『千と千尋の神隠し』の主題歌「いつでも何度でも」について

堺正章さんが司会を務めているテレビ番組「カラオケバトル」で歌手の木村弓さんが『千と千尋の神隠し』の主題歌「いつでも何度でも」を歌いました。木村弓さんはこの歌の作曲者でもあります。この歌を聞くと心が浄化されるような思いがします。子ども向けの映画ソングにしては、歌詞がとても難解だと思いました。

この歌は木村弓さんが覚和歌子さんに自分が作曲した曲に歌詞をつけてもらって完成したそうです。ところが木村弓さんは歌い出し部分の
「呼んでいる 胸のどこか奥で いつも心踊る 夢を見たい」
「呼んでいる 胸のどこか奥で いつも何度でも 夢を描こう」
だけ自分で作詞して、後の歌詞の作成を覚和歌子さんに依頼したようです。最初の歌詞は、「失敗を乗り越え、いつも何度でも自分の夢に挑戦しようという自分の心の声に気づこう」というメッセ-ジです。後の歌詞は、最初の歌詞のメッセ-ジを引き継ぎながら、内容を深めさせています。

 覚さんは、自分の心の声に気づくには、「ゼロになるからだ」が必要だと考えています。「ゼロになるからだ」とは、おそらく「思考がゼロになり、ありのままの感覚を受け入れたいわば瞑想状態の身体」だと考えられます。大きな過ちや悲しみ出会った時には、考え疲れて、あるいは呆然として思考が止まり、ありのままの感覚が受け入れられるようになることがあります。「ゼロになるからだ」によって、人は大きな過ちや悲しみを乗り越えてきたのかもしれません。世界の光がゼロになった自分に差し込むことを体験することで、輝くものは私自身の中にあったと気づいて、外に探し求める過ちをしなくなったと歌詞には書かれています。

「いつでも何度でも」の歌は、元来「煙突描きのリン」の主題歌になるはずだったのですが、宮崎駿監督の裁量で「千と千尋の神隠し」のエンディングの歌になったようです。

「煙突描きのリン」の原案は「霧の向こうの不思議な町」という童話だそうです。リンというのはその童話の20歳の女性主人公です。大阪からやってきたリンが東京の風呂屋に住み込み、煙突に絵を描くという話です。リンは「千と千尋の神隠し」の「油屋」で働く千尋の先輩として登場します。おそらく主人公を低年齢化することで、映画の客層を拡大したかったのでしょう。ちなみに覚さんは山梨県のご出身で、甲府市にある近所の甲斐清和高校の校歌「太陽の旅路」を作詞されています。

「いつでも何度でも」~『千と千尋の神隠し』の主題歌
作曲:木村弓 作詞:覚和歌子

呼んでいる 胸のどこか奥で
いつも心踊る 夢を見たい

私の胸のどこか奥で誰かが私に「いつも心踊る夢を見たい」と呼びかけている。

悲しみは 数えきれないけれど
その向こうできっと あなたに会える

悲しみは数えきれないほどあるけれど、悲しみの向こうできっと新しいあなたに会える。

繰り返すあやまちの そのたびひとは
ただ青い空の 青さを知る

過ちを繰り返す度に人はただ青空の青さの様なありのままの姿に気づかされる。

果てしなく 道は続いて見えるけれど
この両手は 光を抱ける

過ちから立ち上がる道は果てしなく続いているように見えるけれど、そんな時でもこの両手はいつでも平安の光を抱ける。

さよならのときの 静かな胸
ゼロになるからだが 耳をすませる

過ちの人生に別れを告げた静かな心で、思考から自由になった身体が聴覚に目覚めている。

生きている不思議 死んでいく不思議
花も風も街も みんなおなじ

花も風も街もみんな生きている不思議と死んでいく不思議を感じている。

ラララララララララ・・・・・・・・・
ホホホホルルルル・・・・・・・・

呼んでいる 胸のどこか奥で
いつも何度でも 夢を描こう

私の胸のどこか奥で、誰かが私に「いつも何度でも夢を描こう」と呼びかける。

悲しみの数を 言い尽くすより
同じくちびるで そっとうたおう

悲しみの数を言い尽くすより、同じ唇で自分のためにそっと歌おう。

閉じていく思い出の そのなかにいつも
忘れたくない ささやきを聞く

悲しい思い出を忘れようとする時に、いつも忘れたくない大事な囁きを聞くことができる。

こなごなに砕かれた 鏡の上にも
新しい景色が 映される

それは、粉々に砕かれた鏡の上にも新しい景色が映されるように、どんなに悲しみに打ち砕かれたとしても必ず新しい人生が始まる、という囁きだ。

はじまりの朝の 静かな窓
ゼロになるからだ 充たされてゆけ

新しい景色の始まりの朝に光が差し込む静かな窓のように、思考がゼロになりありのまま感覚を受け入れた身体は平安の光に満たされてゆく。

海の彼方には もう探さない
輝くものは いつもここに
わたしのなかに 見つけられたから

輝くものはいつもわたしのなかに見つけられたから、海の彼方に理想の自分を探しにいく必要はもうない。

パレ-トの法則をご存じでしょうか?

質問です。やる気のある人とない人が世の中にはいます。これが互いに迷惑を掛け合っている原因ですか?何故、同じ人間なのに分かれてるのでしょうか?(ayaさんより2020/4/5)

 大変よい質問です。やる気のある人とない人がどういう割合で世の中にいるのか分かっています。パレ-トの法則をご存じでしょうか?パレートの法則とは、イタリアの経済学者ヴィルフレド・パレート氏が発見した冪乗則のことです。

 例えば全世界の富の80%は20%の金持ちが所有している、会社の売上の8割は従業員の2割が生み出している、あるいは仕事の成果の8割は、費やした時間の2割の時間が生み出している、といった法則です。聞いたことはありませんか?

 横軸に所有財産、縦軸に人数をとり、所有財産の分布図を書くことができます。金持ちになるほど人数は減っていきます。xを所有財産とすると、金持ちの人数は1/x^αに比例して減少します。べき指数αは問題によって変わりますが一定の値です。α=log45 ≈ 1.16とすると、80%-20%の法則が得られます。

つまり大部分の人は貧乏で、金持ちは一部の人なのです。金持ちだけ取り出しても、その中の20%の人はすごくお金持ちなのです。やる気は会社の売り上げだと考えればいいのです。横軸にやる気、縦軸に人数をとり、やる気の分布図を書くと同様のパレ-ト分布が得られます。やる気のある人は20%しかいないのです。

 何故パレ-ト分布になるかは、今でも研究されています。一説には、全員がやる気をだすと、環境が激変したときに、社会が崩壊するかもしれないからです。例えばコロナウイルスが流行した環境下では、全員がやる気を出してお客さんに接触すると、全員が感染して、会社は崩壊します。実際は20%のやる気のある人が感染して退去しても、80%のやる気のない人が自宅で仕事を継続するので、会社は生き残れるのです。

 一見やる気のない人がやる気のある人に迷惑をかけているように見えるのですが、緊急事態では、体力を温存していたやる気のない人たちが活躍するのです。といっても活躍するのはその中の20%の人だけです。迷惑をかけあっているのではなく、長期的に見て、助け合っているのです。やる気のない人が発生するのは、今の環境条件が決めているのです。人間に限らず、やる気のある働きアリも20%しかいません。つまり80%の人がやる気のない社会が、進化論的に生き残りやすいのです。だからやる気が出なくても自分や他人を無理に責める必要はないのです。

 実は割れた窓ガラスの破片の大きさの分布や地震の頻度分布はきれいなパレ-ト分布になることが知られています。大きな地震は発生頻度が少ないのです。ガラスの破片を顕微鏡で拡大してみても、その分布は変わらないのです。そういう現象はスケ-ルフリ-現象と言われます。つまり現象の分布が拡大スケ-ルに依存しないということです。地震も岩盤という窓ガラスの崩壊現象だから、窓ガラスと同じ法則に従うのでしょう。所得や崩壊の分布がパレ-ト分布になるのは、両者が保存する富やエネルギの分配に関わるからなのかもしれません。

 学校の入学試験の点数の分布は左右対称のガウス分布をしています。そうなるようにテストを作っているのです。しかし世の中の重要な分布は、ガウス分布ではなく、パレ-ト分布なのです。中央値は順位が中央の人の点数値です。ガウス分布では中央値は平均値と一致しますが、パレ-ト分布では中央値は平均値のずっと下です。順位が真ん中だからといって喜んではいられないということです。

 将来の地震の規模や貧富の差は、ガウス分布で考えるより、ずっと大きいのです。貧乏人はそれに気づかないので、大災害に備えず、金持ちは妬まれずに安心しているのです。80%の人たちがどんな現象もガウス分布だと甘く見ているのは、パレ-トの法則なのかもしれません。

キサゴ-タミ-のお話し

誰でも一度くらいはキサゴ-タミ-の法話を聴いたことがあるでしょう。昔のインドでは家に実の生る芥子(ケシ)の木が植わっているような家は比較的裕福で数世代続いている家でした。キサゴータミーは釈尊が芥子の粒から子供を生き返らせる薬を作ってくれると思っていたのでしょう。

 裕福な家の若い娘であったキサゴ-タミ-は、息子が幼くして死んだので気が狂い、冷たい骸を抱いて巷に出、子供の病を治すものはいないかと尋ね廻った。この狂った女をどうすることもできず、町の人々はただ哀れげに見送るだけであったが、釈尊の信者がこれを見かねて、その女に祇園精舎の釈尊のもとに行くように勧めた。
 彼女は早速、釈尊のもとに子供を抱いて行った。釈尊は静かにその様子を見て「女よ。この子の病を治すには芥子の実がいる。街に出て四、五粒もらってくるがよい。しかしその芥子の実は、まだ一度も死者のでない家からもらってこなければならない」と言われた。

 狂った母は、町に出て芥子の実を求めた。芥子の実は得やすかったけれども、死人の出ない家はどこにも求めることはできなかった。ついに求める芥子の実を得ることができず、仏のもとに戻ってきた。彼女は釈尊の静かな姿に接し、初めて釈尊のことばの意味を悟り、夢から覚めたように気がつき、我が子の冷たい骸を墓所に置き、釈尊のもとに帰ってきて弟子となった。(仏教聖典 第四章・煩悩、第三節・現実の人生より)

この法話には仏陀の教えである苦・集・滅・道の四聖諦が説かれています。

・人は酷く悩み苦しむことがある。(苦)
・苦しみの原因は無常なる現実を受け入れられないことにある。(集)
・無常なる現実を受け入れることで、苦しみはなくなる。(滅)
・無常なる現実は自分の努力で知らなくてはならない。(道)

世界は無知な人間の行為による現象ですから、どんな理不尽なことも起こり得ます。私たちは理不尽な行為に怒り悲しみを感じます。怒りや悲しみは思考によって引き起こされます。しかし自分の思考に囚われていると、理不尽な現実を受け入れることができません。そのために悩み苦しみは強くなってしまいます。キサゴ-タミ-は釈尊のおかげで、自分勝手な思考への囚われに気づき、子どもの死というありのままの現実を受け入れることで、心の落ち着きを取り戻しました。

この法話には
・私だけでなくすべての人が苦しみながら生きている。
・人は悩み苦しみを仏縁として、人生を生きなおすことができる。
という慈悲喜捨に通じる教えも含まれています。

 瞑想では呼吸の入出や腹の膨縮などの心身に生じる現象をありのままに感じ念じます。初心者が瞑想すると、心身を感じることを忘れてしまい、心配事に関する様々な思考に耽ってしまいます。これは思考に囚われた状態です。思考に気づいたら、思考を止めて観察に戻ります。忍耐強い集中と観察によって、思考に囚われない清らかな心を育てます。
 呼吸の観察は面白みのない退屈な作業ですが、退屈だというのは思考によって生じる判断です。一つ一つの呼吸は、同じものは一つもなく、初めての体験なのです。思考がなければ、呼吸の観察は退屈なものではなくなります。退屈だからやりたくないと思うのは思考に囚われた状態なのです。思考が無くなれば、ありのままの呼吸現象だけが残ります。

仏教では苦しみをどう解決するのでしょうか?

仏陀は弟子たちに心を鍛え清らかにすることで悩み苦しみを超越する生き方を教えました。四諦の2番目の集諦(じったい)とは、怒り苦しみには原因があるという真理です。苦しみの原因を考えてみましょう。どうして怒りが生まれるのでしょうか?それは、私たちが苦しみを善悪で裁いてしまうからです。私たちは「これは悪いことだ」と判断するから、怒るのです。私たちは思考によって、「これは良い」、「これは悪い」と裁いています。つまり怒りの苦しみの原因は執着(固定観念)に起因する反応的な思考なのです。この世はどんなことも起こり得るのです。「これは悪いことだ」「これはあってはならない」という反応的な思考判断は、どんなに正しく見えても、事実ではなく意見であり、酷ければ思い込みに過ぎません。

 3番目の滅諦とは、執着がなくなれば、怒り苦しみが消滅するという真理です。どうすれば執着はなくなるのでしょうか?それは瞑想つまりありのままの観察が執着を無くさせると説かれています。例えば「自分は苦しんでいる」と自分の心のあり様をありのままに観察して、善悪の思考判断に囚われなくなれば、怒りの感情は沸きません。大脳による観察がないときには、古い脳の感情的な反応に刺激されて、善悪の思考判断が生じて、怒りが生じます。思考は生じた怒りを正当化し、事態を悪化させます。余程の緊急事態でなければ、怒って当然ということはありません。私たちは大抵、些細なことに腹を立てているのです。怒りに任せた無理な行為が新たな苦しみを引き起こします。

 同様に「これは嘘だ」と判断すれば、疑いの心が大きくなり、「私は劣っている」と判断すれば、劣等感が生じます。「これは良い」「これは美味しい」と判断すれば、もっと欲しいという欲望が大きくなってしまいます。「これは素晴らしい」と判断すれば、理想に執着することになります。肯定も否定も価値判断を伴う思考は固定観念となり、執着を生じさせてしまうのです。だから仏教徒は自分の考えを本気にしません。

 仏陀の瞑想は有念無想の訓練です。例え思考が生じたとしても。直ちに「価値判断をした」「善悪を裁いた」「正誤を考えた」と気づき、客観的にありのままの心を念じることができれば、思考が断たれ、執着が生じません。食事をしていても、急いで食べて「これは美味しい」と価値判断せずに、よく味わって「味がする」とだけ念じます。仏陀は、いかなる苦しみに出会っても、肯定も否定もせずに思考を超越し、ありのままの心身の変化に気づき、念じることで無用な苦しみを避け、心を安定かつ清浄に保つ瞑想法を完成させたのです。

 最後の道諦は、八正道の実践が苦の永遠の消滅に至る道であるという真理です。八正道は正見、正思惟、正語、正行、正業、正精進、正念、正定の8つです。正見というのは、心身は無常かつ無我なる生滅現象であるという仏陀の見解です。「我」「我所有」は最も執着を断ちがたい思考習慣です。仏陀は、無我の真理を知り、一切が現象であり、執着すべきものが無くなったとき、もう無用な苦しみに会うことはないと説かれました。

この世は不条理なことだけでなく、理不尽なことも起きるようにできています。しかしこの世を呪い、他人を憎んで生きることは、自分や家族を不幸にします。自分が幸福に生きるためには、すべての人の幸福を願って生きていくしかありません。自分だけでなく多くの人が理不尽な不幸に耐えて生きていることを知り、理不尽な出来事に感謝して瞑想を実践し、自分の弱い心を鍛え、清浄に保つ努力をするしかありません。よい仲間を持ち、正しい努力ができれば、それで幸福なのです。

仏教は苦しみをどう考えるのでしょうか?

仏陀の教えは四聖諦と八正道という教えにまとめられています。四聖諦の一番目は苦諦です。これは一切皆苦、すなわちすべての生命にとって生きることは苦しみであるという真理です。苦諦は人生には生老病死などの避けられない苦しみがあることだと理解されています。しかし苦諦とは、こうした人生の節目で出会う苦しみだけでなく、私たちの行動の全てが苦しみによって引き起こされている事実を意味しています。苦諦は、自分ではなかなか気づきにくい真理なので、少し具体的に説明をしましょう。

 私たちの行動にはどんな苦しみがあるでしょうか?例えば呼吸はどうでしょうか?息を吐くと苦しくなるので、息を吸います。息を吸い続けると苦しくなるので息を吐きます。呼吸は苦しみから苦しみへの繰り返しであることが分かります。

 飲食はどうでしょうか?腹が空けば苦しいので食べますが、食べ過ぎると苦しくなります。喉が渇けば苦しいので水を飲みますが、飲み続けると苦しくなります。下痢も苦しみですが、便秘も苦しみです。睡眠はどうでしょうか?眠くなると起きているのが苦しくなるので寝ますが、いつまでも寝ていることも苦しいのです。立ち続けていると苦しいので座りますが、座り続けていると苦しいので立ちます。走り続けることも、じっと動かないことも苦しいのです。退屈すると苦しいのでテレビをつけますが、テレビを見続けていると苦しくなります。勉強するのは苦しみだし、勉強しないのも苦しみです。結婚するのも苦しみだし、離婚するのも苦しみです。遊園地で遊んでいる時にも、ジェットコ-スタ-に並ぶ苦しみや乗る苦しみ、お金を払う苦しみはあるのです。瞑想者は自分がずっと苦しみに苛まれていることに気づいていきます。


私たちは慣れてしまって気づきませんが、私たちの全ての行動は苦しみから苦しみへの運動なのです。もし苦しみがなければ、私たちは行動できなくなってしまいます。こうした苦しみは、全ての生命に現れる、生きるために必要な苦しみです。言い換えれば、こうした苦しみは全ての生命体の生きる力になっています。生きるのに必要な苦しみには思考はありません。

 私たちはこうした小さな苦しみに絶えずチクチクと苛まれているので、大きな苦しみに出会ったときに、それをありのままに受けとめられず、「どうして無実の私にこんな悪いことが生じてしまったのだ」と怒りを爆発させてしまいます。そして怒りがさらなる苦しみを招くのです。

心理学は苦しみをどう考えるのでしょうか?

 心理学は人間の行動を理解して悩み苦しみを解決するための学問です。心理学では、人間の悩み苦しみは対人関係に起因すると考えます。なぜなら私たちの理想は、家族などの共同体に自分の居場所があることだからです。例えば私たちが死を恐れるのは、自分が親しい人々と永遠に別れたくないと考えるからです。私たちは、理想の居場所を作れないと思い込む劣等感や、理想の居場所を守ろうとする優越感に惑わされ、苦しみます。このように人間の悩み苦しみには劣等感や優越感が関わっています。劣等感は個人的な苦しみ、優越感は対人的な苦しみを生じさせます。

 劣等感とは、現実の自分が理想の自分より劣っているという思いです。劣等感の克服には、自己受容すなわち理想の自分に執着せず、現実のありのままの自分を受け入れることが必要です。自分の現実も理想も自分が意味づけた概念なので、肯定的な表現に変えることができます。現実の自分にも他者に役立つ長所があることなどに注目します。自分が安心していられる居場所を得るためには、他者は信頼できる仲間であり、私は仲間の役に立つ能力があると感じられることが重要です。自分は特別でなくても共同体に所属できると信じる勇気も必要です。
 劣等コンプレックスとは、自分の劣等感を口実にして人生の課題の解決を避けることです。それによって苦しみから抜け出せなくなります。苦しみは課題を避けるために支払う代償であるとも言えます。例えば、引きこもりで苦しむことは登校を避けるための代償だと考えられます。

 対人的には、人間の悩み苦しみには優越感が関わっています。優越感とは、自分が他者より優れているという思いです。優越コンプレックスとは、自分の優越感により他者を支配することです。自分を実際以上に優れた人物であると見せること、相手に見下されないようにすること、自分の弱さを誇示して特別扱いさせることなどは、すべて優越コンプレックスです。人間は誕生時に無力なので優越コンプレックスを使って成長します。だから子供には共同体の一員として貢献する幸福な生き方に感謝を示し、勇気づけなければなりません。育児が適切でないと虚栄心の強い大人になってしまいます。結局、優越コンプレックスは社会的な差別や支配を生じさせ、私たちに苦しみを与えます。

マイナス感情との決別

・人間はなぜ悩み苦しむのでしょうか?
 人間には動物的な古い脳と理性的な大脳があります。古い脳は、基本的に内臓の管理をしていますが、快不快の信号を大脳に送り、危険な環境で大脳が適切な行動を学習する手助けもしています。凡人は理性的な大脳の力が弱く、快不快に支配されて行動しています。凡人の大脳は、古い脳から絶えず生存欲を刺激された結果、「私は生きていたい」「私は死にたくない」という生存欲が強くなっています。個人的な見解は生存欲から生じるので、凡人は自分の見解に執着するのです。私たちは自分の見解の目的を達成するために貪瞋痴のマイナス感情を発生させて行為します。マイナス感情に基づく行為は必ず対立的な人間関係を作り出すので、私たちは悩み苦しむのです。生存欲は理性的ではないので、凡人の大脳はいつも疲れており、学習能力が低下しています。凡人は「私は生きていたい」「私は死にたくない」と願う気持ちに深刻な問題があるとは一生気づきません。

・仏陀の勧めた瞑想とはどんな修行法でしょうか?
 仏陀は心を強く清らかに保てば、人間は生存欲を滅し、苦しみを克服できることに気づきました。その方法とは瞑想です。仏陀が勧めた瞑想とは、思考を止めた状態で心身に生じるありのままの現象を観察し続ける方法です。現代風に言えば、瞑想とは大脳に質の高い観察デ-タを連続的に入力する行為です。心身に生じた一つの感覚に注目し、何の感覚かを認識することで質の高い観察デ-タになります。思考を止めるのは、生存欲に起因している思考によって凡人の心は誘惑に弱く汚れているからです。

 凡人は、私の心身が存在するから、「私」が存在すると錯覚しています。瞑想者は「私」は言葉だけの存在で、観察できないことを悟ります。例えばこの身体は、いわば「私の体」であり、「私」ではありません。この精神は、いわば「私の心」であり、「私」ではありません。この身体が生きている現象や、この心が死にたくないと願っている現象は存在します。この身体やこの心は現象なので執着できません。だから苦しみを起こしません。一方「私」あるいは「私の体」や「私の心」は現象として存在していません。現象として存在していない概念や見解には執着できます。だから苦しみを起こします。

 苦しみから解放されるには、マイナス感情と決別しなければなりません。そのためには自己の価値判断や見解に対する感情的な執着を捨てなければなりません。これは大変な勇気が要ることです。凡人は自分一人が苦労してマイナス感情と決別しようとは思いません。仏陀は弟子たちに仲間と一緒に助け合って成し遂げなさいと指導しました。

糖1分子で生産できるATP数はいくつでしょうか?

結局NADHを電子伝達系で用いる場合には、合計10H+がマトリクスから膜間腔へ輸送されます。FADH2の場合は合計6H+が膜間腔へ輸送されます。膜間腔のH+濃度と電位が高くなっているので、ミトコンドリア内膜を挟んだプロトン駆動力を利用してATP合成酵素がATPを合成します。

ATP合成酵素はF0サブユニットとF1サブユニットによる分子モ-タとして機能します。F0はミトコンドリア内膜に埋まっていて、F1はミトコンドリア・マトリクスに突き出た形で存在しています。F0モーターがH+の濃度勾配によるエネルギを使ってF1モーターを回すことによって、ATPを産生しています。3分子のH+がマトリクスへと輸送されるごとにATP1分子が合成されます。

しかし、実際にマトリクスにおいてATPを合成するためには、ATP合成の材料となるADPやリン酸Piをマトリクス内に取り込む必要があります。また、合成されたATPの大部分は細胞質で利用されるため、マトリクスから細胞質へと輸送される必要があります。

内膜を隔てたATP、ADP、Piの輸送
ミトコンドリア内膜を隔てたATP、ADP、 Piの輸送はアデニン・ヌクレオチド・トランスロカーゼとリン酸輸送体という2つの膜タンパク質によって行われています。アデニン・ヌクレオチド・トランスロカーゼは、ATP-ADP交換タンパク質のことで、細胞質のADP3-をミトコンドリア内へ、ミトコンドリア内のATP4-を細胞質へと対向輸送しています。この対向輸送では、プロトン勾配の電荷の差が用いられています。

リン酸輸送体は、細胞質のPiをミトコンドリア内へと輸送するときにH+も同時にミトコンドリア内へと共輸送します。この共輸送ではH+の濃度差が用いられています。ちなみに、対向輸送とは、膜の内外で異なる物質を相互に逆方向に移動させる輸送のことで、共輸送とは、膜の片側から異なる物質を同方向に移動させる輸送のことをいいます。

ミトコンドリアの外にATPを輸送し、マトリクスにADPを供給するためには、H+1個分のプロトン駆動力が用いられていました。ATP合成酵素は3H+で1個のATPを産出するので、細胞質内でATPを1分子増やすためには、4個分のH +が膜間腔からマトリクスに流入する必要があります。この数はNADHやFADH2が1分子あたりでどれくらいのATPを産生するかの指標となります。

細胞質内のATPを1分子増やすためには、4個分のH +が膜間腔からマトリクスに流入するということを踏まえると、NADH1分子あたり
・10[H+]/4[H+/ATP]=2.5ATP
FADH21分子あたり
・6[H+]/4[H+/ATP]=1.5ATP
が合成されることになります。

好気呼吸では、1分子のグルコースが「解糖系→ピルビン酸のアセチルCoAへの変換→クエン酸回路」という経路でATPやNADH、FADH2を生成していました。解糖の過程で2分子のATPと2分子のNADH、2ピルビン酸→2アセチルCoAの過程で2分子のNADH、クエン酸回路の過程で2分子のATP(GTP)と6分子のNADHと2分子のFADH2が生成されます。

・4ATP+10NADH・2.5[ATP/NADH]+2FADH2・1.5[ATP/FADH2]=4+25+3=32ATP
結局1分子のグルコ-スは、嫌気的代謝では2分子のATPしか生成できませんが、好気的代謝では32分子ものATPを細胞外に生成できることが分かります。

細胞は糖を取り込み、ミトコンドリアで大量のATPを合成できることが分かりました。青森出身の安保先生によると、若い時は解糖系の瞬発力を主に使い、老年期になるとミトコンドリア系の持久力を主に使って活動するので、年齢ともに少食にしていった方が適正体重を保ちやすいそうです。

 

TCA回路と電子伝達系

解糖系では1分子のグルコ-スは2分子のピルビン酸を生成するので2分子のNADHを生成します。さらに1分子のピルビン酸は、細胞内のミトコンドリアに送られ、ミトコンドリアのマトリックス内のTCA(tricarboxylic acid cycle)回路で3分子のNADHを発生させます。ミトコンドリアは外膜、膜間腔(まくかんこう)、内膜、マトリックスの2重膜構造を有しています。細胞によっては100~3000個ものミトコンドリアが含まれています。

運動してミトコンドリアが増えると同じ呼吸量でもATPの生産効率が高まるので、楽に走れるようになります。運動前は空腹にしておいて、最初に筋肉トレ-ニングをして汗をかいて有酸素運動状態に入ってから30分歩くだけでミトコンドリアは増加します。サウナの後に水風呂に入るとミトコンドリアは増加します。週末の2日間は摂取カロリを30%減らすのが有効です。日本医科大学の太田成男教授によると1日2時間の運動を1週間続けるだけでミトコンドリアは30%増加すると言われています。

TCA回路ではATP を直接作るのではなく、NADHやFADH2を作ります。さらにNADHやFADH2が呼吸鎖系でミトコンドリア内膜に水素イオンH+の濃度勾配を形成することにより、ATPを産生します。TCA回路は糖代謝だけでなく、アミノ酸代謝、尿素回路、糖新生など多くの代謝経路の仲立ちをしています。

TCA回路の全体反応は
・CH3-CO-S-CoA+3NAD ++FAD+2H2O+GDP+H3PO4
 → S-CoA+2CO2+3NADH+FADH2++2H++GTP
です。

NADHとFADH2はミトコンドリア内膜に埋め込まれた4つのたんぱく質複合体と反応してNAD +とFADに戻り、その際にミトコンドリアのマトリックスから膜間腔にH+を放出します。NADHは、解糖系で2分子、ピルビン酸脱水素酵素で2分子、TCA回路で6分子、合わせて10分子のATPを発生します。複合体ⅠでNADHはFMN(フラビン・モノヌクレオチド)と反応し、FMNに水素を渡します。FMNH2はFeSクラスタを介して、CoQ(ユビキノン)に水素を渡します。
・NADH+H+ +FMN→ NAD++FMNH2
・CoQ+FMNH2→CoQH2+FMN
複合体Ⅱでは、コハク酸がフマル酸(2重結合あり)に変化するときには自由エネルギ変化が小さいのでFADが使われます。
・HOOC-CH2-CH2-COOH+FAD →HOOC-CH=CH-COOH+FADH2
この反応で膜間腔に放出されるH+はありません。FAD (=Flavin Adenine Dinucleotide) はフラビン・アデニン・ジヌクレオチドの略語で、酸化還元反応における補酵素の一種です。FADの酸化還元電位は -219 mV で NAD 系より100mV程高く、開放エネルギが少なくNAD が使えないような反応で脱水素することができます。FADH2ではFADの左上の環が3つ並んだ部分の2つの酸素の二重結合がOH基になります。FADはADPにC5系炭素鎖と3環系のキノンが結合した構造をしています。

複合体Ⅲが行う電子伝達はQサイクルと呼ばれます。この反応では、まず、2分子のユビキノール(CoQH2)がユビキノン(CoQ)に変換される過程で4Hを膜間腔へと放出します。
・2CoQH2→ 2CoQ+4H++2e+2e
・CoQ+2H++2e→CoQ H2
・Cyt(Fe3+)+2e-→Cyt(Fe2+)
なる反応が生じ、シトクロムcが還元されます。シトクロムcは膜間腔側にありヘム鉄(=鉄+ポルフィリン環)が含まれています。
複合体Ⅳは、シトクロムcオキシダーゼと呼ばれ、シトクロムc(Fe2+)を酸化して酸素を還元します。複合体 Ⅳが行う電子伝達の第一段階では、シトクロムc の電子がCuAに渡されます。その後、電子はヘムa→ヘムa3→CuBを経て、最終的に酸素(1/2O2)へと渡され、水(H2O)に変換されます。酸素分子の酸化還元電位は約 +810 mVであり、FAD よりはるかに電子を受け取りやすくなっています。
・Cyt(Fe2+)+2H++1/2O2 → Cyt(Fe3+)+H2O
このシトクロムcから酸素に電子が2個渡される過程で、2分子のHがマトリクスから膜間腔へと輸送されます。複合体Ⅳにはヘム鉄(ヘムa)が多く含まれていますので、青酸カリがこのヘム鉄に配位すると、電子伝達系を阻害して、窒息してしまいます。

生物の活動メカニズムについて

私たちは炭水化物を食べてエネルギ、すなわちATP(=Adenosine TriPhosphate)を生成して活動しています。1939年にEngelhardtらによって、筋収縮のタンパク質であるミオシンがATPを加水分解することが発見され、1942年にセント=ジェルジによってATPが筋収縮に関わるエネルギ源であることが解明されました。ATPはリボ-スの両側にアデニンと3リン酸が結合した構造をしています。

生体内では、ATPにリン酸1分子が離れたり結合したりすることで、エネルギの放出・貯蔵、あるいは物質の代謝・合成が行われています。ATPは加水分解によりエネルギを発生させます。酵素反応がATPの加水分解反応と共役することで、物質の代謝・合成が行われるのです。すべての真核生物がATPを直接利用しているため、ATPは生体のエネルギ通貨とも呼ばれています。
・ATP+H2O → ADP(アデノシン二リン酸)+ H3PO4(リン酸)
・ΔG°’ = −30.5 kJ/mol (=−7.3 kcal/mol) 標準自由エネルギ変化
細胞内では、ATP濃度はADPの10倍程高く、リン酸濃度も標準状態の1%以下であるため、細胞内の環境ではATPの加水分解に伴って放出される自由エネルギは−10〜−11 kcal/mol にもなります。

糖からATPはどのように産出されるのでしょうか?

炭水化物は胃腸で消化されて糖となります。糖は腸で吸収され血液と共に各細胞に送られ、細胞質内の解糖系で分解されてピルビン酸(CH3-CO-COOH)になります。嫌気的条件下ではピルビン酸は乳酸になります。好気的条件下ではピルビン酸は、CO2(=ピルビン酸のカルボキシル基に相当)を排出し、アセチル基(CH3CO-)になり、脱水素酵素においてNAD+を還元して、補酵素(HS-CoA)と不可逆的に反応し、
・CH3-CO-COOH+NAD+ → CH3-CO-S-CoA+CO2+NADH+H+
アセチルCoA(CH3-CO-S-CoA)を生成します。反応にはビタミンB1が必要です。これは不可逆反応なので、動物は脂肪酸から糖を合成できません。脊椎動物の細胞では糖から乳酸になるのは 4% 程度で、殆どは好気的にアセチルCoAを生成します。脂肪やたんぱく質も分解されてアセチル CoAとなってTCA 回路に入り、最終的に二酸化炭素 にまで酸化されます。過剰のアセチルCoAは中性脂肪を生成するため、アセチルCoAの代謝を抑制することで動脈硬化、高脂血症を防ぐことができます。アセチルCoAはADPに2つのペプチド結合を有する側鎖がついた構造をしています。

NAD (=Nicotinamide Adenine Dinucleotide) は ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド) と呼ばれる電子運搬体です。NADは2つのHを同時に引き抜き、自分がNADHになりつつ水素イオンH+を放出します。NADの酸化還元電位は‐320 mV と低く、異化代謝系で比較的大きなエネルギが解放される場合に、酵素反応に共役して脱水素反応を担います。NADはアデノシン・モノリン酸にニコチンアミド・リボ-ス・リン酸が酸素を介して結合した構造をしています。

血清(serum)と血漿(plasma)の違いは何でしょうか?

血清と血漿の違いは,全血から細胞成分を取り除いたものの中に凝固因子(フィブリノゲン)が含まれるかどうかにあります。フィブリノゲンとは、血液凝固因子の第Ⅰ因子で、血液凝固の最終段階でフィブリンという水に溶けない網状の線維素となり、血球や血小板が集まってできた血栓の隙間を埋めて、血液成分がそこから漏れ出さないようにしています。
血漿とは抗凝固剤を加えて遠心分離した上清み液で、凝固因子を含みます。抗凝固剤とは血液を凝固させない化合物です。血清は抗凝固剤を加えずに放置した上清み液で、凝固因子を含みません。血漿は凝固反応を起こしていない成分ですから、体内を流れていた時の状態を維持しています。血漿の場合は抗凝固剤に何を用いるかによって更に分類されます。

フィブリノゲンは肝機能検査としても用いられます。これはフィブリノゲンが肝臓で合成されているためで、肝硬変や肝臓がんで肝臓の合成能力が低下すると低値を示します。さらに感染症や急性心筋梗塞などの疑いがあるときにも行ないます。フィブリノゲンは、体内に炎症や組織の変性が生じると血液中に増加して高値を示します。フィブリノゲンが何らかの原因で増加すると、体のいろいろな場所で血栓ができやすくなります。

多種類の抗体はどのように作られるのでしょうか?

抗体は白血球のB細胞で作られ、おもに血液など体液中に存在します。リンパ球のB細胞が抗体を作ると同じ異物が再び侵入したとき、簡単に撃退できるようになります。これが免疫作用です。B細胞が作る抗体の種類は100億を超えます。抗体はすべてY字型の構造をしており、左右に開いた腕の先で抗原に結合します。抗体のアミノ酸の並び方は2万数千個の遺伝子によって決められています。2万数千の遺伝子から、100億の抗体をどうしたら作れるのかを解明したのが、利根川進教授です。

 抗体の腕のたんぱく質をコ-ドする遺伝子領域には、可変なVDJ遺伝子領域と固定領域Cがあります。VにはV1V2V3・・があります。成熟したB細胞のDNAには例えばV2D3J3Cという遺伝子配列が決定しています。この配列をRNAが読み取り、抗体のたんぱく質が合成されます。VDJの組み合わせの仕方が沢山あるので100億種類もの抗体を作ることができるのです。当時DNAに書き込まれた遺伝子情報は一生変わらないと考えられてきました。しかし、1976年に利根川博士は「B細胞だけは自らの抗体遺伝子を自在に組み替えて、無数の異物に対応する無数の抗体を作ることができる」ことを証明したのです。

抗凝固剤の種類と作用について

採血をされているとき、看護師が採血管を何本も使い、採血管の長さやふたの色が異なっていることに気づきます。採血管には、検査目的によって異なる種類の抗凝固剤が入っています。抗凝固剤が入っていない採血管はプレ-ン管と呼ばれ、生化学・内分泌・感染症・自己抗体・腫瘍マーカー検査などに用いられます。抗凝固剤にはヘパリン、EDTA、クエン酸、NaF解糖系阻害剤などがあります。

ヘパリンはトロンビン(Ⅱa因子)やXa因子等の活性型凝固因子の作用を抑制する抗凝固剤です。ヘパリンリチウムは生化学検査、主にNa・K・Clなどの電解質、血液pH、染色体分析、リンパ球培養やコレステロールなどの脂質を測定する検査で用いられます。

EDTAはエチレンジアミン四酢酸(ethylene diamine tetraacetic acid)という二価のイオンのキレ-ト吸着剤です。EDTAは、生化学検査を阻害するので、血球観察や血液学的検査つまり赤血球・白血球・血小板の数やヘモグロビン濃度を測定する検査で用いられます。EDTAを使うと、血液の凝固因子のひとつであるCa2+と非可逆的に結合し、血液が凝固しなくなります。
クエン酸ナトリウムは血液の凝固作用を検査するのに用いられます。クエン酸ナトリウムはCa2+と可逆的に結合します。検査時には血液とクエン酸の混合比を9:1に固定します。採血保管時は凝固系を止めた上で、後で凝固系の測定を行います。
NaFは血糖値の正確な測定に用いられます。NaFはCaを除去し、解糖系の最後のステップを担うエノラーゼを阻害し、グルコースの消費を止める作用があります

真空管採血の場合、1本目の採血管には針を刺した時に流出する組織液が混入し、凝固しやすくなります。そのため1本目には凝固しても構わない生化学に分注します。2本目以降はシリンジ採血と同じ順番になり、凝固しては困るものから順に採血します。また4〜5回の転倒混和も忘れずに行います。激しく振ると溶血してしまうので緩やかに振ります。

生化学(1本目)→凝固(2本目クエン酸)→電解質(3本目ヘパリン)→血算(4本目EDTA)→血糖(5本目NaF)→その他の抗凝固薬なしのプレーン管(6本目)の順番になります。血算とは血球算定検査の略語です。

血液検査は病気の有無の診断だけでなく、疾病の予防や栄養状態の改善にも役立てることができます。血液検査の結果を理解できるようになることは重要になってくると思います。

血液型の違いは何に起因するのでしょうか?

血液型は、赤血球の表面にある糖鎖の違いに起因します。O型の人は、ガラクト-スとNアセチルグルコサミンとカラクト-スの3個の糖がつながった糖鎖を持っています。A型の人はO型の3個の糖に加えてA型になる糖(Nアセチルガラクトサミン)を1個持っていて、B型の人はO型の糖に加えB型になる糖(ガラクト-ス)を1個持っています。つまりA型、B型のもとになっているのはO型です。AB型はA型とB型の糖鎖をそれぞれ持っています。

なぜ血液型が存在するのでしょうか?

 血液型が存在する理由は、21世紀になってからウイルスの蔓延を防ぐためだと考えられています。ウイルスは細胞外に出るときに細胞表面の糖鎖構造をまといます。これには各血液型の特徴が刻まれています。それがまた別の身体に侵入すると、異なる血液型の糖鎖構造がウイルスと一緒に身体に入ってくることになり、抗体が集中攻撃するので、感染し難くなるというのです。血液型の存在は、種の絶滅を回避するためのリスクヘッジになっています。

 

ABO型血液型を発見した人は誰でしょうか?

ABO型血液型を発見した人はオーストリアの病理学者カール・ラントシュタイナー(Karl Landsteiner, 1868年~ 1943年)博士です。ラントシュタイナーは1900年に血液の凝集実験を行い、ABO型血液型を発見しました。1922年にユダヤ人迫害を逃れるために渡米し、1930年に血清学および免疫化学への貢献によりノーベル医学・生理学賞を受賞しました。1940年には弟子のウィーナーとともに新たな赤血球抗原である「Rh抗原」を発見します。ユーロ導入以前の1000シリング紙幣には1997年以降、彼の肖像画が描かれていました。

ABO型血液型発見の経緯

1889年に北里柴三郎(1853-1931)は破傷風菌の純粋培養に成功し、翌年、ベーリングと共に破傷風菌の毒素を無力化する「抗体」を発見し、血清療法を確立しました。ラントシュタイナーが凝集実験を行ったのは、その抗原抗体反応がほぼ解明された時期にあたります。
ラントシュタイナーは、イギリスの病理学者シャタックの「肺炎患者の血球と別人の血清を混ぜていた際に凝集があった」という報告を聞いて、これが正しければ肺炎の診断に利用できないかと考え、追試を行いました。そこで自分を含む22人の健康な同僚の血液を血球と血清に分けて互いに混ぜ合わせる実験を行ったのです。当時は細菌学が全盛で、新しい細菌がしばしば発見されていました。血液の凝集が肺炎菌などの微生物によるものである可能性もありました。そこでまず健康な人の血液で実験を行い、赤血球と凝集反応を起こす抗体が別人の血清に含まれている可能性を調べたのです。

実験の結果、血液の凝集反応は健康な人同士でも起こりうる生理的現象であり、肺炎診断には使えないことが分かりました。しかし凝結には規則性があり、そのパタ-ンはA型とB型とO型の3つに分類できることが分かりました。これは実験対象者にはAB型の人がいなかったからでした。AB型は1902年に同僚の研究者によって発見されました。ちなみにラントシュタイナー博士の血液型はA型でした。血漿中の抗体がグループ外の血球にある抗原を敵とみなして攻撃した結果、凝集が生じることが解明されたのです。これによって運を天にまかせるような輸血が科学に基づく安全な輸血に変わりました。科学の偉大な発見の多くは予期しない実験結果によるものなのです。

残念ながら、発表当初は基礎医学分野の地味な論文として受け止められ、大きな反響はありませんでした。しかし1910年ごろ、アメリカのモスらが、輸血の死亡事故の主な原因は、ラントシュタイナーが指摘している血液型不適合によるものであると宣伝したことにより、血液型を輸血に応用する動きが急速に高まり、輸血の死亡事故は激減しました。戦争では輸血は兵士の命を救う技術になりました。

血液型について

平日の8時15分からテレビ東京で韓国ドラマが放映されています。人を寄せ付けない天才女性外科医が病院船の人たちの優しさに触れて心を開いて行くというドラマです。先日は病院船の乗組員が、銃弾で撃たれたマフィアのボスを救うために献血をするシ-ンがありました。ボスの血液型はB型だったので、乗組員はB型とO型の人は輸血をして下さいと頼まれていました。


O型からB型の人に輸血ができるのはどうしてでしょうか?

血液を取り出して静置しておくと赤血球と薄黄色の血漿(けっしょう)に分離します。血漿には抗体が含まれています。免疫を担う抗体は異物と反応し、異物は除去されます。A型の血液をB型の人に輸血すると凝縮が生じてしまいます。これはB型の人の抗体がA型の赤血球(抗原)を異物と見なして抗原抗体反応を生じさせるからです。ABO血液型は、赤血球の表面に突き出ている糖鎖と血清中のY字型のIgM抗体(たんぱく質)で決まります。A型の人はAタイプの糖鎖とBタイプの抗体を持っています。B型の人はBタイプの糖鎖とAタイプの抗体を持っています。凝縮はA型の血液中の赤血球のAタイプの糖鎖が、B型の人の血清中のAタイプの抗体と結合するために生じます。


一方O型の人はAタイプやBタイプの糖鎖を持たず、AタイプとBタイプの抗体をもっています。O型の血液をそのままB型の人に輸血すると、O型の血漿中のBタイプ抗体がB型の人の赤血球のBタイプの糖鎖と結合するので、凝縮反応が起きてしまいます。O型の血液をB型の人に輸血する場合は、予め遠心分離機を用いてO型の血液から血漿を除去し、O型の赤血球だけB型の人に輸血します。O型の赤血球にはAタイプやBタイプの糖鎖がないので、B型の人のAタイプの抗体との反応は生じません。しかし血漿除去は完全ではないので、輸血は基本的には同じ血液型の人の間で行われます。

ちなみにAB型の人はAタイプとBタイプの糖鎖を持ち、AタイプやBタイプの抗体はありません。AB型の人はAB型の人にしか輸血してもらえません。

久保田産科麻酔医へのQ&A 

産科麻酔医 久保田史郎の過去のニュース!
ー赤ちゃんは震えているー
この朝日新聞の記事は1997年(平成9年)5月17日に掲載されたものです。なんと23年前に学会で発表していました。低体温症(低血糖症⇒発達障害)を誘発する出生直後のカンガルーケアと飢餓を招く完全母乳(低血糖症・重症黄疸⇒発達障害)を即刻廃止させなければなりません。日本周産期新生児学会、他7学会が推奨する寒い分娩室におけるカンガルーケアは「低体温症⇒低血糖症⇒発達障害」を、生後3日間の完全母乳は脳に障害を遺す低血糖症・重症黄疸・脱水を引き起こしています。高インスリン血症児(日本では6人に1人)を出生直後に低体温症に陥らせると確実に低血糖症に陥らせます。日本の赤ちゃんが障害なく元気に育つためには前記学会と現行の助産師教育を見直さなければなりません。
出生直後の赤ちゃんを34℃に温められた保育器に2時間だけ入れるとチアノーゼ(低酸素血症)・初期嘔吐・重症黄疸・低血糖症を予防する事が出来ます。

 Q1. 私は久保田先生の言っている事はまともだと思いますが、どうして他の医者たちは賛同してくれないのでしょうか?

久保田  産科学教科書が、カンガルーケアには体温上昇作用があると事実と異なる発表をしているからです。教科書の間違いを改訂しない限り、低体温症に陥る新生児が増え、その結果、赤ちゃんは低血糖症(発達障害)になります。もう一つの問題は、出産後の新生児管理(体温・栄養)は助産師任せになっている事です。未熟児など、異常の新生児管理は産科医・新生児科医が行いますが、正常に元気に生まれた赤ちゃんの管理は助産師任せになっています。正常に生まれた赤ちゃんが低体温と飢餓(低栄養+脱水)の犠牲になっているのです。発達障害がこれからも増えるかどうかの鍵は、助産師次第です。カンガルーケアと完全母乳を積極的に実践する国立病院機構・日赤病院などの「赤ちゃんに優しい病院」で教育を受けた助産師は間違いを刷り込まれているため危険です。助産師教育を徹底的に見直さなければなりません。

Q2    糖質制限をしていない通常食の妊婦の場合、出産直後の新生児の脳のATP源はグルコースのみで、ケトン体は殆ど利用できない、という理解でよろしいでしょうか?

久保田  ケトン体では体温調節が出来ません。つまり、ケトン体は殆ど利用できない、が正解です。


 ありがとうございます。だからグルコースだけで議論しているのですね。ユニセフのガイドラインにはケトン体や乳酸も利用できると書いてあったのでお伺いしました。

久保田  宮下助産師は厚労省の「授乳と離乳の支援ガイド」の策定委員会で-15%までを生理的体重減少としている。7%以上は飢餓と考えるべきです。Q3.   久保田先生、ご説明ありがとうございます。産科学教科書を書いたり、助産師教育をするのは医者ではないですか? これだけ筋の通った説明を何十年もしているのに、医者が賛同してくれない理由が理解できません。

久保田 助産師教育の殆どは助産師が行っています。そのため助産師は産科医の言うことを聞き入れません。医者(産科医)が賛同してくれない理由は、これまで生理的と考えられていた医学的常識が完全に崩れ、非常識(病気)になるからです。産科医はこれまでの過ちを認めたくないのです。久保田式新生児管理法をお産の常識にすると小児科やNICUに入院する赤ちゃんが激減します。空きベッドが増えると、病院は赤字になります。例えば、完全母乳を促進すると重症黄疸の赤ちゃんが増えます。重症黄疸は飢餓(低栄養+脱水)が原因だからです。大きい病院では重症黄疸の治療はNICUに入院して行っています。重症黄疸の入院治療費は最低でも1日 10万円です。小児科にとって入院患者は大事なお客様なのです。また重症黄疸は難聴の原因という事が分っています。難聴の赤ちゃんが増えると耳鼻科は忙しくなります。近年、精神科病院がきれいになったのは、発達障害の子供が増えたからです。

Q4.  助産師が産科医の言うことを聞き入れないとは、驚きです。早期新生児の15%もの体重減少は生理的ではなく、隠れ高インスリン血症などの病気やカンガルーケアによるものだということですね。全ての医者が患者ではなく病院の利益ために働いているということですか。残念ですが、あり得ることです。発達障害の相談室は半年待ちです。久保田先生が危惧しておられたように、近年の出生数の減少は危機的状況です。change.orgなどで改革の賛同者を募るのはどうでしょうか?

久保田 「発達障害の原因と予防」を2015年3月に自民党本部で講演しましたが、その時の委員長が現在の衛藤少子化相です。これで日本は終末期も同然です。私が開業を辞めたのは医系組織からの強烈なパワハラ(冤罪)があったからです。一度だけではありません。

久保田 これ以上やると私が消されます。

 う~ん、絶句です

久保田  まさに“事実は小説より奇なり”です。福岡市の久保田産婦人科麻酔科医院のHPをご覧になってください。私は40年前から発達障害の増加を予測していました。「久保田史郎」・「発達障害の原因と予防」で検索すると記事が出てきます。去年の夏までは、「発達障害」だけで私の記事がトップに紹介されていましたが、現在は削除されています。

http://www.s-kubota.net/

http://www.s-kubota.net/Stan/01.htm

Q5 .  全部読みました。素晴らしいです。発達障害の原因が気になっていました。溝口徹さんの「発達障害は食事でよくなる」を読んで久保田先生のことを知りました。

久保田  音楽療法・運動療法と溝口徹先生の「発達障害は食事でよくなる」の組み合わせに頼るしかありません。

久保田 「赤ちゃんに優しい病院」では-15%までの体重減少は当たり前の様です。この事例(赤線)、その後、発達障害と診断されました。

久保田  発達障害と診断された赤ちゃんの出生直後からの体重減少は著しく、生後5日間の体重曲線は、その殆どが-10 % ~ -15%だと考えられます。カンガルーケアで低体温症に陥った赤ちゃん・高インスリン血症の赤ちゃんは確実に低血糖症に陥っています。発達障害を防ぐためには、生理的体重減少を-5%以内にすべきです。

久保田  日本産婦人科医会は科学的根拠なく-10%までを生理的体重減少と決め付けています。怖いことに、出生体重に回復する時期は「3週間以内」つまり、1週間以上は間違いなく飢餓状態にあるのです。出生直後の赤ちゃんを1週間も飢餓にすれば確実に脳に障害を引き起こします。日本産婦人科医会は完全に崩壊しています。久保田式新生児管理法では4日で戻っています。久保田産婦人科では出生時の体重に回復しなければ退院許可が出ませんでした。黄疸による再入院は、1例もありませんでした。


久保田史郎 「赤ちゃんに優しい病院」で有名な久留米市の聖マリア病院でも-15%までを生理的体重減少としていました。

久保田史郎 その他のデータです。論文はGrowth Patterns of Neonates Treated with ThermalControl in Neutral Environment and NutritionRegulation to Meet Basal Metabolism 久保田産婦人科医院のHPに掲載しています。

少子化対策の前に! (久保田医院のHPより)
国は少子化対策に待機児童の解消・教育の無償化などの育児支援を唱えていますが、少子化の改善にどれだけの効果があるのか心配です。そう考える理由は少子化対策に於いて最も重要な妊婦支援(図46)が欠如しているからです。仮に、人口が増えたとしても発達障害(図21)・児童虐待(図27)・医療/社会福祉費は人口増加に比例して確実に増えます。何故ならば、新生児管理の基本である出生直後の体温と栄養に関するお産の設計図(産科学教科書)が根底から間違っているからです。
 
日本で発達障害が増える理由は、母乳が滲む程度しか出ない生後3日間、糖水・人工ミルクを全く飲ませない完全母乳で哺育された赤ちゃんが世界一の飢餓(低栄養+脱水)に陥っているからです(図32)。教科書の間違いとは、日本産婦人科医会が完全母乳(母乳分泌不足)による出生直後からの著しい体重減少(飢餓)を生理的体重減少と定義していることです(図31)。そのため赤ちゃんの飢餓が放置され脳の発達に悪影響を招いています。赤ちゃんを出生直後に低体温症や飢餓に陥らせる医療行為はまさに児童虐待(ネグレクト)そのものです。母乳が出ない生後3日間の完全母乳と寒い分娩室(平均25℃)でのカンガルーケア(早期母子接触)を中止しなければ日本で生まれる6人に1人(図22)の高インスリン血症の赤ちゃんは出生直後に低血糖症(図23)に陥り、脳に永久的な障害を引き起こします(図21・図44)。私は早期新生児の低血糖症と飢餓こそが発達障害の主原因と考えています

私は1983年の開業当初から、発達障害の原因と予防法についての研究を行ってきました。発達障害の予防に関する周産期側からの研究は世界でも例がありません。長年の研究で解明できたことは、発達障害は遺伝やワクチンなどではなく、早期新生児の冷え性と飢餓による低血糖症・重症黄疸・脱水が原因と確信し得たことです(図44)。厚労省や医学会などが推進する母乳育児推進運動が日本の赤ちゃんを低血糖症・重症黄疸・脱水に陥らせているのです(図23・図45)。この事は平成27年3月12日に自由民主党本部(障碍児者調査会:衛藤 晟一会長)において、発達障害の原因と予防策について講演させて頂きましたが、3年経っても何ら改善されません。発達障害の原因とされる新生児の低血糖症・重症黄疸・高Na血症性脱水は母乳が満足に出ない生後数日間の飢餓が原因です。幸い、それらの疾病はお産に予防医学を取り入れた久保田式新生児管理法(生後2時間の保温+超早期混合栄養法)でほぼ完全に防ぐ事が可能です(図26・図43)。出生直後の低体温症(図1)を防ぐための生後2時間の体温管理(図2:下段)と母乳の出が悪い生後数日間の栄養不足を人工ミルクで補足する事によって出生直後からの体重減少は著しく改善(図32・図33・図34)され、発達障害の危険因子である低血糖症・重症黄疸・脱水を防ぎ(第9章参照)、ひいては医療費/社会福祉費などの抑制効果は数兆円規模(図42)と予測します。

お産に予防医学を導入し病気を防ぎ無駄な医療費を削減することによって、少子化対策(妊婦支援+育児支援)に予算を充当することが出来ます。小池都知事が災害時用に「液体ミルク」の準備を進められている様に、出産直後の母乳が出ていない時期(とくに、生後3日間)には人工ミルクを積極的に飲ませ赤ちゃんを飢餓から守るのが新生児管理の基本です。出生直後の新生児冷え性を防ぐための保温と生後数日間の飢餓を防ぐために人工ミルクを飲ませるだけで発達障害は最低でも1/5~1/10に激減します。当院は開業当初(1983年)から閉院する2017年7月まで34年間 約15000人の赤ちゃんに対して、久保田式新生児管理法(図26)を行ってきました。事実、当院で生まれた赤ちゃんに発達障害児が極めて少ないとの情報が市関係者や福岡市立こども病院の小児科医からありました。情報公開が可能になれば発達障害の原因解明・予防策は簡単です。発達障害は遺伝病ではなく予防可能である事を知った妊婦さんは安心して自信をもって妊娠・出産に臨める様になります。個人情報保護法の厚い壁が医学の進歩を妨げ、発達障害児を増やし、少子化を加速させているのです。

私は平成29年7月に医療法人 久保田産婦人科麻酔科医院を閉院しましたが、この度、『妊婦と赤ちゃんに学んだ冷え性と熱中症の科学』の本を東京図書出版から11月7日に上梓しました。日本のお産の常識(自然主義)がいかに非科学的か、科学(予防医学)の知識が届かないところで発達障害児・医療的ケア児・脳性麻痺が増えているのです。この事実を周産期医療の関係者だけでなく、他科の医師・医学生・助産師・看護師・保育士・保健所・政治家・報道などに是非とも知って頂きたく、産科開業医の生の声(書籍)をお届けする次第です。厚労省が後援する『赤ちゃんに優しい病院(BFH)』の認定制度が日本に存続する限り発達障害は増え続けます。何故ならば、助産師の多くがカンガルーケアと完全母乳を積極的に行う赤ちゃんに優しい病院の助産師学校出身者だからです。とくにBFH出身の助産師は出生時から-15%までの体重減少を生理的体重減少と教育されています。助産師への誤った教育が赤ちゃんを飢餓に陥らせているのです。発達障害の増加に歯止めを掛けるためには、まず助産師教育の見直しを急がなければなりません。日本のお産の一番の間違いは病気(発達障害)を防ぐ為の予防医学が欠如している事です。この本は、当院で出生した約15000人の赤ちゃんからの皆様へのメッセージです。日本の明るい未来のために役に立てて頂ければ幸いです。

平成30年1月7日 

久保田史郎(医学博士)
日本産科婦人科学会専門医、麻酔科標榜医
株式会社 風(かぜ)
久保田生命科学研究所(代表)
佐賀市富士町下無津呂三本松1559

日本の崩壊を防ぐためには出産改革が必要です

日本の令和1年の出生数が86万人に落ち込んだニュ-スがありました。九州の産婦人科医の久保田先生が7年後の出生数が50万人まで減少すると予測しています。その理由が近年問題になっている発達障害児の急増によるものだということです。発達障害児を持った母親がその子の育児に手がかかり過ぎて、第2子を生むことが難しくなるからだと思います。これは大変なことです。


発達障害児の増加は指数関数的なので、16年以内に日本の出生数は消失する恐れがあります。このままでは日本の年金、福祉、医療、教育などの制度が崩壊するだけでなく、日本自体が崩壊することは確実だということです。


発達障害児の増加曲線と虐待相談件数の増加曲線は酷似しています。これは発達障害児を育てることは難しく、親が虐待してしまうことを示していると考えられます。ADHDの治療薬の増加は薬を飲まされている重度の発達障害児が急増加していることを示しています。
久保田医師によると、発達障害は遺伝によるものではなく、分娩時の赤ちゃんの低体温と低血糖による脳障害であることが分かっています。1993年に厚生省がユニセフが提唱する完全母乳を導入したために新生児の低血糖が発生し、同様に2007年のカンガル-ケア導入により新生児の低体温症が発生し、脳障害を受けた発達障害児が急増したと考えられます。赤ちゃんの体温は母親の体温より高いので、抱かれた赤ちゃんの体温は低下してしまうのです。カンガル-ケアによる脳性麻痺の発生もあり裁判も起こっていますが。厚生省は自分のミスを認めません。多発する出生事故を受けて60%の病院がカンガル-ケアをやめています。
久保田医師は、生後1時間の赤ちゃんに保温と糖水を与えることで脳障害を予防することを提唱しています。久保田医院ではこのような簡単な方法で15000人の赤ちゃんが成長したときに発達障害は殆ど見られないことを実証しています。皮肉なことに体重2500g以下の未熟児は体温管理と栄養管理を行うので、発達障害児の増加はみられていないようです。
一刻も早く少子化対策を講じなければ、日本は確実に植民地化するでしょう。 先ず、①安全なお産、②無痛分娩をお産の常識に、③徹底した妊婦支援、(労働時間の短縮・週休3日・母親教室の充実・残業なし)、④赤ちゃんに優しい病院の廃止、⑤産科麻酔科専門医制度の新設を久保田医師は提唱しています。

2人目のお子さんを考えている人は是非とも、正しい出産方法が相談できる産科医院を検討して下さい。発達障害児を養育している方も精神薬を飲ませるのでなく、正しい栄養やミネラルを与えるように指導するとよいと思います。
令和は大変な年になりそうです・・・

生理的黄疸と重症黄疸との違いは何ですか?

生まれたばかりの新生児の血液には赤血球(ヘモグロビン)がたくさん含まれており、生まれると同時にこれらの大量の赤血球が脾臓で徐々に分解されるため、ビリルビン(Bilirubin)が一時的に増加し皮膚が黄色くなります。特に新生児の血液は血糖値が低いので壊れ易いのです。新生児期は肝臓の働きが十分ではないため大量のビリルビンを処理しきれず、黄疸が現れてしまうのです。こうした生理的黄疸は生後1週間経つと肝臓の働きがよくなり自然に消失していきます。

ビリルビンはヘモグロビンの分解生成物です。ヘモグロビンはヘム鉄とグロビンからなり、グロビンはたんぱく質でアミノ酸に分解されます。ヘム鉄はポルフィリン環の4つの窒素にFeが結合した構造をしています。ヘムオキシゲナーゼ(HMOX)によりヘム鉄から鉄を抜いてポルフィリン環を開環するとビリベルジンに分解されます。さらにNADPHでビリベルジンを還元したのがビリルビンです。ビリルビンは4つのピロール環のチェーン構造をしています。光に晒すとビリルビンの二重結合が異性化する性質を利用して新生児の黄疸に光線療法が施されています。ビリルビンは水に溶けないのでアルブミンというたんぱく質と結合させて血中を移動し、肝臓で処理されます。

重症黄疸とは血中のビリルビン濃度が病的に高い状態です。ビリルビンには結合ビリルビンと遊離ビリルビンがあります。遊離ビリルビンは、脳細胞のガングリオンという脂質との親和性が高く、特異的に中枢神経細胞を侵し、重症黄疸では脳性麻痺を引き起こします。ビリルビンは解糖系の酵素反応を阻害するので、脳におけるエネルギ産生を減少させます。

結合ビリルビンはアルブミンと結合したビリルビンです。肝臓でグルクロン酸と抱合して、無毒な水溶性の抱合型ビリルビンとなり、肝臓から腸管に排出されます。グルクロン酸とはグルコ-ス(糖)にCOOHが結合した酸です。包摂型ビリルビンは腸内細菌によって水酸化され、より水溶性の高いウロビリノーゲンとなり一部はウロビリン(=尿の黄色色素)となり尿として排泄され、大部分はステルコビリン(=便の茶色色素)に変えられ便中に排泄されます。

しかし排出が遅れると、便中のビリルビンは腸管より再吸収、腸肝循環されるので、血中ビリルビン濃度が上昇します。新生児の腸内細菌は少ないので便の形成には2~3日かかります。低体温になると腸の血流が低下し消化時間がかかり便秘になり黄疸が重症化します。重症黄疸を防止するには、体温を37℃に維持し、早めに粉ミルクを与えて、12時間以内に便を排出させるのが望ましいのです。

 遊離ビリルビンはどうして増えるのですか?

栄養不足で脱水状態の赤ちゃんは、脂肪が分解されて血中の遊離脂肪酸(FFA)が増えています。遊離脂肪酸はビリルビンよりもタンパク質と強く結合するため、飢餓状態ではビリルビンがタンパク質と結合できなくなり、遊離ビリルビンが増加します。

脳内血管壁の細胞は密に接合されているために水溶性物質や高分子量の物質が血管外の脳細胞に拡散できないので、血液脳関門と呼ばれています。新生児は血液-脳関門が未発達なので、血中の遊離ビリルビンは血液-脳関門を通り、脳神経細胞に害を与えます。それが聴覚細胞であれば、難聴を引き起こします。

WHOやユニセフが推奨する完全母乳は、母乳が出ない3日間、新生児を飢餓状態にするので、血中の遊離脂肪酸が増加し、神経毒を持った遊離ビリルビンが脳神経細胞を侵すのを促進してしまいます。完全母乳栄養の場合、生後4日目の赤ちゃんの血中総ビリルビン値は12.8mg/dlと高値です。それに対して体温管理と栄養管理(超早期経口栄養)をしている産院では、血中総ビリルビン値は5.7mg/dlと低値で、この10年間の約5,000例で重症黄疸は発症していません。

高インスリン血症児はどうして生まれるのでしょう?

出生直後のカンガルーケアと完全母乳は低体温と低血糖を生じさせ、発達障害児を増加させる要因になっています。さらに日本には高インスリン血症児が6人に1人の割合で存在しているために、発達障害児の急激な増加がみられています。高インスリン血症児であるかの診断は出生前につかないので、低血糖を未然に防止するための予防策を取り入れるべきです。

高インスリン血症児はどうして生まれるのでしょう? 妊娠中は血糖値が大きく上下し、それに連動してインスリン濃度も大きく上下します。これは妊婦の胎盤からラクトーゲンというホルモンが分泌されてインスリン抵抗性を増大させるからです。妊娠でインスリンの効き目が低下するので、インスリンがあまり出ないと、血糖値が高くなり、妊娠糖尿病(gestational diabetes mellitus; GDM)になります。

妊娠時は冷え性を防止し、適度な運動と食事制限を行い、血糖値を管理する必要があります。母体の血糖値が高くなると、胎児の血糖値も高くなり、胎児のインスリンが高くなります。インスリンは成長ホルモンなので、胎児の生育が加速され巨大児になり難産となります。高いインスリン血症児は出産時に低血糖が加速され、脳障害を引き起こします。またインスリンは胎児の肺サーファクタントの合成を抑制するために、出生後に呼吸困難を発症するリスクが高まります。

妊婦の高血糖を防止する一つの方法として糖質制限食があります。糖質制限食は、脳・骨格筋・心臓などのATP源を糖からケトン体に切り替える体質改善法です。βヒドロキシ酢酸などのケトン体は脂肪酸から産生されます。糖質を制限し、タンパク質や脂肪を十分に摂取することで、血糖値を低く保つことができます。しかしながら現時点ではマウスの実験で赤ちゃんの脳の働きなどに影響する可能性があることが指摘されています。

胎盤にはモノカルボン酸トランスポータ (MCT)という胎児にケトン体を供給する輸送体があります。MCTは妊娠初期から中期には十分にありますが、妊娠後期になると減少します。出産期にはケトン体が胎児に供給しにくくなります。ケトン体はグルコースより25%多く酸素を消費すると言われています。

脳のなかでケトン体活用の違いによって細胞の大きさや形態が違ってくるようです。胎児の記憶形成に関与する歯状回の発育やドパミンの分泌やミトコンドリアの働きに異常を引き起こす可能性が指摘されています。ケトン体を脳内でより活用できるように脳血流関門の通過性が亢進することで、不飽和脂肪酸の脳細胞内の蓄積が過剰になる可能性があります。妊娠前からバランスの良い食事と葉酸やDHAを摂取することが推奨されています。

出産時の赤ちゃんの低体温と低血糖が発達障害児を生む

産科麻酔医である久保田史郎氏は、高インスリン血症児を寒い分娩室でカンガルーケアと完全母乳で管理すると、赤ちゃんは確実に低血糖症に陥り、脳に永久的な神経細胞障害を引き起こすと警告しています。重度の場合は心停止や脳障害が生じます。中度の低血糖の場合は、成長後に発達障害として現れると主張しています。低血糖によりグリア細胞が損傷を受け、ニュ-ロンにおいてグルタミン酸による情報伝達が過剰になるため、発達障害の症状が現れると考えられます。発達障害の原因が不明であった理由は、低血糖症の症状が表に出ないため、周産期側からの調査研究が十分行われてこなかったからだそうです。久保田医師は、2015年3月15日に自民党本部で開催された障害児問題調査会で、厚生省は新生児の低体温症、低血糖症、低栄養症、脱水症を防ぐための管理をすべきであると警鐘を鳴らしています。

福岡市における発達障害の発生件数は、50件/年で推移していましたが、完全母乳が導入された1993年から上昇し、2007年には280件/年に達しました。発達障害の発生件数はカンガル-ケアが導入された2007年から急増し、2018年には1000件/年に達しました。産院によって発達障害児の発生件数は大きく異なることも分かりました。2500g以下の未熟児は、出産直後に保育器で体温管理、酸素濃度管理、水分・栄養分管理が行われてきたために、発達障害の増加は見られていないことが分かりました。30年間、久保田産婦人科麻酔科医院では15000人の赤ちゃんが誕生しましたが、発達障害児の発生は極めて少ないということです。このことから周産期管理が発達障害の大きな要因になっていることが明らかになりました。周産期管理の向上により、NICUに入院する赤ちゃんは激減するでしょう。

米国では発達障害児の急激な増加原因の全国調査では、基準値の低下や被験者の増加による見かけの増加は4割程度であり、残りの6割は正味の増加であると報告されていました。米国カルフォルニアでは1975年に完全母乳運動が推進され、それ以来、自閉症児や発達障害児が増加しています。

日本においては1993年以前の発達障害は遺伝の影響や環境の化学物質の影響が考えられます。しかしここ27年間で増加している発達障害の原因は遺伝や添加物やワクチンの影響によるものではないと考えられます。
発達障害は遺伝病説が根強くありますが、福岡市立こども病院の小児神経医グループと日本自閉症協会長 山崎晃資先医師(精神科医)は、周産期側に問題があると指摘しています。発達障害児防止策は国の最重要課題ですが、周産期側から調査をしようとする動きは全くありません。

ユニセフのガイドラインとはどのようなものでしょうか?

ユニセフ・WHOは1989年に「母乳育児を成功させるための10ヵ条」を制定しました。ユニセフのガイドラインとはどのようなものでしょうか?

1.母乳育児の方針を全ての医療に関わっている人に、常に知らせること
2.全ての医療従事者に母乳育児をするために必要な知識と技術を教えること
3.全ての妊婦に母乳育児の良い点とその方法を良く知らせること
4.母親が分娩後30分以内に母乳を飲ませられるように援助をすること(カンガルーケア)
5.母親に授乳の指導を充分にし、もし、赤ちゃんから離れることがあっても母乳の分泌を維持する方法を教えてあげること
6.医学的な必要がないのに母乳以外のもの水分、糖水、人工乳を与えないこと(完全母乳)医学的な必要とは極度の体重減少や脱水、発熱等がある場合です
7.赤ちゃんと母親が1日中24時間、一緒にいられるように母子同室にすること。(母子同室)
8.赤ちゃんが欲しがるときは、欲しがるままの授乳をすすめること
9.母乳を飲んでいる赤ちゃんにゴムの乳首やおしゃぶりを与えないこと
10.母乳育児のための支援グル−プ作って援助し、退院する母親に、このようなグル−プを紹介すること

現在、134カ国15000の病院が「赤ちゃんにやさしい病院(BFH)」に認定されています。日本国内では、ユニセフから認定審査業務を委嘱された「日本母乳の会」が、その審査を行い、ユニセフへの認定申請を行っています。2015年8月現在、日本には72施設が認定されています。

2018年には、第1条に「母乳育児に関して継続的な監視およびデータ管理のシステムを確立する」ことが追加されました。第4条は「出生直後から、途切れることのない早期母子接触をすすめ、出生後できるだけ早く母乳が飲ませられるように支援する」と改定されました。母乳を与えるのは赤ちゃんに母親の免疫を与えるためです。第4条はカンガル-ケアと呼ばれていました。

ユニセフのガイドラインは一見問題がなさそうに見えます。しかし第4条(早期母子接触)と第6条(完全母乳)と第7条(母子同室)には問題があります。
第4条の途切れることのない早期母子接触は、赤ちゃんの低体温症を招きます。第6条の完全母乳の規定を守り、出産直後の赤ちゃんに水分、糖水、人工乳を与えないと、半数の赤ちゃんは低血糖を加速させて、回復できない脳障害を生じ、成長後に発達障害を発症します。第7条の24時間の母子同質は、母親を睡眠不足にして母乳の産出を低下させ、赤ちゃんを危険にさらします。つまりユニセフは低体温による潜在的な低血糖症を見逃しているのです。

殆どの場合、母乳はすぐには出ないので赤ちゃんには飢餓が生じています。なかには低血糖症や高インスリン血症の赤ちゃんもいます。しかしユニセフは、赤ちゃんの脳のATP源には肝臓から生じるグルコ-ス、脂肪分解から生じるケトン体や乳酸があると考えています。つまり赤ちゃんは栄養を蓄えた状態で産まれてくるため、母乳以外の栄養は必要ないというのです。しかし数日後の新生児はケトン体を生成する力がありますが、出産直後の新生児にはケトン体を生成する力はなく、グルコ-スだけが赤ちゃんのATP源なのです。

NICUでは周産期管理を行います。NICUというのは新生児集中治療管理室(Neonatal Intensive Care Unit)の略です。周産期とは妊娠22週から生後満7日未満までの期間を指し、周産期医療とはこの期間の母体、胎児、新生児を総合的に連続的に取り扱う医療です。NICUでは身体機能の未熟な低出生体重児や、仮死・先天性の病気などで集中治療を必要とする新生児を対象に、高度な専門医療を24時間体制で提供しています。正常体重の新生児でも周産期管理を行えば、発達障害なども防止できると考えられます。

どうして低体温は赤ちゃんにとって良くないのでしょうか?

生まれてきた赤ちゃんは、放熱を防ぐ為に手足の末梢血管を持続的に収縮させます。この時、カテコラミンという血管収縮ホルモンが分泌されます。ところがカテコラミンは肺血管も同時に収縮させてしまうのです。肺動脈が収縮すると肺に入る血流量が減少し血圧が上がり、酸素不足になります。寒さで足の血管が開かないと、心臓に帰ってくる血流量も減少し、新生児は呼吸困難になり、赤紫色になります。これはチアノ-ゼ(低酸素症)といいます。酸素不足はATP産生を抑制し、脳に致命的な損傷を与えます。

出産直後の赤ちゃんは血糖値が低くなっています。寒さで血流量が減少すると、脳に供給される血糖量が減少してしまいます。脳に供給される酸素と糖が減少すると、脳の神経細胞を保護するグリア細胞などに致命的な損傷を与えてしまいます。また低体温になると腸の栄養吸収が低くなり、体が温まらなくなります。低体温になると肝臓の糖新生が低下し、血糖値が低下します。低体温と低血糖の悪循環が生じやすいのです。

 分娩室の温度は25℃程度で赤ちゃんにとっては低温環境です。出生時から1時間で赤ちゃんの中枢体温は36℃まで下がります。手足の深部体温は30℃まで下がり、5時間後でも34℃以下にばらつきます。これは冷え性の状態です。

産科麻酔医師の久保田先生によると、赤ちゃんの本来の体温である37℃にするには、赤ちゃんを保育器に入れて、出産直後の最初の1時間は34℃、次の1時間は30℃で管理し、それ以降は新生児室で26℃に管理するのがよいそうです。出産後の赤ちゃんの中枢体温は37℃以下になりません。手足の深部体温は5時間後に34℃~36℃に保たれます。赤ちゃんが十分栄養を取れるようになれば、次第に自分で適正体温を維持できるようになります。ただし赤ちゃんに産着を着せ過ぎない注意が必要です。着せ過ぎは熱中症を引き起こすからです。

低血糖の問題点は何でしょうか?

出産直後の赤ちゃんは飢えと寒さを覚えています。飢えを感じているときは血中のグルコ-ス(血糖)濃度が低い低血糖状態になっています。グルコースは脳の活動だけでなく神経細胞の形成のATP源としても重要な物質ですから、出産時のグルコースの低下は脳に大きな障害を残します。

通常胎児は母親から糖を貰うので低血糖症になりません。胎児の血糖値は、胎盤の働きで、母親の血糖値より20mg/dl(デシリットル)程度低くなっています。胎児は全身が38℃の環境にいるので血流がよく、脳関門は完成していないので、血糖値は低めに設定されています。母親の典型的な血糖値は100mg/dlですから、胎児の血糖値は80mg/dlになっています。

生まれてくる赤ちゃんは寒い分娩室で震えて熱を出します。その熱は血糖を消費することで発生します。臍帯を切り離すと暖かい血液は流れてきません。赤ちゃんの血糖値は徐々に低下し、1時間目の血糖値は80mg/dlから40~50mg/dlまで低下します。低血糖になると痙攣や無呼吸発作をおこすこともありますが、まったく症状がないこともあります。しかし出産時に症状がなくても、低血糖は脳に後遺症を残すことがあります。35mg/dlより低くなると赤血球が糖不足で崩壊してしまいます。脳の保護のためには、少なくともこの最低値が40mg/dlより低くならないことが重要です。

久保田医師の新生児の周産期管理方式では、出産直後に34℃の保育器に入れているので、生後1時間の血糖値は50mg/dlに下がりますが、生後1時間に30℃に変更し、新生児に5%の糖水20ml~25mlを与えるので、血糖値は60mg/dlに回復します。生後2時間以後は26℃にして、生後4時間で人工乳20mlを与え、3時間ごとに人工乳20mlのペースで与えると、血糖値は出産直後の値60~70mg/dlで安定させられます。これを超早期経口栄養法といいます。赤ちゃんは糖水を与えられると泣き止み、よく飲みます。これだけで発達障害児の発生を予防できるとは驚きです。

肥満妊婦から生まれた赤ちゃんや未熟児(低体重児)には低血糖症が発症することがあります。しかし正常出産で生まれた赤ちゃんの血糖値が40mg/dlより下がることは殆どないと考えられていました。しかし出産直前のお母さんの血糖値が高いと、血中インスリン濃度が高くなります。生まれてくる赤ちゃんは血糖値を下げるために膵臓からインスリンを分泌させ、インスリン濃度が高まります。これを高インスリン血症児と言います。母親のインスリンは胎盤で防御され、胎児にはいきません。

インスリン2分子は肝臓の細胞のインスリン受容体に結合し、細胞内部にシグナルを伝達して、糖を取り込むたんぱく質GLUT1を細胞表面に移動させます。このようにしてインスリンによって血液中のグルコ-スが肝臓に取り込まれるので、血糖値が下がります。

飽食の日本では出生する赤ちゃんの10%~20%は高インスリン血症児となっています。高インスリン血症は赤ちゃんの低血糖症を加速してしまうのです。母乳は体内でグルコ-スとガラクト-スに分解され、ガラクト-スは肝臓でグルコ-スに変換されます。母乳を早く赤ちゃんに与えることが低血糖を防ぎます。

低体温の場合、赤ちゃんは筋肉を緊張させて体温を上げようとします。こうした産熱亢進は血糖を消費するために低血糖を引き起こします。低血糖が進むと筋肉を緊張させられなくなるので、産熱亢進が低下し、体温が下がります。低体温と低血糖の悪循環が生じます。低体温による肝血流の減少も、糖新生を低下させ、低血糖を引き起こします。

出産の科学 健康で賢い赤ちゃんを産むには

少子高齢化が加速している日本において、健康な赤ちゃんを産むことは最も重要なことです。私たち家族の最大の願いでもあります。健康な赤ちゃんを産むにはどうすればいいのでしょうか?まずは赤ちゃんのことを知ることが大切です。

赤ちゃんはお母さんの子宮の羊水の中で10カ月を過ごします。赤ちゃんの体温は38℃で、すべての栄養と酸素は胎盤に注ぎ込む血液によって母親から与えられます。胎盤は羊膜の母体側にある扁平な臓器です。胎盤で母体と胎児の血液は直接混合しません。酸素、栄養分、老廃物などの交換は血漿(けっしょう)を介して行われています。これをプラセンタルバリア (placental barrier) といいます。プラセンタは古代ロ-マの平たいパンケ-キに由来しているそうです。このため親子の血液型が異なっていても、凝血は起こりません。

赤ちゃんは、長い時間をかけて狭い産道を通り、分娩室に出てくると大きな声で泣きます。このとき赤ちゃんは肺胞を開き、酸素呼吸を開始します。医師がへその緒を切った後は、胎盤からくる栄養や水分や酸素はなくなるので。赤ちゃんは自分の口から水分や栄養分を取らなくてはなりません。

赤ちゃんの脳のシナプス密度は1歳半で最大になります。出生時はその40%ぐらいです。その後緩やかに減少し、5歳で一応完成します。脳細胞にはATP源となる糖を貯めることはできません。絶えず糖が血液によって脳に供給されている必要があります。つまり十分な血流と適切な血糖値が必要です。脳の毛細血管壁の内皮細胞は緊密に結合しており、血管内にある水溶性の物質や分子量の大きい物質は、基本的に血管外の脳細胞側に拡散できません。これを血液脳関門(Blood-brain barrier, BBB)といいます。糖は血液脳関門を通過します。EPAなどの脂肪酸は脂溶性なので血液脳関門を通過できます。脳に必要なアミノ酸は、独自のトランスポ-タがあれば、血液脳関門を通過します。ただし赤ちゃんの血液脳関門は未完成です。神経細胞であるニュ-ロンの周囲にはグリア細胞があります。グリア細胞は、有害な糖を無害な乳酸に変換してニュ-ロンに供給します。しかし赤ちゃんの脳はグリア細胞がまだ十分発達していないので、赤ちゃんの脳は高血糖にも弱いのです。

 分娩直後の赤ちゃんに襲い掛かるのは、飢えと寒さです。昔は乳母(めのと)と産湯(うぶゆ)が赤ちゃんを飢えと寒さから守ってきました。出産後3日間は母乳があまり出ないので、乳母が母乳を与えていたのです。現在は粉ミルクを代わりに与えています。産湯は血液や羊水や粘膜で汚れた赤ちゃんを洗い、温めるものです。同時に昔は大量のお湯を沸かすことで、部屋を暖めていたのです。現在は、分娩室の温度は25℃に保たれているので、赤ちゃんの体温を下げないように、濡れた身体を拭いてすぐに産着を着せています。

しかし赤ちゃんと外界の温度差は13℃(=38℃-25℃)もあります。分娩から2時間の間に、赤ちゃんの体温は2~3℃低下して35℃~36℃になります。実は赤ちゃんが健康でいられる体温は37℃なのです。体温が1℃~2℃低いことは赤ちゃんにとって有害です。母親の体温は36℃~36.5℃なので、母親が抱いて温めても赤ちゃんの体温は37℃にはならないのです。

2007年に厚労省はWHOやユニセフが勧めているカンガル-ケア(早期母子接触1989年)を日本に導入しましたが、これによって新生児の低体温症は悪化しました。深夜帯の母子同室も有害です。母親が赤ちゃんの世話で睡眠不足になると、母乳の出が悪くなるからです。お産の疲れが残る母親に、深夜帯も赤ちゃんの体温・栄養・呼吸などの全身管理を任せることは無理です。カンガルーケア中の心肺停止事故の殆どは、生後12時間以内の、最も体温と血糖値が低下する分娩室・母子同室中に発生し、しかも深夜に多いようです。また、カンガルーケア中の心肺停止事故は、母乳育児の3点セット(カンガルーケア・完全母乳・母子同室)を積極的に行う赤ちゃんに優しい病院(BFH)に集中して起きていることが分かっています。しかし、その事実は意外に知られていません。

女性初のフィ-ルズ賞学者マリアム・ミルザハニ

マリアム・ミルザハニ(Maryam Mirzakhani)は双曲面上の測地線に関する優れた研究をした女性のイラン人数学者です。マリアムは1977年5月3日テヘランで生まれました。小さい頃は読書が好きで、将来は小説家になりたいと思っていました。

   1991年、彼女が小学校を卒業するころ、イラン・イラク戦争が終結し、やる気のある学生に対するチャンスが開かれました。彼女は試験を受け、テヘランのファルザネガン中学校に合格しました。そこで生涯の友人となるロヤ・ベヘシュティーに出会います。中学1年生の時は、数学の成績は良くありませんでした。天才は自分の才能に気づいているとは限らないようです。中学2年のときに熱心な先生に出会って、マリアムは数学に自信をもつようになります。

   マリアムはファルザネガン女子高等学校に進学し、ロヤと国内のプログラミング大会に参加します。熱心な校長先生の計らいで、マリアムは1994年(香港)と1995年(トロント)の国際数学オリンピックに出場します。マリアムはそこで金メダルを獲得し、「イランの天才少女」と呼ばれました。数学オリンピックは優れた数学者の登竜門になっています。マリアムはイランのシャリフ工科大で学士号を取得し、ハーバード大学のマクマレン教授の下で幾何学を学び、双曲線幾何学の美しさに魅了され、研究に没頭します。

双曲面上の測地線定理の発見
 2004年にマリアムは、双曲面上の測地線に関する重要な定理を発見し、博士学位を取得します。測地線とは2点間の最短距離を結ぶ線のことです。その定理とは、コンパクトな双曲面X上の長さLのシンプルで閉じた測地線の数は、Lの6g-6乗に比例する
   #simple loops=C(X)・L^(6g-6)
というものです。ここでgは双曲面Xの穴(ハンドル)の数です。ド-ナツの場合g=1、2穴ド-ナツの場合g=2となります。シンプルな測地線とは自分自身と交わらない測地線のことです。またマリアムは、シンプルで閉じた測地線で切断したときに、双曲面を2分する確率は1/7であることを見出しました。彼女の発見は、弦理論に関連するエドワード・ウィッテンの公式を位相幾何学的に証明する手法を与えました。

オリラ-標数との関係
オイラ-標数とは多面体の位相不変量であり、
     Euler標数=V(頂点数)-E(辺数)+F(面数)
で定義されます。例えば三角形の場合、3-3+1=1となります。マリアムの公式で気になるのは指数部分6g-6=-3(2-2g)です。実は2-2gはトーラスのEuler標数です。
       種数gのト-ラスのEuler標数= 2-2g
g=0の多面体面(球面と同相)はEuler標数=2>0なので凸面体、g=1のド-ナツ面はEuler標数=0なので平坦面、g=2の2穴トーラス面はEuler標数=-2<0なので双曲面となります。2穴ト-ラスのオイラ-標数を求めるには、元の図形の8角形を考えます。8角形を連続的に変形し2穴ト-ラスにすると、頂点は1個に集約され、8辺のうち4個の辺は同一視されたので、辺は4個になり、面は1個のままです。連続的な変形でオイラ-標数は変わらないので、2穴ト-ラスのEuler標数は
   Euler標数=1(頂点)-4(辺)+1(面)=-2
と考えられます。

ビリア-ド問題
 2006年、ミルザハニは同僚のエスキンとビリア-ド問題に着手しました。ビリア-ド問題とは多角形のビリヤード台の境界で完全反射する光線の通過領域を調べる問題です。例えば5角形内の光線の軌跡を考えます。反射境界において、向こう側へひっくり返された5角形を隣接させると、反射光の軌跡は境界を横切って直進していくように見えます。5角形内の光線の軌跡は多数の隣接した五角形を横切る直線として理解できます。


例えば隣接する2つの五角形は八角形になります。同一視した辺を向きに注意して、図形をゴム膜のように引き延ばしてつなぎ合わせると8角形は2穴トーラスになります。つまりビリア-ド内の光線の軌跡は、多数の穴が開いたト-ラスの測地線となっているのです。任意の角度で放射された光線が元の位置と角度に戻ってくるとしたら、その軌跡はシンプルな閉じた測地線となっているはずです。このようにビリア-ド問題はマリアムが研究していた双曲面上の測地線問題とつながっていたのです。ビリア-ド問題は統計力学のエルゴ-ド問題に関わります。鏡張りの部屋における警備員の視線を解明する問題にも応用されています。

輝かしい経歴と早すぎる死
2008年にマリアムは31歳の若さでスタンフォード大学の教授になりました。夫のヤン・ヴォンドラークはMIT出身のコンピュ-タ理論の研究者です。彼女には三才になる娘アナヒタがいます。2014年にマリアムは37歳のとき女性で初めてフィールズ賞を受賞しました。授賞理由は、リーマン面とそのモジュライ空間の力学と幾何学に関する顕著な業績です。特にウィッテンの公式を証明したことが、高く評価されました。授賞時の様子を見るとマリアムはとても小柄な人だと分かります。
この時マリアムはすでに乳がんを発症していました。残念なことに癌が脊髄に転移し、2017年7月15日にマリアムは40歳という若さで亡くなりました。若くして亡くなったので、一般の人たちは彼女のことを殆ど知りません。

ミルザハニの言葉
ミルザハニの研究は、微分幾何学、複素解析、力学系など数学の多くの分野に影響を与えました。「わたしは、各分野の境界に人が引いた想像上の線を横断するのが好きなのです。研究においては、楽観的であること、異なる物事を結びつけることが重要です」

リ-ゼ・マイトナ-

リ-ゼ・マイトナ-は1878年にオーストリアのウィ-ンのユダヤ系の家庭に生まれました。父フィリップは弁護士、母ヘートヴィヒは専業主婦でした。リ-ゼは男児3人、女児5人という大家族の三女でした。リーゼは1892年に高等小学校を卒業し、1899年までフランス語の教師をしていました。1897年、文学・科学分野に限って、女性の大学入学が認められました。ギムナジウムに入っていないリーゼは、この2年間で8年間分の学習を行い、1901年に23歳でウィーン大学の入学試験に合格しました。

1902年にウィーン大学に赴任したボルツマンの講義は学生に非常に人気があり、リーゼも欠かさず出席していました。1906年にリーゼは博士号を取得します。しかし敬愛していたボルツマンはその年に死亡します。マリ・キュリーに助手として雇ってくれるよう願ったのですが、断られてしまいました。

1907年にベルリンにやってきたリーゼは同年代のオット-・ハーンと出会いました。リーゼは地下の木工作業所のみで実験を行い、研究所内には姿を見せないという条件で、二人の共同研究が認められました。1912年にリーゼはヴィルヘルム研究所でプランクの助手として働くようになりました。ハーンは、長年の研究仲間でしたが、美術専攻の女子学生と結婚してしまいます。

第一次世界大戦がはじまり、リーゼは手紙でハーンと連絡を取りながらベルリンで研究を続けていました。1915年、リ-ゼはオーストリア軍のX線技師および看護婦として志願し、ポーランドの戦地で負傷者の治療にあたります。リーゼとマリはX線看護師として敵対する戦場で働いていたのです。

その後、リ-ゼは以前からの放射性物質の研究を続け、1918年、新元素プロトアクチニウムを発見しました。それによってカイザー・ヴィルヘルム研究所の研究者として十分な給与を得ることができるようになり、1922年にベルリン大学の教授となりました。

 1934年、リーゼは、ハーンに再び共同研究を持ちかけ、超ウラン原子の研究を始めました。しかし1938年、オーストリアはドイツに併合され、リーゼはスエ-デンに亡命します。短期旅行を装いスーツケ-ス一つで飛び出し、なんとかオランダとデンマ-クに脱出しました。リーゼは異国の地ですべてを失ってしまいます。
ストックホルムで、ハーンから「ウランの原子核に中性子を照射しても核が大きくならず、しかもウランより小さいバリウムが確認された」という手紙の相談を受け取ったリーゼは、ボーアの原子核の液滴モデルに基づいて
 235U + n → 92Kr + 141Ba +3n (nは中性子)
という核分裂反応が生じたことに気づきました。リ-ゼは甥のフリッシュと連名で核分裂現象を初めて発表しました。その際、質量欠損は陽子の1/4.7程度あり、E=mc^2の公式から、核分裂でウラン原子1個当たり200MeVのエネルギが放出されることを示しました。

甥のフリッシュはマンハッタン計画に加わりましたが、リ-ゼは原爆製造には加わりませんでした。100万キロワット級の原発では1日にウラン3kgを消費しています。これは広島型原子爆弾3個分のウラン量に相当します。

1944年ハーンは核分裂反応に関して、ノーベル化学賞を受賞しますが、リーゼ・マイトナーは受賞者から外されました。リーゼは1968年に90歳で生涯を終えました。1997年にドイツの研究チ-ムが109番元素をマイトネリウムと命名しました。
リーゼ・マイトナーは

「人生は楽でなくてもよいのです。もしそれが空っぽでないのならば」

という言葉を残しています。

マリ・キュリ-

本日11月7日は、マリ・キュリ-(仏)とリ-ゼ・マイトナ-(墺)という二人の物理学者の誕生日です。マイトナ-は、核分裂の発見者で、ドイツのキュリ-夫人とも呼ばれています。

マリ・キュリ-は1867年、ポ-ランドのワルシャワで生まれました。生誕時の名前はマリア・サロメア・スクロドフスカといいます。父ブワディスカはペテルブルク大学の物理学者、母ブロニスワバは女学校の校長先生でした。マリは5人兄弟の末っ子で、4歳の時には9歳の姉の本を朗読でき、記憶力も抜群でした。マリが6歳の時、父のせいで住居を失い、父親は移り住んだ家で小さな寄宿学校を開いていました。その後、姉ゾフィアがチフスで、母は結核で他界し、10歳のマリは鬱状態になっています。

マリは16歳でギムナジウムを優秀な成績で卒業しましたが、女性には進学の道は開かれていなかったので、住み込みの家庭教師をして過ごしました。24歳のときマリはパリのソルボンヌ大学に進学し、そこで夫となるピエ-ル・キュリ-と出会います。スラブ系の美しい顔立ちに明るいブロンド、グレーの瞳のマリは学内でも人目を引いていました。

苦学して2年で学士をとり、粗末な実験室で研究を続けました。マリは夫が考案した電離計測器でウランから出る放射線量が光や温度などの外的要因に影響を受けないことを見出しました。10年後、1903年6月36歳のとき、マリは理学博士の学位を得、その年の12月に、アンリ・ベクレルの放射現象の発見に関わった業績で、マリはノ-ベル物理学賞を受賞しました。

3年後に夫が事故死したため、マリは、夫の後任として、パリ大学初の女性教授に就任しました。1911年にマリはラジウムとポロニウムの発見に関して、ノ-ベル化学賞を受賞します。10トンもの岩石から0.1gにも満たない塩化ラジウムを取りだす作業は大変なものです。

第一次世界大戦では、マリは、レントゲン設備を病院に設置し、X線照射車両を開発して活躍します。X線源用のラドンガスを詰める危険な作業もしました。マリ自身も、技術者指導と平行して、この1台に乗り込んで各地を回っています。そのために自らも解剖学を勉強し、自動車の運転免許を取得し、自動車整備法も習得したと言われています。

マリは、本人は認めていませんでしたが放射線障害により67歳で死去します。彼女の実験室はパリのキュリー博物館として、そのままの姿で保存されています。実験室は放射能で汚染されていて、近年まで見学できませんでした。ラジウム精製法の特許を取得しなかった理由を問われて、マリは

「人生最大の報酬とは、知的活動そのものである」

と答えています。

母乳で育てた方がいい理由

生後3か月までの赤ちゃんの胃には胃酸がないので、牛乳などを与えると、胃の中で牛乳が腐敗してしまいます。母乳には、7%の乳糖の他に、白血球や免疫グロブリンが含まれているので、細菌が増殖しません。乳頭はグルコ-スとガラクト-スが結合した2糖類で、徐々に分解してグルコ-スを放出します。小腸の防衛システムが出来上がるのも6か月かかるので、生後6か月は母乳で育てた方が、アレルギー疾患にかかりにくい子どもになると言われています。アレルギー疾患の子どもが増えているのは、乳児期の育て方にも原因がありそうです。

 

草食動物の脳はどうして大きくならないのか?

草食度物は球根(芋)や茎や葉を食べるので、グルコ-スが脳に供給されていると思うかもしれません。例えばウシなどの反芻動物は、細菌の力を利用して、前胃(ル-メン)の中で砕いた食物繊維やデンプンを酪酸やプロピオン酸に分解し、ルーメン壁から吸収することによって、エネルギの80%を得ています。酪酸はケトン体の前駆体であり、脳はケトン体をエネルギにすることができます。ケトン体とはヒドロキシ酪酸や、アセト酪酸などのことです。

ウシは、タンパク質を分解してできる尿素を唾液にまぜて、ル-メンに戻して細菌の窒素源にしています。増殖した細菌は4番目の胃で消化され、牛はエネルギとアミノ酸などの栄養を得ることができます。つまり草食動物は殆どデンプンをブドウ糖に分解していないので、草食動物の脳には危険なグルコ-スがあまり供給されていないのです。ウシも呼吸をするので、酸素を運搬する赤血球を養うために、ヒトの臍帯血の血糖値(35mg/100dL)程度のブドウ糖が必要です。しかしウシの血糖値は~50mg/100dL程度であり、ヒトの血糖値100 mg/100dLより低い値になっています。このように草食動物の脳には過剰なグルコ-スが来ないので、脳が大きくならなかったと考えられます。

ヒトの大脳はどうして大きいのか?

焼き芋は大量のグルコ-スを脳に供給したと考えられます。ヒトの脳は大量のグルコ-スからニュ-ロンを守るために、グリア細胞を増やさなければならなかったのです。つまり焼き芋によって、ヒトの大脳は大きくなったと考えられます。

加熱により食物の消化が良くなったので、ヒトの腸の長さも短くなり、体型がスリムになり、歩き方も洗練されてきたでしょう。広域を移動して、果実や獲物を取ることもできるようになったでしょう。グルコ-スは肝臓だけでなく皮下脂肪として蓄えられるようになったので、体毛が減りました。暑い中でも歩けるように、汗腺(エポクリン腺)を発達させたと考えられます。

ヒトの脳は体重の2%の重量しかありませんが、25%のエネルギを消費しています。脳のエネルギ消費量の90%は、グリア細胞ではなく、ニュ-ロンが消費しています。筋肉は絶えず分解されて脂肪として肝臓に蓄えられ、肝臓は絶えず脂肪を分解しグルコ-スを脳に送っています。血糖値を抑制するために大量のインスリンが放出されます。インスリンは成長ホルモンなのでグリア細胞が増殖します。グリア細胞が増殖するとニュ-ロンの接続数や電気伝達速度が増大し、エネルギ消費量が増えます。人間のエネルギの半分は肝臓と脳で消費されています。

今回、ヒトの本質が焼き芋を食べるサルであることを説明しました。驚くべきことではありますが、分かってしまうと当たり前のことかもしれません。森林を焼き尽くし、石油を消費するのは、人間の本性と関わりがあることなのですね。

グルコ-スとデンプンについて

グルコ-スは環状の有機物ですが、1%ほどは鎖状になっており、先端に反応性の高いアルデヒド基(-CHO)を有しています。これがタンパク質のNH2基と容易に反応しシッフ結合するので、タンパク質は糖化により劣化していきます。赤血球は、狭い毛細血管を通るために核やミトコンドリアがないので、栄養源にブドウ糖を必要とします。赤血球の寿命が4か月しかなのには、ブドウ糖がヘモグロビンを劣化させるからです。

胎盤はブドウ糖を遮断しており、子宮内の胎児には、酪酸などのケトン体の形でエネルギが供給されています。胎盤によって胎児の脳はブドウ糖から守られているのです。もちろんニワトリの卵の中にもブドウ糖は含まれていません。

200万年前に人類は、山火事の後、芋の根が食べやすくなっていることに気づいたのでしょう。土に芋を浅く埋めて、木の葉で覆い、その上で焚火をすることで、芋を加熱して食べる方法を思いついたのでしょう。芋は重要な食糧です。現在の狩猟採種生活民といえども、食料の7割がたは芋や木の実などを食べて生活しています。芋はデンプンですが、生のままでは消化がよくありません。加熱することでデンプンがアルファ化し、食べられるようになります。

デンプンはグルコ-スがグルコシド結合で連なった有機物です。デンプンの直鎖部分(アミロ-ス)は、グルコースがα1-4結合で連なったものです。アミロペクチンは分枝があるデンプンで、分岐は直鎖の途中からグルコースのα1-6結合によるものです。もち米はアミロペクチンが多いため、不透明な白色をしています。

天然のデンプンは、βデンプンと呼ばれ、結晶状態にあります。加熱されたデンプンは、αデンプンと呼ばれ、糖鎖間の水素結合が破壊され糖鎖が自由になった状態にあります。α-グルコース分子が直鎖状に重合している部分は、水素結合によりα-グルコース残基6個で約1巻きのラセン構造になっています。また、ラセン構造同士も相互に水素結合を介して平行に並び、結晶構造をとります。

ヒトの脳について

ヒトの脳の発達はサルとは大きく異なっています。チンパンジを含めサルの脳容積は誕生時に75%あり、生後6か月で大人の大きさになります。それに対してヒトの脳容積は誕生時に23%しかなく、3歳で60%、6歳で90%、9歳でやっと大人の大きさになります。ヒトは脳の成長に合わせて、多くのものを学習していけるようになっています。

ヒトのニュ-ロン(神経細胞)は胎児期の5か月間で産生されます。その後は、ニュ-ロンを取り囲むグリア細胞が増殖を続けます。グリア細胞は、脳細胞の90%を占めており、ニュ-ロンを絶縁し、ニュ-ロンに栄養を供給しています。グリア細胞と赤血球はブドウ糖(グルコ-ス)を乳酸に変えてニュ-ロンに栄養を供給しています。ニュ-ロンはブドウ糖を避けるために、グリア細胞を必要としているのです。

ヒトの大脳はいつ大きくなったのか?

700~100万年前の猿人は、森林やサバンナで昆虫、果物、植物の根、小動物の肉などを採取し食べていたと考えられています。猿人は、顎が大きく、ガニ股でぎこちなく歩く印象があります。肉食動物に狙われてもさほど早く走れなかったでしょう。お互いに助け合って生き延びてきたのだと思います。

200~20万年前になると、原人が出現し、体型も寸胴型からスリム型になり、さっそうと歩く印象があります。顎や歯が小さくなります。草食動物を追跡し、肉食動物に武器や火で対抗できたと思われます。200~150万年前の50万年間に脳容積は400ccから900ccに増大します。ヒトの大脳は、食生活が変わることで、大きくなったのではないかと考えられます。

NHKの番組では、原人は石器を使って動物の遺体の肉や骨の髄を食べたので、脳が大きくなったと放映されていました。それならば、肉食動物の脳はどうして大きくならないのかという疑問が残ります。また直立歩行をして手で道具を作るようになったから大脳が大きくなったと説明されています。しかし進化論的には、大脳が大きくなったから、ヒトは道具を作り、言語を話すようになったと考える方が自然です。大脳の肥大化の原因は未だによく分かっていません。しかし近年、農学博士の林俊郎氏(1949年生)は、糖がヒトの大脳の肥大化を促進したのではないかと考えています。

レーシック手術とは

レーシックLASIK (=LAser in SItu Keratomileusis)は角膜の視力矯正手術です。レーシックは1990年、ギリシャのパリカリス博士によって考案されました。ケラトームという小さな刃物を使って角膜を円形に切り取りはがして、フラップという蓋を作り、角膜の内部にエキシマレーザを照射して、角膜を削って、蓋を閉めて手術します。レーシックは、1995年にアメリカのFDA(食品医薬品局)から認可され、急速に広まるようになりました。今ではフェムト秒レ-ザを用い、非接触でフラップを形成します。費用は片眼で15~30万円かかります。スポーツ選手や著名人がレーシックを受けたことにより、一般人の間でも広く受け入れられるようになりました。アメリカのプロゴルファの間には 2000年以降に視力矯正のためのレーザ治療を受ける人が急増しました。そのため眼鏡をかけたトップ・プレーヤーは居なくなりました。

白内障発症率が高まる60歳以上でのレーシックは推奨されません。レーシックの年齢制限は40歳までといわれます。まだ老眼の症状が現れてない場合でも、レーシック手術により焦点を矯正した結果、老眼の症状を感じやすくなることもあるため、手術前には十分な検査が必須です。老眼や白内障に備えて、レーシックの手術前の眼のデータを入手しておくとよいそうです。レーシックを受けた角膜は変化が生じているため、眼内レンズ度数のズレが生じやすくなるからです。

先月タイガ-ウッズ選手(43歳)のZOZOチャンピオンシップの復帰試合を見に多くのギャラリ-が詰めかけていました。タイガー・ウッズ選手は 1999年に視力改善の為のレーザ治療を受け、その後 2000年には素晴らしい成績を残しています。

レ-シックでは、矯正限度量を-6Dまでとし、充分な同意がなされた場合に限り、-10Dまでの範囲で手術が許可されます。ここで「D」は(Diopter:ジオプター)という屈折度数を表す単位です。裸眼でピントが合う距離をN(cm)として、「100÷N」で計算すると度数が出ます。例えば-10Dの場合は、裸眼でピントが合う距離Nが10cmという強い近視状態です。Nが20cmで-5Dとなり、中程度近視(3~6D)です。
近視の場合は-(マイナス)、遠視の場合は+(プラス)で表され、ともに数値が大きいほど遠視や近視の度合いが高くなります。10D以上に近視が進んでいる人は、充分な視力を得るために角膜を削る量が多すぎるので、レーシック手術を受けられないのです。タイガーウッズ選手の視力は-11.5Dという超強度近視だったので、レーシック以外のレーザ矯正治療を使ったのかもしれません。

白内障の手術

先日、家族が白内障の手術を受けたので、帰省し、病院への送迎と付き添いをしました。白内障とは、眼の水晶体が白濁し、視力が低下する病気です。原因は水晶体を構成するクリスタリンというたんぱく質が会合(結晶化)して、システィン結合で固定されるからです。

白内障(cataract)には加齢の他に色々な原因があり、糖尿病もその一つです。糖尿病患者はインスリンの働きが悪いため、水晶体内に取り込まれたブドウ糖がソルビトールに変質し、水分量の部分的増加やクリスタリンの会合によって、白濁するために白内障になると言われています。濁ると光が散乱してまぶしく感じるので、サングラスをすることがあります。


糖尿病患者は、可能なうちに白内障の手術をしておかないと、眼底が見えないので、糖尿病網膜症の発見が遅れ、失明するリスクがあります。網膜は酸素やブドウ糖が必要なので、出血を放置すると失明します。糖尿病患者は血管が詰まりやすいので、網膜は新生血管を生み出して、酸素や栄養の不足を補おうとしますが、この新生血管は脆いので出血しやすいのです。傷口のかさぶたが網膜を引っ張り、網膜を剥離させる恐れもあります。インシュリンを投与しながら、糖質制限を行うと、血糖値が低い状態が持続し、網膜が低酸素障害を受けて、ある日突然失明することも起こります。

水晶体の中身は交換・補充が利かないので、手術では白濁した部分を除去し、人工レンズを挿入します。20分くらいで終わる簡単な手術です。手術後は、眼を汚さないように注意して、毎日4回ほど点眼をして回復を待ちます。

<白内障手術の手順>
1)細いメスで黒目(角膜)と白目(結膜)の境目に3mm弱の創口を作ります。
2)眼内をジェル状の物質で満たし、作業が安全に行えるようにします。
3)水晶体を覆っている水晶体嚢(袋)前面を剥がして作業用の窓を作ります。
4)水晶体嚢の窓から、超音波棒を入れて水晶体を細かく砕き、吸い取ります。
5)切開創から小さく折り畳んだ人工のレンズ(眼内レンズ)を挿入します。
6)眼内からジェル状物質を抜き、代わりに水を満たし切開創を閉鎖させます。

白内障手術は長い歴史があります。1949年にイギリスのリドレー医師が人工水晶体(=眼内レンズ)を発明しました。更に、アメリカのケルマン医師が超音波乳化吸引装置を発明しました。現在では水晶体も切開可能なフェムトセカンドレーザーが登場しています。レーザ白内障手術は2008年にヨーロッパで最初の手術が行われ、既に世界の最先端医療機関では50カ国以上で導入されています。

パトリシア・バス女史

11月4日はパトリシア・バス(Patricia Era Bath)女史の誕生日です。彼女は眼科医研修を修了した初のアフリカ系アメリカ人です。パトリシアは2019年5月30日に77歳で亡くなられました。

1942年、パトリシアはニュ-ヨ-ク市のハ-レムに生まれました。父親のRupertはNY の最初の黒人の地下鉄の電気技術者でした。母親のGladysはパトリシアに科学実験セットを与える教育熱心な専業主婦でした。パトリシアは4年制の中学校を2年半で卒業し、16歳の頃からがん治療の研究会の助手をしていました。彼女は自分のことを化学オタクだったと回想しています。彼女はハワ-ド大学で医学の学位を取得し、ハ-レム病院でインタ-ンとして働きました。

彼女はハ-レムの患者を無料で治療するように医師たちを説得し、アメリカ失明予防協会(AiPB)を共同設立しました。アフリカ系アメリカ人には緑内障が多く、貧しい区域に住む人々は失明することが多かったのです。彼女は何十年にも渡って、多くの人たちの視力を回復させてきました。パトリシアはUCLAの教授になりますが、黒人女性だということで、不公平な扱いを受け、ヨーロッパに渡り、そこで優れた仕事をしました。1988年に彼女は、46歳にして、白内障のレーザ手術法に関する特許(U.S. patent 4744360)を取得します。これは紫外光のエキシマレ-ザで発熱なく正確に白濁した水晶体を蒸散除去する装置に関する特許です。2000年には、超音波で白濁した水晶体を粉砕し吸い上げて除去する方法も発明しています(U.S. patent 6083192)。

科学者として、運動家として活躍したパトリシアは
「真実の力を信じましょう。あなたの心が多数派の考え方にとらわれないように」
という言葉を残しています。

爬虫類の分類方法を知っていますか?

爬虫類は頭蓋骨の側頭窓の数で分類します。頭蓋骨には鼻孔や眼窩孔の他に側頭窓 (temporal fenestra)と呼ばれる穴が開いています。無弓類、単弓類、双弓類というのは、片側から見た側頭窓の数がそれぞれゼロ、1個、2個という意味です。弓とは穴によって細くなった骨のことです。恐竜は双弓類なので、恐竜の頭蓋骨には8個の孔が開いています。

ペルム紀に存在していた無弓類のパレイアサウルス科の恐竜12種は、両生類と同様に、頭蓋骨に側頭窓がありません。単弓類である哺乳類型爬虫類は、頭蓋骨の両側に1対の側頭窓があります。横から見ると、眼窩孔の後ろに1つ側頭窓が開いています。ヒトは単弓類ですが、無弓化しています。双弓類は魚竜を含めた竜類です。トカゲ、ワニ、カメ、恐竜、鳥類は双弓類です。双弓類は頭蓋骨の両側に2対の側頭窓があります。しかしカメは後の進化で単弓化しています。

側頭窓は顎の筋肉が収まる孔です。側頭窓が開くことによって、顎を大きく開けることができ、また下顎内転筋の付着面が広くなり、噛む力が増大します。ヒトの咬合力は500N(女性平均)~700N(男性平均)です。爬虫類の噛む力は、ヒトの10倍~100倍もあります。

恐竜の系統樹に大きな変更あり

恐竜は、骨盤の形状から、竜盤類と鳥盤類に分けられており、肉食恐竜である獣脚類は、草食恐竜である竜脚類と並んで竜盤類に分類されていました。しかしM.Baron氏の2017年のNatureの論文で、他の多くの特徴の比較から、獣脚類は鳥盤類に近いことが分かりました。彼は74種類の恐竜を調査し、457の特徴を比較し、類似点と差異を詳細に研究しました。その結果、恐竜は竜盤類とオルニトスケリダ類に分けられ、獣脚類は鳥盤類と並んでオルニトスケリダ類に分類されたのです。その結果、恐竜の系統樹はより難しいものになりました。これは130年ぶりの大変革でした。これまでネコだと思っていた動物の半分はイヌだったと分かったようなものだからです。

恐竜博2019に展示されていた恐竜の種類は?

恐竜博2019では、デイノケイルス、タルボサウルス、カムイサウルスなどの骨格標本が展示されていました。これらはどんな恐竜なのでしょうか? デイノケイルスはコエルロサウルス類のオルニトミモサウルス類の陸生の魚食恐竜です。タルボサウルスはコエルロサウルス類のティラノサウルス類の肉食恐竜です。カムイサウルスはイグアノドンと同じ鳥脚類のハドロサウルス科の草食恐竜です。これは北海道のむかわ町で発掘されたのでむかわ竜とも言われています。これまで恐竜だけで1000種類ぐらい発見されています。恐竜の分類はかなり複雑です。恐竜が生きていた中生代は2億年近くあり、恐竜は1.6億年の長い歴史があります。化石になったのは一部ですから、実際、恐竜は10万種以上いたのかもしれません。

現生鳥類は、恐竜のオルニトミモサウルス類からマニラプトル類などを経て現在の姿に進化しました。6600万年前の白亜紀末に殆どの恐竜は絶滅しますが、恐竜の末裔である鳥類は飛べたので、大絶滅を生き延びたのでしょう。

恐竜の見分け方を知っていますか?

どんな恐竜を知っていますか?

誰でも小さい頃、恐竜の図鑑を見たことがあるでしょう。恐竜図鑑には、ティラノサウルス、トリケラトプス、ブラキオサウルス、イグアノドン、ステゴサウルス、プテラノドン、イクチオサウルス、プレシオサウルス、ディメトロドン、アンティオサウルス、シレサウルス、モササウルス、パレイアサウルスなどが描かれています。しかしその中には厳密には恐竜ではないものも含まれています。

恐竜とはどんな動物?

恐竜とは直立歩行をする爬虫類です。直立歩行とは脚が関節で曲がらず直立している歩行です。ワニのように這いつくばって歩く生物は肘が曲がっているので、直立歩行をしていません。ネコやイヌは直立歩行をしています。ちなみに爬虫類というのは正式な分類ではなく、爬虫類は正式には竜弓類といいます。

恐竜と恐竜でないものを見分けられるでしょうか?

恐竜名の多くには語尾に「サウルス」がついています。しかし「サウルス」というのはオオトカゲを意味するのもので、必ずしも恐竜であるとは限りません。ティラノサウルスは獣脚類のコエルロサウルス類、トリケラトプスは鳥盤類の周飾頭類、ブラキオサウルスは竜脚類、イグアノドンは鳥盤類の鳥脚類、ステゴサウルスは鳥盤類の装盾類の剣竜類の動物で、これらはすべて恐竜です。しかし先ほど挙げたプテラノドン以下の古生物は厳密には恐竜ではありません。

プテラノドンは翼竜類、イクチオサウルスは魚竜類、プレシオサウルスは首長竜、ディメトロドンは盤竜類、アンティオサウルスは獣弓類、シレサウルスは主竜類、モササウルスは有鱗類、パレイアサウルスは無弓類の動物で、これらはすべて直立歩行しないので恐竜ではありません。これらの古代生物がどんな親戚関係であるのかは系統樹で分かります。しかし多くの古代生物のDNAは分からないので、系統樹は形態学的な推定で作られています。

 

プライス博士の進化の方程式

私たちが持続的に生活していくには、様々な生物資源の管理と生態系の保護が必要です。生態系を豊かにしたのは、永い生物の進化の歴史です。生態系を理解するには進化の理解が欠かせません。ところで進化とは、どんなプロセスでしょうか?

進化は、変異、遺伝、選択の3つの過程によって成立しています。生物は、限られた食料と配偶者をめぐって生存競争をしています。遺伝子の突然変異によって、生存と繁殖に有利になり、適応力を高めた固体は、生存競争に勝って、多くの子孫を残します。その子孫は親の遺伝子を受け継ぎ、適応力の高い固体となります。

進化とは、適応力の高い固体に生じた遺伝子の変異が蓄積して、新たな種を生成することです。自然環境が適応力の高い生物の生存率や繁殖率を高めること自然選択といいます。生物が新しい形質を獲得していく機構を表したのが進化の方程式です。形質と言うのは、体長、眼の色、骨格、葉の形など、生物の色々な特徴のことです。

進化の方程式には色々ありますが、その中で有名なプライスの共分散方程式を紹介します。ジョ-ジ・プライス博士は生物群の世代交代による形質zの変化に関する共分散方程式

を発見しました。ここでE(w)は平均適応度、∆E(z)は形質の平均的な変化量、Cov(w,z)は適応度と形質の共分散、E(w∆z)は遺伝する形質変化を表しています。zは形質を何らかの形で数値化した変数です。この式は、形質の変化は形質に働く選択項と形質変化の遺伝項の和で書けることを示しています。変異は一定の割合で生じると仮定されています。以下に記号の定義を記します。

ここでwiは固体iの適応度、ziは固体iの形質zの値、piは固体iが形質ziを取る確率を示しています。さてプライスの共分散方程式を導出しましょう。形質の平均的な変化量∆E(z)は

と書けます。適応度は子孫を残せる率に係る数値ですから、個体iの次世代の形質z’iを持つ確率p’i

と考えられます。なぜならそれは前の世代の形質zを持つ確率piが適応度wiだけ増えるからです。E(w)で除することでp’iの確率保存

が成り立っています。p’iを上式に代入すると、 E(z)=0 として、

が得られます。Cov(w,z)は世代交代による適応度の変化による選択的な形質変化量、E(w∆z)は形質変化Δzが適応度wによって受け継がれる遺伝的な形質変化量を表しています。
上式の第二項を無視し、z=wとすると、

となり、平均適応度の変化∆E(w)は常に正となることが分かります。これは自然選択の第一法則と呼ばれています。そのためプライス方程式の第一項は自然選択項と呼ばれています。プライス方程式は、進化の基本方程式と呼ばれ、自然選択説に遺伝の効果を取り入れた特徴があります。この法則は進化学や生態学だけでなく生物資源管理にも適用できそうです。

 ダーウィンは自然選択による進化論(1859年)の提唱者ですが、進化を論じる際に遺伝のことは全く考えていませんでした。遺伝学の祖メンデルは、30歳で物理化学を学ぶためにウィ-ンに留学し、気体反応の法則で有名なゲイリュサックや分子説で有名なアボガドロに会っています。そこで彼は、酸素ガスは2つの酸素原子が結合した分子であることなどを学びました。メンデルの法則(1865年)はAbといった2つの遺伝的要素で一つの形質を表現しています。このように遺伝学は分子説の影響を受けたと考えられています。

社会的ジレンマを解決する方程式?

最近、テレビ番組では、地球温暖化の問題がよく取り上げられています。一般に地球温暖化などの環境問題や公共財の供給問題など、社会的ジレンマを含む問題が解決できないのは、全体にとって有益であっても、個人にとって不利益な行動は実現しにくいからです。しかし全体社会の中の小集団の支持者や利益を分析することで、政策を社会全体に浸透できる可能性があります。近年、社会的な政策は、個別地域に不利益があっても、全体的な政策支持の傾向があれば、実現可能かもしれないと考えられるようになりました。全体的な政策支持の傾向とは何でしょうか?具体的な数理モデルで考えてみましょう。

が得られます。ここでCovは小集団の人数niで重みづけた共分散です。〈xi 〉平均は小集団の人数niで重みづけた平均です。つまり共分散が正で、利得差を凌駕すれば、全体の政策Aの利得は政策Bより大きくなることが示されます。つまり法律や道徳的圧力がなくても、人々が徐々に政策Aを支持する可能性があります。但し小集団間でxiやuiのばらつきがある程度以上ないと、政策の誘導は難しくなる、というところが面白いですね。

プライス博士(George R. Price)は、無神論者で理論的に利他行動の可能性を追求してきたのですが、晩年はキリスト教に帰依して、ホ-ムレスに自分の財産を分け与えるなど利他行動を実践しました。1970年に進化生物学の基本方程式を発見し、1975年53歳のときにうつ病で自殺をしてしまいます。理由はお金がなくなってホームレスを助けることができなくなったから。追悼式に参列したのは、ビル・ハミルトン博士とジョン・メイナード=スミス博士と数人のホ-ムレスだけでした。オレン・ハ-マン教授が「THE PRICE OF ALTRUISM」(利他主義の対価)というプライス博士の伝記を書いています。最後に公式の証明を書いておきましょう。

恐竜博2019が開催中

恐竜博2019が10月14日まで上野の国立科学博物館で開催されています。入場料は大人1600円、高校生以下は600円です。世界で初めて、謎の恐竜デイノケイルスの実物化石と全身復元骨格が公開されています。北海道のむかわ町で発掘されたカムイサウルスの実物化石と全身復元骨格も展示されています。金曜のお昼でもチケット売り場には15分の行列ができていました。常設展ではトリケラトプスやスミロドンの全身復元骨格などを見ることができます。

恐竜博の見学者は男女同数でした。女性も恐竜に興味をもっているのは意外でした。小さい子ども連れの人もいました。子どもたちに、珍しいもの、驚くべきもの、美しいものを見る機会を与えることは、自然や動植物に対する好奇心を育てます。好奇心は学問の種です。なぜなら好奇心をもって触れると、色々な疑問を持ち、想像を巡らせるようになるからです。

小学生の男の子がテーブルに置かれた恐竜の歯を触っていました。隣にいた私はその子に「恐竜の歯はなんで黒いのだろうね?普通、歯は白いでしょう?」と尋ねてみました。それを聞いていたお母さんが感心して、息子に「なんで恐竜の歯は黒いのかしらね?」と聞いていました。もちろんその答えは「その歯は化石だから」です。恐竜の頭蓋骨には、ヒトには見られない、いくつかの大きな穴があります。どうしてなのでしょうか?展示物をよく観察して、小さな疑問を持つこと。これが展示会を楽しむコツです。家に帰って調べてみると、多くのことを学ぶことができます。

フルボ酸鉄でアサリ再生

「森は海の恋人」という本があります。筆者は気仙沼湾の牡蠣漁師の畠山重篤さんです。畠山さんは、海の生物に栄養を供給している森の重要性に気づき、気仙沼に注ぎ込む大川流域の森林形成に尽力してしました。彼は講演会で、広葉樹の葉から生じたフルボ酸が岩から鉄を溶かし込むこと、フルボ酸鉄は川で運ばれ、海藻や貝を育むことを説明していました。

沈没船の周囲に海藻や魚が多いのは鉄が供給されるからだと言われています。しかし通常鉄は海水で酸化され沈殿してしまうので、海藻は鉄を利用できません。フルボ酸鉄は水溶性の2価の鉄Fe2+を供給するので、珪藻は鉄を吸収できます。鉄は珪藻細胞の呼吸系に必要なシトクロムの原料になります。海藻には川からくるフルボ酸鉄が必要であり、海藻を食する貝類や、海藻を住処とする魚を育てます。

 ダムは、飲料水や産業水や電力確保のために建設されますが、森から供給される栄養を堰き止めてしまうため、下流の海は生き物の少ない海になってしまいます。不必要なダムは撤去しなければなりません。しかもダムの底には泥が溜まり、ダムの保水量は低下しています。日本の汚泥の蓄積量は15億m3、廃棄処理費用は14兆円以上と見積もられています。ダムの底泥を安易に山に引き上げると、大雨で流れて大規模な土砂崩れを引き起こしてしまいます。底泥の処理は頭の痛い問題です。

 ダム底泥には有機栄養物とフルボ酸が豊富に含まれています。佐賀大学の兒玉宏樹教授らは、底泥からフルボ酸を取り出し、フルボ酸鉄を用いて海藻の養殖に取り組んでいます。福岡大学の渡辺亮一教授は、木屑と下水汚泥(または食品廃棄物)の発酵処理品と水処理剤として使用されているシリカ・鉄水溶液を混合し、2次発酵させ、安価なフルボ酸鉄シリカのペレット資材を開発しました(特開2018-143907 )。シリカは珪藻にケイ素を供給するために含まれています。そのペレット資材を袋に詰めて海のヘドロの干潟に設置したところ、珪藻が増え、それを食するアサリが顕著に増加し、ヘドロが分解することが確かめられました。

アサリは、濾過摂食者であり、成貝の濾水量は1個体で10L/日と多く、水質浄化と漁獲回復の双方を狙った干潟再生が期待されています。アサリの収量はかつての20万トンから1.4万トンに減少しています。

循環式養液栽培ではアレロパシ-が問題

養液栽培(水耕栽培)とは
近年、安価で高効率なLED光源が利用できるようになり、植物工場では、天候や病虫害の被害に遭いやすい葉野菜(レタス)や果物(イチゴ)などが養液栽培で育てられています。養液栽培は無農薬で栽培できる利点があります。しかし養液栽培では、作物の成長が滞り、収量が低下する問題がありました。これは、成長阻害物質が養液に蓄積し、作物の成長を阻害するからです。従来は定期的に養液を廃棄して、新しいものに交換していました。しかしこれは環境負荷や経済的損失を与えます。活性炭を投入し、成長阻害物質を吸着する方法が提案されましたが、活性炭のコストや使用後の回収・処理について実用的に問題がありました。

鉄のキレート剤とは
作物の成長には、微量の鉄分が必要です。FeSO4などを投入しても、水中の鉄分は酸化・沈殿してしまい植物は利用できません。養液栽培用の鉄養分には、鉄エチレンジアミン四酢酸(=Fe-EDTA)という鉄のキレート剤が用いられています。EDTAはエチレンの両端にある窒素にそれぞれ2つの酢酸(CH3COOH)が付加した構造を有しています。COOH基を多く含む有機物は、金属イオンを捕獲することができます。鉄FeはEDTAの2つの窒素と4つの酸素(=COOH基中のOH基の酸素)に取り囲まれた構造をしています。自然界では、Feをキレ-トしたフルボ酸の形で鉄分が供給されています。EDTAが用いられるのは、それはフルボ酸よりずっと単純な構造をしているので合成が容易だからです。

直流電気分解法(特許第5177739号)とは
2007年に島根大学の浅尾俊樹教授は、養液に直流電流を流し、成長阻害物質を電気分解して、養液栽培作物の収量低下を防止する手法を提案しました。正極にはフェライト(酸化鉄)の棒、負極にはチタン板が用いられています。電圧は10V、電流は0.6A程度です。養液中の微生物が分解する安息香酸は20%未満であるのに対し、一日の通電で80%以上の安息香酸が分解します。
しかしその栽培方法では、電気分解で鉄のキレート剤が分解してしまうので、電気分解を行った後に養液を補充しなければなりませんでした。また通電により培養液の温度が10℃程度上昇し、根が腐敗し易くなるとともに、電気分解を続けることで負極に、リン、鉄やカルシウム等が析出という課題がありました。

交流電気分解法(JP2016-208862)とは
2016年に浅尾教授は、交流電気分解法を提案し、培養液中の成長阻害物質(特に安息香酸)を電気分解することによって、培養液の温度上昇を抑えつつ、培養液中の養分の分解を防止することに成功しました。

交流電気分解法の実験結果
イチゴの養液栽培実験に用いた交流は電流値2A、電圧14V、周波数500〜1000Hzです。家庭用交流の10倍~20倍の周波数にするのがポイントです。2〜3週間に一度、24時間以上電気分解することにより、培養液に蓄積される成長阻害物質の濃度上昇を防止できます。500Hzでは温度上昇はありませんが、1000Hzでは4℃上昇します。安息香酸の濃度は24時間の直流通電で33%減、交流通電で100%減少しました。通電による電気伝導率やpHの変化はありませんでした。直流通電では鉄とカルシウムなどミネラルの減少が見られましたが、交流通電ではミネラルの減少がなく、直流通電法より20%の増収が得られました。

アレロパシ-と連作障害

アレロパシ-とは
アレロパシ-(Allelopathy)は植物が分泌する化学物質によって近隣植物の発芽、成長、結実などの生理現象を抑制する他感作用のことです。これは1937年にオーストリアの植物学者ハンス・モーリッシュにより提唱された用語です。多くの植物は、自種群落を拡大させるために、根から成長阻害物質を分泌して、他の植物の侵入を妨げています。成長阻害物質に対する感受性は植物種によって違います。

連作障害とは
連作障害は同一作物を連続して栽培すると収穫量が低下する現象です。その原因は、栄養供給の不足、ウィルスや微生物や土壌線虫の感染、化学物質、土壌の物理的変化などの影響など多岐にわたり、作物毎に違っています。化学物質は植物自身が分泌する成長阻害物質と他生物残渣の分解産物によるものがあります。アレロパシ-は連作障害の大きな一因になっています。

様々の成長阻害物質
作物の成長阻害物質としては、パセリではアジピン酸、セロリでは乳酸、イネではモミラクトン、ミツバではコハク酸や安息香酸、レタスではパニリン酸や安息香酸、葉ゴボウではコハク酸、春菊やチンゲン菜やケ-ルでは安息香酸やパラヒドロキシ安息香酸やコハク酸があります。被覆植物のヘアリーベッチは根からシアナミド、クルミは葉や根からユグロン、サクラは葉からクマリンを出します。桜餅はクマリンの抗菌作用が用いられています。アレロパシ-は、除草剤や病害抑制剤への利用の観点から、注目されています。またコンパニオン植物は、アレロケミカルを用いて、相互に成長を促進したり、他植物の侵入を防ぐと言われています。

安息香酸(Benzonic acid)とは
安息香酸はベンゼン環にCOOH基が付加した構造をしており、マーガリンや清涼飲料水や醤油に保存料として用いられています。安息香酸は、植物の成長ホルモンであるオ-キシンの作用を阻害するため、イチゴ、レタス、トマト、ナス、キュウリ、ピーマン、ホウレンソウ、コマツナなど幅広い作物でアレロパシ-効果が確認されてます。

アレロパシ-物質や活性の測定方法
プラントボックス法は寒天中で植物を混植し、根から出る物質を検定する方法です。サンドイッチ法は葉から出るアレロパシ-の程度を評価する方法です。これは寒天の培地で、乾燥粉砕した植物の葉などの試料を挟み、培地の上に検査する植物の種を播き、種子根の伸長抑制程度から判定する方法です。

ブナ科13種の葉の水抽出物がレタスの根の伸長をどれだけ阻害するかをサンドイッチ法で調べた結果があります(藤井義晴:農業環境技術研究所)。阻害の程度は、アベマキ(85%), クリ(56%), コナラ(50%)、アカカシワ(40%)、クヌギ(37%)、トチュウ(34%)、ウバメガシ(32%)、アラカシ(28%)、イヌブナ(24%)、アカガシ(19%)、スダジイ(-4%)、ブナ(-7%)、マテバシイ(-9%)。これらを見るとアベマキにはやや強い阻害作用がありますが、ブナやシイの葉は殆どレタスの根の伸張を抑制する作用をもっていません。しかし、ブナ自身の芽生えの成長に対するブナ葉の水抽出物の効果はまだ調べられていないようです。


自家中毒現象
アレロパシ-で面白いのは自家中毒現象(Autotoxication)です。自家中毒現象は、植物の密度が高くなると、他の植物の成長を抑制する物質が自植物の成長をも抑制してしまう現象です。植物は、自種を繁殖させるために、種を遠くに拡散させる様々な手法を発展させてきました。しかし多くの種は親植物の生育地点に留まります。もしそれらの種が発芽して成長すると、親植物の生存を脅かしてしまいます。植物が根から成長阻害物質を出す理由は、自分の種が傍で発芽しないように、自分の身を守るためと考えられます。つまり本来アレロパシ-は攻撃策ではなく防御策ではないか、という考え方です。 種を遠くに飛ばせない植物は、成長阻害物質を分泌し、種を遠くに飛ばせる植物は、成長阻害物質を分泌しないと考える専門家もいます。

アルドラ-ゼについて

解糖系の第4ステップの酵素は、フルクト-ス・1.6ビス・リン酸(=FBP)を2つのC3化合物に分解するアルドラーゼ(Aldolase)です。タンパク質デ-タバンク(PDB)でこの酵素の構造について調べ、反応機構を推測しました。

PDB番号4ALD(1998年)にヒトの筋肉の解糖系のアルドラ-ゼ酵素(FBPを含む)のデ-タがありました。ヒトの筋肉のアルドラ-ゼは363個のアミノ酸からなるタンパク質です(EC4.1.2.13)。

今回はRasMolという無料ソフトウエアで、タンパク質デ-タを描画し、周囲のアミノ酸を確認しました。例えばLys229を表示する場合、コマンドラインでRasMol>Select [Lys]229:Aと打ち込んで選択し、メニュ-でstick&Ballを選んでLys229を表示させます。

FBPフルクト-スは、酵素の反応ポケットに取り込まれ、10個程度のアミノ酸で取り囲まれ、水素結合で固定されています。229番目のリジンと33番のアスパラギン酸の触媒作用によって、FBPは2つのC3化合物に分解すると考えられます。

2つのC3化合物とは、ジヒドロキシ・アセトンリン酸(=DHAP)とグリセル・アルデヒト3リン酸(=GAP)のことです。こうした化合物の名前は、慣れるまで、発音するのも難しいです。

下図に示すように、酵素反応は4段階からなると考えられます。

最初にアルドラーゼに嵌まり込んだBFPフルクト-スは、開環し、FBPのC2炭素のカルボニル基(C=O)がリジン229のアミノ基(NH2)と脱水反応し、シッフ結合します。その結果C2炭素はC=OからC=N+Hのイミン状態に変化し、リジンと結合します。

私たちの血管が老化するのは、血管壁のコラ-ゲン・ペプチドが糖と反応してシッフ結合を形成するからだと思います。そういう意味でもこれは健康に関わりの深い反応です。

次にアスパラギン酸33のカルボキシル基(COO)がBFPフルクト-スのC4炭素のOH基からHを奪います。それによってC4炭素に電子が供給され、C3とC4の間の結合がアルド-ル開裂し、グリセルアルデヒト3リン酸(GAP)が生成れ、ポケットから離脱します。

ポケットに残った化合物はエナミン状態になっていますが、アスパラギン酸のCOOH基からHを供給されると、C2炭素は元のイミン状態(C=N+H)に戻ります。最後に加水分解により、シッフ結合が解けて、C2炭素はC=Oに戻り、グリセル・アルデヒト3リン酸(GAP)となって、反応ポケットから離脱します。

次の第5ステップではDHAPはGAPに変化します。つまり1分子のグルコ-スから2分子のGAPができます。フルクト-スを分解することで、後半の反応が1本化できます。もしグルコ-スを分解すると、G2化合物とG4化合物となってしまい、後半の反応が1本化できません。

これで解糖系の前半は終了します。前半はグルコ-ス1分子に対して2分子のATPを消費しました。後半では4分子のATPを生産します。結局、解糖系全体では2分子のATPが得られます。解糖系は殆どすべての生物に見られる古い代謝系です。

甘利山に咲く花々

8月25日に山梨県韮崎市にある甘利山(1731m)に散策に行きました。甘利は江戸時代のこの土地の領主の名前です。甘利山は韮崎市から車で40分ほど登ったところにあります。ツツジ苑というカフェの傍の駐車場に車を停め、歩いて30分で山頂に到着しました。

下界は30℃を超える猛暑ですが、ここは涼しくて最高です。途中の見晴らしもよく、高山植物のお花畑の上をカラスアゲハなどの美しい蝶が舞っていました。

甘利山の花々は一風変わっていますが、一緒に咲いているととても綺麗です。ウツボ草は下から花が咲きます。ウツボ草の名は、花穂が矢を入れる筒、靫(うつぼ)に似ていることに由来しています。花の名前は、覚えにくいものが多いです。私が撮影した花々の一部を紹介します。

吾亦紅(ワレモコウ)の花は、小さな花の集合花で、これでもバラ科です。吾亦紅の名の由来には、諸説ありますが、茶褐色で目立たない花が自分も紅色だと控えめに主張しているという説があります。花の名前を覚えるには、名前の由来を聞く必要がありそうですね。

田村草は、棘のないアザミで、茎に鰭がある固有種です。由来は不明ですが、多くの紫色の花を付けるところから「多紫草」が訛って「タムラ」になったとも考えられています。花言葉は「あなただけが好き」だそうです。

マツムシ草の名の由来は、マツムシが鳴く頃に咲くからということです。花言葉は「私はすべてを失った」だそうです。綺麗な花なので持っていかれそうです。自然保護のためには、こちらの方がいいのかもしれません。

ハクサンフウロの由来は、三霊山の一つ白山に咲いている花で、風露とは風に揺れる朝露のことです。花に筋があり、中央部には10本の紫色の雄しべが放射状に並んでいます。よく見ると、とてもきれいな花です。

甘利山はツツジの名所として知られ、春には観光客で賑わいます。夏のこの時期には、観光客は20名ほどでした。赤ちゃんを抱いてきている人もいました。韮崎高校の科学部の学生さんたちが蝶と地質調査に来ていました。ツツジの減少と土の酸性度との関係を調べているようです。

ホスホフルクトキナーゼについて

ホスホ・フルクト・キナーゼ (PFK, phosphofructokinase) は、解糖系の第3段階の反応を触媒する酵素です。生体内では4量体で存在します。

PFK酵素は、フルクトース6-リン酸(=F6P)にリン酸を加えて、フルクトース1,6-二リン酸(=F-1.6-BP)を合成します。これは解糖系の不可逆反応の一つです。PFKは解糖の重要な律速酵素の一つになっています。

反応前後の標準自由エネルギ変化はΔG0’=-17.2kJ/mol、生体内ではΔG=-25.9kJ/molで、反応は一方向に進みやすくなっています。ADPなどの分子エフェクタがPFK酵素のアロステリック制御部位に結合すると、酵素全体の構造が変化して、合成反応が促進されます。ADPやcAMPや反応生成物であるF-1,6-BPはPFK酵素を活性化し、ATPやH+やクエン酸はPFK酵素を抑制します。

実際にどのように反応が進むのでしょうか?

図1にリン酸フルクトキナ-ゼの活性中心にあるフルクトース6-リン酸とADPの配置を示します。これはタンパク質デ-タバンクにあるX線解析による構造であり、実際はADPの先にリン酸基がついたATPとF6Pが反応します。ATPとF6Pは非常に近い位置にあることが推測できます。また緑の原子はMg2+イオンを表しています。Mgイオンは負に帯電したリン酸基を中和して、反応を起こりやすくする働きがあります。

図2にADPに水素結合するアミノ酸を示します。ADPのP=O部の酸素Oとアスパラギン酸103のアミノ基NH2は水素結合をしています。ATPにおいても同様にP=Oとアミノ基の水素結合が生じると考えられます。このアミノ基が水素を引き抜くと、P=O部の二重結合が解けて、電子を欠乏したPが他の電子を有する原子と結合しやすくなります。

図3にフルクト-ス6リン酸に水素結合するアミノ酸を示します。F6PのC1炭素の:OH基は孤立電子対を有しており、OはPと結合しやすい状態になっています。またOH基はメチオニン169の硫黄Sと水素結合をしています。この硫黄SがOH基のHを引き抜くと、C1炭素の酸素Oは直ちにPと共有結合を形成します。このように、生体内では酵素のアミノ酸の助けを借りて、化学反応が円滑に進行していると考えられます。

ちなみにヒトの PFKには、筋肉 muscle、肝臓 liver、血小板 platelet 型の 3 つがあり、それぞれ PFKM, PFKL, PFKP と呼ばれています。PFK の変異による病気に垂井(たるい)病があります。これは筋力の低下、溶血などを伴う病気です。多くのガンでPFKの活性が高いことから、PKFとガンとの関わりが注目されています。

グルコース6リン酸イソメラーゼについて

解糖系の2つめの解糖ステップでは、グルコース-6-リン酸イソメラーゼ(図1)により、グルコース-6-リン酸がフルクトース-6-リン酸に異性化されます。つまり酵素の中で6印環が5印環に変化します。この反応は自由エネルギ変化が小さいため、どちらの方向にも進みますが、フルクトース-6-リン酸は不可逆的に消費されるので逆反応は起こりにくいようです。標準自由エネルギ変化はΔG0’=+2.2kJ/molですが、生体内ではΔG=-1.4kJ/molと小さくなっています。

このような異性化反応は、酵素の反応中心を構成するアミノ酸が重要な役割を果たしています。タンパク質デ-タバンク(ID=4QFH)でイソメラ-ゼの構造を調べてみました。

図2、.図3にグルコ-ス6リン酸と水素結合するアミノ酸を示します。簡単のため、水素は表示されていません。グルコ-スの6印環の酸素Oに水素結合しているのは、44番目のヒスチジン(His443)のNH(青)です。右隣のC1炭素の酸素(赤)に結合しているのが572番目のリジン(Lys572)のアミノ基NH2(青)です。412番目のグルタミン酸(Glu412)がグルコ-スの6印環の2つのOH基と水素結合しています。リン酸も周囲の他のアミノ酸と水素結合で固定されています。

どうやって6印環から5印環に変化させるのでしょうか?
イソメラーゼのアミノ酸であるHis443は、6印環の酸素Oに水素Hを与え、グルコース 6-リン酸を開環し、直鎖構造(αアノマー)に変えます。Lys572はC1炭素のOH基から水素を奪い、C1炭素をアルデヒド基(CHO基)に変えます。さらにグルコ-スのカルボニル基(C=O基)がC1炭素からC2炭素へ移動することで、アルドースはケトースへと転換されます。最後に、6印環の酸素OがC2炭素と求核反応により結合して5印環のフルクト-スになり、水素結合が外れます。

どうしてフルクト-スを経由するのでしょうか?
フルクトースを経由すると代謝に用いる酵素の種類を少なくて済みます。脂肪酸のβ-酸化で見られるように、炭水化物が分解される場合、カルボニル基のβ位(C2とC3の間)で切断されます。これはカルボニル基の酸素の電子吸引性のためβ位の炭素が活性化されているためです。グルコース-6-リン酸(C6化合物)の場合、C-C結合をβ位で切断するとC2とC4の化合物が生じます。一方、フルクトース-6-リン酸であれば、2つのC3化合物が生じます。この一方(ジヒドロキシアセトンリン酸)を異性化して同じ分子(グリセルアルデヒド-3-リン酸)にすることによって、以後の解糖代謝経路を一本化できる利点があるのです。

ヘキソキナーゼ酵素の働きについて

図1に筋肉にあるヘキソキナーゼⅠ(hexokinase)の外観モデルを示します。EC番号2.7.1.1は転移酵素でリン酸を移すものを表しています。ヘキソキナーゼはATPの末端のリン酸基をヘキソース(6単糖)のOH基に転移させる酵素です。ヒトのヘキソキナーゼはアミノ酸残基数が917個、原子数は7,056個です。2回回転対称性(C2)があります。

ヘキソキナーゼが活性化するにはMg2+が必要です。Mg2+がATPのリン酸基に配位結合すると、リン酸のマイナス電荷が減って、ヘキソースのOH基がPを求核反応しやすくなるからです。
・Hexose-CH2OH +MgATP2− → Hexose-CH2O-PO32−+MgADP+ H+

図2と図3にヘキソキナーゼの空洞部分に結合したグルコ-スとリン酸のリガンド配位図を示します。これらの3次元モデル図は、タンパク質デ-タバンク(PDB)のウエッブサイトにて無料で得られます。ヘキソキナーゼⅠのPDB-IDは1HKCです。ヘキソキナーゼは、グルコ-スとATPを取り入れると、両者を接近させるように変化します。それによってATPが加水分解しないように水分子を遮断する働きもしています。

BGC918は919番目のグルコ-スを、PO4919は919番目のリン酸を表しています。重要なことは、ヘキソースのOH基がリン酸に最も近い位置にあることです。G233は233番目のグリシン、S88は88番目のセリン、T232は232番目のトレオニン、I229は229番目のイソロイシン、F156は156番目のフェニルアラニンを表しています。他にもプロリンP157、アスパラギンN235、グルタミン酸E294、グルタミンQ291などが見られます。

グルコ-スやリン酸は周囲のアミノ酸と水素結合をしています。つまりグルコ-スのOH基(赤)やリン酸基の酸素(赤)は、周囲のアミノ酸のCOOH基のOH部分(赤)やNH2基(青)と水素結合(青色破線)をしています。アミノ酸同士は疎水性相互作用などもしています。

殆どすべての酵素が、どのように反応物質を保持して反応させているかが誰でも簡単に確かめられる時代になったのです。