感染率が少ない状況では感染検査は意味がない

感染率が少ない状況では、感染検査(偽陽性率20%)をしても陽性者の99.95%は感染していない偽陽性者です。偽陽性率2%の優れた検査法を用いても、陽性者の99.5%は感染していない偽陽性者であることが分かります。ベイズの定理を使って証明してみましょう。

[問題]人口1億人の国で1万人がある感染症に罹っています。この感染症の罹患(りかん)率は0.01%です。今、偽陽性率が20%、偽陰性率が2%の感染試験法があります。Xを罹患あり、X(―)を罹患なしの確率変数とします。Yを陽性の確率変数、Y(―)を陰性の確率変数とします。

 

 陽性(Y)

 陰性(Y(―))

 罹患有(X)

  98%

 2%(偽陰性)

 罹患無(X(―))

 20%(偽陽性)

  80%

1)陽性確率P(Y)はいくつですか?

2)陽性者が罹患者である確率P(X|Y)はいくつですか?


・偽陽性率とは罹患していない人を罹患している(陽性)と判定する確率です。

・偽陰性率とは罹患している人を罹患していない(陰性)と判定する確率です。

この感染症の罹患(りかん)率は0.01%ですから、

・P(X)=0.0001、P(X(―))=0.9999

罹患者かつ陽性者である確率をP(X,Y)と表します。P(X,Y)=P(Y,X)=P(X∩Y)

罹患者が陽性者である確率をP(Y|X)と表します。

 

 陽性(Y)

 陰性(Y(―))

 罹患有(X)

  P(Y|X)

 P(Y(―)|X)

 罹患無(X(―))

 P(Y|X(―))

 P(Y(―)|X(―))

罹患者かつ陽性者である確率P(X,Y)は、罹患者である確率P(X)と罹患者が陽性者である確率P(Y|X)の積で表されます。乗法定理

・P(Y,X)=P(Y|X) P(X) =P(X|Y) P(Y)

が成り立ちます。これを変形し

・P(Y|X)=P(Y,X)/P(X)=P(X|Y) P(Y) /P(X)

と表したものをベイズの定理と呼びます。加法定理は

・P(Y)=P(Y,X+X(―))=P(Y,X)+P(Y,X(―))

です。陽性者は陽性判定された罹患者と陽性判定された非罹患者からなります。

乗法定理より、陽性者である確率P(Y)は

・P(Y)=P(Y|X) P(X)+P(Y|X(―)) P(X(―))=0.98・0.0001+0.20・0.9999=0.200096

と表され、ほぼ20%です。陽性者が罹患者である確率P(X|Y)は

・P(X|Y)=P(Y|X) P(X)/P(Y)=0.98・0.0001/0.200096≒0.0005

つまり0.05%です。つまり罹患率0.01%の感染症が、感染試験によって5倍の確率で感染症を見つけることができるようになったことが分かります。逆に言えば感染率が少ない状況では感染試験をしても陽性者の99.95%は感染していない偽陽性者であることが分かります。

[コメント]

罹患Xが原因、陽性Yが結果だと考えると、P(Y|X)は原因が生じた下での結果が起こる順確率を表しています。つまり罹患者が陽性者である確率98%を表しています。一方でP(X|Y)は結果が起こった下での原因が生じた逆確率を表しています。つまり陽性者が罹患者である確率0.05%を表しています。

ベイズの定理: 

・P(X|Y)=[P(Y|X)/P(Y)]×P(X)

は逆確率を順確率で表現する方法を与えています。事後確率P(X|Y)は事前確率P(X)の[P(Y|X)/P(Y)]倍になります。

偽陽性の確率が2%のときは、陽性者が少なくなり

・P(Y)=P(Y|X) P(X)+P(Y|X(―)) P(X(―))=0.98・0.0001+0.02・0.9999≒0.02

・P(X|Y)=P(Y|X) P(X)/P(Y)=0.98・0.0001/0.02≒0.005=0.5%

つまり罹患率0.01%の感染症が、感染試験によって50倍の確率で感染症を見つけることができるようになったことが分かります。しかし陽性者の99.5%は感染していない偽陽性者であることが分かります。

マンゴルトの明示公式の導出

<マンゴルトの明示公式>

前回チェビシェブ関数の積分表示

   Ψ*(x)=-1/2πi・∫[c-i∞、c+i∞] ζ'(s)/ζ(s)・xs/s ds

を求めました。今回は積分を実行し、マンゴルトの明示公式を導出します。

 fx(s)=ζ'(s)/ζ(s)・xs/s

とおくと

 Ψ*(x)=-1/2πi・∫[c-i∞、c+i∞] fx(s)ds=-1/2πi・∫C1 fx(s)ds

となります。この複素積分を閉曲線C(c,T,R)

 C(c,T,R)=C1[c-Ti、c+Ti]+C2[c+Ti、-R+Ti]+C3[-R+Ti、-R -Ti]+C4[-R-Ti、c-Ti]

に拡張すると、

 lim[R,T→∞]C2 fx(s)ds=lim[R,T→∞]C3 fx(s)ds=lim[R,T→∞]C4 fx(s)ds=0

となるので、

 Ψ*(x)=-1/2πi・∫[c-i∞、c+i∞] fx(s)ds

    =-1/2πi・lim[R,T→∞]C(c,T,Rfx(s)ds

となります。閉曲線内に含まれるfx(s)の極の留数を計算すれば、Ψ*(x)を求めることができます。

<マンゴルトの明示公式>

チェビシェフの素数pの階段関数

 Ψ*(x)=Σ[n≦x]Λ(n)=Σ[pm≦x] log(p)

に関して

 Ψ*(x)=x-1/2・log(1-x-2)-log 2π-Σ’ρ∊Z0 xρ

がなりたつ。ここでZ0={s|ζ(s)=0なる非自明な零点}である。マンゴルトの明示公式は、素数の分布を表す階段関数Ψ*(x)がゼ-タ関数の非自明な零点の和を含むxの解析関数によって書かれているという不思議な公式です。

閉曲線内の

 fx(s)=ζ'(s)/ζ(s)・xs/s

の零点は、ρ=1、-2n、0、ρiの4種類あります。

まずζ'(s)/ζ(s)の留数を考えます。

 ζ(s)~1/(s-1)+・・

 ζ'(s)~-1/(s-1)2+・・

 ζ'(s)/ζ(s)~-1/(s-1)+・・

なので、極をρとすると、位数Ord(ζ,ρ)について

 Res(ζ’/ζ,ρ)=Ord(ζ,ρ)

が成り立ちます。偏角の原理より、留数は

 Res(ζ'(s)/ζ(s)・xs/s,ρ)=Ord(ζ,ρ) xρ

となります。

1)s=1の留数

 Ord(ζ,1)=-1となります。

 Res(ζ'(s)/ζ(s)・xs/s,ρ=1)=Ord(ζ,1) x1/1=-x

2)s=-2nの留数

 Res(ζ'(s)/ζ(s)・xs/s,ρ=-2n)=Ord(ζ,1) x-2n/(-2n)

R→∞でN→∞となるので

 -lim[N→∞]Σn=1~N x-2n/(-2n)=1/2・log(1-x-2)

3)s=0の留数

  Res(ζ'(s)/ζ(s)・xs/s,ρ=0)=ζ'(0)/ζ(0)=log(2π)

  ζ(0)=-1/2、ζ’(0)=-1/2・log(2π)

4)sの非自明な零点ρiの留数

 Res(ζ'(s)/ζ(s)・xs/s,ρ=ρi)=Ord(ζ,ρi) xρi i

T→∞でN→∞となるので

 lim[N→∞]Σi=1~N Ord(ζ,ρi) xρi i=Σ’ρ∊Z0 xρ

Σ’ρ∊Z0は非自明な零点ρでの位数がmの場合m回和をとると言う意味です。

以上から、マンゴルトの明示公式

 Ψ*(x)=-1/2πi・∫[c-i∞、c+i∞] fx(s)ds

    =-1/2πi・lim[R,T→∞]C(c,T,Rfx(s)ds

    =-1/2πi・2πi・(-x+1/2・log(1-x-2)+log 2π+Σ’ρ∊Z0 xρ /ρ)

   =x-1/2・log(1-x-2)-log 2π-Σ’ρ∊Z0 xρ

が成り立ちます。

偏角原理とは、z=z0でm位の特異点をもちそれ以外で正則な関数f(z)に関して

 Res(f’/f,z0)=Ord(f,z0)=m

が成り立つ定理です。f(z)は、z=z0で特異点をもたない正則関数g(z)を用いて

 f(z)=(z-z0)m・g(z)

と書けます。このとき、

 f'(z) /f(z)=[m(z-z0)m1・g(z)+(z-z0)m・g'(z)]/ (z-z0)m・g(z)

     =m/(z-z0)+g'(z)/ g(z)

なので、f'(z) /f(z)はz=z0で1位の極を持つことがわかり

 Res(f’/f,z0) =m=Ord(f,z0)

が成り立ちます。

マンゴルト関数Λ(n)とチェビシェフ関数Ψ(x)

<マンゴルト関数Λ(n)とチェビシェフ関数Ψ(x)>

自然数nに対して、マンゴルト関数Λ(n)を

  Λ(n)=log(p) if n=pm,  otherwise 0

と定義します。ここでpは素数です。具体的には

 Λ(1)=0、Λ(2)=log2、Λ(3)=log3、Λ(4)=Λ(22)=log2、Λ(5)=log5、

 Λ(6)=Λ(2・3)=0、Λ(7)=log7、Λ(8)=Λ(23)=log2、Λ(9)=Λ(32)=log3、

 Λ(10)=Λ(2・5)=0、Λ(11)=log11、Λ(12)=Λ(2・2・3)=0、・・・

です。単一の素数のべき乗でのみΛ値がゼロではありません。

実数xに対して、チェビシェフ関数Ψ(x)を

  Ψ(x)=Σ[n≦x]Λ(n)=Σ[pm≦x] log(p)

と定義します。ここでpは素数です。Σ[p^m≦x]は、x以下の素数pの冪乗となっている素数pで和をとることを意味します。Ψ(x)は階段関数です。

x=5とすると

  Ψ(5)=Λ(1)+Λ(2)+Λ(3)+Λ(4)+Λ(5)=0+log2+log3+log2+log5

となります。Ψ(x)のステップアップする点で、ステップアップ部分の中点をとる関数をΨ*(x)と書きます。

  Ψ*(5)=log2+log3+log2+1/2・log5

となります。Ψ*(x)では最後の項が1/2倍になります。x=9の場合は

  Ψ(9)=Λ(1)+Λ(2)+Λ(3)+Λ(4)+Λ(5)+Λ(6)+Λ(7)+Λ(8)+Λ(9)

    =0+log2+log3+log2+log5+0+log7+log2+log3

  Ψ*(9)=log2+log3+log2+log5+log7+log2+1/2・log3

となります。xが素数のべき乗でない場合は、両関数は等しくなります。例えば

  Ψ(1000)=Ψ(997)=Ψ*(1000)

に注意して下さい。

ゼ-タ関数ζ(s)

・ζ(s)=Σn=1~∞ 1/ns=Πp∊P [1-1/ps]1

に関して、

 ζ'(s)/ζ(s)=-Σn=1~∞ Λ(n)/ns

となることを示します。

 ζ'(s)/ζ(s)=(logζ(s))’=-(Σp∊P log [1-1/ps])’

です。ここで、テーラ-展開

 log(1-x)=-Σn=1~∞ (xn/n)

を用いると、

 log [1-1/ps]=-Σn=1~∞ (p-ns/n)

なので、sで微分すると

 ζ'(s)/ζ(s)=(logζ(s))’=Σp∊PΣn=1~∞ (p-ns/n)’

となります。ここで

 (p-ns/n)’= (e-nslog p/n)’=-nlog p・p-ns/n=-log p・p-ns

に注意すると、

 -ζ'(s)/ζ(s)=Σp∊PΣn=1~∞log p・p-ns

     =Σp∊P (log p/ps+log p/p2s+log p/p3s+log p/p4s+・・・)

     =log 2/2s+log 3/3s+log 5/5s+log 7/7s+・・・

               +log 2/22s +log 3/32s+log 5/52s+log 7/72s+・・・

      +log 2/23s+log 3/33s+log 5/53s+log 7/73s+・・・

      +log 2/24s+log 3/34s+log 5/54s+log 7/74s+・・・

     =log 2/2s+log 3/3s+log 2/4s+log 5/5s+log 7/7s+log 2/8s

      +log 3/9s+log 11/11s+log 13/13s +log 2/16s+・・・

     =Σn=1~∞ Λ(n)/ns

が得られました。一般に

 D(s)=Σn=1~∞ an/ns

なる級数をディリクレ級数(Series)といいます。同じ数列anに対する階段関数を

 S(x)=Σ*nx an

とします。ここでΣ*はステップアップ部分は中点をとることを意味します。D(s)とS(x)はペロンの公式で結び付けられています。

<ペロンの公式>

D(s)=Σn=1~∞ an/nsがRe(s)>1で絶対収束するとき、c>1に対して、

 S(x)=1/2πi・∫[c-i∞、c+i∞] D(s)xs/s ds

が成り立つ。これを示します。

Re(s)>0において、

 s∫[n,∞] x-s-1dx=s[x-s /(-s)] [n,∞]=1/ns

が成り立ちます。するとディリクレ級数D(s)はRe(s)>1で絶対収束しており、

 D(s)=Σn=1~∞ an/ns=sΣn=1~∞[n,∞] an x-s-1dx

   =s(∫[1,∞] a1 x-s-1dx+∫[2,∞] a2 x-s-1dx+∫[3,∞] a3 x-s-1dx+・・・)

   =s(∫[1,2] a1 x-s-1dx+∫[2,3] (a1+a2) x-s-1dx+∫[3,4] (a1+a2+a3) x-s-1dx+・・・)

   =s・∫[0,∞] S(x)x-s-1dx

となります。

ここで関数f(x)に対するメリン変換Mf(s)を

  Mf(s)=∫[0,∞] f(x)xs-1dx

と定義します。すると

 D(s)/s=MS(-s)

と表せます。逆メリン変換M-1[・]

 M-1[Mf(s)] (x)=1/2πi・∫[c-i∞、c+i∞] Mf(s)x-s ds=f(x)

を用いると、f(x)をS(x)に置き換えて

 S(x)=1/2πi・∫[c-i∞、c+i∞] MS(s)・x-s ds

   =1/2πi・∫[c-i∞、c+i∞] MS(-s)・xs ds

   =1/2πi・∫[c-i∞、c+i∞] D(s)/s・xs ds

が得られました。結局

 -ζ'(s)/ζ(s)=Σn=1~∞ Λ(n)/ns=D(s)

an=Λ(n)のときのディリクレ級数D(s)になります。

Λ(n)に対する階段関数はΨ*(x)でした。

 S(x)=Σ*nx an=Σ*nxΛ(n)=Ψ*(x)

よって、ペロンの公式より、c>1に対して

 Ψ*(x)=-1/2πi・∫[c-i∞、c+i∞] ζ'(s)/ζ(s)・xs/s ds

が成り立ちます。 次回はこの複素積分を実行し、マンゴルトの明示公式を導出します。

アダマ-ルの積定理から相反定理へ

複素平面全体で正則な関数を整関数といいます。R>0に対して、整関数f(x)の最大値を

 M(R)=max [|z|≦R]|f(z)|

位数pを

 p=lim sup [R→∞] loglog M(R) / logR

とします。すなわちpは

 max [|z|≦R]|f(z)|≦exp(Rp+ε)

が成り立つpの内で最小のものです。

<アダマ-ルの積定理>

整関数f(x)の位数pが有限とする。Z=0をm0位の零点とする。他の零点をa1、a2、a3、・・・とし、その位数をm1、m2、m 3、・・・とする。このときp次以下の多項式g(z)が存在して、

 f(z)=zm0 eg(z) Πn=[1~∞] E(z/an,p)mn

と表せる。ここで

 E(z,0)=1-z、

 E(z,1)=(1-z) exp(z)

E(z,p)=(1-z) exp(z+z2/2+z3/3+・・・+zp/p) p>1

である。

例えば、整関数f(z)=sin(πz)の場合、位数p=1、すなわち

 max [|z|≦R]|sin(πz)|≦exp(R1+ε)

 eiπz=eiπ(-iR)=eπR より、

 |sin(πz)|=1/2・|eiπz+e-iπz|<1/2・|eπR+e-πR|<eπ・eR

です。sin(πz)=0 なるzは整数全体で、z→nで

 sin(πz)/ (z-n)=(-1)n・sin(π(z-n)) / (z-n) → (-1)n

なので、全て1位の零点を有します。n∊Zに対して

 an=n、m0=1、mn=1、g(z)=az+b

です。n≠0で

 sin(πz)=z1・exp(az+b)・Π’n=[-∞~∞] E(z/n,1)1   (n≠0)

 E(z,1)=(1-z) exp(z)

だから、

sin(πz)=z・exp(az+b)・Π’n=[-∞~∞] (1-z/n) exp(z/n)

   =z・exp(az+b)・Πn=[1~∞] (1+z/n) exp(-z/n) (1-z/n) exp(z/n)

   =z・exp(az+b)・Πn=[1~∞] (1-z2/n2)

対数微分をとれば

 π・cos(πz)/ sin(πz)=1/z+a+Σn=[1~∞] 2z/ (z2-n2)

となります。すべて奇関数なので、a=0となります。C=ebと置くと

 sin(πz)=Cz・Πn=[1~∞] (1-z2/n2)

 C=lim[z→0] π・sin(πz)/πz/Πn=[1~∞] (1-z2/n2)=π

よって

 sin(πz)=πz・Πn=[1~∞] (1-z2/n2)

が得られます。確かにz=0、±nのときに零点になっています。

上式を展開すると

 sin(πz)=πz-1/6・(πz)3+1/5!・(πz)5+・・・

    =πz・(1-Σn=[1~∞] z2/n2+Σn>m≧1 z4/n2 m2+・・・)

z3の係数を較べて、

 -π3/6=-πΣn=[1~∞] /n2=-πζ(2)

  ζ(2) =π2/6

が得られます。同様にz5の係数を較べて、

 π5/120=πΣn>m≧1 z4/n2 m2

 ζ(2) 2=[Σn=[1~∞] 1 /n2]・[Σm=[1~∞]1 /m2]

   =Σm=[1~∞] 1 /n4+2Σn>m≧1 z4/n2 m2

 (π2/6) 2=ζ(4)+2・π4/120

 ζ(4)=π4/36-π4/60=π4 (5/180-3/180)=π4/90

が得られます。

<ガンマ関数の積表示>

ガンマ関数1/Γ(z)は整関数で、0以下の整数が位数1の零点でした。アダマ-ルの積定理より、

 1/Γ(z)=zeaz+bΠn=[1~∞] (1+z/n) exp(-z/n)

よって

 1/zΓ(z)=1/Γ(z+1)=eaz+bΠn=[1~∞] (1+z/n) exp(-z/n)

ここでz=0とおくと

 1=1/Γ(0+1)=ea0+bΠn=[1~∞] (1+0/n) exp(-0/n)=eb

よって

 1/Γ(z)=zeazΠn=[1~∞] (1+z/n) exp(-z/n)

ここでz=1とおくと

 1/Γ(1)=1eaΠn=[1~∞] (1+1/n) exp(-1/n)

対数をとって

 0=a+Σn=[1~∞][ log(1+1/n)-1/n]

aの値は

 a=limN→∞Σn=[1~N][ 1/n-log(n+1)-logn)]

  =limN→∞ Σn=[1~N](1/n)-log(N+1)

  =limN→∞ Σn=[1~N](1/n)-logN+log(N/ (N+1))

  =limN→∞ Σn=[1~N](1/n)-logN

  =γ

となります。γはオイラ-の定数と呼ばれる値で、γ=0.57721・・・です。従って

 1/Γ(z)=zeγzΠn=[1~∞] (1+z/n) exp(-z/n)

 1/Γ(-z)=-ze-γzΠn=[1~∞] (1-z/n) exp(+z/n)

です。Γ(1-z)=-zΓ(-z)より

 1/Γ(z)Γ(1-z)

=-1/zΓ(z)Γ(-z)

=1/z・zeγzΠn=[1~∞] (1+z/n) exp(-z/n)・ze-γzΠn=[1~∞] (1-z/n) exp(+z/n)

=zΠn=[1~∞] (1+z/n) (1-z/n)

=zΠn=[1~∞] (1-z2/n2)

=sin(πz)/π

となり、相反定理が得られます。

 

ゼ-タ関数の関数等式とテータ関数の関係

<ゼ-タ関数の関数等式とテータ関数の関係>

ゼ-タ関数の関数等式は

 ξ(x)=πs/2Γ(s/2)ζ(s)

とおくと

 ξ(x)=ξ(1-x)

で表されます。テータ関数

 θ(t)=Σn=[-∞、∞] e-πtn^2

の変換公式は

 θ(t)=θ(1/t)/√t

でした。

 Ψ(t)=Σn=[1、∞] e-πtn^2

とおくと、

 θ(t)=1+2Ψ(t)

が成り立ちます。Γ関数の定義において、

 Γ(s)=∫[0、∞] xs-1e-xdx (s>0)

x=πtn2と変数変換すると、dx=πn2dtとなり

 Γ(s)=∫[0、∞] (πtn2)s-1e-πtn^2 πn2 dt

   =πsn2s[0、∞] ts-1e-πtn^2 dt

なので

 Γ(s/2)=πs/2ns[0、∞] ts/2-1e-πtn^2 dt

両辺をπs/2nsで割って

 πs/2・1/ns Γ(s/2)=∫[0、∞] ts/2-1e-πtn^2 dt

これを全ての自然数nについて加えれば

 πs/2・Γ(s/2) [Σn=[1、∞] 1/ns]=∫[0、∞] ts/2-1 n=[1、∞] e-πtn^2]dt

 πs/2・Γ(s/2)ζ(s) =∫[0、∞] ts/2-1 Ψ(t) dt

を得ます。 

 右辺=∫[0、1] ts/2-1 Ψ(t) dt+∫[1、∞] ts/2-1 Ψ(t) dt

として、第一項で、t=1/uと変数変換すると、dt=-1/u2 duより

 ∫[0、1] ts/2-1 Ψ(t) dt=-∫[∞、1] (1/u)s/2-1 Ψ(1/u) 1/u2 du

           =∫[1、∞] u-s/2-1 Ψ(1/u) du

ここで

  1+2Ψ(u)=θ(u)=θ(1/u)/u1/2=[1+2Ψ(1/u)]/u1/2

となることから、

 Ψ(1/u)=u1/2Ψ(u)+1/2・u1/2-1/2

を得ます。これを代入すると

 ∫[0、1] ts/2-1 Ψ(t) dt

 =∫[1、∞] u-s/2-1 [u1/2Ψ(u)+1/2・u1/2-1/2]du

 =∫[1、∞] u(1-s)/2-1 Ψ(u) du +1/2∫[1、∞] u(1-s)/2-1 du-1/2∫[1、∞] u-s/2-1du

 =∫[1、∞] u(1-s)/2-1 Ψ(u) du +1/(s-1)-1/s

 =∫[1、∞] u(1-s)/2-1 Ψ(u) du -1/s(1-s)

となります。なぜなら、s>0より

 1/2∫[1、∞] u(1-s)/2-1 du=1/2・2/(1-s) [u(1-s)/2]u=1、∞=1/(s-1) 

 -1/2∫[1、∞] u-s/2-1du=-1/2・(-2/s)[u-s/2]u=1、∞=-1/s

よって

 右辺=∫[0、1] ts/2-1 Ψ(t) dt+∫[1、∞] ts/2-1 Ψ(t) dt

   =∫[1、∞] u(1-s)/2-1 Ψ(u) du -1/s(1-s)+∫[1、∞] ts/2-1 Ψ(t) dt

   =∫[1、∞] [u(1-s)/2-1+us/2-1] Ψ(u) du -1/s(1-s)

となります。右辺は全ての実数sに対して積分が存在し、sを1-sに置き換えても、式が変わりません。

 左辺:ξ(s)=πs/2・Γ(s/2)ζ(s)

とすると、

 ξ(s)+1/s(1-s)=∫[1、∞] [t(1-s)/2-1+ts/2-1] Ψ(t) dt

は全ての実数sで定義され、関数等式

 ξ(s)=ξ(1-s)

が成り立ちます。

 

ζ’(0)の計算方法

<ζ’(0)の計算>

ここでは

 ζ’(0)=-1/2・log(2π)

を示します。

複素数sに対して、イ-タ関数

 η(s)=1-1/2s+1/3s-1/4s+・・・

はRe(s)>0で収束し、この範囲で正則です。

イ-タ関数は

 |η(s)|=|1-1/2s+1/3s-1/4s+・・|≦1+1/2s+1/3s+1/4s+・・=ζ(s)

よりRe(s)>1で収束することは明らかです。

イ-タ関数とゼ-タ関数には

 η(s)=(1-21-s)ζ(s)

なる関係がありました。

 Lim[s→1] η(s)=Lim[s→1] (1-21-s)/(s-1)・(s-1)ζ(s)

     =Lim[t→0] (20-2-t)/t・Lim[s→1] (s-1)ζ(s)

     =-Lim[t→0] (20-2-t)/(0-t)・1

     =Lim[t→0] (-2-t)’

     =log2

ここで

 (-2-t)’= (-e-tlog2)’ = log2 (e-tlog2)=log2・2-t

を用いました。つまりs=1はη(s)の除去可能な特異点であり、η(s)はs=1で正則です。

ここでイ-タ関数の部分和

 ηN(s)=Σn=1~N (-1)n-1/ns

を考えると 

 η2η4η6<・・<η2Nη2N+2η2N+1η2N-1<・・<η5η3η1

なので、Re(s)>0ならば

 Lim[N→∞]2N-η2N-1)=-Lim[N→∞]1/(2N)S=0

だから

 Lim[N→∞] η2N=Lim[N→∞]η2N-1=η(s)

となります。イ-タ関数η(s)はRe(s)>0で収束し、この範囲で正則です。

先ほどの関係式

 η(s)=(1-21-s)ζ(s)

の両辺を微分すると

 η’(s)=log2・21-sζ(s)+(1-21-s)ζ’(s)

となります。s=0を代入すると

η’(0)=log2・21-0ζ(0)+(1-21-0)

   =log2・2・(-1/2)-ζ’(0)

   =-log2-ζ’(0)

が得られます。η’(0)を求めるために、η(s)を変形すると

η(s)=1-1/2s+1/3s-1/4s+・・・

  =1/2[1+1-1/2s-1/2s+1/3s+1/3s-1/4s-1/4s+・・・]

  =1/2+1/2 [(1-1/2s)-(1/2s-1/3s)+(1/3s-1/4s)-(1/4s-1/5s)+・・・]

η(s)は全複素平面で正則なため、両辺を微分すると

 η’(s)=1/2 [(0+log2/2s)-(-log2/2s+log 3/3s)+(-log 3/3s+log4/4s)-(-log4/4s+log5/5s)+・・・]

となります。この右辺はRe(s)>0の範囲で広義一様収束していることから、s→+0の極限をとると、

 η’(0)=1/2 [log2-(-log2+log 3)+(-log 3+log4)-(-log4+log5)+・・・]

   =1/2・log(2/1・2/3・4/3・4/5・・・)

   =1/2・log(π/2)

となります。ここでウォリスの公式を用いました。従って

   ζ’(0)=-η’(0) -log2

      =-1/2・log(π/2) -1/2・log4

      =-1/2・log(2π)

が得られます。

  η(0)=(1-21-0)ζ(0)=-1(-1/2)=1/2

ですから、まとめると

 ζ(0)=-1/2、ζ’(0)=-1/2・log(2π)

 η(0)=+1/2、η’(0)=+1/2・log(π/2)

が成り立ちます。

ガンマ関数の解析接続

<ガンマ関数の解析接続>

Γ関数は

 Γ(s)=∫[0、∞] ts-1e-tdt

で定義されています。sを複素数に拡張した場合に、区間[0、∞]での積分は収束するか調べて見ましょう。

s=x+iyとして、0<x0<x1なる任意の実数を用いて、0<x0<x<x1とすれば、

   Γ(s)=∫[0、1] ts-1e-tdt+∫[1、∞] ts-1e-tdt

 |Γ(s)|≦ ∫[0、1] |ts-1|e-tdt + ∫[1、∞] |ts-1|e-tdt

であり、

 (1/2)x<(1/2)x0 、2x<(2)x1

に注意すると、

[0、1] |ts-1|e-tdt=∫[0、1] t x-1e-tdt≦∫[0、1] t x0-1e-tdt≦∫[0、∞] t x0-1e-tdt=Γ(x0)

[1、∞] |ts-1|e-tdt=∫[1、∞] t x-1e-tdt≦∫[1、∞] t x1-1e-tdt≦∫[0、∞] t x1-1e-tdt=Γ(x1)

ですから、

|Γ(s)|≦Γ(x0)+Γ(x1)

が成り立ちます。従って0<x0<Re(s)<x1において、ε→0のとき

 Γε(s)=∫、1/ε] ts-1e-tdt → Γ(s)=∫[0、∞] ts-1e-tdt 

となり、Γε(s)はΓ(s)に一様収束します。Γε(s)は有限区間での積分だから、sの正則関数です。

一様収束極限であるΓ(s)もx0<Re(s)<x1における正則関数です。x0、x1は任意だから、

Γ(s)はRe(s)>0におけるsの正則関数になっています。nを任意の自然数とすれば、

 Γ(s)=Γ(s+n)/s(s+1) (s+2)・・ (s+n-2) (s+n-1)

が成り立ちます。Γ(s)はRe(s)+n>0における有理型関数で、s=0,-1,-2,・・・-n+1でを1位の極とする以外は、正則になっています。nは任意なので、Γ(s)は複素数全体で正則な有理型関数で、s=0,-1,-2,・・・で1位の極をもっています。Γ(1-s)は、s=0,1,2,・・・で1位の極をもっています。さらに整数でない実数sに対して

 Γ(s)Γ(1-s)=π/sin(πs)

が成り立ちます。複素関数論の一致の定理より、整数でない複素数に関して、この等式は成り立っています。この等式から、ガンマ関するΓ(s)は零点を持たない有理型関数であることが分かります。よって1/Γ(s)は複素数全体で正則な関数になっています。

リ-マン関数等式からオイラ-関数等式の導出

<リ-マン関数等式からオイラ-関数等式の導出>

関数等式には、非対称型のオイラ-による関数等式

 ζ(1-s)=cos(sπ/2) Γ(s)ζ(s)/2s-1πs      ・・・・(1)

と対称型のリ-マンによる関数等式

 πs/2Γ(s/2)ζ(s)=π(1-s)/2Γ((1-s)/2)ζ(1-s) ・・・・(2)

がありました。これまでオイラ-による関数等式からリ-マンによる関数等式を導出しました。今度は逆にリ-マンによる関数等式からオイラ-による関数等式を導出します。

(2)の両辺に(-s)Γ(-s/2)を掛けると、

 πs/2(-s)Γ(-s/2)Γ(s/2)ζ(s)=π(1-s)/2(-s)Γ(-s/2)Γ((1-s)/2)ζ(1-s)

左辺の係数は

 πs/2 2(-s/2)Γ(-s/2)Γ(s/2)=2πs/2Γ(1-s/2)Γ(s/2)=πs/2 2π/ sin(πs/2)

となります。ここで、ガンマ関数の相反公式:Γ(s/2)Γ(1-s/2)=π/sin(πs/2)を用いました。ルジャンドルの2倍公式

 Γ(2s)=22s-11/2・Γ(s) Γ(s+1/2)

でs→-s/2に置き換えた

 Γ(-s)2s+1π1/2=Γ(-s/2) Γ((1-s)/2)

を用いると、右辺の係数は

 π(1-s)/2 (-s)Γ(-s/2)Γ((1-s)/2)=π(1-s)/2 (-s)Γ(-s) 2s+1π1/2

  =2s+1πs/2Γ(1-s)

となります。従って、左辺=右辺は

 πs/22π/ sin(πs/2)ζ(s)=2s+1πs/2Γ(1-s)ζ(1-s)

となります。

 ζ(s)=2sπs-1Γ(1-s)ζ(1-s) sin(πs/2) ・・・・(*)

が得られます。s→1-sに置き換えると

 sin(π(1-s) /2)=sin(π/2)cos(-πs/2)=cos(πs/2)

より

 ζ(1-s)=Γ(s)ζ(s) cos(πs/2)/2s-1πs ・・・・(1)

が得られます。

<ゼ-タ関数の自明な零点はs=-2k>

 ζ(s)=2sπs-1Γ(1-s)ζ(1-s) sin(πs/2) ・・・・(*)

ζ(1-s)は1-s>1、すなわち、s<0で定義されています。

 sin(πs/2)=0 → s=-2、-4、-6、・・-2k、・・・

なる負の偶数では

 ζ(-2k)=0 for k=1、2、3・・・

が成り立ちます。これをζ(s) の自明な零点と言います。

また、この公式からζ(0)の値が得られます。

lim[s→1] (s-1)ζ(s)=1 → lim[s→0] ((1-s)-1)ζ(1-s)=1

に注意すると

ζ(0)=lim[s→0] 2sπs-1Γ(1-s)ζ(1-s) sin(πs/2)

   =-1/2・Γ(1) lim[s→0] sin(πs/2)/(πs/2)・(1-s-1)ζ(1-s)

   =-1/2

となります。

 

ガンマ関数の2倍公式と相反公式の証明

<ルジャンドルの2倍公式の証明>

 Γ(2s)=22s-11/2・Γ(s) Γ(s+1/2)

を証明する。

今、B(x,y)=Γ(x)Γ(y)/Γ(x+y) より

 B(x,1/2)=Γ(x)Γ(1/2)/Γ(x+1/2)

 B(x,x)=Γ(x)2 /Γ(2x)

が成り立つ。先ほど証明された式

 B(x,1/2)=22x-1B(x,x)

に代入すると、

 Γ(x)Γ(1/2)/Γ(x+1/2)=22x-1Γ(x)2 /Γ(2x)

を得る。Γ(1/2)=π1/2より

 Γ(2x)=22x-1π1/2Γ(x)Γ(x+1/2)

が成り立つことが示された。

Γ(n)=(n-1)! 、Γ(1/2)=π1/2なので、x=4のとき

Γ(8)=22*4-1π1/2Γ(4)Γ(4+1/2)=23Γ(4)・24Γ(4+1/2)π1/2

24Γ(4+1/2)π1/2=24・7/2 Γ(7/2)π1/2=24・7/2・5/2・3/2・1/2 Γ(1/2)π1/2

       =7・5・3・1

23Γ(4)=23(3・2・1)=6・4・2

Γ(8)=7!=7・5・3・1・6・4・2

を表しています。

<ガンマ関数の相反公式>

 Γ(x)Γ(1-x)=π/sin(πx)

を証明します。その前にこの公式の直感的な説明をします。

Γ(x)はx=0,-1,-2,・・・でのみ1位の極をもちます。Γ(1-x)はx=1,2,3,・・・でのみ1位の極をもちます。

f(x)=1/Γ(x)Γ(1-x)は全ての整数で1位の零点をもちます。xをx+1にすると

 Γ(x+1)Γ(1-(x+1))=xΓ(x)Γ(-x)=-xΓ(x)Γ(1-x)

ので、f(x+2)=-f(x+1)=f(x) となり、f(x)は周期2の関数であることが分かります。x=1/2で最大値

 f(1/2)=1/Γ(1/2)Γ(1-1/2)=1/π

をとります。よってf(x)=sin(πx)/πと予想できます。

証明に入ります。先ほどもとめたベータ関数の性質は

(4):B(x,1-x)=∫[0,∞] ux-1/(1+u) du

(5):B(x,1-x)=Γ(x)Γ(1-x)

ですから、

 ∫[0,∞] xa-1/(1+x) dx=π/sin(πa) 0<a<1

を示せばよいことが分かります。

D積分閉路を使って

 f(z)=za-1/(1+z)

の複素積分を行います。D積分閉路は

 D=C1+C2(ε)+C3+CR

からなります。

 

 

 

 

 

ε→0、R→∞で

 ∫C2(ε)f(z)dz→0、∫CR f(z)dz→0

となります。0<a<1より、-1<a-1<0、に注意すると

 -ε+1≦εeiθ+1≦ε+1より、1/|(εeiθ+1)|≦1/(1-ε)

なので、z=εeiθ、dz=iεeiθdθ、0<a<1、より

 |∫C2(ε)f(z)dz|≦∫[0、2π]|(εeiθ) a-1|/|εeiθ+1||iεeiθ|dθ

       ≦εεa-1/(1-ε) 2π=2πεa/(1-ε) → 0 as ε→0

同様に、-1<a-1<0、より

 |∫CRf(z)dz|≦∫[0、2π]|(Reiθ) a-1|/|Reiθ+1||iReiθ|dθ

       ≦2πR・Ra-1/R=2πRa-1 → 0 as R→∞

となります。

z a-1はz=0で特異点を持ちますが、z=0は経路D内には含まれません。

D積分閉路内の極は、z=-1だけです。f(z)のz=-1での留数は

 Res[f,-1]=lim[x→-1] (z+1) z a-1/(z+1)=(eiπ) a-1=eiπa e-iπ=-eiπa

 ∫D f(z)dz=2πi Res[f,-1]=2πi (-eiπa)

となります。

C3上での偏角は0だからz=xe0代入して、ε→0、R→∞で

 ∫C3 f(z)dz=∫[ε、R] xa-1/(1+x) dx → I=∫[0、∞] xa-1/(1+x) dx

C1上での偏角は2πなので、z=xe2πi代入して、ε→0、R→∞で

 za-1=(xe2πi) a-1=x a-1e2πiae-2πi=x a-1e2πia

 ∫C1 f(z)dz=∫[R、ε] e2πia xa-1/(1+x) dx →∫[0、∞] xa-1/(1+x) dx

となります。従って

 2πi (-eiπa)=I+0+I+0=(1-e2πia)I

これをIについて解くと

 I=2πi (-eiπa)/ (1-e2πia)=2πi (-eiπa)/(-eiπa) (eiπa-e-iπa)

  =π/sin(πa)

が得られます。

 

ベ-タ関数の諸性質

ゼ-タ関数とガンマ関数とベータ関数は相互に密接な関係があります。ここではベータ関数のいくつかの性質を紹介します。これらはルジャンドルの倍公式やガンマ関数の相反公式を証明するのに役立ちます。

<ベ-タ関数の諸性質>

ベ-タ関数は

 B(x,y)=∫[0,1] tx-1(1-t)y-1dt  (x>0,y>0)

で定義されます。

(1)B(x,y)=B(y,x)

 t’=1-tとおくと、

B(x,y)=-∫[1,0] (1-t’)x-1 t’y-1dt’ =B(y,x)

(2)B(x,y)=2∫[0,π/2] sin2x-1θcos2y-1θdθ

  t=sin2θとおくと、dt=2sinθcosθdθ

  B(x,y)=∫[0,π/2] (sin2θ)x-1(cos2θ)y-12sinθcosθdθ

    =2∫[0,π/2] sin2x-1θcos2y-1θdθ

(3)B(x,y)=Γ(x)Γ(y) /Γ(x+y)

  t=s2とおくと、dt=2sdsより

  Γ(x)=∫[0,∞] tx-1 e-t dt=2∫[0,∞] s2x-1 e-ss ds

  Γ(x)Γ(y)=4∫[0,∞] t2x-1 e-tt dt・∫[0,∞] s2y-1 e-ss ds

  t=rcosθ、s=rsinθとおくと、t2+s2=r2、dtds=rdrdθ

  4∫[0,π/2]dθ∫[0,∞] dr (rcosθ)2x-1 (rsinθ)2y-1 e-rr

 =2∫[0,π/2]dθ∫[0,∞] dr cos2x-1θsin2y-1θ・2∫[0,∞] r2(x+y)-2e-rr rdr

 t=r2とおくと、dt=2rdrより、r2(x+y)-2=t(x+y)/r2=t(x+y)-1

  Γ(x)Γ(y)=B(x,y)・∫[0,∞] t(x+y)-1e-t dt=B(x,y)・Γ(x+y)

が示された。

(4)B(x,y)=∫[0,∞] ux-1/(1+u)x+y du

  B(x,y)=∫[0,1] tx-1(1-t)y-1dt 

 において、t=u/(1+u)とおくと 

  1-t=1-u/(1+u)=1/(1+u)

 (1+u)t=u、u-ut=t、u=t/(1-t) →u=0~∞
 du=[(1-t)+t]/(1-t)2 dt=1/(1-t)2 dt=(1+u) 2 dt

 → dt=du/(1+u) 2

であるから

 tx-1(1-t)y-1dt=[u/(1+u)]x-1(1+u)-y+1(1+u)-2du
=ux-1(1+u)-(x+y) du

 B(x,y)=∫[0,∞] ux-1(1+u)-(x+y) du

が示された。

y=1-xのとき

 B(x,1-x)=∫[0,∞] ux-1(1+u)-(x+y) du

     =∫[0,∞] ux-1/(1+u) du

が成り立つ。

(5)B(x,1-x)=Γ(x)Γ(1-x)

 B(x,y)=Γ(x)Γ(y)/Γ(x+y) において

  y=1-xと置くと、Γ(x+y)=Γ(1)=1より

 B(x,1-x)=Γ(x)Γ(1-x)/Γ(1)=Γ(x)Γ(1-x)

(6)B(x,1/2)=22x-1B(x,x)

 B(x,1/2)=B(1/2 ,x)=∫[0,1] t-1/2 (1-t) x-1dt

 t=u2とおくと、t-1/2=u-1、dt=2udu

 B(x,1/2)=2∫[0,1] (1-u2)x-1 du

    =∫[0,1] (1-u2)x-1 du-∫[0,-1] (1-u2)x-1 d(-u)

    =∫[0,1] (1-u2)x-1 du+∫[-1,0] (1-u2)x-1 du

    =∫[-1,1] (1-u2)x-1 du

 s=(1+u)/2とおくと、u=2s-1、s=0~1

  1-u=1-2s+1=2(1-s)

  1-u2=(1-u) (1+u)=4(1-s)s

 B(x,1/2)=2∫[0,1] (4(1-s)s)x-1 2ds

    =22x-1[0,1] (1-s) x-1sx-1 ds

    =22x-1B(x,x)

が示された。

 

ゼ-タ関数の関数等式の証明

<ゼ-タ関数の関数等式の証明>

関数等式には、非対称型のオイラ-による関数等式

 ζ(1-s)=cos(sπ/2) Γ(s)ζ(s)/2s-1πs      ・・・・(1)

と対称型のリ-マンによる関数等式

 πs/2Γ(s/2)ζ(s)=π(1-s)/2Γ((1-s)/2)ζ(1-s) ・・・・(2)

があります。関数等式はゼ-タ関数の定義域を拡大する場面でよく用いられす。

ここではオイラ-による関数等式を導出し、その後

ガンマ関数の相反公式

   Γ(s)Γ(1-s)=π/sin(πs)

においてs→(1-s)/2に置き換えた

 Γ((1-s)/2)Γ((1+s)/2)=π/cos(πs/2)  ・・・(5)

の式とルジャンドルの2倍公式

 Γ(2s)=22s-11/2・Γ(s) Γ(s+1/2)

においてs→s/2に置き換えた

 Γ(s)=2s-11/2・Γ(s/2) Γ((s+1)/2)  ・・・(6)

式を用いて、リ-マンによる関数等式を導出します。

その前に、ゼ-タ関数の積分表示を求めましょう。

<ゼ-タ関数の積分表示>

ゼ-タ関数:ζ(s)=Σn=1- 1/ns

ガンマ関数:Γ(s)=∫[0、∞] xs-1e-xdx

のとき、s>1に対して

 ∫[0、∞] xs-1/(ex-1)dx=ζ(s) Γ(s)

が成り立つ。

[証明]

 1/(ex-1)=e-x/(1-e-x)=Σn=1-(e-x)n =Σn=1-e-n x

を代入すると、

[0、∞] xs-1/(ex+1)dx=∫[0、∞] xs-1Σn=1-e-n x dx

                   =Σn=1-[0、∞] xs-1 e-n x dx

ここで、y=nx と変数変換すると

 ∫[0、∞] xs-1/(ex+1)dx =Σn=1-[0、∞] (y/n)s-1 e-y dy/n

n=1-1/ns[0、∞] ys-1 e-y dy

=ζ(s)Γ(s)

が示されました。

<オイラ-による関数等式の導出>

複素積分
 I(s)=∫C zs-1/(ez-1)dz

を2つの積分経路で求めて、等値することで(1)式のオイラ-による関数等式を導出します。

1)ハンケル積分経路による積分計算

Cをハンケル積分経路とすると、全複素平面で

 ∫C zs-1/(ez-1)dz=(e2πsi-1) ζ(s)Γ(s)   ・・・・(3)

が成立することを示します。

Cは以下の3つの経路

 C1:z=x+iε x=∞→r

 C2:z=reiθ θ=0→2π

 C3:z=x-iε x=r→∞

から成ります。

 I(s)=∫C zs-1/(ez-1)dz

  =∫C1 zs-1/(ez-1)dz+∫C2 zs-1/(ez-1)dz+∫C3 zs-1/(ez-1)dz

である。まず経路1での積分はε→0で

 I1(s)=∫C1 zs-1/(ez-1)dz=-∫[0、∞] xs-1/(ex-1)dx

となる。経路2の積分はr→0で

|I2(s)|=|∫C2 zs-1/(ez-1)dz|≦∫[0,2π] rs/[(er-1)/r]dθ≦rs・2π→ 0 as r→0  s>0

ゼロになる。経路3では、原点の周りの1回転して位相2πが付加されるので

 z s-1=(rei2π) s-1=r s-1ei2πs

より、ei2πsが残る。rをxに置き換えて0から∞まで積分すると、

 I3(s)=∫C3 zs-1/(ez-1)dz=ei2πs[0、∞] xs-1/(ex-1)dx

従って、ε→0、r→0の極限では、ゼ-タ関数の積分表示を用いて

 I(s)=-∫[0、∞] xs-1/(ex-1)dx+ 0 +ei2πs[0、∞] xs-1/(ex-1)dx

   =(ei2πs-1) ∫[0、∞] xs-1/(ex-1)dx

   =(ei2πs-1) ζ(s)Γ(s)

が示されました。

ここでs=1のとき

 ei2πs-1=0

なので、s=1は(ei2πs-1)の1位の零点です。ζ(s)=1/(s-1)+F(s)と書け、ζ(s)はs=1で1位の極を持ちます。従って、(ei2πs-1)ζ(s)はs=1で正則になっています。上式は全ての複素数sで成り立っています。

 

2)D積分経路による積分計算

下図のように積分経路Dを取ります。全複素平面で

C zs-1/(ez-1)dz=-∫D zs-1/(ez-1)dz=(2π)s(e3πsi/2-eπsi/2)ζ(1-s) ・・(4)

が成立することを示します。

経路Dは

 D=C1+C2+C3+CR

から成ります。経路Dの4つの経路は

 C1:z=x-iε x=∞→r

 C2:z=reiθ θ=2π→0

 C3:z=x+iε x=∞→r

 CR:z=Reiθ θ=0→2π

です。分母にezがあるのでCRに関する積分はR→∞でゼロになります。ところで

C1+C2+C3の経路での積分は先ほどのハンケル積分経路と逆向きなので、

 ∫C zs-1/(ez-1)dz=-∫D zs-1/(ez-1)dz

となります。被積分関数の分母はz=±2nπiでゼロになります。経路Dは、被積分関数の極、z=±2πi、±4πi、±6πi、・・±2nπi(<Ri)を含んでいます。従って経路Cでの積分は、経路D内の積分の留数の和を求めて、全体にマイナス符号をつければ得られます。

 z=2nπiでの留数は、n>0のとき偏角はπ/2なので(i=eiπ/2)

 I=lim [z→2nπi] (z-2nπi)・ zs-1/(ez-1)
  =lim [z→2nπi]・ zs-1/(ez-e2nπi )/
  =lim [z→2nπi]・ z/(ez)’

  =(2nπi) s-1 

  =(2nπ) s-1(eiπ/2) s-1

  =-i・(2nπ) s-1・eiπs/2

となります。

 z=-2nπiでの留数は、偏角は3π/2なので、(-i=ei3π/2)

I=(-2nπi) s-1 

 =(2nπ) s-1(ei3π/2) s-1

 =i・(2nπ) s-1・ei3πs/2

となります。R→∞のとき、n=1~∞の全ての留数の和を求めると、

 ∫D zs-1/(ez-1)dz=Σn 2πi・(I+I)

         =Σn 2πi[-i・(2nπ) s-1・(eiπs/2-ei3πs/2)]
         =(2π) s (eiπs/2-ei3πs/2)・Σn 1/n 1-s

                   =(2π) s (eiπs/2-ei3πs/2)・ζ(1-s)

従って、

    ∫C zs-1/(ez-1)dz=(2π) s (ei3πs/2-eiπs/2)ζ(1-s)

が示されました。

<オイラ-による関数等式の導出>

2つの積分経路で求めた

   I(s)=∫C zs-1/(ez-1)dz

の値を等値することで、オイラ-による関数等式(非対称型)

 ζ(1-s)=cos(sπ/2) Γ(s)ζ(s)/2s-1πs      ・・・・(1)

を導出します。

2つの積分経路で求めた値は
 ∫C zs-1/(ez-1)dz=(e2πsi-1) ζ(s)Γ(s)  ・・・(3)

   ∫C zs-1/(ez-1)dz=-∫D zs-1/(ez-1)dz=(2π)s(e3πsi/2-eπsi/2) ζ(1-s) ・・(4)

でした。よって

   (e2πsi-1) ζ(s)Γ(s)=(2π)s(e3πsi/2-eπsi/2) ζ(1-s) 

が成り立ちます。

 (e2πsi-1)/ (e3πsi/2-eπsi/2)=eπsi(eπsi-e-πsi) / eπsi (eπsi/2-e-πsi/2)

 =(eπsi/2+e-πsi/2) (eπsi/2-e-πsi/2) / (eπsi/2-e-πsi/2)

 =2cos(πs/2)

ですから、

 2cos(πs/2)ζ(s)Γ(s)=(2π)sζ(1-s) 

よって

 ζ(1-s)=2cos(πs/2)Γ(s)/ (2π)s・ζ(s)

    =cos(πs/2)Γ(s)/ 2s-1πs・ζ(s)

が得られました。

<2つの関数等式>

オイラ-による関数等式(非対称型)

 ζ(1-s)=cos(sπ/2) Γ(s)ζ(s)/2s-1πs      ・・・・(1)

から、リ-マンによる関数等式(対称型)

 πs/2Γ(s/2)ζ(s)=π(1-s)/2Γ((1-s)/2)ζ(1-s) ・・・・(2)

を導出します。

(2)式より

 ζ(1-s)=πs/2Γ(s/2)ζ(s) π(1-s)/2 /Γ((1-s)/2)

     =πs+1/2Γ(s/2) /Γ((1-s)/2)・ζ(s)

より、

  cos(sπ/2) Γ(s)/2s-1πs=πs+1/2Γ(s/2) /Γ((1-s)/2)

すなわち

  Γ((1-s)/2) Γ(s) cos(sπ/2)=2s-1π1/2Γ(s/2)

が成り立つことを示します。

ガンマ関数の相反公式

 Γ(s)Γ(1-s)=π/sin(πs)

でs→(1-s)/2に置き換えると、1-(1-s)/2=(1+s)/2より

 Γ((1-s)/2)Γ((1+s)/2)=π/sin(π(1-s)/2)

 Γ((1-s)/2)Γ((1+s)/2)=π/cos(πs/2)  ・・・(5)

が成り立ちます。

また、ルジャンドルの2倍公式

 Γ(2s)=22s-11/2・Γ(s) Γ(s+1/2)

でs→s/2に置き換えると、

 Γ(s)=2s-11/2・Γ(s/2) Γ((s+1)/2)  ・・・(6)

が成り立ちます。

(5)、(6)式の辺々を掛け、Γ((s+1)/2)を消去すると

 Γ((1-s)/2)・Γ(s)=π/cos(πs/2)・2s-11/2・Γ(s/2)

すなわち

 Γ((1-s)/2) Γ(s) cos(sπ/2)=2s-1π1/2Γ(s/2)

が成り立つことが示されました。関数等式はゼ-タ関数の定義域を拡大する場面でよく用いられす。

 

複素関数論からフーリエ変換を導く方法

<複素関数論からフーリエ変換を導く方法>

 f(t)=∫[-∞、∞] F(ω) eiωt dt

   F(ω)=1/2π・∫[-∞、∞] f(t) e-iωt dt

 

<コ-シ-の積分公式>

F(z)が有限領域Dで正則であり、領域D内部の単一閉曲線Cz内の点zにおける値は、

 F(z)=1/2πi・∫Cz F(ξ)/(ξ-z) dξ

と表される。

 

F(z)をn回微分すると

 F(n)(z)=n!/2πi・∫Cz F(ξ)/(ξ-z) n+1

となる。よってz=0のとき

   F(n)(0)/ n!=1/2πi・∫C0 F(ξ)/ξn+1 dξ ・・・(1)

である。いま

   Σn=Σn=-∞~∞

と略記する。関数F(z)をz=0の周りでローラン展開すると、F(z)は

 F(z)=Σn F(n)(0)/ n!zn

と表される。(1)式を代入すると

 F(z)=Σn [1/2πi・∫C0 F(ξ)/ξn+1 dξ] zn  ・・・(2)

と書ける。

 ei2π(t+T)/T=ei2πt/T・ei2π=ei2πt/T

であるから、関数f(t)を

 f(t)=F( ei2πt/T)  ・・・(3)

と定義すると、関数f(t)は

 f(t+T)=f(t)

により、周期Tの周期関数になる。(2)式を用いると

 f(t)=Σn [1/2πi・∫C0 F(ξ)/ξn+1 dξ] ( ei2πt/T) n  

  =Σn C n ( ei2πt/T) n  

と書ける。いま、ξ=ei2πs/T によってξからsに変数変換する。

 dξ=i2π/T・ei2πs/T ds

s=-T/2のとき、ξ=ei2π(-T/2)/T=e-iπ=-1

s=+T/2のとき、ξ=ei2π(+T/2)/T=e+iπ=-1

つまりξが半径1の円周C0上を動くとき、sは-T/2からT/2に動くことに注意すると、

C n=1/2πi・∫C0 F(ξ)/ξn+1

    =1/2πi・∫[-T/2、T/2] F(ei2πs/T)/ (ei2πs/T)n+1 2πi /T・ei2πs/T ds

 =1/T∫[-T/2、T/2] F(ei2πs/T)/ (ei2πs/T)n+1・ei2πs/T ds

 =1/T∫[-T/2、T/2] F(ei2πs/T) (ei2πs/T)-n ds

 =1/T∫[-T/2、T/2] f(s)e-i2πsn/T ds

となる。

 ωn=2πn/T

とおくと、

 Δω=ωn+1-ωn=2π/T → 0 as  T → ∞

 1/T=Δω/2π

なので、

f(t)=Σn C n eiωn t 

  =∫ [-∞、∞] dω[∫[-T/2、T/2] f(s)e-iωs ds] eiωt

    =∫ [-∞、∞] dω[1/2π∫[-∞、∞] f(s)e-iωs ds] eiωt

    =∫ [-∞、∞] F(ω) eiωt

F(ω)=1/2π∫[-∞、∞] f(s)e-iωs ds

が示された。

テ-タ関数の変換公式の証明

  <テータ関数の変換公式>

s>0のとき

 θ(s)=Σn=-∞~∞ exp(-πsn2)

に対して、

 θ(1/s)=√s・θ(s)

が成り立つ。

[証明] 関数f(t)を

 f(t)=exp(-πst2)

とおくと、

 θ(n)=Σn=-∞~∞ f(n)

である。f(t)のフーリエ変換をF(m)とすると

 F(m)=∫[-∞、∞] exp(-πst2)e-i2πmt dt

である。これをmで一回微分すると

 d F(m)/dm=∫[-∞、∞] exp(-πst2) (-i2πt)e-i2πmt dt

       =i/s・∫[-∞、∞] (-2πst)exp(-πst2) e-i2πmt dt

                    =i/s・∫[-∞、∞] (d/dt)exp(-πst2) e-i2πmt dt

                  =i/s・[exp(-πst2) e-i2πmt]t=-∞、∞-i/s∫[-∞、∞] exp(-πst2) (-i2πm) e-i2πmt dt

       =-2πm/s・∫[-∞、∞] exp(-πst2) e-i2πmt dt

       =-2πm/s・F(m)

となる。微分方程式を解くと

 [logF(m)]’=F’(m)/ F(m)=-2πm/s
    logF(m)=-πm2/s

を解いて、
   F(m)=F(0)exp(-πm2/s)

が得られる。

 F(0)=∫[-∞、∞] exp(-πst2) dt

ここで、u=√(πs)・t と置くと

 F(0)=1/√(πs)∫[-∞、∞] exp(-u2) du

   =1/√(πs)・√π =1/√s

従って、フ-リエ変換後の関数は

  F(m)=1/√s ・exp(-πm2/s)

となる。ここで

f(t)=exp(-πst2) は[-∞、∞]区間上の連続関数であるから、Poissonの和公式より

 Σn f(n)=Σn F(n)

すなわち

 Σn exp(-πsn2)=Σn 1/√s ・exp(-πn2/s)

が成り立つ。いま、θ(s)=Σn=-∞~∞ exp(-πsn2) より

 θ(s)=1/√s ・θ(1/s)

が成り立つことが示された。

 

[補題] 正の実数xに対して、

 Σn exp[-π(n+α)2/x]=√x Σn exp[-πn2x+ i2πnα]

が成り立つ。

・α=0を代入すると、θ(1/x)=√x ・θ(x) が成り立つ。

[証明] 

  fαx(y)=exp[-π(y+α)2/x]

とおいて、

  Σn fαx(y)=√x Σn exp[-πn2x+ i2πnα]

を示す。Poissonの和公式より

 Σn fαx(n)=Σn [-∞、∞] fαx(y) e-i2πny dy

=Σn [-∞、∞] exp[-π(y+α)2/x] e-i2πny dy

ここで、y+α=xuとおくと、

  Σn fαx(n)=Σn [-∞、∞] exp[-πxu2] e-i2πn(xu-α) dy

                 =Σn ei2πnα[-∞、∞] exp[-πxu2] e-i2πnxu xdu

ここで

    -πxu2-i2πnxu=-πx(u2+i2nu)=-πx(u+in) 2-πxn 2

であるから、

     Σn fαx(n)=xΣn ei2πnαexp[-πxn 2]∫[-∞、∞] exp[-πx(u+in)2] du  

       =xΣn ei2πnαexp[-πxn 2]・limN→∞ I(N)

ここで
    I(N)=∫[-N、N] exp[-πx(u+in)2] du=∫A exp[-πx(u+in)2] du  

とした。この積分の経路は複素平面で、

  A:z=u+in(-N≦u≦N)

である。コーシ-の定理より、非積分関数は正則関数なので、経路A上の複素積分を以下のB→C→Dに変えることができる。

   I(N)=∫B→C→D exp[-πx(z)2] dz  

において

 B:z=-N+it、0≦t≦n

 C:z=t、-N≦t≦N

 D:z=N+it、0≦t≦n

経路Bでの積分は

 IB(N)=∫[n、0] exp[-πx(-N+it)2] dt  

          =-exp[-πxN2]∫[0、n] exp[(1-it/N)2] dt 

ここでt’=t/N とおくと、

  IB(N)=∫[0、n] exp[(1-it/N)2] dt

       =1/N・∫[0、n/N] exp[(1-it’)2] dt’ → 0 as N→∞

となり、N→∞での積分値はゼロになる。

同様に経路Dでの積分は

   ID(N)=∫[0、N] exp[-πx(N+it)2] dt

          =1/N・∫[0、n/N] exp[(1+it’)2] dt’ → 0 as N→∞

となり、N→∞での積分値はゼロになる。経路Cでの積分は

   IC(N)=∫[-N、N] exp[-πxt2] dt  

   =1/√(πx) ・∫[-N、N] exp[-t2] dt → √π/√(πx)=1/√x as N→∞

となり、N→∞での積分値は1/√xとなる。

従って

 limN→∞ I(N)=limN→∞{IB(N)+IC(N)+ID(N)}=1/√x 

を得る。結局

  Σn fαx(n)=x Σn ei2πnαexp[-πxn 2]・limN→∞ I(N)

    =x Σn ei2πnαexp[-πxn 2] 1/√x
              =√x・Σn exp[-πxn 2+i2πnα]

が成り立つことが示された。

ポアソンの和公式の証明

<Poissonの和公式>

[-∞、∞]区間上の任意の連続関数f(x)とそれをフーリエ変換した関数

 F(n)=∫[-∞、∞] f(t)e-i2πnt dt

に対して、

 Σn=-∞~∞ f(n)=Σn=-∞~∞ F(n)

が成り立つ。

[証明]  連続関数f(t)に対して

 g(t)=Σn=-∞~∞ f(n+t)

を定義する。

 g(0)=Σn=-∞~∞ f(n)

であり、g(t)は

 g(t+1)=g(t)

なる周期性を持つので、フ-リエ級数展開

 g(t)=Σn=-∞~∞ cn ei2πnt

ができる。t=0のとき

 g(0)=Σn=-∞~∞ cn

が成り立つ。一方、

 F(m)=Σn=-∞~∞ [n、n+1] f(t)e-i2πmt dt

   =Σn=-∞~∞ [0、1] f(t+n)e-i2πm(t+n) dt

   =∫[0、1]n=-∞~∞f(t+n)] e-i2πmt dt

   =∫[0、1] g(t) e-i2πmt dt

   =∫[0、1]n=-∞~∞ cn ei2πnt] e-i2πmt dt

   =Σn=-∞~∞ cn・[∫[0、1] ei2π(n-m)t dt]

   =Σn=-∞~∞ cn・δnm

   =cm

従って

 g(0)=Σn=-∞~∞ f(n)=Σn=-∞~∞ F(m)

が成り立つ。

 

複素積分でディリクレ積分を求める

ディリクレ積分

 ∫[0,∞] sin(x) /x dx=π/2 

を複素積分

 ∫C  eiz /z dz=0

で求めます。

閉積分経路Cを

 C=C1+C2+C3+C4

に分けます。ここで

 C1:z=Reiθ 0≦θ≦π

 C2:z=x –R≦x≦-δ

 C3:z=δeiθ  0≦θ≦π

 C4:z=x δ≦x≦R

とします。閉積分経路C内にz=0の極は含まれないので、Cでの積分はコーシ-の定理よりゼロになります。

(1)C1の積分

 0≦sinθ≦1 かつ 2θ/π≦sinθ(0≦θ≦π)、

ですから、

 |exp(iReiθ)|=|exp{iR(cosθ+ i sinθ)}|

       =|exp{iRcosθ}・exp{-R sinθ)}]|

       =e-R sinθ

       ≦e-R2θ/π

従って

 |∫C1 eiz /z dz|=|∫[0,π]  exp(iReiθ) /Reiθ ・iReiθdθ|

         ≦∫[0,π] e-R2θ/π

         =-π/2R・[e-R2θ/π] θ=0,π

          =π/2R・(1-e-2R) → 0 as R→∞

C1の積分はRが無限大になるとゼロになります。

(2)C2の積分

ここで x’=‐xに置き換えると

 ∫C2  eiz /z dz=∫[R,δ]  e‐ix’ /x’ dx’=-∫[δ、R]  e‐ix’ /x’ dx’

となります。

(3)C3の積分

  ∫C3  eiz /z dz=∫[π,0]  exp(iδeiθ) /δeiθ ・iδeiθ

 =i∫[π,0]  {1+(iδeiθ)+O(δ2)}dθ

 → i∫[π,0] dθ=-iπ as δ→0

(4)C4の積分

 ∫C3  eiz /z dz=∫[δ、R]  eix /x dx

となります。以上より

0=∫C1 eiz /z dz+∫C2 eiz /z dz+∫C3 eiz /z dz+∫C4 eiz /z dz

  =∫CR eiz /z dz-∫[δ、R]  e‐ix /x dx+∫[δ、R]  eix /x dx-iπ

  =∫CR eiz /z dz +∫[δ、R] (eix-e‐ix) /x dx-iπ

  =∫CR eiz /z dz +2i∫[δ、R] sin(x) /x dx-iπ

ここで δ→0かつR→∞ とすると

 2i∫[0、∞] sin(x) /x dx-iπ=0

すなわち

 ∫[0、∞] sin(x) /x dx=π/2

が得られます。複素積分を用いると簡単にディリクレ積分の値が求められました。

ディリクレ積分からフーリエ変換へ

ペーター・グスタフ・ディリクレ(Peter Gustav Dirichlet, 1805年~1859年)はフランス生まれのドイツ人数学者です。ディリクレは現代的な関数概念(写像)を与えたことで知られています。家族の名前Dirichletは祖父がベルギ-のリシュレの街の出身だったことに由来しています。ペータ-はガウスの「整数論」を持ってフランスへ行き、パリ大学などで、フ-リエ(指導教官)、ラプラス、ルジャンドルらから数論と解析学を学びます。ペータ-は22歳の時にドイツに戻り、10年間ベルリン大学に滞在し、レベッカ・メンデルスゾーンと結婚します。妻のお兄さんは有名な作曲家で、彼の家は絶えず賑やかだったそうです。ディリクレは1855年からガウスの後継として、ゲッティンゲン大学で教授を務めます。友達の数学者にカ-ル・グスタフ・ヤコビがいます。彼の教え子たちにはアイゼンシュタイン、リーマン、クロネッカー、リプシッツがいます。友人の数学者リヒャルト・デ‐デキントが彼の研究結果をまとめて『整数論講義』を出版しました。ディリクレの名前が付けられた定理は、数論や解析学で数多く出てきます。ディリクレの積分定理は師匠のフーリエ変換の数学的基礎づけを行うためのものです。

<ディリクレの積分定理>

区分的に滑らかな関数f(x)に関して

 Lim λ→∞[-a,-a] f(x)sin(λx)/x dx=π/2・[f(+0)+f(-0)]

が成り立つ。ここで

 f(+0)=Lim x→0 f(x)  for x>0

 f(-0)=Lim x→0 f(x)  for x<0

のことです。f(x)がx=0で連続ならば、

 Lim λ→∞[-a,-a] f(x)sin(λx)/x dx=π・f(0)

となります。「区分的に滑らか」とは積分区間で有限個の有限な不連続点があり、その間は1回微分可能であることを意味しています。

[証明]

I(λ)=∫[b,c] f(x)sin(λx) dx

とおくと、

 Lim λ→∞ I(λ)=0  ・・・(1)

が成り立ちます。(1)式は後で証明します。一方

 ∫[0,∞] sin(λx) /x dx=π/2 (λ>0) ・・・(2)

が成り立ちます。この積分をディリクレ積分と呼びます。ディリクレ積分は収束しますが、絶対収束しない積分として有名です。(2)式も後で証明します。

I(λ)において、f(x)→{f(x)-f(+0)}/x と置き換えると、

  f’(0)=Lim x→0{f(x)-f(+0)}/x

は存在しているので、

 ∫[0,a] {f(x)-f(+0)}/x ・sin(λx) dx+∫[-a,0] {f(x)-f(+0)}/x ・sin(λx) dx →0 λ→∞

が成り立ちます。すなわち

 ∫[-a,a] f(x) sin(λx)/x dx=f(+0)∫[0,a] sin(λx)/x dx+f(-0)∫[-a,0] sin(λx)/x dx

x’=-x とおくと

 ∫[-a,0] sin(λx)/x dx=-∫[+a,0] sin(λx’)/x’ dx’=∫[0,a] sin(λx)/x dx

であるから、

 ∫[-a,a] f(x) sin(λx)/x dx=[f(+0)+f(-0)]・∫[0,a] sin(λx)/x dx

となります。a→∞をとると、(2)式より

 ∫[-∞,∞] f(x) sin(λx)/x dx=[f(+0)+f(-0)]・π/2

が得られます。

f(x)=1のとき、x’=λxとおくと

 ∫[-∞,∞] sin(λx)/x dx=∫[-∞,∞] sin(x’)/x’ dx’=π/2

が成り立ちます。

次に(1)式の証明を行います。x=y+π/λ とします。

  Sin(λ(y+π/λ))=sin(λy+π)=-sin(λy)

 I(λ)=-∫[b-π/λ、c-π/λ] f(y+π/λ) sin(λy)dy・・・(3)

となります。

 I(λ)=∫[b,c] f(x)sin(λx) dx・・・(4)

(3)+(4)を行うと、積分区間を

  [b -π/λ、c]=[b-π/λ、b]+[b、c-π/λ]+[c-π/λ、c]

に分割できるので、

 2 I(λ)=-∫[b-π/λ、b] f(x+π/λ)sin(λx) dx+∫[b、c-π/λ] [ f(x)-f(x+π/λ)]sin(λx) dx

     +∫[c-π/λ、c] f(x)sin(λx) dx

となります。ワイエルシュトラスの最大値定理より、閉区間[b、c]において、最大値M>0が存在して

 |f(x) sin(λx)|≦|f(x)|≦M となるので、

 2|I(λ)|≦2Mπ/λ+∫[b、c-π/λ] |f(x)-f(x+π/λ)|dx <2ε

となります。任意のε>0に対して、λ>0が存在して、

  2Mπ/λ<ε  かつ  |f(x)-f(x+π/λ)|<ε/(c-b)

が成り立ちます。従って

  limλ→∞|I(λ)|=0 

が示されました。

<フーリエの積分定理>

区分的に滑らかな関数f(t)に対して

  F(ω)=∫[-∞、∞]f(t)e-iωtdt

が存在し、

  1/2π・∫[-∞、∞] F(ω) e-iωtdω=1/2・[f(t+0)+f(t-0)]

が成り立つ。

証明) ディリクレの積分定理より、区分的に滑らかな関数f(x)に関して

 Limλ→∞[-a,-a] f(τ)sin(λτ)/τ dτ=π/2・[f(+0)+f(-0)]

が成り立ちます。いま、f(τ)をf(τ+t)と置き換え、a→∞とすると

 Limλ→∞[-∞,-∞] f(τ+t)sin(λτ)/τ dτ=π/2・[f(t+0)+f(t-0)]

t’=τ+tと変数変換すると

 左辺=Limλ→∞[-∞,-∞] f(t’)sin(λ(t’-t))/(t’-t) dt’

となります。

 ∫[0,λ] cosω (t’-t)dω=[sin(ω(t’-t))/(t’-t)]ω=0、λ=sin(λ(t’-t))/(t’-t)

ですから、これを代入すると

 左辺=Limλ→∞[-∞,-∞] f(t’) [∫[0,λ] cosω (t’-t)dω] dt’

となる。ここで

 cosω (t’-t)=1/2(eiω (t’-t)+e -iω (t’-t))

です。ω’=-ωと置くと

 ∫[0,∞] eiω (t’-t) dω=-∫[0,-∞] e-iω’ (t’-t) dω’= ∫[-∞,0] e-iω (t’-t)

となります。

左辺=1/2∫[-∞,-∞] f(t’) [∫[0,∞] eiω (t’-t)dω+∫[-∞,0] e-iω (t’-t)dω] dt’

  =1/2∫[-∞,-∞] f(t’) [∫[-∞,∞] e-iω (t’-t)dω] dt’

  =1/2∫[-∞,-∞] [∫[-∞,∞] f(t’) e-iωt’ dt’ ] eiωt

が得られます。よって

 F(ω)=∫[-∞,∞] f(t) e-iωt dt

とおくと、

 1/2π・∫[-∞,-∞] F(ω)eiωt dω =1/2・[f(t+0)+f(t-0)]

が示されました。

ディリクレ積分

  ∫[0,∞] sin(λx) /x dx=π/2 (λ>0) ・・・(2)

は収束しますが、

 ∫[0,∞] |sin(x) /x|dx=Σk=1~∞[(k-1)π、kπ] |sin(x)|/x dx

           ≧Σk=1~∞[(k-1)π、kπ] |sin(x)|/kπ dx

           =1/π・Σk=1~∞1/k∫[0、π] sin(x)dx

           =2/π・Σk=1~∞1/k =∞

によって絶対収束しません。

命題1 

 ∫[0、∞] e-axsin(x) /x dx=π/2-tan-1(a) a>0

が成り立つ。

部分積分をすると、

I(a)=∫[0、∞] e-axsin(x) dx=-[e-axcos(x)]x=0~∞+∫[0、∞] (-a)e-axcos(x) dx=

   =1-a{[e-axsin(x)] x=0~∞-(-a)∫[0、∞] e-axsin(x) dx}

   =1-a2I(a)

 I(a)=1/(1+a2)

となります。

  ∫[∞、a’] I(a)da=∫[∞、a’][0、∞] e-axsin(x) dx da

 =∫[0、∞] [∫[∞、a’] e-ax da] e-ax da sin(x) dx

ここで

  ∫[∞、a’] e-ax da=-1/x・[e-ax]a=∞~a’= -1/x・e-a’x

であるから、

 ∫[0、a’] I(a)da=-∫[0、∞] e-a’x sin(x)/x dx

一方、

[∞、a’] I(a)da=∫[∞、a’] 1/(1+a2)da

a=tanθ-とおくと、1/(1+tan2θ)=cos2θ、da=1/ cos2θdθ

a:∞→a’、 θ:π/2→tan-1(a’) より

[∞、a’] I(a)da=∫[π/2、tan-1(a’)] 1da=tan-1(a’)-π/2=-∫[0、∞] e-a’x sin(x)/x dx

である。従って

 ∫[0、∞] e-ax sin(x)/x dx=π/2-tan-1(a)

が示された。

上式でa=0のとき

 I(0)=∫[0,∞] sin(x) /x dx=π/2 

が成り立ちます。上式は複素積分で示すこともできます。

ゼ-タ関数の零点分布を調べました

ゼ-タ関数は

 ζ(z)=∑k=1~∞1/kz=1+1/2z+1/3z+1/4z+・・・   Re(z)>1

という複素関数です。ゼ-タ関数の零点とは、ζ(z)=0となるzのことです。今回はゼ-タ関数の零点を計算してみました。前回、ゼ-タ関数は

 ζ(z)=∏p(1/[1-1/pz])=1/[1-1/2z]・[1-1/3z]・[1-1/5z]・[1-1/7z]・・・

のように素数の積で表示できることを示しました。このことが示唆するように、ゼ-タ関数の零点と素数には密接な関係があることが知られています。

前回、イ-タ関数η(z) (前回はη(z)をL(z)と書きました。)

 η(z)=∑k=1~∞(-1)k-1/kz=1-1/2z+1/3z-1/4z+1/5z-1/7z+・・・          Re(z)>0

を使うと、ゼ-タ関数

 ζ(z)=η(z)/(1-21-z)  Re(z)>0 z≠1

の定義域は、Re(z)>0に拡大できることを示しました。ゼ-タ関数は、ガンマ関数を用いて表示することでRe(z)<0にも拡大できます。ゼ-タ関数の零点には、z=-2、-4、-6・・・・に自明な零点があることが分かっています。1859年にリ-マンはゼ-タ関数の非自明な零点はRe(z)=1/2の線上に分布すると予想しました。今回は

 ζ(z)=η(z)/(1-21-z)=0

を満たす非自明な零点の分布を調べて見ました。問題は、無限和を有限和で置き換えると、級数の収束が遅いので、誤差が大きくなってしまうことです。私のパソコンでは、10万項の級数を計算しても、Re(z)=1/2の線上の零点の虚数座標を有効数字4桁の精度(t1=14.13)でしか求められませんでした。そこでクノップ変換を行い級数の収束性を高めました。 N=40(40×40/2=800項)の計算で零点を有効数字7桁の精度(t1=14.13473)で求めることができました。マンゴルトの明示公式の周期項を微分して得た素数スペクトル曲線に12個の零点を入れて9個の素数を再現しました。

クノップ変換では。収束が遅い級数に「1に収束する級数」を挿入して和の順番を変えることで、級数の収束性を高めます。パラメータqの値を変えることで、収束速度と収束領域が変わります。

関数b(k,N)はNが無限大になると1になりますが、Nが有限だと、kがN/2より大きい所では1より小さくなります。 コンラッド・クノップ(1882~1957)は無限級数の収束を研究したドイツ人の数学者です。

 

[12]素数定理の証明手順のまとめ

[12]素数定理の証明手順のまとめ

[0]関数の定義 P;素数の集合

・リーマンのゼ-タ-関数:ζ(s)=Σ[n=1~∞] 1/ns、Re(s)>1

 (nに関する無限級数)

・ファイ関数:Φ(s)=Σ[p∊P] log(p)/ps、Re(s)>1

 (すべての素数に関する和をとる)

・チェビシェフのシータ関数:θ(x)=Σ[p≦x] log(p)

  (X以下の素数pに関する和をとる)

・素数の個数関数:π(x)=Σ[p≦x]1

[Ⅰ]命題1 Re(s)>1、ζ(s)=Π[p∊P] [1/(1-1/ps)] オイラ-積表示の存在

(1)Re(s)>1でζ(s)のディリクレ級数表示は収束する。

(2)ζ(s)のディリクレ級数表示はオイラ-積表示に一致する。

(3)Re(s)>1でζ(s)のオイラ-積表示は収束する。

(4)ζ(s)は、s>0(s≠1)に拡張することができる。

[Ⅱ] 命題2 ζ(s)-1/(s-1)はRe(s)>0で正則である。

(1)∫[1,∞]1/xs dx=1/(s‐1) for s>1

(2)s∫[n,x] 1/ts+1 dt=1/ns-1/xs

(3)|ts+1|=tRe(s)+1 

(4)ζ(s)-1/(s-1)≦|s|ζ( Re(s)+1)  for s>1 

[Ⅲ] 命題3 Φ(s)-1/(s-1)はRe(s)≧1で正則である。

(1)ζ’(s)/ζ(s) +1/(s-1) はRe(s)≧1で正則である。

(2)Φ(s)‐1/(s‐1)=‐[ζ′(s)/ζ(s)+1/(s‐1)]-Σ[p] log(p)/ps(ps‐1)  を示す。

(3)右辺2項目Σ[p] log(p)/ps(ps‐1)はRe(s)>1/2で正則である。

(4)Re(s)=1でζ(s)=0なる零点が存在しない。

[Ⅳ] 命題4 θ(x)=O(x) i.e. ∃k>0 |θ(x)|≦kx

(1)2nlog2≧θ(2n)-θ(n)

(2)2m+1・log2>θ(2m)

  (3) θ(x) ≦4log2・x

[Ⅴ] 命題5 ∫[1,∞] [θ(x)-x]/x2 dxは収束する。

・[Ⅲ] 、[Ⅳ]、[定理A]を用いて証明する。

(1)Φ(s)=s∫[1,∞] θ(x)/xs+1 dx、Re(s)>1

(2)f(t)=θ(et)e-t-1 (t≧0)は有界、g(z)=∫[0,∞] f(t)exp[-zt] dtが存在する

(3)g(z)=Φ(z+1)/(z+1)-1/z  Re(z)>0

(4)g(z)はRe(z)≧0で正則

(5)g(0)=∫[0,∞] f(t) dt=∫[1,∞] [θ(x)-x]/x2 dx が収束する。

[Ⅵ] 命題6 θ(x)~x i.e. lim[x→∞] θ(x)/x=1

・任意のε>0、∃x>0 1-ε<θ(x)/x<1+εを示す。

・背理法を用いて矛盾を示す。任意の正数xに対して、∃ε>0

(1)1+ε≦θ(x)/x は矛盾を生じるので、θ(x)/x<1+ε by [Ⅴ]

(2)θ(x)/x≦1-ε は矛盾を生じるので、1-ε<θ(x)/x  by [Ⅴ]

[Ⅶ] 素数定理 Lim [x→∞] π(x) logx/x=1

(1)1←θ(x)/x≦π(x)log(x)/x by [Ⅵ]

(2)π(x)log(x)/x≦1/(1-ε)・θ(x)/x+log(x)/xε→1/(1-ε) →1

[定理A] Newmanの解析定理

t≧0で有界かつ可積分な関数f(t)に対して、

g(z)=∫[0,∞] f(t)exp[-zt] dt Re(z)>0

がRe(z)≧0で正則であれば、

 g(0)=∫[0,∞] f(t) dt

が存在する。つまり正則関数

 gT(z)=∫[0,T] f(t)exp[-zt] dt

に対して、

 lim[T→∞]gT(0)=g(0)

が存在する。

[定理A] Newmanの解析定理の証明手順

(1)g(0)-gT(0)=1/2πi・∫C [g(z)-gT(z)]ezT(1+z2/R2)/z dz

(2)A=|g(0)-gT(0)|=|1/2πi・∫C [g(z)-gT(z)]ezT(1+z2/R2)/z dz|

   ≦A++A≦A++A-1+A-2 → 2B/R(T→∞)→ 0 (R→∞)

(3)A+≦B/R、Re(z)>0 

(4)A-1=|1/2πi・∫CgT(z)ezT(1+z2/R2)/z dz|≦B/R 

(5)A-2=|1/2πi・∫Cg(z)ezT(1+z2/R2)/z dz|→ 0

[11][Ⅷ] Newmanの解析定理の証明

[Ⅷ] Newmanの解析定理の証明

(1)g(0)-gT(0)=1/2πi・∫C [g(z)-gT(z)]ezT(1+z2/R2)/z dz を示します。

コ-シ-の積分公式より、領域Dで正則な複素関数f(z)のD内の閉曲線C上の積分に関して、

閉曲線Cで囲まれた領域の点αにおいて

  • f(α)=1/2πi・∫C f(z)/(z-α) dz

が成り立つ。閉曲線Cの半径R>0として、

  • f(z)=[g(z)-gT(z)]ezT(1+z2/R2)

を考えると、f(z)は以下で定義される領域Dで正則であることが分かります。

任意の閉曲線C上のgT(z)の積分は、∫C e-ztdz=0より

  • C gT(z)dz=∫C (∫[0,T]f(t)e-ztdt)dz=∫[0,T] f(t) (∫C e-ztdz)dt=0

です。モレラの定理から、gT(z)は任意の閉曲線C内で正則です。解析定理の前提より、g(z)はRe(z)≧0で正則なので、Re(z)=0上の任意の点z=it(-∞≦t≦∞)でテ-ラ-展開でき、その収束円内のzでも正則です。従って、十分大きなR>0と十分小さなδ>0において、「|z|≦R かつ-δ≦Re(z)」となる領域Dの境界線を閉曲線Cとすると、閉曲線Cの内部領域Dでg(z)とgT(z)は正則です。ezT(1+z2/R2)も正則なので、f(z)は正則関数となり、

コ-シ-の積分公式を適用できます。いまz=0で

  • f(0)=g(0)-gT(0)

です。α=0として、コ-シ-の積分公式を適用すると

  • f(0)=g(0)-gT(0)=1/2πi・∫C [g(z)-gT(z)]ezT(1+z2/R2)/z dz

が成り立ちます。

(2)A=|g(0)-gT(0)|=|1/2πi・∫C [g(z)-gT(z)]ezT(1+z2/R2)/z dz|

   ≦A++A≦A++A-1+A-2 → 2B/R(T→∞)→ 0 (R→∞)

を示します。そのために、積分路を

  • C=C+ (Re(z)>0)+C(Re(z)<0)

に分け、

 A+=|1/2πi・∫C+ [g(z)-gT(z)]ezT(1+z2/R2)/z dz|

 A=|1/2πi・∫C[g(z)-gT(z)] ezT(1+z2/R2)/z dz|≦ A-1+A-2

とします。ここで

 A-1=|1/2πi・∫C-’gT(z)ezT(1+z2/R2)/z dz|

 A-2=|1/2πi・∫Cg(z)ezT(1+z2/R2)/z dz|

とします。これから

 A≦A++A≦A++A-1+A-2 → 2B/R(T→∞)→ 0 (R→∞)

を示します。

 

 

 

 

 

 

 

(3)A+≦B/R、Re(z)>0 を示します。

z=Reiθとおいて積分変数をzからθに変換すると、dz=i Reiθ

  A+≦1/2π|∫C|g(z)-gT(z)|eRe(z)T [1+z2/R2]/z dz|

非積分関数

[1+z2/R2]/z=[1+R2e2iθ/R2]/Reiθ=2[R(eiθ+e-iθ)/2]/R2=2Re(z) /R2

より

  A+≦1/2π∫C|g(z)-gT(z)|eRe(z)T 2Re(z) /R2|dz|

いま、|f(t)|≦B(有界)なので

|g(z)-gT(z)|=|∫[T,∞] f(t)exp[-zt] dt|≦B|∫[T,∞] exp[-Re(z)t] dt|

      =-B/ Re(z)[ exp[-Re(z)t]]t=T,=B/ Re(z)・e-Re(z)T

です。従って、

A+≦1/2π∫CB/ Re(z)・e-Re(z)T・eRe(z)T 2Re(z) /R2|dz|=(B/πR2) ∫C|dz|

となります。∫C|dz|=πRより

  A+≦B/R

が得られます。

(4)A-1=|1/2πi・∫CgT(z)ezT(1+z2/R2)/z dz|≦B/R を示します。

Re(z)<0より、C- ’の積分経路を用いる。|Re(z)|=-Re(z)に注意して

 |gT(z)|=|∫[0,T] f(t)e-zt dt|≦B∫[0,T] e-Re(z)t dt=B/(-Re(z))[e-Re(z)t]t=0,T

     =B/(-Re(z))[e-Re(z)T-1]≦B/(-Re(z))e-Re(z)T

 A-1=|1/2πi・∫C-’gT(z)ezT(1+z2/R2)/z dz|

   ≦1/2π・∫C-’|gT(z)|eRe(z)T|(1+z2/R2)/z||dz|

   ≦1/2π・[B/(-Re(z))e-Re(z)T] eRe(z)T[2Re(z) /R2]・∫C-’|dz|

    =1/2π・B/(-Re(z)) [2|Re(z)|/R2]・πR=B/R

(5)A-2=|1/2πi・∫Cg(z)ezT(1+z2/R2)/z dz|→ 0 as T→∞ を示す。

有界閉集合C-上のTを含まない複素関数の絶対値には最大値があり、

 |g(z) (1+z2/R2)/z|≦M

なる正数Mが存在します。

  A-2≦M/2π・|∫CezT dz|≦M/2π・∫CeRe(z)T|dz|

となる。C-上の積分路を弧AB上と直線BC上の2つに分けて、実行します。

1)弧AB上:z=R eiθ (π/2≦θ≦λ)、cos(λ)=-δ/R |dz|=Rdθ

2)直線BC上:z=-δ+it (0≦t≦√(R2-δ2))  |dz|=dt

実軸に対する対称性から、積分経路をIm(z)≧0に限定して、積分値を2倍します。

A-2≦2・M/2π・[∫AB eRe(z)T|dz|+∫BC eRe(z)T|dz|]

  =M/π・[∫[(π/2θ≦λ] eRcos(θ)T Rdθ -∫[0t√(R2δ2)] e-δT dt ]

t=cos(θ)とおくと、dt=-sin(θ)dθ=-√(1-t2) dθより、t:0→cos(λ)=-δ/R

 =M/π・[-∫[(0tδ/R] eRTt R/√(1-t2) dt -√(R2-δ2)・e-δT ]

 ≦M/π・[-∫[(0tδ/R] eRTt R/√(1-(δ/R)2) dt -√(R2-δ2)・e-δT ]

  =M/π・[-R2/√(R2-δ2)・∫[(0tδ/R] eRTt dt -√(R2-δ2)・e-δT ]

ここで

 ∫[(0tδ/R] eRTt dt=1/RT・[eRTt]t=0, δ/R=1/RT・[e-Tδ-1]

ですから、δ>0より、

A-2≦M/π・[R2/√(R2-δ2)・1/RT・[1-e-Tδ]-√(R2-δ2)・e-δT ] → 0 as T→∞

が得られます。

(3)~(5)より、

  |g(0)-gT(0)|=A≦A++A≦2B/R → 0  as  T→∞, R→∞

が成り立ちます。よって

 lim[T→∞]gT(0)=g(0)

が存在することが証明されました。

 

<コ-シ-の積分公式>

領域Dで正則な複素関数f(z)のD内の閉曲線C上の積分に関して、Cで囲まれた領域の点z=αにおいて

  • f(α)=1/2πi・∫C f(z)/(z-α) dz

が成り立つ。Cの向きは反時計回りを正とする。

証明)z=αの近傍で、正則関数f(z)を

  • f(z)=f(α+z-α)=f(α)+f’(α) (z-α)+1/2・f’’(α) (z-α)2+・・・

と展開すると、正則関数1,z、z2、z3、・・は閉曲線C内に極をもたないので、コーシ-の積分定理よりC上の積分でゼロになります。

C f(z)/(z-α) dz=∫C[f(α)+f’(α) (z-α)+1/2・f’’(α) (z-α)2+・]/(z-α) dz

 =f(α)・∫C 1/(z-α) dz +f’(α)∫C dz+1/2・f’’(α) ∫C (z-α) dz+・・・

 =f(α)・∫C 1/(z-α) dz

となります。z=α+eとおくとdz=iedθ、θ=0~2πより

 ∫C 1/(z-α) dz=∫[0≦θ≦2π]i e/edθ=2πi

従って

 ∫C f(z)/(z-α) dz=2πi f(α)

となります。

 

<モレラの定理>~コ-シ-の積分定理の逆

閉曲線C上の連続関数f(z)の積分に関して、∫C f(z)dz=0 ならば、f(z)は閉曲線C内で正則である。

証明)z0からzまでの積分経路をCとします。

 F(z)=∫C=[z0,z] f(z)dz

zからz+Δzまでの経路Lを、

  • ξ(t)=z+Δz・t (0≦t≦1)

で定義します。

  • dz=ξ’(t)dt=Δzdt

が成り立ち、

 F(z+Δz)=∫C+L f(z)dz

と書けます。以下にF(z)の導関数F’(z)が存在し、F’(z)=f(z)となることを示します。

  |[F(z+Δz)-F(z)]/ Δz-f(z)|=|[∫C+L f(z)dz-∫C f(z)dz] /Δz-f(z)|

 =|(1/Δz)∫[z,z+Δz] f(z)dz-f(z)|=|(1/Δz)∫[0,1] f(ξ(t)) Δzdt-f(z)|

 =|∫[0,1] f(ξ(t)) dt-f(z)|

 ≦∫[0,1]|f(ξ(t))-f(z)|dt ≦∫[0,1]εdt=ε

ここでf(ξ)は連続なので、任意のε>0に対して、|f(ξ)-f(z)|<ε を満たす、|ξ-z|<ΔzなるΔz>0が存在します。ε→0とΔz→0は対応しています。

 Iim[Δz→0]|[F(z+Δz)-F(z)]/ Δz-f(z)|≦Iim[Δz→0]ε(Δz)→0

よって、F(z)の導関数F’(z)が存在し、F’(z)=f(z)となります。F(z)の導関数が存在するから、F(z)は正則です。グルサの定理より、F’(z)も正則になります。F’(z)=f(z)なので、f(z)も正則になります。従って、閉曲線Cに対して、∫C f(z)dz=0 ならば、f(z)はC内で正則であることが示されました。

 

[10][Ⅶ] 素数定理 Lim [x→∞] π(x) logx/x=1 の証明

[Ⅶ] 素数定理 Lim [x→∞] π(x) logx/x=1 の証明

(1)Lim[x→∞]π(x)log(x)/x≧1 を示します。

チェビシェフのシータ関数には

  • θ(x)=Σ[px] log(p)≦{Σ[px]1} log(x)=π(x) logx

なる性質があります。x>0について、[Ⅵ]より

  • π(x) logx/x ≧ θ(x)/x →1 as x→∞

よって、Lim[x→∞]π(x)log(x)/x≧1 となります。

(2)Lim[x→∞] π(x) log(x)/x≦1 を示します。

任意のε>0に対して、十分大きいxをとれば、ε・log(x)を大きくとることができるから、

 log(x)-ε・log(x)≦log(p)≦log(x) → 0<x1-ε≦p≦x 

なる素数pが存在します。

θ(x)=Σ[px] log(p) ≧ Σ[x1-ε<p≦x] log(p) ≧Σ[x1-ε<p≦x] log(x1-ε)

  =(1-ε)log(x)・Σ[x1-ε<p≦x]1=(1-ε)log(x)・(π(x)-π(x1-ε))

よって、

   θ(x) ≧(1-ε)log(x)・(π(x)-π(x1-ε))

   θ(x)/x (1-ε) ≧π(x) log(x)/x-π(x1-ε) log(x)/x

すなわち

  π(x) log(x)/x ≦ 1/(1-ε)・θ(x)/x+π(x1-ε) log(x)/x

                     ≦1/(1-ε)・θ(x)/x+x1-ε・log(x)/x

となる。ここで

    x1-ε・log(x)/x=log(x)/xε=1/ε・log(xε)/xε

より、任意のε>0に対して

  π(x) log(x)/x≦1/(1-ε)・θ(x)/x+1/ε・log(xε)/xε → 1/(1-ε) as x→∞

が成り立つ。極限をとると

    Lim[x→∞] π(x) log(x)/x≦1

となる。

(3)(1)と(2)から、素数定理

  Lim[x→∞] π(x) log(x)/x=1

が証明されました。

 

[定理A] Newmanの解析定理

t≧0で有界かつ可積分な関数f(t)に対して、

g(z)=∫[0,∞] f(t)exp[-zt] dt Re(z)>0

がRe(z)≧0で正則であれば、

 g(0)=∫[0,∞] f(t) dt

が存在する。つまり正則関数

 gT(z)=∫[0,T] f(t)exp[-zt] dt

に対して、

lim[T→∞]gT(0)=g(0)

が存在する。

[9][Ⅵ] θ(x)~x の証明

[Ⅵ] θ(x)~x の証明

 θ(x)~x の定義は、lim[x→∞] θ(x)/x=1 です。これは、任意のε>0、∃x>0に対して、

  1-ε<θ(x)/x<1+εと同値です。あるいは

  • 任意のλ>1に対してθ(x)<λx かつ
  • 任意のλ<1に対してλx<θ(x)

と同値です。この命題を否定して、

  • λ>1に対してθ(x)≧λx かつ
  • λ<1に対してλx≧θ(x)

なるλが存在するとして、矛盾を導きます。

(1)λ>1に対してθ(x)≧λx なるλが存在するとして、矛盾を導きます。

 λ>1のとき、x≦t≦λxなるtに対して、θ(t)≧θ(x)であり

  • θ(t)≧θ(x)≧λx → (θ(t)-t)/t2 ≧(λx-t)/t2

 であるから、

  • [x,λx] [(θ(t)-t)/t2] dt ≧∫[x,λx] [(λx-t)/t2] dt=∫[1,λ] [(λ-s)/s2] ds=δ(λ)>0

 が成り立ちます。ここでt=xsとおいて、積分変数をtからsに変換しました。

(Ⅴ)より積分

  • F(x)=∫[1,x] [(θ(t)-t)/t2] dt → F(∞)as x→∞

は収束するので、x→∞で

  • 0<δ(λ)≦∫[x,λx] [(θ(t)-t)/t2] dt=F(λx)-F(x) → 0 as x→∞

となり、矛盾することが示せました。

(2)λ<1に対してλx≧θ(x)なるλが存在するとして、矛盾を導きます。

 λ<1のとき、λx≦t≦xなるtに対して、θ(t)≦θ(x)であり、

  • θ(t)≦θ(x)≦λx → (θ(t)-t)/t2 ≦(λx-t)/t2

 であるから、

  • [λx, x] [(θ(t)-t)/t2] dt ≦∫[λx, x] [(λx-t)/t2] dt=∫[λ,1] [(λ-s)/s2] ds=δ(λ)<0

 が成り立ちます。ここでt=xsとおいて、積分変数をtからsに変換しました。

 (Ⅴ)より積分

  • F(x)=∫[1,x] [(θ(t)-t)/t2] dt → F(∞)as x→∞

 は収束するので、x→∞で

  • 0>δ(λ)≧∫[λx, x] [(θ(t)-t)/t2] dt=F(x)-F(λx) → 0 as x→∞

 となり、矛盾します。よって背理法より、lim[x→∞] θ(x)/x=1 が示されました。

[8][Ⅴ] ∫[1,∞] [θ(x)-x]/x2 dxは収束する。

[Ⅴ] ∫[1,∞] [θ(x)-x]/x2 dxは収束する。

上記の積分の収束を命題[Ⅲ] 、[Ⅳ]、[定理A]を用いて5段階で証明します。

(1) Φ(s)=s∫[1,∞] θ(x)/xs+1 dx、Re(s)>1 が成り立つことを示します。

s∫[1,∞] θ(x)/xs+1 dx=s∫[1,∞]Σ[p≦x] log(p)/xs+1 dx

=s∫[1,2]0 dx+s∫[2,3] log2/xs+1dx+s∫[3,5](log2+log3)/xs+1 dx+・・・

=-[log2/x]x=2,3-[(log2+log3)/x]x=3,5-[(log2+log3+log5)/x]x=5,7+・・・

=-(log2/3s-log2/2s)-[ (log2+log3)/5s-(log2+log3)/3s) ]

 -[ (log2+log3+log5)/7s-(log2+log3+log5)/5s) ]

 -[ (log2+log3+log5+log7)/11s-(log2+log3+log5+log7)/7s) ]-・・・

=log2/2s+log3/3s+log5/5s+log7/7s+・・・

=Σ[p]logp/ps =Φ(s)

(2)f(t)=θ(et)e-t-1 (t≧0)は有界かつ可積分である、ことを示します。

 (Ⅲ)でx=etとして、あるK>0が存在して、|θ(et)|≦Ket だから

   |f(t)|=|θ(et)e-t-1|≦|θ(et)|e-t+1=Ket e-t+1=K+1 

となり、f(t)は有界な関数である。

(3)g(z)=Φ(z+1)/(z+1)-1/z  Re(z)>0 を示します。

x=etとおいて置換積分を実施する。dx=xdt、t:0→∞、x:1→∞、

e-zt=(et)-z=x-zに注意すると、

 g(z)=∫[0,∞] (θ(et)e-t-1)exp[-zt] dt

  =∫[1,∞] (θ(x)x-1) x-z dx/x-[e-zt/-z]t=0,∞

  =∫[1,∞] (θ(x)/xz+2)dx-1/z

  =Φ(z+1)/(z+1)-1/z

が示されました。

(4)g(z)はRe(z)≧0で正則である、ことを示します。

(Ⅲ)より、Φ(s)-1/(s-1)はRe(s)≧1で正則なので、s=z+1として

  Re(s)=Re(z)+1≧1 → Re(z)≧0 

Φ(z+1)-1/zはRe(z)≧0で正則なので、正則関数h(x)を用いて、

  Φ(z+1)-1/z=h(x) 

と表せます。

 g(z)=Φ(z+1)/(z+1)-1/z

   =(h(x)+1/z)/(z+1)-1/z=

   =h(x)/(z+1)+1/z(z+1)-1/z

   =h(x)/(z+1)+[1-(z+1)]/z(z+1)

   =[h(x)-1]/(z+1)

 g(z)は、z=-1に極をもちますが、Re(z)≧0で正則であることが示されました。

(5)g(0)=∫[0,∞] f(t) dt=∫[1,∞] [θ(x)-x]/x2 dx が収束する、ことを示します。

 (2)より関数f(t)=θ(et)e-t-1はt≧0で有界かつ可積分であり、

 (4)よりg(z)=∫[0,∞] f(t)exp[-zt] dt がRe(z)≧0で正則である

従ってNewmanの解析定理により

  g(0)=∫[0,∞] f(t) dt=∫[0,∞] (θ(et)e-t-1) dt

が存在します。(3)と同様にx=etとおいて置換積分を実施すると、

  g(0)=∫[1,∞] (θ(x)x-1-1) dx/x=∫[1,∞] [θ(x)-x]/x2 dx

が収束することが示されました。

[7][Ⅳ] θ(x)=O(x) の証明

[Ⅳ] θ(x)=O(x) の証明

チェビシェフのシータ関数:θ(x)=Σ[px] log(p) がオーダ-xであること、すなわち

・ ∃k>0 |θ(x)|≦kx          

を3段階で証明します。

(1)2nlog2≧θ(2n)-θ(n) の証明

2項定理より

22n=(1+1)2n=Σ[k12n] 2nC1k12n-k2nCn=2n・(2n-1)・(2n-2)・・(n+2)・(n+1)/n!

2nCnは自然数なので、分母のn!は約分されて1になります。しかしn+1<p≦2nの素数pはn!の中には存在しないので、約分されずに分子に残ります。右辺はn+1<p≦2nの素数pの積Π[n+1p2n] pより大きくなるので、

・ 22n≧Π[n+1p2n] p

が成り立ちます。一方

・ θ(2n)-θ(n)=Σ[p2n] log(p)-Σ[pn] log(p)=Σ[n+1p2n] log(p)

なので、

・ exp[θ(2n)-θ(n)]=exp[Σ[n+1p2n] log(p)]=Π[n+1p2n] p

です。よって

・ 22n≧exp[θ(2n)-θ(n)] → 2n・log2≧θ(2n)-θ(n)

が成り立ちます。

Eg.  16C8=16・15・14・13・12・11・10・9/8・7・6・5・4・3・2・1

    =2・3・13・11 >11・13(8+1≦11,13≦16)

(2)2+1・log2>θ(2m) の証明

 上式にn=2k1を代入すると、2k・log2≧θ(2k)-θ(2k1)が成り立つ。

k=1: 21・log2≧θ(21)-θ(1) 

k=2: 22・log2≧θ(22)-θ(21)

k=3: 23・log2≧θ(23)-θ(22)

・・・   ・・・・

k=m-1:2m1・log2≧θ(2m1)-θ(2m2)

k=m:  2m・log2≧θ(2m)-θ(2m1)

をすべて加えると、θ(1)=0より

  log2・Σ[k1m] 2k ≧θ(2m)

を得ます。ここで

  Σ[k1m] 2k=2m+1-2<2m+1

だから、

  2m+1 log2>θ(2m)

が示されました。

(3) θ(x) ≦4log2・x

x≧1なる整数xに対して、∃m∊N、2m≦x≦2m+1

θ(x)は非減少関数なので、(2)より

  0≦θ(x) ≦θ(2m+1)<2m+2 log2≦4 log2・2m≦4 log2・x

よって、K=4 log2とおくと

  θ(x) ≦Kx、 → θ(x)=O(x)

が示されました。

[6][Ⅲ] Φ(s)-1/(s-1)はRe(s)≧1で正則である。

[Ⅲ]  Φ(s)-1/(s-1)はRe(s)≧1で正則である

という命題を5段階に分けて証明します。これは素数定理の証明で最も本質的な部分の証明です。

(1)ζ’(s)/ζ(s) +1/(s-1) はRe(s)≧1で正則である、を示します。

  ζ(s)‐1/(s-1)はRe(s)>0で正則なので、係数anを用いて

・    ζ(s)=1/(s-1)+Σ[n=0~∞] an (s-1)n

と表示できます。項別微分ができるので、

・     ζ’(s)=-1/(s-1)2+Σ[n=1~∞] nan (s-1)n-1

となります。よって

   (s-1)ζ’(s)/ζ(s)

  =(s-1) [-1/(s-1)2+Σ[n=1~∞] nan (s-1)n-1]/[1/(s-1)+Σ[n=0~∞] an (s-1)n]

  =[-1+Σ[n=1~∞] nan (s-1)n+1]/[1+Σ[n=0~∞] an (s-1)n+1]

  →-1 as s→1

つまり

  • ζ’(s)/ζ(s) +1/(s-1) はRe(s)≧1で正則である。

ことが示されました。

(2)Φ(s)‐1/(s‐1)=‐[ζ′(s)/ζ(s)+1/(s‐1)]-Σ[p] log(p)/ps(ps‐1)  を示す。

ゼータ関数ζ(s)のオイラ-積表示

  • ζ(s)=Π[p] [1/(1‐1/ps)]

の対数を取ると、

  • log[ζ(s)]=‐Σ[p] log(1‐1/ps)

となります。これを微分した導関数は

  • (1/ps)′=exp(‐slog(p))′=‐log(p)/ps

となります。よって

  • ζ′(s)/ζ(s)=‐Σ[p] (1‐1/ps)′/(1‐1/ps)=‐Σ[p] log(p)/ps/(1‐1/ps)

より

  • ζ′(s)/ζ(s)=‐Σ[p] log(p)/(ps‐1)

となります。ここでさらに

  • 1/(ps‐1)=1/ps+1/ ps(ps‐1)

を用いると、

  • ζ′(s)/ζ(s)=‐Σ[p] log(p)/ps-Σ[p] log(p)/ps(ps‐1)

つまり、ゼータ関数ζ(s)とファイ関数Φ(s)の関係式

  • ζ′(s)/ζ(s)=‐Φ(s)-Σ[p] log(p)/ps(ps‐1) 

が得られます。変形すると

  • Φ(s)‐1/(s‐1)=‐[ζ′(s)/ζ(s)+1/(s‐1)]-Σ[p] log(p)/ps(ps‐1)  

なる表式が得られました。

(3)右辺2項目Σ[p] log(p)/ps(ps‐1)はRe(s)>1/2で正則である、を示します。

Re(s)>1/2のとき

 |ps|>|2s|=2Re(s) >√2

である。このとき

  |ps|<(2+√2)(|ps|-1)  → 1/(|ps|-1)<(2+√2) /|ps

が成り立つ。理由は

   (2+√2)< (1+√2)|ps| → √2<|ps

   (2+√2)/ (1+√2)=(2+√2) (√2-1)=2√2-2+2-√2=√2

従って

  |log(p)/ps(ps‐1)|< log(p)/(|ps||ps‐1|)< (2+√2)・log(p)/p2Re(s)

素数に関する和をとると
  Σ[p]|log(p)/ps(ps‐1)|<(2+√2)・Σ[p] log(p)/p2Re(s)=(2+√2)・Φ(2Re(s))

Φ(2Re(s))は2Re(s)>1で収束するので、ワイヤストラスの収束判定定理よりRe(s)>1/2の

領域で、Σ[p] log(p)/ps(ps‐1)は広義一様収束し、正則関数になることが示されました。

(4)Re(s)=1でζ(s)=0なる零点が存在しない、ことを示す。

複素共役変換:Conj(a+bi)=a-bi、に関して

  Conj[ζ(s)]=ζ(Conj(s))

が成り立つ(鏡像原理)。なぜなら、

  Conj[ζ(s)]=Σ1/nRe(s)Im(s) =Σ1/nConj[s] =ζ(Conj(s))

だからです。実数a>0に対して、

  ζ(1+ai)=0 ならば ζ(1-ai)=0

  ζ(1+2ai)=0 ならば ζ(1-2ai)=0

が成り立つ。

今、s=1+ai がζ(s)のu位の零点、s=1+2ai がζ(s)のv位の零点だとすると、

u≧0、v≧0なる整数を用いて

 ζ(s)=bu(s-1-ai)u+bu+1(s-1-ai)u+1+bu+2(s-1-ai)u+2+・・・

 ζ(s)=Cv(s-1-2ai)v+Cv+1(s-1-2ai)v+1+Cv+2(s-1-2ai)v+2+・・・

と展開できます。鏡像原理から同様に、s=1-ai がζ(s)のu位の零点、s=1-2ai がζ(s)の

v位の零点となるので、

 ζ(s)=bu(s-1+ai)u+bu+1(s-1+ai)u+1+bu+2(s-1+ai)u+2+・・・

 ζ(s)=Cv(s-1+2ai)v+Cv+1(s-1+2ai)v+1+Cv+2(s-1+2ai)v+2+・・・

と展開することもできます。各収束円内で項別微分して、

 ζ′(s)=-1/(s-1)2+a1+2a2(s-1)+3a3(s-1)2+・・・

 ζ’(s)=ubu(s-1∓ai)u1+(u+1)bu+1(s-1∓ai)u+(u+2)bu+2(s-1∓ai)u+1+・・・

 ζ’(s)=vCv(s-1∓2ai)v1+(v+1)Cv+1(s-1∓2ai)v+(v+2)Cv+2(s-1∓2ai)v+1+・・・

Φ関数に関して、

  •  Φ(s)=-ζ′(s)/ζ(s)-Σ[p] log(p)/ps(ps‐1) 

が成り立っていました。このとき1)~3)の性質があります。

1) lim[ε→0] εΦ(1+ε)=1 e. Φ(s)~1/(s-1)の項がある場合

 εΦ(1+ε)=-εζ′(1+ε)/ζ(1+ε)-εΣ[p] log(p)/p1+ε(p1+ε‐1) 

  =-ε[-1/ε2+a1+2a2ε+3a3ε2+・・・]/ [1/ε+a0+a1ε+a2ε2+・・・]-O(ε)

  =[1-a1ε2+2a2ε3+3a3ε4+・・]/ [1+a0ε+a1ε2+a2ε2+・・]-O(ε)

  →1  as ε→0

2) lim[ε→0] εΦ(1+ε±ai)=-u e. Φ(s)~-u/(s-1∓ai)の項がある場合

 εΦ(1+ε±ai)=-εζ′(1+ε±ai)/ζ(1+ε±ai)-εΣ[p] log(p)/p1+ε±ai (p1+ε±ai‐1) 

=-ε[ubuεu1+(u+1)bu+1εu+(u+2)bu+2εu+1+・]/ [buεu+bu+1εu+1+bu+2εu+2+・] -O(ε)

=-[ubu+(u+1)bu+1ε+(u+2)bu+2ε2+・・]/ [bu+bu+1ε1+bu+2ε2+・・]-O(ε)

 →-u as ε→0

3) lim[ε→0] εΦ(1+ε±2ai)=-v e. Φ(s)~-v/(s-1±2ai)の項がある場合

 εΦ(1+ε±2ai)=-εζ′(1+ε±2ai)/ζ(1+ε±2ai)-εΣ[p] log(p)/p1+ε±2ai (p1+ε±2ai‐1) 

=-ε[vCvεv1+(v+1)Cv+1εv+(v+2)Cv+2εv+1+・]/ [Cvεv+Cv+1εv+1+Cv+2εv+2+・]-O(ε)

=-[vCv+(v+1)Cv+1ε+(v+2)Cv+2ε2+・・]/ [Cv+Cv+1ε1+Cv+2ε2+・・]-O(ε)

→-v as ε→0

4)恒等式:

  • [2Re(pia/2)]4=p2ia+4pia+6+4pia+p2ia

が成り立つ。

[2Re(pia/2)]4=[pia/2+pia/2]4=[pia+pia+2]2=p2ia+p2ia+4+2 piapia+4 pia+4 pia

                =p2ia+4pia+6+4pia+p2ia

5)εΣ[p]log(p)/p1+ε[2Re(pia/2)]4

  =εΦ(1+ε-2ai)+4εΦ(1+ε-ai)+6εΦ(1+ε)+4εΦ(1+ε+ai)+εΦ(1+ε+2ai)

  → 2(3-4u-v) as ε→0

が成り立つ。

  0<εΣ[p]log(p)/p1+ε[2Re(pia/2)]4

   =εΣ[p]log(p)/p1+ε[p2ia+4pia+6+4pia+p2ia]

   =εΣ[p]log(p)/p1+ε-2ia+4εΣ[p]log(p)/p1+ε+ia+6εΣ[p]log(p)/p1+ε

             +4εΣ[p]log(p)/p1+ε-ia+εΣ[p]log(p)/p1+ε+2ia

   =εΦ(1+ε-2ai)+4εΦ(1+ε-ai)+6εΦ(1+ε)+4εΦ(1+ε+ai)+εΦ(1+ε+2ai)

   → -v-4u+6-4u-v = 2(3-4u-v)>0 as ε→0

6)ζ(s)はs=1±aiに零点を持たない、を示す。

結局

  • u≧0、v≧0、3-4u-v>0 

より、u=0 が結論される。任意の正数aに対して、ζ(s)はs=1±aiに零点を持たない。

  • ζ(s)=b0+b1(s-1±ai)+b2(s-1±ai)2+・・・、b0≠0

と展開できる。以上をまとめると

(1)ζ’(s)/ζ(s) +1/(s-1) はRe(s)≧1で正則である。 

(2)Φ(s)‐1/(s‐1)=‐[ζ′(s)/ζ(s)+1/(s‐1)]-Σ[p] log(p)/ps(ps‐1)

(3)Σ[p] log(p)/ps(ps‐1)はRe(s)>1/2で正則である。

(4)Re(s)=1でζ(s)=0なる零点が存在しない。

以上より、

  • Φ(s)‐1/(s‐1)はRe(s)≧1で正則である。

と結論できます。

<メモ>

・Re(s)>1で、オイラ-積 ζ(s)=Π[p] [1/(1‐1/ps)]が収束する

ことを示しておきましょう。

  • 1/(1‐1/ps)==ps/(ps‐1)=1+1/(ps‐1)

と書けます。今

|ps|=pRe(s) >p≧2 より、 2|ps|-|ps|>2 → 2(|ps|-1)>|ps|>0 

→ 1/(|ps|-1)<2/|ps

が成り立ちます。

  • |1/(ps‐1)|≦1/(|ps|‐1)<2/|ps|=2/pRe(s)

が成り立ちます。素数pに対してn≦p<n+1なる自然数nが存在します。

  • fn(s)=δnp/(ps‐1)、Mn=1/nRe(s)

とすると、上の性質より

  • |fn(s)|≦|1/(ps‐1)|≦ 1/(|ps|‐1)≦ 2/pRe(s)≦ 2/nRe(s)= Mn

であり、Re(s)>1で

  • Σ[n1~∞] Mn= 2Σ[n1~∞] 1/nRe(s) =2ζ( Re(s)) が収束する。

従って、無限積の収束判定の定理より、オイラ-積

  • Π[n] [1+fn(s)]= Π[n] [1+δnp/(ps‐1)] = Π[p] [1+1/(ps‐1)]= Π[p] [1/(1‐1/ps)]

が収束します。

<無限積の収束判定定理>

関数列{fn(s)}n1.2.3・・に対して、正の数列{Mn} n1.2.3・・が、任意のsの領域において

1)|fn(s)|≦Mn

2)Σ[n1~∞] Mn<∞

の2条件を満たすならば、無限積

  • Π[n1~∞] [1+fn(s)]

が収束する。

証明) Sn=Σ[k=1~n] fk(s)、Pn=Π[k1n] [1+fk(s)]とする。

Sn=Σ[n=1~n] fn(s)<Pn=Π[k1n] [1+fk(s)]<Π[k1n]=exp[Σ[k1n]fk(s)]=exp[Sn]

0<|Sn|≦Σ[n=1~n] Mn <|Pn|<exp[|Sn|] ≦exp[Σ[n=1~n] Mn]

この関係は、n→∞では、

0<|S|≦Σ[n=1~∞] Mn<|Pn=∞|<exp[Σ[n=1~∞] Mn]<∞

となるので、Σ[n=1~∞] Mnが収束するならば、|Pn=∞|=Π[n1~∞] [1+fn(s)]が存在する。

注意:|Pn=∞|が存在すれば、|Sn=∞|も存在します。

[4][Ⅰ]リーマンのゼータ関数について

リ-マンのゼータ関数ζ(s)は、

  • ζ(s)=Σ[n=1~∞] 1/ns =1+1/2s+1/3s+・・・

Re(s)>1で収束します。これをζ(s)のディリクレ級数表示ともいいます。

s>1ならば、2≦n≦Nに対して、n-1<x<nの時、

  •  1/ns<1/xs<1/(n-1)s

が成り立つので、

  • 1/ns<∫[n-1,n]1/xs dx <1/(n-1)s
  • Σ[n=2~N] 1/ns<Σ[n=2~N][n-1,n]1/xs dx <Σ[n=2~N] 1/(n-1)s
  • Σ[n=2~N] 1/ns<∫[1,N]1/xs dx <Σ[n=2~N] 1/(n-1)s
  • Σ[n=1~N] 1/ns-1<∫[1,N]1/xs dx <Σ[n=1~N-1] 1/ns

ここで

  • [1,N]1/xs dx=[x1S/(1-s)]x=1,N =1/(s‐1)[1-N1s]<1/(s‐1)

なので、

  • Σ[n=1~N] 1/ns<1+1/(s‐1) → Σ[n=1~∞] 1/nsは収束する

従って

  • 1/(s‐1) ≦ζ(s) ≦1+1/(s‐1) for s>1

より、

  • Lim[s→+1] ζ(s)=∞ かつ Lim[s→+1] (s‐1)ζ(s)=1

が得られます。

 

s=1のときは、ζ(s)は調和級数となり

  • Σ[n=1~∞] 1/n =1+1/2+1/3+・・・=log(∞)

対数発散をします。これは積分判定法から分かります。

積分判定法とは、正の単調減少関数f(x)によって、数列anを、an=f(n)と定義すると、

  • Σ[n=1~∞] anが収束 ⇔ ∫[1,∞] f(x) dxが収束

が成り立つというものです。よって

  • [1,∞] 1/x dx=log(∞) → Σ[n=1~∞] 1/n=log(∞)

だと分かります。あるいは任意の正の整数kに対して

  • Σ[n=1~2k]1/n > 1+k/2 → as k →∞

により示すことができます。

 

ゼータ関数ζ(s)のオイラ-積表示は

  • ζ(s)=Π[p] [1/(1‐1/ps)]

はディリクレ級数表示と一致するでしょうか。

s>1のとき、有限積

  • PN(s)=Π[p≦N] [1/(1‐1/ps)]

を考えます。

  • 1/(1‐1/ps)=Σ[k=0~∞] (ps)k=1+1/ps+1/p2s+1/p3s+・・・

を代入して、PN(s)を展開すると、素因数分解の一意性より

  • Σ[n=1~N] 1/ns < PN(s)=Σ[nの各素因数≦N] 1/ns <Σ[n=1~∞] 1/ns=ζ(s)

が成り立つので、

  • Π[p] [1/(1‐1/ps)]=Lim[N→∞] PN(s)=ζ(s)

ゼータ関数ζ(s)はオイラ-積表示可能であることが示されました。

 

ゼータ関数ζ(s)は、s>0(s≠1)に拡張することができます。

  • ζ(s)=L(s)/(1-21s) 、L(s)=Σ[n=1~∞](-1)(n1)/ns

右辺はs>0(s≠1)で収束します。実際部分和LN(s)=Σ[n=1~N](-1)(n1)/nsを考えると、

  • 0<1-1/2s=L2<L4<・・・<L2N<L2N+2<L2N+1<L2N-1<・・・<L3<L1=1

偶数番目の部分和L2nは上に有界で単調増加、奇数番目の部分和L2n-1は下に有界で単調減少なので、それぞれ収束し、s>0のとき

  • L2N-L2N-1=-1/(2N)s → 0  as  N →∞

だから、

  • Lim[N→∞] L2N=Lim[N→∞]L2N-1=L(s)

となります。

  • ζ(s)‐L(s)=2Σ[n=1~∞]1/(2n)s=2(1s)・Σ[n=1~∞]1/ns=2(1s) ζ(s)

よって、

  • ζ(s)=L(s)/(1-21s) for s>0(s≠1)

が示されました。s>0のときは、ζ(s)はL(s)/(1-21s)だと再定義します。

0<s<1のとき、L(s)>0で(1-21s)<0なので、ζ(s)<0であり、

  • Lim[s→1-δ] ζ(s)=-∞

となります。正の関数を解析接続すると負の関数になるのは驚きです。

実はガンマ関数を用いると、s<0の領域にもζ(s)を拡張することができます。

結果だけ書くと、

  • ζ(s)=2sπs1・sin(πs/2)・Γ(1-s)・ζ(1-s)  s<0(s≠1)

右辺は1-s>1で定義されるので、左辺はs<0で定義できます。

  • sin(πs/2)=0 for s=-2、-4、-6、・・・

なので、

  • ζ(-2k)=0 (kは正の自然数)

となります。これらの負の零点をゼータ関数の自明な零点といいます。

下図にゼータ関数の外形を示します。N=10000までの和で計算表示しました。本来、赤線と青線はs=0でy=-1/2で接続します。s<0の部分は、振動しており、負の偶数は零点になっています。

 

[3]素数定理の証明の仕方について

実数x以下の素数の個数π(x)は

  • π(x)=Σ[p≦x] 1

と表せます。π(x)は「素数p(=2、3,・・・P≦x)がx以下の最大の素数Pになるまで1を加え続ければ得られます。π(x)は素数を段差とする階段関数になっています。素数定理は

  • π(x)~x/logx

すなわち

  • Lim [x→∞] π(x) logx/x=1

が成り立つというものです。

まずチェビシェフのシータ関数

  • θ(x)=Σ[p≦x] log(p)

を考えます。この関数には

  • θ(x)≦π(x) logx

なる性質があります。実際

  • θ(x)=Σ[p≦x] log(p)≦{Σ[p≦x]1} log(x)=π(x) logx

によって確かめられます。

  • π(x) logx/x ≧ θ(x)/x →1 as x→∞

ですから、素数定理を示すのに、

  • Lim [x→∞] θ(x)/x=1

すなわち

  • θ(x)~x

が成り立つことを示す必要があります。これは任意のλに対して

  • ∀ λ>1 θ(x)≦λx かつ ∀ λ<1 θ(x)≦λx

が成り立つことと同値です。この命題を否定して、

  • θ(x)≧λx for λ>1 あるいは θ(x)≦λx for λ<1

なるλが存在するとして、矛盾を導きます。 x≦t≦λxなるtに対して

  • θ(t)≧θ(x)≧λx → (θ(t)-t)/t2 ≧(λx-t)/t2

であるから、

  • [x,λx] [(θ(t)-t)/t2] dt ≧∫[x,λx] [(λx-t)/t2] dt=∫[1,λ] [(λ-s)/s2] ds=δ(λ)>0

が成り立ちます。ここでt=sxとおいて、積分変数をtからsに変換しました。積分

  • F(x)=∫[1,x] [(θ(t)-t)/t2] dt → F(∞)as x→∞

が収束すれば、左辺の極限値がゼロ

  • 左辺=F(λx)-F(x) → 0 as x→∞

になり、左辺≧δ(λ)>0に矛盾することが示せます。

先ほどの積分は、x=exp(t) と置いて、xからtに変数変換すると、dx=xdt

  • F(∞)=∫[1,∞] [(θ(x)-x)/x2] dx=∫[0,∞] (θ(et) e‐t-1) dt=∫[0,∞] f(t) dt
  • f(t)=θ(et) e‐t-1

と書けます。ここで、f(t)のラプラス変換

  • g(z)=∫[0,∞] f(t) ezt dt

を考えます。Newman教授は、f(t)が有界で、複素関数g(z)がRe(z)≧0で正則ならば、

  • g(0)=∫[0,∞] f(t) dt

が存在するという解析定理を発見しました。

注意すべきことは、一般に

  • Lim[z→0][0,∞] f(t) ezt dt = ∫[0,∞] f(t) dt

が成立しないことです。例えばf(t)=sin(t)のとき

  • g(z)=∫[0,∞] sin(t) ezt dt=1/(z2+1) → 1 as z→0

となります。しかしg(0)=∫[0,∞] sin(t) dtは存在しません。計算を示します。

  • g(z)=∫[0,∞] 1/2i・(eit‐eit) ezt dt=1/2i・[eitzt/(i-z)+eitzt/(i+z)]t=0,∞

=-1/2i・[1/(i-z)+1/(i+z)]=1/(z2+1)

実際シ-タ関数は、ある正数Kに対して

  • θ(x)≦Kx e.  θ(x)=O(x):オーダ-x

なる性質があるので、

  • |f(t)|=|θ(et) e‐t-1|≦θ(et)/et+1≦K+1

となり、f(t)が有界になります。

複素関数g(z)は、x=exp(t)と変数変換すると、dx=xdt、ezt=1/xz

  • g(z)=∫[0,∞] (θ(et) e‐t-1) ezt dt=∫[1,∞] (θ(x)/xz+2) dx‐1/z

となります。θ(x)を代入して計算すると

  • g(z-1)=∫[1,∞] (Σ[p≦x] log(p)/xz+1) dx‐1/z=Φ(z)/z‐1/z

なる関係が得られます。

  • z∫[1,∞] (θ(x)/xz+1) dx=z∫[2,3] log2/xz+1 dx+z∫[3,5] (log2+ log3)/xz+1 dx+・・・

=-[log2/xz]x=2,3-[(log2+log3)/xz]x=3,5-[(log2+log3+log5)/xz]x=5,7+・・・

=(-log2/3z+ log2/2z)-[-(log2+log3)/5z-(log2+log3)/3z)]

-[-(log2+log3+ log5)/7z-(log2+log3+ log5)/5z)]+・・・

  =log2/2z+log3/3z)+log5/5z+log7/7z+・・・

=Σ[p] log(p)/pz=Φ(z)

関数Φ(s)は

  • Φ(s)=Σ[p] log(p)/ps

ここでΣ[p]は全ての素数の和を取ります。結局

  • g(z)=Φ(z+1)/(z+1)-1/z=[{Φ(z+1)-1/z}-1]/(z+1)

Newmanの解析定理を適用するには、g(z)がRe(z)≧0で正則でなければなりません。

よって

  • Φ(s)-1/(s‐1)がRe(s)≧1で正則である

ことが言えれば良いことが分かります。

ここでリ-マンのゼータ関数ζ(s)

  • ζ(s)=Σ[n=1~∞] 1/ns =1+1/2s+1/3s+・・・

を考えます。この関数はRe(s)>1で収束します。s=1のときは、ζ(s)は調和級数となり

  • Σ[n=1~∞] 1/n =1+1/2+1/3+・・・=log(∞)

対数発散をします。自然数の素因数分解の一意性によって、ゼータ関数ζ(s)は

  • ζ(s)=Π[p] [1/(1‐1/ps)]

とも書けます。これをオイラ-積表示といいます。実際

  • ζ(s)= [1/(1‐1/2s)]・[1/(1‐1/3s)]・[1/(1‐1/5s)]・[1/(1‐1/7s)]・[1/(1‐1/11s)]・・・

    =[1+1/2s+1/22s+1/23s+1/24s+1/25s+・・・]

・[1+1/3s+1/32s+1/33s+1/34s+1/35s+・・・]

・[1+1/5s+1/52s+1/53s+1/54s+1/55s+・・・]

・[1+1/7s+1/72s+1/73s+1754s+1/75s+・・・]・・・

       =1+1/2s+1/3s+1/22s+1/5s+1/2s3s+1/7s+1/23s+1/32s+1/2s 5s

+1/11s+1/22s3s+1/13s+1/2s7s+1/3s 5s+1/24s+・・・

    =1+1/2s+1/3s+1/4s+1/5s+1/6s+1/7s+1/8s+1/9s+1/10s

+1/11s+1/12s+1/13s+1/14s+1/15s+1/16s+・・・

となり、成立しています。ζ(s)のオイラ-積表示の対数を取ると、

  • log[ζ(s)]=‐Σ[p] log(1‐1/ps)

となります。これを微分した導関数は

  • (1/ps)′=exp(‐slog(p))′=‐log(p)/ps

となります。よって

  • ζ′(s)/ζ(s)=‐Σ[p] (1‐1/ps)′/(1‐1/ps)=‐Σ[p] log(p)/ps/(1‐1/ps)

より

  • ζ′(s)/ζ(s)=‐Σ[p] log(p)/(ps‐1)

となります。ここで

  • 1/(ps‐1)=1/ps+1/ ps(ps‐1)

を用いると、

  • ζ′(s)/ζ(s)=‐Σ[p] log(p)/ps-Σ[p] log(p)/ps(ps‐1)

つまり、ゼータ関数ζ(s)とファイ関数Φ(s)の関係式

  • ζ′(s)/ζ(s)=‐Φ(s)-Σ[p] log(p)/ps(ps‐1) 

が得られます。変形すると

  • Φ(s)‐1/(s‐1)=‐[ζ′(s)/ζ(s)‐1/(1-s)]-Σ[p] log(p)/ps(ps‐1)   ・・・(#)

なる表式が得られます。実は右辺2項目はRe(s)>1/2で正則です。

Φ(s)-1/(s‐1)がRe(s)≧1で正則であることを示すためには、

  • ζ′(s)/ζ(s)‐1/(1-s)がRe(s)≧1で正則である

ことを示す必要があります。そのためには

  • ζ(s)がRe(s)=1で零点を持たない。
  • ζ(s)‐1/(s‐1)はRe(s)>0で正則である。

ことを示す必要があります。なぜならそれが成り立てば、ζ(s)はRe(s)>0でs=1に極を持つ有理型関数なので、

  • Lim[s→1] (1-s) ζ′(s)/ζ(s)=1  for Re(s)>1

となるからです。いま

  • 1/(s‐1)=Σ[n=1~∞][n,n+1]1/xsdx

と書けるので

  • ζ(s)‐1/(s‐1)=Σ[n=1~∞][1/ns‐∫[n,n+1]1/xsdx]=Σ[n=1~∞][n,n+1][1/ns‐1/xs]dx
  • |∫[n,n+1][1/ns‐1/xs]dx|≦|s|/nRe(s)+1
  • |ζ(s)‐1/(s‐1)|≦Σ[n=1~∞]|s|/nRe(s)+1=|s|ζ(Re(s)+1)

となります。ζ(Re(s)+1)はRe(s)+1>1で正則なので、ζ(s)‐1/(s‐1)はRe(s)>0で正則関数に拡張できます。つまり素数定理の核心はζ(s)がRe(s)=1で零点を持たないことの証明になります。

 

ゼータ関数ζ(s)のオイラ-積表示

  • ζ(s)=Π[p] [1/(1‐1/ps)]

は興味深い関係式です。もしゼータ関数の零点ρが分かれば、

  • ζ(s)=f(s)・Π[ρ] [s-ρ]

と因数分解できることになります。対数表示をとると

log f(s)+Σ[ρ]log (s‐ρ)=-Σ[p] log (1‐1/ps)

が得られます。これはゼータ関数の零点ρに関する和が、全ての素数pに関する和と関係があることを示唆しています。ゼータ関数の零点には、素数の情報が含まれていると考えられます。ゼータ関数はs=-2k=-2、-4、-6、・・・に自明な零点を持つことが知られています。ζ(0)=-1/2で、s=0は零点ではありません。

  • ゼータ関数の非自明な零点は、Re(1/2)上に存在している

というのが、有名なリーマン予想です。10兆個の零点を調べたところ、全てRe(1/2)上に存在しているようです。しかしその事実を持って、リーマン予想が正しいと結論することはできません。フラクタル曲線で有名なコッホは1901年に、リーマン予想が正しければ、素数の計数関数は

  • π(x)~Li(x)+O(√x・log(x))

と書けると主張しています。リーマン予想は素数分布の予測の精緻化にも役立ちます。

リーマン予想は数論の様々な問題と関連しており、今でも高い関心が注がれています。

[2]素数定理の証明方法

<素数定理>

自然数x以下の素数の個数をπ(x)とすると、π(x)~x/logxと表される。すなわち

  • Lim [x→∞] π(x) logx/x=1

が成り立つ(1896年)。

素数定理は1896年にジャック・アダマ-ルとバレ・プ-サンによって独立に証明されました。素数定理は簡潔で分かりやすい定理ですが、証明は難解です。1949年にアトル・セルバ-グやポール・エルディッシュが初等的手法で証明しました。初等的といっても、証明法は技巧的で難いものです。

1980年にドナルド・ニュ-マンが複素関数論を用いて簡潔な素数定理の証明方法を見つけました。1997年に素数定理100周年記念として、ドン・ザギエが5つのステップと解析的定理を用いるニュ-マンの証明法を紹介しました。ここではニュ-マンとザギエによる素数定理の証明を紹介します。複素関数論の威力が良く分かります。

ザギエ教授の経歴

ザギエは西ドイツのハイデルベルクに生まれた。母親は精神科医で、父親はスイスのアメリカン・カリッジの教頭だった。父親が5つの異なる市民権を有していたため、ザギエは若いころ多くの国々で過ごしていた。13歳の時に高校を卒業し、1年間ウィンチェスター・カレッジにて学んだ後、ザギエはMITで3年間学び、学士号と修士号を得、1967年16歳の時プットナム・フェローに指名された。ザギエはボン大学でフリードリッヒ・ヒルツェブルフの下で特性類に関する博士論文を書き、20歳の時に博士号を受けた。23歳の時に教授資格を受け、24歳の時に教授に指名された。

[1] Donald J. Newman, (1980). “Simple analytic proof of the prime number theorem”. American Mathematical Monthly. 87 (9): 693–696.

[2] Don Zagier, (1997). “Newman’s Short Proof of the Prime Number Theorem”Amer. Math. Monthly 104 (8): 705–708. ショーヴネ賞 (2000)

 

[1]素数の分布曲線について

現代情報社会に欠かせなくなった暗号には素数の性質が使われています。素数は1と自分自身以外で割り切れない数のことです。具体的には

  • 素数={2,3、5、7、11,13,17、19、23、・・・}

なる自然数です。素数には1を含めません。そうすると全ての数は素数の積として一意に表すことができます。いわば素数は自然界の原子のような存在です。しかし素数は無限にあります。

自然数n以下の素数の個数をπ(n)と表します。図1にy=π(x)のグラフを示します。例えば50番目の素数229と95番目の素数499はそれぞれ(229,50)と(499,95)にプロットされています。500以下には95個の素数があるので、π(500)=95です。

驚くべきことに、素数の出現の仕方には規則性がないのに、素数はほぼ一つの曲線の近傍に分布しているように見えますが、その理由は今でも良く分かっていません。お子さんに素数の分布曲線を見せることで、未知の法則に対する興味関心を引き出すことができるでしょう。

素数を見出す確率はどのくらいでしょうか。1792年にドイツの数学者ガウス(当時15歳)は、数nの近傍で素数を見出す確率は1/log(n)と予想しました。その場合に自然数n以下の素数の個数は

  • Li(n)=∫[2→n] 1/log(t) dt

と表せます。ここでlogは自然対数です。展開近似すると

  • Li(n)≒n/log(n)+n/(log(n))^2 → n/log(n) as n→∞

となります。n→∞の極限で両者が一致するという意味で

  • Li(n)~n/log(n)

と書き表します。実際に

  • π(n)~Li(n)

となっています。xが大きい数のとき、xまでの数の中に素数を見出す確率π(x)/xは、1/log(x)、すなわち

  • π(x)~f(x)=x/log(x)

と考えられます。図2に10万までの素数の分布曲線を示します。10万程度ではx/log(x)の近似は誤差が大きいことが分かります。

この定理を使うと、例えば100億までに約4.5億個の素数があることがすぐに計算できます。

x=10nのとき、

  • f(10n)=10n/log(10n)=log(e)/n・ 10n≒log(27/10)/n・ 10n

    =(3log3-1) /n・ 10n≒(0.434/n)×10n

x=100億=1010の時、素数の数は

  • f(1010)≒434/10・ 1010=4.34億個

と予想されます。実際、100億より小さい素数の数は

  • π(1010 )­=455,052,511=4.55億個

なので、4.6%の誤差で当たっています。Li(x)の場合、

  • Li(1010) ≒ 455,055,615

なので、0.0007%の誤差しかありません。

オイラ-の不思議な級数の値

1749年にオイラ-は

  • Z=1+1+1+1+1+・・・=-1/2

という不思議な級数の値を求めました。時々皆さんも目にすることがあると思います。今日はこの式の意味する所を考えてみます。

まず関数

  • f0(x)=1/(1+x)、f0(1)=1/2

を考えます。この関数を展開すると

  • f(x)=1-x+x2-x3+x4-x5+・・・ for |x|<1

と表すことができます。但しこの関数はx=1では定義されていません。

形式的にx=1を代入し、その値をYとします。

  • f(1)=1-1+1-1+1-1+・・・=Y

となります。元の関数をxのn次までの展開した関数を

  fn(x)=Σk=0~n (-x)k → 1/(1+x) x≠1 as  n→∞

と定義します。グラフにn=10,20、100、1000の場合の関数形を表示します。

nが無限大の極限で、関数fn(x)はx<1で関数1/(1+x)に一致することが分かります。つまりx→1の片側極限で

  • lim x→1 f(x)=1/2

が成り立っています。そこで

  • f(1)=1/2

と定義すれば、関数f(x)は0≦x≦1で1/(1+x)に一致します。これは

  •  Y=1-1+1-1+1-1+・・・=1/2

を示しています。ZもYと同じような意味で値を持つと考えます。そうすると

 2Z=   2+   2+   2+  2+・・・

  Z=1+1+1+1+1+1+1+1+・・・

を辺々引くと

 Z=2Z-Z=-1+1-1+1-1+1-1+・・・

が得られます。両辺に1を加えて

 1+Z=1-1+1-1+1-1+1-1+・・・=Y=1/2

なので、関数の極限の意味で

 Z=1/2-1=-1/2

となっている可能性があります。

実はこの話はゼ-タ関数

 ζ(s)=1+1/2s+1/3s+1/4s+1/5s+・・・

のs→0での極限値が-1/2であることにつながっています。s=0での値を

 ζ(0)=-1/2

と定義すると、ゼ-タ関数はs=0で滑らかな関数になります。これは

 Z=1+1+1+1+1+・・・=-1/2

を表しています。

HANDYモデルによる文明崩壊の予測

NHKスペシャル・2030 未来への分岐点(1)「暴走する温暖化脱炭素への挑戦」に続いて、2021年2月7日(日)に2030 未来への分岐点 (2)「飽食の悪夢〜水・食料クライシス〜」が放送されました。先進国の飽食が、世界中に「飢餓のパンデミック」を拡大させるという話です。番組では俳優の森七菜さんが2050年の日本で食糧危機に直面する女性を演じました。日本で一年間に出される食品廃棄物を世界に分配すれば、飢餓問題の多くを解決すると言われています。現在の食料システムを2030年までに改善できなければ、暴動が発生し破滅を回避できなくなると研究者たちは指摘しています。

 米国メリ-ランド大学の理論環境学者のSafa Mote博士は、2014年に「人間と自然の動力学(=Human And Nature Dynamics)~社会の崩壊か持続における不平等と資源利用のモデル化~」と題して、論文を発表しました(Ecological Economics 101(2014)90-102)。このモデルをHANDYモデルと呼びます。

Safa Mote博士は、自然から収奪する富の蓄積と富の再分配をモデル化して、平等社会と不平等社会における人口変動を予測しました。Safa Mote博士はHANDYモデルにおいて

  • 平等社会では、最適な収奪率δ*で富を蓄積すると、収容人口は最大になり、持続可能な社会が実現する。
  • 自然からの収奪率が大きくても小さくても、自然環境が収容できる人口は減少する。
  • 不平等社会では、持続可能な文明社会が実現できない。

ことを示しました。ここでは、HANDYモデルの詳細について解説します。

  1. Handyモデルとは

 Safa Mote博士が2014年に提案した「人間と自然の動力学(Handyモデル」」は、一般の人口Xc、エリ-トの人口XE、自然資源量y、富の総量wの4つの量の時間発展を4つの連立微分方程式で表したモデルです。その名の通り、このモデルは文明存続を議論するための最もお手軽なモデルになっています。

(1)一般人の人口Xc

 人口増加は、出生率をβ、死亡率をαとすると

  • dXc/dt=(β-αc)Xc

と表されます。ここで

 αc=αc(Xc、XE、w)、β=出生率定数

です。α、βがともに定数の場合、一般人の人口変動は

  • Xc(t)=Xc (0)・exp{(β-α)t}

と書き表されます。出生率が死亡率より大きい場合(β-α>0)、一般の人口Xcは指数関数的に増加します。逆に出生率が死亡率より小さい場合(β-α<0)、一般の人口Xcは指数関数的に減少します。

(2)エリ-トの人口X

エリ-トの人口も同様に微分方程式

  • dXE/dt=(β-αE)XE

 αE=αE(Xc、XE、w)、β=出生率定数

と表されると仮定します。

一般に死亡率をαは、人口や富の量に依存します。富の量が人口を養うのに十分であれば、一定になりますが、富の量が閾値wthより小さくなると、死亡率は増大します。一般人とエリ-トでは死亡率αの富の総量wに対する依存性が異なります。

(3)富の閾値wthと不平等率kと死亡率αの富w依存性

ρ[$/人]を一般人一人当たりの最小消費量とすると、富の閾値は

・wth(Xc、XE、k)=ρ・Xc+k・ρ・XE

と表されると仮定します。ここで因子kは不平等率です。エリ-トの最小消費量は一般人のk倍と仮定されています。kの値によって社会を3つに分類できます。

1)平等社会  Egalitarian society     k=0、エリ-トなし

2)階級社会  Equitable society     k=1、不労所得階級あり

3)不平等社会  Unequal society   k>1、エリ-トあり

具体的に、このモデルでは通常の死亡率はαm=0.01、飢饉時の死亡率はαM=0.07としています。死亡率αは、富が閾値を下回ると0.01から0.07に富に比例して増大すると仮定します。一般人とエリ-トでは富の閾値が異なります。エリ-トの富の閾値は小さいので、エリ-トの死亡率は殆ど最小値0.01に固定されています。つまり富の総量wが閾値より減少すると、一般人の死亡率は減少し始めますが、エリ-トの死亡率は低いまま保たれます。

(4)資源量y

限られた食物環境にある生物の増殖を議論するのには、ロジスティック方程式が用いられます。資源量yは、ロジスティック方程式

 ・dy/dt=γy(λ-y)-δ・Xc・y

に従うと仮定します。ここでλは人間の収奪がないときの最大資源量です。λの単位は$(エコドル)です。γ[1/t$]は単位時間の自然の再生率です。γ=0.01のとき10年で再生します。δ[1/t人]は一人当たりの人間が1年間に自然から収奪する収奪率です。収奪率δがゼロだと富が蓄積されません。仮にy(0)=λ/1000とすると、δ=0のときは、資源量y(t)は、S字型の再生曲線を描いて増加し、最大資源量λで飽和します。なぜならλ≫yのときは、指数関数的に増大し、yが増大してλに接近するとyは一定値λになるからです。

δがゼロでないときは

・dy/dt=γy(λ-δXc/γ-y)=γy(λ’-y)

と書けます。資源量y(t)は、S字型の再生曲線を描いて増加しλ’で飽和します。

λ=100、γ=0.01、δ=0.0025、Xc=100のときは

・λ’=λ-δXc/γ=100-0.0025*100/0.01=100-25=75 <100=λ

となります。

y<<1の時は、yの2次の項を無視して

 ・dy/dt=(γλ-δXc)y

と近似できます。収奪率δがγλ/Xcより大きくなると、資源量yは減少し、人類は滅んでしまうことが分かります。収奪率δが

 ・δ[1/t人]=γ[1/t$]・λ[$]/Xc[人]=0.01・100/100=0.01

のとき、資源量yは一定になります。

(5)富の総量w

富の総量wは、

・dw/dt=δXc・y-Cc(Xc、XE、w、k)-CE(Xc、XE、w、k)

に従うと仮定します。1年間の富の増加量は、自然から得た収奪量から一般人による富の消費量Cc[$/t]とエリ-トによる富の消費量CE[$/t]を引いた値になります。自然からの収奪量と富の消費量が一致する循環社会では、富は一定の値に保たれ、人口も安定します。

最低給料をs[$/人]とすると、一般人とエリ-トの富の消費量は

・Cc(Xc、XE、w、k)=min(1,w/wth)・s・Xc

・CE(Xc、XE、w、k)=min(1,w/wth)・s・k・XE

と表されると仮定します。エリ-トの消費量の場合は不平等率kがかかります。

ここで富の閾値は

・wth(Xc、XE、k)=ρ・Xc+k・ρ・XE

でした。w>wthの平時では、Ccは最低消費量

・Cc(Xc、XE、w、k)=s・Xc

となり、Ccはwに依存しません。w<wthの飢饉の時は、

・Cc(Xc、XE、w、k)=w/wth・s・Xc

となり、Ccはwに比例します。富の総量wがwthより小さくなる飢餓状況では、人の消費量はwが減るにつれて減少することになります。不平等率kが大きいほどエリ-トの消費量は大きくなります。

(6)初期状態

 簡単のため、初期状態は

・一般人の人口:Xc(0)=100[人]、

・エリ-トの人口:XE(0)=1[人]

・資源量:y(0)=100[$]、

・富の総量:w(0)=0[$]

と仮定しています。

2.平衡状態の人口、資源、富の量 XE=0の場合

ここでは、簡単のためエリ-トがいない平等社会での

・dXc/dt=0,dy/dt=0、dw/dt=0

なる平衡状態(定常状態)の解Xce、ye、weを考えます。以下に平衡解の導出方法を示します。

パラメ-タηを

・η=(αM-βc)/(αM-αm)

と定義すると、結局、平衡時の資源量yeは

・ye=sη/δ (=λ/2)

と書けます。平衡時の人口Xce、富weは

 ・Xce=γ/δ・(λ-ye)

 ・we=ηρXce

と書けます。平衡時の資源量ye=λ/2のとき、再生項y(λ-y)が最大値λ2/4になるので、このときの収奪率を最適収奪率(Optimal Depletion Ratio)

 ・δ*=2sη/λ=6.7×10-6

と呼びます。δ=δ*のとき、最大収容量(Maximum Carrying Capacity)

 ・XM=γ/δ*・(λ-λ/2)=γ/ sη(λ/2)2=7.5×104

が得られます。

3.計算に用いたパラメ-タ

4.Equitable社会の持続可能性の収奪率依存性について

 少数の不労者はいるが、不労者の消費量は一般人と同じ(k=1)である階級社会をEquitable societyと言います。kは不平等率です。

(1)k=1の階級社会 δ=0.7・δの場合

(2)k=1の階級社会 δ=1.0・δの場合

(3)k=1の階級社会 δ=2.0・δの場合

(4)k=1の階級社会 δ=3.0・δの場合

(5)Equitable 社会のまとめ

 Equitable 社会では、0.55δ*~3δ*の広い収奪率で持続可能な文明が実現します。収奪率が最適収奪率の0.55倍の場合は、人口増加が遅く、収容人口は最大値の1/3になります。最適収奪率δ*のとき、最速400年で持続可能な社会が実現し、収容人口は最大になります。収奪率が最適収奪率の2倍になると、収容人口は最大値の3/4に減少します。収奪率が最適収奪率の2倍以上になると、振動現象が現れ、持続可能な文明に到達するのに1000年以上を要します。

5.不平等社会での文明の絶滅

 少数の不労者が一般人の5倍消費している不平等社会では、持続可能な社会が形成されず、文明は崩壊します。

(1)k=5の不平等社会でδ=1.0・δ*の場合

 k=5の不平等社会において、Equitable社会で最大人口が達成できる収奪率δ*で収奪すると、文明は崩壊します。

(2)k=5の不平等社会でδ=2.0・δ*の場合

(3)k=5の不平等社会でδ=3.0・δ*の場合

(4)k=5の不平等社会 δ=4~30・δ*の場合

(5)k=10の不平等社会 δ=1~8・δ*の場合

(6)k=100の超不平等社会 δ=10~100・δ*の場合

(7)k=100、δ=15・δ*の超不平等社会 初期人口依存性

(8)k=10の超不平等社会 δ=1.2・δ*の場合

(9)k=100の超不平等社会 δ=15・δ*の場合

 NHKスペシャルで紹介された上記条件の計算結果をほぼ再現した。

(10)NHKスペシャルで紹介された上記条件の計算結果

6.結果とまとめ

7.モデルの限界

 このモデルでは、人口が減少し絶滅しそうになっても、エリ-トの消費量は一般人のk倍を維持していると仮定しています。現実には、人類が絶滅しそうになったら、エリ-トの消費量は一般人と同等になっていくのではないかと思われます。完全に消費量が同等になれば、不平等社会からEquitable社会へ移行し、持続可能な状態が実現します。しかしEquitable社会から不平等社会に逆戻りしたり、不平等が少しでも残れば、文明は絶滅する可能性が高いと思われます。

また文明が継続し技術革新によって死亡率が減少する可能性は考慮されていません。今後の課題としては、そうした修正をいれたモデルの検討が考えられます。

なおこのモデルでは、文明の絶滅原因を資源や富の減少に限定しています。実際は火山の噴火で生き埋めになったり、干ばつで水源が枯渇したり、大規模な洪水や地震などの災害や疫病の蔓延で文明が崩壊する可能性もあります。

 

ガロア理論7

数学というのは登山とよく似ています。知らない山に登るのは大変ですが、その分登頂の絶景には感動します。景色を忘れてしまっても、登頂の達成感は長く心に残ります。数学も同じように、知らない定理を理解するのは大変ですが、その分定理の威力に感動します。もしその定理を忘れてしまっても、理解した達成感は長く心に残ります。登山が遊びなら、数学も遊びなのです。

これまで高次方程式の解を求め、解を表示する拡大体とその上の自己同型群との対応関係を調べてきました。今日はガロアの基本定理を証明します。ガロアの定理は部分群Hが対応する拡大体Bを不変にするとき、拡大体Bは対応する部分群Hの不変体になっており、両者に対応関係があることを示しています。ガロアの定理に従って方程式の解を引き受ける拡大体上の同型写像の群を分解して解析すると、元の方程式が代数的に解けるのかどうかを確かめることができます。

そのための準備として、2つの定理を紹介します。最初の定理はアルティンの定理です。それは『体E上のn個の相異なる同型写像による不変体KからEへの体の拡大次数はn以上である』という主張です。2番目の定理は『先ほどの同型写像が群であれば、拡大次数はちょうど群の要素数に一致する』というものです。これらの定理からガロアの基本定理が証明されます。

 

<アルティンの定理1>

体Eから体Fへのn個の相異なる同型写像σ1、σ2、・・・σnがあるとする。これらの同型写像による不変体KからEへの体の拡大次数はn以上である。

 

同型写像 σ1、σ2、・・・σn;E → F

不変体 K={x∊E|σ1(x)=σ2(x)=・・・=σn(x)}

→ KからEへの体の拡大次数 [E:K]≧n

 

証明)σ1、σ2、・・・σnが体Eから体Fへのn個の相異なる同型写像であれば、

σ1、σ2、・・・σnは線形独立です。まずこの事実を証明しましょう。

例えば、n=2のとき、σ1≠σ2より∃α∊E、σ1(α)≠σ2(α)。

 x1σ1+x2σ2=0 ならば、任意のx∊Eに対して、x1σ1(x)+x2σ2(x)=0。σ1(α)を掛け、

   x1σ1(α)σ1(x)+x2σ1(α)σ2(x)=0

が成り立ちます。またαx∊Eに対して、x1σ1(αx)+x2σ2(αx)=0。つまり

   x1σ1(α)σ1(x)+x2σ2(α)σ2(x)=0

が成り立ちます。上の2式を引き算すると、任意のx∊Eに対して

    (σ1(α) -σ2(α))・x2σ2(x)=0。

σ1(α)≠σ2(α)なので、x2=0となります。代入してx1=0も得られます。

   x1σ1+x2σ2=0 ならば、x1=x2=0

が示されたので、σ1、σ2は線形独立です。n=3の場合も同様にして

 x1σ1+x2σ2+x3σ3=0 ならば、x1=x2=x3=0

が成り立ちます。実際

 x1σ1(α)σ1(x)+x2σ1(α)σ2(x) +x3σ1(α)σ3(x)=0

 x1σ1(α)σ1(x)+x2σ2(α)σ2(x) +x3σ3(α)σ3(x)=0

両式を引き算すると、任意のx∊Eに対して、

 (σ1(α) -σ2(α))・x2σ2(x)+(σ1(α) -σ3(α))・x3σ3(x)=0。

σ1(α)≠σ2(α) 、σ1(α)≠σ3(α)であり、2つの元σ2とσ3は線形独立なので、x2=x3=0となります。x2=x3=0を代入して

 x1σ1(α)σ1(x)=0。

よってx1=0も得られます。このようにして、σの元の数をnまで増やすことができます。

次に[E:K]=r <n と仮定すると矛盾が生じることを示します。これは体K上のベクトル空間Eに{α1、α2、・・・αr}のr個の基底が存在することを示しています。以下の連立方程式は、

   σ11)x1+σ21)x2+σ31)x3+・・・+σn1)xn=0

      σ12)x1+σ22)x2+σ32)x3+・・・+σn2)xn=0

  ・・・・・・・

      σ1r)x1+σ2r)x2+σ3r)x3+・・・+σnr)xn=0

方程式の数rが未知数x1,x2…,xnの数nより小さいので自明でない解x1,x2…,xnを持ちます。[E:K]=rより、体K上のベクトル空間Eの任意の元α∊Eはa1a2、・・・ar ∊Kを用いて

     α=a1α1+a2α2+・・・+ arαr

と書けます。上記の方程式にσ1(a1)を掛けると

     σ1(a111)x1+σ1(a121)x2+・・・+σ1(a1n1)xn=0。

Kは同型写像の不変体だから、

      σ1(a1)=σ2(a1) =σ3(a1) =…=σ(a1)

が成り立つことを利用すると、上式は

       σ1(a111)x1+σ2(a121)x2+・・・+σn(a1n1)xn=0

となります。同型写像ですから

       σ1(a1α1)x1+σ2(a1α1)x2+σ3(a1α1)x3・・・+σn(a1α1)xn=0

が成り立ちます。他の方程式も同様に変形すると

   σ1(a1α1)x1+σ2(a1α1)x2+σ3(a1α1)x3・・・+σn(a1α1)xn=0

      σ1(a2α2)x1+σ2(a2α2)x2+σ3(a2α2)x3・・・+σn(a2α2)xn=0

      ・・・・・・

       σ1(arαr)x1+σ2(arαr)x2+σ3(arαr)x3・・・+σn(arαr)xn=0

を得ます。これらの方程式を辺々加えます。第一項の和は

      σ1(a1α1)x1+σ1(a2α2)x1+・・・+σ1(arαr)x1

   ={σ1(a1α1)+σ1(a2α2)+・・・+σ1(arαr)}x1

   =σ1(a1α1+a2α2+・・・+a2αr)x1

   =σ1(α)x1

となるので、任意の元α∊Eに対して

     σ1(α)x1+σ2(α)x2+σ3(α)x3+・・・+σn(α)xn=0

が成り立ちます。σ1、σ2、・・・σnは相異なる同型写像で、σi(α)≠0です。またx1,x2…, xnの中には0でないものが必ず一つはあります。よってσ1、σ2、・・・σnは線形独立ではありません。これはσ1、σ2、・・・σnが線形独立であることと矛盾します。つまり[E:K]=r <n という仮定が誤っていたことを示しています。よって    [E:K]≧n  が示されました。証明終わり。

アルティンの定理では{σ1、σ2、・・・σn}が群を成すと仮定していません。実際{σ1、σ2、・・・σn}が群を成さないのであれば、あるσi-1、かσiσjが{σ1、σ2、・・・σn}以外の元になります。x∊Kに対して、 (σiσj) (x)=σij (x))=σi(x)=xとなり、不変体 K={x∊E|σ1(x)=σ2(x)=・・・=σn(x)=σiσj(x)=x }を構成する相異なる自己同型写像{σ1、σ2、・・・σn、σiσj}はn+1個になります。あるいは、x=e(x)=(σi-1σi) (x)=σi-1i(x) )=σi-1(x )となり、不変体 K={x∊E|σ1(x)=σ2(x)=・・・=σn(x)=σi-1(x)=x}を構成する相異なる自己同型写像{σ1、σ2、・・σn、σi-1}はn+1個になります。よって[E:K]≧n+1 となります。不変体 Kを構成する自己同型写像{σ1、σ2、・・・σn}が群をなしていれば、演算で新しい元は生成しません。不変体 Kを構成する自己同型写像はn個に限られるので[E:K]=nとなります。それを保証するのが次の定理です。

定理2

体E上のn個の相異なる自己同型写像σ1、σ2、・・・σnが群Gをなす場合、群Gの不変体Kから体Eへの拡大次数はnとなる。

自己同型写像 σ1、σ2、・・・σn;E → E

群G={σ1、σ2、・・・σn

不変体 K={x∊E|σ1(x)=σ2(x)=・・・=σn(x)}

→ KからEへの体の拡大次数 [E:K]=n

注意)標数0の体に限定する。標数nとは、n・1=0を満たす数。複素数体は標数0。

証明)[E:K]≦nを示せれば、前定理[E:K]≧nと合わせて、[E:K]=nとなります。

任意のx∊Eに対して、トレ-ス

     S(x)=σ1(x)+σ2(x)+・・・σn(x) ∊E

を定義します。{σ1、σ2、・・・σn}は群を成しているので、任意のi=1,2、…nに対して、

      σi{σ1、σ2、・・・σn}={σ1、σ2、・・・σn

です。従って

 σi(S(x))=σiσ1(x)+σiσ2(x)+・・・σiσn(x)=σ1(x)+σ2(x)+・・・σn(x)=S(x)

であるから、S(x) ∊Kとなります。K係数のベクトル空間Eの次元がn以下であることを示すために、ベクトル空間Eのn+1個の基底{α12,…αnn+1}が一次独立ではないことを示せばよいです。Gは群であるために、σi-1∊Gが存在します。連立方程式

 σ1-11) x1+σ1-12) x2+・・・+σ1-1n) xn+σ1-1n+1) xn+1=0

    σ2-11) x1+σ2-12) x2+・・・+σ2-1n) xn+σ2-1n+1) xn+1=0

   ・・・・・・・・・・・・・・

     σn-11) x1+σn-12) x2+・・・+σn-1n) xn+σn-1n+1) xn+1=0

に関して、未知数x1,x2…,xn+1の個数n+1は式の個数nより大きいので、x1,x2…,xn+1はx1=x2=…=xn+1=0の自明な解以外の少なくとも一つはゼロではない非自明解を持ちます。非自明解をx1≠0とすると、x1≠0で全体を割ることで、x1=1として良いです。i番目の方程式にσiを作用させると、

       σii-11) x1) +σii-12) x2)+・・・+σii-1n+1) xn+1)=0

  α1σi(x1)+α2σi(x2) +・・・+αn+1σi (x n+1) =0

となります。これをすべての方程式について行うと

        α1σ1(x1)+α2σ1(x2) +・・・+αn+1σ1(x n+1) =0

        α1σ2(x1)+α2σ2(x2) +・・・+αn+1σ2(x n+1) =0

   ・・・・・・・・・・・・・・ 

      α1σn(x1)+α2σn(x2) +・・・+αn+1σn(x n+1) =0

を得ます。辺々を加えると、S(x)=σ1(x)+σ2(x)+・・・σn(x) ∊Kを用いると

         S(x11+S(x22 +・・・+S(x n+1n+1=0

S(xi)∊K、つまりS(x1)、S(x2)、・・・S(x n+1)はK係数であります。

{α12,…αnn+1}が一次独立ならば、S(x1)=S(x2)=・・・=S(x n+1)=0

です。しかし

      S(x1)=S(1)=σ1(1)+σ2(1)+・・・+σn(1)=1+1+・・・+1=n≠0

ので、ベクトル空間Eのn+1個の基底{α12,…αnn+1}が一次独立ではないことが示されました。ベクトル空間Eの次元はn次元以下 [E:K]≦nが示されました。前定理[E:K]≧nと合わせて、拡大体の次数は[E:K]=nとなります。証明終わり。

<ガロアの基本定理>

[1]EをKの正規拡大体、そのK自己同型群AutK(E)をGとする。E⊃B⊃Kなる中間体Bを不変にするGの部分群H={σ∊G|∀x∊B、σ(x)=x}があれば、

(1)EはBの正規拡大体である。

(2)HがBのK自己同型群である。

(3)中間体Bと群Hは一対一に対応する。

[2] HがGの正規部分群であれば、

(1)BはKの正規拡大体である。

(2) G/HがBのK自己同型群である。

(3)体Kと余剰群G/H一対一に対応する。

注意1)x∊Bにおいて、任意のσ12∊Hに対して、σ1σ2(x)=σ12(x))=σ1(x)=xより、σ1σ2∊H。またσ1(x)=xよりx=σ1-1σ1 (x)=σ1-1 (x)なので、σ1-1∊Hとなります。よってHの定義からHはすでに群になっています。

注意2)EはBの正規拡大体であるとは、BがE上の自己同型写像の作る群Hの不変体になっていることです。このとき[E;B]=#(H)が成り立ちます。

注意3)Hが正規部分群であれば、G/Hは群になります。Hが正規部分群でなければ、G/Hは群になりません。

[1] (1) EはBの正規拡大体であることの証明)

Hの要素数を#(H)=rとすると、群H={σ∊G|∀x∊B、σ(x)=x}の定義から∀x∊Bに対して、σ12,…σr ∊H⊂G、σ1(x)=σ2(x)=…=σr(x)=xが成り立つので、定理2より[E;B]=rが成り立ちます。次にBはHの不変体であることを示します。Hの不変体をB’={x∊E|∀σ∊H、σ(x)=x}とします。Bの定義から∀x∊Bに対して、∀σ∊H、σ(x)=xなので、B’の定義からx∊B’が成り立ちます。よってB’⊃Bです。Hは群であり、B’はHの不変体なので、定理2より[E;B’]=rが成り立ちます。[E;B]=[E;B’]かつB’⊃Bより、B=B’となります。つまりBがE上の自己同型写像の作る群Hの不変体になっており、[E;B]=#(H)が成り立つので、EはBの正規拡大体であることが示されます。証明終わり。

[1] (2) HがBのK自己同型群であることの証明)

#(G/H)=sとすると、ラグランジュの定理より、N=#(G)=#(H) -#(G/H)=r・sです。σ、σ’∊Gが同じ剰余類G/Hに属するとすると、σ-1σ’ ∊Hとなります。H={σ∊G|∀x∊B、σ(x)=x}の定義より、∀x∊Bに対して、σ-1σ’(x)=x、すなわちσ’(x)=σ(x)です。つまり同じ剰余類G/Hに属するσはB上で同じ同型写像を与えます。σ∊GはE上のK自己同型写像ですが、これをB上に限定すると、#(G/H)=sより、BからEへの相異なるs個のK同型写像が存在します。

[1] (3) 中間体Bと群Hは一対一に対応することの証明)

Hが正規部分群でなければ、G/Hは群にならないので、アルティンの定理より[B:K]≧sとなります。n=[E:K] =[E:B] [B:K] ≧rs=n、[B:K]≧sより[B:K]=sとなります。つまりBの基底s個とB上の同型写像の個数s∊G/Hは対応しています。群Gを中間体Bで制限した群GB={σ∊G|∀x∊B⊂E、σ(x)=x}をHとすることで、中間体Bが体Eを部分群Hで制限した体EH={x∊E|∀σ∊H⊂G、σ(x)=x}となるので、中間体Bと部分群Hは一対一に対応します。

・HがGの正規部分群であるとき、

[2] (1)BはKの正規拡大体であることの証明)

BはKの正規拡大体であるとは、KがB上の自己同型写像の作る群G/Hの不変体になっていることです。σがB上の自己同型写像であるとは、σ(B)=Bということです。このとき[B;K]=#(G/H)が成り立ちます。H={σ∊G|∀x∊B、σ(x)=x}と定義されています。E上の自己同型写像σ∊Gに対して、σ(B)⊂Eです。中間体σ(B)を不変にする群はσHσ-1になっています。なぜならば、τ∊σHσ-1 ⇔ σ-1τσ∊H であることはHの定義により任意のx∊Bにおいて、σ-1τσ(x)=x  ⇔ τσ(x)=σ(x) すなわちτ(σ(B))=σ(B)を意味するからです。Hが正規群であれば、任意のσ∊Gに対して、σHσ-1=Hです。今Hが正規群なので、τ∊Hに対してτ(σ(B))=σ(B)、すなわちσ(B)はHの不変体になっています。先ほどHの不変体はBであることを証明したので、σ(B)=B⊂Eが示されました。中間体Bは群G/H=σHσ-1の不変体になっているので、BはKの正規拡大体です。逆に任意のσ∊Gに対して、σ(B)=Bならば、τ∊σHσ-1に対してτ(B)=Bとなります。これはσHσ-1=HすなわちHはGの正規部分群であることを意味します。

[2] (2) G/HがBのK自己同型群であることの証明)

任意のx∊Bにおいて、σ(x)=σ’(x) ⇔ σ’-1σ(x)=xとなり、σ’-1σ∊Hとなります。これはσ’、σが同じG/Hの類に属していることを意味するので、AutK(B)=G/Hです。証明終わり。

ガロア理論6

前回はf(x)=x3-2を例に、f(x)の分解体とガロア群を求めました。今回は多項式の次数を1つ上げて、拡大体の列と対応するガロア群の列を導出します。

Ex.3  Q多項式f(x)=x4-3を例に、f(x)の分解体とガロア群を求めてみましょう。

f(x)を因数分解すると

  • f(x)=x4-3=(x24√9) ( x24√9)=(x-4√3) ( x+4√3) ( x-4√3i) ( x+4√3i)、
  • i2=-1、i3=-i、i4=1

となります。f(x)=0の4つの解は、

  • α14√3、α2=-4√3、α34√3i、α3=-4√3i

となります。f(x)の分解体は4つの解をQに付け加えたものですが、4√3とiの2つを付け加えることに等しいので、f(x)の分解体はQ(4√3,i)となります。4√3をべき乗してゆくと、

1. 4√3、4√9、4√27の4つの基底が得られます。a0a1、・・・a7 ∊Q(有理数)を用いて、

・ Q(4√3、i)={a0+a14√3+a24√9+a34√27+a4i+a54√3i+a64√9i +a74√27i}

と書けます。体の拡大の次数は8となります。

  • [Q(4√3、i):Q]=[Q(4√3、i):Q(4√3)]・[Q(4√3):Q]=2・4=8

拡大体Q(4√3、i)上のQ自己同型写像σ∊AutQ(Q(4√3、i))を求めます。σは同型なので

  • σ(ab)=σ(a)・σ(b)、σ(a+b)=σ(a)+σ(b) for a,b∊Q

を満たします。またσは3∊Qを不変に保つので

  • 3=σ(3)=σ( (4√3)4) =σ(4√3) 4

となります。σを4√3にiを掛ける作用とiを不変にする作用を持つ写像

  • σ(4√3)=4√3i、σ(i)=i

だとすると、上式を満たす4つの写像は、

σ(4√3)=4√3i、σ2(4√3)=4√3ii=-4√3、σ3(4√3)=4√3iii=-4√3i、σ4(4√3)=4√3

と表現できます。σ4は恒等写像です。また―1∊Qを不変に保つ写像をτとすると

  • -1=τ(-1)=τ(ii)=τ(i)2

なので、τはiに-1を掛ける作用と4√3を不変にする作用を持つ写像

  • τ(i)=-i、τ(4√3)=4√3

だとします。τ2(i)=iなのでτ2は恒等写像です。Q(4√3、i)/Q上のガロア群Gは

  • G=Gal(Q(4√3、i)/Q)={e、σ、σ2、σ3、τ、στ、σ2τ、σ3τ}、#(G)=8

となります。Gの位数は8となり、体の拡大の次数8と一致します。これらの写像は

  • τσ2(4√3)=τ(-4√3)=-4√3、σ2τ(4√3)=σ2(4√3)=-4√3
  • στσ(4√3)=στ(4√3i)=σ(-4√3i) =-4√3ii=4√3=τ(4√3)
  • τστ(4√3)=τσ(4√3) =τ(4√3i)=-4√3i、σ3(4√3)=4√3iii=-4√3i

であるから、

  • τσ2=σ2τ ⇔ σ22τ) σ2=σ2τ
  • στσ=τ、τ1=τ、τστ=σ3 ⇔ (τσ)-1=τσ

なる性質があります。これらから

  • στ・σ2τ=στ・τσ2=σ3
  • στ・σ3τ=στσ・σ2τ=τσ2τ=σ2
  • τ・σ2τ=τσ2・τ=σ2τ・τ=σ2
  • τ・σ3τ=τσ2・στ=σ2τ・στ=σ2・τστ=σ2・σ3=σ・σ4=σ
  • σ3τ・σ3τ=σ3・σ=e
  • σ2τ・σ3τ=σ2・σ=σ3
  • σ2τ・σ2τ=σ2τ・τσ2=σ
  • σ2・τ=σ・ττ・στ=στσ3=ττστσ3=τσ3σ3=τσ2
  • σ2・τσ=σ・στσ=στ=τστ=τσ3
  • σ2・τσ2=τσ3σ=τ
  • σ3・τ=στσ2=τσ
  • σ3・τσ=τσ2

が成り立ちます。8つの元同士の演算の結果を次の演算表にまとめました。

ここで

  • τ(縦の元)・σ(横の元)=τσ(表中の元)
  • σ(縦の元)・τ(横の元)=τσ3(表中の元)

に注意して下さい。τσnの逆元はτσnになっていることが分かります。8個の元同士の演算が8個の元で閉じているので、Gは群になっています。これはD4と呼ばれ、四角板の1/4回転と反転操作のなす群に相当します。

f(x)の分解体Q(4√3,i)上のQ自己同型写像全体は8次のD4群となりました。

  • D4={e、σ、σ2、σ3、τ、τσ、τσ2、τσ3

Q自己同型写像というのは、有理数体Qは不変に保つQ(4√3,i)からQ(4√3,i)への全単射写像という意味です。次にD4の部分群を調べます。4次の部分群はK4、L4、M4の3つがあります。

  • K4={e、σ、σ2、σ3}=Z/4Z
  • L4={e、σ2、τ、τσ2}=Z/2Z×Z/2Z
  • M4={e、σ2、τσ、τσ3}=Z/2Z×Z/2Z

2次の部分群はS2、T2、U2、V2、W2の5つがあります。

・ S2={e、σ2}、T2={e、τ}、U2={e、τσ}、V2={e、τσ2}、W2={e、τσ3

{e、τσk}(k=0,1,2,3)は4つの2次の部分群を作ります。自明な1次の部分群

・ I={e}

があります。

ガロア群の包含関係は7種類あります。7種類の群の系列に対応する拡大体の系列を示します。

  • D4⊃K4⊃S2⊃I  

         Q⊂Q(i)⊂Q(√3,i)⊂Q(4√3,i)

  • D4⊃L4⊃S2⊃I

         Q⊂Q(√3)⊂Q(√3,i)⊂Q(4√3,i)

  • D4⊃L4⊃T2⊃I

         Q⊂Q(√3)⊂Q(4√3)⊂Q(4√3,i)

  • D4⊃L4⊃V2⊃I

         Q⊂Q(√3)⊂Q(4√3i)⊂Q(4√3,i)

  • D4⊃M4⊃S2⊃I

         Q⊂Q(√3i)⊂Q(√3,i)⊂Q(4√3,i)

  • D4⊃M4⊃U2⊃I

         Q⊂Q(√3i)⊂Q((1-i)-4√3)⊂Q(4√3,i)

  • D4⊃M4⊃W2⊃I

         Q⊂Q(√3i)⊂Q((1+i)-4√3)⊂Q(4√3,i)

[1] K4=Gal(Q(i)/Q)を示します。a0,a1、、、a7∊Qに対して、x=4√3とおきます。                  

X=a0+ a1x+ a2x2+ a3x3+ a4i+a5ix+a6ix2+ a7 ix3 ∊Q(x,i)

σ∊K4に対して、σ(X)=Xとなる係数の条件を求めます。σ(x)=ix、σ(i)=iです。

 σ(a0+ a1x+ a2x2+ a3x3+ a4i+a5ix+a6ix2+ a7 ix3 )

=a0+ a1xi-a2x2-a3ix3+ a4i-a5x-a6ix2+ a7 x3

  • a1=-a5、a2=-a2=0、a3=a7、a5=a1、a6=-a6=0、a7=-a3

→ a1=a2=a3=a5=a6=a7=0

  X=a0+ a4i∊Q(i)

K4={e、σ、σ2、σ3}の全ての元に対して、σ(X)=Xが成り立つので、K4は拡大体Q(i)/Q上のガロア群になっています。Q(i)はK4の不変体になっています。

D4⊃K4⊃S2⊃I  ⇔  Q⊂Q(i)⊂Q(√3,i)⊂Q(4√3,i)

  • S2={e、σ2}=Gal(Q(√3、i)/Q)を示します。
  • σ2(a0+ a1x+ a2x2+ a3x3+ a4i+a5ix+a6ix2+ a7 ix3 )

=σ(a0+ a1xi-a2x2-a3ix3+ a4i-a5x-a6ix2+ a7 x3)

  =a0-a1x+a2x2-a3x3+ a4i-a5ix+a6ix2-a7ix3

  a1=-a1、a3=-a3=0、a5=-a5、a7=-a7、→ a1=a3=a5=a7=0

  X=a0+a2x2 + a4i+a6ix2=a0+a2√3 + a4i+a6√3 i ∊Q(√3、i)

S2={e、σ2}の全ての元に対して、σ2(X)=Xが成り立つので、S2は拡大体Q(√3、i)上のガロア群になっています。K4はD4の正規部分群、S2はK4の正規部分群になっています。

Q(√3、i)は、{1、√3、i、√3i}の4つの基底からなる4次元ベクトル空間と同型です。

Q(i)は、{1、i}の2つの基底からなる2次元ベクトル空間と同型です。

  • D4⊃K4⊃S2⊃I  ⇔ Q⊂Q(i)⊂Q(√3,i)⊂Q(4√3,i)
  • [Q(4√3、i):Q]=[Q(4√3、i):Q(√3、i)]・[Q(√3、i):Q(i)]・[Q(i):Q]=2・2・2=8
  • #(D4)=#(K4)・#(S2)・#(I)=4・2・1=8

[2] L4={e、σ2、τ、τσ2}=Gal(Q(√3)/Q)を示します。τ(i)=-i

σ2(X)=Xより、X=a0+a2x2 + a4i+a6ix2

τ(X)=τ(a0+a2x2 + a4i+a6ix2)=a0+a2x2 -a4i-a6ix2=a0+a2x2 + a4i+a6ix2

  • -a4=a4=0、-a6=a6=0 → X=a0+a2x2 =a0+a2√3 ∊Q(√3)

従ってQ(√3)はL4の不変体になっており、以下のガロア対応が成り立ちます。

  • D4⊃L4⊃S2⊃I ⇔ Q⊂Q(√3)⊂Q(√3,i)⊂Q(4√3,i)
  • [Q(4√3、i):Q]=[Q(4√3、i):Q(√3、i)]・[Q(√3、i):Q(√3)]・[Q(√3):Q]=2・2・2=8
  • #(D4)=#(L4)・#(S2)・#(I)=4・2・1=8

[3] T2={e、τ}=Gal(Q(4√3))

  • τ(a0+ a1x+ a2x2+ a3x3+ a4i+a5ix+a6ix2+ a7 ix3 )

=a0+ a1x+ a2x2+ a3x3-a4i-ix-ix2-ix3=X

   a4=a5=a6=a7=0 

→ X=a0+ a1x+ a2x2+ a3x3=a0+ a14√3+ a2-4√9+ a34√27 ∊Q(4√3)

D4⊃L4⊃T2⊃I  ⇔ Q⊂Q(√3)⊂Q(4√3)⊂Q(4√3,i)

[4] V2={e、τσ2}=Gal(Q(4√3i)/Q)を示します。

  • τσ2 (a0+ a1x+ a2x2+ a3x3+ a4i+a5ix+a6ix2+ a7 ix3 )

=τ(a0-a1x+a2x2-a3x3+ a4i-a5ix+a6ix2-a7ix3)

=a0-a1x+a2x2-a3x3-a4i+a5ix-a6ix2+a7 ix3=X

  a1=a3=a4=a6=0

  → X=a0+ a2x2+a5ix+ a7 ix3=a0-a2(4√3i)2+a5(4√3i)-a7(4√3i)3 ∊Q(4√3i)

  D4⊃L4⊃V2⊃I  ⇔ Q⊂Q(√3)⊂Q(4√3i)⊂Q(4√3,i)

[5] M4={e、σ2、τσ、τσ3}=Gal(Q(√3i)/Q)を示します。

・ σ2(X)=Xより、X=a0+a2x2 + a4i+a6ix2

  τσ(X)=τσ(a0+a2x2 + a4i+a6ix2)

     =τ(a0-a2x2 + a4i-a6ix2)

     =a0-a2x2-a4i+a6ix2=a0+a2x2 + a4i+a6ix2=X

       a2=a4=0  → X=a0+a6 ix2=a0+a6 √3i ∊ Q(√3i)

  D4⊃M4⊃S2⊃I  ⇔ Q⊂Q(√3i)⊂Q(√3,i)⊂Q(4√3,i)

[6] U2={e、τσ}=Gal(Q((1-i)-4√3)) を示します。

・ τσ(X)=τσ(a0+ a1x+ a2x2+ a3x3+ a4i+a5ix+a6ix2+ a7 ix3)

     =τ(a0+ a1xi-a2x2-ia3x3+ a4i-a5x-a6ix2+ a7 x3)

     =a0-a1xi-a2x2+ia3x3-a4i-a5x+a6ix2+ a7 x3=X

    a1=-a5、a2=a4=0、a3=a7

      → X=a0+ a1x+ a3x3-a1ix+a6ix2+ a3 ix3

         =a0+ a1(1-i)x+ a3(1+i)x3+a6ix2

     (1-i)2=1-1-2i=-2i、(1-i)3=-2i(1-i)=-2(i+1)

X=a0+ a1(1-i)x-1/2-a3(1-i)3-x3-1/2-a6(1-i)2-x2 ∊ Q((1-i)-4√3))

  •  D4⊃M4⊃U2⊃I ⇔ Q⊂Q(√3i)⊂Q((1-i)-4√3)⊂Q(4√3,i)

[7] W2={e、τσ3}=Gal(Q((1+i)-4√3)) を示します。

σ(x)=ix、τ(x)=x、σ(i)=i、τ(i)=-i、x=4√3に注意して

  σ2(X)=Xより、X=a0+a2x2 + a4i+a6ix2

  τσ3(X)=τσ(a0+a2x2 + a4i+a6ix2) 

      =τ(a0-a2x2 + a4i-a6ix2) 

      =a0-a2x2 -a4i+a6ix2=X=a0+a2x2 + a4i+a6ix2

      a2=a4=0. X=a0+a6ix2

  (1+i)2=1-1+2i=2i、i=1/2-(1+i)2

   X=a0+1/2-a6 (1+i)2x2 ∊ Q((1+i)-4√3)

  •  D4⊃M4⊃W2⊃I ⇔ Q⊂Q(√3i)⊂Q((1+i)-4√3)⊂Q(4√3,i)

ガロア群D4が4つの解(1234)をどのように置換するかを調べます。

  • D4={e、σ、σ2、σ3、τ、τσ、τσ2、τσ3

 ={e、(1324)、(12)(34)、(1423)、(34)、(14)(23)、(12)、(13)(24)}

と表すことができます。

  • f(t)=t4-3=(t24√9) ( t24√9)=(t-4√3) ( t+4√3) ( t-4√3i) ( t+4√3i)=0

の4つの解は、改めてx=4√3とおくと

  • (α1、α2、α3、α4)=(x、-x、ix、-ix)と書けます。

σ(x)=ix、τ(x)=x、σ(i)=i、τ(i)=-i、の規則で4つの解を変換すると

  • σ(x、-x、ix、-ix)=(ix、-ix、-x、x)

⇔ σ(α1、α2、α3、α4)=(α3、α4、α2、α1)

⇔ σ=(1→3→2→4→1)=(1324)

すなわちσは(1324)の置換作用素となっています。同様にして

  • σ2(x、-x、ix、-ix)=σ(ix、-ix、-x、x)=(-x、x、-ix、ix)=(α2143)

  σ2=(1→2→1、3→4→3)=(12)(34)

すなわちσ2は12の互換と34の互換の作用素となっています。また

  • σ3(x、-x、ix、-ix)=σ2(ix、-ix、-x、x)=σ(-x、x、-ix、ix)

=(-ix、ix、x、-x)=(α4312)

  σ3=(1→4→2→3→1)=(1423)

すなわちσ3は(1423)の置換作用素となっています。τに関しても

  • τ(x、-x、ix、-ix)=(x、-x、-ix、ix)=(α1243) =(34)

すなわちτは34の互換のみの作用素です。

  • τσ(x、-x、ix、-ix)=τ(ix、-ix、-x、x) =(-ix、ix、-x、x)=(α4321)

  τ=(1→4→1、2→3→2)=(14)(23)

すなわちτσは14の互換と23の互換の作用素となっています。

  • τσ2(x、-x、ix、-ix)=τ(-x、x、-ix、ix)=(-x、x、ix、-ix)=(α2134)

  τσ2=(12) となっています。

  • τσ3(x、-x、ix、-ix)=τ(-ix、ix、x、-x)=(ix、-ix、x、-x)=(α3412)

  τσ3=(1→3→1、2→4→2)=(13)(24) となっています。

<まとめ>

多項式f(x)=x4-3の分解体とガロア群を求め、拡大体の系列と対応するガロア群の系列を7種類導出しました。f(x)の分解体はQ(4√3,i)であり、その上の有理数体を不変に保つQ自己同型写像全体は8次のD4群となることを、群の演算表を作成して示しました。D4の部分群には3つの4次の部分群と5つの2次の部分群がありました。部分群の作用で不変となる不変体を求めました。ガロア群に対応する不変体は拡大体の系列を構成することを示しました。

(1) D4⊃K4⊃S2⊃I ⇔ Q⊂Q(i)⊂Q(√3,i)⊂Q(4√3,i)

(2) D4⊃L4⊃S2⊃I  ⇔  Q⊂Q(√3)⊂Q(√3,i)⊂Q(4√3,i)

(3) D4⊃L4⊃T2⊃I  ⇔ Q⊂Q(√3)⊂Q(4√3)⊂Q(4√3,i)

(4) D4⊃L4⊃V2⊃I  ⇔ Q⊂Q(√3)⊂Q(4√3i)⊂Q(4√3,i)

(5) D4⊃M4⊃S2⊃I  ⇔ Q⊂Q(√3i)⊂Q(√3,i)⊂Q(4√3,i)

(6) D4⊃M4⊃U2⊃I  ⇔ Q⊂Q(√3i)⊂Q((1-i)-4√3)⊂Q(4√3,i)

(7) D4⊃M4⊃W2⊃I  ⇔ Q⊂Q(√3i)⊂Q((1+i)-4√3)⊂Q(4√3,i)

ガロア理論5

これまで多項式f(x) =x2-2とf(x)=x4-4x2+16を例にとり、解を有理数体Qに加えて体を拡大し、拡大した体の上のQ同型写像と拡大体上の群を導く方法を説明しました。今回、ガロアの基本定理について述べ、Q多項式f(x)=x3-2を例にとり、f(x)の分解体Q(3√2,ω)とガロア群S3を求め、その中間体Q(ω)と部分群A3がガロア対応していることを説明します。分かりやすい例を用いて、ガロアの基本定理を理解しましょう。

<ガロアの基本定理>

ガロアの基本定理とは、G=Gal(L/Q)の部分群Hの個数とガロア拡大体L⊃K⊃Qなる中間体Kの個数は一致し、両者の間に全単射

  • Φ:{H|{e}⊂H⊂G、Hは群} ⇔ {K|L⊃K⊃Q、Kは体}

が存在する。また#(G)=[L:Q]が成り立つ、というものです。例えば

  • {e}⊂H3⊂H2⊂H1⊂G  ⇔ L⊃K3⊃K2⊃K1⊃Q

のように群Hiが体Kiに対応します。具体的には、Φ(Hi)=Kiなる対応

  • Φ(H)={x|x∊L、∀σ∊H、σ(x)=x}=(群Hで動かない体Lの元の集合)=LH
  • Φ-1(K)={σ|σ∊G、∀x∊K、σ(x)=x}=Kの元を動かさない群Gの元の集合=GK

を考えます。このような対応をガロア対応と言います。また

  • HがGの正規部分群 ⇔ KはQのガロア拡大体
  • Gal(K/Q)=G/H(剰余群)

が成り立っています。Qの拡大体K上のガロア群Gal(K/Q)は、Gの正規部分群HによるGの剰余群G/Hになっています。

  • Gal(K1/Q)=G/H1Gal(K2/K1)=H1/ H2Gal(K3/K2)=H2/ H3

が成り立っています。

  • Φ({e})={x|x∊L、e (x)=x}=L
  • Φ(G)={x|x∊L、∀σ∊G、σ(x)=x}=Q

が成り立ちます。正規部分群が単位群まで縮小したときに、最大の拡大体Lとなります。また最大群Gは拡大前の有理数体Qです。

Ex.2  Q多項式f(x)=x3-2を例に、f(x)の分解体とガロア群を求めてみましょう。

f(x)を因数分解すると

  • f(x)=x3-2=(x-3√2)( x-3√2ω)( x-3√2ω2)、ω2+ω+1=0、ω3=1

となります。3つの解を、α13√2、α23√2ω、α33√2ω2、とします。

f(x)の分解体はQ(3√2,ω)となります。a1a2、・・・a6 ∊Q(有理数)を用いて

  • Q(3√2,ω)={a1+a23√2+a33√4+a4ω+a53√2ω+a63√4ω|ai∊Q}

と書けます。というのは、

  • (3√2)23√4、(3√2)3=2、ω2=-ω-1

なので、独立な基底は{1. 3√2, 3√4, ω, 3√2ω, 3√4ω}の6個になるからです。つまり

  • [Q(3√2,ω):Q]=6

体の拡大次数は6となります。

  • ω=3√2ω/3√2=­α21=­α12α2/2、3√2ω=α2
  • 3√4ω=3√23√2ω=α1α23√4=α12

ですから、

  • Q(3√2,ω)={a1+a2α1+a3α12+a4α12α2/2+a5α2+a6α1α2|ai∊Q}=Q(α12)

と書くこともできます。Q(3√2,ω)上のQを不変にする自己同型写像σを考えます。

  • 2=σ(2)=σ((3√2)3)=σ(3√2)3 → σ(3√2)=3√2、3√2ω、3√2ω2
  • 0=σ(0)=σ(ω2+ω+1)=σ(ω)2+σ(ω)+1 → σ(ω)=ω、ω2

ですから、自己同型写像σは

  • σ0:(3√2,ω)→(3√2,ω)
  • σ1:(3√2,ω)→(3√2ω,ω)
  • σ2:(3√2,ω)→(3√2ω2,ω)
  • σ3:(3√2,ω)→(3√2,ω2)
  • σ4:(3√2,ω)→(3√2ω,ω2)
  • σ5:(3√2,ω)→(3√2ω22)

の6つとなります。σ0は恒等写像です。これらの写像を(α1、α2、α3)に作用させると

  • σ11)=σ1(3√2)=3√2ω=α2
  • σ12)=σ1(3√2ω)=σ1(3√2)σ1 (ω)=3√2ω・ω=α3
  • σ13)=σ1(3√2ω2)=σ1(3√2)σ12)=3√2ω・ω23√2=α1

よって、

  • σ11、α2、α3)=(α2、α3、α1)=(1→2→3→1)=(123)

なる解の置換を引き起こします。同様にして、

  • σ21)=σ2(3√2)=3√2ω2=α3
  • σ22)=σ2(3√2ω)=σ2(3√2)σ2 (ω)=3√2ω2・ω=α1
  • σ23)=σ2(3√2ω2)=σ2(3√2)σ22)=3√2ω2・ω23√2ω=α2

よって、

  • σ21、α2、α3)=(α3、α1、α2)=(3→2→1→3)=(321)

なる解の置換を引き起こします。同様にして、

  • σ31)=σ3(3√2)=3√2=α1
  • σ32)=σ3(3√2ω)=σ3(3√2)σ3(ω)=3√2・ω2=α3
  • σ33)=σ3(3√2ω2)=σ3(3√2)σ32)=3√2・ω43√2ω=α2

よって、

  • σ21、α2、α3)=(α1、α3、α2)=(2⇔3)=(23)
  • なる解α2とα3の互換を引き起こします。同様にして、σ4:(3√2,ω)→(3√2ω,ω2)
  • σ41)=σ4(3√2)=3√2ω=α2
  • σ42)=σ4(3√2ω)=σ4(3√2)σ4(ω)=3√2ω・ω2=α1
  • σ43)=σ4(3√2ω2)=σ4(3√2)σ42)=3√2ω・ω43√2ω2=α3

よって、

  • σ41、α2、α3)=(α2、α1、α3)=(1⇔2)=(12)

なる解α1とα2の互換を引き起こします。同様にして、σ5:(3√2,ω)→(3√2ω22)

  • σ51)=σ5(3√2)=3√2ω2=α3
  • σ52)=σ5(3√2ω)=σ5(3√2)σ5(ω)=3√2ω2・ω23√2ω=α2
  • σ53)=σ5(3√2ω2)=σ5(3√2)σ52)=3√2ω2・ω43√2=α1

よって、

  • σ51、α2、α3)=(α3、α2、α1)=(1⇔3)=(13)

なる解α1とα3の互換を引き起こします。以上をまとめると

  • G={e、σ1、σ2、σ3、σ4、σ5}={e、(123)、(321)、(23)、(12)、(13)}=S3

Q(3√2,ω)上のQを不変にする自己同型写像は合成写像を演算として3次の対称群S3をなすことが分かります。群Gの位数は6です。これは拡大体Q(3√2,ω)が6次元であることに対応しています。Gの部分群は、自明な{e}とS3を除くと、A3、B2、C2、D2の4つです。

  • A3={e、σ1、σ2}={e、(123)、(321)} ⇔ A3 はQ (ω)を不変にする群
  • B2={e、σ3}={e、(23) } ⇔ B2はQ(α1) を不変にする群
  • C2={e、σ4}={e、(12) } ⇔ C2はQ(α3) を不変にする群
  • D2={e、σ5}={e、(13) } ⇔ D2はQ(α2) を不変にする群

となります。A3は正規部分群ですが、B2は正規部分群ではありません。ガロア対応は

  • Φ(S3)=Q、Φ(A3)=Q(ω)、Φ({e})=Q(3√2,ω)

となっています。

σ4=(12)はα1とα2の互換を引き起こすので、Q(α3)を不変にします。実際

  • Q(3√2,ω)={a1+a2α1+a3α12+a4α12α2/2+a5α2+a6α1α2|ai∊Q}=Q(α12)
  • σ4(a1+a2α1+a3α12+a4α12α2/2+a5α2+a6α1α2)

=a1+a2α2+a3α22+a4α22α1/2+a5α1+a6α2α1

a2=a5a3=a4=0であればσ4の作用で不変になります。

σ4(x)=xの場合、x=a1+a21+α2)+a6α1α2

となります。解と係数の関係

  • α1+α2+α33√2(1+ω+ω2)=0 → α1+α2=-α3
  • α1α2α33√2・3√2ω・3√2ω2)­=2 → α1α2=2/α3

を代入すると、xはα3だけに依存することを示すことができます

  • x=a1+a21+α2)+a6α1α2=a1-a2α3+2a63 ∊ Q(α3)

つまり、{e,σ4}={e,(12)}はQ(α3)を不変にします。σ4=(12)はα1とα2の互換を引き起こすので、Q(α3)を不変にするのは明らかです。

次にA3 はQ (ω)を不変にすることを示します。

σ1=(123)、σ1:(3√2,ω)→(3√2ω,ω) 、ω2=-(1+ω)

に注意すると

σ1(a1+a23√2+a33√4+a4ω+a53√2ω+a63√4ω)

=a1+a23√2ω+a33√4ω2+a4ω+a53√2ω2+a63√4ω2ω

=a1+a4ω+a23√2ω+a63√4-a33√4(1+ω)-a53√2(1+ω)

=a1+a4ω-a53√2+(a6-a3)-3√4+(a2-a5)-3√2ω-a33√4ω

もとの元と係数を比較すると

  • a2=-a5、a5=a2-a5 → a2=a5=0
  • a3=a6-a3、a6=-a3 → a3=a6=0

よって

  • σ1(a1+a4ω)=a1+a4ω ∊ Q(ω)

が示されました。同様に、σ2:(3√2,ω)→(3√2ω2,ω)、ω2=-(1+ω)に注意すると

σ2(a1+a23√2+a33√4+a4ω+a53√2ω+a63√4ω)

=a1+a23√2ω2+a33√4ω4+a4ω+a53√2ω2ω+a63√4ω4ω

=a1+a23√2ω2+a33√4ω+a4ω+a53√2+a63√4ω2

=a1-a23√2(1+ω)+a33√4ω+a4ω+a53√2-a63√4(1+ω)

=a1 +(a5-a2)-3√2-a63√4+a4ω-a23√2ω+(a3-a6)-3√4ω

σ2 ( )内と係数を比較すると

・a2=a5-a2a5=-a2 → a2=a5=0

・a3=-a6a6=a3-a6 → a3=a6=0

よって

  • σ2(a1+a4ω)=a1+a4ω ∊ Q(ω)

が示されました。つまり、

A3={e、σ1、σ2}はQ(ω)を不変にする群である

ことが分かりました。以上をまとめます。

  • S3={e,σ12345} ⊃ A3={e,σ12} ⊃ {e}:ガロア群の縮小列
  • Q ⊂ Q(ω) ⊂ Q(3√2,ω) ;体のガロア拡大
  • Φ(S3)=Q、Φ(A3)=Q(ω)、Φ({e})=Q(3√2,ω):ガロア対応
  • [Q(ω):Q]=2、[Q(3√2,ω):Q(ω)]=3、体の拡大次元
  • [Q(3√2,ω):Q]=[Q(3√2,ω):Q(ω)]・[Q(ω):Q]=3・2=6
  • S3/ A3={I A3,J A3} 、A3/ {e}={e E,σ1E,σ2E }:2つの剰余群
  • #(S3)=#(S3/ A3)・#(A3/{e})=3・2=6 :剰余群の位数の積は対称群の位数に等しい

ガロア理論4

ここではガロア理論を理解するための基本事項について解説します。まず多項式x2-2の根√2を用いて有理数体QをQ(√2)に拡大し、Q(√2)上の同型写像が満たすべき条件について調べます。Q(√2)は基底{1、√2}を有する2次元の拡大体であり、Q(√2)上のQ同型写像は2次の巡回群{e、σ1}を成します。併せてQ(3√2)が体であることを確認する方法を示します。代数方程式の解による拡大体とその上の同型写像が作る群には密接な関係があり、拡大体の次元と群の位数は一致します。次に多項式分解体によるガロア拡大とその上の同型写像によるガロア群について説明し、簡単な例を示します。Q上の4次の規約多項式f(x)=x4-4x2+16の分解体Q(√3、i)を求め、Q(√3、i)が4次の拡大体であり、その上のQ同型写像からなるガロア群が4元の互換変換群であることを確認します。

<体の拡大とその上の同型写像について>

有理数の全体をQとします。Qに√2を添加した体を

  • Q(√2)={a+b√2|a,b∊Q}⊃Q

と書きます。Q(√2)は四則演算で

  • (a+b√2)+(c+d√2)=a+c+(b+d)√2 ∊ Q(√2)
  • (a+b√2)・(c+d√2)=ac-2bd+(ad+bc)√2 ∊ Q(√2)
  • 1/(a+b√2)=(a-b√2)/(a+b√2) (a-b√2)=(a-b√2)/(a2-2b2) ∊ Q(√2)

閉じているのでQの拡大体となっています。

√2の最小多項式はx2-2です。√2はx2-2=0の解なので、2次の代数的数と呼びます。a,b∊Qに対して、1a+b√2=0ならばa=b=0となるので、1と√2はQ(√2)の独立な基底となっています。つまりQ(√2)は2次元のベクトル空間と同型です。QからQ(√2)への拡大の次数を[Q(√2):Q]と表すと、[Q(√2):Q]=2となります。

拡大体Q(√2)上のQ自己同型写像σについて考えます。Q自己同型写像σは任意のQの元xを不変に保つQ(√2)からQ(√2)への全単射写像です。

  • σ:Q(√2) → Q(√2)、σ(x)=x for ∀x ∊ Q

また同型写像は和と積の演算を保存します。

  • σ(x+y)=σ(x)+σ(y)、σ(xy)=σ(x)σ(y)  for ∀x ∊ Q(√2)

従って

  • σ(1)=1、σ(0)=0、σ(n)=n、σ(-n)=-n、σ(q/p)=q/p

が成り立ちます。つまり有理数xに対して

  • σ(x)=x for ∀x ∊ Q

が成り立っています。以下にそれを示しましょう。例えば

  • σ(1)=σ(1・1)=σ(1)σ(1) → σ(1)(σ(1)-1)=0 → σ(1)=0またはσ(1)=1

もしσ(1)=0とすると、任意のx ∊ Q(√2)に対して、

  • σ(x)=σ(x・1)=σ(x)σ(1)=0 

となり、σが全単射写像であることに矛盾します。従って

  • σ(1)=1

となります。また

  • σ(0)=σ(0+0)=σ(0)+σ(0) → σ(0)=0

です。n=1+1+1+・・・+1(n個の1の和)を代入すると

  • σ(n)=σ(1+1+・・+1)=σ(1)+σ(1)+・・+σ(1)=1+1+・・+1=n

です。

  • 0=σ(0)=σ(n-n) =σ(n)+σ(-n) → σ(-n)=-n
  • q=σ(pq/p)=σ(p) σ(q/p)=pσ(q/p) → σ(q/p)=q/p

となっています。

それではQ上で同型を保つようにσの√2に対する作用を考えてみましょう。

  • 2=σ(2)=σ(√2・√2)=σ(√2)σ(√2) → σ(√2)=√2、-√2

となります。∀a,b∊ Qに対して

  • σ0(√2)=√2の場合、σ0(a+b√2)=σ0(a)+σ0(b)σ0(√2)=a+b√2

なので、σ0は恒等写像eです。

  • σ1(√2)=-√2の場合、σ1(a+b√2)=σ1(a)+σ1(b)σ1(√2)=a-b√2

となります。拡大体Q(√2)上のQ同型写像は{e、σ1}となります。

  • σ1σ1(√2)=σ1(-√2)=-(-√2)=√2=e (√2) → σ1σ1=e

となるので{e、σ1}は合成写像の二項演算に関して2次の巡回群をなします。

Q上の代数方程式x2-2=0の解√2を用いて有理数体QをQ(√2)に拡大しました。Q(√2)は基底{1、√2}を有する2次元の拡大体であり、Q(√2)上のQ同型写像は2次の巡回群{e、σ1}を成すことが分かりました。代数方程式の解による拡大体とその上の同型写像が作る群には密接な関係があり、拡大体の次元と群の位数は一致します。

次に有理数Qに三乗根3√2を添加した拡大体を考えます。

  • (3√2)23√4∉Q、(3√2)3=2∊Q

なので、3√4が3√2と同時に付加され、

  • Q(3√2)={a+b3√2+c3√4|a,b}⊃Q

となります。Q(3√2)は加減乗除について閉じているので体となります。

  • a+b3√2+c3√4+a’+b’3√2+c’3√4=(a+a’)+(b+b’)3√2+(c+c’)3√4 ∊ Q(3√2)
  • (a+b3√2+c3√4)(a’+b’3√2+c’3√4)=(aa’+2bc’ +2b’c)+(ab’+a’b+2cc’) 3√2+(ac’+a’c+2bb’) 3√4 ∊ Q(3√2)

Q(3√2)が割り算について閉じていることを示すのには少し計算が必要です。

  • 1/(a+b3√2+c3√4)=a’+b’3√2+c’3√4 ∊ Q(3√2)を示します。

  1/(a+b3√2+c3√4)=1/c・1/[3√4+(b/c)3√2+(a/c)]

α=3√2とおきます。改めてb/cをb、a/cをcとおいて

  • 1/(α2+bα+c)=αの2次式 ∊ Q(3√2)

になることを示せばよいことが分かります。

∃a1a2k、r ∊Q なる有理数が存在して

  • x3-2=(x-a1)(x2+bx+c)+k(x-a2)
  • (x2+bx+c)=(x-a2) (x-a3)+r

が成立します。よって、2式から(x-a3)を消去すると

  • (x2+bx+c)=(x-a2) [x3-2-(x-a1)(x2+bx+c)]/k+r
  • [1+(x-a2) (x-a1)/k] (x2+bx+c)=(x-a2)(x3-2)/k+r

となります。上式にαを代入すると、α3-2=0より、右辺はrのみになるので、

  • 1/(α2+bα+c)=[1+(α-a2) (α-a1)/k]/r=(1/rk)[α2-(a1+a2)α+ a1a2+k] ∊ Q(3√2)

が示されます。つまりQ(3√2)は割り算について閉じていることが分かります。

<多項式分解体とガロア群について>

数αを根とする最小次数のモニック多項式を最小多項式といいます。例えば√2の最小多項式はx2-2です。モニック多項式とはx2+2x+3の様に最大次数の項の係数が1である多項式のことです。

KがQの有限次数の拡大体とします。Kの任意の元αの最小多項式の全ての解がKの元であるとき、KをQのガロア拡大体あるいは正規拡大体K/Qと言います。

Q(有理数)係数のn次多項式f(x)の全ての根α123,…αnを加えた拡大体Q(α123,…αn)をf(x)の多項式分解体と言います。実は、ここでは証明しませんが、KがQ係数の多項式分解体であることはKがQの正規拡大体であることと同値になっています。

今KがQの正規拡大体とします。K上のQ自己同型な写像Aut(K)をKのガロア群といい、Gal(K/Q)と書きます。同じことですが、KがQ係数多項式f(x)の分解体のとき、Aut(K)をf(x)のガロア群といい、Gal(f)と書きます。任意のQの元xに対して、σ∊Gal(f)はσ(x)=xである自己同型写像なので、f(x)=0の解α123,…αnに関して

  • f(σ(αi))=σ(f(αi))=σ(0)=0 for i=1,2,…n

が成り立ちます。σ(α1),σ(α1)・・σ(αn)はf(x)=0の解になっています。つまり

  • σ(α1),σ(α1)・・σ(αn) ⇔ ασ(1)σ(2)σ(3) …,ασ(n)

と同一視すると、σで解を変換することは、解の順番を入れ替えることに相当します。

Ex1. Q多項式f(x)=x4-4x2+16を例に、f(x)の分解体とガロア群を求めてみましょう。

f(x)=x4-4x2+16はQ上ではこれ以上因数分解できない規約多項式です。f(x)の分解体とはf(x)=0の解をQに付け加えてできた拡張体のことでした。f(x)を因数分解すると

  • f(x)=x4-4x2+16=(x2+4)2-(2√3x)2=(x2+2√3x+4)( x2-2√3x+4)
  •   =(x-α1) (x-α2) (x-α3) (x-α4)
  • α1=√3+i、α2=√3-i、α3=-√3+i、α4=-√3-i

となります。解をQに付加すると

  • Q(√3+i、√3-i、-√3+i、-√3-i)=Q(√3,i)

すなわちf(x)の分解体はQ(√3,i)になります。

ちなみにQ(√3,i)=Q(√3+i)も成立します。

  • t=√3+iとおくと、t2=2+2√3i、t3=(2+2√3i)( √3+i)=8i

   → i= t3/8、√3=t-i=t-t3/8

より、√3とiは√3+iで表すことができるからです。

結局Q(√3,i)は4つの基底[1,i,√3,√3i]をもつ4次元ベクトル空間と同型でした。Q(√3,i)上の同型写像σは、Qの元は不変に保ち、iと√3は符号を変える変換を含みます。つまり

  • -1=σ(-1)=σ(ii)=σ(i)σ(i) → σ(i)=±i
  • 3=σ(3)=σ(√3√3)=σ(√3)σ(√3)  → σ(√3)=±√3

でした。よってQ(√3,i)の元

  • a+bi+c√3+d√3i ∊Q(3,i) for a,b,c,d∊Q

に対するQ同型写像σとして

  • σ1(a+bi+c√3+d√3i)=a+bi+c√3+d√3i:恒等写像e
  • σ2(a+bi+c√3+d√3i)=a-bi+c√3-d√3i:(i,√3)→(-i,+√3)
  • σ3(a+bi+c√3+d√3i)=a+bi-c√3-d√3i:(i,√3)→(+i,-√3)
  • σ4(a+bi+c√3+d√3i)=a-bi-c√3+d√3i:(i,√3)→(-i,-√3)

の4種類のQ同型写像が考えられます。今

  • σiσj=σjσi for i,j=1,2,3,4
  • σiσi=e、σ1σi=σi for i=1,2,3,4
  • σ1σ2=σ3、σ1σ3=σ2、σ2σ3=σ1

が成り立つので{e=σ1234}はクラインの4元群(Z/2Z×Z/2Z)になります。

具体的にσの解に対する作用を調べてみましょう。

  • σ21)=σ2(√3+i)=√3-i=α2
  • σ22)=σ2(√3-i)=√3+i=α1
  • σ23)=σ2(-√3+i)=-√3-i=α4
  • σ24)=σ2(-√3-i)=-√3+i=α3

つまり、σ2

  • σ21α2α3α4)=(α2α1α4α3)=(12)(34)

1と2、3と4の互換変換となります。同様に

  • σ31)=σ3(√3+i)=-√3+i=α3
  • σ32)=σ3(√3-i)=-√3-i=α4
  • σ33)=σ3(-√3+i)=√3+i=α1
  • σ34)=σ3(-√3-i)=√3-i=α2

つまり、

  • σ31α2α3α4)=(α3α4α1α2)=(13)(24)

1と3、2と4の互換変換となります。同様に

  • σ41)=σ4(√3+i)=-√3-i=α4
  • σ42)=σ4(√3-i)=-√3+i=α3
  • σ43)=σ4(-√3+i)=√3-i=α2
  • σ44)=σ4(-√3-i)=√3+i=α1

つまり、

  • σ41α2α3α4)=(α4α3α2α1)=(14)(23)

1と4、2と3の互換変換となります。

結局、f(x)=x4-4x2+16のガロア群Gは

  • G={e,σ234}={e,(12)(34),(13) (24),(14)(23)}

なる互換変換の群であることが分かりました。また

  • #G=4(群の個数) ⇔ [Q(√3、i):Q]=4(拡大次数)

が成り立っていることが確認できました。Q上の4次の規約多項式f(x)=x4-4x2+16の分解体Q(√3、i)を求め、Q(√3、i)が4次の拡大体であり、その上のQ同型写像からなるガロア群が4元の互換変換群であることを確認しました。

ガロア理論3

今日は5次以上の方程式は代数的に解けないことを示します。ガロア理論によれば、方程式が代数的に解けるということは、方程式のガロア群が可解群であるということでした。従ってn≧5のとき、Sn⊃An⊃N⊃・・・⊃Eなる正規群Nが存在するかを調べます。

対称群Snは(1,2,3、・・・n)の全ての解の置換の集合です。Anは偶置換群ですから、Sn⊃Anは常に成り立ちます。An⊃Nなる正規群Nが存在すると仮定して、Nはどんな性質をもっているかを調べます。正規群Nの共役元はNに属します。つまり任意の

  • t∊N、a∊Anに対して、ata-1∊N

でした。Nは群ですから、ata-1t-1∊Nも成り立ちます。ata-1t-1を交換子といいます。交代群Anに含まれる循環置換のタイプは以下の4種類です。

(1)4次以上の巡回置換を含む置換 

  t=(0123…)……

(2) 3次の巡回置換を含む置換 

  t=(012)(34…)…

(3) 3次の巡回置換

  t=(012)

(4)2つの互換を含む置換

  t=(01)(23)…

互換は奇置換なので2つないと偶置換になりません。Nはこの中のどれかの循環置換タイプだと考えられます。最も単純な循環置換a=(123)、(124)・・∊Anによって、t∊Nの交換子ata-1t-1∊Nがどのような循環タイプに属するかを調べます。

a=(124)=(1→2→4→1)、t=(01)=(0→1→0)の意味であることに注意して下さい。初期の順列01234…がata-1t-1の作用で変化する様子を調べます。

[1] t=(012)(34…)…∊N、a=(124) ∊Anのとき

                   01234…(初期順列)

 a=(1→2→4)              02431…(aの作用後の順列)

 t=(0→1→2)(3→4→p…)… 10p42…(tの作用後の順列)

 a-1=(1←2←4)        40p21…(a-1の作用後の順列)

   t-1=(0←1←2)(3←4←p…)…  32410…(t-1の作用後の順列)

ata-1t-1によって、初期の順列が01234…から32410…に変化したので、

  • ata-1t-1=(0→3→1→2→4)=(03124) :5次の巡回置換

と書けます。Nに3次の巡回置換を含む置換が含まれている場合、必ずNに5次の巡回置換が含まれていることが分かりました。これは4次以上の巡回置換を含む置換に含まれます。それでは4次以上の巡回置換は交換子でどのように変換されるでしょうか?

[2] t=(0123…)…∊N、a=(123) ∊Anのとき

                   01234…(初期順列)

   a=(1→2→3)               02314…(aの作用後の順列)

 t=(0→1→2→3→4→p…)…    1342p…(tの作用後の順列)

 a-1=(1←2←3)          3241p…(a-1の作用後の順列)

   t-1=(0←1←2←3←4←p…)…    21304…(t-1の作用後の順列)

よって、

  • ata-1t-1=(0→2→3→0→2)=(023) :3次の巡回置換

Nに4次以上の巡回置換を含む置換が含まれている場合、Nには必ず3次の巡回置換が含まれることが分かりました。3次の巡回置換は交換子でどのように変換されるでしょうか?

[3] t=(012)∊N、a=(123) ∊Anのとき

               01234…(初期順列)

    a=(1→2→3)          02314…(aの作用後の順列)

 t=(0→1→2)     10324…(tの作用後の順列)

 a-1=(1←2←3)     30214…(a-1の作用後の順列)

   t-1=(0←1←2)       32104…(t-1の作用後の順列)

よって、

  • ata-1t-1=(0→3→0)(1→2→1)=(03)(12) :2つの独立な互換の積

Nに3次の巡回置換が含まれている場合、Nには必ず2つの独立な互換の積があることが分かりました。それでは独立な互換の積は交換子でどのように変換されるでしょうか?

[4] t=(01)(23)∊N、a=(123) ∊Anのとき

                0123…(初期順列)

    a=(1→2→3)           0231…(aの作用後の順列)

 t=(0→1)(2→3)…    1320…(tの作用後の順列)

 a-1=(1←2←3)      3210…(a-1の作用後の順列)

   t-1=(0←1)(2←3)…   2301…(t-1の作用後の順列)

よって、

  • ata-1t-1=(0→2→0)(1→3→1)=(02)(13) :2つの独立な互換の積

Nに独立な互換の積が含まれている場合、必ず2つの独立な互換の積がNに含まれることが分かりました。[1]~[4]の結果、Nには、少なくとも1つの独立な互換の積が含まれていることを示しています。

[5]任意の独立な互換積(jk)(mn)は正規群Nに含まれていることを示します。

Nに含まれている1つの独立な互換の積を(12)(34)とします。1234以外の数から任意の数jkmnを選び、偶置換aをつくります。

    a=(jkmn/1234/pqrs)=(j→1→p、k→2→q、m→3→r、n→4→s)∊An

 t=(12)(34)=(1→2→1)(3→4→3)∊N

  a-1=(pqrs/1234/jkmn)=(j←1←p、k←2←q、m←3←r、n←4←s)∊An

NはAnの正規部分群なのでata-1∊Nです。

                  1234jkmn…(初期順列)

   a=(jkmn/1234/pqrs)        pqrs1234…(aの作用後の順列)

 t=(1→2)(3→4)       pqrs2143…(tの作用後の順列)

 a-1=(pqrs/1234/jkmn)  1234kjnm…(a-1の作用後の順列)

よって

 ata-1=(1234jkmn/1234kjnm)=(jkmn/kjnm) =(jk)(mn)∊N

Nには少なくとも1つの独立な互換の積があるので、Nには任意の独立な互換の積が含まれることが示されました。

[6]独立でない互換の積もNに含まれることを示します。

独立でない互換の積として(12)(13)があります。これは1がどちらにも入っているので独立ではありません。これも偶置換なのでAnに含まれています。(12)(13)はNに含まれているでしょか? 5次以上の置換群には、123の3解以外にも2解があります。それを45として、置換(45)を考えます。正規群Nには任意の独立な互換が含まれているので

  • (12)(45)、 (45) (13)∊N → (12)(45)・(45)(13)=(12)(13)∊N

が成り立ちます。つまり正規群Nはすべての独立でない互換の積も含みます。交代群Anは全ての互換の積の集合ですから、結局n≧5のときAnの正規部分群Nは交代群An自身に他なりません。5次以上の交代群は正規の真部分群を含んでいないので、ガロア系列に分解できる可解群ではないことが示されました。ガロアが方程式の解という無限アナログの世界を解の群という有限デジタルの世界に引き戻したことで、高次方程式の解の公式を求める無駄な努力を省くことに成功しました。今日ガロアが編み出した群は様々な分野に応用されています。

ガロアは小学校に馴染めず、ずっとお母さんに勉強を教わっていました。15歳で数学と出会い、17歳で方程式論の論文を科学アカデミ-に提出しますが、コ-シ-に紛失され、再度書き改めた論文を受けたフ-リエが急逝してしまいます。受験に2度失敗して、街の名士であるお父さんが自殺して、絶望したガロアは革命運動に関わり、投獄されます。20歳の時に療養所で出会ったステファニ-という女性と出会いますが、他の男に決闘を申し込まれて、負傷したまま見捨てられ死んでしまいます。ガロアは自分の成果を称賛されたことは一度もありませんでした。天才はどんな境遇でも成果を残しますが、その生涯は本当に可哀そうです。

ガロア理論2

4次方程式を題材にしてガロア理論を紹介します。

<フェラ-リの4次方程式の解法>

4次方程式は、平行移動で3次の項を消去できるので、一般にp,q,r∊Q[有理数]を用いて

  • x4+px2+qx+r=0  ・・・(A1)

と書き表せます。両辺に2kx2+k2を付け加え、4次の項を平方完成させると

  • x4+2kx2+k2=(2k-p)x2-qx
  • (x2+k) 2=(2k-p)(x-q/2(2k-p))2+k2-r-q2/ 4(2k-p)
  • (x2+k) 2=(2k-p)(x-q/2(2k-p))2+D(k)/4(2k-p)

となります。ここで判別式を

  • D(k)=(k2-r) (2k-p) -q2=2k3-pk2-2rk+pr=0  ・・・(A1)

としました。この3次方程式を解いて、解kを代入すると

・(x2+k) 2=(2k-p)(x-q/2(2k-p))2

を得ます。ここで

  • m=√(2k-p)、n=-q/[2√(2k-p)] 

とおくと上式は

  • (x2+k) 2-(mx+n) 2=0
  • (x2+mx+k+n) (x2-mx+k-n) =0

より

  • x2+mx+k+n=0
  • x2-mx+k-n=0

と書けます。この2次方程式の判別式は、それぞれ

 D1=m2-4k-4n

 D2=m2-4k+4n

です。2つの2次方程式を解くと、結局4次方程式(A1)の解は

  • x1=[-m+√(m2-4k-4n)]/2=[-m+√D1]/2
  • x2=[+m-√(m2-4k+4n)]/2=[+m-√D2]/2
  • x3=[-m-√(m2-4k-4n)]/2=[-m-√D1]/2
  • x4=[+m+√(m2-4k+4n)]/2=[+m+√D2]/2

となります。ここで、k=k(p,r)は3次方程式

  • 2k3-pk2-2rk+pr=0  ・・・(A2)

の解であり、

 k-p/6=u(p,r)+v(p,r)、ωu +ω2v 、ω2u+ωv

m、nは

  • m=√(2k(p,r)-p)、n=-q/[2√(2k(p,r)-p)]、

であります。

<4次方程式のガロア群>

3次方程式の解をu3,v3とすると、3次方程式の場合と同様に、有理数に1の三乗根を付加した固定体Qωを

  • Qω⊂Qω[u]⊂Qω[u, u3]

と拡大することで3次方程式の解が得られます。さらに2つの判別式の項を加えて

  • Qω⊂Qω[u3]⊂Qω[u, u3] ⊂Qω[u, u3, √D1]⊂Qω[u, u3, √D1, √D2]

と拡大することで、4つの4次方程式の解が得られます。Qω[u, u3, √D1, √D2]は固定体Qωのガロア拡大体です。5つの拡大体列に対応する5つのガロア群の縮小正規列は

・S4(対称群)⊃A4(交代群)⊃ B4⊃ C2 ⊃ E={I}

となります。A4はQω[u3]のガロア群、B4はQω[u,u3]のガロア群、C2はQω[u, u3, √D1] のガロア群です。それぞれの体と群の対応をガロア対応といいます。

n次方程式の解が四則演算と冪乗根で表せるガロア拡大体の数であるためには、ガロア拡大体に対応するガロア群の縮小列があって、全ての剰余群が巡回群でなければなりません。4次方程式の場合には上のようなガロア対応が成り立っており、全ての剰余群が巡回群なので、代数的に解くことができます。ガロア群の縮小列が形成できなければ、代数的に解くことはできません。

<4次方程式のガロア群の生成元>

解の入れ替えに関する写像は以下のI,J,K,L,Mの5通りです。J,K,L,Mは4次方程式のガロア群を生成する元です。

I:恒等写像                  :(1234/1234)

J:u → v → u              :(1234/2134)=(12)

K:u+v →ωu +ω2v →ω2u+ωv:(1234/2314)=(123)

L:(x1, x2, x3, x4)→(x4, x3, x2, x1) :(1234/4321)=(14)(23) ;(n,m)→(-n,-m) →(n,m)

M:(x1, x2, x3, x4)→(x3, x4, x1, x2) :(1234/3412)=(13)(24) : √ → -√ → √

  • x1=[-m+√(m2-4k-4n)]/2=[-m+√D1]/2
  • x2=[+m-√(m2-4k+4n)]/2=[+m-√D2]/2
  • x3=[-m-√(m2-4k-4n)]/2=[-m-√D1]/2
  • x4=[+m+√(m2-4k+4n)]/2=[+m+√D2]/2

4次方程式の4つの解の入れ替え写像は、2つの解の入れ替え写像の合成演算により、対称群S4をなします。4元の入れ替えは4!=24通りあります。まずはL、Mの演算について調べてみましょう。

LM=(1234/4321) (1234/3412)=(1234/4321)(4312/2143) =(1234/2143)=(12)(34)

つまり、LMは1⇔2、3⇔4の交換を行います。(x1, x2, x3, x4)の2組の互換は、M、L、LMの3つしかありません。

ML=(1234/3412) (1234/4321)=(1234/3412) (3412/2143)=(1234/2143)=(12)(34)=ML

MM=(1234/3412) (1234/3412)= (1234/3412) (3412/1234)=(1234/1234)=I

LL= (1234/4321) (1234/4321)=(1234/4321) (4321/1234)=(1234/1234)=I

なので

  • B4={I、M、L、LM}

は群をなします。ML=LMなので、B4は可換群です。B4はJ,Kとは可換なので、S3の正規部分群になっています。またB4の全ての元は遇置換です。B4はQω[u, u3]のガロア群です。Qω[u, u3]によってkの値が固定されても、(x1, x2, x3, x4)は影響を受けません。B4の部分群について調べてみましょう。

  • E={I}⊂ C2={I、M}⊂B4

C2はS3の正規部分群になっています。

LL=Iなので、剰余類B4/ C2は巡回群です。√D1の最小多項式の次数は2です。

  • B4/ C2={I C2、L C2

MM=Iなので、剰余類C2/Eは巡回群です。√D2の最小多項式の次数は2です。

  • C2/E={EI、EM]}

対称群S4は、4!=24個の元からなり、

  • S4=JA4∪I A4
  • A4={I、K、K2}・{I、M、L、LM}={I、K、K2}・B4
  • B4={I、L}・{I、M}={I、L}・C2

の様に分解できます。A4は12個の元からなる交代群(遇置換群)です。JA4は群ではありません。

A4={I、M、L、LM、、KI、KM、KL、KLM、、K2I、K2M、K2L、K2LM}

JA4={J、JM、JL、JLM、、JKI、JKM、JKL、JKLM、、JK2I、JK2M、JK2L、JK2LM}

剰余類S4/ A4は巡回群になっています。

  • S4/ A4={I A4、JA4

剰余類の要素の数を位数といいます。S4/ A4の位数は2です。剰余類の位数は、対応する代数体に加えた数の最小多項式の次数と一致します。補助方程式を解くためにu3(=√)をQωに加えたのですが、u3の最小多項式は2次なので、位数2と一致しています。

剰余類A4/ B4は、K B4=B4 Kなので、巡回群になっています。

  • A4/ B4={I B4、K B4、K2 B4

A4はQω[u,u3]のガロア群です。u3、v3からu、vを出すためにuを加えました。Uの最小多項式は3次なので、剰余類A4/ B4の位数3に対応しています。

以上、4次方程式を解いて、そのガロア群について調べてみました。4次方程式の解の入れ替えに関して縮小するガロア群の列が形成でき、その剰余類が一つの元から生成せれる巡回群だったので、4次方程式の場合はガロア拡大体に解を見出すことができることが確かめられました。

ガロア理論1

エバリスト・ガロアはフランスの天才数学者です。20歳の死の直前に書かれた1832年の書簡で、5次以上の方程式は代数的に解くことができないことを群論を用いて示しました。ガロアの理論は難解ですぐには理解されませんでしたが、後世の数学に大きな影響を与えました。ガロア理論とはどのようなものなのでしょうか?

<3次の対称群S3

ガロア理論では代数方程式の解を並び替える写像を考えます。三次方程式の3つの解を(123)とすると、(123)を並び替える写像は3!=6個あります。2つの並び替えを連続して行った結果は1つの並び替えになるので、その合成写像は群の演算となります。(123)の6つの並び替え写像を要素とする集合は3次の対称群S3になります。

ここでは1→2、2→3、3→1に並び替える巡回写像Kを(123/231)と表記します。同様に1→2、2→1、3→3に並び替える互換写像Jを(123/213)と定義します。恒等写像はI=(123/123)です。すなわち

・ I=(123/123)、K=(123/231)=(231)、J=(123/213)=(12)

この表示法を用いると、合成写像は

KJ=(123/231)(123/213)=(123/231)(231/132)=(123/132)=(23)

と計算できます。ここで(123/213)=(231/132)と書き換えました。つまりこの合成写像の演算は(123)→(231)→(132)の並び替えであり、結局2と3の入れ替えになります。一方

  • JK=(123/213)(123/231)=(123/213)( 213/321)=(123/321)=(13)

となります。JK≠KJ、つまりJとKは可換ではありません。

もっと簡略化した表記では、K=(231)、J=(12)と書きます。これは(231)が(2→3→1→2)なる並び替え、(12)は1と2の交換を表しています。簡略表記では

  • KJ=(231)(12)=(23)

と書けますが簡略表記で演算計算をしない方がいいでしょう。同様に他の演算は

  • K2= (123/231)(123/231)=(123/231) (231/312)=(123/312)=(312)
  • K3=(123/312) (123/231)=(123/312) (312/123)=(123/123)=I
  • JK2=(123/213)(123/312)=(123/213)( 213/132)=(123/132)=(23)

となります。つまり、JKは互換(13)、JK2は互換(23)となります。互換は奇数置換です。奇置換同士の合成演算は奇置換となるので閉じています。巡回KやK2は偶数置換です。遇置換も合成演算に関して閉じています。結局S3の部分群は

  • E={I}
  • C2={I、J}={I、(12)}
  • A3={I、K、K2}={I、(231)、(312)}

の3つです。A3は遇置換の部分集合で、交代群と呼ばれています。C2もA3も1つの元で作られる巡回群です。

<正規部分群>

群Gの部分群HがGの任意の元aに対して、

  •  aHa-1=H

が成り立つとき、部分群HをGの正規部分群と言います。これは集合として

  • {aha-1|h∊H}={ ah1a-1, ah2a-1,ah3a-1,・・・ ahna-1}={h1,h2,h3,・・・hn

等しいことを意味しているのであって、すべての元で

  • ahka-1=hk 

が成り立つわけではありません。実際I、K、K2∊A3⊂S3に対して

JIJ-1=I

JKJ-1=(123/213)(123/231) (123/213)=(123/321) (321/312) =( 123/312)=K2

JK2J-1=(123/213)(123/312) (123/213)=(123/132) (132/231) =( 123/231)=K

が成り立つので、A3はS3の正規部分群です。しかしJ∊C2に対して

  • KJK-1= (123/231) (123/213) (123/312)=(123/132) (132/321)=(123/321)=(13)∉C2

なので、C2はS3の正規部分群ではありません。

<剰余群S3/ A3

対称群S3={I、K、K2、J、JK、JK2}は、2つの集合

  • I A3={I、K、K2}(遇置換)、J A3={J、JK、JK2}(奇置換)

に分割できます。

  • S3 =I A3∪J A3、かつI A3∩J A3=空集合

A3は正規部分群なので、A3による剰余群

  • S3/ A3={I A3、J A3

が定義できます。剰余群の要素I A3、J A3を剰余類と呼びます。JA3は群ではありません。

・JK・JK=JKJ-1・K=K2K=I ∉JA3

任意のa,b∊S3に対して、A3b=b A3が成り立つので、

  • aA3・bA3=a・A3b・A3=a・b A3・A3=ab A3

より、正規部分群による商は群になります。実際

  • I A3・J A3=J A3、J A3・J A3=I A3

なので、剰余群S3/ A3は群になっています。JA3が生成元になって剰余群のすべての要素が作られるので、剰余群S3/ A3は巡回群になっています。

また同様に剰余群A3/E={IE、KE、K2E}も、KEが生成元になって剰余群のすべての要素が作られるので、巡回群になっています。実は剰余群がn次の巡回群であることは、n次方程式が

  • zn=1
  • zk=cos(2πk/n)+i・sin(2πk/n) k=0,1,2,・・・n-1

という形で解けることを意味しています。

3次方程式の解の対称群S3の正規部分群A3とEからなる全ての剰余群S3/ A3とA3/Eが巡回群なので、解を表現する代数体を拡大することで、3次方程式

  • x3+px+q=0

は代数的に解けることになります。

<三次方程式と巡回群>

前回、3次方程式には、x=u+vなる解があり、u3とv3が2次方程式

  • t2+qt-(p/3)3=0

の解になっていることから、

  • u3=-q/2+√D、v3=-q/2-√D
  • D=(q/2)2+(p/3)3

と表せることを示しました。有理数Qにω3=1の根ωを付け加えた代数体Qωを考えます。さらに√Dを付け加えた拡大体をとQω(u3)します。u3とv3を入れ替えることは、√Dの係数1を-1に入れ替えることに相当します。1と-1は1の2乗根であり、x2-1=(x-1)(x+1)=0の2解になっています。剰余群S3/ A3={I A3、J A3}は√Dの係数1を-1に巡回させる変換に対応付けられます。解を構成する代数体をQωからQω(u3)に拡大すると、解が受ける群はS3からA3に縮小されます。さらにuを付け加えると拡大体Qω(u,u3)が得られます。Qω(u,u3)上の3つの解は、

  • α=u+v、β=ωu+ω2v、γ=ω2u+ωv

です。前回示したように変換K

  • K(u)=ωu、K(v)=ω2v

を用いると、3つの解は

  • K(α)=β、K(β)=γ、K(γ)=α

と巡回変換されます。解を入れ替えることは、u、vの係数を1、ω、ω2と変化させることに対応します。これらは1の3乗根であり、x3-1=(x-1)(x-ω)(x-ω2)=0の3解になっています。剰余群A3/E={IE、KE、K2E}は、3つの解を巡回させる変換Kが作る巡回群に対応付けられます。解を構成する代数体をQω(u3)からQω(u,u3)に拡大すると、解が受ける群はA3からEに縮小します。方程式を代数的に解く工程は、解の受ける対称群を巡回群に分解することに相当します。対称群を巡回群に分解できなければ、方程式を代数的に解くことはできません。

 エバリスト・ガロアは、一般の5次方程式では、解の遇置換である交代群A5に正規部分群が存在しないので、巡回群が形成できず、代数体の拡大によって、5次方程式を代数的に解くことができないことを示しました。

剰余類の最も身近な例は偶数と奇数です。整数Zは遇数と奇数に分けられます。偶数と奇数は、整数Zの正規部分群であり、

  • Z=2Z∪(2Z+1)、2Z∩(2Z+1) =空集合

ですから、剰余群Z/2Zの剰余類です。

  • Z/2Z={2Z、2Z+1}

と表せます。

代数学の基本定理について

<代数学の基本定理とは>

1799年にフリ-ドリヒ・ガウスは学位論文の中でn次の複素多項式

  • F(z)=zn+an-1 zn-1 + an-2 zn-2+・・・+a1z+a0=0

は、n個の複素解を持つことを証明しました。これは代数学の基本定理と呼ばれています。この定理の証明には実解析的な証明あるいはリウヴィルの定理やルーシェの定理(1862年)を用いた複素関数論的な証明があります。

リウヴィルの定理によると全複素平面において有界かつ解析的な複素関数は定数でなければなりません。任意の z ∈C に対し、F(z)≠0 とすると、G(z) = 1/F(z) は有界な整関数となり、リウヴィルの定理により、F(z) は定数関数となり、仮定に矛盾します。だからF(z)=0となるz∈Cが存在するというものです。

ルーシェの定理によると複素関数f(z)とg(z)が領域Dの境界で|f(z)|>|g(z)|であるなら、D内でf(z)+g(z)とf(z)の零点の個数は一致しなければなりません。ここで

  • f(z)=zn
  • g(z)=an-1 zn-1 + an-2 zn-2+・・・+a1z+a0

とすると、半径Rの円領域Dの境界では、|f(z)|>|g(z)|となり、ルーシェの定理により、D内でのF(z)=f(z)+g(z)=0の零点の個数は、zn=0の零点の個数nに一致します。複素関数論的な証明は簡潔ですが、複素関数論に馴染みがないと、代数学の基本定理を納得するのは容易ではありません。

ガウスはどのように代数学の基本定理を証明したのでしょうか? 今回、n次方程式の実部と虚部を描画して解となる交点の個数を調べてみました。Re(F(x,y))=0とIm(F(x,y))=0のグラフがn個の交点をもつことから、n次の代数方程式F(z)=0にn個の複素数解が存在することが直感的に分かりました。

<ガウスの証明方法>

  • F(z)=zn+an-1 zn-1 + an-2 zn-2+・・・+a1z+a0=0

に対して

  • z=r(cos(nφ)+i・sin(nφ))、r>0
  • an-1=A(cosα+i・sinα)、A>0
  • an-2=B(cosβ+i・sinβ、B>0
  • a0=L(cosλ+i・sinλ)、L>0

とおいて代入すると、実部と虚部は

Re(F(z))=rn cos(nφ)+A rn-1 cos[(n-1)φ+α]+ B rn-2 cos[(n-2)φ+β]+・・+Lcosλ

Im(F(z))=rn sin(nφ)+A rn-1 sin[(n-1)φ+α]+ B rn-2 sin[(n-2)φ+β]+・・+Lsinλ

となります。

[補題] このとき十分大きなRを取ると、

  • rn-√2(A rn-1+B rn-2+・・+L)>0 for r>R

が成り立つ。

[証明] rnで割ると

  • 1-√2・(A/r+B/r2+・・・+L/ rn)>0
  • 1-√2・M(1/r+1/r2+・・・+1/ rn)>0 、M=max{A,B,・・・L}

を示せばよいことになります。今、半径R=1+√2・Mとおくと、r>Rより

  • r>1+√2・M → r-1>√2・M → 1-√2・M/(r-1)>0
  • 1/r+1/r2+・・・+1/ rn < (1/r)/(1-1/r)=1/(r-1)
  • 1-√2・M(1/r+1/r2+・・・+1/ rn)>1-√2・M/(r-1)>0

が示されます。

[1] Re(F(z))=0の線は、複素平面の半径r>R=1+√2・max{A,B,・・・L}の円を2n個の円弧に分割し、Re(F(z))は円弧上で交互に正負の値を取る。

[証明1]

半径r>Rの円上に偏角φ=2π/4nで4n個の点P0、P1、・・P2k-1、P2、P2k+1・・P4n-1を取ります。最初の点P0の偏角はπ/4nとし、P1(3π/4n)、P2(5π/4n)とします。(πは円周率パイのこと)

P2の偏角φ2k=π/4n+2π/4n・2k=(kπ+π/4)/nであるから、Re(F(z))の第一項の cos(nφ)の値は、cos(nφ)=cos(kπ+π/4)=cos(kπ) cos(π/4)=(-1)k/√2 となります。

同様にP2k+1の偏角φ2k+1=π/4n+2π/4n・(2k+1)=(kπ+3π/4)/nであるから、cos(nφ)=cos(kπ+3π/4)=cos(kπ) cos(3π/4)=-(-1)k/√2 となります。点P2と点P2k+1では、rn cos(nφ)の符号が異なります。補題より

  • rn/√2> A rn-1+B rn-2+・・+L

kが偶数のとき

Re(F(z=P2))>rn cos(nφ2)-(A rn-1+B rn-2+・・+L)>rn/√2-rn/√2=0

Re(F(z=P2k+1))<rn cos(nφ2k+1)+(A rn-1+B rn-2+・・+L)<-rn・/√2+rn/√2=0

kが奇数の時

Re(F(z=P2))<rn cos(nφ2)+A rn-1+B rn-2+・・+L<-rn/√2+rn/√2=0

Re(F(z=P2k+1))>rn cos(nφ2k+1)-(A rn-1+B rn-2+・・+L)>rn/√2-rn/√2=0

つまり、半径r>Rの円の2n個の円弧上でRe(F(z))は交互に正負の値をとります。

[2] Im(F(z))=0の線は、複素平面の半径r>R=1+√2・max{A,B,・・・L}の円を2n個の円弧に分割し、Im(F(z))は円弧上で交互に正負の値を取る。

[証明2]

P2の偏角φ2k=π/4n+2π/4n・2k=(kπ+π/4)/nだから、Im(F(z))の第一項の sin(nφ2k)の値は、sin(nφ2k)=sin(kπ+π/4)=cos(kπ) sin(π/4)=(-1)k/√2  となります。

同様にP2k-1の偏角φ2k-1=π/4n+2π/4n・(2k-1)=(kπ-π/4)/nだから、sin(nφ2k-1)=sin(kπ-π/4)=-cos(kπ) sin(π/4)=-(-1)k/√2       となります。点P2と点P2k-1では、rn sin(nφ)の符号が異なります。補題より

  • rn/√2> A rn-1+B rn-2+・・+L

kが偶数の時

Im(F(z=P2))>rn sin(nφ2)-(A rn-1+B rn-2+・・+L)>rn/√2-rn/√2=0

Im(F(z=P2k-1))<rn sin(nφ2k-1)+A rn-1+B rn-2+・・+L<-rn/√2+rn/√2=0

kが奇数の時

Im(F(z=P2))<rn sin(nφ2)+A rn-1+B rn-2+・・+L <-rn/√2+rn/√2=0

Im(F(z=P2k-1))>rn sin(nφ2k-1)-(A rn-1+B rn-2+・・+L)>rn/√2-rn/√2=0

つまり、半径r>Rの円の2n個の円弧上でIm(F(z))は交互に正負の値をとります。

[3]  Re(F(z))は円弧上で交互に正負の値を取るため、中間値の定理より、Re(F(z))=0の線は、複素平面の半径r>Rの円と2n個の点で交差します。Im(F(z))は円弧上で交互に正負の値を取るため、中間値の定理より、Im(F(z))=0の線は、複素平面の半径r>Rの円と2n個の点で交差します。円の内部に入り込んだRe(F(z))=0の線とIm(F(z))=0の線はn個の交点zk (k=1,2,…,n) をもちます。n個の交点zkではF(zk)=Re(F(zk))+i・Im(F(zk))=0となるので、zk (k=1,2,…,n)はn次方程式の解になっています。

[3]の証明は難しいので、いくつかn次方程式の例を用いて、Re(F(z))=0の線とIm(F(z))=0の線がn個の交点zk (k=1,2,…,n) をもつことを確かめることにしましょう。

<10次の方程式の例>

  • F(z)=z10+z9+ z8+ z7+ z6+z5+ z4+ z3+ z2+z=0

について考えます。この方程式はz=0,-1なる実解を持ちます。

  • F(z)=z(z9+ z8+ z7+ z6+z5+ z4+ z3+ z2+z+1)=0
  • z10-1=(z-1)( z9+ z8+ z7+ z6+z5+ z4+ z3+ z2+z+1)=0
  • z0=0、zk=cos(kπ/5)+i・sin(kπ/5) (k=1,2,3,4,5,6,7,8,9)、z5=-1

他の8個の解はr=1の円上にある偏角kπ/5(k=1,2,3,4,6,7,8,9)の複素解です。

図1に複素平面上にRe(F(z))=0の黒線とIm(F(z))=0の赤線を示します。緑色の放射状の領域はRe(F(z))>0の領域で、青緑色の領域はRe(F(z))<0の領域を示しています。黄緑色の放射状の領域はIm(F(z))>0の領域で、緑色の領域はIm(F(z))<0の領域を示しています。これらの2つのグラフを重ね合わせます。

図2にr=3(>1+√2・1)の円を4n=40分割した図を示します。Re(F(z=P2k))>0、Re(F(z=P2k+1))<0となっており、P2kとP2k+1の間にRe(F(z2k))=0となる点があり、Re(F(z))=0の線はz2kを通過しています。同様にIm(F(z=P2k))<0、Im(F(z=P2k-1))>0となっており、P2kとP2k-1の間にRe(F(z2k-1))=0となる点があり、Re(F(z))=0の線はz2k-1を通過しています。Re(F(z))=0の線とIm(F(z))=0の線は円の内部で10個の交点zk (k=1,2,…,10) をもつことが確かめられます。

<5次方程式の例1>

  • F(z)=z5+ z3+z=z(z4+ z2+1)=0

を考えます。z=0を解に持ちます。

  • z6-1=(z2-1)( z4+ z2+1)=0

が成り立つので、

z4+ z2+1=0 の解は、z6-1=0の6個の解の内z=1,-1を除いた4個の解です。

 zk=cos(kπ/3)+i・sin(kπ/3) (k=1,2,4,5)

  =(1+√3i)/2、(-1+√3i)/2、(-1-√3i)/2、(1-√3i)/2

図3で赤線はIm(F(x,y))=0の線、黒線はRe(F(x,y))=0の線を表しています。赤線と黒線の交点がF(x,y)=0の解となります。Re(F(x,y))≅rncos(nφ)、Im(F(x,y)) ≅rnsin(nφ)なので、位相がπ/2回転しています。

<5次方程式の例2>

  • F(z)=z5+ z3+2z2+1=0

を考えます。5次方程式なので実数解を持ちます。図4に5つの解の位置を示します。赤線と黒線の交点がF(x,y)=0の解となります。2次の係数が2なので、解はr=1の円上に並んでいません。5次方程式にはRe(F(x,y)) とIm(F(x,y))が正となる領域が5つ放射状に広がっています。Re(F(x,y))の正領域とIm(F(x,y))の正領域がπ/2回転してずれているので、Re(F(x,y))=0の黒線とIm(F(x,y))=0の赤線が5つの交点を持ちます。

Re(F(x,y))=0とIm(F(x,y))=0のグラフがn個の交点をもつことから、n次の代数方程式F(z)=0にn個の複素数解が存在することが直感的に分かります。

三次方程式の実数解を得るには虚数が必要

16世紀のイタリアでは、負の数は認められていませんでした。まして虚数は全く無意味な数だと考えられていました。しかし三次方程式の実数解を得るには、虚数を認めなければなりませんでした。

簡単のために三次方程式

  • x3-px=0 p>0

について考えます。これは元の方程式においてq=0でpが-pに置き換わった方程式です。

  • x(x-√p) (x+√p)=0

より、3つの実数解をもつことが分かります。

三次方程式の判別式は、q=0のとき

  • D3=(q/2)2+(-p/3)3=-(p/3)3<0

となります。これを用いると、虚数をi=√-1と書くと、

  • u3=-q/2+√D3=i√(p/3)3
  • v3=-q/2-√D3=-i√(p/3)3

となります。uとvは虚数になってしまいます。しかし虚数を認めれば

  • x0=u+v=0
  • x1=ωu+ω2v=(ω-ω2)u=(2ω+1)u=√3i・i√(p/3)=-√p
  • x2=ω2u+ωv=(ω2-ω)u=-(2ω+1)u=-√3i・i√(p/3) =√p

となり、3つの実数解を再現することができます。

 

一般にモニック三次方程式(三次の係数が1)

・           f(x)=x3+px+q=0

の判別式は、三つの解を用いて

  • D3=(q/2)2+(p/3)3=-1/(4・27)・(α-β)2(β-γ) 2 (γ-α) 2 ・・・(1)

と表されます。

  • D3=1/4・(極大値)・(極小値)=1/4・f(-√-p/3)・f(√-p/3)  (2)

になっています。

  • D3<0の場合、3つの実数解が存在します(u、vは虚数) 

関数f(x)が極大値から極小値に変化するときにx軸と交わるので、実数解が生じます。

  • D3>0の場合、q<0のときには1つの実数解と2つの虚数解
  • D3=0の場合、q<0のときには2つの実数解(一方は重根)  ・・・(3)

が存在します。

<(3)式の証明>

D3=0の場合、

  • u3=-q/2+√D3=-q/2、 v3=-q/2-√D3=-q/2
  • u=v=3√(-q/2)

であるから、q<0のとき

  • x0=u+v=3√(-4q)
  • x1=ωu+ω2v=(ω+ω2)u=-u=-3√(-q/2)
  • x2=ω2u+ωv=(ω2+ω)u=-u=-3√(-q/2)(重根)

<(2)式の証明>

  • f’(x)=3x2+p=3(x+√-p/3) (x-√-p/3)=0
  • 極大値=f(-√-p/3)=(-√-p/3)3+p(-√-p/3)+q=-2p/3√-p/3+q
  • 極小値=f(√-p/3)=(√-p/3)3+p(√-p/3)+q=2p/3√-p/3+q
  • D3=1/4 (-2p/3√-p/3+q)( 2p/3√-p/3+q)=1/4(q2-(2p/3√-p/3)2)=(q/2)2+(p/3)3

<(1)式の証明>

  • x3+px+q=(x-α) (x-β) (x-γ)=x3+ (α+β+γ)x2+(αβ+βγ+γα)x-αβγ

より、解と係数の関係

  • α+β+γ=0、αβ+βγ+γα=p、αβγ=-q
  •  β+γ=-α、βγ=p-α(β+γ)=p+α2

が成り立ちます。

  • (α-β)(γ-α)=-α2+(β+γ)α-βγ=-α2+(-α)α-(p+α2)=- (3α2+p)
  • (β-γ)(α-β)=- (3β2+p)
  • (γ-α)(β-γ)=- (3γ2+p)

となります。これらの積をとると

  • D3=-1/(4・27) (α-β)2(β-γ) 2 (γ-α) 2 
  •     =1/4・(α2+p/3)・(β2+p/3)・(γ2+p/3)
  •     =1/4・{α2β2γ2+(α2β22γ22α2)p/3+(α222)(p/3)2+(p/3)3

ここで

  • α222=(α+β+γ)2-2(αβ+βγ+γα)=-2p
  • α2β22γ22α2=(αβ+βγ+γα)2-2αβγ(α+β+γ)=p2

ですから、

  • D3=1/4・{q2+(p2)(p/3) +(-2p) (p/3)2+(p/3)3
  •  =1/4{q2+(9-6+1)(p/3)3}=(q/2)2+(p/3)3

が成り立ちます。

イタリアの数学者タルタリア(1500年~1557年)

弾道学の祖と言われるタルタリアは本名をニコロ・フォンタナといいます。ニコロは1500年にプレシアの貧しい家に生まれました。1512年にカンブレー同盟戦争でフランス軍がブレシアに侵攻し、4.5万人のイタリア人を虐殺する事件が起こりました。そのとき12歳のニコロは顎を切り落とされ、普通に話せなくなったので、タルタリア(吃音)と呼ばれるようになったのです。タルタリアは、三角錐の辺の長さを用いて体積を表すタルタリアの公式を考案したことでも知られています。

16世紀のイタリアでは方程式の公開試合が流行していました。お互いに方程式を30問出し合い、30日で回答するというものです。タルタリアは1535年ごろ独学で三次方程式の解法を発見し、出版しないことを条件にカルダノに解を教えたと言われています。カルダノは、1526年に死んだデル・フェロの遺稿から彼が三次方程式の代数的解法を得たことを知り、タルタリアとの約束を無効としました。1545年にカルダノは『アルス・マグナ』(Ars Magna偉大な解法) を出版し、様々な形の三次方程式の解法を公表しました。以来、三次方程式の解法はカルダノの方法と呼ばれています。

<三次方程式の代数的解法>

三次方程式の二次の係数a2は、xをx-a2/2と置き換えると、消去できるので、一般に

  • x3+px+q=0   ・・・(A)

という形に書き表せます。一般に

  • x3 + y3 + z3 − 3 x y z= (x + y + z) (x2 + y2 + z2 − z x − x y − y z) 

という恒等式が成り立ちます。これをxの3次式とみて、y=-u、z=-vと置くと

  • x3 +(‐3uv)x-(u3+v3)=(x‐u‐v){ x2+ (u +v)x+(u2 +v2− uv)} ・・(B)

と書けます。つまり、

  • p=‐3uv
  • q=-(u3+v3)

なるu、vに対して、三次方程式(A)は

  • x=u+v

なる解を有していることが分かります。(B)式の右辺は、対称性から

  • x2 + (u+v)x+(u2 +v2− uv)= (x-au-bv)・(x-av-bu)

と因数分解されたと考えて、係数a、bの満たすべき条件を求めます。

  • x2 + (u+v)x+(u2 +v2− uv)=x2-(a+b)(u+v)x+ab(u2 +v2)+(a2 +b2)uv

よって

  • a+b=-1 かつ ab=1

が成り立ちます。これはa、bが、2次方程式

  • (t-a)(t-b)=t2-(a+b)t+ab=t2+t+1=0

の2つの実数解であることを示しています。 よって

  • a=ω、b=ω2 、ω3=1

となります。従って、

  • x3 +(‐3uv)x-(u3+v3)=(x‐u‐v) (x‐ωu‐ω2v)(x‐ω2u‐ωv)

と因数分解できます。ここで

・           u3+v3=‐q

  •   u3・v3=‐(p/3)3

より、u3、v3は、2次方程式

  •   t2+qt‐(p/3)3=0

の解となります。つまり

  •   u3=‐q/2+√(q/2)2+(p/3)3
  •   v3=‐q/2-√(q/2)2+(p/3)3

です。従って、3つの解は、上記のu、vを用いて、

  • α=u+v、 β=ωu+ω2v、γ=ω2u+ωv

あるいは

  • x=ωk u+ω3-k v (k=0,1,2)

と表されます。この解の表示方法はラグランジェが用いたとされています。三次方程式の解には二乗根と三乗根が用いられます。

<解の巡回変換Kの存在>

  •  K(α)=β

なる解の置換変換Kを考えます。

  •  K(u+v)=ωu+ω2v、 K(u+v)=K(u)+K(v)

なる性質を満たすために

  •  K(u)=ωu、K(v)=ω2v

と定義すると、uv=-p/3を保存すること

  •  K(uv)=K(u)K(v)=ωu・ω2v=uv=-p/3

が成り立ちます。また

  •  K(β)=K(ωu+ω2v)=ωK(u)+ ω2 K(v)=ω2 u+ωv=γ
  •  K(γ)=K(ω2u+ωv)=ω2K(u)+ ωK(v)=ω2 ωu+ωω2v=u+v=α

が成り立つので、Kは解の巡回変換になります。

  • x2 + (u+v)x+(u2 +v2− uv)=0

を解の公式から直接もとめることもできます。

・ x=-(u+v)/2±(1/2)√D2

・ D2=(u+v)2-4(u2 +v2− uv)=-3(u2 +v2− 2uv)=-3(u-v)2

u>vとして、

  • x1=-(u+v)/2+(1/2)√3i (u-v)=(-1+√3i)/2・u+(-1-√3i)/2・v
  • x2=-(u+v)/2-(1/2)√3i (u-v)=(-1-√3i)/2・u+(-1+√3i)/2・v

いま

  • ω=(-1+√3i)/2、ω2=(-1-√3i)/2、ω2+ω+1=0

ですから、

  • x1=ωu+ω2v、x2=ω2u+ωv

となります。

 

多項式が数になるとはどういうことでしょうか?

中学生になると無理数を学びます。無理数は英語で「不合理な数(irrational number)」といいます。1:1:√2の直角三角形の斜辺の長さは無理数です。無理数を発見したのはピタゴラス教団の一人です。ピタゴラスは数の調和を崇拝していたので、分数で書き表せない数を認めませんでした。ピタゴラスは神聖な数を冒涜した罪で無理数を発見した仲間を死刑にしてしまいます。

2乗して2になる性質をもつことは、√2が存在することを保証しません。√2=1.414213562・・・と無限に続きます。√2は、

 {1.4、1.41、1.414、1.4142、1.41421、・・・}

と無限に続く(極限で収束する)有理数の数列と同一視されます。つまり無理数は無限の有理数の集合と同一視して創られた数なのです。

数は簡単に作ることができます。例えば整数を3で割った余りが0になる整数の集合を[0]と書くと、整数を{[0]、[1] 、[2]}の3つの集合に分けることができます。これを新たな3つの数と見なし、加減乗除を定義することができます。この場合も数は無限の要素を持つ集合と同一視して創られます。

現代数学では多項式をも数と見なします。整数の世界で成り立つ様々な定理は、多項式の世界の定理として成り立ちます。数学者は真偽が分からない定理(予想)の場合、先に多項式世界で真偽を確かめようとします。

多項式が数になるとはどういうことでしょうか? 例えば多項式をx2-2で割った余りで分類してみましょう。例えばx4+x-4の場合は

  • 4+x-4=(x2+2)・(x2-2)+x
  • 4-2=(x2+2)・(x2-2)+2

となります。多項式の割り算など何の役に役に立つのか分かりませんでしたが、実は重要な役割を果たしているのです。ここで

  • Rx={x2-2で割った余りがxになるすべての多項式}
  • R2={x2-2で割った余りが2になるすべての多項式}

なる集合を考えます。x4+x-4はRxに含まれる多項式、x4-2はR2に含まれる多項式の一つであることが分かります。x2をx2-2で割った余りは2だから

  • 2=1・(x2-2)+2
  • Rx・Rx=R2 ⇔ x・x=2

が成り立ちます。大胆に集合R2を数2だと見なすと、多項式x2-2を法とする世界では、(無限の多項式からなる集合)Rxは√2に相当する数になるのです。

現代数学では、頑張って方程式を解くのではなく、方程式を使って数を創造することで、方程式と解を同時に求めてしまいます。頭の固い人には、神聖なる数を冒涜しているように映るかもしれません。私たちは、柔軟な考えに興味を示すように、子どもたちを育てていかなければなりません。

コロナ回復はいつごろになるのでしょうか? ~自宅待機率と感染率との関係

コロナウイルスの感染が大きな社会問題になっています。感染抑制と経済損失の最小化を両立させるためには、感染率に応じた自宅待機率を実現しなければなりません。自宅待機率と感染率の間にはどのような関係があるのでしょうか?また回復にはどれくらいの時間がかかるのでしょうか?簡単な感染モデルで回復時間を見積もってみました。

 感染者数をN[人] 、平均感染期間をT[時間]とすると、時間⊿tの間に増加する感染者数⊿Nは
・ ⊿N=-⊿t/T・N
となります。これを解くと
・ N=No・exp{-t/T}
となります。これは病院などでは感染者数が平均感染期間Tの間に治癒して減少することを意味しています。
 次に感染者が自分は感染していると知らずに外出し、感染を拡大させる場合を考えます。自宅待機率をp、一人の感染者が単位時間に感染させる平均人数をK[人/人/時間]とすると、感染者数⊿Nは
・ ⊿N=K⊿t(1-p)N-⊿t/T・N
と表すことができます。(1-p)Nは外出している感染者の数で、第一項目は外出感染者が増加させる感染者数、第二項目は平均感染期間Tの間に治癒して減少する感染者数を表しています。これを整理すると
・ ⊿N/⊿t={K T(1-p)-1}・N/T
と書けます。これを解くと
・ N=No・exp[{K T(1-p)-1}t/T]
となります。つまり感染者数を抑制させる条件は、係数が負となる条件すなわち
・ K T(1-p)-1<0 
となります。従って自宅待機率pが満たすべき条件は
・ p>1-1/KT
となります。KTは感染率すなわち一人の感染者が平均感染期間中に感染させる平均人数を表しています。例えば
・ KT=2.5 → p>60%
・ KT=5.0 → p>80%
となります。これまで政府は感染率2.5を想定し60%以上の自宅待機率を目指していましたが、感染率が2倍高ければ、感染抑制のためには80%以上の自宅待機率が必要になります。
 ところで回復にはどれくらいの時間がかかるのでしょうか?感染者数が1/eになる回復時間(=37%に減る時間)は
・ Te=T/{1-K T(1-p)}
となります。平均感染時間Tは2週間程度だと仮定しましょう。下図に感染率KTが2.5(赤丸)、3.5(青ダイヤ)、5.0(緑四角)の場合の回復時間Teの自宅待機率p依存性のグラフを表示します。


例えば感染率KT=2.5の場合(赤丸)はどうでしょうか?
自宅待機率p=61%であれば、
・ Te=T/{1-2.5・(1-0.61)}=T/0.025=40・T=20カ月
となります。自宅待機率が61%であれば、回復に1年8カ月かかることになり、来年の夏にオリンピックを開催することはできません。
自宅待機率p=65%であれば、平均感染時間Tは4カ月になります。つまり2月の時点で緊急事態宣言を発令していれば、6月には収束しているので、オリンピックは開催できたかもしれません。
自宅待機率p=80%であれば、
・ Te=T/{1-2.5・(1-0.80)}=2・T=1カ月
で回復します。政府が十分な休業補償をして、自宅待機率を80%に高めれば、回復時間が1カ月で済むということです。アメリカ政府はこのことをよく知っていたので、早期に莫大な休業補償に踏み切ったと考えられます。日本政府は十分な休業補償をしなかったので、回復時間が長引くことになります。全体の補償金額が増大し、このままでは国民は膨大な赤字国債を抱えることになるでしょう。

女性初のフィ-ルズ賞学者マリアム・ミルザハニ

マリアム・ミルザハニ(Maryam Mirzakhani)は双曲面上の測地線に関する優れた研究をした女性のイラン人数学者です。マリアムは1977年5月3日テヘランで生まれました。小さい頃は読書が好きで、将来は小説家になりたいと思っていました。

   1991年、彼女が小学校を卒業するころ、イラン・イラク戦争が終結し、やる気のある学生に対するチャンスが開かれました。彼女は試験を受け、テヘランのファルザネガン中学校に合格しました。そこで生涯の友人となるロヤ・ベヘシュティーに出会います。中学1年生の時は、数学の成績は良くありませんでした。天才は自分の才能に気づいているとは限らないようです。中学2年のときに熱心な先生に出会って、マリアムは数学に自信をもつようになります。

   マリアムはファルザネガン女子高等学校に進学し、ロヤと国内のプログラミング大会に参加します。熱心な校長先生の計らいで、マリアムは1994年(香港)と1995年(トロント)の国際数学オリンピックに出場します。マリアムはそこで金メダルを獲得し、「イランの天才少女」と呼ばれました。数学オリンピックは優れた数学者の登竜門になっています。マリアムはイランのシャリフ工科大で学士号を取得し、ハーバード大学のマクマレン教授の下で幾何学を学び、双曲線幾何学の美しさに魅了され、研究に没頭します。

双曲面上の測地線定理の発見
 2004年にマリアムは、双曲面上の測地線に関する重要な定理を発見し、博士学位を取得します。測地線とは2点間の最短距離を結ぶ線のことです。その定理とは、コンパクトな双曲面X上の長さLのシンプルで閉じた測地線の数は、Lの6g-6乗に比例する
   #simple loops=C(X)・L^(6g-6)
というものです。ここでgは双曲面Xの穴(ハンドル)の数です。ド-ナツの場合g=1、2穴ド-ナツの場合g=2となります。シンプルな測地線とは自分自身と交わらない測地線のことです。またマリアムは、シンプルで閉じた測地線で切断したときに、双曲面を2分する確率は1/7であることを見出しました。彼女の発見は、弦理論に関連するエドワード・ウィッテンの公式を位相幾何学的に証明する手法を与えました。

オリラ-標数との関係
オイラ-標数とは多面体の位相不変量であり、
     Euler標数=V(頂点数)-E(辺数)+F(面数)
で定義されます。例えば三角形の場合、3-3+1=1となります。マリアムの公式で気になるのは指数部分6g-6=-3(2-2g)です。実は2-2gはトーラスのEuler標数です。
       種数gのト-ラスのEuler標数= 2-2g
g=0の多面体面(球面と同相)はEuler標数=2>0なので凸面体、g=1のド-ナツ面はEuler標数=0なので平坦面、g=2の2穴トーラス面はEuler標数=-2<0なので双曲面となります。2穴ト-ラスのオイラ-標数を求めるには、元の図形の8角形を考えます。8角形を連続的に変形し2穴ト-ラスにすると、頂点は1個に集約され、8辺のうち4個の辺は同一視されたので、辺は4個になり、面は1個のままです。連続的な変形でオイラ-標数は変わらないので、2穴ト-ラスのEuler標数は
   Euler標数=1(頂点)-4(辺)+1(面)=-2
と考えられます。

ビリア-ド問題
 2006年、ミルザハニは同僚のエスキンとビリア-ド問題に着手しました。ビリア-ド問題とは多角形のビリヤード台の境界で完全反射する光線の通過領域を調べる問題です。例えば5角形内の光線の軌跡を考えます。反射境界において、向こう側へひっくり返された5角形を隣接させると、反射光の軌跡は境界を横切って直進していくように見えます。5角形内の光線の軌跡は多数の隣接した五角形を横切る直線として理解できます。


例えば隣接する2つの五角形は八角形になります。同一視した辺を向きに注意して、図形をゴム膜のように引き延ばしてつなぎ合わせると8角形は2穴トーラスになります。つまりビリア-ド内の光線の軌跡は、多数の穴が開いたト-ラスの測地線となっているのです。任意の角度で放射された光線が元の位置と角度に戻ってくるとしたら、その軌跡はシンプルな閉じた測地線となっているはずです。このようにビリア-ド問題はマリアムが研究していた双曲面上の測地線問題とつながっていたのです。ビリア-ド問題は統計力学のエルゴ-ド問題に関わります。鏡張りの部屋における警備員の視線を解明する問題にも応用されています。

輝かしい経歴と早すぎる死
2008年にマリアムは31歳の若さでスタンフォード大学の教授になりました。夫のヤン・ヴォンドラークはMIT出身のコンピュ-タ理論の研究者です。彼女には三才になる娘アナヒタがいます。2014年にマリアムは37歳のとき女性で初めてフィールズ賞を受賞しました。授賞理由は、リーマン面とそのモジュライ空間の力学と幾何学に関する顕著な業績です。特にウィッテンの公式を証明したことが、高く評価されました。授賞時の様子を見るとマリアムはとても小柄な人だと分かります。
この時マリアムはすでに乳がんを発症していました。残念なことに癌が脊髄に転移し、2017年7月15日にマリアムは40歳という若さで亡くなりました。若くして亡くなったので、一般の人たちは彼女のことを殆ど知りません。

ミルザハニの言葉
ミルザハニの研究は、微分幾何学、複素解析、力学系など数学の多くの分野に影響を与えました。「わたしは、各分野の境界に人が引いた想像上の線を横断するのが好きなのです。研究においては、楽観的であること、異なる物事を結びつけることが重要です」

プライス博士の進化の方程式

私たちが持続的に生活していくには、様々な生物資源の管理と生態系の保護が必要です。生態系を豊かにしたのは、永い生物の進化の歴史です。生態系を理解するには進化の理解が欠かせません。ところで進化とは、どんなプロセスでしょうか?

進化は、変異、遺伝、選択の3つの過程によって成立しています。生物は、限られた食料と配偶者をめぐって生存競争をしています。遺伝子の突然変異によって、生存と繁殖に有利になり、適応力を高めた固体は、生存競争に勝って、多くの子孫を残します。その子孫は親の遺伝子を受け継ぎ、適応力の高い固体となります。

進化とは、適応力の高い固体に生じた遺伝子の変異が蓄積して、新たな種を生成することです。自然環境が適応力の高い生物の生存率や繁殖率を高めること自然選択といいます。生物が新しい形質を獲得していく機構を表したのが進化の方程式です。形質と言うのは、体長、眼の色、骨格、葉の形など、生物の色々な特徴のことです。

進化の方程式には色々ありますが、その中で有名なプライスの共分散方程式を紹介します。ジョ-ジ・プライス博士は生物群の世代交代による形質zの変化に関する共分散方程式

を発見しました。ここでE(w)は平均適応度、∆E(z)は形質の平均的な変化量、Cov(w,z)は適応度と形質の共分散、E(w∆z)は遺伝する形質変化を表しています。zは形質を何らかの形で数値化した変数です。この式は、形質の変化は形質に働く選択項と形質変化の遺伝項の和で書けることを示しています。変異は一定の割合で生じると仮定されています。以下に記号の定義を記します。

ここでwiは固体iの適応度、ziは固体iの形質zの値、piは固体iが形質ziを取る確率を示しています。さてプライスの共分散方程式を導出しましょう。形質の平均的な変化量∆E(z)は

と書けます。適応度は子孫を残せる率に係る数値ですから、個体iの次世代の形質z’iを持つ確率p’i

と考えられます。なぜならそれは前の世代の形質zを持つ確率piが適応度wiだけ増えるからです。E(w)で除することでp’iの確率保存

が成り立っています。p’iを上式に代入すると、 E(z)=0 として、

が得られます。Cov(w,z)は世代交代による適応度の変化による選択的な形質変化量、E(w∆z)は形質変化Δzが適応度wによって受け継がれる遺伝的な形質変化量を表しています。
上式の第二項を無視し、z=wとすると、

となり、平均適応度の変化∆E(w)は常に正となることが分かります。これは自然選択の第一法則と呼ばれています。そのためプライス方程式の第一項は自然選択項と呼ばれています。プライス方程式は、進化の基本方程式と呼ばれ、自然選択説に遺伝の効果を取り入れた特徴があります。この法則は進化学や生態学だけでなく生物資源管理にも適用できそうです。

 ダーウィンは自然選択による進化論(1859年)の提唱者ですが、進化を論じる際に遺伝のことは全く考えていませんでした。遺伝学の祖メンデルは、30歳で物理化学を学ぶためにウィ-ンに留学し、気体反応の法則で有名なゲイリュサックや分子説で有名なアボガドロに会っています。そこで彼は、酸素ガスは2つの酸素原子が結合した分子であることなどを学びました。メンデルの法則(1865年)はAbといった2つの遺伝的要素で一つの形質を表現しています。このように遺伝学は分子説の影響を受けたと考えられています。

社会的ジレンマを解決する方程式?

最近、テレビ番組では、地球温暖化の問題がよく取り上げられています。一般に地球温暖化などの環境問題や公共財の供給問題など、社会的ジレンマを含む問題が解決できないのは、全体にとって有益であっても、個人にとって不利益な行動は実現しにくいからです。しかし全体社会の中の小集団の支持者や利益を分析することで、政策を社会全体に浸透できる可能性があります。近年、社会的な政策は、個別地域に不利益があっても、全体的な政策支持の傾向があれば、実現可能かもしれないと考えられるようになりました。全体的な政策支持の傾向とは何でしょうか?具体的な数理モデルで考えてみましょう。

が得られます。ここでCovは小集団の人数niで重みづけた共分散です。〈xi 〉平均は小集団の人数niで重みづけた平均です。つまり共分散が正で、利得差を凌駕すれば、全体の政策Aの利得は政策Bより大きくなることが示されます。つまり法律や道徳的圧力がなくても、人々が徐々に政策Aを支持する可能性があります。但し小集団間でxiやuiのばらつきがある程度以上ないと、政策の誘導は難しくなる、というところが面白いですね。

プライス博士(George R. Price)は、無神論者で理論的に利他行動の可能性を追求してきたのですが、晩年はキリスト教に帰依して、ホ-ムレスに自分の財産を分け与えるなど利他行動を実践しました。1970年に進化生物学の基本方程式を発見し、1975年53歳のときにうつ病で自殺をしてしまいます。理由はお金がなくなってホームレスを助けることができなくなったから。追悼式に参列したのは、ビル・ハミルトン博士とジョン・メイナード=スミス博士と数人のホ-ムレスだけでした。オレン・ハ-マン教授が「THE PRICE OF ALTRUISM」(利他主義の対価)というプライス博士の伝記を書いています。最後に公式の証明を書いておきましょう。

RSA暗号とはどんな暗号でしょうか?(2)

p、qが小さい素数の場合に、公開鍵と秘密鍵を求めてみましょう。

(2)N=33(p=3、q=11)の場合
 N=p×q=3×11と因数分解できる場合を考えます。(p-1) (q-1)=2×10=20です。N=33を法とする場合、剰余値には0~32までの33個の数しか現れません。表2にべき乗の法を33とした値を示します。2と10の最小公倍数(LCM)は10ですから、
・  n・LCM+1=11、21、31、41、51、61、・・・(n=1.2.3.・・・)
となります。21=3×7、51=3×17、91=7×13、111=3×37ですが、鍵の候補は、20以下の自然数なので、
・ (公開鍵、秘密鍵)=(3、7)、(3、17)、(7、13)
となります。公開鍵と秘密鍵を入れ替えても構いません。例えば、平文値が17の場合、公開鍵3を用いて17を法33の下で3乗して暗号値29を得ます。復号時には、秘密鍵7を用いて、29を法33の下で7乗すると元の値17に戻ります。3乗して7乗するので、平文値mが21乗され、元の値mに戻ります。

表2 べき乗の法を33とした値

(3)N=35(p=5、q=7)の場合
N=p×q=5×7と因数分解できる場合を考えます。(p-1) (q-1)=4×6=24です。N=35を法とする場合、剰余値には0~34までの35個の数しか現れません。表3にべき乗の法を35とした値を示します。4と6の最小公倍数(LCM)は12ですから、表3の暗号値は周期12で変化していることが分かります。
・  n・LCM+1=13、25、37、49、61、73、85、97・・・(n=1.2.3.・・・)
となります。鍵の候補は、24未満の自然数なので
・ (公開鍵、秘密鍵)=(5、5)、(7、7)、(5、17)(11、11)(7、19)
となります。公開鍵と秘密鍵を入れ替えても構いません。

表3 べき乗の法を35とした値

(4)N=85 (p=5、q=17)の場合
N=p×q=5×17と因数分解できる場合を考えます。(p-1) (q-1)=4×16=64です。N=85を法とする場合、剰余値には0~84までの85個の数しか現れません。表4にべき乗の法を85とした値を示します。4と16の最小公倍数(LCM)は16ですから、表4の暗号値は周期16で変化していることが分かります。
・  n・LCM+1=17、33、49、65、81、97、113、129・・・

となります。鍵の候補は、64未満の自然数なので
・ (公開鍵、秘密鍵)=(3、11)、(7、7)、(5、13)、(3、43)、(5、29)、(7、23)、(3,59)
となります。公開鍵と秘密鍵を入れ替えても構いません。実際の暗号にはもっと大きな数が用いられます。

表4 べき乗の法を85とした値

(5)N=20190707(p=4567、q=4421)の場合
2019年の七夕の日にちなみ20190707という比較的大きい数字を考えましょう。
・ N=20190707=4567×4421
と素因数分解できます。つまりN=20190707、p=4567、q=4421です。
・ (p-1)(q-1)=4566×4420=20181720

  (=2 * 2 * 2 * 3 * 5 * 13 * 17 * 761)
を法(mod)とする剰余計算を行います。剰余計算とは、法で割った余りを与える計算です。
法(p-1)(q-1)と互いに素な自然数C(公開鍵)に対して、
・ C×D≡1 mod (p-1)(q-1) かつ 0≦D≦(p-1)(q-1)
を満たす数D(秘密鍵)が存在します。例えばC=707(=101×7)に対して、
・ 707×D≡1 mod 20181720 かつ 0≦D≦20181720
なる自然数Dは997525043です。なぜなら
・ 707×997525043=705250205401
・ 20181720×34945=705250205400
より
・ 707×997525043=20181720×34945+1
が成り立っているからです。受信者は、(N、C)=(20190707、707)を公開し、D=997525043は秘密鍵として非公開にします。送信者は、送りたいメッセ-ジを数字m(0≦m≦N)に変換し、公開鍵Cを用いて
・ K=m^C mod N
なる暗号文Kを送信します。暗号文Kは公開鍵から復号することはできません。受信者は、秘密鍵Dを用いて暗号文Kを復号し
・ m=K^D mod N
元のメッセ-ジmを得ることができます。代入すると
・ (m^C mod N)^D mod N=m^CD mod N=m ・・・(3)
となります。最後の等式(3)は、次に示すオイラ-の定理より、
・ CD≡1 mod (p-1)(q-1) かつ 0≦D≦(p-1)(q-1)
を満たす秘密鍵Dであれば、成り立ちます。Nを因数分解し、pとqを得られれば、(p-1)(q-1)を法として、公開鍵Cに対する秘密鍵Dを求めることができます。

(6)オイラ-の定理とは
オイラ-の定理とは、正整数m、Nに対して、m、Nが互いに素であるとき、
・ m^φ(N)≡1 mod N ・・・(4)
が成り立つというものです。ここでオイラー関数φ(N) は「Nより小さい正の整数のうち、Nと互いに素な数の個数」を表す関数です。素数Pの場合φ(P)=P-1となります。
・ φ(N)=φ(pq)=(p-1)(q-1)
となります。(2)式をv乗して、両辺にmをかけると
・ m^(φ(N)v+1)≡m mod N ・・・(5)
(3)と(5)を比較すると
・ CD=φ(N)v+1
を満たす整数Dとvが存在しれば、復号できることが分かります。一次不定方程式の整数解の定理により、Cとφ(N)が互いに素であれば、整数Dとvが存在します。もしDが負なら、
・ C(D+kφ(N))-φ(N)(v+kC)=1
と変形し、十分大きい数kを用いて、Dを正数D+kφ(N)に置き換えることができます。

RSA暗号とはどんな暗号でしょうか?

近年、ビットコインなどの暗号通貨が登場してきました。こうしたものはRSA暗号や楕円曲線暗号などの暗号技術に支えらえています。RSA暗号とは、ロナルド・リベスト、アディ・シャミア、レオナルド・エーデルマンの3人の暗号研究者が1978年に発明した公開鍵暗号の一つです。これは桁数が大きい合成数Nをp×qと素因数分解するのが困難であることを利用した暗号です。p、qが小さい素数の場合に、公開鍵と秘密鍵を求めてみましょう。

・暗号とは
 メッセ-ジは文章で書かれていますが、文字と空白を数字に対応させることで、メッセ-ジ(平文)を一つの大きな自然数mに対応づけることができます。公開鍵暗号とは、第三者が読めないように、公開鍵を用いて数mを別の数値Mに変換して送信する技術です。受信者は、秘密鍵を用いて暗号文Mを元の平文値mに復号します。公開鍵暗号では、公開鍵から秘密鍵を推定できないように工夫されています。

・剰余とは
暗号化には平文mより大きな数を法とする剰余計算を用います。剰余計算とは、ある数(法)で割った余り(modulo)を与える計算です。例えば法13における50の剰余は、50を13で割った余り11となります。これを
・ 50 mod13=(3×13+11)mod13=11
と表記します。剰余計算により、暗号文Mが法より大きくなるのを防ぎます。
剰余計算には
・ A×B mod C=(A mod C)×(A mod C)mod C
といった性質があります。例えば、A=50、B=41、C=13の場合
・   41 mod 13=(3×13+2)mod13=2
ですから、
・ 50×41 mod13=(50 mod13)×(41 mod13)=11×2 mod13=(13+9) mod13=9
となります。こうした規則を用いると、計算量を減らすことができます。

・オイラ-数φ(N)とは
Nより小さい正の整数のうち、Nと互いに素な自然数の個数をオイラ-数φ(N)と言います。N=10の場合、10より小さく、10と互いに素な数は、{1、3、5、7}の4つなので、φ(10)=4となります。素数pの場合、pより小さく、pと互いに素な数は{1、3、5、・・・p-1}のp-1個なので、φ(p)=p-1となります。pと異なる素数qを用いて、N=pqと素因数分解できる場合は、{1、3、5、・・・p-1}×{1、3、5、・・・q-1}によって生ずる(p-1) (q-1)個の数はいずれもNと互いに素であるので、φ(N)=(p-1) (q-1)となります。
正整数m、Nに対して、m、Nが互いに素であるとき、
・ m^φ(N)≡1 mod N ・・・(1)
が成り立ちます。これをオイラ-の定理といいます。ここでm^3=m・m・mの意味です。N=pqの時は、Nに素な数mに対して
・   m^(p-1) (q-1)≡1 mod pq ・・・(2)
が成り立ちます。法pqの下では、平文mの指数を増やしていくと、(p-1) (q-1)乗で元に戻る周期的な性質があることを示しています。RSA暗号はこの性質を用いて、作られています。

(1)N=21(p=3、q=7)の場合
 N=p×q=3×7と因数分解できる場合を考えます。(p-1) (q-1)=2×6=12です。Nを法とする場合、剰余値には0~20までの21個の数しか現れません。表1にべき乗の21を法とした値を示します。

表1  べき乗の21を法とした値

これは左端のある数m(1≦m≦20)に対して、1乗、2乗、3乗、・・・26乗した値に対して法21をとった結果を表にしたものです。法21の下では、7乗、13乗、19乗、25乗すると、1~20の値が元の値に戻ることが分かります。この表から、指数が6増加すると周期的に同じ値を繰り返すことが分かります。つまり(2)式
・ m^6 mod21≡1
が成り立っていることを示しています。周期6は、(p-1)と (q-1)の最小公倍数(LCM)になっています。平文値mがべき乗で同じ値になるのは、指数がn・LCM+1乗(n=1,2,3,,,)になるときです。つまり、7、13、19、25、31、37、・・・乗の場合です。25は5×5と表せるので、公開鍵を5、秘密鍵を5にすればよいことが分かります。つまり平文値mを公開鍵で5乗して暗号化し、秘密鍵で5乗すれば復号できます。秘密鍵d=5は、(2)式
・ 5×d mod 6 ≡ 1
を満たしています。なぜなら、
・ 25 mod 6 =(6×4+1) mod 6 ≡1
だからです。表1で、例えば平文値が4の場合、4を5乗すると、暗号値は16になります。さらに5乗すると暗号値16は元の平文値4に復号されます。mがどんな値であっても
・ (m^5)^5 mod 21=m^25 mod 21≡(m^6)^4・m mod 21≡m
が成り立つので、mは25乗すると元に戻ります。

3.双極子散乱の公式の証明

それでは双極子ベクトルP(t0)

・ P(t0)=∫ρ(r’, t0)r’d3r’(t0=t-r/c)

から距離離れた位置に観測される散乱波の電場E(r,t)が、

  • E(r,t) =(1/4πε)(1/ c23)・×[×∂2P(t0)/∂t02] 

と書けることを証明します。ここでcは光速です。

電場と磁場は、電磁ポテンシャルφ、A

・ =-gradφ-∂A /∂t

・ =rot A

なる関係があります。電磁ポテンシャルφ、Aを用いたマクスウエルの方程式は

・ (△-1/c22/∂t)φ=-ρ/ε

・ (△-1/c22/∂t)A=-μi

・  1/c2・∂φ/∂t+divA=0 (Lorentz gauge)

・  1/c2=εμ

で与えられます。電磁ポテンシャルは、電荷密度ρと電流密度iに対して

・ φ(,t)=(1/4πε)∫ρ(r’,t-∣r-r’∣/c)/ ∣r-r’∣d3r’

・ A (,t)=(μ/4π)∫i(r’,t-∣r-r’∣/c)/ ∣r-r’∣d3r’

・      =(1/4πε)1/c2i(r’,t-∣r-r’∣/c)/ ∣r-r’∣d3r’

と表すことができます。必ずしも容易ではありませんが、この定理は上式に代入すると解になっていることで確かめられます。物理学では証明に用いる定理が証明すべき命題より難しいことが時々あります。数学的には1/rがφに係るダランベシアン作用素のグリ-ン関数核なので、ソ-ス項と1/rの積の積分は電磁場方程式の解になるということです。よく知られた定理なので、ひとまずこれを認めましょう。

物理学では大抵の場合、厳密に積分するのは困難です。ここでは電気双極子近似を導入します。電子が存在している領域半径r’ に比べ、観測地点がずっと遠くにある(r’<<r)場合を想定しているので、

・ ∣r-r’∣≒r(1-r・r’/r)

・ 1/∣r-r’∣≒1/r・(1+r・r’/r)=1/r+O(r’/r)≒1/r

・ r=∣r∣=root(x2+y2+z2)

のように近似します。なぜなら

 ∣r-r’∣=root(∣r2-2r・r’+∣r’2) ≒ r (1-2r・r’/r)1/2≒r (1-r・r’/r)

だからです。さらにテ-ラ展開の1次までとると

・ ρ(r’,t-∣r-r’∣/c)≒ρ(r’,t-r /c+r・r’/cr) ≒ρ(r’,t0r・r’/cr)

・    ≒ρ(r’,t0)+[dρ(r’,t0) /dt0]・(r・r’)/cr

となります。上式のρをφの式に代入すると、

・ φ(,t)=(1/4πεr)∫ρ(r’,t0) d3r’+(r/cr2)・(d /dt0)1/4πε∫ρ(r’,t0)r’d3r’

となります。ここで第一項は

・ Q=∫ρ(r’,t0) d3r’

を含みますが、電荷Qは原子に束縛されており、時間的に変化しないので、無視できます。

・ P(t0)=∫ρ(r’, t0)r’d3r’

ですので、スカラ-ポテンシャルは、双極子ベクトルを用いて

・ φ(,t)=(1/4πε) (r /cr2)・(dP(t0) /dt0)

と書けます。同様にベクトルポテンシャルに関して、双極子近似を適用して展開すると

・ (4πε0) A (,t)≒ (1/c2r)∫i(r’, t0r・r’/cr ) d3r’

    ≒(1/c2r)∫i(r’, t0) d3r’+(1/c32)∫di(r’, t0)/dt0 (r・r’) d3r’

    ≒(1/c2r)∫i(r’, t0) d3r’ +O(1/c3)

となり第二項は無視できます。ここで断面積S、長さr’の導線を考えると、電流は

・ i(r’, t0)=1/S・dq/dt0r’/r’=d(q/V)/dt0r’=dρ/dt0r’

と書けるので、

・  A (,t)≒(1/4πε0) (1/c2r) (d/dt0)∫ρ(r’,t0)r’ d3r’

より、ベクトルポテンシャル Aも双極子ベクトルP(t0)を用いて

・  A (,t)=(1/4πε0) (1/c2r) (dP(t0)/dt0)

と表せます。電場の表式に電磁ポテンシャルを代入すると

・(1/4πε0)(r,t)=-gradφ-∂A /∂t

       =-grad[(r /cr2)・(dP(t0) /dt0)]-∂/∂t[(1/c2r) (dP(t0)/dt0)]

となります。ところで第一項のgradのx微分を考えると、

 (d/dx)(r /cr2)=ex /cr2-(2r /cr3) dr/dx=ex /cr2-2rx/cr4=O(1/r2)+O(1/r3)

の部分は、次のx微分の項

・ -(r /cr2)(d/dx)(dP(t0) /dt0)=-(r /cr2)(d(t-r/c)/dx)(d2P(t0) /dt02)

         =-(r /cr2)(-x/cr)(d2P(t0) /dt02) ~ O(1/r)

に比べると十分遠方で早く小さくなるので、無視できることが分かります。結局

・ (1/4πε0)(r,t)≒(r/cr) [(r /cr2)・(d2P(t0) /dt02)]-(1/c2r)d2P(t0) /dt02

・    =(1/c23){r [r・d2P(t0) /dt02] -(rr) d2P(t0) /dt02

・    (r,t)=(1/4πε0) (1/c23) r×(r×d2P(t0) /dt02)

により公式が得られます。最後の等式は、A=B=C=d2P(t0) /dt02とおいて恒等式

  BA・C)-(A・BCA×(B×C

を適用して得ました。すこし難しくなってしまいましたが、双極子放射の公式が電磁気学の基本方程式から得られることを確かめました。次回は古典的な分極率の導出についてお話します。