血管が収縮するメカニズムについて(1)

風邪を引くと体温が上がります。多くの人は漠然と免疫細胞がウイルスを攻撃するから発熱すると考えています。正確には免疫系が体温を高く設定するためにウイルスが弱まり、免疫細胞の攻撃を受けて分解します。ウイルスは平熱の体温のとき自分の酵素反応が最も早く進行するので、体温が上がると活動が弱まるのだと考えられます。

私たちは体温を上げるのに毛細血管を細く収縮させます。毛細血管を収縮させると血流が低下して放熱が抑制されて体温が上がります。血管の内側は内皮細胞で覆われており、その外側に平滑筋細胞があります。平滑筋細胞が収縮すると血管が細くなります。血圧をあげるときにも血管を収縮させます。横紋筋は随意的に動かせますが、平滑筋は随意的に動かせません。横紋筋の収縮制御機構は解明されていますが、平滑筋の収縮制御機構は複雑でまだ解明されていない部分もあります。血管の収縮には1分以内、1時間以内、1日以内の3つの反応速度の異なる収縮があります。また血管には動脈と静脈、太いものや細いものや毛細血管によっても収縮の機構は異なります。ここでは数時間で収縮する静脈の毛細血管を想定し、その平滑筋の一般的な収縮機構について調べたことをお話したいと思います。

血管の内皮細胞から放出された情報伝達物質は平滑筋細胞の細胞膜にある受容体に結合すると、様々な反応が生じた結果、筋原線維のミオシン分子がリン酸化されて、アクチン分子上を滑って収縮します。血管を収縮させる情報伝達物質には、ノルアドレナリン(NA)、アセチルコリン(Ach)、アンジオテンシンⅡ(アミノ酸が8個のペプチド酵素)などがあります。NOやH2O2など血管を拡張させる物質もあります。

 ミオシンにリン酸を付加する酵素がミオシン軽鎖キナ-ゼです。キナ-ゼというのはリン酸を付加する酵素のことです。Caとカルモジュリンの複合体がミオシン軽鎖キナ-ゼを活性化します。カルモジュリンはCaを4原子吸着すると、直角の腕のような構造をしたタンパク質になります。

結局、血管を収縮させる情報伝達物質が平滑筋細胞の受容体に結合すると、細胞内のCa濃度が上昇することで、Ca-カルモジュリン複合体の濃度が増加して、血管が収縮します。

一方、ミオシン軽鎖ホスファタ-ゼというリン酸化ミオシンからリン酸を除去する酵素があります。ミオシン軽鎖ホスファタ-ゼを不活性化すれば、血管の収縮が保たれます。具体的には、活性化したRhoキナ-ゼがミオシン軽鎖ホスファタ-ゼにRhoとリン酸を付加するとミオシン軽鎖ホスファタ-ゼが不活性化します。血管収縮過程には、活性化したRhoキナ-ゼを増やす作用があり、それによってミオシン軽鎖ホスファタ-ゼが不活性化して、リン酸化ミオシンからリン酸を除去する力が弱まり、血管の収縮が保たれます。結構ややこしいですね。

Rhoタンパク質とはRas homolog(ラス相同性)タンパク質のことで、Rasはラットの肉腫(Rat sarcoma)から見つかった低分子(21kDa)のGTP結合タンパク質の一種です。Gタンパク質と同様に不活性状態ではGDPが結合しており、シグナルを受けて活性化するとGTPとなります。相同性とは遺伝子配列が共通の祖先をもつ類似性のことです。Rhoタンパク質は転写や細胞増殖、細胞の運動性の獲得のほか、細胞死の抑制など数多くの現象に関わっています。

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