血管が収縮するメカニズムについて(2)

さてもう少し詳しく見てみましょう。血管収縮の情報伝達物質が平滑筋細胞の受容体に結合すると、Gqタンパク質の活性化と脱分極が生じます。脱分極が生じると電位依存性のCaチャネルが開きます。細胞の内外には電位差があります。通常細胞内は-80mV程度の分極状態に保たれています。Ca2+イオンが細胞内に入ると、細胞内の電位がプラスになります。これを脱分極状態といいます。L型Caチャネルは細胞内の電位が高くなると開き、Ca2+が細胞内に入ります。

Gqタンパク質はGタンパク質(グアニンヌクレオチド結合タンパク質)の1つです。Gタンパク質は、Gs、Gi、Go、Gq、Gt、Golfの6種類があります。Gsはアデニル酸シクラーゼを促進、Giはアデニル酸シクラーゼを抑制します。Goは神経組織に多く発現しています。GqはホスホリパーゼCβを活性化し、GtとGolfはそれぞれ視細胞(網膜)と臭細胞のシグナル伝達系に重要な役割を果たしています。Gタンパク質はα、β、γの3つのサブユニットからなる三量体です。αサブユニットにはGDPが結合しています。受容体に伝達物質が結合すると、Gタンパク質は、GDPがリン酸化されてGTPとなり、αサブユニットーGTPがβγサブユニットから切り離されます。Gqタンパク質のαサブユニットーGTPはホスホリパーゼCを活性化します。αサブユニットに含まれるGTPア-ゼの働きにより、αサブユニットーGTPはαサブユニットーGDPとなり、βγサブユニットに結合して元のGqタンパク質に戻ります。

ホスホリパーゼC(PLC=PhosphoLipase C)は、リン酸エステル基の直前でリン脂質を切断する酵素です。細胞膜にはPIP2(ホスファチジルイノシトール4,5-ビスリン酸)という脂質があります。先ほど述べたようにPLCはGqタンパク質を介して活性化します。活性化したPLCは、PIP2のホスホジエステル結合を加水分解し、DAG(ジアシルグリセロール)とIP3(イノシトール1,4,5-トリスリン酸)を発生させます。DAGは脂質なので細胞膜にとどまります。

IP3は細胞質ゾルを介して拡散し、筋小胞体 (ER) にあるイノシトール・トリスリン酸受容体チャネルに結合します。筋小胞体はCaの貯蔵庫になっており、筋小胞体からCa2+が細胞質ゾル内に放出されます。放出されたCa²⁺は、同じく筋小胞体上にあるリアノジン受容体(RyR)に結合し、さらにCa²⁺の放出を引き起こします。

DAGはCaと共にプロテインキナーゼC(PKC=Protein kinaseC)を活性化します。プロテインキナーゼCはその他のタンパク質分子をリン酸化し、細胞活性を変化させる酵素です。活性化PKCは

Rhoキナ-ゼ + Rho-GDP + Pi → Rhoキナ-ゼーRho-GTP(活性化状態)

によって、Rhoキナ-ゼを活性化します。

キナーゼはATPのリン酸基をアミノ酸残基にあるOH基に移動させ、共有結合させます。活性化Rhoキナ-ゼはミオシン軽鎖ホスファタ-ゼにATPのリン酸を付加して不活性化するので、血管の収縮状態が維持されます。キナーゼがリン酸化するアミノ酸の99%以上はセリンとスレオニンですが、チロシンのリン酸化は生物学的に重要です。

 酵素は他の酵素によって活性化されて生体反応を促進します。多くの場合リン酸を付けたり外したりすることで酵素の活性化を制御しています。私たちの知らないところで、私たちの身体は驚異的な生体反応のネットワ-クを保っています。精緻な生体反応のメカニズムを知れば知るほど、健康に対して感謝の念が湧いてきます。

血管が収縮するメカニズムについて(1)

風邪を引くと体温が上がります。多くの人は漠然と免疫細胞がウイルスを攻撃するから発熱すると考えています。正確には免疫系が体温を高く設定するためにウイルスが弱まり、免疫細胞の攻撃を受けて分解します。ウイルスは平熱の体温のとき自分の酵素反応が最も早く進行するので、体温が上がると活動が弱まるのだと考えられます。

私たちは体温を上げるのに毛細血管を細く収縮させます。毛細血管を収縮させると血流が低下して放熱が抑制されて体温が上がります。血管の内側は内皮細胞で覆われており、その外側に平滑筋細胞があります。平滑筋細胞が収縮すると血管が細くなります。血圧をあげるときにも血管を収縮させます。横紋筋は随意的に動かせますが、平滑筋は随意的に動かせません。横紋筋の収縮制御機構は解明されていますが、平滑筋の収縮制御機構は複雑でまだ解明されていない部分もあります。血管の収縮には1分以内、1時間以内、1日以内の3つの反応速度の異なる収縮があります。また血管には動脈と静脈、太いものや細いものや毛細血管によっても収縮の機構は異なります。ここでは数時間で収縮する静脈の毛細血管を想定し、その平滑筋の一般的な収縮機構について調べたことをお話したいと思います。

血管の内皮細胞から放出された情報伝達物質は平滑筋細胞の細胞膜にある受容体に結合すると、様々な反応が生じた結果、筋原線維のミオシン分子がリン酸化されて、アクチン分子上を滑って収縮します。血管を収縮させる情報伝達物質には、ノルアドレナリン(NA)、アセチルコリン(Ach)、アンジオテンシンⅡ(アミノ酸が8個のペプチド酵素)などがあります。NOやH2O2など血管を拡張させる物質もあります。

 ミオシンにリン酸を付加する酵素がミオシン軽鎖キナ-ゼです。キナ-ゼというのはリン酸を付加する酵素のことです。Caとカルモジュリンの複合体がミオシン軽鎖キナ-ゼを活性化します。カルモジュリンはCaを4原子吸着すると、直角の腕のような構造をしたタンパク質になります。

結局、血管を収縮させる情報伝達物質が平滑筋細胞の受容体に結合すると、細胞内のCa濃度が上昇することで、Ca-カルモジュリン複合体の濃度が増加して、血管が収縮します。

一方、ミオシン軽鎖ホスファタ-ゼというリン酸化ミオシンからリン酸を除去する酵素があります。ミオシン軽鎖ホスファタ-ゼを不活性化すれば、血管の収縮が保たれます。具体的には、活性化したRhoキナ-ゼがミオシン軽鎖ホスファタ-ゼにRhoとリン酸を付加するとミオシン軽鎖ホスファタ-ゼが不活性化します。血管収縮過程には、活性化したRhoキナ-ゼを増やす作用があり、それによってミオシン軽鎖ホスファタ-ゼが不活性化して、リン酸化ミオシンからリン酸を除去する力が弱まり、血管の収縮が保たれます。結構ややこしいですね。

Rhoタンパク質とはRas homolog(ラス相同性)タンパク質のことで、Rasはラットの肉腫(Rat sarcoma)から見つかった低分子(21kDa)のGTP結合タンパク質の一種です。Gタンパク質と同様に不活性状態ではGDPが結合しており、シグナルを受けて活性化するとGTPとなります。相同性とは遺伝子配列が共通の祖先をもつ類似性のことです。Rhoタンパク質は転写や細胞増殖、細胞の運動性の獲得のほか、細胞死の抑制など数多くの現象に関わっています。

ACE2はどのような受容体でしょうか?

ACEとはアンジオテンシン変換酵素(Angiotensin Converting Enzyme)のことです。「Angio」とは「血管の」という意味です。ACEはRAAS(レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系)という血圧制御システムにおいて、血中のアンジオテンシンⅠをアンジオテンシンⅡに変換する酵素です。アンジオテンシンⅡは血管の内皮細胞のAT1受容体に結合して血管を収縮させ、血圧を上昇させます。高血圧の人はACE阻害薬を処方されます。 

ACE2はアンジオテンシンⅠやⅡをアンジオテンシン1-7に変換する受容体です。血中のアンジオテンシン1-7は血管の内皮細胞のMas受容体に結合して血管を拡張させ、血圧を下げます。ACE2はACE阻害薬によって抑制されません。ACE2活性化剤としてはオルメサルタンがあります。

レニンというのは腎臓から分泌されるタンパク質分解酵素で、肝臓から分泌されるアンジオテンシノーゲンというタンパク質(452個のアミノ酸)を10個のアミノ酸からなるアンジオテンシンⅠに分解する作用があります。アルデステロンとは副腎皮質から分泌されるホルモンで腎臓の尿細管でNa+とH2Oの再吸収を促します。これによって血圧が上昇します。高血圧で心機能が弱ると、腎臓の血流量が低下するので、RAAS機構が働いて血圧が上がり、副腎髄質からアドレナリンが分泌されて心拍数が上がるので、心臓に負担がかかります。血管、腎臓、心臓に基礎疾患のある人は、血圧を下げる薬を処方されます。呼吸器疾患のある人、健康な人でも喫煙習慣のある人はACE2受容体の発現リスクが増します。

新型コロナウイルスはどのようにして細胞内に侵入するのでしょうか?

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の受容体はACE2である事は広く知られていました。最近の論文ではACE2の他にCD4、CD147、GRP78の受容体も報告されています。

ACE2は十二指腸、小腸、胆嚢、腎臓、精巣に高く発現しており、副腎、結腸、直腸、精嚢に低く発現しています。ACE2は血圧調節以外に、サイトカイン等の炎症促進物質の抑制、耐糖能の正常化、腸でのアミノ酸の吸収などの働きをしています。高血圧、血管炎症、高血糖、胃腸障害などの基礎疾患がある人はACE2受容体の出現が増加するために、新型コロナウイルスに感染しやすくなると考えられます。新型コロナウイルスにより、ACE2が極度に減少すると、高血圧、急性肺不全、血管の炎症亢進、耐糖性能の悪化、腸障害などの症状がでて、重篤化すると考えられます。このACE2受容体は、炎症を起こし激しい咳き込みを繰り返した時などに多く肺胞細胞表面に発現すると言われています。そのためリコンビナント(組み換え)ACE2の投与実験がマウスにおいて研究されています。大量生産しやすいバクテリア由来ACE2様酵素も症状への効果が期待されています。

新型コロナウイルスが上気道(鼻腔、咽頭、喉頭)に留まっているうちは、ただの軽い風邪です。上気道のACE2密度は低いと言われています。この間は、自然免疫を担うNK細胞(ナチュラルキラー細胞)とウイルスの戦いにより、一週間程度の発熱が続くと考えられています。ウイルスに感染すると発熱するのは、体温を上げてウイルスの活性を低下させるために、血管を収縮させて放熱を下げるような対抗システムが備わっているためです。

肺胞の毛細血管の内皮細胞がACE2受容体を介してウイルスに感染すると、その情報が伝達されて毛細血管の平滑筋細胞が収縮し、体温が上がります。体温が上がると白血球が活性の低下したウイルスを活発に貪食します。ウイルスが消滅すると、体温が回復します。

1918年に流行したインフルエンザでは、感染した米軍兵士がアスピリンを大量に服薬して、症状を重篤化させました。アスピリンは血管を拡張させて頭痛を除去する薬です。血管が拡張すると肺胞に水が溜まり、細菌感染を併発して、多くの人が亡くなったと言われています。流行の第二波ではインフルエンザの変性も生じて、感染率が高くなったと言われています。

新型コロナウイルスが下気道(気管支、肺胞)に拡散すると、自覚症状なく急性肺炎になるので、感染が疑われたら肺のCT画像を撮る必要があります。

CD4(Cluster of Differentiation 4、分化酵素群4)はT細胞、マクロファ-ジ、樹状細胞などの免疫細胞に発現するタンパク質受容体です。CD4はT細胞の分化、B細胞による免疫グロブリン合成の誘導・促進の作用があります。CCD4はインタ-ロイキン(IL)によってTh1、TH2、Th17のヘルパ-T細胞に分化し、それらは各種のインタ-ロイキンやイエンタ-フェロンなどのサイトカインを放出し、細胞内の細菌、寄生虫、細胞外の細菌を攻撃します。しかしそれらのサイトカインが過剰に分泌されると、炎症性疾患、アレルギ-、自己免疫性疾患を生じさせる問題があります。エイズウイルスはCD4受容体から感染するので、免疫系を破壊していまいます。血液1μLあたりのCD4数が200個以下になったHIV陽性患者はAIDSと診断されます。免疫不全になったエイズ患者は弱い細菌に感染して肺炎などで死んでしまいます。新型コロナウイルスはCD4受容体から感染し得るので、免疫系の破壊やサイトカインの過剰分泌を引き起こし、病状が重篤化します。

CD147は、Basiginとも呼ばれるタンパク質受容体で、上皮細胞、がん細胞、活性化されたT細胞に発現しています。免疫が活発になるほどリンパ球が感染して減少するので、がん患者の肺炎が急速に進行します。

GRP78 (Glucose-Regulated Protein)あるいはBiP(Binding immunoglobulin Protein)は、インフルエンザ、エボラウイルスの受容体でもあります。GRP78は細胞内の小胞体に分布しており、タンパク質の折り畳み、癌細胞増殖の阻害、炎症の解消の機能を担っています。新型コロナウイルスがGRP78を介して感染すると、GRP78の機能が障害を受け、肺炎、臓器不全、癌などが進行します。

新型コロナウイルスのプライマー・プローブ配列

島津製作所の試薬キットでは、米国の感染症センターの「2019-Novel Coronavirus (2019-nCoV) Real-time rRT-PCR Panel Primers and Probes」に記載された新型コロナウイルスの核カプシド(Nucleocapsid)を構成するN遺伝子の2か所(N1、N2)の部分を検出するプライマーとプローブが含まれています。プライマーは3’端にOH基を有し伸長起点となりますが、プローブは3’端がブロックされているため伸長できないようになっています。

N1 順方向プライマ-  :5’-GAC CCC AAA ATC AGC GAA AT-3’(20mer)

N1 逆方向プライマ-  :5’-TCT GGT TAC TGC CAG TTG AAT CTG-3’ (24mer)

N1プロ-ブ:5’-ROX-ACC CCG CAT TAC GTT TGG TGG ACC-BHQ2-3’ (24mer)

N2順方向プライマ-    :5’-TTA CAA ACA TTG GCC GCA AA-3’(20mer)

N2逆方向プライマ-   :5’-GCG CGA CAT TCC GAA GAA-3’ (18mer)

N2プロ-ブ:5’-FAM-ACA ATT TGC CCC CAG CGC TTC AG-BHQ1-3’(23mer)

プライマーのTm値は通常55~65℃に設定し、効率的、特異性の高いPCR増幅をめざします。GC含有率は40~60%とし、結合を促進するため3’端はCもしくはGにします。専用ソフトを使ってプライマー内部の二次構造形成を避け、GCリッチ領域とATリッチ領域の分布バランスを取ります。4個以上の連続した同一塩基の配列や繰り返し配列を避け、片方のプライマー内部での3塩基以上の相補的配列や1対のプライマー間での相補的配列は避けます。

プライマーの3’末端側の約8塩基は酵素が結合して伸長反応をプロモートする領域であり最も特異性が求められます。また、5’末端領域は、Tm値と特異性を高める領域として利用します。FAMは緑(515~530nm)、ROXはオレンジ(610~650nm)、Cy5は赤(675~695nm)です。

島津は生体試料からRNAの精製工程を取らずに、直接RT-PCR測定を行うことができるAmpdirect Technologyを開発しました。生体試料に含まれるタンパク質等の正電荷物質は鋳型DNA/RNAに、ある種の糖や色素等の負電荷物質はDNAポリメラーゼに吸着し、PCRを阻害します。Ampdirect中和液にはこれらの物質を抑制する働きがあるので、生体試料から直接RT-PCRが可能になります。

85分で96検体の同時のリアルタイムRT-PCR分析が可能です。

TaqManプローブ法とは

新型コロナウイルスのPCR検査には主にTaqManプローブ法による定量RT-PCRが用いられています。TaqManプローブ法は、DNAプローブの5’端に蛍光色素(Reporter)、3’端に消光色素(Quencher)を結合させた蛍光標識されたDNAプロ-ブ(TaqManプロ-ブ)を用いる方法です。一本鎖のDNAの標的配列の3’端側に前方プライマ-、5’端側にTaqManプローブが結合します。アニ-リング段階でPCRプライマ-の伸長反応が進むと、Taqポリメラ-ゼ(DNA合成酵素)が移動して、TaqManプローブに接触します。Taqポリメラーゼの5’→3’エキソヌクレアーゼ活性によりTaqManプローブが加水分解され、塩基がバラバラになります。その後PCRプライマ-の伸長反応が進み、後方プライマまでDNAが合成されます。レポーターとクエンチャーの距離が離れるので蛍光シグナルが発せられます。蛍光強度を検出することで標的配列の複製量を推定できます。プローブの消光作用は双極子-双極子機構によるFRET quenchingです。消光距離は1~10nmで分子同士の接触は必要ありありません。

TaqManプローブ法はプライマー二量体の非特異的な検出がない利点があります。複数のプローブに別の蛍光物質を標識しておけば、マルチプレックス解析を実行できます。

FRETプローブ法

  FRETとは、蛍光共鳴エネルギー転移(Fluorescence Resonance Energy Transfer)のことです。目的mRNAに特異的な2本のオリゴヌクレオチドのうち、一方の3’末端に蛍光物質A、もう一方の5’末端に蛍光物質Bが修飾されているFRETプローブを用いる手法です。  この2本のオリゴヌクレオチドが、PCR産物に同時にハイブリダイズすると蛍光物質Aの蛍光で蛍光物質Bが励起されることで強い蛍光を発すること利用して測定します。

 

ヘアピンプロ-ブ法

ターゲットにハイブリダイズする際に、ステム・ループ構造を有するヘアピン型プローブが引き伸ばされるとクエンチング効果が解け、蛍光を発する測定方法です。蛍光物質はフルオレセイン(6-FAM)、クエンチャーは DABCYL が用いられます。ステム・ループ構造プロ ーブの消光作用は電子交換機構を原理とした 衝突的消光(Collisional quenching)と呼ばれています。有効距離は 0.3~1nm で、これは蛍光物質とクエンチャーの電子軌道が重なる距離です。

リアルタイムPCRとは

リアルタイムPCRは、蛍光物質を利用してPCRサイクルごとに増える蛍光の増加を検出することでDNAの濃度変化を検出する測定方法です。リアルタイムPCRは定量性があるのでqPCR(Quantitative)とも言われます。ウイルス検出の場合RNAをcDNAにしてリアルタイムPCRを用いるので、RT-qPCR法と書きます。RTは逆転写、qが定量つまりリアルタイムの意味です。RT-qPCR法では元のサンプルに含まれているウイルスの量が分かります。従来の PCR 法に比べて、電気泳動が不要なので、クリ-ンに迅速かつ簡便に解析できます。リアルタイムPCRには、インターカレーション法とハイブリダイゼーション法の2つの方法があります。これらは蛍光の検出方法が異なります。

インターカレーション法は、二本鎖DNAの鎖間に入り込み蛍光を発する色素(SYBR Green Ⅰなどの蛍光物質)を用いる方法です。二本鎖DNAの鎖間に入り込むことをインターカレートといいます。この方法では、PCRの伸長反応のときに二本鎖DNAの中に取り込まれた蛍光物質の蛍光強度を測定することによって、増幅したDNA量を推定できます。

インターカレーション法は安価で使用しやすいのですが、蛍光色素に特異性がないため、どの二本鎖DNAにも結合してしまい、プライマ-二量体を検知してしまう欠点があります。

ハイブリダイゼーション法は、蛍光物質で標識したDNAプローブを用いる方法です。DNAプローブはPCRプライマ-と同様の鋳型DNAの内部配列を持つ短い1本鎖DNAです。

ハイブリダイゼーション(分子交雑)とは、DNA核酸の分子がA-TやG-Cなどのように相補的に水素結合して複合体を形成することをいいます。蛍光標識したDNAプローブは、PCRプライマーと同様に、鋳型DNAに結合(Hybridize)するため、その蛍光DNAプロ-ブ量を蛍光強度を測定することで求めることができます。主にハイブリダイゼーション法にはTaqManプローブ法、FRETプローブ法、ヘアピンプロ-ブ法などがあります。

新型コロナウイルスを特定するPCR検査とは

新型コロナウイルスの検査方法には、PCR検査、抗原検査、抗体検査の3種類あります。抗原検査はウイルスの持つたんぱく質、抗体検査はウイルスに対抗して生成された抗体を検出します。PCR検査はウイルスの遺伝子情報用いてウイルスを検出する検査方法です。新型コロナウイルス情報が毎日報道されるので、PCRはすっかり有名になりました。

PCR(=Polymerase Chain Reaction)法は、1983年に米国のキャリー・マリス(Kary Mullis)によって発明され、シータス社によって発展させられたDNAの増幅方法です。DNAポリメラーゼと呼ばれる酵素の働きを利用して、一連の温度変化のサイクルを経て任意の遺伝子領域を検出・検査できる量まで複製増幅する技術です。DNAポリメラーゼは、1本鎖のDNAを元の2本鎖のDNAに修復する酵素です。これは1958年コーンバーグ(A.Kornberg)らにより大腸菌から発見されました。PCRにより培養で増やせない菌やウイルスの種類を知ることができます。なお、新型コロナウイルスの検体の検査にはバイオセーフティレベル2(BSL2)の安全キャビネットと実験室と防護が必要です。作業前後にはUV灯の点灯、次亜塩素酸ナトリウム液やDNAZapもしくはDNA AWAYなどでの内部清拭が必須です。

新型コロナウイルスはRNA型のウイルスです。RNAは増幅できないので、一旦RNAを鋳型に逆転写(Reverse Transcription)して相補的なcDNAを生成させてPCR法で増幅します(cはcomplimentary)。これをRT-PCR法といいます。RTは室温でもリアルタイムのことでもないので、注意が必要です。

1991年にTW. MyersとDH. Gelfandらにより、逆転写酵素活性とDNA合成酵素活性を併せ持つ酵素(Tth DNA Polymerase)が発見され、この酵素と反応条件の工夫により1種類の試薬と1本の反応容器で逆転写反応とPCR反応が連続的に行えるようになりました。 60℃ 30分間の加温により逆転写反応は進行し、その後PCR反応に移行します。

PCR反応液の作り方を説明します。反応液は、増幅するDNAサンプル、プライマー、DNAポリメラーゼ、合成するDNAの素材である遊離ヌクレオチド(dNTP=デオキシ・ヌクレオチド三リン酸)、Mg2+(2mMのMgCl)を含むバッファー溶液(pH7.5~9.5)を混合して作製します。DNAポリメラーゼには高温で動作するTaqポリメラーゼを使います。Taqポリメラーゼはサーマスアクアティカス(Thermus-aquaticus)という好熱菌由来の酵素です。

プライマーは標的DNAの一部に対して相補的な塩基配列を持つ短い一本鎖DNAです。PCRの目的は、ターゲットDNA鎖全体の複製ではなく、対象となる生命体に特有な約100~35,000塩基対のターゲット配列を複製することです。プライマーはこのターゲット配列の両端を定義する役割を持っています。

一般的に、プライマーは20~30塩基の長さからなる1本鎖の合成DNAです。塩基は4種類あるので、16mer(monomeric unit)(16塩基の長さ)のプライマ-の種類は40億(=416=4・230)にもなります。例えばランダムな30億塩基対(ヒトゲノム)のDNAに16merの長さのプライマと同じ配列は1か所にしかないと考えられます。

DNA合成は常にプライマーの3’末端から始まり、1本鎖DNAテンプレートの5’から3’方向へのみ伸長していきます。順方向プライマーと逆方向プライマーを開始点とし、相補的な2本鎖のDNA分子が効率よく合成されます。

PCRサイクルを説明します。PCRは3ステップを1サイクルとして数十回繰り返して、必要な量まで増幅します。第1ステップでは、反応液を94°Cに加熱し、30秒~1分間温度を保ち、2本鎖DNAを変性(Denaturation)させ1本鎖に分かれさせます。塩基間の結合は水素結合であり93℃程度で壊れます。変性が起こる温度は、DNAの塩基構成および長さ(塩基数)によって異なり、一般に長いDNAほど変性温度を高くする必要があります。

第2ステップでは、60℃にまで急速冷却し、1本鎖DNAとそれに結合する短い一本鎖DNAであるプライマーを結合(Annealing)させます。二本鎖DNAの50%が解離して一本鎖となる温度はTm値(melting temperature)と呼ばれています。Tm値は塩基配列の構成と塩基数および反応液の塩濃度などにより決まります。プライマーのTm値の計算には、「Nearest Neighbor法」を用いた計算ソフトがあります。アニーリング温度はプライマーのTm値(65℃)以下に設定します。アニーリング温度がプライマーのTm値以上だとプライマ-が1本鎖DNAに結合しません。アニーリング温度が低すぎると、プライマ-同志が結合してしまいます。プライマーは凍結融解を繰り返すと分解する恐れもあるので、10回程度で使い切るくらいの量に小分けして-20℃で保存します。

第3ステップでは、再び72°Cに加熱して、1〜2分保ちます。酵素は1分間に2~4kbを合成するので、標的配列の鎖長が1kb以下の場合は1分間で充分です。この時2つの1本鎖DNAに結合したプライマ-の隣に反応液中の塩基が次々に結合して伸長(Elongation、Extension)し、2つの2本鎖DNAが得られます。72°Cは、プライマーの分離がおきず、DNAポリメラーゼの活性に至適な温度です。わずか20サイクルのPCRにより、ターゲットのおよそ100万(220)コピーが合成されることになります。通常25~40サイクル行います。

サーマルサイクラーは、サーマルブロックと呼ばれる金属板でプログラム通りに反応チューブを急速に加熱・冷却する機能を持ちます。金属板にはヒーターやペルチェ素子などがついており的確に反応液の温度を上下させます。

PCRでDNAを増幅していくと、いずれPCRの基質(dNTP)やプライマーの枯渇などにより、温度サイクルを増やしてもDNAが増えなくなります(プラトー現象)。そのため初期のDNA濃度に数倍の差があったとしても、数十回のPCRサイクル後には増幅産物の量に差が見られなくなるため、初期DNA量の定量を行うことはできません。

糖1分子で生産できるATP数はいくつでしょうか?

結局NADHを電子伝達系で用いる場合には、合計10H+がマトリクスから膜間腔へ輸送されます。FADH2の場合は合計6H+が膜間腔へ輸送されます。膜間腔のH+濃度と電位が高くなっているので、ミトコンドリア内膜を挟んだプロトン駆動力を利用してATP合成酵素がATPを合成します。

ATP合成酵素はF0サブユニットとF1サブユニットによる分子モ-タとして機能します。F0はミトコンドリア内膜に埋まっていて、F1はミトコンドリア・マトリクスに突き出た形で存在しています。F0モーターがH+の濃度勾配によるエネルギを使ってF1モーターを回すことによって、ATPを産生しています。3分子のH+がマトリクスへと輸送されるごとにATP1分子が合成されます。

しかし、実際にマトリクスにおいてATPを合成するためには、ATP合成の材料となるADPやリン酸Piをマトリクス内に取り込む必要があります。また、合成されたATPの大部分は細胞質で利用されるため、マトリクスから細胞質へと輸送される必要があります。

内膜を隔てたATP、ADP、Piの輸送
ミトコンドリア内膜を隔てたATP、ADP、 Piの輸送はアデニン・ヌクレオチド・トランスロカーゼとリン酸輸送体という2つの膜タンパク質によって行われています。アデニン・ヌクレオチド・トランスロカーゼは、ATP-ADP交換タンパク質のことで、細胞質のADP3-をミトコンドリア内へ、ミトコンドリア内のATP4-を細胞質へと対向輸送しています。この対向輸送では、プロトン勾配の電荷の差が用いられています。

リン酸輸送体は、細胞質のPiをミトコンドリア内へと輸送するときにH+も同時にミトコンドリア内へと共輸送します。この共輸送ではH+の濃度差が用いられています。ちなみに、対向輸送とは、膜の内外で異なる物質を相互に逆方向に移動させる輸送のことで、共輸送とは、膜の片側から異なる物質を同方向に移動させる輸送のことをいいます。

ミトコンドリアの外にATPを輸送し、マトリクスにADPを供給するためには、H+1個分のプロトン駆動力が用いられていました。ATP合成酵素は3H+で1個のATPを産出するので、細胞質内でATPを1分子増やすためには、4個分のH +が膜間腔からマトリクスに流入する必要があります。この数はNADHやFADH2が1分子あたりでどれくらいのATPを産生するかの指標となります。

細胞質内のATPを1分子増やすためには、4個分のH +が膜間腔からマトリクスに流入するということを踏まえると、NADH1分子あたり
・10[H+]/4[H+/ATP]=2.5ATP
FADH21分子あたり
・6[H+]/4[H+/ATP]=1.5ATP
が合成されることになります。

好気呼吸では、1分子のグルコースが「解糖系→ピルビン酸のアセチルCoAへの変換→クエン酸回路」という経路でATPやNADH、FADH2を生成していました。解糖の過程で2分子のATPと2分子のNADH、2ピルビン酸→2アセチルCoAの過程で2分子のNADH、クエン酸回路の過程で2分子のATP(GTP)と6分子のNADHと2分子のFADH2が生成されます。

・4ATP+10NADH・2.5[ATP/NADH]+2FADH2・1.5[ATP/FADH2]=4+25+3=32ATP
結局1分子のグルコ-スは、嫌気的代謝では2分子のATPしか生成できませんが、好気的代謝では32分子ものATPを細胞外に生成できることが分かります。

細胞は糖を取り込み、ミトコンドリアで大量のATPを合成できることが分かりました。青森出身の安保先生によると、若い時は解糖系の瞬発力を主に使い、老年期になるとミトコンドリア系の持久力を主に使って活動するので、年齢ともに少食にしていった方が適正体重を保ちやすいそうです。

 

TCA回路と電子伝達系

解糖系では1分子のグルコ-スは2分子のピルビン酸を生成するので2分子のNADHを生成します。さらに1分子のピルビン酸は、細胞内のミトコンドリアに送られ、ミトコンドリアのマトリックス内のTCA(tricarboxylic acid cycle)回路で3分子のNADHを発生させます。ミトコンドリアは外膜、膜間腔(まくかんこう)、内膜、マトリックスの2重膜構造を有しています。細胞によっては100~3000個ものミトコンドリアが含まれています。

運動してミトコンドリアが増えると同じ呼吸量でもATPの生産効率が高まるので、楽に走れるようになります。運動前は空腹にしておいて、最初に筋肉トレ-ニングをして汗をかいて有酸素運動状態に入ってから30分歩くだけでミトコンドリアは増加します。サウナの後に水風呂に入るとミトコンドリアは増加します。週末の2日間は摂取カロリを30%減らすのが有効です。日本医科大学の太田成男教授によると1日2時間の運動を1週間続けるだけでミトコンドリアは30%増加すると言われています。

TCA回路ではATP を直接作るのではなく、NADHやFADH2を作ります。さらにNADHやFADH2が呼吸鎖系でミトコンドリア内膜に水素イオンH+の濃度勾配を形成することにより、ATPを産生します。TCA回路は糖代謝だけでなく、アミノ酸代謝、尿素回路、糖新生など多くの代謝経路の仲立ちをしています。

TCA回路の全体反応は
・CH3-CO-S-CoA+3NAD ++FAD+2H2O+GDP+H3PO4
 → S-CoA+2CO2+3NADH+FADH2++2H++GTP
です。

NADHとFADH2はミトコンドリア内膜に埋め込まれた4つのたんぱく質複合体と反応してNAD +とFADに戻り、その際にミトコンドリアのマトリックスから膜間腔にH+を放出します。NADHは、解糖系で2分子、ピルビン酸脱水素酵素で2分子、TCA回路で6分子、合わせて10分子のATPを発生します。複合体ⅠでNADHはFMN(フラビン・モノヌクレオチド)と反応し、FMNに水素を渡します。FMNH2はFeSクラスタを介して、CoQ(ユビキノン)に水素を渡します。
・NADH+H+ +FMN→ NAD++FMNH2
・CoQ+FMNH2→CoQH2+FMN
複合体Ⅱでは、コハク酸がフマル酸(2重結合あり)に変化するときには自由エネルギ変化が小さいのでFADが使われます。
・HOOC-CH2-CH2-COOH+FAD →HOOC-CH=CH-COOH+FADH2
この反応で膜間腔に放出されるH+はありません。FAD (=Flavin Adenine Dinucleotide) はフラビン・アデニン・ジヌクレオチドの略語で、酸化還元反応における補酵素の一種です。FADの酸化還元電位は -219 mV で NAD 系より100mV程高く、開放エネルギが少なくNAD が使えないような反応で脱水素することができます。FADH2ではFADの左上の環が3つ並んだ部分の2つの酸素の二重結合がOH基になります。FADはADPにC5系炭素鎖と3環系のキノンが結合した構造をしています。

複合体Ⅲが行う電子伝達はQサイクルと呼ばれます。この反応では、まず、2分子のユビキノール(CoQH2)がユビキノン(CoQ)に変換される過程で4Hを膜間腔へと放出します。
・2CoQH2→ 2CoQ+4H++2e+2e
・CoQ+2H++2e→CoQ H2
・Cyt(Fe3+)+2e-→Cyt(Fe2+)
なる反応が生じ、シトクロムcが還元されます。シトクロムcは膜間腔側にありヘム鉄(=鉄+ポルフィリン環)が含まれています。
複合体Ⅳは、シトクロムcオキシダーゼと呼ばれ、シトクロムc(Fe2+)を酸化して酸素を還元します。複合体 Ⅳが行う電子伝達の第一段階では、シトクロムc の電子がCuAに渡されます。その後、電子はヘムa→ヘムa3→CuBを経て、最終的に酸素(1/2O2)へと渡され、水(H2O)に変換されます。酸素分子の酸化還元電位は約 +810 mVであり、FAD よりはるかに電子を受け取りやすくなっています。
・Cyt(Fe2+)+2H++1/2O2 → Cyt(Fe3+)+H2O
このシトクロムcから酸素に電子が2個渡される過程で、2分子のHがマトリクスから膜間腔へと輸送されます。複合体Ⅳにはヘム鉄(ヘムa)が多く含まれていますので、青酸カリがこのヘム鉄に配位すると、電子伝達系を阻害して、窒息してしまいます。

生物の活動メカニズムについて

私たちは炭水化物を食べてエネルギ、すなわちATP(=Adenosine TriPhosphate)を生成して活動しています。1939年にEngelhardtらによって、筋収縮のタンパク質であるミオシンがATPを加水分解することが発見され、1942年にセント=ジェルジによってATPが筋収縮に関わるエネルギ源であることが解明されました。ATPはリボ-スの両側にアデニンと3リン酸が結合した構造をしています。

生体内では、ATPにリン酸1分子が離れたり結合したりすることで、エネルギの放出・貯蔵、あるいは物質の代謝・合成が行われています。ATPは加水分解によりエネルギを発生させます。酵素反応がATPの加水分解反応と共役することで、物質の代謝・合成が行われるのです。すべての真核生物がATPを直接利用しているため、ATPは生体のエネルギ通貨とも呼ばれています。
・ATP+H2O → ADP(アデノシン二リン酸)+ H3PO4(リン酸)
・ΔG°’ = −30.5 kJ/mol (=−7.3 kcal/mol) 標準自由エネルギ変化
細胞内では、ATP濃度はADPの10倍程高く、リン酸濃度も標準状態の1%以下であるため、細胞内の環境ではATPの加水分解に伴って放出される自由エネルギは−10〜−11 kcal/mol にもなります。

糖からATPはどのように産出されるのでしょうか?

炭水化物は胃腸で消化されて糖となります。糖は腸で吸収され血液と共に各細胞に送られ、細胞質内の解糖系で分解されてピルビン酸(CH3-CO-COOH)になります。嫌気的条件下ではピルビン酸は乳酸になります。好気的条件下ではピルビン酸は、CO2(=ピルビン酸のカルボキシル基に相当)を排出し、アセチル基(CH3CO-)になり、脱水素酵素においてNAD+を還元して、補酵素(HS-CoA)と不可逆的に反応し、
・CH3-CO-COOH+NAD+ → CH3-CO-S-CoA+CO2+NADH+H+
アセチルCoA(CH3-CO-S-CoA)を生成します。反応にはビタミンB1が必要です。これは不可逆反応なので、動物は脂肪酸から糖を合成できません。脊椎動物の細胞では糖から乳酸になるのは 4% 程度で、殆どは好気的にアセチルCoAを生成します。脂肪やたんぱく質も分解されてアセチル CoAとなってTCA 回路に入り、最終的に二酸化炭素 にまで酸化されます。過剰のアセチルCoAは中性脂肪を生成するため、アセチルCoAの代謝を抑制することで動脈硬化、高脂血症を防ぐことができます。アセチルCoAはADPに2つのペプチド結合を有する側鎖がついた構造をしています。

NAD (=Nicotinamide Adenine Dinucleotide) は ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド) と呼ばれる電子運搬体です。NADは2つのHを同時に引き抜き、自分がNADHになりつつ水素イオンH+を放出します。NADの酸化還元電位は‐320 mV と低く、異化代謝系で比較的大きなエネルギが解放される場合に、酵素反応に共役して脱水素反応を担います。NADはアデノシン・モノリン酸にニコチンアミド・リボ-ス・リン酸が酸素を介して結合した構造をしています。

ヒトの大脳はどうして大きいのか?

焼き芋は大量のグルコ-スを脳に供給したと考えられます。ヒトの脳は大量のグルコ-スからニュ-ロンを守るために、グリア細胞を増やさなければならなかったのです。つまり焼き芋によって、ヒトの大脳は大きくなったと考えられます。

加熱により食物の消化が良くなったので、ヒトの腸の長さも短くなり、体型がスリムになり、歩き方も洗練されてきたでしょう。広域を移動して、果実や獲物を取ることもできるようになったでしょう。グルコ-スは肝臓だけでなく皮下脂肪として蓄えられるようになったので、体毛が減りました。暑い中でも歩けるように、汗腺(エポクリン腺)を発達させたと考えられます。

ヒトの脳は体重の2%の重量しかありませんが、25%のエネルギを消費しています。脳のエネルギ消費量の90%は、グリア細胞ではなく、ニュ-ロンが消費しています。筋肉は絶えず分解されて脂肪として肝臓に蓄えられ、肝臓は絶えず脂肪を分解しグルコ-スを脳に送っています。血糖値を抑制するために大量のインスリンが放出されます。インスリンは成長ホルモンなのでグリア細胞が増殖します。グリア細胞が増殖するとニュ-ロンの接続数や電気伝達速度が増大し、エネルギ消費量が増えます。人間のエネルギの半分は肝臓と脳で消費されています。

今回、ヒトの本質が焼き芋を食べるサルであることを説明しました。驚くべきことではありますが、分かってしまうと当たり前のことかもしれません。森林を焼き尽くし、石油を消費するのは、人間の本性と関わりがあることなのですね。

グルコ-スとデンプンについて

グルコ-スは環状の有機物ですが、1%ほどは鎖状になっており、先端に反応性の高いアルデヒド基(-CHO)を有しています。これがタンパク質のNH2基と容易に反応しシッフ結合するので、タンパク質は糖化により劣化していきます。赤血球は、狭い毛細血管を通るために核やミトコンドリアがないので、栄養源にブドウ糖を必要とします。赤血球の寿命が4か月しかなのには、ブドウ糖がヘモグロビンを劣化させるからです。

胎盤はブドウ糖を遮断しており、子宮内の胎児には、酪酸などのケトン体の形でエネルギが供給されています。胎盤によって胎児の脳はブドウ糖から守られているのです。もちろんニワトリの卵の中にもブドウ糖は含まれていません。

200万年前に人類は、山火事の後、芋の根が食べやすくなっていることに気づいたのでしょう。土に芋を浅く埋めて、木の葉で覆い、その上で焚火をすることで、芋を加熱して食べる方法を思いついたのでしょう。芋は重要な食糧です。現在の狩猟採種生活民といえども、食料の7割がたは芋や木の実などを食べて生活しています。芋はデンプンですが、生のままでは消化がよくありません。加熱することでデンプンがアルファ化し、食べられるようになります。

デンプンはグルコ-スがグルコシド結合で連なった有機物です。デンプンの直鎖部分(アミロ-ス)は、グルコースがα1-4結合で連なったものです。アミロペクチンは分枝があるデンプンで、分岐は直鎖の途中からグルコースのα1-6結合によるものです。もち米はアミロペクチンが多いため、不透明な白色をしています。

天然のデンプンは、βデンプンと呼ばれ、結晶状態にあります。加熱されたデンプンは、αデンプンと呼ばれ、糖鎖間の水素結合が破壊され糖鎖が自由になった状態にあります。α-グルコース分子が直鎖状に重合している部分は、水素結合によりα-グルコース残基6個で約1巻きのラセン構造になっています。また、ラセン構造同士も相互に水素結合を介して平行に並び、結晶構造をとります。

アルドラ-ゼについて

解糖系の第4ステップの酵素は、フルクト-ス・1.6ビス・リン酸(=FBP)を2つのC3化合物に分解するアルドラーゼ(Aldolase)です。タンパク質デ-タバンク(PDB)でこの酵素の構造について調べ、反応機構を推測しました。

PDB番号4ALD(1998年)にヒトの筋肉の解糖系のアルドラ-ゼ酵素(FBPを含む)のデ-タがありました。ヒトの筋肉のアルドラ-ゼは363個のアミノ酸からなるタンパク質です(EC4.1.2.13)。

今回はRasMolという無料ソフトウエアで、タンパク質デ-タを描画し、周囲のアミノ酸を確認しました。例えばLys229を表示する場合、コマンドラインでRasMol>Select [Lys]229:Aと打ち込んで選択し、メニュ-でstick&Ballを選んでLys229を表示させます。

FBPフルクト-スは、酵素の反応ポケットに取り込まれ、10個程度のアミノ酸で取り囲まれ、水素結合で固定されています。229番目のリジンと33番のアスパラギン酸の触媒作用によって、FBPは2つのC3化合物に分解すると考えられます。

2つのC3化合物とは、ジヒドロキシ・アセトンリン酸(=DHAP)とグリセル・アルデヒト3リン酸(=GAP)のことです。こうした化合物の名前は、慣れるまで、発音するのも難しいです。

下図に示すように、酵素反応は4段階からなると考えられます。

最初にアルドラーゼに嵌まり込んだBFPフルクト-スは、開環し、FBPのC2炭素のカルボニル基(C=O)がリジン229のアミノ基(NH2)と脱水反応し、シッフ結合します。その結果C2炭素はC=OからC=N+Hのイミン状態に変化し、リジンと結合します。

私たちの血管が老化するのは、血管壁のコラ-ゲン・ペプチドが糖と反応してシッフ結合を形成するからだと思います。そういう意味でもこれは健康に関わりの深い反応です。

次にアスパラギン酸33のカルボキシル基(COO)がBFPフルクト-スのC4炭素のOH基からHを奪います。それによってC4炭素に電子が供給され、C3とC4の間の結合がアルド-ル開裂し、グリセルアルデヒト3リン酸(GAP)が生成れ、ポケットから離脱します。

ポケットに残った化合物はエナミン状態になっていますが、アスパラギン酸のCOOH基からHを供給されると、C2炭素は元のイミン状態(C=N+H)に戻ります。最後に加水分解により、シッフ結合が解けて、C2炭素はC=Oに戻り、グリセル・アルデヒト3リン酸(GAP)となって、反応ポケットから離脱します。

次の第5ステップではDHAPはGAPに変化します。つまり1分子のグルコ-スから2分子のGAPができます。フルクト-スを分解することで、後半の反応が1本化できます。もしグルコ-スを分解すると、G2化合物とG4化合物となってしまい、後半の反応が1本化できません。

これで解糖系の前半は終了します。前半はグルコ-ス1分子に対して2分子のATPを消費しました。後半では4分子のATPを生産します。結局、解糖系全体では2分子のATPが得られます。解糖系は殆どすべての生物に見られる古い代謝系です。

ホスホフルクトキナーゼについて

ホスホ・フルクト・キナーゼ (PFK, phosphofructokinase) は、解糖系の第3段階の反応を触媒する酵素です。生体内では4量体で存在します。

PFK酵素は、フルクトース6-リン酸(=F6P)にリン酸を加えて、フルクトース1,6-二リン酸(=F-1.6-BP)を合成します。これは解糖系の不可逆反応の一つです。PFKは解糖の重要な律速酵素の一つになっています。

反応前後の標準自由エネルギ変化はΔG0’=-17.2kJ/mol、生体内ではΔG=-25.9kJ/molで、反応は一方向に進みやすくなっています。ADPなどの分子エフェクタがPFK酵素のアロステリック制御部位に結合すると、酵素全体の構造が変化して、合成反応が促進されます。ADPやcAMPや反応生成物であるF-1,6-BPはPFK酵素を活性化し、ATPやH+やクエン酸はPFK酵素を抑制します。

実際にどのように反応が進むのでしょうか?

図1にリン酸フルクトキナ-ゼの活性中心にあるフルクトース6-リン酸とADPの配置を示します。これはタンパク質デ-タバンクにあるX線解析による構造であり、実際はADPの先にリン酸基がついたATPとF6Pが反応します。ATPとF6Pは非常に近い位置にあることが推測できます。また緑の原子はMg2+イオンを表しています。Mgイオンは負に帯電したリン酸基を中和して、反応を起こりやすくする働きがあります。

図2にADPに水素結合するアミノ酸を示します。ADPのP=O部の酸素Oとアスパラギン酸103のアミノ基NH2は水素結合をしています。ATPにおいても同様にP=Oとアミノ基の水素結合が生じると考えられます。このアミノ基が水素を引き抜くと、P=O部の二重結合が解けて、電子を欠乏したPが他の電子を有する原子と結合しやすくなります。

図3にフルクト-ス6リン酸に水素結合するアミノ酸を示します。F6PのC1炭素の:OH基は孤立電子対を有しており、OはPと結合しやすい状態になっています。またOH基はメチオニン169の硫黄Sと水素結合をしています。この硫黄SがOH基のHを引き抜くと、C1炭素の酸素Oは直ちにPと共有結合を形成します。このように、生体内では酵素のアミノ酸の助けを借りて、化学反応が円滑に進行していると考えられます。

ちなみにヒトの PFKには、筋肉 muscle、肝臓 liver、血小板 platelet 型の 3 つがあり、それぞれ PFKM, PFKL, PFKP と呼ばれています。PFK の変異による病気に垂井(たるい)病があります。これは筋力の低下、溶血などを伴う病気です。多くのガンでPFKの活性が高いことから、PKFとガンとの関わりが注目されています。

グルコース6リン酸イソメラーゼについて

解糖系の2つめの解糖ステップでは、グルコース-6-リン酸イソメラーゼ(図1)により、グルコース-6-リン酸がフルクトース-6-リン酸に異性化されます。つまり酵素の中で6印環が5印環に変化します。この反応は自由エネルギ変化が小さいため、どちらの方向にも進みますが、フルクトース-6-リン酸は不可逆的に消費されるので逆反応は起こりにくいようです。標準自由エネルギ変化はΔG0’=+2.2kJ/molですが、生体内ではΔG=-1.4kJ/molと小さくなっています。

このような異性化反応は、酵素の反応中心を構成するアミノ酸が重要な役割を果たしています。タンパク質デ-タバンク(ID=4QFH)でイソメラ-ゼの構造を調べてみました。

図2、.図3にグルコ-ス6リン酸と水素結合するアミノ酸を示します。簡単のため、水素は表示されていません。グルコ-スの6印環の酸素Oに水素結合しているのは、44番目のヒスチジン(His443)のNH(青)です。右隣のC1炭素の酸素(赤)に結合しているのが572番目のリジン(Lys572)のアミノ基NH2(青)です。412番目のグルタミン酸(Glu412)がグルコ-スの6印環の2つのOH基と水素結合しています。リン酸も周囲の他のアミノ酸と水素結合で固定されています。

どうやって6印環から5印環に変化させるのでしょうか?
イソメラーゼのアミノ酸であるHis443は、6印環の酸素Oに水素Hを与え、グルコース 6-リン酸を開環し、直鎖構造(αアノマー)に変えます。Lys572はC1炭素のOH基から水素を奪い、C1炭素をアルデヒド基(CHO基)に変えます。さらにグルコ-スのカルボニル基(C=O基)がC1炭素からC2炭素へ移動することで、アルドースはケトースへと転換されます。最後に、6印環の酸素OがC2炭素と求核反応により結合して5印環のフルクト-スになり、水素結合が外れます。

どうしてフルクト-スを経由するのでしょうか?
フルクトースを経由すると代謝に用いる酵素の種類を少なくて済みます。脂肪酸のβ-酸化で見られるように、炭水化物が分解される場合、カルボニル基のβ位(C2とC3の間)で切断されます。これはカルボニル基の酸素の電子吸引性のためβ位の炭素が活性化されているためです。グルコース-6-リン酸(C6化合物)の場合、C-C結合をβ位で切断するとC2とC4の化合物が生じます。一方、フルクトース-6-リン酸であれば、2つのC3化合物が生じます。この一方(ジヒドロキシアセトンリン酸)を異性化して同じ分子(グリセルアルデヒド-3-リン酸)にすることによって、以後の解糖代謝経路を一本化できる利点があるのです。

ヘキソキナーゼ酵素の働きについて

図1に筋肉にあるヘキソキナーゼⅠ(hexokinase)の外観モデルを示します。EC番号2.7.1.1は転移酵素でリン酸を移すものを表しています。ヘキソキナーゼはATPの末端のリン酸基をヘキソース(6単糖)のOH基に転移させる酵素です。ヒトのヘキソキナーゼはアミノ酸残基数が917個、原子数は7,056個です。2回回転対称性(C2)があります。

ヘキソキナーゼが活性化するにはMg2+が必要です。Mg2+がATPのリン酸基に配位結合すると、リン酸のマイナス電荷が減って、ヘキソースのOH基がPを求核反応しやすくなるからです。
・Hexose-CH2OH +MgATP2− → Hexose-CH2O-PO32−+MgADP+ H+

図2と図3にヘキソキナーゼの空洞部分に結合したグルコ-スとリン酸のリガンド配位図を示します。これらの3次元モデル図は、タンパク質デ-タバンク(PDB)のウエッブサイトにて無料で得られます。ヘキソキナーゼⅠのPDB-IDは1HKCです。ヘキソキナーゼは、グルコ-スとATPを取り入れると、両者を接近させるように変化します。それによってATPが加水分解しないように水分子を遮断する働きもしています。

BGC918は919番目のグルコ-スを、PO4919は919番目のリン酸を表しています。重要なことは、ヘキソースのOH基がリン酸に最も近い位置にあることです。G233は233番目のグリシン、S88は88番目のセリン、T232は232番目のトレオニン、I229は229番目のイソロイシン、F156は156番目のフェニルアラニンを表しています。他にもプロリンP157、アスパラギンN235、グルタミン酸E294、グルタミンQ291などが見られます。

グルコ-スやリン酸は周囲のアミノ酸と水素結合をしています。つまりグルコ-スのOH基(赤)やリン酸基の酸素(赤)は、周囲のアミノ酸のCOOH基のOH部分(赤)やNH2基(青)と水素結合(青色破線)をしています。アミノ酸同士は疎水性相互作用などもしています。

殆どすべての酵素が、どのように反応物質を保持して反応させているかが誰でも簡単に確かめられる時代になったのです。

グルコ-ス解糖系の第1過程

グルコ-スは6個の炭素原子を有する6単糖です。解糖系は細胞質内でグルコ-スを2分子のピルビン酸にする生化学的なプロセスです。2分子のATPと2分子のNADHが得られます。
その後、好気的な生物では、ピルビン酸は細胞のミトコンドリア内に送られて、クエン酸回路に入り、様々な有機酸に変換されます。その過程でATPやNADHが発生します。生物はATPのエネルギを使って、代謝に必要な様々な物質をつくり出しています。

解糖系は10個の反応過程から成ります。解糖系の第1過程は、ATPによるグルコ-スのリン酸化です。すなわち図1に示すように、グルコ-スとATPが反応し、グルコ-ス6リン酸とADPとH+が生成します。6は6番目の炭素にリン酸が結合していることを意味しています。ATPはPO32–ADPと書けます。反応を促進させる酵素はヘキソキナーゼというリン酸転移酵素です。

ATPのリン酸には、Pと二重結合しているOがあります。この酸素は電子を引っ張るので、P=OがP-O-となります。Pは、5本の結合手を持つので、結合手をもう1本受け入れられる状態になります。

グルコ-スの6番目の炭素はCH2OHに含まれています。その酸素O:には孤立電子対があり、ATPのPと求核反応を起こします。ATPとグルコ-スがヘキソキナーゼに結合すると、グルコ-スのCH2OHはPの近くに配置されます。CH2OH はPと結合し、H+を放出します。P-O-がP=Oに戻ると、PとADPの結合が切れます。ADPは結合に使っていた電子を引き取り、ADP-となります。結局、反応は

・ グルコ-ス + PO3-ADP → グルコ-ス6リン酸 + ADP- + H+

となります。解糖系の第1過程ではATPを1個消費してしまいます。10個の反応過程で用いられる酵素はすべて異なりますが、有機化学の基本知識があると、複雑な生化学の反応を理解することができます。