消臭除菌スプレ-は安全なのでしょうか?

除菌ではなく、消臭殺菌スプレ-なので安全であるとは言い切れません。例えばP&G社の除菌スプレ-『ファブリーズ』には第四級アンモニウム塩Quatが使用されています。これは逆性石鹸を使った殺菌剤です。消臭成分としては、「トウモロコシ由来消臭成分」と書かれていますが、これはβ-シクロデキストリンだと思います。

部屋で噴霧するということは経口摂取の安全性を確認しなければなりません。2010年に東京都健康安全研究センターは、マウスの新生仔と成獣にQuatを21日間連続して経口投与したところ、新生仔ではオス、メスともに有意な死亡率の増加が見られたと報告しています。

2018年11月18日には、殺菌成分Quatによって、マウスで妊娠率や生まれる胎仔数の減少、精子濃度や運動性が減少したという研究が米国で発表され、環境団体が警告を発表しています。大学の実験室の洗浄剤をQuatに変えて以降、実験動物の流産が増えたそうです。

 家庭内では、逆性石鹸を使って、神経質に消毒しなくてもいいように思います。

逆性石鹸にはどうして殺菌力があるのでしょうか?

石鹸は除菌力がありますが、逆性石鹸は殺菌力があります。

1935年にG. Domagk博士が第4級アンモニウム塩に殺菌作用があることを発見しました。但し逆性石鹸の殺菌力はグラム陽性・陰性細菌や一部のカビには有効ですが、結核菌(抗酸菌)やウイルスには無効です。結核菌に対しては、両性界面活性剤(塩酸アルキル・ポリアミノ・エチル・グリシン)が有効です。SARSコロナウイルスは中性洗剤で殺菌できます。

 なぜ陽イオン界面活性剤には殺菌作用があるのでしょう。その詳細はまだよく分かっていないようですが、いくつか仮説があります。陽イオン性界面活性剤は、

・マイナスの電荷を持つ細菌表面への吸着速度が速い

・細胞膜の流動性が増して、破裂しやすくなる

・細胞膜タンパク質を変性させて、酵素機能を失活させる

といった効果で殺菌すると考えられています。アルキル側鎖RがC12H25の塩化ベンザルコニウムが最も殺菌作用が強いと言われています。第四級アンモニウムのカチオンは常に帯電していて、溶液のpHに左右されません。

 普通石鹸と逆性石鹸を混ぜると、会合して両者ともに界面活性を失います。

例えばシャンプー(普通石鹸)とリンス(逆性石鹸)を混ぜたり、手洗い用の石鹸と消毒用の逆性石鹸を混ぜると、充分な効果は得られなくなります。逆性石鹸を用いるときは、まず普通石鹸で汚れを十分に落とした後、水で普通石鹸を十分に洗い流してから、逆性石鹸を使うのが効果的です。逆性石鹸に先ほど述べた非イオン性界面活性剤を配合すれば、殺菌と洗浄が同時にできます。

しかしながら、家庭生活で手を消毒しなければならないことは、あまりないように思います。まな板も中性洗剤で洗って干しておけばいいでしょう。こうした殺菌技術は衛生管理が必要な病院で実施すればいいことではないかなと思います。

逆性石鹸とは何でしょうか?

逆性石鹸は、高級アミンの塩からなる界面活性剤であり、殺菌剤や柔軟剤、リンスの成分として利用されるものです。4級のアルキル・トリメチル・アンモニウム塩

  • CH3(CH2)nN(CH33Cl

や塩化ベンザルコニウム(ベンジル・ドデシル・ジメチル・アンモニウム・クロライド、通称BDDAC、ベンゼン環あり)

・ C₆H₅CH₂N⁺(CH₃)₂R•Cl⁻  (R = C8H17 ~ C18H37、長鎖アルキル)

は逆性石鹸です。塩化ベンザルコニウムはオスバン、ヂアミトールなどの商品名で知られています。アルコールと異なり、逆性石鹸は無臭です。アルコールはゴムを傷めますが、逆性石鹸はゴムを傷めません。

逆性石鹸は、界面活性作用は弱く、洗浄力は劣ります。しかし衣類や頭髪に吸着することで、空気中の水分が保持されやすくなり、柔軟性を与えることから、衣類の柔軟剤や頭髪用リンスなどとして利用されています。 また陽イオン界面活性剤自体も生分解性のよいエステル型ジアルキルアンモニウム塩が使用されるようになっています。

柔軟剤を使用すると、繊維同士の滑りがよくなるので、重ね着をしても摩擦が起きにくくなり、静電気の発生を抑えられます。ポリエステルやナイロンなどの化学繊維は、柔軟剤の香りが残りやすい繊維です。ある調査では6割の人が毎回の洗濯で柔軟剤を使っていると回答しています。

注意すべきことは、柔軟剤は洗濯のすすぎの後に投入することです。洗剤と同じタイミングで入れると、両者の効果が打ち消しあってしまいます。洗濯機では通常洗剤と柔軟剤を入れる場所は異なっています。また他人が柔軟剤の匂いを不快に感じる場合もあります。使用者が製品の匂いに慣れ鈍感になることで使用量が増えると問題が生じます。また薄着の方が長生きするとも言われています。

界面活性剤にはどんなものがありますか?

界面活性剤は4種類あります。石鹸のような陰イオン系、逆性石鹸のような陽イオン系、両性系、非イオン系の4種類です。

両性系界面活性剤には、アミノ酸系洗剤

  • CH3(CH2)nCH(NH3+)COO

があります。洗浄力は弱いですが、弱酸性で髪に優しい利点があります。

非イオン系界面活性剤には、ポリオキシ・エチレン・アルキル・エ-テル

  • CH3(CH2)nO(CH2CH2O)mH

があります。非イオン系洗剤は、油汚れを落としやすく、乳化、分散、浸透に優れています。衣料用洗剤や乳化剤として用いられています。シャンプ-としては目にしみにくい利点があります。

ノニオン界面活性剤はイオン化しないので、酸やアルカリの影響、硬水や軟水の違いによる影響を受け難いです。他の界面活性剤と併用できる、タンパク質を変性させにくいといった利点があります。

合成洗剤が河川の富栄養化につながると言われたのはどうしてでしょうか?

合成洗剤CH3(CH211OSO3Na自体にはリンが入っていません。河川の富栄養化は、水を軟水化させるために投入したトリポリリン酸ナトリウムSTPP(=Sodium TriPolyPhosphate)

  • Na [PO(ONa)O]3ONa+ (Na5P3O10

などのリン酸塩によるものです。STTPは酸素原子を共有して結合した四面体 PO4(リン酸)構造単位からなるポリマーのオキソ酸です。生体エネルギを担うATPにも同様の構造が見られます。STTPは水中でNaを放出し、Caを吸収することで、合成洗剤がCa塩を作るのを防止します。

STTPは白い粉で、粉末洗剤の吸湿固化を防止し、製造時の生産性を向上する効果もあります。日本の洗濯用粉末洗剤には製品中に30%程度、欧米では50%程度配合されていたそうです。1980年頃から、洗剤の軟水剤はSTPPからゼオライト(アルミノケイ酸ナトリウム)に切り替えられました。洗剤の洗浄力強化のために、プロアテ-ゼやリパ-ゼが添加されるようになりました。

現在ではSTPPはエビやホタテの鮮度を保つための防腐剤として用いられています。シーフードの重量が増すことは販売者に利点があります。

石鹸しかないときには、どうやって髪を洗ったらいいでしょうか?

キャンプにいくと石鹸しかないときがあります。石鹸で髪を洗うと、髪がごわついてしまいます。それは髪の表面に石鹸カスが付着するからです。水道水中のCaが石鹸の脂肪酸と結合して難溶性の石鹸カスができるからです。水道水がCaの少ない軟水であれば、石鹸カスは少なくなります。石鹸はアルカリ性なので、髪を覆うキューティクルが開いてしまうのも、きしみの原因になります。石鹸で髪を洗った後に、お酢やクエン酸でリンスすると、石鹸カスが脂肪酸に変化してすっきりします。弱酸性になるとキューティクルが閉じて、指通りもよくなります。

石鹸と合成洗剤はどう違うのでしょうか?

石鹸の分子は、CH3(CH2)nCOONaという構造をしています。CH3(CH2)nが疎水性、COOが親水性です。石鹸は陰イオン系界面活性剤(surfactant)です。水に溶かすと、

  • CH3(CH2)nCOONa + H2O → CH3(CH2)nCOOH + Na + OH

となるので、アルカリ性であることが分かります。アルカリ度はPH10程度です。石鹸は弱酸に強アルカリ(NaOH)を加えて作るので、弱アルカリになるのです。油汚れは弱酸性なので、弱アルカリ性の石鹸を使うと油汚れが落ちます。石鹸は硬水や海水では、Ca2+やMg2+と塩を形成して沈殿するので、洗浄力が低下します。

 それでは合成洗剤はどうでしょうか?

台所用の合成洗剤といえば、ラウリル硫酸ナトリウム(Sodium Lauryl Sulfate)です。これは、CH3(CH211OSO3Naという構造をしています。合成洗剤も陰イオン系界面活性剤です。それならば合成洗剤を水に溶かすとアルカリ性になるのでしょうか?

  • CH3(CH211OSO3Na+ + H2O → CH3(CH211OSO3-  +Na+ + H2O

となるので、合成洗剤は中性です。中性だから食器洗いで手が荒れないというのが利点だったのですね。合成洗剤はR-OHにH2SO4を加えて硫酸水素ドデシルにしてNaOHで中和して作製します。合成洗剤は強酸と強塩基の塩であるために、加水分解しないので、中性なのです。中性である合成洗剤は、Ca2+やMg2+と塩を形成する力が弱いので、硬水や海水中でも石鹸より洗浄力を発揮します。

もう一つ有名な合成洗剤がABS(=Alkyl Benzene Sulfonate)洗剤です。これはR-C6H4-SO3Naという構造をしています。Rはアルキル基、C6H4はベンゼン環です。ABSは硬水や酸に対しても安定で,界面活性能力・洗浄力が大きいため1960年代から合成洗剤の主流になりました。しかし側鎖アルキル基が分枝構造であるため廃水中で生分解されず残留し、土壌菌を殺したりするので問題になりました。1965年以降は、アルキル基が直鎖構造の生分解性ABS洗剤が用いられるようになりました。

 合成洗剤をタンパク質に加えると、タンパク質は折り畳み構造が解けて棒状になるという面白い性質があります。合成洗剤は、タンパク質の立体構造の影響を避けるために電気泳動実験に用いられます。

エゴマ油はどうして注目されているのでしょうか?

DHAは脳や網膜のリン脂質に含まれる脂肪酸の主要な成分です。エゴマ油にはDHAを合成するのに必要なα-リノレン酸が58%も含まれているからです。ヒトを含めた多くの動物は体内でα-リノレン酸を原料として10-15%の割合でEPAやDHAを生産することができます。妊娠・出産期にはω-3脂肪酸が枯渇しやすく、産後のうつ病に関与していると言われています。

つまりヒトは脳や網膜を維持するために、DHAあるいはα-リノレン酸を摂取しなければなりません。DHAは青魚の脂に含まれています。α-リノレン酸の場合、1日あたり2g必要です。ホウレンソウに換算すると1日1.4kgに相当します。α-リノレン酸は、大豆油(7%)、キャノ-ラ(アブラナ)油(9%)、エゴマ(58%)、アマ(55%)に含まれています。

コ-ン油、ゴマ油、ヒマワリ油、オリ-ブ油などは、ω6脂肪酸であるリノ-ル酸(18:2)を多く含み、α-リノレン酸を含みません。リノ-ル酸は、6位と9位に二重結合をもちます。α-リノレン酸はω3位にも二重結合を有する脂肪酸です。Δ15-脂肪酸デサチュラーゼはω3位に二重結合を作る酵素です。植物や微生物は、Δ15-脂肪酸デサチュラーゼがあるので、リノール酸からα-リノレン酸を合成できます。しかしヒトを含めた動物はΔ15-脂肪酸デサチュラーゼがないので、リノール酸からα-リノレン酸を合成できないのです。

エゴマ油は、高齢化社会で需要がある高価な油です。エゴマは耕作放棄地でも栽培可能な一年草なので、村おこしにいいと思います。但し種の洗浄に手間がかかります。

DHAとは何でしょうか?

DHAはドコサヘキサエン酸(Docosa-Hexa-enoic Acid)の略語です。ギリシャ語でDocosaは22、Hexaは6を意味します。DHAは6つの二重結合を含む22個の炭素鎖をもつカルボン酸 (22:6)です。

DHA(C12H32O6)はCH3CH2(CH=CHCH2)6CH2COOHという分子構造(328g/mol)をしています。DHAは、COOHから数えて、4、7、10、13、16、19 番目の炭素に全てシス型の二重結合をもちます。一方、生理学者はCH3から数えます。CH3から数えて3番目に二重結合をもつので、ω3脂肪酸に分類されます。

EPAはエイコサペンタエン酸(Eicosa-Penta-enoic Acid) の略語です。ギリシャ語でEicosaは20、Pentaは5を意味します。EPAは5つの二重結合を含む20個の炭素鎖をもつカルボン酸 (20:5)です。

EPA(C20H30O2)は CH3CH2(CH=CHCH2)5(CH2)2COOHという分子構造(302g/mol)をしています。EPAは、COOHから数えて、5、8、11、14、17 番目の炭素に全てシス型の二重結合をもちます。同じくCH3から数えて3番目に二重結合をもつので、ω3脂肪酸に分類されます。

これらの脂肪酸は脳や網膜に多く含まれています。DHAやEPAは、リノレン酸(18:3)系列のω3必須脂肪酸です。さば、まぐろ、さんま、いわしなどの青魚やアザラシの脂に含まれています。

EPAには血小板の凝集作用があるトロンボキサンA3と血小板の凝集抑制作用があるプロスタサイクリンI3を作り出す作用があります。医学的には、抗血栓作用、血中脂質低下作用、血圧降下作用などが認められています。生理活性の強いω6系統と同じ酵素を使うので、免疫や凝血反応、炎症などにおいてω6系統のアラギドン酸が引き起こす過剰な反応を抑える効果があります。DHAやEPAはエパデール(持田製薬)やロトリガ(武田薬品工業)などの高脂血症治療薬などとして用いられています。

科学者でもギリシャ語の10以上の数字を読める人は少ないです。例えば14はtetra-deacaですが、40はtetra-conta、400はtetra-cta、4000はtetra-liaです。ちなみに11はundeca、21はhenicosaといいます。

神経細胞の脂肪酸膜にDHAが用いられている理由

神経細胞は突起を伸ばした複雑な構造をしているので、柔軟な細胞膜が必要です。細胞膜に二重結合が多い脂肪酸が含まれると、脂肪酸間の相互作用が小さくなるので、膜タンパク質の流動性が高まり、細胞膜が柔らかくなります。血中のEPAは脳関門を通過できませんが、DHAは通過できるので、脳細胞にはDHAが含まれます。