41歳の年の差対決はオリンピック史上初

倪夏蓮(Ni XiaLian)と申裕斌(Shin YuBin)の卓球女子個人の試合は3対4で申裕斌が勝利しました。夏蓮58歳、申斌17歳。41歳の年の差対決はオリンピック史上初でしょう。
夏蓮選手は上海生まれ、1986年にルクセンブルクに移住し、2000年のシドニー五輪大会以来、連続出場を果たしています。2019年の欧州卓球大会でベスト4に入る実力者です。
 
夏蓮選手の戦型は「左ペン表裏前陣攻守型」で「最強のペン粒選手」と言われています。これは、左利きのペンホルダーラケットの表面に粒高ラバー、裏面に平坦なソフトラバーを使用する前陣で構える攻守両面タイプの選手という意味です。粒高ラバーによる返球は回転量の予測がつかず受け難いです。下回転の打球が無回転で返球されると、ネットに引っ掛けてしまいます。ペン型選手が珍しい上、相手の空きをつくコース取りが上手なので、歳を取っても殆ど動かずに相手に勝つことができます。
 
申裕斌選手は韓国の天才卓球少女と呼ばれる新星です。戦型は「右シェーク裏裏ドライブ型」です。つまり右利きシェークハンドラケットの両面に平坦なソフトラバーを使用するドライブ上回転の攻撃タイプの選手ということです。彼女は動きが素早くレシーブの打点が早く、広角で打ち分けられる速攻型の選手です。
前半は2対1で夏蓮選手が優勢でしたが、後半は申裕斌選手が3対3に追いつき、若さで逆転しました。極端に年齢やタイプの違う天才選手の激突は一見の価値ありですが、見ているだけで、疲れます。。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
2021年7月25日
 

現代ロシアは親日的か

ウクライナ情勢が気になりますね。ソ連解体から30年経ち、ロシア社会は大きく変わっています。街頭インタビューで、ロシア革命は必要なかったなどと意見を自由に言える時代になっています。ロシアは日本文化の影響を大きく受けています。インターネットやケーブルTVのせいで、コスプレ、マンガ、盆踊り、相撲、日本食などがロシア人に人気があります。日本の野菜も好評です。極寒のハバロフスクでは日露合弁会社が大規模な温室野菜栽培をしています。モスクワでは2日間で9.3万人もの人々が盆踊りに参加しました。ロシア解体時に多くの技術者が海外流出したせいで、IT関連技術産業に遅れが見られます。人材育成によりエネルギー資源依存からの脱却が模索されています。東西の経済格差を是正するために流通などのインフラ整備も課題です。日本の45都市がロシアと姉妹都市を提携しています。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

北京五輪 男子大回転優勝は?

北京五輪、男子大回転、優勝はスイスのマルコ オダーマット選手24歳でした。2位はスロベニアのジャン クラニッツ選手29歳です。両者3位を1.3秒も離しました。オダーマット選手はー16℃の中緊張に耐えて待ち、最後に滑って 0.2秒差で優勝を決めました。見応えがある試合でした。

 

 

 

 

降雪機の物理と生物

北京五輪のスキー競技場は北京から180km離れた張家口の山岳地帯にあります。乾燥しているので、300台の人工降雪機でゲレンデの全ての雪を賄っています。出口の無数のノズルから水と圧縮空気(5MPa)を吹き出して、断熱冷却効果で水滴を球状に氷結させ、大型軸流ファンで放出します。雪大砲は高所に設置され、落下までに雪になります。1m3の雪を作るのに2kW 位の電力がかかります。寒い夜間に一晩中稼働させ騒音を発するので、野生動物には迷惑な話です。今回中国は雪の核形成を促進するヨウ化銀(感光剤)の粉を145個のロケット弾で撒いています。最近はヨウ化銀には毒性があるので控えられています。
水と空気の混合ノズルから氷結核を放出し、同時に水を別のノズルから噴射することで水滴から蒸発した水を氷結核に付着させて雪をつくる方法があります。これなら環境汚染になりません。
水は0℃以下になっても過冷却状態になり−40℃になるまで氷結しません。ホコリがあると−15℃、ヨウ化銀だと−8℃で氷結します。
スノーマックスというP.シリンガエ細菌(極鞭毛グラム陰性)の粉を水に入れて噴射すると−2℃で氷結できます。1985年のカルガリー五輪では、この細菌をガンマ線照射して造雪しました。
1985年にステファン リンドウ博士が雲の中から氷結活性細菌を発見しました。氷結活性タンパク質は1200個の塩基でコードされたNRCの3ドメイン構造であることが分かっています。このタンパク質の一部が氷晶の格子定数と一致しているので氷の核形成が可能になります。
シリンガエ細菌は自分を凍らせて雲になって移動し、雨と共に降りてきて、野菜の葉っぱに付着します。この細菌が付着すると容易に凍るので霜害を生じさせます。細菌は野菜の表面を氷結により破壊して内部に侵入します。雲ができる原因が特定の細菌にあったとは驚きです。
遺伝子組み換えにより氷活性タンパク質のコードを破壊したシリンガエ細菌の変異株を作成しフロストバンなる商品が作られました。変異株が葉を覆うと通常株が繁殖できなくなります。1987年にフロストバンはカルフォルニアの苺農場で撒かれました。これが世界初の遺伝子組み換え生物の屋外開放例となりました。効果はありましたが、強い反対に逢いました。
近年では卵を産めないノックアウト昆虫の開放により、害のある昆虫を駆除することは行われており、大きな成果をあげているようです。結局最後は野菜の話になってしまいました。私は科学の進歩の速さにはっきり言ってついて行けません。

レーシック手術とは

レーシックLASIK (=LAser in SItu Keratomileusis)は角膜の視力矯正手術です。レーシックは1990年、ギリシャのパリカリス博士によって考案されました。ケラトームという小さな刃物を使って角膜を円形に切り取りはがして、フラップという蓋を作り、角膜の内部にエキシマレーザを照射して、角膜を削って、蓋を閉めて手術します。レーシックは、1995年にアメリカのFDA(食品医薬品局)から認可され、急速に広まるようになりました。今ではフェムト秒レ-ザを用い、非接触でフラップを形成します。費用は片眼で15~30万円かかります。スポーツ選手や著名人がレーシックを受けたことにより、一般人の間でも広く受け入れられるようになりました。アメリカのプロゴルファの間には 2000年以降に視力矯正のためのレーザ治療を受ける人が急増しました。そのため眼鏡をかけたトップ・プレーヤーは居なくなりました。

白内障発症率が高まる60歳以上でのレーシックは推奨されません。レーシックの年齢制限は40歳までといわれます。まだ老眼の症状が現れてない場合でも、レーシック手術により焦点を矯正した結果、老眼の症状を感じやすくなることもあるため、手術前には十分な検査が必須です。老眼や白内障に備えて、レーシックの手術前の眼のデータを入手しておくとよいそうです。レーシックを受けた角膜は変化が生じているため、眼内レンズ度数のズレが生じやすくなるからです。

先月タイガ-ウッズ選手(43歳)のZOZOチャンピオンシップの復帰試合を見に多くのギャラリ-が詰めかけていました。タイガー・ウッズ選手は 1999年に視力改善の為のレーザ治療を受け、その後 2000年には素晴らしい成績を残しています。

レ-シックでは、矯正限度量を-6Dまでとし、充分な同意がなされた場合に限り、-10Dまでの範囲で手術が許可されます。ここで「D」は(Diopter:ジオプター)という屈折度数を表す単位です。裸眼でピントが合う距離をN(cm)として、「100÷N」で計算すると度数が出ます。例えば-10Dの場合は、裸眼でピントが合う距離Nが10cmという強い近視状態です。Nが20cmで-5Dとなり、中程度近視(3~6D)です。
近視の場合は-(マイナス)、遠視の場合は+(プラス)で表され、ともに数値が大きいほど遠視や近視の度合いが高くなります。10D以上に近視が進んでいる人は、充分な視力を得るために角膜を削る量が多すぎるので、レーシック手術を受けられないのです。タイガーウッズ選手の視力は-11.5Dという超強度近視だったので、レーシック以外のレーザ矯正治療を使ったのかもしれません。

駅伝走者の受ける風の影響はどれくらいでしょうか?

第95回箱根駅伝の往路レースの優勝は東洋大学でした。三区では青山学院大学の森田歩希選手が8位から追い上げ、トップに躍り出ました。東洋大は8秒差で2位につけました。

森田選手は1時間1分26秒の区間新記録の快走でした。三区は21.4kmですから、森田選手は平均速度5.8m/sで走破したことになります。もし5.8m/sの速度でマラソンを完走できれば、2時間1分15秒(=42.195km/5.8m/s)の記録がでます。森田選手がいかに俊足かがわかります。

最近ランニングウオッチと連携したセンサを腰につけて、手軽にランニング時の上下動を計れるようになりました。データを見ると、マラソン選手の上下動は10cm程度です。重心は放物運動をしているので、上下動Δyが分かれば滞空時間toも決まります。重力加速度をg、上方向の初速度をvoとすると、t秒後の重心位置yは

  • y=-1/2・gt^2+vot=-g/2・(t-vo/g)^2+1/2g・vo^2

でした。上下動Δyと滞空時間toは

  • to=2vo/g → vo=gto/2
  • Δy=1/2g・vo^2=1/8・gto^2 → vo=root(2gΔy)

を満たします。Δy=10cmが分かっているので、初期速度voと滞在時間to

・ vo=root(2×9.8m/ss×0.10m)=1.40m/s

  • to=2×1.40m/s /9.8m/ss=0.28sec

が分かります。森田選手の1ピッチΔxは

  • Δx=5.8m/s×0.28sec=1.62m

くらいです。

無風状態でも5.8m/sで走れば、ランナ-は5.8m/sの風を感じます。ランナ-の受ける風の影響はどれくらいでしょうか? ランナ-は直径22cm、長さ1.7mの円柱に例えて考えられます。流れに垂直に置かれた円柱の空気抵抗を求めます。

空気の動粘性係数k=1.5×10^-5 m^2/sですから、レイノルズ数は

・Re=Lu/k=0.22×5.8m/s/1.5×10^-5 m^2/s=8.5×10^4 

となります。Re=8.5×10^4は、臨界レイノルズ数Re=2×10^5よりやや小さいです。レイノルズ数が臨界Reより大きくなると、抗力係数Cは急に1より小さくなります。ちなみにバレ-ボ-ルやサッカ-ではボ-ル(直径20cm)の速度が30m/sを超えるので、臨界Reを超えて、無回転ボ-ルが予測不能の動きをすることが知られています。レイノルズ数が10^3より小さくなると、抗力係数Cは1より大きくなります。

  • L/d=1.7m/0.22m=7.7

なので、C≒1.1(=0.9~1.2)としていいでしょう。空気の密度を=1.2kg/m^3、円柱の投影面積をA=1.2m^2とすると、抗力Fは、速度の2乗に比例し、

  • F=C/2・A・uo^2=1.1/2・1.2kg/m^3×1.2m^2×5.8m/s^2≒26N

で与えられます。森田選手の体重を65kgとすると、加速度は

  • a=F/m=26N/65kg=0.4m/ss

となります。水平方向の速さは0.1m/s(=0.4m/ss×0.28s)だけ遅くなります。つまり大まかにいって、地面を蹴った瞬間の水平速度は5.9m/sでしたが、着地するときの速度は、空気抵抗により5.8m/sになったと考えられます。

では向い風5m/sの場合はどうなるでしょうか? ランナ-の感じる風速は10.8m/s(=5.8m/s+5.0m/s)となります。

  • F=1.1/2・1.2kg/m^3×1.2m^2×(10.8m/s)^2 ≒ 92N

これは26Nの3.5倍です。加速度は1.4m/ss(=0.4m/ss×3.5)となるので、水平方向の速さは0.4m/s(≒1.4m/ss×0.28s)だけ遅くなります。

  • 5.9m/s-0.4m/s=5.5m/s

向い風5m/sの場合、5.8m/sから5.5m/sに減速すると考えられます。三区21.4kmは

  • 21.4×1000m/5.5m/s=3890秒

経過します。

結局、向い風5m/sの場合、森田選手は無風状態の時より、

  • 3890秒-3686秒=204秒=3分24秒

だけ到着が遅れることになります。

ちなみにこの速度でマラソンを完走できれば、

42.195km/5.5m/s=2時間7分52秒

となります。もし追い風5.8m/sが吹き続ければ、

  • 42.195km/5.9m/s=1時間59分12秒

で2時間を切ることができます。但し風の影響を相殺するために、通常マラソンのコ-スは折り返しコースになっています。駅伝選手が臨界レイノルズ数に近いところで走っているのは面白いと思いました。

フィギュアスケ-トの4回転ジャンプの秘密

フィギュアスケ-トの4回転ジャンプは、比較的着氷しやすいト-ル-プジャンプとサルコウジャンプが用いられています。ト-ル-プは、右足で体を浮かせ、左足のつま先で踏み切るので、高く飛びやすいジャンプです。サルコウは左足内側のエッジで踏み切るので、高く飛びにくいですが、回転をつけやすいジャンプです。2018年2月の平昌オリンピックで羽生選手は4回転サルコウジャンプを鮮やかに決めました。

 スケ-ト靴を履いているので、足首は固定されています。スケ-タは膝と股関節だけを使ってジャンプしています。その場で片足で跳べる高さはせいぜい30cm程度でしょう。しかし羽生選手は86cmも飛び上がっているそうです。なぜこんなに高く飛び上がることができるのでしょうか。

重力加速度をg、スケ-タの加速度をaとすると、垂直方向の運動方程式は、

  • ma=-mg

です。垂直方向の初速度をvoとすると、t秒後の速度vと位置yは

  • v=-gt+vo
  • y=-g/2・t^2+vot=-g/2・(t-vo/g)^2+vo^2/2g

となります。水平方向の初速度をuoとすると、t秒後の位置xは

  • x=uot

となります。vo/gで最高点に到達するので、滞空時間toは

  • to=2vo/g (vo=gto/2)

となります。跳躍高さhは

  • h=vo^2/2g=(gto/2)^2/2g=g/8・to^2

となります。初期速度あるいは滞空時間によって跳躍高さが決まります。

羽生選手の滞空時間は0.84秒だそうです。そうすると初期速度と跳躍高さは

  • vo=0.5・9.8m/s^2・0.84s=4.1m/s
  • h=0.125・9.8m/s^2・0.84・0.84=0.864m=86.4cm

となります。回転速度は

  • 4回転/0.84s=4.8回転/秒

です。跳躍時間が長いので、回転速度が5回転/秒以下でも4回転しています。

羽生選手は、跳躍前の深いスリ-タ-ンで速度を落とさずに向きを変えるので、水平方向の速度はu=6m/sと大きいです。サルコウでは左脚のエッジを氷面に食い込ませて、瞬間的にエッジを中心に回転させます。典型的な左脚の傾きはφ=17度(氷面と脚のなす角度は73度)です。着地で転倒しないように、体軸を進行方向に対して後ろ向きに鉛直から17度傾けています。踏切時には重心に

  • Δuo=ucosφcosφ=6.0・0.9145=5.5m/s(水平方向)
  • Δvo=ucosφsinφ=u/2・sin2φ=6.0/2・sin34=3・0.56=1.7m/s(垂直方向)

の速度が生じます。助走速度を利用して、上昇速度Δvo=1.7m/sを得ることができました。全体の跳躍速度は

  • Vo=Δv1+Δvo=2.4m/s+1.7m/s=4.1m/s

ですから、自力の跳躍速度はΔv1=2.4m/sとなります。自力での滞空時間と高さは

  • Δt1=2Δv1/g=2・2.4m/s/9.8m/ss=0.49秒
  • Δh1=Δv1^2/2g=2.4m/s^2/2/9.8m/ss=0.294m=29.4cm

です。高さは速度の2乗に比例するので、自力の跳躍速度Δv1=2.4m/sに助走を利用した上昇速度Δvo=1.7m/sを少し加えるだけで、跳躍高さが29cmから86cmに増大しました。

羽生選手の体重は53kgでスケ-ト靴の重さは1kg(両足)で、全体で54kgです。ジャンプによる位置エネルギの上昇Eoは

  • Eo=mgh=54kg・9.8m/ss・0.864m=457.2J

です。回転速度は

  • ω=4×2πrad/0.84sec=30rad/s

です。羽生選手の慣性モ-メントIは、頭、首、胴(腕込み)、腰、腿、下肢、足首、靴の各部分(い=1~8)が円筒であると近似して足し合わせた結果小さめに見積もっておおよそ

  • I=1/2・∑(mi・ri^2)=0.32 kgm^2

であると推定しました。これは半径10.8cmで長さ175cm(=身長171cm+靴4cm)の円筒(比重1)の慣性モ-メントに相当します。回転運動のエネルギE1は

  • E1=1/2・Iω^2=0.5・0.32 kgm^2・30rad/s^2=144.0 J

よって、ジャンプするエネルギの方が回転エネルギより3.2倍も大きい

  • Eo/E1=457.2J/144.0 J=3.2倍

ことが分かります。慣性モ-メントが30%大きければ、2.5倍程度になります。

 氷面を0.1秒間蹴り続けたとすると、ジャンプ力Foは

  • Fo=54kg・4.1m/s/0.1sec=2214N

回転トルクT=F1×rは

  • T=I・dω/dt=0.32kgm^2・30rad/s/0.1s=96.0Nm

回転力F1は、r=0.108mとして

  • F1=96.0/0.108=888.9N

全力Fは

  • F=root(Fo^2+F1^2)=root(2214^2+889^2)=2386N=243kgf

となり、体重54kgfの4.5倍の力でジャンプしたことになります。4回転ジャンプは体重の4倍以上の力がかかると言われているので、0.1秒の蹴り時間は良い値だと思われます。

踏切角度αは、ジャンプ力Foと回転力F1の比に対して

  • tanα=Fo/F1=2214N/889N=2.490

を満たします。跳躍は氷面からα=68度の方向(傾き22度)でした。跳躍時に腕や脚の広がりがあると慣性モ-メントは増加します。慣性モ-メントが30%大きければ、

  • tanα=2214N/889N/1.3=2.490/1.3=1.915

となります。これを解くと、跳躍方向は氷面からα=62度の方向(傾き28度)になります。踏切角度は60度程度と言われているので、実際の慣性モ-メントは30%増しの値なのかもしれません。跳躍方向と体軸の傾きは必ずしも一致しません。

羽生選手は助走速度6m/sが大きく、それを上手に上昇速度1.7m/sに変換し、自力のジャンプ速度2.4m/sに付け加えることにより4.1m/sの速いジャンプ速度を得ていました。それにより長い滞空時間0.84秒を実現し、その間に4.8回転/秒で高速回転することにより、4回転(=1.8回転/秒×0.84秒)ジャンプを成功させたことになります。

スケ-トでは、回転をつけるために、跳躍する前に手足を伸ばして慣性モ-メントを大きくして、体を先行してひねっていきます。強く氷面を蹴って跳躍すると同時に素早く手足を縮め、体軸をまっすぐにして、進行方向に対して後ろ側に傾けます。着氷時には安定に着地するために、手やフリ-脚を大きく伸ばして、角運動量を手脚に持たせて、体の回転を止めます。回転に余裕がない場合は、高く飛ぶことが、安定な演技につながります。回転に余裕がある場合は、演技を大きくみせるために、遠くに跳躍するようです。これからは靴が軽くなるので、難度の高いルッツやアクセルでも4回転ジャンプを成功させる選手がでてくるでしょう。

ボルト選手のスピ-ド曲線の解析

ジャマイカのウサイン・ボルト選手は2009年のベルリンの世界陸上で、9秒58の世界新記録を樹立しました。その時のボルト選手のスピ-ド曲線を解析してみました。

ボルト選手のトップスピ-ドv1は12.3m/sでした。加速度は時間の1次関数である

  • a=a1(1-t/t0)

と仮定して、フィッティングしました。図に最適なフィッティング時の加速度の時間依存性を示します。直線近似なので多少ずれがありますが、初期加速度a1=5.65m/s^2、t0=4.35秒(36m地点)後

  • t0=2v1/a1=2×12.3m/s/5.65m/s^2=4.35秒

に加速度がゼロになり、トップスピ-ドに達することが分かりました。

質量mの走者は進行方向と逆向きに見かけの力maを受けます。走者は加速時に前傾姿勢を取ります。地面からの傾斜角度をα、重力加速度をg(=9.8m/s^2)とすると、傾斜する体軸に垂直方向の成分のつり合いから

  • mgcosα=masinα

が成り立ちます。

つまり傾斜角度αは加速度aに対して

  • tanα=g/a

なる関係を満たします。これは姿勢が前傾するほど、加速度aが大きくなることを示しています。ボルト選手の場合、傾斜角度はスタ-ト直後に60度(体軸と地面のなす角)ですが、徐々に増加し36m地点で90度(直立)になります。傾斜角度を小さくするほど、短時間でトップスピ-ドになります。

走行時に足にかかる力は

  • sqrt(a^2+g^2)/g~11.3/9.8=1.15

倍に大きくなります。a=5.65m/s^2の時、体重の15%だけ体が重く感じられます。ボルト選手は93kgだから、加速し始めたときに14kgも重くなります。

トップスピ-ドを高めるためには、ストライド(1ステップの幅)とピッチ(1秒間のステップ数)を大きくします。ボルト選手のストライドは2.75m(身長は1.96m)ピッチは4.48回です。ちなみにカ-ルルイス選手のストライドは2.75m(身長は1.88m)ピッチは4.36回です。ボルト選手は長身ですが、ピッチが大きい特徴があります。またボルト選手はゴ-ル直前まで減速なく走り切りますが、日本の選手は減速が大きいです。

 100mの限界タイムは9.27秒と言われています。これはトップスピ-ド12.9m/sに相当し、ゴール前でボルト選手を4m引き離す速さです。 

なぜヒトの成長スピードは遅いのでしょうか?

動物の子供はすぐに成長します。犬は1年半で、チンパンジは10歳で大人になります。ヒトはチンパンジより10年も成長が遅いのです。ヒトの成長スピードはなぜ遅いのでしょうか?1995年に文化人類学者のLeslie Aiell博士は「高価な器官仮説」を提案しました。これは、「脳はエネルギ消費が高いので、脳の発達とともに身体の成長速度が低下する」という考え方です。

2014年にノースウェスタン大学の研究者らが、身体は4歳頃から急速に成長速度が低下し、それに代わり脳で消費されるブドウ糖の量が急速に増加することをMRI(脳体積)とPETスキャン測定で確かめました。5歳児の場合、摂取エネルギの40%が脳で消費されていたのです。

体重60kgの成人の脳の重量は1.2㎏程度です。脳の重さは体重の2%ほどに過ぎませんが、成人場合は、摂取エネルギの20%が脳で消費されます。ちなみに肝臓や骨格筋は脳と同程度のエネルギを使い、心臓や腎臓は脳の半分程度のエネルギを消費します。

誕生直後には頭が一番大きいので、これまで脳の消費量も誕生直後が一番大きいと考えられてきました。実際はシナプス(脳細胞同士の接続)の接続と刈り込みが急増する4~5歳頃に脳のエネルギ消費量が増大することが分かったのです。人間の子ども時代が長いのは、脳の発達に時間がかかるからなのです。
レベッカ・イネス君は天才ドラマ-です。6歳で大人顔負けの演奏をします。子どものころは神経細胞のシナプス結合が多いのですが、ミクログリア細胞が使われないシナプス結合を刈り込み除去するために、6歳頃にその人独自の脳が出来上がっていきます。幼児期の環境や学習が脳の成長に重要であることが分かります。神経細胞の成長と刈り込みの複雑なパタ-ンによって我々は唯一無二の存在になっていくのです。

骨の成長を促すには?

骨の成長を促すには、睡眠、適度な運動、よい食事、愛情のある生活環境が必要です。成長ホルモンは夜間、ぐっすりと熟睡している間に分泌されるために睡眠を十分取ることが重要です。骨は運動などで力がかかるほど成長しますので、適度な運動も必要です。骨や体の材料となるタンパク質やカルシウムなどの豊富な食べ物をバランスよくとることが大切です。私の友人は背を伸ばそうとして、カルシウム剤を飲んでいましたが、効果がなくて止めました。カルシウムは、骨を強くする作用はありますが、骨成長を促進する作用はないそうです。また精神的ストレスが大きいと脳下垂体から成長ホルモンが分泌されにくくなり、睡眠や食欲が低下して、愛情遮断性症候群と呼ばれる低身長体になることがあるそうです。


骨の成長に必要なミネラルとビタミンは?
骨の成長に必要なミネラルとしてはマグネシウム、亜鉛、鉄分などがあります。各種のビタミンも骨の成長には欠かせません。ビタミンB6はアルギニンの合成や、コラーゲンの生成を促します。ビタミンB12は睡眠にかかわるメラトニンを調節し、ビタミンCはコラーゲンの生成を助けます。ビタミンDは小腸でのカルシウムの吸収を高め、ビタミンKは骨幹の形成を調節します。野菜や果物も骨の成長に関わりがあるということですね。

アルギニンはどうなの?
アルギニンというアミノ酸は成長ホルモンの分泌を促進するといわれており、アルギニンのサプリメントが販売されています。骨の成長を専門とするクリニックの見解では、アルギニンを服用して成長ホルモンの分泌が増えたとしても、骨成長が促進したという実例はないそうです。サプリメントで身長を伸ばすことは期待できないそうです。本当に効果があればそれはサプリメントではなく医薬品に認定されるでしょうね。

骨のリモデリングは10年周期

成人の骨は、全部で206本あり、その1つ1つが全部ちがう形をしています。骨代謝によって一定の形と密度を保ちながら、1つ1つの骨が少しずつ新しい骨に入れ替えられています。骨の重さは標準的体重の15%です。体重60kgの人であれば9kgほどになります。その内、骨髄が3kgあるとすると、骨本体は6kg程度になります。骨は1日1.6g程度更新されていので、およそ10年で体中の骨が入れ替わってしまうのです。私の骨は5回目の骨ということになります。大人になった後も、10年サイクルで骨は再生されているなんて、驚きですね。

運動と骨密度の関係
通常、運動選手は骨密度が高いと言われています。特に柔道選手は骨が丈夫だそうです。よく投げ飛ばされるからでしょうか?運動の衝撃によって骨内部に微細な骨折が発生し、それを修復する過程でカルシウムの沈着が促進されて骨密度が増加すると言われています。また骨に圧縮力が加わるとピエゾ電圧が生じるために骨芽細胞の働きが活発になり、Ca2+イオンが負電位の骨に引きつけられ吸着するとも言われています。一方、重力負荷の乏しい自転車競技や水泳競技の選手は骨密度が低いようです。自転車に乗っている時間が長い人は、運動しているのに骨粗鬆症になる場合があります。歩くより走った方が、衝撃があるので若さを保てるという報告も聞いたことがあります。

 

骨代謝に関わる2つの細胞

骨は永久不変ではなく、皮膚と同じように新陳代謝を行っています。つまり毎日、古い骨が壊されて、新しい骨が作られているのです。これを「骨代謝」といいます。具体的には破骨細胞(osteoblast)が古い骨を溶かし、骨芽細胞(osteoclast)が新しい骨を作ります。

破骨細胞は10個程度のマクロファージが融合した多核巨細胞であり、骨の表面を動き回って、酸やタンパク質分解酵素を分泌して、骨を溶かします。溶けたCaは、血液に取り込まれて新しい骨の材料になります。

骨芽細胞はⅠ型コラーゲンやオステオカルシンなどの骨基質タンパク質を合成・分泌して骨の石灰化にかかわります。つまりコラ-ゲンという鉄筋にオステオカルシンという接着剤を塗って、血液中のCaというセメントを付着させると考えればいいでしょう。骨芽細胞は男性ホルモンであるアンドロゲンと女性ホルモンであるエストロゲンの受容体を持っています。アンドロゲンは骨芽細胞の活動を抑制させ、エストロゲンは骨芽細胞の活動を刺激します。閉経後の女性は、エストロゲンの分泌が減少するために、骨芽細胞の活動性が低下し、骨粗鬆症になりやすいというわけです。閉経が起こる理由は、高齢で出産するリスクを避け、孫の世話をするためだと言われています。孫の数が多い女性ほど、寿命が長いという調査結果があります。

BBC放送「人体:成長の秘密」パート2 骨の成長

赤ちゃんは生後1年で体重が3倍、身長は2倍になります。身長が伸びるのは骨が成長するからですが、あの硬い骨がどうやって成長するのでしょうか?

骨は、骨端板が伸びることで成長します。骨端板は、骨端と骨幹の間にある軟骨層です。骨端板は骨端側に伸びる一方、骨幹側の軟骨は次第に骨化して、骨は長く成長します。骨膜の骨化により骨は太くなります。18歳頃になると、骨端線にある軟骨がすべて骨になり、骨端と骨幹が密着します。こうして身長が決まるのです。骨の成長は4つの遺伝子の影響を受けるようですが、二卵性双生児でも生育環境の違いで10cmくらいの身長差が生じることがあるそうです。遺伝がすべてを決めるのではないようです。

骨の成長のメカニズム
脳の下垂体から放出された成長ホルモンが、骨の軟骨細胞の分裂・増殖を促します。成長ホルモンが血流によって肝臓に届くと、肝細胞はソマトメジン-Cあるいはインスリン様成長因子(IGF-1)と呼ばれる物質をつくります。骨に運ばれたソマトメジン-Cが骨端軟骨の細胞を刺激して、急速な分裂を促します。この番組では軟骨細胞が次々と分裂し、骨が成長する様子が見られました。長生きすると驚くべき光景が見られます。

骨は生きている
骨は単なる硬い棒ではありません。骨の内部には細い血管が縦横無尽に張りめぐらされ、骨細胞が活動しています。そのおかげで骨折した骨も元通りに治るのです。神経は骨膜にあり、骨自体にはないようです。骨はよく鉄筋コンクリートに例えられます。コラーゲンが鉄筋、カルシウムがセメントというわけです。コラーゲンを芯にしてカルシウムを沈着させて、新しい骨をつくります。骨には体を支え、運動し、内臓を守る力学的な役割の他に、カルシウムを貯蔵する代謝的な役割があります。カルシウムはあらゆる細胞の機能や神経の伝達などに必要な物質です。

正しいジョギング

正しいジョギングは「歩く速さで走ること」です。これがスロ-ジョギングです。初心者は、「歩く速さより速く走らなければならない」という先入観が強いので、長時間走れないし、ジョギング習慣が長続きしません。速く走ると辛くなります。それはエネルギ消費が上がるにつれて乳酸の分解が追い付かずに、乳酸が筋肉に蓄積するからだと言われています。しかし歩く速さで走れば、乳酸が筋肉に蓄積しないので、楽に走れるのです。

ダイエットをしたい人は、1日に30分は走った方がいいでしょう。8km/hでは1分間しか走れない人でも、4km/hなら30分間、楽に走れます。疲れが残らないので、ジョギング習慣が長続きします。もちろん少しずつ速度を上げていけば、楽に速く走れるようにもなります。

重要なのは、遅く歩けばダイエット効果は小さいですが、遅く走ってもダイエット効果は変わらないことです。物理法則を思い出してください。歩行時の消費エネルギは速度に依存しますが、ジョギング走行時の消費エネルギは速度に依存しないからです。速くジョギングすると運動した気になりますが、それは乳酸がより多く蓄積するだけの違いでしかないのです。

歩く速さでジョギングすると、自然と足の指の付け根で着地します。いわゆるフォアフット走法になります。踵から着地すると、ウォ-キングになり、走りにくくなるからです。フォアフット走法の方が足にくる衝撃が小さく、ケガをしにくいと言われています。またふくらはぎの筋肉が鍛えられます。慣れないうちは軽いフォアフットにするといいでしょう。たまには学級の一番足の遅い子どもを一番先頭に走らせて、みんなはその後をゆっくり走るのはどうでしょうか?その方が楽しく走れるし、運動効果はそれで十分あるのです。

物理法則を知っているだけでは、役に立ちません。いろんな出来事に応用できないか考えてみることで、日常生活にとても役に立つことが分かりますね。

ジョギングの物理

ジョギングというのは10km/h以下の速さで走ることです。最近スロ-ジョギングがいいね、なんて言われますが、どうしてでしょうか?ウォーキングの場合は速く歩いた方が、消費効率がよかったのに。それにしても一体どれくらいの速さで走ればいいのでしょうか?それはどうしてでしょうか?走るのは歩くのとどう違うのでしょうか?通常はそういうことは何も知らずに闇雲に走っているのですが、少し冷静になって簡単な物理で推測してみましょう。

一秒間の消費エネルギP[W=J/s]は、
P[W]=W[J/歩]×N[歩/s]
で与えられました。

まず1歩あたりの仕事W[J/歩]を考えてみましょう。踵を地面につけたまま、膝を曲げると、どれだけ重心が下がるでしょうか?私の場合は10cmでした。たぶん皆さんも同じくらいでしょう。走る場合は、膝を曲げた状態から蹴って足を入れ替えます。飛び上がったとき、重心の地面からの高さは10cmくらいです。これは基本的に筋肉もバネと同じだからです。つまり膝を曲げた分だけ上に飛び上がれるのです。だから走行時の重心は20cm上下します。歩行時の重心は10cm上下するので、1歩あたりの走行時の仕事は歩行時の2倍になります。随分簡単ですね。

1秒当たりの歩数N[歩/s]はどうでしょうか?ウォ-キングとジョギングで違いはあるでしょうか?ウォ-キングの場合は、早く歩くと1秒間の歩数は増加します。しかしジョギングでは、速さを変えても、8km/h以下の速さならば一定のリズムで走るので、1秒間の歩数は殆ど変わらないのです。ウォ-キングの場合は、早く歩いても歩幅は増加しませんが、ジョギングでは徐々に速く走ると歩幅が増加します。これは、跳躍中は慣性の法則が働き、速度が低下することなく移動するので、速く走ると歩幅が増加するのです。

歩行時の1歩あたりの仕事をWoとすると、走行時の消費エネルギは
Pr[W]=2×Wo[J/歩]×No[歩/s]
となり、速度に依存しません。一方、歩行時の消費エネルギは
Pw[W]=mgV×tan(φ/2)
であり、速度に依存します。私の場合歩行速度Vo=6km/hを超えると、歩くより走った方が楽になります。歩行速度が6km/hを超えると、歩行時の消費エネルギは、摩擦により徐々にVの2乗に比例するようになり、歩くのがつらくなる影響もあります。結局、速度Vo=6km/hで、Pr[W]=Pw[W]つまり
2WoNo=mgVo・tan(φ/2)
が成り立っているのです。8km/hを超えると徐々に走るピッチNoが増加します。跳躍の高さも少しあがります。

2018年世界体操選手権の女子個人総合の結果

2018年、カタ-ルのド-ハで開催された世界体操選手権の女子個人総合の優勝はシモ-ネ・バイルズ(米)(Simone Biles)、二位は村上茉愛(まい)、三位は前回の優勝者モ-ガン・ハ-ド(米)(Morgan Hurd)でした。完成度と難度が高い連続技が繰り広げられ、最後まで優勝者が分からないハイレベルの国際試合でした。

村上選手は日本人女子で初の銀メダリストになりました。得意の床の演技で大きくスコアを伸ばしました。最後の床の演技後、緊張がゆるんで感極まっていたのが印象的でした。日体大の22歳、身長は148cmです。

バイルズ選手はいつも最高難度の技に挑戦します。跳馬では尻餅をついたけど、14.5の高スコアでした。平均台での落下もあったけど結局、バイルズ選手が優勝しました。バイルズ選手は、両親が育児放棄したので、祖父母に育てられましたが、世界最高の体操選手になりました。カルフォルニア大の21歳、身長は145cmです。

ハ-ド選手は、眼鏡をかけており、女優の柴田理恵さんに似ています。眼鏡をかけたまま演技をする体操選手は見たことがありません。彼女は、中国生まれの孤児でしたが、2歳の時に国際養子縁組でハ-ド夫妻に育てられました。デラウエア州在住の17歳、身長は135cm、体重は38kgです。

彼女は138cmの寺本明日香選手より小柄です。小柄の方が、回転しやすい、床面積が広く感じるから、有利だといわれます。しかしそれ以上に他のスポ-ツでは小柄であることは不利なことが多いので、体操選手には小柄な人が多いのかもしれません。