新型コロナウィルスのPCR検査の検出感度は70%程度だと言われるのはどうしてでしょうか?

PCRのような最先端の遺伝子分析機器の感度が70%というのは考えられないことです。PCR測定の精度は高くても、検体の採取量、採取時の汚染、保管温度、保管時間、RNA精製や測定装置による汚染など、種々の条件によって、測定精度が低下することはあります。こうした前工程の影響を考慮してもPCR検査自体の感度は95%程度はあるはずです。しかし陽性率10%の場合、PCR測定の感度が95%あっても、陽性的中率は68%にしかなりません。医者が新型コロナウィルスのPCR検査の検出感度は70%程度だと言うのはそういう理由だと思われます。陽性率5%以下の場合、PCR測定の感度が95%あっても、陽性的中率は50%以下になってしまいます。つまり入院患者の過半数が非感染者になります。

PCR検査が有効になるのは、陽性率が10%を超えた感染状況の場合です。保健所が、感染者数が少ない初期の状況でPCR検査数を増やしたがらないのは、現行のPCRの精度では陽性的中率が低く、短期間に病床を2倍以上用意するのが困難であり、医療関係者の負担が増えるからなのです。抗原検査キットの陰性感度は98%以上あると言われています。もしそうならば感染拡大の初期段階では高感度の抗原検査キットを使って、感染の有無を確かめるのが有効です。こういう話をきちんと国民に説明するのが感染研究所、保健所、メディアの責任ではないかと思います。

陽性的中率という言葉をご存じでしょうか?

陽性的中率とは、検査を受けて陽性と判定された人の内、本当に陽性である人の割合です。検査数1000人で陽性率10%の事例を考えてみましょう。陽性者は100人、陰性者は900人います。陽性感度90%、陰性感度90%の検査の場合に陽性的中率を計算しましょう。陽性感度90%ということは、陽性者100人の内、陽性判定を受ける人は90人だという事です。残りの10人は偽陰性者、つまり陽性なのに陰性判定を受けた人、となります。ややこしいですね。ちなみに陰性感度は専門的には特異度と呼ばれます。

陰性感度90%ということは、陰性者900人の内、陰性判定を受ける人は810人いるということです。残りの90人は偽陽性者、つまり陰性なのに陽性判定を受けた人、となります。下表を見て下さい。ピンク色が陽性者、水色が陰性者を表しています。

陽性判定を受けた人は、真の陽性者90人と偽陽性者90人の合計180人となります。陽性判定率は0.18(=180人/1000人)となり、真の陽性率0.10より大きくなります。陽性的中率は0.50(=真の陽性者90人/陽性判定者180人)となります。入院患者の半分はコロナウイルスに感染していないことになります。

 陽性感度95%、陰性感度95%の場合では、陽性的中率は0.68(=真の陽性者95人/陽性判定者140人)となります。10人の患者さんの内、感染していない3人が病床を占有してしまいます。陽性的中率が低い原因は、元々陰性者が多いので、陽性判定される陰性者が大量にでてしまうためなのです。陽性的中率を上げるのは、陰性感度をあげなければなりません。ちなみに陽性感度95%、陰性感度70%の場合、陽性的中率は0.26となります。陽性判定者4人の内、3人は陰性者になってしまいます。陰性感度が98%になれば、陽性的中率は0.83となります。

検査数1000人で陽性率5%の感染初期の事例を考えてみましょう。陽性感度95%、陰性感度95%の場合でも、陽性的中率は0.50になってしまいます。

 下図に陰性感度が0.95と0.98の場合の陽性的中率の陽性率依存性を示します。陽性感度は95%としました。感染初期の陽性率が5%以下の状態では陽性的中率は低く、陽性率に比例して増加します。陽性率が10%を超えると陽性率は70%~80%になります。PCR検査が有効になるのは、陽性率が10%を超えた感染状況の場合です。陽性感度が98%を保証できるのであれば、陽性率5%でも70%に近い陽性的中率が得られます。