呼吸は細胞内でどのように行われているのでしょうか?

呼吸は細胞内の細胞小器官であるミトコンドリアで行われています。1個の肝細胞に500~1000個のミトコンドリアが含まれ、細胞容積の15~20%を占めています。ミトコンドリアは活発に移動し、分裂と融合を繰り返しています。

ミトコンドリアは1μm程度の繭のような形をしており、多くの襞(ひだ:クリステ)をもつ内膜とそれを囲む外膜からなります。外膜には孔が多く、ATP、NAD、CoAなどの物質が出入りします。内膜は透過性が低いですが、酸素などの中性の分子は内膜を透過します。内膜には呼吸鎖など100種類以上の膜タンパク質が埋まっています。内膜の表面積は外膜の5倍です。内膜の脂質はコレステロ-ルが少ないため流動性に富んでいます。内膜の内側はマトリックス、内膜と外膜の間は膜間腔と呼ばれています。マトリクスには高濃度のタンパク質が含まれており、DNAやリボソ-ム、クエン酸回路、β酸化、尿素回路などの代謝系があります。ミトコンドリアはピルビン酸と酸素を取り入れて、ATPと水を生産します。ピルビン酸はグルコ-ス(糖)が解糖系で分解された栄養物です。細胞はATPをエネルギ源に使って、糖の合成など様々な代謝反応を行います。

呼吸鎖(respiratory chain)は、クエン酸回路でつくられたNADHやFADH2を使って、ATPを大量合成するシステムです。電子がクリステの内膜にある4つの複合体を通過すると、複合体がマトリクスのプロトン(H+)を膜間腔に汲み上げます。膜間腔に溜まったH+が内膜にあるATP合成酵素を通過してマトリクスに放出される際に、マトリクス内でADPがATPに変換されます。マトリクスはpH8で、膜間腔はpH7(中性)なので、マトリクス内のH+濃度は膜間腔の1/10程度になっています。内膜に生じた電位差と拡散濃度差のエネルギでATPが合成されます。合成の駆動力の80%は電位差によるものです。

ミトコンドリアのH+駆動力pmf(proton motive force)は、膜電位Δψ=160mV、

  • pmf=Δψ-2.303RT・ΔpH/F
  • =Δψ-2.303・8.314[J/mol K]・310K・(-1)/96.491[J/mol mV]
  • =160+62=222mV

一方、葉緑体は、幅2~4μm、長さが5~10μmと大きく、ミトコンドリアより大きい環状のDNAがあります。光合成系はチラコイドという内膜で囲まれた空間で行われます。光のエネルギを使って、チラコイド内腔にある水を酸素とH+と電子に分解します。電子がシトクロム複合体を通過するときに、H+がチラコイド内腔に放出されます。チラコイド内腔の溜まったH+がストロマに放出されるときに、ストロマでATPが合成されます。呼吸鎖とはH+を溜める場所が逆になっています。チラコイド内腔のH+濃度はストロマの1000倍です。合成の駆動力は主に濃度差によるものです。

  • Pmf=30mV(電位差)+120mV(濃度差)=150mV

NADHはニコチンアミドアデニンジヌクレオチド (nicotinamide adenine dinucleotide) の略称です。NADHは、全ての真核生物と多くの古細菌、真正細菌で用いられる電子伝達体です。さまざまな脱水素酵素の補酵素として機能し、酸化型 (NAD+) および還元型 (NADH) の2つの状態があります。

FADはフラビンアデニンジヌクレオチド(flavin adenine dinucleotide)の略称です。真核生物の代謝でのFADの一次供給源はクエン酸回路とβ酸化です。クエン酸回路では、FADはコハク酸をフマル酸に酸化するコハク酸デヒドロゲナーゼのエネルギ源となっています。一方、β酸化ではアシルCoAデヒドロゲナーゼの酵素反応の補酵素として機能します。

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