生理的黄疸と重症黄疸との違いは何ですか?

生まれたばかりの新生児の血液には赤血球(ヘモグロビン)がたくさん含まれており、生まれると同時にこれらの大量の赤血球が脾臓で徐々に分解されるため、ビリルビン(Bilirubin)が一時的に増加し皮膚が黄色くなります。特に新生児の血液は血糖値が低いので壊れ易いのです。新生児期は肝臓の働きが十分ではないため大量のビリルビンを処理しきれず、黄疸が現れてしまうのです。こうした生理的黄疸は生後1週間経つと肝臓の働きがよくなり自然に消失していきます。

ビリルビンはヘモグロビンの分解生成物です。ヘモグロビンはヘム鉄とグロビンからなり、グロビンはたんぱく質でアミノ酸に分解されます。ヘム鉄はポルフィリン環の4つの窒素にFeが結合した構造をしています。ヘムオキシゲナーゼ(HMOX)によりヘム鉄から鉄を抜いてポルフィリン環を開環するとビリベルジンに分解されます。さらにNADPHでビリベルジンを還元したのがビリルビンです。ビリルビンは4つのピロール環のチェーン構造をしています。光に晒すとビリルビンの二重結合が異性化する性質を利用して新生児の黄疸に光線療法が施されています。ビリルビンは水に溶けないのでアルブミンというたんぱく質と結合させて血中を移動し、肝臓で処理されます。

重症黄疸とは血中のビリルビン濃度が病的に高い状態です。ビリルビンには結合ビリルビンと遊離ビリルビンがあります。遊離ビリルビンは、脳細胞のガングリオンという脂質との親和性が高く、特異的に中枢神経細胞を侵し、重症黄疸では脳性麻痺を引き起こします。ビリルビンは解糖系の酵素反応を阻害するので、脳におけるエネルギ産生を減少させます。

結合ビリルビンはアルブミンと結合したビリルビンです。肝臓でグルクロン酸と抱合して、無毒な水溶性の抱合型ビリルビンとなり、肝臓から腸管に排出されます。グルクロン酸とはグルコ-ス(糖)にCOOHが結合した酸です。包摂型ビリルビンは腸内細菌によって水酸化され、より水溶性の高いウロビリノーゲンとなり一部はウロビリン(=尿の黄色色素)となり尿として排泄され、大部分はステルコビリン(=便の茶色色素)に変えられ便中に排泄されます。

しかし排出が遅れると、便中のビリルビンは腸管より再吸収、腸肝循環されるので、血中ビリルビン濃度が上昇します。新生児の腸内細菌は少ないので便の形成には2~3日かかります。低体温になると腸の血流が低下し消化時間がかかり便秘になり黄疸が重症化します。重症黄疸を防止するには、体温を37℃に維持し、早めに粉ミルクを与えて、12時間以内に便を排出させるのが望ましいのです。

 遊離ビリルビンはどうして増えるのですか?

栄養不足で脱水状態の赤ちゃんは、脂肪が分解されて血中の遊離脂肪酸(FFA)が増えています。遊離脂肪酸はビリルビンよりもタンパク質と強く結合するため、飢餓状態ではビリルビンがタンパク質と結合できなくなり、遊離ビリルビンが増加します。

脳内血管壁の細胞は密に接合されているために水溶性物質や高分子量の物質が血管外の脳細胞に拡散できないので、血液脳関門と呼ばれています。新生児は血液-脳関門が未発達なので、血中の遊離ビリルビンは血液-脳関門を通り、脳神経細胞に害を与えます。それが聴覚細胞であれば、難聴を引き起こします。

WHOやユニセフが推奨する完全母乳は、母乳が出ない3日間、新生児を飢餓状態にするので、血中の遊離脂肪酸が増加し、神経毒を持った遊離ビリルビンが脳神経細胞を侵すのを促進してしまいます。完全母乳栄養の場合、生後4日目の赤ちゃんの血中総ビリルビン値は12.8mg/dlと高値です。それに対して体温管理と栄養管理(超早期経口栄養)をしている産院では、血中総ビリルビン値は5.7mg/dlと低値で、この10年間の約5,000例で重症黄疸は発症していません。

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