タンパク質を食べるだけで体内でコラ-ゲンが形成されるのでしょうか?

実はコラ-ゲンの重合にはビタミンCが必要です。ビタミンCは、コラ-ゲンに含まれるプロリンとリシンの水酸化反応を触媒するFeを還元し、再利用する働きがあります。ビタミンCは還元できるHが2個もあり、強い抗酸化力を持ちますが、このような構造を持つ栄養素は珍しいのです。

プロリンに水酸基が付加するとヒドロキシ・プロリン(Hyp)となります。α鎖のProとHyp間には水素結合があります。コラ-ゲン繊維のリシンと水酸化リシン間にはアルドール結合があります。ビタミンCがないと、Hypや水酸化リシンができないので、強固なコラ-ゲンが得られません(2013年、岸本)。ビタミンCが不足するとコラーゲンも不足し、血管や皮膚や骨が脆くなります。つまりビタミンCが不足すると、出血が止まらなくなる壊血病を引き起こすのは、コラーゲンが不足するからなのです。ビタミンCは、抗壊血病因子(anti-scorbutic factor)として発見されたことからアスコルビン酸(ascorbic acid)とも呼ばれます。酸化型はアセト・アスコルビン酸です。

ビタミンCは脂肪代謝にも関わっています。脂肪燃焼を促進するカルニチンはアミノ酸であるリシンとビタミンCから合成されます。ビタミンCはストレス抵抗ホルモンであるアドレナリンの分泌にも不可欠です。ヒトの場合、遺伝子欠損のため、ビタミンCは野菜や果物などの食物から摂取しなければなりません。

 ちなみにヒトやモルモットは体内でビタミンCを合成できません。その理由は、ビタミンC生合成経路の最後に位置するGLO酵素(グロノ-γ-ラクトン酸化酵素)に遺伝子変異があるためです。GLO酵素を用いてグロノ-ラクトンからHを2個奪えばビタミンCが得られるのです。マウスはこのGLO酵素に遺伝子変異がないため、体内で充分量のビタミンCを合成できます。マウスとモルモットは違うのです。

コラ-ゲンは骨を丈夫にする効果があるのでしょうか?

骨粗鬆症モデルラットを用いて、コラ-ゲン由来のジペプチドがラットの骨密度の改善に有効であるという報告があります。

骨の20%はコラ-ゲンでできています。私たちの骨はリモデリングと呼ばれる骨代謝で保たれています。つまり新しい骨を作る骨芽細胞と古い骨を削る破骨細胞の働きで骨が絶えず更新されています。両者のバランスが悪いと骨密度が減少してしまいます。

Pro-Hyp(プロリル・ヒドロキシプロリン)や、Hyp-Gly(ヒドロキシプロリル・グリシン)などのコラ-ゲン由来のジペプチドには骨代謝を促進する働きがあります。Pro-Hypは両骨細胞を活性化します。Hyp-Glyは骨芽細胞を活性化し、破骨細胞を抑制する効果があると言われています。

 Pro-HypやHyp-Glyはジペプチドで吸収され(2012年杉原)、血中に長く存在する傾向があります。Pro-Hypではアミノ酸結合同士がねじれており、酵素で切れにくい構造を取っています。Hyp-Glyでは、Glyは分子が小さく、Hypの陰に隠れてしまい、酵素が切る場所を見つけにくいと考えられます。

コラーゲン由来のペプチドには、関節の軟骨の石灰化を促進するアルカリフォスファターゼ(ALP)活性を抑制する働きをするものがあり、長期の服用で関節の痛みを軽減した例があります。あるいは皮膚の水分量、キメ、透明感、弾力性などを20%程度改善する効果があるという報告もあります。Pro-Hypにはヒアルロン酸合成促進 作用、Gly-Pro には血圧低下作用等が報告されています。摂取カロリ-を考え、有効成分だけサプリメントで摂りたいという人の注目を集めています。

コラ-ゲンはどのように血糖調節に関わっているのでしょうか?

コラ-ゲン由来のトリ・ヌクレオチドが糖尿病患者の血糖値を下げる効果があることが報告されています。膵臓から分泌されるインスリンが食後の血糖値を下げています。インスリンの分泌を促進しているのはインクレチンと呼ばれる腸管ホルモンです。例えば小腸下部のL細胞から分泌されるグルカゴン様ペプチド1 (glucagon-like peptide-1, GLP-1) などがあります。

糖尿病患者はGLP1が少ないので、インスリンの分泌量が減ってしまいます。これは糖尿病患者の体内にはGLP1を分解するDPP4という酵素が多くあるからです。コラ-ゲンが分解してできるGly-Glu-HypやGly-Leu-Hypなど、Glu(グルタミン)やLeu(ロイシン)をもつトリ・ヌクレオチドは、DPP4酵素を阻害し、GLP-1分泌を促進するために、活性なGLP-1を増やす働きがあることが分かってきました(2016年、伊庭)。

コラーゲンの一部は完全にアミノ酸に分解されずに、コラーゲン由来のペプチドとして腸で吸収されるようです。吸収されたペプチドは、血液にのって皮膚、関節、骨、毛髪、爪など全身に運ばれます。但し血中にペプチドが存在するのは1日だけです。豚牛由来のものより魚由来のペプチドの方が、安全で食べやすいと言われています。但し糖尿病に対しては糖質摂取制限をするのが基本です。

コラ-ゲンは人体でどのような働きをしているでしょうか?

コラ-ゲンは、基本的に人体の細胞を支える働きをしていますが、人体のあらゆる組織に存在し、多様な働きをしています。例えば、血糖調節、止血、骨代謝などもコラ-ゲンが関わっています。

止血のメカニズム(参考文献1)は複雑ですが、簡単に説明しましょう。止血を行う血小板の表面にはGP6という糖たんぱく質が突出しており、これがコラ-ゲンの受容体になっています。血管壁が損傷すると、I型やIII型コラ-ゲンのGly-Pro-Hypが、血管内に放出され、血小板のGP6受容体と結合します。血小板は刺激され、損傷部に凝縮し、血管を止血します。但しIV型コラーゲンは血管内皮基底膜の主要成分ですが、GP6を介した血小板凝集活性は認められません。

血管のコラ-ゲンが老化すると血管が固く脆くなります。血管全体の弾力性が失われるため、動脈硬化の原因となり、いわゆる高血圧・脳梗塞・心筋梗塞等のリスクを高めます。骨のコラ-ゲンが劣化すると骨折しやすくなります。プロリンは体内で合成されます。血管や骨をしなやかにするには、日頃からタンパク質を摂取して、運動をする必要があります。

参考文献1 

コラーゲン結合タンパク質を介した生命プロセスの活性化機構 西田 紀貴

http://www.jbsoc.or.jp/seika/wp-content/uploads/2013/11/80-06-03.pdf

コラ-ゲンは何種類あるでしょうか?

28種類のコラーゲンが見つかっています。それらは発見された順番にギリシャ文字の番号が付けられています。それらは異なった性質や役割があります。最初の6種を紹介します。 Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ、V、Ⅵは繊維型コラ-ゲン、Ⅳ、Ⅷ、Ⅹはネットワーク型コラ-ゲンです。その他に膜貫通型コラ-ゲンなどがあります。

・Ⅰ型コラーゲン

Ⅰ型コラーゲンは皮膚、腱、筋膜、骨などに見られる基本的なコラ-ゲンです。2本のα1鎖と1本のα2鎖がラセン構造をとっています。3重らせんの間に水分子を溜めることができるため、保水効果を持ち、化粧品などに広く利用されています。

・Ⅱ型コラーゲン

Ⅱ型コラーゲンは軟骨や眼球の硝子体、脊索にあるコラーゲンです。同一の3本のα鎖からなるホモ3量体構造からなる原繊維ですが、会合して細長い繊維を形成しません。

・Ⅲ型コラーゲン

Ⅲ型コラーゲンは、血管、真皮、リンパ組織、脾臓、肝臓、平滑筋などに見られる細網線維や胎生期・創傷治癒の際に出現するコラーゲンで、大量の糖質を含みます。ホモ3量体構造をとります。

・Ⅳ型コラーゲン

Ⅳ型コラーゲンは血管内皮基底膜(血管壁)や腎糸球体をつくるシート状のコラーゲンです。トロポ・コラーゲンが重合せず糖タンパクと結合して網目構造の膜を作ります。

・Ⅴ型コラーゲン

Ⅴ型コラーゲンは角膜をつくるコラ-ゲンです。Ⅰ型コラーゲンと共存し64μm周期の横縞を示す極めて細いコラ-ゲンです。

・Ⅵ型コラーゲン

Ⅵ型コラーゲンは軟骨細胞や基底膜をその下のⅠ型・Ⅲ型コラーゲンの線維に結びつける四量体のミクロフィブリル線維を作ります。64μmの周期性を示します。

皮膚はどのような構造をしていますか?

皮膚は人体最大の器官です。皮膚の面積は2㎡ 、その重さは10kgにもなります。 皮膚は、外部環境に対する保護バリアとして働きます。

皮膚は、表皮と真皮の2層から成り立っています。血管は真皮までで、表皮には血管がありません。表皮真皮接合部で酸素、栄養素および老廃物の交換を行っています。

表皮は、主にケラチノサイト(角化細胞)という細胞からなり、基底層、有棘層、顆粒層、角層(最表面)、という複数の層構造になっています。表皮の厚さは、50μmしかありません。角化細胞が分裂すると、基底層からより表面の層に移動し、一番外側の角質層に到達し、垢となって剝落します。皮膚は1か月かけて再生を繰り返しています。

真皮は、乳頭層、網状層の中に、血管、神経、毛根、汗腺が含まれています。乳頭層にある血管ループは、表皮に栄養素と酸素を運びます。網状層に多く見られるコラーゲンは、真皮の構造を作る主要タンパク質の一つで、皮膚に耐久性を与えます。コラーゲン同士を結びつけるエラスチンは、皮膚に弾力性を与えます。コラーゲンは、主に細胞の足場となるようなネットワーク構造をとり、ヒアルロン酸は、コラーゲンの間を埋め尽くすコンクリートの役割を果たしています。これらの物質が皮膚の真皮や血管、靭帯などに存在することで、肌にハリや弾力を与えています。

サケはなぜ寒い海に生息しているのか?

鮭のコラ-ゲンが変性しないようにするためです。コラ-ゲンに含まれるプロリンは環状の非必須アミノ酸です。プロリンは生体ではコラ-ゲン・タンパク質にのみ含まれています。ヒドロキシ・プロリンの含有量はヒトで9.5%、コイで7.5%、サケで5.4%です。ヒドロキシ・プロリンの含有量が小さいと、ラセンを保つ水素結合が減少するので、変性温度が下がります。コラ-ゲンの変性温度は、ヒトで42℃、コイで36℃、サケで21℃です。42℃はヒトの致死温度です。水温が25℃を超えると、サケは死にますが、コイは生きています。コラ-ゲンは生物の生存限界を決めています。ヒトが熱い風呂に長時間入るのは危険です。

コラ-ゲンの分子構造はどのようなものでしょうか?

コラ-ゲンは、20種類以上ありますが、グリシン(Gly)を含む3つのアミノ酸の繰り返しから成る左巻きラセン型ペプチドが、3本右巻きにねじれながら構成された繊維からなります。

詳しく説明すると、コラーゲンは、Gly-X-Y の3つのアミノ酸残基の並びが繰り返される特徴的なアミノ酸配列をしています。アミノ酸残基とはペプチドの中のアミノ酸のことです。Xにはプロリン(Pro)、Yにはヒドロキシ(水酸化)・プロリン(Hyp) が高頻度で出現します。Yの位置にあるPro残基は、ヒドロキシラーゼによる翻訳後修飾によって、Hyp残基になります。つまり典型的なコラ-ゲンの基本構造はA-[Gly-Pro-Hyp]n-Bです。AとBはテロペプチドと呼ばれ、N末端は16残基、C末端は25残基です。Chemisketchでコラ-ゲンのアミノ酸が脱水縮合する様子を描いて見ました。プロリンは特殊な構造のアミノ酸です。

 分子量はGly(C2H5NO2)が75g/mol、Pro(C5H9NO2)が115g/mol、Hpyが132g/mol、で合計322g/molですが、2H2O脱水しているので[Gly-Pro-Hyp]は286g/molです。つまりコラ-ゲンのアミノ酸残基の分子量は100g/mol程度です。

この配列は動物種間における差が少なく、他動物のコラーゲンを体内に移植することも可能です。多い配列は Gly-Pro-Hyp で、Gly-Pro-Ala、 Gly-Ala-Hypなどです。コラ-ゲンを加熱分解して1本鎖にしたものがゼラチンです。ちなみにグリシンは1820年にフランスのアンリ・ブラコノ-がゼラチンから抽出されました。

1本のペプチド鎖はα鎖と呼ばれ、アミノ酸残基数は1000個、分子量は10万程度です。I型コラーゲンの場合、2本のα1鎖と1本のα2鎖がラセン状に撚り合わされています。Hypが3本のα鎖の間で水素結合をつくってラセン構造の安定化に寄与しています。α鎖の末端はジスルフィド結合されてラセンが解けないようになっています。

ラセンの周期は6nmで50回転しています。よって分子長は300 nm、太さは1.5 nm程度です。この線維性コラーゲン分子が、67nm(=300nm/4.4)ずつずれて自己会合した線維をコラーゲン繊維(collagen fibril) と呼びます。隣接するコラーゲン繊維の末端同士は、α鎖に含まれるリシン(Lys)というアミノ酸と別の繊維のα鎖の水酸化リシンが、リジルオキシダ-ゼによって、アルドール結合(架橋)されています。コラーゲン繊維には67nm周期の横縞が見られます。例えば、骨や軟骨の中のコラーゲンは、このコラーゲン線維をつくっており、骨基質、軟骨基質にびっしりと詰まっています。コラーゲンは化学的に安定で酵素分解を受けにくいので、健康なヒト組織中のコラーゲンは皮膚で15年、軟骨で117年の半減期を有すると報告されています(2000年)。コラーゲンを分解する生体内酵素にはコラゲナーゼおよびMMP(マトリックスメタプロテアーゼ)ファミリーと呼ばれる酵素群があります。

2012年に大阪大学大学院理学研究科の奥山健二氏は3本鎖7/2-helixモデルを提唱しています。そのモデルによると、コラ-ゲンの基本繊維はコイル状のアミノ酸鎖が3本ねじり合った3重ラセン構造をしています。コイルはアミノ酸残基7個で2回転(右巻き)します。一番小さいアミノ酸であるグリシン(黒丸)がラセンの内側に位置することで、コイルが引き締まります。コイルの回転が進むにつれてグリシンの位置がずれます。3本のα鎖をより合わせる時に、グリシンが常にラセンの内側に位置するように、α鎖自体が左巻きに回転した3重ラセン構造をとります(図4-b参照)。グリシンが別のアミノ酸に置き換わると、ラセン構造にまとめられず、コラ-ゲンが不安定になります。

コラーゲンとはどのようなものでしょうか?

コラーゲンは、皮膚や腱などの結合組織や骨や軟骨組織に存在して臓器・組織の構造と機能の保持に重要な役割を果たす不溶性タンパク質です。人体の構成成分は、水分60%、タンパク質20%、脂肪15%、無機質5%です。そのタンパク質の30%はコラ-ゲンです。コラ-ゲンは皮膚の40%、骨の15%、血管の8%を占めている重要なタンパク質です。65kgの人には4kgのコラ-ゲンがあります。5~10g/日程度摂取することが推奨されています。

コラーゲンは、細胞を支える足場の役割と、細胞間を埋め、色々な成分を行き来させる潤滑剤の役割も担っています。老化と共に細胞は劣化し、細胞を取り巻くコラーゲンも減少・劣化していきます。しかし、最近の研究から、コラーゲンを分解したペプチドが細胞に刺激を与え、細胞から作り出されるコラーゲンを増やすことがわかってきています。

コラーゲンが地球で初めて誕生したのは、原生代後期の全球凍結後(6億〜8億年前)と考えられています。この時大気中の酸素濃度が増大したので、多細胞生物が出現します。コラ-ゲンは細胞を接着させるので多細胞動物の出現に大きな役割を果たしました。そのころには真核生物が出現しており、呼吸系が細胞膜から細胞内(ミトコンドリア)に移行していたので、多細胞化が可能になりました。多細胞化により、内部の細胞の環境が安定し、細胞の機能分化が起こり、高機能な生物が出現しました。植物は細胞の接着にセルロ-スを用いました。コラ-ゲンはセルロ-スに比べ、しなやかで弾力性があります。コラーゲンは食肉の生産によって生ずる骨や皮といった廃物から生産できる点も優れています。

コラ-ゲンには様々な応用があります。コラーゲンの中に薬液を染み込ませておくことで、コラーゲンが生体内で分解されると同時に薬液も徐々に放出され、患部に安定して届けることができます。安全なコラーゲンは人工皮膚や人工骨などの生体材料にも利用されています。コラーゲン・ゼラチンは共に優れた形状加工性を有しており、これまでにもスポンジ状、シート状、粒子状など様々な形状に加工され使用されてきました。今後、3Dプリンタやエレクトロスピニングなどの新技術との組み合わせにより、より新しい加工体が生み出されることが期待されています。