ルミノ-ル反応とはどんな反応でしょうか?

刑事ドラマの「科捜研の女」を見ると、犯行現場の血痕を見つけるのに、ルミノ-ル反応が用いられています。ルミノール反応は、銅、鉄、血痕の検出に使用されています。金属イオン錯体やペルオキシダ-ゼが触媒となり、青白色の蛍光を示します。


ルミノ-ルはアミノ・フタル・ヒドラジドの粉末で、水には溶けないので、炭酸ナトリウムや水酸化ナトリウムの水溶液に溶かします。ルミノ-ル粉末と水酸化ナトリウム水溶液と過酸化水素を水に溶かし、ルミノ-ル試薬溶液をつくります。血痕にルミノ-ル試薬溶液を噴霧すると、暗がりで血痕から青色蛍光(波長460nm)が観測されます。血痕のヘム鉄が過酸化水素を分解するのでルミノ-ル反応が始まります。
反応機構は諸説ありますが、ジアザキノン中間体を経て、励起一重項3-アミノフタル酸ジアニオンに変化し、これが基底状態に戻るときに紫青色に発光すると考えられています。


過酸化ナトリウム(Sodium peroxide)Na2O2粉末を使えば、過酸化水素は不要です。 Na2O2粉末は水と激しく反応し、
・ Na2O2 + 2 H2O ⟶ 2 NaOH +  H2O2
に分解するからです。水500mlに対しルミノール粉末0.5g、Na2O2粉末2.5gを溶かすとルミノ-ル試薬溶液ができます。和光純薬で1キット6500円で販売されています。ルミノ-ル試薬はアルミホイルに包んで冷蔵庫に1週間程度保存できます。様々なルミノール誘導体も開発されています。


ルミノール反応による血液鑑定はあくまでも、予備試験にしか過ぎません。発光時間も1分ぐらいだと思います。ルミノール検査後、DNA鑑定で本当に人間の血液であるかを鑑定しなければなりません。血液の成分を分解する酵素入りの洗剤を使うと、血痕の付着した衣類を洗濯すると、DNA鑑定ができなくなります。


大根に含まれるペルオキシダーゼ(peroxidase)という酵素は過酸化水素を分解するのでルミノ-ル試薬に反応します。上記のドラマには、掃除のエキスパ-トがカ-ペットに付着した血痕を拭きとった後、大根おろしの汁を付けて、捜査をかく乱するケ-スがありました。

ケミカルライトはどうして光るのでしょうか?

5月25日に近所の文化センターで山梨県立西高校の吹奏楽部の発表会に参加しました。3年生は最後の発表会です。6月からは受験勉強をするからなのでしょうね。そのとき主催者は観客に長さ20cmのケミカルライトを配りました。よくお祭りで子どもがもっている棒状の蛍光発光体です。ケミカルライトでお別れのム-ドが演出されました。


 ケミカルライトはサイリウム(Cyalume)とも呼ばれます。棒状のプラスチック容器の中にガラス製のアンプルがあります。容器を折ると、アンプルが割れて、内外の溶液が混じり合い反応して発光します。発光には二酸化炭素の二量体が使われています。
 反応する物質は、ジフェニル・シュウ酸C14H10O4(Diphenyl Oxalate)と過酸化水素です。触媒にサリチル酸ナトリウムが入っています。反応すると、ジオキセタンジオン(CO2の二量体)と2分子のフェノ-ルが生成します。 ちなみにジフェニル・シュウ酸は、ジメチルシュウ酸(Dimethyl Oxalate)にフェノ-ルを反応させて作ります。


 発光物質は色々な色を出せる蛍光色素です。ジオキセタンジオンが蛍光色素を励起します。ジオキセタンジオンは1μ秒で開裂し2分子のCO2になります。開裂エネルギで蛍光分子が励起され、基底状態に遷移するときに蛍光を発します。反応時には発熱しません。発光効率は15%くらいだそうです。


 青色色素には9,10ジフェニル・アントラセン、赤色にはルブレンやロ-ダミンB、緑色には9,10ビス・アントラセン、黄色にはアントラセン、橙色にはナフタレンやド-ダミン6Eなどが用いられます。1本70円くらいです。
 プラスチック容器が破断すると、有害なフェノ-ルとガラス破片が飛び散るので、完全に安全とは言えません。サイリウムはより安全なLEDライトに置き換えられてしまうかもしれません。
シュウ酸(COOH)2(Oxalic acid)は常温で白色の固体です。ほうれん草に含まれているので、ご存知の方も多いでしょう。シュウ酸は1776年にカ-ル・ウイルヘル・シュ-レにより、カタバミ(Oxalis)から初めて単離されました。とろろ芋が肌に着くと痒みを生じるのは、シュウ酸カルシウムの針状結晶が肌に刺激を与えるためです。とろろ芋とケミカルライトはこんなところで繋がっていたのですね。

消臭除菌スプレ-は安全なのでしょうか?

除菌ではなく、消臭殺菌スプレ-なので安全であるとは言い切れません。例えばP&G社の除菌スプレ-『ファブリーズ』には第四級アンモニウム塩Quatが使用されています。これは逆性石鹸を使った殺菌剤です。消臭成分としては、「トウモロコシ由来消臭成分」と書かれていますが、これはβ-シクロデキストリンだと思います。

部屋で噴霧するということは経口摂取の安全性を確認しなければなりません。2010年に東京都健康安全研究センターは、マウスの新生仔と成獣にQuatを21日間連続して経口投与したところ、新生仔ではオス、メスともに有意な死亡率の増加が見られたと報告しています。

2018年11月18日には、殺菌成分Quatによって、マウスで妊娠率や生まれる胎仔数の減少、精子濃度や運動性が減少したという研究が米国で発表され、環境団体が警告を発表しています。大学の実験室の洗浄剤をQuatに変えて以降、実験動物の流産が増えたそうです。

 家庭内では、逆性石鹸を使って、神経質に消毒しなくてもいいように思います。

逆性石鹸にはどうして殺菌力があるのでしょうか?

石鹸は除菌力がありますが、逆性石鹸は殺菌力があります。

1935年にG. Domagk博士が第4級アンモニウム塩に殺菌作用があることを発見しました。但し逆性石鹸の殺菌力はグラム陽性・陰性細菌や一部のカビには有効ですが、結核菌(抗酸菌)やウイルスには無効です。結核菌に対しては、両性界面活性剤(塩酸アルキル・ポリアミノ・エチル・グリシン)が有効です。SARSコロナウイルスは中性洗剤で殺菌できます。

 なぜ陽イオン界面活性剤には殺菌作用があるのでしょう。その詳細はまだよく分かっていないようですが、いくつか仮説があります。陽イオン性界面活性剤は、

・マイナスの電荷を持つ細菌表面への吸着速度が速い

・細胞膜の流動性が増して、破裂しやすくなる

・細胞膜タンパク質を変性させて、酵素機能を失活させる

といった効果で殺菌すると考えられています。アルキル側鎖RがC12H25の塩化ベンザルコニウムが最も殺菌作用が強いと言われています。第四級アンモニウムのカチオンは常に帯電していて、溶液のpHに左右されません。

 普通石鹸と逆性石鹸を混ぜると、会合して両者ともに界面活性を失います。

例えばシャンプー(普通石鹸)とリンス(逆性石鹸)を混ぜたり、手洗い用の石鹸と消毒用の逆性石鹸を混ぜると、充分な効果は得られなくなります。逆性石鹸を用いるときは、まず普通石鹸で汚れを十分に落とした後、水で普通石鹸を十分に洗い流してから、逆性石鹸を使うのが効果的です。逆性石鹸に先ほど述べた非イオン性界面活性剤を配合すれば、殺菌と洗浄が同時にできます。

しかしながら、家庭生活で手を消毒しなければならないことは、あまりないように思います。まな板も中性洗剤で洗って干しておけばいいでしょう。こうした殺菌技術は衛生管理が必要な病院で実施すればいいことではないかなと思います。

逆性石鹸とは何でしょうか?

逆性石鹸は、高級アミンの塩からなる界面活性剤であり、殺菌剤や柔軟剤、リンスの成分として利用されるものです。4級のアルキル・トリメチル・アンモニウム塩

  • CH3(CH2)nN(CH33Cl

や塩化ベンザルコニウム(ベンジル・ドデシル・ジメチル・アンモニウム・クロライド、通称BDDAC、ベンゼン環あり)

・ C₆H₅CH₂N⁺(CH₃)₂R•Cl⁻  (R = C8H17 ~ C18H37、長鎖アルキル)

は逆性石鹸です。塩化ベンザルコニウムはオスバン、ヂアミトールなどの商品名で知られています。アルコールと異なり、逆性石鹸は無臭です。アルコールはゴムを傷めますが、逆性石鹸はゴムを傷めません。

逆性石鹸は、界面活性作用は弱く、洗浄力は劣ります。しかし衣類や頭髪に吸着することで、空気中の水分が保持されやすくなり、柔軟性を与えることから、衣類の柔軟剤や頭髪用リンスなどとして利用されています。 また陽イオン界面活性剤自体も生分解性のよいエステル型ジアルキルアンモニウム塩が使用されるようになっています。

柔軟剤を使用すると、繊維同士の滑りがよくなるので、重ね着をしても摩擦が起きにくくなり、静電気の発生を抑えられます。ポリエステルやナイロンなどの化学繊維は、柔軟剤の香りが残りやすい繊維です。ある調査では6割の人が毎回の洗濯で柔軟剤を使っていると回答しています。

注意すべきことは、柔軟剤は洗濯のすすぎの後に投入することです。洗剤と同じタイミングで入れると、両者の効果が打ち消しあってしまいます。洗濯機では通常洗剤と柔軟剤を入れる場所は異なっています。また他人が柔軟剤の匂いを不快に感じる場合もあります。使用者が製品の匂いに慣れ鈍感になることで使用量が増えると問題が生じます。また薄着の方が長生きするとも言われています。

界面活性剤にはどんなものがありますか?

界面活性剤は4種類あります。石鹸のような陰イオン系、逆性石鹸のような陽イオン系、両性系、非イオン系の4種類です。

両性系界面活性剤には、アミノ酸系洗剤

  • CH3(CH2)nCH(NH3+)COO

があります。洗浄力は弱いですが、弱酸性で髪に優しい利点があります。

非イオン系界面活性剤には、ポリオキシ・エチレン・アルキル・エ-テル

  • CH3(CH2)nO(CH2CH2O)mH

があります。非イオン系洗剤は、油汚れを落としやすく、乳化、分散、浸透に優れています。衣料用洗剤や乳化剤として用いられています。シャンプ-としては目にしみにくい利点があります。

ノニオン界面活性剤はイオン化しないので、酸やアルカリの影響、硬水や軟水の違いによる影響を受け難いです。他の界面活性剤と併用できる、タンパク質を変性させにくいといった利点があります。

合成洗剤が河川の富栄養化につながると言われたのはどうしてでしょうか?

合成洗剤CH3(CH211OSO3Na自体にはリンが入っていません。河川の富栄養化は、水を軟水化させるために投入したトリポリリン酸ナトリウムSTPP(=Sodium TriPolyPhosphate)

  • Na [PO(ONa)O]3ONa+ (Na5P3O10

などのリン酸塩によるものです。STTPは酸素原子を共有して結合した四面体 PO4(リン酸)構造単位からなるポリマーのオキソ酸です。生体エネルギを担うATPにも同様の構造が見られます。STTPは水中でNaを放出し、Caを吸収することで、合成洗剤がCa塩を作るのを防止します。

STTPは白い粉で、粉末洗剤の吸湿固化を防止し、製造時の生産性を向上する効果もあります。日本の洗濯用粉末洗剤には製品中に30%程度、欧米では50%程度配合されていたそうです。1980年頃から、洗剤の軟水剤はSTPPからゼオライト(アルミノケイ酸ナトリウム)に切り替えられました。洗剤の洗浄力強化のために、プロアテ-ゼやリパ-ゼが添加されるようになりました。

現在ではSTPPはエビやホタテの鮮度を保つための防腐剤として用いられています。シーフードの重量が増すことは販売者に利点があります。

石鹸しかないときには、どうやって髪を洗ったらいいでしょうか?

キャンプにいくと石鹸しかないときがあります。石鹸で髪を洗うと、髪がごわついてしまいます。それは髪の表面に石鹸カスが付着するからです。水道水中のCaが石鹸の脂肪酸と結合して難溶性の石鹸カスができるからです。水道水がCaの少ない軟水であれば、石鹸カスは少なくなります。石鹸はアルカリ性なので、髪を覆うキューティクルが開いてしまうのも、きしみの原因になります。石鹸で髪を洗った後に、お酢やクエン酸でリンスすると、石鹸カスが脂肪酸に変化してすっきりします。弱酸性になるとキューティクルが閉じて、指通りもよくなります。

石鹸と合成洗剤はどう違うのでしょうか?

石鹸の分子は、CH3(CH2)nCOONaという構造をしています。CH3(CH2)nが疎水性、COOが親水性です。石鹸は陰イオン系界面活性剤(surfactant)です。水に溶かすと、

  • CH3(CH2)nCOONa + H2O → CH3(CH2)nCOOH + Na + OH

となるので、アルカリ性であることが分かります。アルカリ度はPH10程度です。石鹸は弱酸に強アルカリ(NaOH)を加えて作るので、弱アルカリになるのです。油汚れは弱酸性なので、弱アルカリ性の石鹸を使うと油汚れが落ちます。石鹸は硬水や海水では、Ca2+やMg2+と塩を形成して沈殿するので、洗浄力が低下します。

 それでは合成洗剤はどうでしょうか?

台所用の合成洗剤といえば、ラウリル硫酸ナトリウム(Sodium Lauryl Sulfate)です。これは、CH3(CH211OSO3Naという構造をしています。合成洗剤も陰イオン系界面活性剤です。それならば合成洗剤を水に溶かすとアルカリ性になるのでしょうか?

  • CH3(CH211OSO3Na+ + H2O → CH3(CH211OSO3-  +Na+ + H2O

となるので、合成洗剤は中性です。中性だから食器洗いで手が荒れないというのが利点だったのですね。合成洗剤はR-OHにH2SO4を加えて硫酸水素ドデシルにしてNaOHで中和して作製します。合成洗剤は強酸と強塩基の塩であるために、加水分解しないので、中性なのです。中性である合成洗剤は、Ca2+やMg2+と塩を形成する力が弱いので、硬水や海水中でも石鹸より洗浄力を発揮します。

もう一つ有名な合成洗剤がABS(=Alkyl Benzene Sulfonate)洗剤です。これはR-C6H4-SO3Naという構造をしています。Rはアルキル基、C6H4はベンゼン環です。ABSは硬水や酸に対しても安定で,界面活性能力・洗浄力が大きいため1960年代から合成洗剤の主流になりました。しかし側鎖アルキル基が分枝構造であるため廃水中で生分解されず残留し、土壌菌を殺したりするので問題になりました。1965年以降は、アルキル基が直鎖構造の生分解性ABS洗剤が用いられるようになりました。

 合成洗剤をタンパク質に加えると、タンパク質は折り畳み構造が解けて棒状になるという面白い性質があります。合成洗剤は、タンパク質の立体構造の影響を避けるために電気泳動実験に用いられます。

エゴマ油はどうして注目されているのでしょうか?

DHAは脳や網膜のリン脂質に含まれる脂肪酸の主要な成分です。エゴマ油にはDHAを合成するのに必要なα-リノレン酸が58%も含まれているからです。ヒトを含めた多くの動物は体内でα-リノレン酸を原料として10-15%の割合でEPAやDHAを生産することができます。妊娠・出産期にはω-3脂肪酸が枯渇しやすく、産後のうつ病に関与していると言われています。

つまりヒトは脳や網膜を維持するために、DHAあるいはα-リノレン酸を摂取しなければなりません。DHAは青魚の脂に含まれています。α-リノレン酸の場合、1日あたり2g必要です。ホウレンソウに換算すると1日1.4kgに相当します。α-リノレン酸は、大豆油(7%)、キャノ-ラ(アブラナ)油(9%)、エゴマ(58%)、アマ(55%)に含まれています。

コ-ン油、ゴマ油、ヒマワリ油、オリ-ブ油などは、ω6脂肪酸であるリノ-ル酸(18:2)を多く含み、α-リノレン酸を含みません。リノ-ル酸は、6位と9位に二重結合をもちます。α-リノレン酸はω3位にも二重結合を有する脂肪酸です。Δ15-脂肪酸デサチュラーゼはω3位に二重結合を作る酵素です。植物や微生物は、Δ15-脂肪酸デサチュラーゼがあるので、リノール酸からα-リノレン酸を合成できます。しかしヒトを含めた動物はΔ15-脂肪酸デサチュラーゼがないので、リノール酸からα-リノレン酸を合成できないのです。

エゴマ油は、高齢化社会で需要がある高価な油です。エゴマは耕作放棄地でも栽培可能な一年草なので、村おこしにいいと思います。但し種の洗浄に手間がかかります。

DHAとは何でしょうか?

DHAはドコサヘキサエン酸(Docosa-Hexa-enoic Acid)の略語です。ギリシャ語でDocosaは22、Hexaは6を意味します。DHAは6つの二重結合を含む22個の炭素鎖をもつカルボン酸 (22:6)です。

DHA(C12H32O6)はCH3CH2(CH=CHCH2)6CH2COOHという分子構造(328g/mol)をしています。DHAは、COOHから数えて、4、7、10、13、16、19 番目の炭素に全てシス型の二重結合をもちます。一方、生理学者はCH3から数えます。CH3から数えて3番目に二重結合をもつので、ω3脂肪酸に分類されます。

EPAはエイコサペンタエン酸(Eicosa-Penta-enoic Acid) の略語です。ギリシャ語でEicosaは20、Pentaは5を意味します。EPAは5つの二重結合を含む20個の炭素鎖をもつカルボン酸 (20:5)です。

EPA(C20H30O2)は CH3CH2(CH=CHCH2)5(CH2)2COOHという分子構造(302g/mol)をしています。EPAは、COOHから数えて、5、8、11、14、17 番目の炭素に全てシス型の二重結合をもちます。同じくCH3から数えて3番目に二重結合をもつので、ω3脂肪酸に分類されます。

これらの脂肪酸は脳や網膜に多く含まれています。DHAやEPAは、リノレン酸(18:3)系列のω3必須脂肪酸です。さば、まぐろ、さんま、いわしなどの青魚やアザラシの脂に含まれています。

EPAには血小板の凝集作用があるトロンボキサンA3と血小板の凝集抑制作用があるプロスタサイクリンI3を作り出す作用があります。医学的には、抗血栓作用、血中脂質低下作用、血圧降下作用などが認められています。生理活性の強いω6系統と同じ酵素を使うので、免疫や凝血反応、炎症などにおいてω6系統のアラギドン酸が引き起こす過剰な反応を抑える効果があります。DHAやEPAはエパデール(持田製薬)やロトリガ(武田薬品工業)などの高脂血症治療薬などとして用いられています。

科学者でもギリシャ語の10以上の数字を読める人は少ないです。例えば14はtetra-deacaですが、40はtetra-conta、400はtetra-cta、4000はtetra-liaです。ちなみに11はundeca、21はhenicosaといいます。

神経細胞の脂肪酸膜にDHAが用いられている理由

神経細胞は突起を伸ばした複雑な構造をしているので、柔軟な細胞膜が必要です。細胞膜に二重結合が多い脂肪酸が含まれると、脂肪酸間の相互作用が小さくなるので、膜タンパク質の流動性が高まり、細胞膜が柔らかくなります。血中のEPAは脳関門を通過できませんが、DHAは通過できるので、脳細胞にはDHAが含まれます。

黒い津波 知られざる実情 NHKスペシャル

2011年3月11日午後3時に東北地方を襲った津波は黒かったと報告されています。今年3月にNHK取材班は、黒い津波に関する調査を追跡報告しました。黒い津波の原因は、湾内に入り勢いを増した津波が、数mの深さ堆積したヘドロを削り取ったためです。ヘドロ粒子のサイズは数μmと細かく、汚水の密度は海水より10%以上大きいことが分かりました。

中央大学の有川太郎教授は、黒い津波が建物に与える衝撃力を調べました。密度が10%高くなるだけで、衝撃力は海水の2倍以上(556kg重/m2)ありました。汚水は粘性が高いために、海底付近の速度が小さくなり、盛り上がって建物に衝突するからです。汚水は浮力が大きいため、通常2mの浸水で木造家屋は浮きますが、汚水の場合は1mの浸水で家が浮き上がってしまいます。汚水の場合、ひざ下の深さで人は立っていられなくなります。飲み込まれると、ヘドロで窒息死します。津波の後には街がヘドロの粉末で覆われ、舞い上がった粉末は肺炎を引き起こします。

流体力学の専門家は数多くいますが、汚水力学の専門家は殆どいません。今後は早急に、建築基準の見直しなど、汚泥を含んだ津波の対策を立てていかなくてはなりません。

藍染めはどうして青色が落ちないのですか?

藍染めは非水溶性のインジゴで染色されているからです。それでは最初にどうやって綿布を非水溶性のインジゴで染めたのかが気になります。実は、綿布を水溶性のインドキシル液(黄色)に漬けて空気中に取り出すと、インドキシルが酸化されて繊維に青色のインジゴが残留して、染色されます。

タデアイ(タデ科)の葉には、インジカンという配糖体が含まれています。これはインドキシル基がついたグルコ-スです。これをアルカリ性の水溶液中で加水分解すると、インドキシル液になります。藍染できる植物には、インド藍(マメ科)、ウォ-ド(アブラナ科)、琉球藍(キツネノゴマ科)などがありますが、どれも種類が異なります。

旧来の製法では、乾燥させた藍の葉に水を加えて3か月ほど発酵させて「すくも」をつくります。すくもに灰汁と小麦ふすまを加えてさらに一週間発酵させて、インドキシル染色液を作ります。染色と乾燥を15~20回おこなって藍色に染色します。現在ではインジゴはアニリン(フェニルアミン)から合成されています。

 絹はタンパク質なので、マイナスのCOOH基やプラスのNH3基があるので、イオン化した染色液で染めやすいです。しかし植物性繊維のセルロ-スには帯電基がないので、染色力が弱いのです。インジゴで染めたジ-ンズは何回も水洗いすると色落ちしてしまいます。逆にその方が、風合いが深まると思われています。

石徹白洋装店にて

戦争中は、贅沢品の藍は栽培が禁止されていましたが、徳島の人たちが藍染を守ってきたと言われています。藍の葉は食べられます。藍の葉の抗酸化力はブル-ベリ-の5倍と言われています。藍栽培では、殺虫剤や除草剤を撒いていたので、藍畑の土壌は汚染されています。そのため食用の藍は水耕栽培で生産されているようです。徳島では藍を麺などに練りこんで、阿波藍ラ-メンなどとして販売しています。

荀子の勧学には「青は藍より出て、藍より青し」という言葉があります。「藍草から出る青色は、元の藍草の色より青い」という意味です。つまり、弟子も努力すれば、藍のように、師匠を超えることができるかもしれない、という意味だそうです。

タンパク質を食べるだけで体内でコラ-ゲンが形成されるのでしょうか?

実はコラ-ゲンの重合にはビタミンCが必要です。ビタミンCは、コラ-ゲンに含まれるプロリンとリシンの水酸化反応を触媒するFeを還元し、再利用する働きがあります。ビタミンCは還元できるHが2個もあり、強い抗酸化力を持ちますが、このような構造を持つ栄養素は珍しいのです。

プロリンに水酸基が付加するとヒドロキシ・プロリン(Hyp)となります。α鎖のProとHyp間には水素結合があります。コラ-ゲン繊維のリシンと水酸化リシン間にはアルドール結合があります。ビタミンCがないと、Hypや水酸化リシンができないので、強固なコラ-ゲンが得られません(2013年、岸本)。ビタミンCが不足するとコラーゲンも不足し、血管や皮膚や骨が脆くなります。つまりビタミンCが不足すると、出血が止まらなくなる壊血病を引き起こすのは、コラーゲンが不足するからなのです。ビタミンCは、抗壊血病因子(anti-scorbutic factor)として発見されたことからアスコルビン酸(ascorbic acid)とも呼ばれます。酸化型はアセト・アスコルビン酸です。

ビタミンCは脂肪代謝にも関わっています。脂肪燃焼を促進するカルニチンはアミノ酸であるリシンとビタミンCから合成されます。ビタミンCはストレス抵抗ホルモンであるアドレナリンの分泌にも不可欠です。ヒトの場合、遺伝子欠損のため、ビタミンCは野菜や果物などの食物から摂取しなければなりません。

 ちなみにヒトやモルモットは体内でビタミンCを合成できません。その理由は、ビタミンC生合成経路の最後に位置するGLO酵素(グロノ-γ-ラクトン酸化酵素)に遺伝子変異があるためです。GLO酵素を用いてグロノ-ラクトンからHを2個奪えばビタミンCが得られるのです。マウスはこのGLO酵素に遺伝子変異がないため、体内で充分量のビタミンCを合成できます。マウスとモルモットは違うのです。

コラ-ゲンは骨を丈夫にする効果があるのでしょうか?

骨粗鬆症モデルラットを用いて、コラ-ゲン由来のジペプチドがラットの骨密度の改善に有効であるという報告があります。

骨の20%はコラ-ゲンでできています。私たちの骨はリモデリングと呼ばれる骨代謝で保たれています。つまり新しい骨を作る骨芽細胞と古い骨を削る破骨細胞の働きで骨が絶えず更新されています。両者のバランスが悪いと骨密度が減少してしまいます。

Pro-Hyp(プロリル・ヒドロキシプロリン)や、Hyp-Gly(ヒドロキシプロリル・グリシン)などのコラ-ゲン由来のジペプチドには骨代謝を促進する働きがあります。Pro-Hypは両骨細胞を活性化します。Hyp-Glyは骨芽細胞を活性化し、破骨細胞を抑制する効果があると言われています。

 Pro-HypやHyp-Glyはジペプチドで吸収され(2012年杉原)、血中に長く存在する傾向があります。Pro-Hypではアミノ酸結合同士がねじれており、酵素で切れにくい構造を取っています。Hyp-Glyでは、Glyは分子が小さく、Hypの陰に隠れてしまい、酵素が切る場所を見つけにくいと考えられます。

コラーゲン由来のペプチドには、関節の軟骨の石灰化を促進するアルカリフォスファターゼ(ALP)活性を抑制する働きをするものがあり、長期の服用で関節の痛みを軽減した例があります。あるいは皮膚の水分量、キメ、透明感、弾力性などを20%程度改善する効果があるという報告もあります。Pro-Hypにはヒアルロン酸合成促進 作用、Gly-Pro には血圧低下作用等が報告されています。摂取カロリ-を考え、有効成分だけサプリメントで摂りたいという人の注目を集めています。

コラ-ゲンはどのように血糖調節に関わっているのでしょうか?

コラ-ゲン由来のトリ・ヌクレオチドが糖尿病患者の血糖値を下げる効果があることが報告されています。膵臓から分泌されるインスリンが食後の血糖値を下げています。インスリンの分泌を促進しているのはインクレチンと呼ばれる腸管ホルモンです。例えば小腸下部のL細胞から分泌されるグルカゴン様ペプチド1 (glucagon-like peptide-1, GLP-1) などがあります。

糖尿病患者はGLP1が少ないので、インスリンの分泌量が減ってしまいます。これは糖尿病患者の体内にはGLP1を分解するDPP4という酵素が多くあるからです。コラ-ゲンが分解してできるGly-Glu-HypやGly-Leu-Hypなど、Glu(グルタミン)やLeu(ロイシン)をもつトリ・ヌクレオチドは、DPP4酵素を阻害し、GLP-1分泌を促進するために、活性なGLP-1を増やす働きがあることが分かってきました(2016年、伊庭)。

コラーゲンの一部は完全にアミノ酸に分解されずに、コラーゲン由来のペプチドとして腸で吸収されるようです。吸収されたペプチドは、血液にのって皮膚、関節、骨、毛髪、爪など全身に運ばれます。但し血中にペプチドが存在するのは1日だけです。豚牛由来のものより魚由来のペプチドの方が、安全で食べやすいと言われています。但し糖尿病に対しては糖質摂取制限をするのが基本です。

コラ-ゲンは人体でどのような働きをしているでしょうか?

コラ-ゲンは、基本的に人体の細胞を支える働きをしていますが、人体のあらゆる組織に存在し、多様な働きをしています。例えば、血糖調節、止血、骨代謝などもコラ-ゲンが関わっています。

止血のメカニズム(参考文献1)は複雑ですが、簡単に説明しましょう。止血を行う血小板の表面にはGP6という糖たんぱく質が突出しており、これがコラ-ゲンの受容体になっています。血管壁が損傷すると、I型やIII型コラ-ゲンのGly-Pro-Hypが、血管内に放出され、血小板のGP6受容体と結合します。血小板は刺激され、損傷部に凝縮し、血管を止血します。但しIV型コラーゲンは血管内皮基底膜の主要成分ですが、GP6を介した血小板凝集活性は認められません。

血管のコラ-ゲンが老化すると血管が固く脆くなります。血管全体の弾力性が失われるため、動脈硬化の原因となり、いわゆる高血圧・脳梗塞・心筋梗塞等のリスクを高めます。骨のコラ-ゲンが劣化すると骨折しやすくなります。プロリンは体内で合成されます。血管や骨をしなやかにするには、日頃からタンパク質を摂取して、運動をする必要があります。

参考文献1 

コラーゲン結合タンパク質を介した生命プロセスの活性化機構 西田 紀貴

http://www.jbsoc.or.jp/seika/wp-content/uploads/2013/11/80-06-03.pdf

コラ-ゲンは何種類あるでしょうか?

28種類のコラーゲンが見つかっています。それらは発見された順番にギリシャ文字の番号が付けられています。それらは異なった性質や役割があります。最初の6種を紹介します。 Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、V、Ⅵは繊維型コラ-ゲン、Ⅳ、Ⅷ、Ⅹはネットワーク型コラ-ゲンです。その他に膜貫通型コラ-ゲンなどがあります。

・Ⅰ型コラーゲン

Ⅰ型コラーゲンは皮膚、腱、筋膜、骨などに見られる基本的なコラ-ゲンです。2本のα1鎖と1本のα2鎖がラセン構造をとっています。3重らせんの間に水分子を溜めることができるため、保水効果を持ち、化粧品などに広く利用されています。

・Ⅱ型コラーゲン

Ⅱ型コラーゲンは軟骨や眼球の硝子体、脊索にあるコラーゲンです。同一の3本のα鎖からなるホモ3量体構造からなる原繊維ですが、会合して細長い繊維を形成しません。

・Ⅲ型コラーゲン

Ⅲ型コラーゲンは、血管、真皮、リンパ組織、脾臓、肝臓、平滑筋などに見られる細網線維や胎生期・創傷治癒の際に出現するコラーゲンで、大量の糖質を含みます。ホモ3量体構造をとります。

・Ⅳ型コラーゲン

Ⅳ型コラーゲンは血管内皮基底膜(血管壁)や腎糸球体をつくるシート状のコラーゲンです。トロポ・コラーゲンが重合せず糖タンパクと結合して網目構造の膜を作ります。

・Ⅴ型コラーゲン

Ⅴ型コラーゲンは角膜をつくるコラ-ゲンです。Ⅰ型コラーゲンと共存し64μm周期の横縞を示す極めて細いコラ-ゲンです。

・Ⅵ型コラーゲン

Ⅵ型コラーゲンは軟骨細胞や基底膜をその下のⅠ型・Ⅲ型コラーゲンの線維に結びつける四量体のミクロフィブリル線維を作ります。64μmの周期性を示します。

皮膚はどのような構造をしていますか?

皮膚は人体最大の器官です。皮膚の面積は2㎡ 、その重さは10kgにもなります。 皮膚は、外部環境に対する保護バリアとして働きます。

皮膚は、表皮と真皮の2層から成り立っています。血管は真皮までで、表皮には血管がありません。表皮真皮接合部で酸素、栄養素および老廃物の交換を行っています。

表皮は、主にケラチノサイト(角化細胞)という細胞からなり、基底層、有棘層、顆粒層、角層(最表面)、という複数の層構造になっています。表皮の厚さは、50μmしかありません。角化細胞が分裂すると、基底層からより表面の層に移動し、一番外側の角質層に到達し、垢となって剝落します。皮膚は1か月かけて再生を繰り返しています。

真皮は、乳頭層、網状層の中に、血管、神経、毛根、汗腺が含まれています。乳頭層にある血管ループは、表皮に栄養素と酸素を運びます。網状層に多く見られるコラーゲンは、真皮の構造を作る主要タンパク質の一つで、皮膚に耐久性を与えます。コラーゲン同士を結びつけるエラスチンは、皮膚に弾力性を与えます。コラーゲンは、主に細胞の足場となるようなネットワーク構造をとり、ヒアルロン酸は、コラーゲンの間を埋め尽くすコンクリートの役割を果たしています。これらの物質が皮膚の真皮や血管、靭帯などに存在することで、肌にハリや弾力を与えています。

サケはなぜ寒い海に生息しているのか?

鮭のコラ-ゲンが変性しないようにするためです。コラ-ゲンに含まれるプロリンは環状の非必須アミノ酸です。プロリンは生体ではコラ-ゲン・タンパク質にのみ含まれています。ヒドロキシ・プロリンの含有量はヒトで9.5%、コイで7.5%、サケで5.4%です。ヒドロキシ・プロリンの含有量が小さいと、ラセンを保つ水素結合が減少するので、変性温度が下がります。コラ-ゲンの変性温度は、ヒトで42℃、コイで36℃、サケで21℃です。42℃はヒトの致死温度です。水温が25℃を超えると、サケは死にますが、コイは生きています。コラ-ゲンは生物の生存限界を決めています。ヒトが熱い風呂に長時間入るのは危険です。

コラ-ゲンの分子構造はどのようなものでしょうか?

コラ-ゲンは、20種類以上ありますが、グリシン(Gly)を含む3つのアミノ酸の繰り返しから成る左巻きラセン型ペプチドが、3本右巻きにねじれながら構成された繊維からなります。

詳しく説明すると、コラーゲンは、Gly-X-Y の3つのアミノ酸残基の並びが繰り返される特徴的なアミノ酸配列をしています。アミノ酸残基とはペプチドの中のアミノ酸のことです。Xにはプロリン(Pro)、Yにはヒドロキシ(水酸化)・プロリン(Hyp) が高頻度で出現します。Yの位置にあるPro残基は、ヒドロキシラーゼによる翻訳後修飾によって、Hyp残基になります。つまり典型的なコラ-ゲンの基本構造はA-[Gly-Pro-Hyp]n-Bです。AとBはテロペプチドと呼ばれ、N末端は16残基、C末端は25残基です。Chemisketchでコラ-ゲンのアミノ酸が脱水縮合する様子を描いて見ました。プロリンは特殊な構造のアミノ酸です。

 分子量はGly(C2H5NO2)が75g/mol、Pro(C5H9NO2)が115g/mol、Hpyが132g/mol、で合計322g/molですが、2H2O脱水しているので[Gly-Pro-Hyp]は286g/molです。つまりコラ-ゲンのアミノ酸残基の分子量は100g/mol程度です。

この配列は動物種間における差が少なく、他動物のコラーゲンを体内に移植することも可能です。多い配列は Gly-Pro-Hyp で、Gly-Pro-Ala、 Gly-Ala-Hypなどです。コラ-ゲンを加熱分解して1本鎖にしたものがゼラチンです。ちなみにグリシンは1820年にフランスのアンリ・ブラコノ-がゼラチンから抽出されました。

1本のペプチド鎖はα鎖と呼ばれ、アミノ酸残基数は1000個、分子量は10万程度です。I型コラーゲンの場合、2本のα1鎖と1本のα2鎖がラセン状に撚り合わされています。Hypが3本のα鎖の間で水素結合をつくってラセン構造の安定化に寄与しています。α鎖の末端はジスルフィド結合されてラセンが解けないようになっています。

ラセンの周期は6nmで50回転しています。よって分子長は300 nm、太さは1.5 nm程度です。この線維性コラーゲン分子が、67nm(=300nm/4.4)ずつずれて自己会合した線維をコラーゲン繊維(collagen fibril) と呼びます。隣接するコラーゲン繊維の末端同士は、α鎖に含まれるリシン(Lys)というアミノ酸と別の繊維のα鎖の水酸化リシンが、リジルオキシダ-ゼによって、アルドール結合(架橋)されています。コラーゲン繊維には67nm周期の横縞が見られます。例えば、骨や軟骨の中のコラーゲンは、このコラーゲン線維をつくっており、骨基質、軟骨基質にびっしりと詰まっています。コラーゲンは化学的に安定で酵素分解を受けにくいので、健康なヒト組織中のコラーゲンは皮膚で15年、軟骨で117年の半減期を有すると報告されています(2000年)。コラーゲンを分解する生体内酵素にはコラゲナーゼおよびMMP(マトリックスメタプロテアーゼ)ファミリーと呼ばれる酵素群があります。

2012年に大阪大学大学院理学研究科の奥山健二氏は3本鎖7/2-helixモデルを提唱しています。そのモデルによると、コラ-ゲンの基本繊維はコイル状のアミノ酸鎖が3本ねじり合った3重ラセン構造をしています。コイルはアミノ酸残基7個で2回転(右巻き)します。一番小さいアミノ酸であるグリシン(黒丸)がラセンの内側に位置することで、コイルが引き締まります。コイルの回転が進むにつれてグリシンの位置がずれます。3本のα鎖をより合わせる時に、グリシンが常にラセンの内側に位置するように、α鎖自体が左巻きに回転した3重ラセン構造をとります(図4-b参照)。グリシンが別のアミノ酸に置き換わると、ラセン構造にまとめられず、コラ-ゲンが不安定になります。

コラーゲンとはどのようなものでしょうか?

コラーゲンは、皮膚や腱などの結合組織や骨や軟骨組織に存在して臓器・組織の構造と機能の保持に重要な役割を果たす不溶性タンパク質です。人体の構成成分は、水分60%、タンパク質20%、脂肪15%、無機質5%です。そのタンパク質の30%はコラ-ゲンです。コラ-ゲンは皮膚の40%、骨の15%、血管の8%を占めている重要なタンパク質です。65kgの人には4kgのコラ-ゲンがあります。5~10g/日程度摂取することが推奨されています。

コラーゲンは、細胞を支える足場の役割と、細胞間を埋め、色々な成分を行き来させる潤滑剤の役割も担っています。老化と共に細胞は劣化し、細胞を取り巻くコラーゲンも減少・劣化していきます。しかし、最近の研究から、コラーゲンを分解したペプチドが細胞に刺激を与え、細胞から作り出されるコラーゲンを増やすことがわかってきています。

コラーゲンが地球で初めて誕生したのは、原生代後期の全球凍結後(6億〜8億年前)と考えられています。この時大気中の酸素濃度が増大したので、多細胞生物が出現します。コラ-ゲンは細胞を接着させるので多細胞動物の出現に大きな役割を果たしました。そのころには真核生物が出現しており、呼吸系が細胞膜から細胞内(ミトコンドリア)に移行していたので、多細胞化が可能になりました。多細胞化により、内部の細胞の環境が安定し、細胞の機能分化が起こり、高機能な生物が出現しました。植物は細胞の接着にセルロ-スを用いました。コラ-ゲンはセルロ-スに比べ、しなやかで弾力性があります。コラーゲンは食肉の生産によって生ずる骨や皮といった廃物から生産できる点も優れています。

コラ-ゲンには様々な応用があります。コラーゲンの中に薬液を染み込ませておくことで、コラーゲンが生体内で分解されると同時に薬液も徐々に放出され、患部に安定して届けることができます。安全なコラーゲンは人工皮膚や人工骨などの生体材料にも利用されています。コラーゲン・ゼラチンは共に優れた形状加工性を有しており、これまでにもスポンジ状、シート状、粒子状など様々な形状に加工され使用されてきました。今後、3Dプリンタやエレクトロスピニングなどの新技術との組み合わせにより、より新しい加工体が生み出されることが期待されています。

最初に陸に上がった魚は何でしょうか?

それはイクチオステガ(Ichthyostega)だと言われています。イクチオステガは、約3.7億万年前(デボン紀最末期)に生息していた原始的四肢を持った魚です。Stegosは肋骨の覆いの意味です。脊椎動物が上陸するためには強い肋骨が必要だったのです。イクチオステガの化石はグリーンランドで発見されました。但し当時のグリーンランドは、赤道直下付近に位置していました。

体長は約1~1.5m。イクチオステガは四肢を使って移動し、尾でバランスを取っていました。少なくとも頭部を水の外に出すための強い前肢を持ち、頑丈な胸郭と背骨は日光浴の助けとなりました。幼魚時代には、優れた運動性により、水中の捕食者から陸上に逃れることができたと思われます。頑丈さゆえに体が重すぎること、尾に肉鰭類のような鰭を持っていること、後肢の先端には7本もの指があることなどから、殆どの時間を水中で過ごしていたと考えられています。3.5億年前の石炭紀前期に生息していたペデルペスが陸上を自由に移動できた最古の四肢動物だと言われています。

スクレロケファルスは、最初に海から陸に上がった開拓者「イクチオステガ」の直系の子孫にあたる両生類の仲間です。短足ですが、大きな体を十分支えることのできる足を持っていました。体長は1.5m程度あります。化石はドイツ(古生代 ペルム紀)で見つかったものです。

最初に肺をもった魚は何でしょうか?

それはユ-ステノ・プテロン(Eusthenopteron:力強い鰭(ひれ)の意)だと言われています。ユーステノプテノンは3.7億年前(デボン紀)に現れた肺魚です。ユーステノプテノンはヒレの中に骨を持ち、肺で酸素呼吸をしていたので、湖沼のある湿地帯で生息することができました。食性は肉食性で、他の魚類を捕食していました。

1981年にアメリカのDonn Eric Rosen(1929―1986)らは、ユ-ステノ・プテロンは総鰭類よりも肺魚に近いと主張しました。ユ-ステノ・プテロンは植物の繁茂する河床に棲息していたため、密生した植物を対鰭でかき分けながら泳いでいたものと考えられています。体長は約30~120cm。体型はやや長い紡錘形で、上下に対称な幅広の尾ヒレがあります。

生息していた場所は海浜の潟湖などの気水域だったと推定されています。こうした場所は潮の満ち引きなどで環境の変化が著しく、水の流れが滞って酸欠状態に陥ることがあったと思われます。このことから、彼らは現在の肺魚と同じように肺呼吸をしていたと考えられます。さらには、鰭内部の骨や背骨、頭骨の構造が最古の両生類に近い特徴を示しています。

最初に背骨をもった魚は何でしょうか?

それはケイロレピス(Cheirolepis)だと言われています。ケイロレピスは3.9億年前(デボン紀初期)に現れた最初に背骨をもった魚です。ケイロレピスには2枚の胸ヒレと2枚の腹ヒレがあります。ケイロレピスの体長は約55cmです。ケイロレピスには顎(あご)と鋭い歯があり、自分の体長の2/3もの大きさの他の魚を食べられます。顎は、鰓(えら)を支える骨が稼働できる様に変化したものだと考えられています。ケイロレピスは背骨を持つことにより強い筋肉を発達させ、すばやく力強い泳ぎができたと考えられます。

淡水中のCa濃度は海水中の1~10%しかありません。ケイロレピスは体内に必要なCaなどのミネラルを骨に蓄積することで、川や湖などの淡水域で生息することができました。カルシウムは、神経の働きや心臓や筋肉が動くために必要です。骨にはMg、P、S、Znさらには鉄など、生命にとって必要なミネラルが海水と同程度の割合で含まれています。

軟骨とはどのようなものでしょうか?

軟骨は軟骨基質と軟骨細胞から成ります。軟骨基質の主成分は、コンドロイチン硫酸などのプロテオ・グリカンです。コンドロイチン硫酸は水和したNaを引き付けるので、軟骨は豊富な水分を含んでいます。軟骨細胞は、軟骨基質の中の軟骨小腔と呼ばれる穴の中に入っています。血管は軟骨の中には侵入せず、軟骨細胞は、組織液を介した拡散によって酸素や養分を受け取り、不要物を排出しています。

軟骨は、軟骨基質の成分によって硝子軟骨、線維軟骨、弾性軟骨の3種類に分けられます。

硝子軟骨は、最も一般的に見られる軟骨で、関節面を覆う関節軟骨、気管を囲っている気管軟骨、胸郭の肋軟骨などがあります。均質、半透明で永久軟骨と呼ばれます。一方、哺乳動物の胎児は、全身の骨格が硝子軟骨として現れ、これが骨に置換されていきます。このような様式を軟骨性骨化といいます。

線維軟骨は、椎間板や関節半月などに見られます。軟骨基質にコラーゲンを多く含むのが特徴です。このため、軟骨としては固く、強い圧力に耐えることができます。靱帯や腱には軟骨成分は見られません。

弾性軟骨には、耳介軟骨や喉頭蓋の軟骨などに見られます。軟骨基質は、弾性線維を多く含むため、硝子軟骨や線維軟骨と比べ、柔軟でかつ弾力があります。

最古のサメは何でしょうか?

最古のサメは4.9億万年前のドリオドゥス(Doliodus problematicus)だと言われています。2017年にサメのような顎(あご)と胸鰭(むなびれ)の化石が見つかっています。サメの体は、殆ど軟骨でできているので、化石になり難いのです。

3.7億万年前(古生代デボン紀後期)の海にはクラドセラケ (Cladoselache) が生息していました。全長は約1.8メートルです。口は体の下側ではなく先端に位置していました。顎はあまり頑丈ではありません。体形が流線形であることから高速で遊泳していたと思われます。ちなみにサメの軟骨組織中には血管、神経、リンパ管はありません。

サメには腎臓がないのでしょうか?

サメには腎臓がないと誤解している人が多いですが、サメやエイにも腎臓があります。サメの腎臓は、尿素を保持するために、尿素を再吸収します。そのためサメの腎臓は複雑な構造をしています。ヒトの腎臓は、尿を濃縮するために、水を再吸収します。水の再吸収時に尿素の浸透圧を利用しています。

初期の硬骨魚は弱者で、塩水域から淡水域に追いやられ、なんとか淡水に適応して生き延びました。現在の海の硬骨魚は、川から海に戻ってきたもので、海水を飲んで水を得ています。サメは海水を飲まずに海水から自然に水を得ています。サメは基本的には海水に適応していますが、ノコギリエイやオオメジロザメは、広塩性種と呼ばれ、海水と淡水の両環境に適応できます。

最初に腎臓をもった魚は何でしょうか?

それはプテラスピス(Pteraspis)だと言われています。プテラスピス属は4.0億年前のシルル紀末に現れた腎臓をもった魚です。プテラスピスの体長は25cmほどです。プテラスピスには顎(あご)がありません。頭部は平たい三角形の外骨格で覆われ、三角形の左右の端と背中に棘が1本ずつ生えています。

海水に適用した魚が淡水に入ると体が膨れて破れてしまします。ステラスピスは体内に入り込んでくる水分を腎臓で体外に排出できたので、淡水域に生息することができました。恐らくこれによってプテラスピスは淡水域が苦手なオウムガイやサメから逃げることができたのでしょう。

サメの尿素はどこで合成されているのでしょうか?

尿素はサメの肝臓で合成されます。肝臓では尿素回路によりアンモニアから尿素を合成して補給します。尿素回路の律速酵素はカルバミルリン酸合成酵素です。尿素濃度が上昇すると、酵素活性が低下して、尿素の合成が止まります。サメの死後には尿素が分解されアンモニアになるので、臭います。しかし防腐効果があるので、内陸ではサメの肉が食されていました。サメの肝臓には肝油があり、肝油の浮力で、サメは遊泳しています。

鰓(えら)には、酸素を取り入れるために、大量の血液が流れています。海水と血液の間には僅かな細胞層で隔離されているため、サメは尿素を失いやすいのです。しかしサメの鰓の細胞膜はコレステロール含量が高いので、尿素の拡散透過性が小さくなっています。

尿素はタンパク質の変性剤として働くので、このままでは酵素活性が失われます。サメは、尿素とトリメチル・アミン・オキシド(TMAO)を2:1の割合に保つことで細胞内の酵素活性を正常に維持しています。サメの代謝系は尿素を前提として働いているので、淡水域のサメでもいくらか尿素を保持しています。

魚はどのようにして体内の浸透圧を調整しているのでしょうか?

外界より体内塩分濃度が高いと、体内が脱水されてしまいます。魚の体内浸透圧の調整方法には3種類あります。クラゲや円口類のヌタウナギなどは、浸透圧順応型動物と呼ばれ、細胞内にグリシンやアラニンなどの中性アミノ酸を蓄積し、体内の浸透圧を外界と等しく保っています。

真骨魚は、浸透圧調節型動物と呼ばれ、過剰なNaCl はおもに鰓(えら)の塩類細胞から、Mg2+やCa2+、SO42-イオンは腎臓から少量の尿として排出されます。

サメやエイなどの軟骨魚やシーラカンスは、尿素浸透圧性動物と呼ばれ、体内に多量の尿素を蓄積することで、体内の浸透圧を外界と等しく保っています。サメの血漿(けっしょう)中のNaClは250~300mM(ミリモル/リットル)、尿素は400~450mMで、合わせて海水濃度700mMとなります。サメは鰓や直腸線からNaClを排出しています。Naは、ATPを使ってKと交換して、細胞外に排出されます。Clは濃度勾配や電荷反発を駆動力として排出されます。

最古の魚は何でしょうか?

最古の魚はアランダスピス(Arandaspis)だと言われています。アランダスピス属は4.6億年前、古生代オルドビス紀中期に出現しました。アランダスピスは体長15cm程度、頭は硬質で、鰭(ひれ)と顎(あご)はありませんでした。1959年にオーストラリアのアリススプリングスにて発見され、原住民のアボリジニのアランダ族から命名されました。

アランダスピスは海底付近をゆっくり泳いで藻類やプランクトンを泥ごと捕食していたようです。早く泳ぐ事が出来なかったため、巨大なオウムガイから逃げるように生活していたと考えられます。鰭がない魚がいたのですね。

同時期に生きていた似たような魚にアストラスピス(Astraspis)がいます。体長20cmで、名前は星の魚の意味です。体側にヤツメウナギのような8つのエラ穴が空いており、頭部の覆いが小さな五角形(星形)の骨片からできています。

究極のツタンカーメン

5月5日に、NHKの地球ドラマチックで「究極のツタンカーメン」(2013年イギリス)の番組が再放送されました。これはエジプト学者クリス・ノ-トンがツタンカ-メン王に関する様々な謎を科学的に解明する番組です。ツタンカーメンの埋葬には異例な点が多いことが知られています。例えば

・墓はなぜ手つかずの状態だったのか?

・なぜ墓がこんなにも小さいのか?

・ミイラに焦げた跡がある理由は?

・ミイラに心臓がなかった理由は?

さらに、有名な黄金のマスクも、顔と頭巾が別人のものだと判明しています。若きエジプト学者が、最先端の科学技術を駆使して、多角的な観点から少年王の謎解きに挑みました。

ツタンカ-メンの父親アクエンアテンは唯一の太陽神を信仰する宗教改革を行い、首都をテ-ベ(ルクソ-ル)からアマルナに移しました。ツタンカ-メンはアマルナで姉と結婚し9歳で即位しました。しかしアマルナでは疫病が流行したので、彼は宗教を元の多神教に戻し、テ-ベに還りました。彼は自分の名前を「アテン神の生きる姿」ツタンカ-テンから「アメン神の生きる姿」ツタンカ-メンに改めました。

ツタンカ-メンのミイラには心臓がありません。それは彼が外地で参戦した時、戦車の車輪に惹かれて、肋骨と心臓を負傷して死亡したからです。ツタンカ-メンには子供がなく、指定後継者は戦場にいたため、権力の空白が生じました。歴代のファラオの相談役であったアイ(70歳)は、ツタンカ-メンの妻と婚姻し、王位を奪ったのです。アイはツタンカ-メンを急いで自分の小さな墓に埋葬したため、様々な奇妙なことが起こりました。

布に浸した亜麻仁油が十分乾かないままに棺に入れてしまったので、油が発火して、ミイラが焦げてしまったのです。また壁画の乾燥が十分でなかったため、壁画にカビが生えてしまいました。ツタンカ-メンの黄金のマスクは、本人の顔の部分と、耳と頭巾の部分は別のものであり、両者は鋲で留められ溶接された跡があります。耳にはイヤリングの穴を埋めた痕跡があり、それは他の女性の王族のものでした。頭巾の青い縞は色ガラスですが、目の周りはラピスラズリ石が用いられています。これは急いで黄金のマスクを用意したからでしょう。他のファラオの装飾品を無理に入れたので、狭い通路には広くするために削られた跡が残っています。アイがツタンカ-メンに魂を入れる口開けの儀式を行った様子が壁画に描かれていますが、時間がなかったので壁画に書き入れるべき文字が書かれていません。

結局アイの政権は4年しかもちませんでした。アイはツタンカ-メンが埋葬されるはずだった大きな墓に埋葬されました。王位継承者の名前を書いた壁には、ツタンカ-メンとその父の名とアイの名が書き入れられませんでした。そのためツタンカ-メンの名は後の盗掘者から隠されたのです。

ツタンカ-メンが埋葬された紀元前1327年の春でした。その年の夏には、鉄砲水が起こり、王家の谷は深さ1m以上の土砂で覆われ、土砂は強い日差しのため、固い石灰岩となりました。3か月の間ツタンカ-メンの墓の6割は盗掘にあいましたが、大きな黄金のマスクは盗掘がばれるので、盗まれませんでした。ツタンカ-メンの墓は王家の谷の一番低いところにあり、土砂に埋もれたので盗掘から免れたのです。

 私もツタンカ-メンの墓を見ましたが、あっけないほど小さなものでした。エジプト人ガイドの同級生は、ルクソ-ルのカルナップ宮殿に住んでいました。宮殿の天井には料理した時についた煙の跡がついています。当時カルナップ宮殿は砂に埋もれていたので、彼はその建物が宮殿だとは知らずに住んでいたそうです。エジプトは空気が乾燥していて、すぐに喉が渇いてしまいます。日本では当たり前に買える牛乳がなくて、ヨ-グルトしか売っていませんでした。

自然の摂理と循環とはどういうことでしょうか?

自然の摂理と循環とは、「自然が、動物(捕食者)、植物(生産者)、菌類(分解者)が相互にバランスを保ち共存する摂理の元で、物質が循環再生産され、生物の持続的な生存と環境を実現している」ということです。菌類は種類が多く眼に見えないので理解が難しいものです。菌類を含めて、自然の循環を理解し、自然の循環に調和した暮らしを目指すことが、私たちの持続的生存を可能にします。

 進化の過程で一年性の被子植物が多く出現しました。一年草は、個体の生存期間を短くすることで、遺伝子の多様性を増やしながら、速く増殖することに成功しました。これらの植物は、種を放出した後には、枯れて、土に還ります。大量の植物遺体が地表を覆えば、種には光が照射されないので発芽できなくなります。

しかし土壌菌は光を使わずに大量の植物遺体を分解します。そのおかげで植物は発芽できるのです。細胞質の糖や核酸は細菌によって比較的容易に行われますが、細胞壁は高分子の多糖類でできているので、分解は容易ではありません。前回は、細胞壁の分解は糸状菌(カビ)、放線菌(抗生物質を分泌する細菌)、担子菌(キノコ)などの多様な菌類の協力によって行なわれることを示しました。根の周囲のムシゲルなどの粘着性多糖類や分解されて残った有機物の一部はアルミニウムと結合し腐植になります。腐植は土壌の団粒化を促進します。腐植もまた徐々に分解されていきます。

増殖した菌類の遺体も菌類によって糖やアミノ酸に分解されます。有機物や菌遺体はさらに細菌によって、植物が吸収しやすい無機態の栄養素に変換されます。植物は、細胞の骨格となる炭素を光合成で得ています。しかしタンパク質や核酸や浸透圧調整に必要な窒素・リン酸・カリ(NPK)の殆どを主に無機物質の形で根から吸収しなければなりません。結局、植物や菌類の遺体の分解によって、遺体に含まれるNPKの栄養素やMg、Ca、Feなどのミネラルが土壌に供給され、それらは植物によって再び吸収され、再利用されます。

植物は、微生物の多様性を高めることで、病原菌から身を守っています。様々な菌がバランスよく生息している土壌は、活性の高い土と呼ばれ、病原菌のみが繁殖し難い状態になっています。植物は根から糖を分泌させることで、根の周りの菌叢のバランスを整えているのです。単一菌叢になると病気や連作障害が生じると考えられます。

植物は、根から糖やペプチドを出して、細菌を集め、グロマリンを放出し、土壌を団粒化し、菌類が棲息しやすい環境つくりをします。多くの植物は、菌根菌と共生し、根より細い菌糸を使って、細部の水分やリンやミネラルをより広範囲の土壌から得ることができます。また土壌の団粒化により、植物は自分自身に必要な水と空気が得られます。

団粒構造を著しく失った土は、降雨時には余剰水の涵水機能が働かなくなるので、畑の表面が川のようになってしまいます。そのような土地は雨があがったらすぐに乾いて、ひび割れを起こし、土埃を巻き上げます。適切な空気と水分がないので、微生物が住めなくなると、有機物は十分に分解できずに蓄積し、地下水を汚染するなどの問題を引き起こしてしまいます。

つまり土壌の団粒化は環境を保全します。団粒化により、降水が素早く深部に浸透するので、栄養素やミネラルが表面流出し難くなります。雑草や雑菌も栄養素やミネラルを土壌に保持する役割を果たしているのです。土壌の安易な耕起は、雑草や雑菌を殺し、土地の乾燥と荒廃をもたらします。団粒化は土壌生物によるものです。土壌の化学性と物理性を向上させには、まず土壌の生物性を向上させなければならないことに私たちは気づき始めたのです。

これからの農業はどのようにあるべきでしょうか?

農に関する考え方

農に関する考え方を改めることは、環境を保全する唯一の道です。従来の農法のように土地を耕起して化学肥料を施肥し、優れた作物だけを収穫しようとすると、様々な問題を引き起こします。これからは自然の摂理と循環をよく理解し、菌相バランスの取れた健全な土壌を育成し、健全な土壌に作物を育成させなければなりません。山、海、川の自然環境と農とのつながりを見直さなくてはなりません。

持続的収穫

慣行農法では、畑の外部から種や肥料や農薬や農業機械など、大量の農業資材を投入しています。こうした農法は長期的には農地を疲弊させ、石油資源の枯渇後にも持続的に収穫していくことができません。

従来のように短期的な増収だけを目標にせず、これからは持続的な収穫を目標にします。そのためには、いきなり作物を栽培するのではなくて、食用にならないイネ科やマメ科の植物を栽培するなどして、時間をかけて健全な土壌を育成することも必要になります。健全な土壌や循環を取り戻した農地は、外から大量の肥料を与えなくても、持続的な収穫が期待できます。堆肥は増収のための手段ではなく、健全な土壌の育成のための過渡的な手段と考えます。堆肥の施肥の仕方も土壌環境を壊さない仕方に変えていきます。作物も単一ではなく多様な作物を栽培し、自然な環境を実現します。農業だけでなく林業や漁業も持続的収穫を目標にしなければなりません。

開かれた農

持続的収穫が実現できれば、農業はすべての人の生業になります。自分が食べる分を自分が作るのが基本になります。農作物を遠隔地に運ぶなどの様々な無駄がなくなります。家族や隣人との関わりも多くなるでしょう。自然から学び、自然と調和した生活は健康的です。土地に適した品種を選び、種採りして育てていくことで、災害に強く、安定した収穫が得られます。人々が広がって住めば、これまでの様々な問題が解決するでしょう。

堆肥の分解はどのように進むでしょうか?

堆肥の分解は、植物の細胞壁の成分を分解できる菌類が分解しやすい順番に分解します。堆肥は、落葉樹の枯葉、イネ科の枯草、米ぬかなどと水を混ぜて、保温して発酵させてつくります。米ぬかのリンPや窒素N分は菌体を作るのに使われます。N源として牛糞や鶏糞を使う人もいます。ときどき水をやり、切り返して均一に混ぜます。水をやらないと乾燥して、糸状菌が増殖せず、ヘミセルロ-スやペクチンの分解が進まないからです。ペクチンが分解すると、セルロ-スとリグニンが残ります。セルロ-スは放線菌が分解します。放線菌は60℃~70℃の高温に耐えられます。最後に残るリグニンは担子菌などが分解します。

分解の過程を調べるために、3種の菌類による植物の分解モデルを考えました。植物がペクチン、セルロ-ス、リグニンからなるとして、3つの分解菌(糸状菌、放線菌、担子菌)が分解する過程を表す数理モデルを立てました。

10元連立非線形方程式を市販のソルバで解いて、植物の分解過程を解釈しました。

植物を構成する成分は、ペクチン、セルロ-ス、リグニンの順番に分解され、十分時間が経つと菌類量は減少し、無害な堆肥が生成します。その様子を簡易モデルで実現することができました。

より複雑なモデルも考えられますが、結果は単純化したモデルと定性的に似ていました。

初期の菌数が少ないと増殖ピ-クを迎える時間が送れますが、定性的な形状は変わりません。分解が不十分な堆肥を施肥すると、残留糸状菌が作物に害を与えます。林の匂いがなくなるまで、堆肥を完熟させてから施肥します。