地球の海水が絶妙な量なのはなぜか?

地球上の海水量は、地球質量の0.02%であり、大陸を形成するのにちょうどよい水量になっています。生命が存在するには、プレ-トテクトニクス(大陸移動)が生じる必要があり、海水が今の半分になるとプレ-トテクトニクスが止まると言われています。海水が現在の2倍増えると、陸地が水没して、大陸から生命に必要な元素が風化作用で供給されなくなります。氷を含む彗星が地球に衝突すれば、地球は水没してしまうのです。地球の海水が生命誕生に必要な絶妙な量であったのはどのような偶然なのでしょうか?惑星への水の供給量はどのような条件で決まるのでしょうか?地球は太陽からちょうどよい距離にあるので、液体の水が存在できます。しかし宇宙空間には液体は存在できません。つまり惑星に水が供給される際には、必ず氷の形になっていなければならないのです。

地球への元素供給の問題
系外惑星に海をもつものはたくさんありますが、そこに生命のもとになる有機物が含まれているかを推定するのに、惑星への元素供給理論が必要になります。従来、地球の水や有機物の起源は隕石によるものであると説明されてきました。つまり木星の重力で小惑星帯の炭素質コンドライト隕石が飛来して、地球に水や炭素や窒素などの元素を供給したと考えられています。しかしそれで安心するのはまだ早いのです。なぜ小惑星帯に炭素や窒素などの元素が存在しているかはまだ説明できていないからです。こうしたCO2やNH3の軽元素は、100K以下の低温で凝縮します。天王星のある20天文単位以上離れた低温の場所でしか軽元素は惑星に取り込まれないのです。それらの軽元素が地球の近くまで運ばれたとしても、温度が上昇して蒸発するので、地球には取り込まれません。

井田教授の雪線移動説
雪線は水の凝縮する中心星からの位置です。現在の雪線は2.7天文単位はなれた小惑星帯にあります。氷塊は雪線の外側で存在可能です。井田教授は、雪線が地球の内側に移動して、地球に氷粒が供給されたと主張しています。有機物は氷粒とともに地球に降り注いだと考えています。氷粒に張り付いた有機物は紫外線の作用で複雑化して昇華点が上昇するからです。複雑化した有機物の凝縮線が地球に届いた可能性があるからです。

どうして雪線が移動するのでしょうか?
原始惑星系円盤のガスは中心星に吸い込まれていくので、円盤のガス密度は徐々に低下します。ガス密度が低下すると乱流発熱が低下して温度が下がります。中心星近傍のガス密度が高いと、中心星の光を遮るために、惑星の温度が下がりますが、中心星近傍のガス密度が低くなると、光が透過し、惑星の温度が上がります。このようにして雪線が移動すると考えられます。雪線が地球の近くにくると、地球の外側を回転しているガス中の水蒸気が凝縮し、氷ダストを発生させます。残りのガスは乾燥して地球に届くので、大量の氷ダストが一気に地球に降り注ぐことはありません。生じた氷ダストは小石サイズに成長し徐々に中心星に移動していきます。その一部が地球に取り込まれていったと考えています。

小石集積モデルとは?

井田教授らは、小石の生成を仮定した上で、メートルの壁を避けるために、小石集積モデルを検討しています。小石集積モデルは、膨大な数の小石が太陽の周囲を回転しながら徐々に太陽に近づいていく際に渋滞が生じて、小石とガスの密度に濃淡ができるモデルです。実際に系外恒星のガス円盤を観察すると同心円状の模様が観察されます。従来は微惑星の内側と外側の両方から小石が供給されるモデルでした。小石集積モデルでは、小石の密度が高い領域に微惑星が形成されると考え、小石は微惑星の外側から供給されます。小石が微惑星に降り注ぐことで微惑星が原始惑星に成長します。小石集積モデルは、小石同士の合体集積を仮定することなく、微惑星や原始惑星の成長を説明できる点が優れています。現在はそのような小石の渋滞が生じるのかを計算機シミュレ-ションで確かめています。

小石集積モデルの問題点は?
微惑星が原始惑星サイズに成長すると、大気を持つようになります。小石が大気圏に突入すると大気との摩擦で小石が蒸発するために、原始惑星には小石が供給されなくなる問題があります。
小石集積モデルでは原始惑星への成長速度が速いので、多くの原始惑星が残存ガスを吸い込んで成長します。しかし3個以上の巨大ガス惑星が形成されると、それらの軌道不安定性から、内側の巨大ガス惑星が落ち込み、反動で外側の巨大ガス惑星が系外に弾き飛ばされると考えられます。そうしたことが起これば、地球はひとたまりもないので、小石集積モデルは系外惑星を説明できても、太陽系は説明できないかもしれません。

グランドタックモデルは信じられるか?
グランドタックモデルは、ある初期条件の下で、木星が太陽に向かって動き、やがて現在の位置に引き返したというモデルです。このモデルは、火星が小さいことや小惑星帯があることを説明できます。つまり太陽系がある特殊な初期条件を満たしていたら、現在の問題を解決できるということです。井田教授は、「グランドタックモデルは太陽系の考古学だ」と言いました。つまりそのような可能性はあるが、特殊な初期条件を満たす確率は高いとは言えない、と考えているようです。このモデルは太陽系の惑星形成を普遍的な理論で解明する立場とは異なる立場をとっています。惑星形成理論は、普遍性と特殊性の両方を検討しなければならない面白さがあります。

そもそも小石ができる理由が分からない

これまでの惑星形成論では、小石と小石が万有引力で衝突してより大きな石になっていく過程を仮定してきました。しかし小石の形成や集積は自明ではありません。なぜなら小石間の万有引力は極めて小さいからです。確かに塵同士は静電気力で引き合い大きくなりますが、小石は帯電しないので静電気力は働かないのです。私は小石を含む氷塊同士が衝突するなら、圧力融解と氷結により合体する可能性があると思います。しかしそれだけでは太陽に近い惑星の形成を説明できません。

できた小石は太陽に落下してしまう

実はガスは小石より僅かに遅く太陽の周りを回転しています。つまり小石は向かい風を感じているのです。その結果、小石はガス抵抗を受けて速度が小さくなるから、軌道半径が小さくなるように思うかもしれません。しかし実際は、小石の軌道半径が小さくなるとき、速度は大きくなります。小石はガス抵抗のせいで次第に太陽に引き寄せられていきます。たとえ小石が集積するとしても、小石が1mサイズに成長する頃には太陽に落下してしまうのです。これでは惑星はできません。この困難は「メートルの壁」と呼ばれています。

小石の軌道半径が小さくなるとき、小石の速度が大きくなる理由は以下の通りです。中心星の質量をM、その周りを軌道半径aの円運動する小石の質量をmとすると
・  GmM/a^2(重力)= mV^2/a(遠心力)
が成り立つので、小石の速度は
・  V=root(GM/a)
となります。軌道半径aが減少すると、回転速度Vは増大することが分かります。

そのときの小石の全エネルギEを調べてみましょう。Eは
・  E=K(運動エネルギ)+U(ポテンシャルエネルギ)
で与えられます。小石の速度Vを代入すると、運動エネルギは
・  K=1/2・mV^2 = GmM/2a
となり、ポテンシャルエネルギUは
・  U=-GmM/a
ですから、小石の全エネルギEは
・  E=GmM/2a-GmM/a = -GmM/2a
となります。

軌道半径が⊿a(<0)変化すると、
・  ⊿K=-GmM/2a^2・⊿a (=-⊿U/2)>0
・  ⊿U=+GmM/a^2・⊿a <0
ですから、全エネルギ変化⊿Eは
・  ⊿E=⊿K+⊿U=-⊿U/2+⊿U(=⊿U/2)<0
となります。

すこし分かりにくいかもしれませんが、結局、小石がガス抵抗を受け、軌道半径が⊿a(<0)小さくなると、ポテンシャルエネルギは⊿U減少し、運動エネルギは-⊿U/2増加し、エネルギは⊿U/2減少します。減少した小石のエネルギはガスの温度上昇に使われます。

井田モデルとは?

井田教授が提案した寡占成長モデルは標準理論を発展させた惑星形成モデルです。井田モデルでは、1kmサイズの多数の微惑星が衝突して、地球の1/10サイズの原始惑星が一定の間隔で形成されます。やがて微惑星がなくなると、原始惑星同士の相互作用により、原始惑星が円軌道を保てなくなり、巨大衝突が起きて、地球や金星が誕生します。

井田モデルの問題点は?

井田モデルでは、惑星の岩石部の質量は距離に比例して大きくなっていきます。そうであれば地球の外側にある火星は地球より大きくなくてはなりません。モデルに基づいて計算機シミュレ-ションをすると火星の位置に地球より大きい質量の惑星が誕生します。しかし実際には火星は地球の1/10の質量しかないのです。また火星の外側には、地球より大きな質量の惑星がなければならないのに、そこには小惑星帯しかないのです。
また井田モデルでは、木星がガスにトラップされて、中心星のすぐ近くまで移動してしまう問題や、木星がガスを取り込み始めると僅か10万年で太陽に落下してしまう問題もあります。ガスの集積時間が軌道半径の3乗に比例するため、遠くの惑星ほどガスの集積時間が長くなります。木星がガスを集積する時間がガスの存在時間より長くなってしまう問題も生じます。それでも様々なシナリオのパーツを作っていけば、いつかは矛盾のない組み合わせが見つかると考えています。

ジャイアントインパクト仮説にも疑問点あり
巨大衝突による月の形成に関しても、新たな疑問が出ています。これまでティアと呼ばれる火星サイズの原始惑星が原始地球に衝突して、地球のマントルが飛ばされて、月ができたと考えられてきました。月の研究から、月の大部分は地球のマントルという岩石成分からなっていることが分かっています。計算機シミュレ-ションでも月の形成に成功しています。しかしこの仮説にも疑問が生じています。
宇宙線の作用により個々の惑星の酸素同位体比は異なります。よって原始惑星と地球でも酸素同位体比は異なるはずです。しかし2012年3月30日のNASAの発表では、これまでは月を構成している破片の約40%がティア起源だと考えられてきましたが、シカゴ大学のJunjun Zhang氏らの酸素同位体比の研究によれば、月のほとんどは原始地球の破片からなっていたと報道されています。この結果は衝突で両者が溶けて完全に混ざり合わなければ生じません。

従来の惑星形成モデルはどのようなものでしょうか?

従来の惑星形成モデルは京都大学の研究者が発展させました。これは太陽系形成の標準モデルと呼ばれています。標準モデルは金星や地球のような岩石惑星、木星や土星のようなガス惑星、天王星や海王星のような氷惑星が形成される様子とそれらが太陽の周りを円軌道で周回する様子をうまく説明できました。この標準モデルは円盤仮設と微惑星仮説に基づいています。円盤仮設とは、太陽質量の1%が円盤の質量であり、その99%は水素とヘリウムのガスで、残りの1%が塵であるというものです。微惑星仮説とは、円盤赤道面に沈殿したダスト層が割れてできた塊が、自重力で収縮して多数の小天体(1kmサイズの微惑星)を同時に形成し、それらが合体成長して惑星ができたというものです。回転するガスは常に円運動しているために、ガスを吸い込んでできた巨大惑星も円運動することになります。

どうして系外惑星には太陽系と異なるものが多いのでしょうか?
いくつか理由が考えられます。まず初期の円盤質量が標準モデルよりかなり大きいものがあるのではないかということです。これまで太陽系の再現を目標に研究されてきたので、初期の円盤質量が大きい場合は、殆ど研究されてきませんでした。円盤のガスは乱流状態なので殆どのガスは400万年ほどかけて中心星である太陽に吸い込まれます。但し一部のガスは角運動量をもらって外部に消え去ります。ガスが消失すると、成長した原始惑星同士は、重力相互作用により交差し、やがて衝突したり、跳ね飛ばされたりして、楕円軌道になったりするのです。系外惑星の発見により、惑星が軌道半径を大きく変えることが、頻繁に起こっていたと考えられるようになってきました。
ちなみに円盤の質量の殆どはガスの質量ですが、ガスは観測できません。円盤の大部分を占める低温(<100K)のダストが発するサブミリ波長帯の電波を電波望遠鏡で観測して、ダストの質量を求め、それを100倍したものをガス質量とします。なぜなら太陽ではガスはダストの100倍の質量をもつからです。

惑星形成理論は混迷の時代

井田教授のお話しでは、地球形成の問題は、新設が乱れ飛び、現段階では全く答えを出せない状況だそうです。私は半年前に井田教授が書かれた「惑星形成の物理(共立出版2015年)」という本を読んで、井田先生の学説を把握していましたが、この1年でさらに井田先生の考えは大きく変わったようです。とにかく解明しつくされたと思っていた古典力学の領域の問題でお手上げの状態が何十年も続いており、しかもそのことを殆どの人が知らない、という興味深い事態が起こっているのです。

系外惑星とは何でしょぅか?
近年、「系外惑星」と呼ばれる太陽系以外の惑星が次々と発見されています。その中に地球に似た惑星もいくつか見つかっており、大きな注目を集め、生命の存在が期待されています。天文学者が驚いたのは、系外惑星の多様な姿です。その多くは太陽系とかなり異なっていました。惑星形成理論は、太陽系だけでなく、太陽系以外の惑星形成をも説明できるものでなければなりません。また地球が形成されたときに生物の原料である元素はどのように地球に供給されたのかを説明しなければなりません。

そもそもなぜ最近になって、惑星が見つかってきたのでしょうか?
1995年に最初に発見された系外惑星はペガサス座51番星bでした。これは中心星のすぐそばを周回する木星より大きい巨大ガス惑星でした。銀河系にある中心星の前を惑星が通り過ぎると、中心星の明るさが数十日間で変化するので観測できたのです。当時は誰も巨大ガス惑星が中心星のすぐそばを周回しているとは思いもしませんでした。例えば木星は地球の5倍以上も太陽から離れているので、太陽の僅かな光の変化を捉えるのは容易ではありませんでした。運よく惑星が太陽の前に横切ってくれるとは限りませんし、木星なら太陽の前を横切るのを待つのに12年(公転周期)以上かかります。だから誰も系外惑星を観測しようと思わなかったのです。しかし一度系外惑星が観測できることが分かってくると、次々に見つかり、観測精度の向上により、今では4000個もの様々な惑星が見つかっています。

典型的な系外惑星は?
系外惑星は、数個の岩石惑星のみからなる場合、2個の巨大ガス惑星のみからなる場合が半分を占め、残りは、岩石惑星と巨大ガス惑星が入り混じって存在する惑星群であることが分かってきました。また系外惑星には楕円運動しているものが数多くあります。

「地球はどのようにしてできたか」

新宿の朝日カルチャ-センタで、東工大の地球生命研究所の井田茂教授が「地球はどのようにしてできたか」というタイトルで講演を行いました。観客は40名のシニア層です。井田教授のご専門は惑星形成の理論です。これは、太陽のような中心星の周りに円盤状に分布・回転している気体(ガス)と塵(ダスト)がどのように集積して多様な惑星が形成されたのかを説明する理論です。現役の教授から研究の最前線のありのままの様子を伺うよい機会になりました。

新宿駅まで一緒に帰る途中でお話をしました。最近のシニア層は文系の大学に入る人が増えているが、理系の大学にも来てほしいそうです。学生さんは大量の天体デ-タを深層学習の人工知能で解析しているそうです。そんな時代に果たしてシニア層がなじめるかは分かりません。

ブラックホ-ルはなぜこの宇宙にあるのか

10月27日に新宿にある朝日カルチャ-センタにて開催された「ブラックホ-ル」の講演会を聴きに行きました。講師は放送大学教授の谷口義明氏です。谷口氏は1954年北海道生まれ、東北大卒です。ご専門は天文学で、銀河の進化の研究をされています。1時間半ほどの講演会では、ブラックホ-ル(Black Hole)はどこにあるのか?、どのような種類が何個あるのか?、そして最後になぜこの宇宙にあるのかを解説してくれました。聴講者は50人くらいで、講義の後に熱心に質問していました。

通常の恒星質量のブラックホ-ル(BH)は、超新星爆発の後に残る大質量の小さな天体です。重力が強いために、BHの近く(シュバルツシルト半径以内)で発光しても、光は外部に放射されません。そのためにBH(黒い穴)と呼ばれています。光のような質量のないものに対してはニュ-トン力学が適用できないので、BHは一般相対性理論で解析されます。ちなみにダ-クマタ-もBHを形成するそうです。

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