降雪機の物理と生物

北京五輪のスキー競技場は北京から180km離れた張家口の山岳地帯にあります。乾燥しているので、300台の人工降雪機でゲレンデの全ての雪を賄っています。出口の無数のノズルから水と圧縮空気(5MPa)を吹き出して、断熱冷却効果で水滴を球状に氷結させ、大型軸流ファンで放出します。雪大砲は高所に設置され、落下までに雪になります。1m3の雪を作るのに2kW 位の電力がかかります。寒い夜間に一晩中稼働させ騒音を発するので、野生動物には迷惑な話です。今回中国は雪の核形成を促進するヨウ化銀(感光剤)の粉を145個のロケット弾で撒いています。最近はヨウ化銀には毒性があるので控えられています。
水と空気の混合ノズルから氷結核を放出し、同時に水を別のノズルから噴射することで水滴から蒸発した水を氷結核に付着させて雪をつくる方法があります。これなら環境汚染になりません。
水は0℃以下になっても過冷却状態になり−40℃になるまで氷結しません。ホコリがあると−15℃、ヨウ化銀だと−8℃で氷結します。
スノーマックスというP.シリンガエ細菌(極鞭毛グラム陰性)の粉を水に入れて噴射すると−2℃で氷結できます。1985年のカルガリー五輪では、この細菌をガンマ線照射して造雪しました。
1985年にステファン リンドウ博士が雲の中から氷結活性細菌を発見しました。氷結活性タンパク質は1200個の塩基でコードされたNRCの3ドメイン構造であることが分かっています。このタンパク質の一部が氷晶の格子定数と一致しているので氷の核形成が可能になります。
シリンガエ細菌は自分を凍らせて雲になって移動し、雨と共に降りてきて、野菜の葉っぱに付着します。この細菌が付着すると容易に凍るので霜害を生じさせます。細菌は野菜の表面を氷結により破壊して内部に侵入します。雲ができる原因が特定の細菌にあったとは驚きです。
遺伝子組み換えにより氷活性タンパク質のコードを破壊したシリンガエ細菌の変異株を作成しフロストバンなる商品が作られました。変異株が葉を覆うと通常株が繁殖できなくなります。1987年にフロストバンはカルフォルニアの苺農場で撒かれました。これが世界初の遺伝子組み換え生物の屋外開放例となりました。効果はありましたが、強い反対に逢いました。
近年では卵を産めないノックアウト昆虫の開放により、害のある昆虫を駆除することは行われており、大きな成果をあげているようです。結局最後は野菜の話になってしまいました。私は科学の進歩の速さにはっきり言ってついて行けません。

4.東日本の東西圧縮による隆起

1500万年前にフィリピン海プレ-トは、北西方向に移動方向を変更したために、東日本にかかる力は、太平洋プレートだけになりました。フィリピン海プレ-トが北上してきたために、太平洋プレートが東日本に沈み込み難くなり、太平洋プレートの東日本への沈み込み帯(日本海溝)が30kmも大陸側に移動し、東日本を東西に圧縮するようになりました。太平洋プレ-トによる東西圧縮によって、殆どが海底下にあった東日本は隆起して、新潟県の八海山をはじめ奥羽山脈や北アルプスなどが形成されました。

高山の形成により、季節風が大量の降雨をもたらし、土砂が堆積し平野部を拡大させました。急な河川は透明度が高いので、川底の岩に苔が繁茂し、アユが繁殖しました。急で短い河川はCa濃度が低いので、出し汁がよく取れる軟水が得られます。日本の位置と複雑な地形が、四季、絶景、温泉、豊かな水と生態系を生み出し、日本の和食文化を生み出しました。プレ-ト運動により、日本人は数々の災害を受ける一方で、豊かな自然の恵みを享受できるようになったのです。

3.西日本のカルデラ大噴火

1500万年前に高温のフィリピン海プレ-トは、南下する西日本の下に沈み込み、地下に大量のマグマを貯蓄し始めました。フィリピン海プレ-トの沈み込み角度は小さいので、比較的浅い領域にマグマが発生しました。フィリピン海プレ-トと接する、静岡、紀伊半島、四国南岸、九州南岸部の地下には大規模なマグマ溜まり(カルデラ)が形成され、400万年前に大規模なカルデラ噴火を生じました。

紀伊半島のカルデラ大噴火では火山灰が2000mも堆積し、世界の気温が10℃も低下したと言われています。現在の紀伊半島には巨石と温泉が環状に分布していますが、これはカルデラ噴火跡を示しています。溶岩のカルデラが固まって地下に巨大な花崗岩(60km幅、20km厚)が形成されました。花崗岩の密度は玄武岩プレ-トの密度より小さいので、プレ-トの沈み込みにより花崗岩は10kmも隆起して、火山帯のない西日本の南部を山岳地帯に変えました。

2.火山島の連続衝突

太平洋プレ-トはフィリピン海プレ-トの下に沈み込んでいます。沈み込むときに高温高圧により海水を吸った太平洋プレ-トから水が絞り出され、マントルの融点を低下させて、マグマを発生させ、上昇したマグマが火山噴火を起こします。そのためプレ-ト境界線に沿ってフィリピン海プレ-ト上に火山列島が形成されていました。2500万年前にプレ-ト境界の端は現在の沖縄周辺にあり、火山列島は東西方向に並んでいました。

太平洋プレ-トは重く沈み込みが激しいので、マントル対流によってフィリピン海プレ-ト縁を高温に加熱し、引っ張りました。通常沈み込むプレ-トの温度は400℃程度ですが、このとき生成したフィリピン海プレ-トの温度は1000℃もの高温になっていたと考えられています。ちなみに400℃以上になったプレ-トの部分は柔軟になり、地震を起こし難くなります。

2500~1500万年前にかけて太平洋プレ-トとフィリピン海プレ-トの境界線は後退し北東方向に移動しました。1500万年前にプレ-ト境界の移動は止まり、境界線の端は現在の伊豆地方にありました。移動が停止したのは、日本海溝と伊豆小笠原海溝が直線的になり安定したからと思われます。1500万年前に1000℃の高温になったフィリピン海プレ-トが北から北西方向に向きを変え、西日本の地下に沈み込み始めました。その理由はよくわかっていません。

 フィリピン海プレ-トの移動方向とプレ-ト上の火山島の配列方向が一致したために、現在の伊豆地方に火山島が連続衝突して東西日本の間が埋まりました。プレ-ト境界は変形し伊豆地方に食い込み、頂点部の火山活動が活発になり富士山が形成されました。甲府から富士山の方を眺めると、様々な山地が見えますが、それらは衝突した火山島の名残です。火山島の衝突により櫛形山系、御坂山系が生じ、500万年前には丹沢山系、伊豆半島が衝突付加しました。これらは南の火山島であり、丹沢山にはかつて海底にあったことを示す枕状溶岩やサンゴの化石が見られます。丹沢山系の高山から土砂が流れ込み、50万年前に関東平野が形成されました。伊豆半島の両側の相模湾と駿河湾は海溝が形成され、湾内では金目鯛などの深海魚が獲れます。

パルスオキシメーターの測定原理

「パルスオキシメーター」は1974年に日本光電工業の青柳卓雄らによって発明された医療機器です。パルスオキシメ-タ-は手術中の酸欠死を激減させた他、酸素過多による未熟児網膜症の防止や救急現場での救命率の向上に貢献しました。1977年にミノルタカメラ社の山西昭夫らによって世界初の指先測定タイプのパルスオキシメータが商品化されました。登山者の高度順化の目安、睡眠時無呼吸症候群のスクリーニング診断にも利用されます。

このセンサは指先の動脈を透過する赤色光と赤外光のパルス強度比を測定します。パルスとは脈動のことです。脈動するのは動脈血管だけなので、透過光のパルス振幅が動脈血の情報を含んでいます。比率を測定するのは、皮膚組織厚や血管の太さや血球密度などHbの酸素濃度以外に透過光強度に与える影響を除去するためです。酸素と結合したHbO2は波長660nmの赤色光を殆ど透過しますが、酸素のないHbは赤色光をよく吸収します。赤外光はどちらも同程度透過します。従って赤色光の透過光強度が減少すると、HbO2が減少したことが分かります。予め血液を採取して別の方法で酸素飽和度を測定し、パルス透過光の強度比変動と対応づけて公正係数を求めておきます。測定したパルス透過光の強度比変動に公正係数をかけることで、動脈血の酸素飽和度を求めることができます。この装置の原理上、一酸化炭素中毒は検出できません。毎日体温・血圧と共に酸素濃度も計っておくといいかもしれません。発明者の青柳卓雄氏は2020年4月18日に84歳で老衰で亡くなられました。

コロナ回復はいつごろになるのでしょうか? ~自宅待機率と感染率との関係

コロナウイルスの感染が大きな社会問題になっています。感染抑制と経済損失の最小化を両立させるためには、感染率に応じた自宅待機率を実現しなければなりません。自宅待機率と感染率の間にはどのような関係があるのでしょうか?また回復にはどれくらいの時間がかかるのでしょうか?簡単な感染モデルで回復時間を見積もってみました。

 感染者数をN[人] 、平均感染期間をT[時間]とすると、時間⊿tの間に増加する感染者数⊿Nは
・ ⊿N=-⊿t/T・N
となります。これを解くと
・ N=No・exp{-t/T}
となります。これは病院などでは感染者数が平均感染期間Tの間に治癒して減少することを意味しています。
 次に感染者が自分は感染していると知らずに外出し、感染を拡大させる場合を考えます。自宅待機率をp、一人の感染者が単位時間に感染させる平均人数をK[人/人/時間]とすると、感染者数⊿Nは
・ ⊿N=K⊿t(1-p)N-⊿t/T・N
と表すことができます。(1-p)Nは外出している感染者の数で、第一項目は外出感染者が増加させる感染者数、第二項目は平均感染期間Tの間に治癒して減少する感染者数を表しています。これを整理すると
・ ⊿N/⊿t={K T(1-p)-1}・N/T
と書けます。これを解くと
・ N=No・exp[{K T(1-p)-1}t/T]
となります。つまり感染者数を抑制させる条件は、係数が負となる条件すなわち
・ K T(1-p)-1<0 
となります。従って自宅待機率pが満たすべき条件は
・ p>1-1/KT
となります。KTは感染率すなわち一人の感染者が平均感染期間中に感染させる平均人数を表しています。例えば
・ KT=2.5 → p>60%
・ KT=5.0 → p>80%
となります。これまで政府は感染率2.5を想定し60%以上の自宅待機率を目指していましたが、感染率が2倍高ければ、感染抑制のためには80%以上の自宅待機率が必要になります。
 ところで回復にはどれくらいの時間がかかるのでしょうか?感染者数が1/eになる回復時間(=37%に減る時間)は
・ Te=T/{1-K T(1-p)}
となります。平均感染時間Tは2週間程度だと仮定しましょう。下図に感染率KTが2.5(赤丸)、3.5(青ダイヤ)、5.0(緑四角)の場合の回復時間Teの自宅待機率p依存性のグラフを表示します。


例えば感染率KT=2.5の場合(赤丸)はどうでしょうか?
自宅待機率p=61%であれば、
・ Te=T/{1-2.5・(1-0.61)}=T/0.025=40・T=20カ月
となります。自宅待機率が61%であれば、回復に1年8カ月かかることになり、来年の夏にオリンピックを開催することはできません。
自宅待機率p=65%であれば、平均感染時間Tは4カ月になります。つまり2月の時点で緊急事態宣言を発令していれば、6月には収束しているので、オリンピックは開催できたかもしれません。
自宅待機率p=80%であれば、
・ Te=T/{1-2.5・(1-0.80)}=2・T=1カ月
で回復します。政府が十分な休業補償をして、自宅待機率を80%に高めれば、回復時間が1カ月で済むということです。アメリカ政府はこのことをよく知っていたので、早期に莫大な休業補償に踏み切ったと考えられます。日本政府は十分な休業補償をしなかったので、回復時間が長引くことになります。全体の補償金額が増大し、このままでは国民は膨大な赤字国債を抱えることになるでしょう。

パレ-トの法則をご存じでしょうか?

質問です。やる気のある人とない人が世の中にはいます。これが互いに迷惑を掛け合っている原因ですか?何故、同じ人間なのに分かれてるのでしょうか?(ayaさんより2020/4/5)

 大変よい質問です。やる気のある人とない人がどういう割合で世の中にいるのか分かっています。パレ-トの法則をご存じでしょうか?パレートの法則とは、イタリアの経済学者ヴィルフレド・パレート氏が発見した冪乗則のことです。

 例えば全世界の富の80%は20%の金持ちが所有している、会社の売上の8割は従業員の2割が生み出している、あるいは仕事の成果の8割は、費やした時間の2割の時間が生み出している、といった法則です。聞いたことはありませんか?

 横軸に所有財産、縦軸に人数をとり、所有財産の分布図を書くことができます。金持ちになるほど人数は減っていきます。xを所有財産とすると、金持ちの人数は1/x^αに比例して減少します。べき指数αは問題によって変わりますが一定の値です。α=log45 ≈ 1.16とすると、80%-20%の法則が得られます。

つまり大部分の人は貧乏で、金持ちは一部の人なのです。金持ちだけ取り出しても、その中の20%の人はすごくお金持ちなのです。やる気は会社の売り上げだと考えればいいのです。横軸にやる気、縦軸に人数をとり、やる気の分布図を書くと同様のパレ-ト分布が得られます。やる気のある人は20%しかいないのです。

 何故パレ-ト分布になるかは、今でも研究されています。一説には、全員がやる気をだすと、環境が激変したときに、社会が崩壊するかもしれないからです。例えばコロナウイルスが流行した環境下では、全員がやる気を出してお客さんに接触すると、全員が感染して、会社は崩壊します。実際は20%のやる気のある人が感染して退去しても、80%のやる気のない人が自宅で仕事を継続するので、会社は生き残れるのです。

 一見やる気のない人がやる気のある人に迷惑をかけているように見えるのですが、緊急事態では、体力を温存していたやる気のない人たちが活躍するのです。といっても活躍するのはその中の20%の人だけです。迷惑をかけあっているのではなく、長期的に見て、助け合っているのです。やる気のない人が発生するのは、今の環境条件が決めているのです。人間に限らず、やる気のある働きアリも20%しかいません。つまり80%の人がやる気のない社会が、進化論的に生き残りやすいのです。だからやる気が出なくても自分や他人を無理に責める必要はないのです。

 実は割れた窓ガラスの破片の大きさの分布や地震の頻度分布はきれいなパレ-ト分布になることが知られています。大きな地震は発生頻度が少ないのです。ガラスの破片を顕微鏡で拡大してみても、その分布は変わらないのです。そういう現象はスケ-ルフリ-現象と言われます。つまり現象の分布が拡大スケ-ルに依存しないということです。地震も岩盤という窓ガラスの崩壊現象だから、窓ガラスと同じ法則に従うのでしょう。所得や崩壊の分布がパレ-ト分布になるのは、両者が保存する富やエネルギの分配に関わるからなのかもしれません。

 学校の入学試験の点数の分布は左右対称のガウス分布をしています。そうなるようにテストを作っているのです。しかし世の中の重要な分布は、ガウス分布ではなく、パレ-ト分布なのです。中央値は順位が中央の人の点数値です。ガウス分布では中央値は平均値と一致しますが、パレ-ト分布では中央値は平均値のずっと下です。順位が真ん中だからといって喜んではいられないということです。

 将来の地震の規模や貧富の差は、ガウス分布で考えるより、ずっと大きいのです。貧乏人はそれに気づかないので、大災害に備えず、金持ちは妬まれずに安心しているのです。80%の人たちがどんな現象もガウス分布だと甘く見ているのは、パレ-トの法則なのかもしれません。

リ-ゼ・マイトナ-

リ-ゼ・マイトナ-は1878年にオーストリアのウィ-ンのユダヤ系の家庭に生まれました。父フィリップは弁護士、母ヘートヴィヒは専業主婦でした。リ-ゼは男児3人、女児5人という大家族の三女でした。リーゼは1892年に高等小学校を卒業し、1899年までフランス語の教師をしていました。1897年、文学・科学分野に限って、女性の大学入学が認められました。ギムナジウムに入っていないリーゼは、この2年間で8年間分の学習を行い、1901年に23歳でウィーン大学の入学試験に合格しました。

1902年にウィーン大学に赴任したボルツマンの講義は学生に非常に人気があり、リーゼも欠かさず出席していました。1906年にリーゼは博士号を取得します。しかし敬愛していたボルツマンはその年に死亡します。マリ・キュリーに助手として雇ってくれるよう願ったのですが、断られてしまいました。

1907年にベルリンにやってきたリーゼは同年代のオット-・ハーンと出会いました。リーゼは地下の木工作業所のみで実験を行い、研究所内には姿を見せないという条件で、二人の共同研究が認められました。1912年にリーゼはヴィルヘルム研究所でプランクの助手として働くようになりました。ハーンは、長年の研究仲間でしたが、美術専攻の女子学生と結婚してしまいます。

第一次世界大戦がはじまり、リーゼは手紙でハーンと連絡を取りながらベルリンで研究を続けていました。1915年、リ-ゼはオーストリア軍のX線技師および看護婦として志願し、ポーランドの戦地で負傷者の治療にあたります。リーゼとマリはX線看護師として敵対する戦場で働いていたのです。

その後、リ-ゼは以前からの放射性物質の研究を続け、1918年、新元素プロトアクチニウムを発見しました。それによってカイザー・ヴィルヘルム研究所の研究者として十分な給与を得ることができるようになり、1922年にベルリン大学の教授となりました。

 1934年、リーゼは、ハーンに再び共同研究を持ちかけ、超ウラン原子の研究を始めました。しかし1938年、オーストリアはドイツに併合され、リーゼはスエ-デンに亡命します。短期旅行を装いスーツケ-ス一つで飛び出し、なんとかオランダとデンマ-クに脱出しました。リーゼは異国の地ですべてを失ってしまいます。
ストックホルムで、ハーンから「ウランの原子核に中性子を照射しても核が大きくならず、しかもウランより小さいバリウムが確認された」という手紙の相談を受け取ったリーゼは、ボーアの原子核の液滴モデルに基づいて
 235U + n → 92Kr + 141Ba +3n (nは中性子)
という核分裂反応が生じたことに気づきました。リ-ゼは甥のフリッシュと連名で核分裂現象を初めて発表しました。その際、質量欠損は陽子の1/4.7程度あり、E=mc^2の公式から、核分裂でウラン原子1個当たり200MeVのエネルギが放出されることを示しました。

甥のフリッシュはマンハッタン計画に加わりましたが、リ-ゼは原爆製造には加わりませんでした。100万キロワット級の原発では1日にウラン3kgを消費しています。これは広島型原子爆弾3個分のウラン量に相当します。

1944年ハーンは核分裂反応に関して、ノーベル化学賞を受賞しますが、リーゼ・マイトナーは受賞者から外されました。リーゼは1968年に90歳で生涯を終えました。1997年にドイツの研究チ-ムが109番元素をマイトネリウムと命名しました。
リーゼ・マイトナーは

「人生は楽でなくてもよいのです。もしそれが空っぽでないのならば」

という言葉を残しています。

植物はどうやって水を光分解するのでしょうか?

植物は葉緑体のチラコイド膜に埋め込まれた光合成系Ⅱ(PSⅡ)の膜タンパク質の中にあるマンガン(Mn)クラスタ-で水を光分解しています。

  • 2H2O + hv → O2 + 4H+ +4e

これによって、チラコイド内腔のH+濃度を高め、H+がATP合成酵素を通過し、ストロマ側でATPが生産されるのでした。光化学系Ⅱの構造は2011年に神谷と沈らのグループによって、0.2nmの精度で解明されました。

Mnクラスタは、4個のMn原子と1個のCa原子、5個のO原子からなる歪んだ椅子のような形状をしています。P680が酸化されるたびにMnクラスタで発生した電子が受け渡されます。

この反応は、Kokサイクル(1970年)と呼ばれ、4段階で進み(S0→S1→S2→S3→S4)、最終的に遷移状態のS4を経てS0状態に戻る際に、水が酸化されて一挙に酸素分子を発生します。S4状態の解明はまだされていないようです。下図にKokサイクルの一つのモデルを示します。椅子の背もたれの肩にある第4番目のMn原子には2個のH2O分子が結合しています。光のエネルギで、そのH2O分子が酸化され、水素と電子が奪われます。

高等植物や藻類やシアノバクテリアは光化学系IIを使った光合成を行うので、Mnが必須であることが分かります。

溶液の自由エネルギ変化はどう表せるでしょうか?

物質Aの純粋な液体の自由エネルギをG゜、物質Aが溶けた理想溶液の自由エネルギをGとします。溶液中の成分Aのモル分率をxAとすると、成分Aの溶解に伴う自由エネルギの変化は

  •  G-G⁰=RT・lnxA

と表せます。ここで気体定数R=8.314[J/mol・K]、Tは絶対温度です。溶液の自由エネルギを考えるときには、溶液の濃度が効いてきます。

純粋液体Aと平衡状態にある気相の蒸気圧をPA⁰、その自由エネルギをGg⁰とすると、温度変化はないので、自由エネルギの変化はエントロピ項の上昇分となり、

  •  Gg⁰-G⁰=-RT・ln PA

が成り立ちます(導出の詳細は最後に記載)。成分Aが溶けた理想溶液と平衡状態にある気相中の成分Aの蒸気圧をPAとすると、

  •  Gg⁰-G=-RT・ln PA

が成り立ちます。ラウ-ルの法則より、溶液の成分Aの蒸気圧はそのモル分率xAに比例するので、

  •  PA=xA・PA

が成り立ちます。上の2つの式の差をとると、Gg⁰が消去できて、

  •  G-G⁰=RT・ln PA-RT・ln PA⁰=RT・lnxA

の関係式が得られます。これが物質Aの溶解に伴う自由エネルギの変化です。 一般に、純粋な成分の自由エネルギG⁰に対して、

  •  G=G⁰+RT・lnx  (0<x<1)

と書けます。第二項は負なので、溶解により成分の自由エネルギは減少します。

例えばx=0.2、310Kの場合、

  •  ΔG=8.314×310×ln0.2=-8.314×310×1.6094=-4.15[kJ/mol]

減少します。

ところで自由エネルギGは、

  • G=H—TS=U+PV—TS
  • dG=(TdS-PdV)+VdP+PdV-TdS-SdT=VdP-SdT

であるから、

  • V=(∂G/∂P)T、S=- (∂G/∂T)P

(∂S/∂P)T=-(∂V/∂T)P=-R/P when V=RT/P

上式をPで積分すると

  • TΔS=T(S2-S1)=-RT・ln(P2/P1)

が得られます。

放射強制力Fと気候感度ΔTとは何でしょうか?

IPCC第4次評価報告書によれば、放射強制力は、対流圏での循環バランスが取れた状態を初期状態とし、これに何らかの原因によってずれが生じたとき、成層圏の気温の変化を考慮したうえで、再び対流圏での循環バランスが取れるようになるまでに変わる放射の量として定義されています。CO2濃度変化が大きいほど放射強制力Fは増大します。

放射強制力は、フロンのような微量ガスの濃度増加に対しては線形に変化します。CO2ガスに対しては濃度増加比の対数に比例して変化すると考えられています。IPCC (1990)およびMyhre (1998)らは、

  • ΔF = 5.35 × ln ( C/C0 )

の式を持ちいています。例えば、地球大気中の二酸化炭素の平均濃度が300ppmから400ppmに上昇した場合CO2の放射強制力ΔFは

  • Δ F = 5.35 × ln ( C/C0 ) = 5.35 × ln (400ppm /300ppm) = 1.54[W/m2]

となります。産業革命時のCO2濃度285ppmを基準にすると、2100年直前にCO2濃度が2倍になると予測されています。この場合、CO2の放射強制力は

  • ΔF=5.35・ln(570ppm/285ppm)=5.35・ln(2)=3.7[W/m2]

となります。このとき

  • ΔT=F/λ=3.7[W/m2]/ 1.25[W/m2K] =2.96≒3K

つまり地表気温の上昇は約3Kと推定されています。

IPCC(気候変動に関する政府間パネル)委員会はCO2濃度変化の異なる4つのシナリオを検討しました。それらはRCP2.6、RCP4.5、RCP6.0、RCP8.5と呼ばれています。これは2100年におけるCO2の放射強制力Fが、

  • F=2.6[W/m2] 低レベル
  • F=4.5[W/m2]、6.0[W/m2] 中レベル
  • F=8.5[W/m2] 高レベル

の4つの場合に相当しています。

有効射出温度

現在の気候では、観測可能な大気上端での上向き長波放射(OLR=Outgoing Longwave Radiation)の観測値は235W/m2(Kiehl and Trenberth 1997)です。地球を黒体とみなした時の有効射出温度は、ステファンボルツマンの法則

・R(=235)=σT4=5.67×10-8T4

より、T=254K(=-19℃)です。これは、エネルギ平衡モデル

  • (1-A)S・πr2=4R・πr2

から求めた温度、

  • T4=(1-A)S/4σ、反射率A=0.3、太陽放射S=1365W/m2

T=255K(=-18℃)とほぼ一致しています。これは温室効果ガスがないときの地表面の温度に相当します。気温減率6.5[K/km]なので、-18℃の高度は、地表面温度15℃のとき、

  • H=(15+18)[K]/6.5[K/km]=5.2[km]

です。大気上端8kmでの温度は-37℃ですが、地球からの熱放射は-18℃の大気からの黒体放射と考えられます。

1℃あたりの大気上端での放射束の変化は

  • λp=dR/dT=4σT3=4・(5.67×10-8)(254K)3=3.72[W/m2K]

となります。これをプランク応答と呼びます。我々の体温を36℃とすると、517[W/m2] の熱放射と6.7[W/m2 K]のプランク応答があります。体温が1℃上がると、6.7[W/m2]の熱が逃げるので、体が冷えます。つまりプランク応答には負のフィ-ドバック効果があります。

水蒸気の応答はプランク応答の70%程度

  • λH2O=2.5[W/m2K]

だと言われています。よって気候感度ΔTは

  • ΔT=F/λ=F/(λp-λH2O)=3.7[W/m2]/(3.72-2.5)=3.7/1.22=3.0[K]

となります。2100年にCO2の増加により放射強制が3.7[W/m2]となるシナリオでは、数十年かけて3[K]程度の気温上昇があると予測されます。

私たちはその温暖化のメカニズムをどのように理解すればいいでしょうか?

大気上端での熱エネルギの収支を考えることで、温暖化のメカニズムを理解できます。

太陽光の照射密度S[W/m2]と赤外線の放射密度R[W/m2]の差をN[W/m2]とします。Nはいわば大気に蓄えられるエネルギ密度です。

  • N=S-R(T、PCO2、PH2O、Albedo、Cloud)

ここでTは大気上端の温度、PCO2はCO2圧力、PH2Oは水蒸気圧力、Albedoは太陽光の反射率、Cloudは雲量を表し、いずれも温度Tに依存します。赤外放射Rはこれらの諸元の関数になっています。ここで太陽放射Sは1365W/m2で一定であると仮定します。十分時間が経つと、S=Rとなり、大気に蓄えられた出力密度Nはゼロの平衡状態(厳密には定常状態)になります。仮にCO2濃度が急に2倍になると、地表からの赤外放射がCO2によって遮られるので、大気上端での赤外放射Rは小さくなります。このとき

  • N=S-R>0

となり、大気にエネルギが蓄えられ、気温が上がり、大気上端の温度Tも上昇します。しかし時間が経つと、大気のエネルギNは海洋に拡散していき、やがてN=0となります。このとき大気上端の温度はΔTだけ上昇した状態でS=Rになると考えられます。

バランス方程式

まず簡単のため、Albedo、Cloudは一定とします。Sは定数なので、CO2濃度がΔPCO2変化すると、温度がΔT変化するので、大気に

ΔN=-(∂R/∂PCO2)ΔPCO2-(∂R/∂T)ΔT-(∂R/∂PH2O)(∂PH2O /∂T)ΔT

のエネルギが蓄積します。ここで

  • F=-(∂R/∂PCO2)ΔPCO2 >0
  • λp=∂R/∂T=4σT3 >0
  • λH2O=-(∂R/∂PH2O)(∂PH2O /∂T)>0

と定義します。FはCO2の放射強制力(Radiation Forcing)と呼ばれています。λpはプランク応答、λH2Oは水蒸気応答と呼ばれています。ここで応答パラメタλ(フィードバックパラメタ)を

  • λ=λp-λH2O >0

と定義すると、よく知られたバランス方程式

  • ΔN=F-λΔT>0

が得られます。FはCO2濃度上昇による大気を加熱する効果、λΔTは大気を冷却する効果を表しています。λpは冷却すなわち負の応答効果、λH2Oは加熱すなわち正の応答効果を表しています。但し1/λを気候感度パラメ-タと呼ぶ場合もあるので注意が必要です。

一般に応答パラメタλは

  • λ=λp-λH2O-λAlbedo-λCloud+λaerosol >0

雲による影響は、計算が難しいですが、太陽光の反射による冷却効果より惑星放射の吸収よる加熱効果の方が高いので正のフィ-ドバック効果があると考えられています。しかしながら応答パラメタλの値は、おおまかにはプランク応答と水蒸気応答の値で決まります。水蒸気の濃度が高いと、応答パラメタλが小さくなるので、気候感度ΔTは増大します。

温度上昇の時間変化

時刻t=0で、ΔT=0すなわち、ΔN=Fです。t=∞で、ΔN=0となります。その時間変化の時定数をτとすると、大気に蓄積するエネルギは

  • ΔN=F・exp(-t/τ)

と書けます。バランス方程式に代入すると

  • F・exp(-t/τ)=F-λΔT

これをΔTについて解くと、

  • ΔT(t)=F/λ・[1-exp(-t/τ)] → ΔT=F/λ (t→∞)

が得られます。これは、十分時間が経ち、バランスを回復した後の温度上昇ΔTがF/λとなることを示しています。ΔTを平衡気候感度あるいは気候感度と呼ばれています。

ちなみに現在の放射平衡の下では、応答パラメタλは

  • λ=1.25[W/m2K]

程度とされています。

いつかは温暖化して極端気象を増加させるのが問題

気象学者たちは、今後100年間に平均気温が2℃~3℃程度上昇する可能性が高いと警告しています。夏は熱くなるけど、冬は温暖になるから、それほど深刻な問題ではない、と思う人もいるかもしれません。しかしこの程度の温暖化で、災害や病害を引き起こす極端気象の発生件数は倍増してしまうことは深刻な問題です。計算機シミュレ-ションの結果は、温暖化によって、暑い地域はより暑く、寒い地域はより寒くなること、多雨地域はより雨量が増加し、乾燥地域はより乾燥するという傾向を示しています。温暖化でその地域がどのような被害を受けるかが予測できるようになります。

累積炭素排出に対する過渡気候応答TCRE(=Transient Climate Response to Cumulative Carbon Emissions)

2013年のIPCC委員会の報告によると、明治維新があった1870年頃からの平均気温の増加は、1870年から累積されたCO2排出量によって決まっています。これを累積炭素排出に対する過渡気候応答(TCRE)と言います。現在はこれまで400ギガトン炭素のCO2を排出し、当時から1℃気温が上昇しています。今後さらに400ギガトン炭素のCO2を累積排出すれば、当初から気温が2℃上昇すると予測されています。つまりこれは毎年のCO2の排出量を減らしても、CO2を排出する限り、いつかは2℃の気温上昇を引き起こしてしまうことを意味しています。温暖化は我々の子孫の生活を困難にする可能性が高いと考えられます。おそらく化石燃料を消費する生活から循環的な生活に変えていかなければならないのでしょう。

計算機シミュレ-ションだけでは温暖化現象のメカニズムは理解できません。それとは別に、マクロな視点で温暖化のメカニズムを理解する必要があります。

地表には太陽光が降り注ぎ、15℃程度に温められた地表は大量の赤外線を宇宙に向けて放出します。CO2などの温室効果物質はこの赤外線を吸収し、宇宙と地表に放出します。それによって、地表は15℃を維持しています。CO2がなければ、地表は-18℃程度になると考えられています。

頻発する異常気象と地球温暖化には関係があるのでしょうか?

世界気象機関(WMO=World Meteorological Organization)は、2019年1月に世界各地は異常気象に見舞われたと発表しました。米国のミネソタ州では-53.8度の猛烈な寒さ、オーストラリアのアデレードでは最高気温46.6度を記録しました。WMOのターラス事務局長は一連の異常気象と地球温暖化の関連を指摘しています。2018年の夏、甲府では1か月も猛暑日が続きました。新聞では34年ぶりのことだと報道されました。WMOは30 年間に1 回以下の頻度で発生する気象現象を異常気象あるいは極端気象と定義しています。

一方、観測デ-タによると、地球全体の年平均気温は増加傾向を示しています。年平均気温は1900年から1940年まで0.4℃上昇し、1940年から1980年まで0.1℃低下しましたが、1980年から2000年にかけて0.5℃上昇しています。産業革命前のCO2濃度は285ppmでしたが、ハワイのマウナロア山で観測されるCO2濃度は指数関数的に増大しており、2013年には400ppmを超えました。2100年になる前にCO2濃度は570ppm(=285ppm×2)になると予測されています。

気象学者たちは

・現在起きている異常気象に対する温暖化の寄与はどのくらいか?

・それが近未来にどう変わるか?

・人間の活動がどの程度温暖化に寄与しているのか?

といったことを調査しています。

全気候モデルGCM(=Global Climate Model)

気象学者たちは、全気候モデル(GCM)などの地球システムの計算機シミュレ-ションを用いて、社会経済学者との協力のもと将来の温室効果ガスの排出量を仮定した上で、温暖化の程度を予測しています。具体的には、温室効果ガスの濃度とそれらの放射強制から、気温や降水量などの気候応答を計算し、その結果を用いて温室効果ガスの濃度を計算し直しています。計算機の進歩により、現在では地球を20km区画(メッシュ)、台風などは2kmメッシュで解像できるようになりました。シミュレ-ションで過去の平均気温の変動を再現する研究も進展しています。例えば2013年のIPCCの報告を見ると、CO2の濃度増加とエアロゾルによる冷却効果を取り入れることで、1960年から2000年までの0.8℃の温度上昇を再現することに成功しています。CO2の濃度増加がない場合には、観測された0.8℃の温度上昇は生じませんでした。まだ予測値の変動幅が大きいという問題はありますが、気象予測に計算機シミュレ-ションが有効であることは認められています。

文科省の統合的気候モデル高度化プログラムでは、過去60年間の日本の上空1500mでの気温(14℃~19℃)と、猛暑日の地点数をGCMモデルで計算し、それらの相関関係を調べています(今田)。その結果、平均気温が上がれば、熱波地点数が飛躍的に増加することが分かりました。2012年から2017年までの平均気温と熱波地点数のデ-タは、温暖化ありの条件で計算した結果の分布に一致しています。毎年の気候デ-タのばらつきは大きいですが、統計的に温暖化により異常気象が増えていることは言えそうです。

具体的には2℃の増加で3000以上の地点で毎年のように猛暑が起こる可能性が指摘されています。1℃の増加で日本上空の水蒸気量は7%増加します。水蒸気は、CO2より強い温室効果があるので、温暖化を加速させます。2018年夏の日本の猛暑はかなり極端でした。平均気温は2℃上昇し、猛暑日地点数は6500点を記録しました。ジェット気流の蛇行やオホ-ツク海高気圧などが、梅雨前線を停滞させて、7月には広島に大変な豪雨をもたらしました。しかしながら異常気象のメカニズムはまだ明確ではありません。

6.量子力学的な散乱係数について

ラウドンの「光の量子論」(1994年)に量子力学的な散乱係数の詳細が書かれています。時間に依存した摂動論において、電気双極子相互作用の2次の寄与から散乱光子の放出速度τを計算します。単位時間に散乱によって光子ビ-ムから失われるエネルギ-ℏω/τと、単位断面積を単位時間に通過するエネルギcℏωn/Vとの比で散乱断面積を定義すると、

  • σ=(ℏω/τ)/(cℏωn/V)= (V/nc)・1/τ

放出速度τを散乱断面積σに書き換えられます。1/τには∫dΩが含まれているので、微分断面積が求められます。これがクラマ-ス・ハイゼンベルグの公式です。原子が基底状態に戻る弾性散乱の場合は、

  • dσ/dΩ=(eω/c)4/(4πεoℏ)2
  •      ×∣∑i{(εs・D×ε・D)/(ωi-ω)+(ε・D×εs・D)/(ωi+ω)}∣2

となります。εとεsは入射光子と散乱光子の単位偏光ベクトル、Dは電気双極子相互作用です。ω=ωiで発散しますが、厳密な扱いではωは虚部を有するので発散しません。

ω>ωiとω<ωiの場合を扱う場合には、上式で十分です。

1)トンプソン散乱の場合(ω>ωi

光子の周波数ωが原子の励起周波数ωiより大きい場合には、絶対値の中の和は-ωi/ω2と近似できるので、

  • dσ/dΩ=(eω/c)4/(4πεo)2×∣∑iωi{(εs・D×ε・D)+(ε・D×εs・D) }∣2

原子に束縛されている電子数をZとすると、総和則から

  • iωi{(εs・D×ε・D)=(Zℏ/2m}ε・εs

となるそうなので、微分断面積は

・ dσ/dΩ=[Z・re・(ε・εs)]2

となります。ここでreは古典的電子半径

  • e=e2/4πεo・mc2=2.8×10-15 [m]

です。つまり静電エネルギe2/4πεoeが静止エネルギmc2に等しくなる半径です。

このような高周波入射光の弾性散乱はトンプソン散乱として知られています。トンプソン散乱では散乱断面積は、原子構造と無関係に、電子数Zの2乗に比例します。

2)レ-リ-散乱の場合(ω<ωi

光子の周波数ωが原子のどの励起周波数ωiより小さい場合には、分母のωを無視して

・dσ/dΩ=(eω/c)4/(4πεo ℏ)2∣∑i (1/ωi)・{(εs・D×ε・D)+(ε・D×εs・D) }∣2

となります。水素原子の場合はあらわに計算ができて、

  • dσ/dΩ=(eω/c)4/(4πεo)2×[(9ℏ/16mωR^2) (ε・εs)]2

となります。ここでℏωRは水素の基底状態のエネルギ

  • ℏωR=me4/32(πεoℏ)2

です。結局、水素原子に関するレ-リ-散乱の公式

  • dσ/dΩ=(9re/8)2・(ω/ωR)4・(ε・εs)2

が得られます。

  • ω=2πc/λ

なので、レ-リ-散乱の散乱断面積は波長の4乗に反比例することが量子論でも確かめられました。

3)共鳴散乱の場合(ω=ωi)

減衰係数γiを取り入れた表式は、i番目の準位への散乱断面積は

  • dσ/dΩ=(eω/c)4/(4πεo ℏ)2・(ε・D1i)4/{(ωi-ω)^2+γi2}

となります。励起状態はi=2だけだとして、散乱光子の全方向について積分すると、

  • σ=(eω/c)4/18π(εo ℏ)2・D124/{(ωo-ω)2+γ2}

となります。ここで減衰係数γは

  • γ=e2ωo3D122/3πεo

です。よって散乱断面積は

  • σ=[e2ωoD122/3εo ℏc]・γ/{(ωo-ω)2+γ2}

の形に書き表せます。ω=ωoのとき、散乱断面積は入射光の波長λの2乗

  • σ=2πc22=2π/(2π/λ)2=λ2/2π

となります。原子の第一励起状態との共鳴断面積は、波長だけで決まります。

誘電率や透磁率の値はどのようにして決まったのでしょうか?

MKSA系の電磁気学には、電流の強さを表すアンペア[A]が登場します。

1[A]の定義は何でしょうか? 

1[A]は、真空中に1m(=r)間隔で平行に張られた2本の導線に同じ電流を流した時に、1m(=L)あたりの長さの導線に働く力Fによって定義されています。

・ F=μ0HIL=μ0(I/2πr)IL=μ0I2L / 2πr

・ F=2×10-7[N]=(μ0/ 2π)1[A]2・1[m]/1[m]

2本の導線に働く力が2×10-7[N]となる電流の値を1[A] と定義しました。その結果真空の透磁率μ0

・ μ0=4π×10-7 [NA-2]

となりました。真空の誘電率は、必然的に

ε0=1/c2μ0=1/{(2.99792×108m/s)2・4π×10-7 [NA-2]}=8.85419×10-12[F/m]

となります。1クーロンは、1アンペアを用いて

・ 1[C] =1[A]×1[m2]×1[s]

で定義されます。電圧[V]は、1クーロンを用いて

・ 1[V] =1[J]/1[C]

で定義され、1[F]ファラッドは、1ボルトを用いて

・ 1[F]=1[C] /1[V]

で定義されます。 1[A]を定義することで、電磁気学のすべての定数や単位が決まるのです。

5.電磁気学の単位系について

電磁気学にはMKSA単位系(SI単位系)とCGS単位系(ガウス系)があります。

一世代前にはCGS単位系が使われていましたが、今ではMKSA単位系が用いられています。少し古い本を読むとCGS単位系が使われているので、CGS単位系とMKSA単位系の関係について知っておくと便利です。以下CGS単位系の物理量にはプライムをつけて区別します。

<CGS単位系とMKSA単位系の違い>

MKSA単位系では、ク-ロン力Fは

・ F=(1/4πε0)・Q1Q2/r2

ですが、CGS単位系では

・ F= Q’1Q’2/r2

とシンプルになります。

MKSA単位系では、電束密度と電界の関係は

・ D=ε0E+P

ですが、CGS単位系では

・ D’=E’+4πP’

となります。CGS単位系はよさそうに見えるのです。

しかしマクスウエル方程式に関してはMKSA単位系の方がすっきりしています。MKSA単位系では、マクスウエル方程式は

・ divD=ρ、divB=0、rotH=i+∂D/∂t、rotE=-∂B/∂t

ですが、CGS単位系では

・ divD’=4πρ’、divB’=0、rotH’=(4π/c)i’+(1/c)∂D’/∂t、

   rotE’=-(1/c)∂B’/∂t

となります。CGS単位系はマクスウエル方程式に4πが出てきて目障りなのです。

<CGS単位系とMKSA単位系の関係>

電場の場合、次の3つの関係

・ Q= root(4πε0)Q’

・ D= root(ε0/4π)D’

・ E=E’/ root(4πε0)

を使えば換算できます。分極P=rQなので、P=root(4πε0)P’の関係です。

・ DS=Q(MKS系) →root(ε0/4π)D’=root(4πε0)Q’ →D’S=4πQ’(CGS系)

・ F=QE(MKS系) →F=root(4πε0)Q’ E’/ root(4πε0) →F=Q’ E’(CGS系)

・ D=ε0E+P(MKS系) → root(ε0/4π)D’=ε0E’/ root(4πε0)+root(4πε0)P’

・  → D’=E’+4πP’(CGS系)

が得られます。分極率αは

・ P=αε0E(MKS系) → root(4πε0)P’=αε0E’/ root(4πε0)

    → P’=(α/4π)E’(CGS系)

と変換されます。

4.分極率と屈折率の関係

計測可能な屈折率nを用いて、分極率を表します。単位体積当たりの分子数をNoとすると、分極率αが古典的に

・ α=(3/No)[(n2-1)/(n2+2)]

と表せることを説明します。

屈折率nの媒質では光速は

・ c=c0/n

と小さくなります。よって

・ n2=(c0/c)2=εμ/ε0μ≒ ε/ε0

となります。

外部電場Eo内に設置された誘電体の内部の分子を含む半径roの球を考えます。分子に分極を引き起こす分子にかかる電場Eは

・ E=Eo+Ep+Ei

の3つの成分に分けて考えることができます。ここでEpは半径roの球をくり抜いた外側の誘電体の分極が球の中心につくる電場とします。Eiは球形の分極した誘電体が球の中心につくる電場とします。なお誘電体は等方的で、印加したEoと同じ方向に分極が生じるものとします。分子の位置を原点とし、外部電場の向きをx方向とし、x軸からの角度をθとします。

分極した誘電体の内部の電場を求めるための図式

1)Epについて

 外側の誘電体の分極により、半径roの球のx>0の内壁に負の面電荷、x<0の内壁に正の面電荷が生じています。角度をθの位置にある微小面積dsの電荷密度σpは

・ σp=∣P∣cosθ

となります。Pは単位体積当たりの双極子モーメントであり、P[Cm/m3]=P[C/m2]より面電荷と同じ次元をもっています。σpdsの電荷が原点につくる電場のx軸方向は

・ dE=∣P∣cosθds/4πεoro2 ・cosθ

角度θとθ+dθに挟まれた内壁の帯状の面積は、幅rodθをもつ半径ro・sinθの円ですから、ds=2πro・sinθrodθとなります。内壁の面電荷が原点につくる電場Epは

・ ∣Ep∣=∫[0、Π] ∣P∣cos2θ/[4πεo・ro2]・2πro2・sinθdθ

・   =∣P∣/2εo∫[-1、1]2dt=∣P∣/2εo・2/3=∣P∣/3εo

・  Ep=+P/3εo

となります。

2)Eiについて

 原点に微小距離d離れた正負の電荷qがあったとします。その点のポテンシャルφを考えると、双極子のエネルギは

・ U=qφ(d、0、0)-qφ(0、0、0)≒qd=p(dφ/dx)0

となります。点rp(xp、yp、zp)にp=qdの双極子があったとき、それが任意の点(x,y,z)につくるポテンシャルφ(x,y,z)は

・ φ(x,y,z)=(p・r)/4πεor3

      =(1/4πεo)・p(z-zp)/{(x-xp)2+(y-yp)2+(z-zp)2}3/2

となります。点Pにある双極子の電場により原点にある双極子がもつエネルギは

・ U=p(dφ/dx)0=(p2/r3)(1-3 zp2/r2

となります。双極子が立方格子状に分布している場合は、格子定数aとすると、整数i、j、kに対して、

・ (xp、yp、zp)=(ai、aj、ak)

となるので、エネルギは

・ U==p2/a3 ∑( i2+j2+k2) -5/2・(i2+j2+k2-3k2

と表せます。和を取る際に(i、j、k)をサイクリックに入れ替えて3で割ると、分母は変わりませんが、

分子=1/3{(i2+j2+k2-3k2)+(k2+i2+j2-3j2)+(j2+k2+i2-3i2)}=0

となるので、U=0となります。したがってEi=0となります。

したがって、分子に働く電場の強さは

・ E=Eo+P/3εo

となります。これをロ-レンツの内部電界といいます。単位体積当たりの双極子数をNo、分子の分極率をαとすると、分極ベクトルPは

・ P=NoαεoE=Noαεo(Eo+P/3εo)

となります。これをPについて解くと

・ P=NoαεoEo/(1-Noα/3)

となります。これを電束密度DにあるPに代入すると

・ D=εoEo+P=εoEo+NoαεoEo/(1-Noα/3)

   =(1+2Noα/3)/(1-Noα/3)・εoEo

一方

・ D=εEo=(ε/εo)εo Eo

なので

・ ε/εo=(1+2Noα/3)/(1-Noα/3)

となります。αについて解くと、双極子の分極率と屈折率の関係式

・ α=(3/No)(ε/εo-1)/(ε/εo+2)=(3/No)(n2-1)/(n2+2)

が得られます。これをクラジウス・モソッティの式(1879年)といいます。

3.双極子散乱の公式の証明

それでは双極子ベクトルP(t0)

・ P(t0)=∫ρ(r’, t0)r’d3r’(t0=t-r/c)

から距離離れた位置に観測される散乱波の電場E(r,t)が、

  • E(r,t) =(1/4πε)(1/ c23)・×[×∂2P(t0)/∂t02] 

と書けることを証明します。ここでcは光速です。

電場と磁場は、電磁ポテンシャルφ、A

・ =-gradφ-∂A /∂t

・ =rot A

なる関係があります。電磁ポテンシャルφ、Aを用いたマクスウエルの方程式は

・ (△-1/c22/∂t)φ=-ρ/ε

・ (△-1/c22/∂t)A=-μi

・  1/c2・∂φ/∂t+divA=0 (Lorentz gauge)

・  1/c2=εμ

で与えられます。電磁ポテンシャルは、電荷密度ρと電流密度iに対して

・ φ(,t)=(1/4πε)∫ρ(r’,t-∣r-r’∣/c)/ ∣r-r’∣d3r’

・ A (,t)=(μ/4π)∫i(r’,t-∣r-r’∣/c)/ ∣r-r’∣d3r’

・      =(1/4πε)1/c2i(r’,t-∣r-r’∣/c)/ ∣r-r’∣d3r’

と表すことができます。必ずしも容易ではありませんが、この定理は上式に代入すると解になっていることで確かめられます。物理学では証明に用いる定理が証明すべき命題より難しいことが時々あります。数学的には1/rがφに係るダランベシアン作用素のグリ-ン関数核なので、ソ-ス項と1/rの積の積分は電磁場方程式の解になるということです。よく知られた定理なので、ひとまずこれを認めましょう。

物理学では大抵の場合、厳密に積分するのは困難です。ここでは電気双極子近似を導入します。電子が存在している領域半径r’ に比べ、観測地点がずっと遠くにある(r’<<r)場合を想定しているので、

・ ∣r-r’∣≒r(1-r・r’/r)

・ 1/∣r-r’∣≒1/r・(1+r・r’/r)=1/r+O(r’/r)≒1/r

・ r=∣r∣=root(x2+y2+z2)

のように近似します。なぜなら

 ∣r-r’∣=root(∣r2-2r・r’+∣r’2) ≒ r (1-2r・r’/r)1/2≒r (1-r・r’/r)

だからです。さらにテ-ラ展開の1次までとると

・ ρ(r’,t-∣r-r’∣/c)≒ρ(r’,t-r /c+r・r’/cr) ≒ρ(r’,t0r・r’/cr)

・    ≒ρ(r’,t0)+[dρ(r’,t0) /dt0]・(r・r’)/cr

となります。上式のρをφの式に代入すると、

・ φ(,t)=(1/4πεr)∫ρ(r’,t0) d3r’+(r/cr2)・(d /dt0)1/4πε∫ρ(r’,t0)r’d3r’

となります。ここで第一項は

・ Q=∫ρ(r’,t0) d3r’

を含みますが、電荷Qは原子に束縛されており、時間的に変化しないので、無視できます。

・ P(t0)=∫ρ(r’, t0)r’d3r’

ですので、スカラ-ポテンシャルは、双極子ベクトルを用いて

・ φ(,t)=(1/4πε) (r /cr2)・(dP(t0) /dt0)

と書けます。同様にベクトルポテンシャルに関して、双極子近似を適用して展開すると

・ (4πε0) A (,t)≒ (1/c2r)∫i(r’, t0r・r’/cr ) d3r’

    ≒(1/c2r)∫i(r’, t0) d3r’+(1/c32)∫di(r’, t0)/dt0 (r・r’) d3r’

    ≒(1/c2r)∫i(r’, t0) d3r’ +O(1/c3)

となり第二項は無視できます。ここで断面積S、長さr’の導線を考えると、電流は

・ i(r’, t0)=1/S・dq/dt0r’/r’=d(q/V)/dt0r’=dρ/dt0r’

と書けるので、

・  A (,t)≒(1/4πε0) (1/c2r) (d/dt0)∫ρ(r’,t0)r’ d3r’

より、ベクトルポテンシャル Aも双極子ベクトルP(t0)を用いて

・  A (,t)=(1/4πε0) (1/c2r) (dP(t0)/dt0)

と表せます。電場の表式に電磁ポテンシャルを代入すると

・(1/4πε0)(r,t)=-gradφ-∂A /∂t

       =-grad[(r /cr2)・(dP(t0) /dt0)]-∂/∂t[(1/c2r) (dP(t0)/dt0)]

となります。ところで第一項のgradのx微分を考えると、

 (d/dx)(r /cr2)=ex /cr2-(2r /cr3) dr/dx=ex /cr2-2rx/cr4=O(1/r2)+O(1/r3)

の部分は、次のx微分の項

・ -(r /cr2)(d/dx)(dP(t0) /dt0)=-(r /cr2)(d(t-r/c)/dx)(d2P(t0) /dt02)

         =-(r /cr2)(-x/cr)(d2P(t0) /dt02) ~ O(1/r)

に比べると十分遠方で早く小さくなるので、無視できることが分かります。結局

・ (1/4πε0)(r,t)≒(r/cr) [(r /cr2)・(d2P(t0) /dt02)]-(1/c2r)d2P(t0) /dt02

・    =(1/c23){r [r・d2P(t0) /dt02] -(rr) d2P(t0) /dt02

・    (r,t)=(1/4πε0) (1/c23) r×(r×d2P(t0) /dt02)

により公式が得られます。最後の等式は、A=B=C=d2P(t0) /dt02とおいて恒等式

  BA・C)-(A・BCA×(B×C

を適用して得ました。すこし難しくなってしまいましたが、双極子放射の公式が電磁気学の基本方程式から得られることを確かめました。次回は古典的な分極率の導出についてお話します。

2.レ-リ-散乱のメカニズム

<双極子放射とは>

 レ-リ-散乱のメカニズムについて古典力学的に考えましょう。太陽光は様々な波長の電磁波の集まりです。電磁波が空気分子の様な微小粒子に衝突すると向きが変わるのは何故でしょうか?

 それは電磁波が微小粒子に入射すると、粒子内で誘導分極が生じ、粒子から双極子放射が生じるからです。誘電分極とは、粒子に電場が掛かると、粒子の負電荷(電子)の中心と正電荷(原子核)の中心がずれて分極つまり電気双極子が誘導される現象です。電気双極子の大きさは正電荷と負電荷の間の距離(t)と電荷qの大きさの積です。

・ P(t)=q・(t)

電気双極子の向きは、負電荷から正電荷の向きで、入射電場と常に平行です。粒子にかかる電場の向きや大きさが変化すれば、双極子の向きも大きさも変化します。電磁波では、電場が常に振動しているので、双極子も電場に合わせて振動します。振動する双極子から再び電磁波が放出されます。これが双極子放射です。

<双極子放射がつくる電場>

入射波の電場を

  • E(t)=Eo・exp(iωt)

とおきます。tは時間、ωは角振動数です。ωは波数kとの間に

  • ω=ck

の分散関係があります。ここでc は光速です。波数は1mの中にある波の数です。波数kは波長λとの間に

  • k=2π/λ

の関係があります。粒子内に生じる双極子ベクトルをP(t)とすると、

  • P(t) =αε0E(t)=αε0Eo・exp(ickt)

とかけます。αは粒子の分極率です。P(t)は振動すると周囲に電場を形成します。時刻tに双極子から距離離れた位置に観測される散乱波の電場をE(r,t)とすると、

  • E(r,t) =(1/4πε0)(1/ c23)・×[×∂2P(t0)/∂t02]

と書けます。×はベクトルの外積です。この公式は後で証明します。ここで、時刻t0は双極子の加速振動が生じた時刻で、散乱波の観測時刻tとの間に

  • t0=t-r/c

なる関係があります。つまり時刻t0は時刻tよりr/c秒前の時刻です。方向の単位ベクトルeを導入すると、

  • =re

と書けます。散乱光の電場は

  • E(r,t) =(1/4πε0)(1/ c2r)・e×[e×∂2P(t-r/c)/∂t2]
  • =(α/4π)(1/ c2r)・e×[e×∂2Eo・exp[ick(t-r/c)]}/∂t2]
  • =-(α/4π)(k2/r)・e×[e×Eo ] ・exp[ick(t-r/c)]
  • =ElEr

となります。2回単位eベクトルと外積を取るので電場の向きは変わりません。

<θ方向の散乱強度>

いま入射電磁波はy方向に進行しており、電場Eoのz成分をEor、x成分をEolと書くことにしましょう。

  • EoEolEor=(Eol、0、Eor)

粒子の位置を原点として、散乱波の方向はxy平面内にあるものとします。x軸と散乱波の方向のなす角度をγと書きます。進行方向と散乱方向のなす角度をθ(=π/2-γ)とします。

  • e×[e×Eo ]=e×[e×Eol ]+e×[e×Eor ]=AB

を計算します。ABは直交しています。

  • e=(cosγ、sinγ、0 )、Eol=Eol(1、0、0 )
  • e×Eol =Eol(0、0、sinγ)、
  • A =e×[e×Eol ]=Eol(sinγsinγ、-sinγcosγ、0 )
  • A∣/ Eol =root[(sinγsinγ)2+(-sinγcosγ)2 ]=sinγ=sin(π/2-θ)=cosθ
  • e=(cosγ、sinγ、0 )、Eor=Eol(0、0、1 )
  • e×Eol =Eol(sinγ、-cosγ、0)、
  • B=e×[e×Eor ]=Eol(0、0、-cosγcosγ-sinγsinγ)=Eol(0、0、-1)
  • B∣/Eol =1

したがって、θ方向の散乱強度Iは

  • I(θ)E(r,t) ∣2=∣El2+∣Er2
  • El2=∣-(αk2/4πr)A exp[ick(t-r/c)]∣2=(αk2/4πr)2・∣A2
  •    =(αk2/4πr)2(cosθ)2・Eol2
  • Er2=∣-(αk2/4πr)B・exp[ick(t-r/c)]∣2=(αk2/4πr)2・∣B2
  •    =(αk2/4πr)2・Eor2

両者を加えて、

  • I(θ)(αk2/4πr)2(cosθ)2・Eol2+(αk2/4πr)2・Eor2

となります。散乱体から離れると1/r2で強度が減少します。散乱強度は波数の4乗に比例し、散乱の方向は等方的です。cosθの因子から分かるように、双極子ベクトルの方向には電場が形成されません。電場の水平成分Eolは進行方向に垂直な方向には散乱されませんが、前方と後方に等しく散乱されます。電場の垂直成分Eorは参照面内で等方的に散乱されます。粒子が大きくなるとミ-散乱となり、後方散乱は縮小し、前方散乱だけになります。ElとErの見かけの違いは、参照面をxy面にしているために生じているものであって、ElとErの全体の散乱形状に違いはありません。

<1粒子当たりの散乱断面積>

ここで入射強度Ioに対し、入射電場強度は

  • Io/2=Eol2=Eor2

を満たすとします。結局、θ方向の散乱強度として

・ I(θ)(αk2/4πr)2 [(cosθ)2+1]/2・Io

・  =(α/4πr)2・(2π/λ)4 [(cosθ)2+1]/2・Io

が得られます。散乱強度が波長の4乗に反比例しています。全方向の散乱強度は

・ I=∫dφ∫dθr2sinθ・I(θ)

・ =Io・2π∫dθr2sinθ(α/4πr)2・(2π/λ)4 [(cosθ)2+1]/2

・ =Io 2π(2π/λ)4・(α/4π)2・(1/2)∫dθ[sinθ+ sinθ(cosθ)2]

・ =Io 2π(2π/λ)4・(α/4π)2・(1/2)(2+2/3)

・ =Io 2π(2π/λ)4・(α/4π)2・(4/3)

結局、1粒子当たりの散乱断面積は

・ σ[m^2/個]=I/Io=128π5・(α/4π)2/3λ4

となります。

<分極率と屈折率の関係>

1個の分子の分極率は計測できないので、計測できる屈折率を用いて、分極率を表します。

単位体積当たりの分子数をNoとすると、分極率は

・ α=(3/No)[(n2-1)/(n2+2)]

と表せます。これについては後で説明します。δ=n-1≒10^-4<<1ですから、δの2乗のオ-ダ-を無視すると

・ α≒(3/No)2(n-1)/3=2(n-1)/No

と近似できます。n-1の波長や温度に対する依存性に関してはEdlenの実験式があります。

<散乱断面積の換算>

また1粒子当たりの散乱断面積に

・ No[個/m3]/ ρ[kg/m3]=No/ρ[個/kg]

をかけて1kg当たりの散乱断面積に換算します。同時にαを代入すると

・ σ[m2/kg]=σ[m2/個]・No/ρ[個/kg]

・ =128π5・[2(n-1)/No/4π]2/3λ4・No/ρ

ですから、結局、1kg当たりの散乱断面積の公式

・ σ[m2/kg]=32π3・[n-1]^2/[ 3Noρλ4]

が得られました。

プラスチック包装された甲州ワイン@甲府駅

1.レ-リ-散乱係数と減光率

太陽光の放射強度Iは、大気中を通過する際に散乱されて減衰します。散乱体の密度ρ[kg/m3]と散乱係数σ[m2/kg]を用いると、地表での放射強度をIoとすると、高度zでの放射強度Iは

  • I=Io・exp{-∫σρdz}

と表せます。波長λの光のレ-リ-散乱係数σRは、古典電磁気学的には

  • σR=32π^3・(n-1)^2/3Noρoλ^4

と表せます(1871年)。ここでNo[個/m3]は空気の分子数、nは空気の屈折率(=1.000292@1atm,0℃)です。

  • ρo=1.22[kg/m^3] 標準状態での空気の密度
  • No=1.22[kg/m^3]・6.02×10^23[個]/28.964×10^-3[kg]=2.54×10^25[個/m^3]

空気の屈折率(n-1)の波長依存性はEdlenの式を用いました。波長が大きくなると屈折率と散乱係数σRは減少します。

分子量Mwに対して、理想気体の状態方程式より

  • ρ=MwP/RT=(Mw/RT)Po・exp[-z/H]=ρo・exp[-z/H]
  • I=Io・exp{-σR∫ρdz}=Io・exp{-σRρoH }

となります。ここでHは高さパラメ-タで、大気の厚さH=8kmとしました。減光率は

  • (Io-I)/Io=1-exp{-σRρH}

で求めました。減光率が小さいということは散乱され難いということです。

減光率は可視領域で波長が大きくなると、急速に減少します。近紫外領域(λ~0.3μm)では40%もの太陽光が失われます。青色光(λ~0.4μm)では30%、緑色光(λ~0.5μm)では12%、赤色光(λ~0.65μm)では4%、近赤外領域(λ~0.94μm)では1%しか失われません。様々な太陽高度と波長を考慮すると、大気に入射する平均太陽放射のうち13%がレイリ-散乱されているそうです。その半分が散乱光として地表面へ到達し、残り半分は宇宙空間へ放射されます。夕焼けのときは、8km以上の距離を太陽光が進むのでその間に青色光は殆ど散乱されてしまい、赤色光だけが届くことになります。

地球の空が青いのは何故でしょうか?

地球の空が青いのは、日光に含まれる波長の短い青色光が窒素分子に散乱されやすいからです。日没時に空が赤くなるのは、太陽光が大気を通過する距離が長くなり、空気分子の光散乱が増大し、青色光が届かず、赤色光のみが届くようになるからです。月面から見上げた空は黒色です。月には空気がないので、光散乱が起こらないからです。20世紀になるまで空が何故青いのか分かっていませんでした。空気のように透明な媒質が散乱体になるとは思いもよらないことでした。

レ-リ-(Rayleigh)散乱(1910年)

空気の分子のように光の波長の1/10以下の散乱体による散乱をレ-リ-散乱といいます。レ-リ-男爵の本名はジョン・ウイリアム・ストラットです。レ-リ-卿(英国)はアルゴンの発見者で、地震の表面波(レーリ-波)や黒体放射でも有名な物理学者です。レ-リ-散乱の強度は光波長の4乗に反比例します。このことは電磁気学の知識があれば理解できるので、後で解説したいと思います。

液体の分子濃度は気体の1000倍ありますが、液体の光散乱は、気体と比較して5~50倍程度しかありません。ガラスの光散乱も非常に弱いです。これは散乱体が稠密になると、任意の横方向において、散乱波が互いに打ち消し合う分子対が常に存在するためと思われます。光ファイバ-(石英ガラス)ではレ-リ-散乱の小さな波長帯(1.5μm帯)を使っています。

ミ-(Mie)散乱(1908年)

雲を形成する水滴は、太陽からの可視光の波長に比べて同程度ないしはそれより大きい粒子になっています。このような水滴に光が当たると、ミ-散乱が起こります。ミ-散乱では、可視光のどの波長も同じように散乱されますので、雲は白色に見えます。

ブスタフ・ミ-(独)は球形粒子による散乱の理論解析を行い、ミ-散乱は波長にほとんど依存せず、粒子寸法が光波長を越えると、散乱の波長依存性はなくなることを示しました。レ-リ-散乱は等方的ですが、ミ-散乱には異方性があります。ミ-散乱はアンテナやがん細胞の判別に用いられています。

虹(rainbow)

 虹は、水滴内を太陽光が屈折反射することで、光が波長ごとに空間分解される現象です。主虹と副虹ができる理由を最初に解明したのはデカルトです。プリズムで太陽光をスペクトル分解して見せたのがニュ-トンです。虹は虫偏なのは、蛇が虫偏なのと同じ理由です。古代中国人は虹を空にアーチを架ける大蛇として見ていたからと言われています。

非弾性散乱

レ-リ-散乱とミ-散乱は光の波長が変化しない弾性散乱です。光の波長が変化する非弾性散乱には、ラマン散乱やブリルアン散乱があります。

ラマン(Raman)散乱(1928年)

ラマン散乱は分子の振動準位や回転準位の遷移に伴い、入射光とは異なる波長の光が散乱される現象です。ラマン散乱を利用して化学物質の判定を行うことができます。白色矮星の質量にチャンドラセカール限界質量があることを示したスブラマニアン・チャンドラセカ-ル(1932年)は、ラマン・チャンドラセカール(印)の叔父にあたります。

ブリルアン(Brillouin)散乱(1922年)

ブリルアン散乱は光と音響子などの凖粒子との相互作用による光散乱です。ブリルアン散乱は光ファイバの歪や温度を検知するのに使われます。レオン・ブリルアン(仏)は量子力学のWKB近似や固体物理のブリルアンゾ-ンでも有名な物理学者です。

駅伝走者の受ける風の影響はどれくらいでしょうか?

第95回箱根駅伝の往路レースの優勝は東洋大学でした。三区では青山学院大学の森田歩希選手が8位から追い上げ、トップに躍り出ました。東洋大は8秒差で2位につけました。

森田選手は1時間1分26秒の区間新記録の快走でした。三区は21.4kmですから、森田選手は平均速度5.8m/sで走破したことになります。もし5.8m/sの速度でマラソンを完走できれば、2時間1分15秒(=42.195km/5.8m/s)の記録がでます。森田選手がいかに俊足かがわかります。

最近ランニングウオッチと連携したセンサを腰につけて、手軽にランニング時の上下動を計れるようになりました。データを見ると、マラソン選手の上下動は10cm程度です。重心は放物運動をしているので、上下動Δyが分かれば滞空時間toも決まります。重力加速度をg、上方向の初速度をvoとすると、t秒後の重心位置yは

  • y=-1/2・gt^2+vot=-g/2・(t-vo/g)^2+1/2g・vo^2

でした。上下動Δyと滞空時間toは

  • to=2vo/g → vo=gto/2
  • Δy=1/2g・vo^2=1/8・gto^2 → vo=root(2gΔy)

を満たします。Δy=10cmが分かっているので、初期速度voと滞在時間to

・ vo=root(2×9.8m/ss×0.10m)=1.40m/s

  • to=2×1.40m/s /9.8m/ss=0.28sec

が分かります。森田選手の1ピッチΔxは

  • Δx=5.8m/s×0.28sec=1.62m

くらいです。

無風状態でも5.8m/sで走れば、ランナ-は5.8m/sの風を感じます。ランナ-の受ける風の影響はどれくらいでしょうか? ランナ-は直径22cm、長さ1.7mの円柱に例えて考えられます。流れに垂直に置かれた円柱の空気抵抗を求めます。

空気の動粘性係数k=1.5×10^-5 m^2/sですから、レイノルズ数は

・Re=Lu/k=0.22×5.8m/s/1.5×10^-5 m^2/s=8.5×10^4 

となります。Re=8.5×10^4は、臨界レイノルズ数Re=2×10^5よりやや小さいです。レイノルズ数が臨界Reより大きくなると、抗力係数Cは急に1より小さくなります。ちなみにバレ-ボ-ルやサッカ-ではボ-ル(直径20cm)の速度が30m/sを超えるので、臨界Reを超えて、無回転ボ-ルが予測不能の動きをすることが知られています。レイノルズ数が10^3より小さくなると、抗力係数Cは1より大きくなります。

  • L/d=1.7m/0.22m=7.7

なので、C≒1.1(=0.9~1.2)としていいでしょう。空気の密度を=1.2kg/m^3、円柱の投影面積をA=1.2m^2とすると、抗力Fは、速度の2乗に比例し、

  • F=C/2・A・uo^2=1.1/2・1.2kg/m^3×1.2m^2×5.8m/s^2≒26N

で与えられます。森田選手の体重を65kgとすると、加速度は

  • a=F/m=26N/65kg=0.4m/ss

となります。水平方向の速さは0.1m/s(=0.4m/ss×0.28s)だけ遅くなります。つまり大まかにいって、地面を蹴った瞬間の水平速度は5.9m/sでしたが、着地するときの速度は、空気抵抗により5.8m/sになったと考えられます。

では向い風5m/sの場合はどうなるでしょうか? ランナ-の感じる風速は10.8m/s(=5.8m/s+5.0m/s)となります。

  • F=1.1/2・1.2kg/m^3×1.2m^2×(10.8m/s)^2 ≒ 92N

これは26Nの3.5倍です。加速度は1.4m/ss(=0.4m/ss×3.5)となるので、水平方向の速さは0.4m/s(≒1.4m/ss×0.28s)だけ遅くなります。

  • 5.9m/s-0.4m/s=5.5m/s

向い風5m/sの場合、5.8m/sから5.5m/sに減速すると考えられます。三区21.4kmは

  • 21.4×1000m/5.5m/s=3890秒

経過します。

結局、向い風5m/sの場合、森田選手は無風状態の時より、

  • 3890秒-3686秒=204秒=3分24秒

だけ到着が遅れることになります。

ちなみにこの速度でマラソンを完走できれば、

42.195km/5.5m/s=2時間7分52秒

となります。もし追い風5.8m/sが吹き続ければ、

  • 42.195km/5.9m/s=1時間59分12秒

で2時間を切ることができます。但し風の影響を相殺するために、通常マラソンのコ-スは折り返しコースになっています。駅伝選手が臨界レイノルズ数に近いところで走っているのは面白いと思いました。

フィギュアスケ-トの4回転ジャンプの秘密

フィギュアスケ-トの4回転ジャンプは、比較的着氷しやすいト-ル-プジャンプとサルコウジャンプが用いられています。ト-ル-プは、右足で体を浮かせ、左足のつま先で踏み切るので、高く飛びやすいジャンプです。サルコウは左足内側のエッジで踏み切るので、高く飛びにくいですが、回転をつけやすいジャンプです。2018年2月の平昌オリンピックで羽生選手は4回転サルコウジャンプを鮮やかに決めました。

 スケ-ト靴を履いているので、足首は固定されています。スケ-タは膝と股関節だけを使ってジャンプしています。その場で片足で跳べる高さはせいぜい30cm程度でしょう。しかし羽生選手は86cmも飛び上がっているそうです。なぜこんなに高く飛び上がることができるのでしょうか。

重力加速度をg、スケ-タの加速度をaとすると、垂直方向の運動方程式は、

  • ma=-mg

です。垂直方向の初速度をvoとすると、t秒後の速度vと位置yは

  • v=-gt+vo
  • y=-g/2・t^2+vot=-g/2・(t-vo/g)^2+vo^2/2g

となります。水平方向の初速度をuoとすると、t秒後の位置xは

  • x=uot

となります。vo/gで最高点に到達するので、滞空時間toは

  • to=2vo/g (vo=gto/2)

となります。跳躍高さhは

  • h=vo^2/2g=(gto/2)^2/2g=g/8・to^2

となります。初期速度あるいは滞空時間によって跳躍高さが決まります。

羽生選手の滞空時間は0.84秒だそうです。そうすると初期速度と跳躍高さは

  • vo=0.5・9.8m/s^2・0.84s=4.1m/s
  • h=0.125・9.8m/s^2・0.84・0.84=0.864m=86.4cm

となります。回転速度は

  • 4回転/0.84s=4.8回転/秒

です。跳躍時間が長いので、回転速度が5回転/秒以下でも4回転しています。

羽生選手は、跳躍前の深いスリ-タ-ンで速度を落とさずに向きを変えるので、水平方向の速度はu=6m/sと大きいです。サルコウでは左脚のエッジを氷面に食い込ませて、瞬間的にエッジを中心に回転させます。典型的な左脚の傾きはφ=17度(氷面と脚のなす角度は73度)です。着地で転倒しないように、体軸を進行方向に対して後ろ向きに鉛直から17度傾けています。踏切時には重心に

  • Δuo=ucosφcosφ=6.0・0.9145=5.5m/s(水平方向)
  • Δvo=ucosφsinφ=u/2・sin2φ=6.0/2・sin34=3・0.56=1.7m/s(垂直方向)

の速度が生じます。助走速度を利用して、上昇速度Δvo=1.7m/sを得ることができました。全体の跳躍速度は

  • Vo=Δv1+Δvo=2.4m/s+1.7m/s=4.1m/s

ですから、自力の跳躍速度はΔv1=2.4m/sとなります。自力での滞空時間と高さは

  • Δt1=2Δv1/g=2・2.4m/s/9.8m/ss=0.49秒
  • Δh1=Δv1^2/2g=2.4m/s^2/2/9.8m/ss=0.294m=29.4cm

です。高さは速度の2乗に比例するので、自力の跳躍速度Δv1=2.4m/sに助走を利用した上昇速度Δvo=1.7m/sを少し加えるだけで、跳躍高さが29cmから86cmに増大しました。

羽生選手の体重は53kgでスケ-ト靴の重さは1kg(両足)で、全体で54kgです。ジャンプによる位置エネルギの上昇Eoは

  • Eo=mgh=54kg・9.8m/ss・0.864m=457.2J

です。回転速度は

  • ω=4×2πrad/0.84sec=30rad/s

です。羽生選手の慣性モ-メントIは、頭、首、胴(腕込み)、腰、腿、下肢、足首、靴の各部分(い=1~8)が円筒であると近似して足し合わせた結果小さめに見積もっておおよそ

  • I=1/2・∑(mi・ri^2)=0.32 kgm^2

であると推定しました。これは半径10.8cmで長さ175cm(=身長171cm+靴4cm)の円筒(比重1)の慣性モ-メントに相当します。回転運動のエネルギE1は

  • E1=1/2・Iω^2=0.5・0.32 kgm^2・30rad/s^2=144.0 J

よって、ジャンプするエネルギの方が回転エネルギより3.2倍も大きい

  • Eo/E1=457.2J/144.0 J=3.2倍

ことが分かります。慣性モ-メントが30%大きければ、2.5倍程度になります。

 氷面を0.1秒間蹴り続けたとすると、ジャンプ力Foは

  • Fo=54kg・4.1m/s/0.1sec=2214N

回転トルクT=F1×rは

  • T=I・dω/dt=0.32kgm^2・30rad/s/0.1s=96.0Nm

回転力F1は、r=0.108mとして

  • F1=96.0/0.108=888.9N

全力Fは

  • F=root(Fo^2+F1^2)=root(2214^2+889^2)=2386N=243kgf

となり、体重54kgfの4.5倍の力でジャンプしたことになります。4回転ジャンプは体重の4倍以上の力がかかると言われているので、0.1秒の蹴り時間は良い値だと思われます。

踏切角度αは、ジャンプ力Foと回転力F1の比に対して

  • tanα=Fo/F1=2214N/889N=2.490

を満たします。跳躍は氷面からα=68度の方向(傾き22度)でした。跳躍時に腕や脚の広がりがあると慣性モ-メントは増加します。慣性モ-メントが30%大きければ、

  • tanα=2214N/889N/1.3=2.490/1.3=1.915

となります。これを解くと、跳躍方向は氷面からα=62度の方向(傾き28度)になります。踏切角度は60度程度と言われているので、実際の慣性モ-メントは30%増しの値なのかもしれません。跳躍方向と体軸の傾きは必ずしも一致しません。

羽生選手は助走速度6m/sが大きく、それを上手に上昇速度1.7m/sに変換し、自力のジャンプ速度2.4m/sに付け加えることにより4.1m/sの速いジャンプ速度を得ていました。それにより長い滞空時間0.84秒を実現し、その間に4.8回転/秒で高速回転することにより、4回転(=1.8回転/秒×0.84秒)ジャンプを成功させたことになります。

スケ-トでは、回転をつけるために、跳躍する前に手足を伸ばして慣性モ-メントを大きくして、体を先行してひねっていきます。強く氷面を蹴って跳躍すると同時に素早く手足を縮め、体軸をまっすぐにして、進行方向に対して後ろ側に傾けます。着氷時には安定に着地するために、手やフリ-脚を大きく伸ばして、角運動量を手脚に持たせて、体の回転を止めます。回転に余裕がない場合は、高く飛ぶことが、安定な演技につながります。回転に余裕がある場合は、演技を大きくみせるために、遠くに跳躍するようです。これからは靴が軽くなるので、難度の高いルッツやアクセルでも4回転ジャンプを成功させる選手がでてくるでしょう。

ボルト選手のスピ-ド曲線の解析

ジャマイカのウサイン・ボルト選手は2009年のベルリンの世界陸上で、9秒58の世界新記録を樹立しました。その時のボルト選手のスピ-ド曲線を解析してみました。

ボルト選手のトップスピ-ドv1は12.3m/sでした。加速度は時間の1次関数である

  • a=a1(1-t/t0)

と仮定して、フィッティングしました。図に最適なフィッティング時の加速度の時間依存性を示します。直線近似なので多少ずれがありますが、初期加速度a1=5.65m/s^2、t0=4.35秒(36m地点)後

  • t0=2v1/a1=2×12.3m/s/5.65m/s^2=4.35秒

に加速度がゼロになり、トップスピ-ドに達することが分かりました。

質量mの走者は進行方向と逆向きに見かけの力maを受けます。走者は加速時に前傾姿勢を取ります。地面からの傾斜角度をα、重力加速度をg(=9.8m/s^2)とすると、傾斜する体軸に垂直方向の成分のつり合いから

  • mgcosα=masinα

が成り立ちます。

つまり傾斜角度αは加速度aに対して

  • tanα=g/a

なる関係を満たします。これは姿勢が前傾するほど、加速度aが大きくなることを示しています。ボルト選手の場合、傾斜角度はスタ-ト直後に60度(体軸と地面のなす角)ですが、徐々に増加し36m地点で90度(直立)になります。傾斜角度を小さくするほど、短時間でトップスピ-ドになります。

走行時に足にかかる力は

  • sqrt(a^2+g^2)/g~11.3/9.8=1.15

倍に大きくなります。a=5.65m/s^2の時、体重の15%だけ体が重く感じられます。ボルト選手は93kgだから、加速し始めたときに14kgも重くなります。

トップスピ-ドを高めるためには、ストライド(1ステップの幅)とピッチ(1秒間のステップ数)を大きくします。ボルト選手のストライドは2.75m(身長は1.96m)ピッチは4.48回です。ちなみにカ-ルルイス選手のストライドは2.75m(身長は1.88m)ピッチは4.36回です。ボルト選手は長身ですが、ピッチが大きい特徴があります。またボルト選手はゴ-ル直前まで減速なく走り切りますが、日本の選手は減速が大きいです。

 100mの限界タイムは9.27秒と言われています。これはトップスピ-ド12.9m/sに相当し、ゴール前でボルト選手を4m引き離す速さです。 

気温減率を用いて上空の気圧を求める

理想気体の静力学平衡の式は
・ dP=-(MairP/RT)gdz=-(g/RairT)・Pdz
でした。よって
・ dP/P=-(g/RairT)dz
となります。
1)温度が一定の場合、上式を積分すると
・ ln(P/P0)=-(g/RairT) (z-z0)=-(z-z0)/H
・ P=P0exp(-(z-z0)/H)
温度を-18℃(255K)とすると
・ H=RairT/g=287[J/KKg]・255K/ 9.8[m/ss]=7.5km
・ P0=1013hPa、Z0=0m
が得られます。

2)上空の温度が気温減率で減少する場合
・ T(z)=T0-Γz、Γ=6.5K/100m
なので
・ dP/P=-(g/ RairT(z))dz=-(g/Rair)・dz/( T0-Γz)
を積分すると
・ ln(P/P0)=(g/RairΓ)・ln((T0-Γz)/T0)
ですから、気圧は
・ P=P0((T0-Γz)/T0)^ (g/RairΓ)  0<z<10km
となります。15℃=288Kでは
・ g/RairΓ=9.8[m/ss]/ 287[J/KKg]0.0065[K/m]=5.25
・ P(z)=1013[hPa]((1-6.5[K/km]・z[km]/288[K])^5.25  0<z<10km
・ P(z=5km)=1013・(1-6.5・5/288)^5.25=1013・0.887^5.25=1013・0.533=540.3hPa
・ P(z=10km)=1013(1-6.5・10/288)^5.25=1013・0.774^5.25=1013・0.261=264.5hPa
となります。

3)10km以上の上空の場合
10kmでの気温 -55℃(218K)が一定となるので
・ H1=RairT/g=287[J/KKg]・218K/ 9.8[m/ss]=6.38km
・ P=246.5[hPa]・exp(-(z-10[km])/6.38[km]) 10km<z
と近似することができます。

飽和水蒸気圧Pvの温度依存性

Pv(T)の関数形
飽和水蒸気圧Pvの温度依存性を求めてみましょう。
・ dPv=QL/ TV・dT
を状態方程式
・ Pv=RvT/V、 Rv=461[J/Kg]
で辺々を割ると
・ dPv/ Pv=(QL/ TV・dT)/ (RvT/V)=(QL/ Rv)(dT /T^2)
となります。これを積分すると、
・ ln(Pv/Pv0)=-(QL/ Rv)(1/T-1/T0)
これをPvについて解くと
・ Pv=6.11・exp{-(QL/ Rv)(1/T-1/T0)} [hPa] for 273K
が得られます。つまり飽和水蒸気圧Pvは、圧力に依存せずに、温度だけの関数になります。

湿潤断熱減率を求める

クラジウス・クラペイロンの式
液体の水と平衡状態にある飽和水蒸気圧Pvの温度係数(dPv/dT)は、潜熱と相変化に伴う体積変化と転移温度に関して、以下の関係
・ dPv/dT=QL/ T(Vgas-Vliquid)≒QL/ TVgas
が成り立ちます。これはクラジウス・クラペイロンの式と呼ばれる式です。Rv=R/Mwater、
・ dPv/dT=(QL/ T)(Pv/PvVgas)=(QL/ T)(Pv/RvT)=(QL/ T)(Pqs/0.622)/RvT
・ 分母=1+(0.622 QL /CpP) (dPv/dT)=1+(0.622 QL /CpP) (QL/ T^2)    (Pqs/0.622Rv)=1+qsQL^2/ CpRvT^2
湿潤断熱減率は
・ dT/dz=-g/Cp{1++QL・qsMair/ RT)}/{1+qsQL^2・Mwater/ CpRT^2}
となります。

クラペイロンの式は、水蒸気と水が共存する系のPV線図において、温度差dTの2つの等温変化と水と水蒸気の相変化を有するサイクルにおいて、相変化で生じる潜熱QLに対してなされる仕事
・ dW=(Vgas-Vliquid)dPv
の割合がカルノ-効率に等しい条件
・ dW/ QL=dT/ T
を表しています。

湿潤断熱減率を求める
温度10℃(=283K)、気圧P=700hPaで飽和している空気塊の湿潤断熱減率を求めてみましょう。データ表から、10℃、700hPaでの飽和混合比は、qs=11.13×10^-3[Kg/Kg]でした。飽和蒸気圧データから、飽和蒸気圧は12.28hPa(10℃)、10.73hPa(8℃)でした。
湿潤断熱減率
・ dT/dz=-g/Cp{1+QL(qsMair/RT)}/{1+(0.622 QL /CpP) (dPv/dT)}
の因子は
・ g/Cp=9.8[m/s^2]/1004[J/KKg]=0.0098[K/m]=9.8[K/km]
となります。分子の中は
・ QL(qsMair/RT)=2.5×10^6[J/Kg]・11.13×10^-3[Kg/Kg]・29×10^-3[Kg]/8.31[J/KKg]/283[K]=0.3425
分母の中は
・ 0.622 QL /CpP=0.622・2.5×10^6[J/Kg]/ 1004[J/KKg]・70000[Pa]=0.0221[K/Pa]
デ-タ表から
・ dPv/dT=(12.28-10.73)/(10-8)=1.55/2=0.775[hPa/K]=77.5[Pa/K]
以上を代入すると、湿潤断熱減率は
dT/dz=-9.8[K/km]・[1+0.3425]/[1+0.0221・77.5]=-9.8[K/km]・0.4945=-4.85[K/km]
つまり約0.5℃/100mであることが示されます。

クラペイロンの式を用いた場合には、
dPv/dT=PQLqs/ 0.622RvT^2
=700[hPa]・2.5×10^6[J/Kg]・11.13×10^-3[Kg/Kg]/{287[J/KKg]・283[K]^2}
=84.73[Pa/K]
となるので、
dT/dz=-9.8[K/km]・[1+0.3425]/[1+0.0221・84.73]=-9.8[K/km]・0.467=-4.58[K/km]
なる0.5℃/100mに近い値が得られました。

乾燥断熱減率と湿潤断熱減率の導出

乾燥断熱減率の導出
断熱過程と静力学平衡の式は比熱比をγ、空気分子1個の質量をMairとすると、
・ dT/T=(γ-1)/γ・dP/P (断熱過程)
・ dP=-(MairP/RT)gdz  (静力学平衡)
と表せました。この式からdPを消去すると
・ dT/T=-(γ-1)/γ・(Mair・g/RT)dz
つまり乾燥断熱減率を表す式
・ dT/dz=-(γ-1)/γ・Mair・g/R
が得られます。空気1モルの重さMは0.029(Kg/mol)ですから
・ dT/dz=-2/7・0.029(Kg/mol)・9.8(m/ss)/ 8.3(J/Kmol)=-9.8℃/km
が得られます。実は空気の定圧比熱は
・ Cp=γ/(γ-1)・R/Mair=(7/2)・287[J/KKg]=1004[J/KKg]
なので、乾燥断熱減率は
・ dT/dz=-g/Cp=-9.8(m/ss)/ 1004[J/KKg]=-9.8℃/km
と表されます。これはおよそ1℃/100mの温度勾配を意味しています。つまり山の斜面で空気塊が押上げらえると、水蒸気が水滴になるまで、100mにつき1℃の割合で空気塊の温度が減少することを示しています。

湿潤断熱減率の導出
乾燥断熱減率はg/Cpであることが分かりました。水滴を含む空気の湿潤断熱減率を求めましょう。湿潤断熱減率を求めるためには、飽和混合比を用います。水蒸気の質量をmv、乾燥空気の質量をmdとすると、飽和混合比qsは
・ qs=mv/md
によって定義されます。qsは圧力と温度に依存しています。乾燥空気と水蒸気の状態方程式はそれぞれ
・ PdV=(md/Mair)RT
・ PvV=(mv/Mwater)RT
で表されます。Pv/P≒3%なので
・ qs=(Mwater/Mair)Pv/Pd=(18/29)Pv/(P-Pv)≒0.622・Pv/P
と表されます。この関係式が重要です。飽和混合比qsは水蒸気圧Pvと全圧力Pの比になっています。両辺の対数を取って微分すると
・ dqs/qs=dPv/Pv-dP/P
となります。後で示しますがPv=Pv(T)、つまりPvは温度だけに依存します。飽和混合比の変化量は
・ dqs=(qs /Pv) (dPv/dT)dT-(qs/P)dP=(0.622 /P) (dPv/dT)dT-(qs/P)dP
と変形できます。湿った空気塊が上昇すると冷えて水滴が発生し、水蒸気圧が低下します。
水蒸気は水滴になるときに凝縮熱QL[J/Kg]を出します。発熱量は
・ d’Q=-QL・dqs=-QL・{(0.622 /P) (dPv/dT)dT-(qs/P)dP}
で与えられます。一方、第一法則は、気体の質量m当たりのエネルギの保存を考えると
・ d’Q=CpdT-(V/m)dP
ですから、両式のd’Qを消去し、dzで両辺を割ると、
・ -QL (0.622 /P) (dPv/dT)(dT/dz)+QL(qs/P)(dP/dz)=Cp(dT/dz)-(V/m)(dP/dz)
・ -Cp{1+(0.622 QL /CpP) (dPv/dT)} (dT/dz)=-{V/m+QL(qs/P)}(dP/dz)
となります。静力学平衡の式
・ dP/dz=-g(m/V)
を代入すると、右辺は
右辺=-{V/m+QL(qs/P)} g(m/V)=g{1+QL(qsm/PV) }=-g{1+QL(qsMair/RT) }
となります。ここでPV=(m/Mair)RTを用いました。乾燥空気の状態方程式を用いるのはよい近似となります。従って湿潤断熱減率は
・ dT/dz=-g/Cp{1+QL(qsMair/RT)}/{1+(0.622 QL /CpP) (dPv/dT)}
と表されます。g/Cpは乾燥空気の断熱減率でした。ここで分母にある(dPv/dT)の値は、飽和水蒸気圧の温度依存性デ-タから求めることができますが、次のように理論的に求めることもできます。

断熱過程と静力学平衡

断熱過程での温度と圧力の関係
(T,P)表示の熱力学第一法則
・ d’Q=CpdT-VdP
に理想気体の状態方程式V=RT/Pを代入すると、
・ d’Q=CpdT-(RT/P)dP=0 (断熱過程)
となります。空気の熱伝導率は小さいので空気塊の上昇は断熱過程(d’Q=0)と考えられます。断熱過程の場合、R=Cp-Cvより
・ dT/T=(R/Cp)dP/P=(γ-1)/γ・dP/P
と書けます。ここでγ=Cp/Cvを比熱比といいます。2原子分子の場合、
・ γ=Cp/Cv=(7R/3)/(5R/3)=7/5
なので、(γ-1)/γ=2/7となります。上式を積分すると
・ lnT=(γ-1)/γlnP+const
・ T/P^(γ-1)/γ=一定
となります。これは圧力が下がると温度が下がること表しています。

静力学平衡
断面積A、高さdZの空気塊に働く圧力差と重力は釣り合っています。空気塊の質量をm、重力加速度をgとすると、
・ ma=A(dP/dz)dZ-mg=0
ですから、V=AdZとして、静力学平衡式は
・ dP=-(m/V)gdz
となります。気体分子1個の質量をMとすると、気体の状態方程式は
・ PV=(m/Mair)RT → m/V=MP/RT
となります。密度m/VはPとTに依存しています。密度を消去すると、
・ dP=-(MairP/RT)gdz
理想気体の静力学平衡の式が得られます。

熱力学の第一法則の表し方

理想気体の状態方程式は
・ PV=RT
で表されます。ここでRは気体定数
・ R=8.314[J/Kmol]
でした。Rは1モルの気体を1K上げるのに必要な熱量です。乾燥空気の分子量はMair=29g/molですから、気象学では乾燥空気の気体定数として
・ Rd=8.314[J/Kmol]/0.0029[kg/mol]=287[J/KKg]
を用います。同様に、水蒸気の気体定数は、Mwater=18g/molなので
・ Rv=8.314[J/Kmol]/0.0018[kg/mol]=461[J/KKg]
となります。両者の比は
・ ε=Rd/Rv=287/461=0.622
となります。

(T,V)表示の熱力学第一法則
熱力学の第一法則は「外部から加えられた熱量d’Qは、内部エネルギの増加量dUと外部にする仕事dWの和で与えられる」と表現されます。
・ d’Q(熱量)=dU(内部エネルギ)+dW(仕事)
理想気体の内部エネルギは、気体の分子間相互作用を無視するために体積に依らないので
・ dU=(dU/dT)v dT+(dU/dV)T dV ≒ (dU/dT)v dT
と書けます。定積比熱
・ Cv=(d’Q/dT)v=(dU/dT)v
を用いると、(T,V)系の熱力学第一法則は
・ d’Q=CvdT+PdV
と表せます。外部から加えた熱は、気体の内部エネルギの上昇と体積膨張によって気体が外部にする仕事の和に等しいことを表しています。ちなみにd’Qのプライムは完全微分ではないことを示すものです。

(T,P)表示の熱力学第一法則
内部エネルギU(T,V,P)は3変数の関数ですが、PV=RTの状態方程式があるので、独立な変数は2つです。先ほどの式は第一法則を2つの独立変数(T,V)で表したものですが、(T,P)を用いて表すこともできます。PV=RTから、
・ RdT =d(PV)=PdV+VdP
が成り立つので、dVをdPとdTで表すことができます。
・ d’Q=CvdT+PdV=(Cv+R)dT-VdP
より、第一法則は(T,P)表示で
・ d’Q=CpdT-VdP
とも書き表せます。ここで定圧比熱
・ Cp≡(d’Q/dT)p=Cv+R (Mayer’s relation)
を導入しました。乾燥空気の定圧比熱は
・ Cp=(7/2)・8.314[J/Kmol]/0.0029[kg/mol]=(7/2)・287[J/KKg]=1004[J/KKg]
です。あるいはエンタルピH=U+PVなる量を用いて、(T,P)表示の第一法則
・ d’Q=dU+PdV=d(U+PV)-VdP=dH-VdP=(dH/dT)pdT-VdP=CpdT-VdP
を導くこともできます。少し分かりにくい形になってしまいますが、圧力と温度は計測や制御がしやすいので、化学系の研究室では、(T,P)表示がよく用いられます。

フェーン(風炎)現象ってどんな現象なの?

フェーン(Föhn)とはドイツ語でアルプスの北麓に吹き降ろす局地風のことだそうです。フェーン現象とは、高山の斜面にあたった湿った空気が雨を降らして山を越え、暖かくて乾いた下降気流となってその付近の気温を上昇させる現象のことです。例えば、標高2000mの山を越える場合、平地で25℃の湿った空気は山頂で15℃となり、山を越えた平地では乾燥空気は35℃になります。その理由は、空気塊が引き上げられる場合、水滴を含むような湿った空気の温度は0.5℃/100m(湿潤断熱減率)の割合で減少しますが、水滴を含まない乾いた空気の温度は1℃/100m(乾燥断熱減率)の割合で減少するからです。つまり山頂から降りてくる乾燥空気の場合は逆に、1℃/100mの割合で増加するからです。

気温減率とは
上空に行くほど気温は低くなります。その低下割合は0.65℃/100mで、気温減率と呼ばれています。登山家は気温減率を用いて山頂の気温を推定します。気温減率はフェーン現象を引き起こす断熱減率とは異なります。地上の平均温度は10℃、10km上空の対流圏での温度は-55℃程度なので、気温減率は温度差65℃を10kmで割った値になります。上空の寒気団の温度によって日々の気温減率は変動します。温度差が大きい方が、大気が不安定になり、対流が活発になります。

ところで乾燥断熱減率や湿潤断熱減率の値はどのようにして求めたのでしょうか?
まず乾燥断熱減率について考えてみましょう。乾燥断熱減率は断熱過程の熱力学第一法則と静力学平衡から求められます。断熱過程の熱力学第一法則は、微小な温度変化dTと体積変化dVの関係を与えます。第一法則の表示を(T,V)系から(T,P)系に変換することで、温度変化dTと圧力変化dPの関係に書き換えることができます。静力学平衡は空気塊の鉛直方向の微小長さdzと圧力変化dPの関係を与えます。従って両者から、温度変化dTと微小長さdzの比である乾燥断熱減率が求まります。

正しいジョギング

正しいジョギングは「歩く速さで走ること」です。これがスロ-ジョギングです。初心者は、「歩く速さより速く走らなければならない」という先入観が強いので、長時間走れないし、ジョギング習慣が長続きしません。速く走ると辛くなります。それはエネルギ消費が上がるにつれて乳酸の分解が追い付かずに、乳酸が筋肉に蓄積するからだと言われています。しかし歩く速さで走れば、乳酸が筋肉に蓄積しないので、楽に走れるのです。

ダイエットをしたい人は、1日に30分は走った方がいいでしょう。8km/hでは1分間しか走れない人でも、4km/hなら30分間、楽に走れます。疲れが残らないので、ジョギング習慣が長続きします。もちろん少しずつ速度を上げていけば、楽に速く走れるようにもなります。

重要なのは、遅く歩けばダイエット効果は小さいですが、遅く走ってもダイエット効果は変わらないことです。物理法則を思い出してください。歩行時の消費エネルギは速度に依存しますが、ジョギング走行時の消費エネルギは速度に依存しないからです。速くジョギングすると運動した気になりますが、それは乳酸がより多く蓄積するだけの違いでしかないのです。

歩く速さでジョギングすると、自然と足の指の付け根で着地します。いわゆるフォアフット走法になります。踵から着地すると、ウォ-キングになり、走りにくくなるからです。フォアフット走法の方が足にくる衝撃が小さく、ケガをしにくいと言われています。またふくらはぎの筋肉が鍛えられます。慣れないうちは軽いフォアフットにするといいでしょう。たまには学級の一番足の遅い子どもを一番先頭に走らせて、みんなはその後をゆっくり走るのはどうでしょうか?その方が楽しく走れるし、運動効果はそれで十分あるのです。

物理法則を知っているだけでは、役に立ちません。いろんな出来事に応用できないか考えてみることで、日常生活にとても役に立つことが分かりますね。

ジョギングの物理

ジョギングというのは10km/h以下の速さで走ることです。最近スロ-ジョギングがいいね、なんて言われますが、どうしてでしょうか?ウォーキングの場合は速く歩いた方が、消費効率がよかったのに。それにしても一体どれくらいの速さで走ればいいのでしょうか?それはどうしてでしょうか?走るのは歩くのとどう違うのでしょうか?通常はそういうことは何も知らずに闇雲に走っているのですが、少し冷静になって簡単な物理で推測してみましょう。

一秒間の消費エネルギP[W=J/s]は、
P[W]=W[J/歩]×N[歩/s]
で与えられました。

まず1歩あたりの仕事W[J/歩]を考えてみましょう。踵を地面につけたまま、膝を曲げると、どれだけ重心が下がるでしょうか?私の場合は10cmでした。たぶん皆さんも同じくらいでしょう。走る場合は、膝を曲げた状態から蹴って足を入れ替えます。飛び上がったとき、重心の地面からの高さは10cmくらいです。これは基本的に筋肉もバネと同じだからです。つまり膝を曲げた分だけ上に飛び上がれるのです。だから走行時の重心は20cm上下します。歩行時の重心は10cm上下するので、1歩あたりの走行時の仕事は歩行時の2倍になります。随分簡単ですね。

1秒当たりの歩数N[歩/s]はどうでしょうか?ウォ-キングとジョギングで違いはあるでしょうか?ウォ-キングの場合は、早く歩くと1秒間の歩数は増加します。しかしジョギングでは、速さを変えても、8km/h以下の速さならば一定のリズムで走るので、1秒間の歩数は殆ど変わらないのです。ウォ-キングの場合は、早く歩いても歩幅は増加しませんが、ジョギングでは徐々に速く走ると歩幅が増加します。これは、跳躍中は慣性の法則が働き、速度が低下することなく移動するので、速く走ると歩幅が増加するのです。

歩行時の1歩あたりの仕事をWoとすると、走行時の消費エネルギは
Pr[W]=2×Wo[J/歩]×No[歩/s]
となり、速度に依存しません。一方、歩行時の消費エネルギは
Pw[W]=mgV×tan(φ/2)
であり、速度に依存します。私の場合歩行速度Vo=6km/hを超えると、歩くより走った方が楽になります。歩行速度が6km/hを超えると、歩行時の消費エネルギは、摩擦により徐々にVの2乗に比例するようになり、歩くのがつらくなる影響もあります。結局、速度Vo=6km/hで、Pr[W]=Pw[W]つまり
2WoNo=mgVo・tan(φ/2)
が成り立っているのです。8km/hを超えると徐々に走るピッチNoが増加します。跳躍の高さも少しあがります。

物理計算 Vs 人工知能

これまでは気象衛星と地上センサ網によるデ-タ収集と、物理モデルに基づく大規模計算により気象予測が行われてきた。しかしながら観測データ密度は限られており、気象や災害は複雑な因果関係を有するために、物理モデル計算に基づいて高精度の予測をすることは高コストかつ容易ではない。一方、人工知能は、物理モデルなしに過去の複雑な現象のデータからそのパタ-ンを学習することで、低コストかつ簡単に将来パタ-ンを予測できる。

両者が競い合って、将来にはより高精度な将来予測と原因理解を可能にするかもしれないが、一方では低コストの人工知能が高コストの物理計算を駆逐する可能性も考えられる。そうなると気候変動に対する根本原因の解明が遅れる可能性もあるのではないか、などと悔し紛れに思ってしまう。しかし人間の直観は、経験によるパタ-ン認識なので、人工知能的なのだ。とすれば人工知能が物理計算に勝つのは、人間として歓迎しなければならないのかもしれない。

AI技術による損害予測が進歩すると、損害保険会社の株価が上がるのか。しかしこれもAIが予測してくれるのだろうか。人間の寿命も含めて、将来が予測可能な社会って、一体どんな社会なのだろうか。