{-k・q12+(a-c)・q1}

   =1/2・{-k・(q1-1/2k・(a-c))2+1/4k・(a-c)2}

となるので、企業1の最適生産量と利益は

  • q1*=1/2k・(a-c)
  • u1*=1/8k・(a-c)2

となります。このときの企業2の最適生産量は

  • q2*=1/2k・(a-c-k・q1*)
  •  =1/2k・(a-c)-1/2・1/2k・(a-c)
  •  =1/4k・(a-c)

となり、企業1の生産量の半分になってしまいます。

全体の生産量は

  • q= q1*+q2*=1/2k・(a-c)+1/4k・(a-c)=3/4k・(a-c)

企業2の利益は

  • u2*=1/4k・(a-c-k・1/2k・(a-c)) 2=1/16k・(a-c) 2

となり、企業1の利益u1*の半分にしかなりません。先んずれば人を制すということです。ワクチン開発が加熱する理由は、相手が自分の生産量の情報を知って最適生産を行う場合、理論的に先行生産する企業は2倍の利益を上げられるからです。

ワクチンの均衡価格

ワクチンという商品を例にとって、参入企業数が増えると商品の価格がどのように減少するかを調べました。需要曲線は価格と需要量の関係を示す曲線です。簡単のため線形近似を採用します。需要量が増大すると価格が下がります。これは価格が低下すれば、購買意欲が高まり買う人が増えるという事を意味しています。1個の商品の価格Pは

  • 価格P=最大価格a-傾きk・需要量d、  k[円/個]>0

と書けます。需要と供給は速やかに一致すると仮定すると、

  • 需要量d=生産量q

ですから、価格と生産量の関係

  • P=a-k・q

が得られます。生産コストをc(円)とします。グラフはk=1の場合で、ワクチン1箱100本入りで最大価格aは100万円、原価cは10万円として、表示しました。

1)1社独占の場合

会社1の生産量がq1のとき利益u1

  • u1=(P-c)・q1

よって、

  • u1=(a-c-k・q1)・q1

と表せます。これはq1の2次方程式

・ u1=-kq12+(a-c)・q1

なので、平方完成すると

u1=-k・{q1-(a-c)/2k}2+(a-c)2/4k

よって、1社独占のとき、均衡生産量と均衡価格は

  • q1*=(a-c)/2k
  • u1*=(a-c)2/4k

となります。

2)n社が参入した場合

企業1の収益u1

  • u1=(a-c-k・q1-k・q2 -・・・-k・q)・q1

・ u1=-kq12+{(a-c)-k・q2 -・・・-k・q}・q1

となります。同様に他の企業の収益に関して、収益を最大化する生産量を求めて、連立方程式を解いて、最適生産量を計算できますが、対称性から、全ての企業の生産量は同一の均衡生産量q1*になる

  • q2*=q3*=・・=qn*=q1*

ことを用いれば、企業1の収益は

・ u1=-kq12+{(a-c)-k(n-1)・q1*}・q1

と表せます。n社が参入するとき、企業1の均衡生産量は

  • q1*={ a-c-k(n-1) q1*}/2k

となります。これを解くと

  • q1*=1/k・1/ (n+1)・(a-c)

を得ます。全生産量qは、n倍になるので

  • q=1/k・n/ (n+1)・(a-c)

と表現できます。参入企業数nが増大すると、全生産qは増大し

  • q → 1/k・(a-c)

に近づきます。収益の方は

  • b=(a-c)-k(n-1)・q1*

  =(a-c)-k(n-1)・1/k・1/ (n+1)・ (a-c)

  =2/(n+1)・(a-c)

より、会社1の均衡利益は

  • u1*=b2/4k

なので、bを代入すると

  • u1*=1/k・1/(n+1)2・(a-c) 2

を得ます。全体の収益uは、n倍になるので

  • u=1/k・n/(n+1)2・(a-c) 2

と表現できます。参入企業数nが増大すると、収益は減少します。

ワクチン1箱の価格Pは、需要曲線より

  • P=a-k・q=a-k・1/k・n/ (n+1)・(a-c)=a-n/ (n+1)・(a-c)

            =1/ (n+1)・a+n/ (n+1)・c → c as n→∞

となります。参入企業数が増えるとワクチンの価格は原価cに近づきます。結局ワクチン1箱の利益は

  • P-c=1/ (n+1)・(a-c) → 0 as n→∞

となります。参入企業数が増えると、利益はなくなります。

原価1000円のワクチン価格は、独占状態での価格は5500円、現行の2000円になるときの参入企業数は8社、1社当たりの収益は100億円でした。

~本モデルの解析結果~

ワクチンの参入企業数:8社、ワクチンの総数量:8000万本、8社の総収益:800億円

ワクチンの価格:2000円/本、ワクチンの利益;1000円/本

【まとめ】

需要曲線の傾きk[円/個]、最大価格a、生産コストcのとき、

ワクチン市場にn社が参入すると、均衡生産量と均衡価格は以下の通りになります。

  • 1社の生産量:q1*=1/k・1/ (n+1)・((a-c) → 0 (as n→∞)
  • 全体の生産量:q=1/k・n/ (n+1)・(a-c) → 1/k・(a-c) (as n→∞)
  • 1社の収益:u1*=1/k・1/(n+1)2・(a-c) 2 → 0 
  • 全体の収益:u=1/k・n/(n+1)2・(a-c) 2 → 0 
  • ワクチン1箱の価格:P=1/ (n+1)・a+n/ (n+1)・c  → c
  • ワクチン1箱の利益:P-c=1/ (n+1)・(a-c)  → 0 

となります。参入企業数nが増えると以下のことが分かります。

・1社の生産量は減少するが、全体の生産量は増加し、飽和する。

・1社の収益は急激に減少し、全体の収益も減少して、ゼロになる。

・ワクチン1箱の価格は減少して、原価cになり、利益はなくなる。