ブラックホ-ルはなぜこの宇宙にあるのか

10月27日に新宿にある朝日カルチャ-センタにて開催された「ブラックホ-ル」の講演会を聴きに行きました。講師は放送大学教授の谷口義明氏です。谷口氏は1954年北海道生まれ、東北大卒です。ご専門は天文学で、銀河の進化の研究をされています。1時間半ほどの講演会では、ブラックホ-ル(Black Hole)はどこにあるのか?、どのような種類が何個あるのか?、そして最後になぜこの宇宙にあるのかを解説してくれました。聴講者は50人くらいで、講義の後に熱心に質問していました。

通常の恒星質量のブラックホ-ル(BH)は、超新星爆発の後に残る大質量の小さな天体です。重力が強いために、BHの近く(シュバルツシルト半径以内)で発光しても、光は外部に放射されません。そのためにBH(黒い穴)と呼ばれています。光のような質量のないものに対してはニュ-トン力学が適用できないので、BHは一般相対性理論で解析されます。ちなみにダ-クマタ-もBHを形成するそうです。

谷口氏は、ハワイのすばる望遠鏡で遠方にあるクエ-サの観測をしていました。クエ-サ(Quasar)の語源は、準恒星状(quasi-stellar)からきています。クエ-サは宇宙で一番明るく、最も遠い天体です。太陽の1兆個分の明るさをもち、宇宙誕生後の約7億年で現れはじめた天体です。クエ-サの正体は、超大質量のBHを有する活動銀河核です。明るく光る理由は、大質量BHを取り巻く降着円盤のガスや塵がブラックホールに落ち込む時に、運動エネルギが摩擦熱に変換されるためだそうです。発光のエネルギ変換効率は50%と高く、消費質量は毎年10~1000太陽質量にも達します。我々の銀河系も中心部にBHを持っていますが、活動は小さくなっています。

先日亡くなられたホ-キング博士はBHの研究者です。BHはホ-キング放射で少しずつ蒸発していると考えられています。BHの近くでは、時間と空間が入れ替わり、粒子のエネルギが負になります。ホ-キング放射とは、真空の揺らぎで生じた粒子対の一方がBHに落ち込むことで、他方の粒子がエネルギを得て、外部に放射される現象です。ホ-キング博士は放射粒子のエネルギ分布が、表面重力を温度とする黒体放射になることを計算で示しました。またBHの表面積(=シュバルトシルツ半径の球の表面積)がエントロピに対応し、表面積は減少しないことを示しました。つまりBHは合体することはあっても、分裂しないのです。

銀河が重力で引き合い、衝突し、BHが合体すると、最後には巨大なBHが形成されます。ホーキング放射による蒸発速度はBH質量に反比例します。そのため巨大なBHの寿命はとてつもなく長いのです。谷口氏の計算ではBHは10の102乗年という、陽子の寿命をも超える寿命をもっています。講演で谷口氏は、BHはこの宇宙が存在していたことを知らしめる役割を担うであろう、と述べました。

講義では触れませんでしたが、私の興味はガスがBHに吸い込まれる理由でした。BHの周囲を回転しているガスは、重力と遠心力が釣り合っているために、容易にはBHに吸い込まれないはずです。しかし円盤状の銀河には垂直に磁場が形成されており、ガスの電離した荷電粒子同士が磁力線で結び付けられ、引き留められるために、エネルギを失い落ち込むのです。強力な吸い込み機構があるために、宇宙ができてたった7憶年でクエ-サができたのですね。これまで銀河に磁場があるなんて、思いもしませんでした。

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