降雪機の物理と生物

北京五輪のスキー競技場は北京から180km離れた張家口の山岳地帯にあります。乾燥しているので、300台の人工降雪機でゲレンデの全ての雪を賄っています。出口の無数のノズルから水と圧縮空気(5MPa)を吹き出して、断熱冷却効果で水滴を球状に氷結させ、大型軸流ファンで放出します。雪大砲は高所に設置され、落下までに雪になります。1m3の雪を作るのに2kW 位の電力がかかります。寒い夜間に一晩中稼働させ騒音を発するので、野生動物には迷惑な話です。今回中国は雪の核形成を促進するヨウ化銀(感光剤)の粉を145個のロケット弾で撒いています。最近はヨウ化銀には毒性があるので控えられています。
水と空気の混合ノズルから氷結核を放出し、同時に水を別のノズルから噴射することで水滴から蒸発した水を氷結核に付着させて雪をつくる方法があります。これなら環境汚染になりません。
水は0℃以下になっても過冷却状態になり−40℃になるまで氷結しません。ホコリがあると−15℃、ヨウ化銀だと−8℃で氷結します。
スノーマックスというP.シリンガエ細菌(極鞭毛グラム陰性)の粉を水に入れて噴射すると−2℃で氷結できます。1985年のカルガリー五輪では、この細菌をガンマ線照射して造雪しました。
1985年にステファン リンドウ博士が雲の中から氷結活性細菌を発見しました。氷結活性タンパク質は1200個の塩基でコードされたNRCの3ドメイン構造であることが分かっています。このタンパク質の一部が氷晶の格子定数と一致しているので氷の核形成が可能になります。
シリンガエ細菌は自分を凍らせて雲になって移動し、雨と共に降りてきて、野菜の葉っぱに付着します。この細菌が付着すると容易に凍るので霜害を生じさせます。細菌は野菜の表面を氷結により破壊して内部に侵入します。雲ができる原因が特定の細菌にあったとは驚きです。
遺伝子組み換えにより氷活性タンパク質のコードを破壊したシリンガエ細菌の変異株を作成しフロストバンなる商品が作られました。変異株が葉を覆うと通常株が繁殖できなくなります。1987年にフロストバンはカルフォルニアの苺農場で撒かれました。これが世界初の遺伝子組み換え生物の屋外開放例となりました。効果はありましたが、強い反対に逢いました。
近年では卵を産めないノックアウト昆虫の開放により、害のある昆虫を駆除することは行われており、大きな成果をあげているようです。結局最後は野菜の話になってしまいました。私は科学の進歩の速さにはっきり言ってついて行けません。

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