石鹸と合成洗剤はどう違うのでしょうか?

石鹸の分子は、CH3(CH2)nCOONaという構造をしています。CH3(CH2)nが疎水性、COOが親水性です。石鹸は陰イオン系界面活性剤(surfactant)です。水に溶かすと、

  • CH3(CH2)nCOONa + H2O → CH3(CH2)nCOOH + Na + OH

となるので、アルカリ性であることが分かります。アルカリ度はPH10程度です。石鹸は弱酸に強アルカリ(NaOH)を加えて作るので、弱アルカリになるのです。油汚れは弱酸性なので、弱アルカリ性の石鹸を使うと油汚れが落ちます。石鹸は硬水や海水では、Ca2+やMg2+と塩を形成して沈殿するので、洗浄力が低下します。

 それでは合成洗剤はどうでしょうか?

台所用の合成洗剤といえば、ラウリル硫酸ナトリウム(Sodium Lauryl Sulfate)です。これは、CH3(CH211OSO3Naという構造をしています。合成洗剤も陰イオン系界面活性剤です。それならば合成洗剤を水に溶かすとアルカリ性になるのでしょうか?

  • CH3(CH211OSO3Na+ + H2O → CH3(CH211OSO3-  +Na+ + H2O

となるので、合成洗剤は中性です。中性だから食器洗いで手が荒れないというのが利点だったのですね。合成洗剤はR-OHにH2SO4を加えて硫酸水素ドデシルにしてNaOHで中和して作製します。合成洗剤は強酸と強塩基の塩であるために、加水分解しないので、中性なのです。中性である合成洗剤は、Ca2+やMg2+と塩を形成する力が弱いので、硬水や海水中でも石鹸より洗浄力を発揮します。

もう一つ有名な合成洗剤がABS(=Alkyl Benzene Sulfonate)洗剤です。これはR-C6H4-SO3Naという構造をしています。Rはアルキル基、C6H4はベンゼン環です。ABSは硬水や酸に対しても安定で,界面活性能力・洗浄力が大きいため1960年代から合成洗剤の主流になりました。しかし側鎖アルキル基が分枝構造であるため廃水中で生分解されず残留し、土壌菌を殺したりするので問題になりました。1965年以降は、アルキル基が直鎖構造の生分解性ABS洗剤が用いられるようになりました。

 合成洗剤をタンパク質に加えると、タンパク質は折り畳み構造が解けて棒状になるという面白い性質があります。合成洗剤は、タンパク質の立体構造の影響を避けるために電気泳動実験に用いられます。

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