フルボ酸鉄でアサリ再生

「森は海の恋人」という本があります。筆者は気仙沼湾の牡蠣漁師の畠山重篤さんです。畠山さんは、海の生物に栄養を供給している森の重要性に気づき、気仙沼に注ぎ込む大川流域の森林形成に尽力してしました。彼は講演会で、広葉樹の葉から生じたフルボ酸が岩から鉄を溶かし込むこと、フルボ酸鉄は川で運ばれ、海藻や貝を育むことを説明していました。

沈没船の周囲に海藻や魚が多いのは鉄が供給されるからだと言われています。しかし通常鉄は海水で酸化され沈殿してしまうので、海藻は鉄を利用できません。フルボ酸鉄は水溶性の2価の鉄Fe2+を供給するので、珪藻は鉄を吸収できます。鉄は珪藻細胞の呼吸系に必要なシトクロムの原料になります。海藻には川からくるフルボ酸鉄が必要であり、海藻を食する貝類や、海藻を住処とする魚を育てます。

 ダムは、飲料水や産業水や電力確保のために建設されますが、森から供給される栄養を堰き止めてしまうため、下流の海は生き物の少ない海になってしまいます。不必要なダムは撤去しなければなりません。しかもダムの底には泥が溜まり、ダムの保水量は低下しています。日本の汚泥の蓄積量は15億m3、廃棄処理費用は14兆円以上と見積もられています。ダムの底泥を安易に山に引き上げると、大雨で流れて大規模な土砂崩れを引き起こしてしまいます。底泥の処理は頭の痛い問題です。

 ダム底泥には有機栄養物とフルボ酸が豊富に含まれています。佐賀大学の兒玉宏樹教授らは、底泥からフルボ酸を取り出し、フルボ酸鉄を用いて海藻の養殖に取り組んでいます。福岡大学の渡辺亮一教授は、木屑と下水汚泥(または食品廃棄物)の発酵処理品と水処理剤として使用されているシリカ・鉄水溶液を混合し、2次発酵させ、安価なフルボ酸鉄シリカのペレット資材を開発しました(特開2018-143907 )。シリカは珪藻にケイ素を供給するために含まれています。そのペレット資材を袋に詰めて海のヘドロの干潟に設置したところ、珪藻が増え、それを食するアサリが顕著に増加し、ヘドロが分解することが確かめられました。

アサリは、濾過摂食者であり、成貝の濾水量は1個体で10L/日と多く、水質浄化と漁獲回復の双方を狙った干潟再生が期待されています。アサリの収量はかつての20万トンから1.4万トンに減少しています。