ガロア理論1

エバリスト・ガロアはフランスの天才数学者です。20歳の死の直前に書かれた1832年の書簡で、5次以上の方程式は代数的に解くことができないことを群論を用いて示しました。ガロアの理論は難解ですぐには理解されませんでしたが、後世の数学に大きな影響を与えました。ガロア理論とはどのようなものなのでしょうか?

<3次の対称群S3

ガロア理論では代数方程式の解を並び替える写像を考えます。三次方程式の3つの解を(123)とすると、(123)を並び替える写像は3!=6個あります。2つの並び替えを連続して行った結果は1つの並び替えになるので、その合成写像は群の演算となります。(123)の6つの並び替え写像を要素とする集合は3次の対称群S3になります。

ここでは1→2、2→3、3→1に並び替える巡回写像Kを(123/231)と表記します。同様に1→2、2→1、3→3に並び替える互換写像Jを(123/213)と定義します。恒等写像はI=(123/123)です。すなわち

・ I=(123/123)、K=(123/231)=(231)、J=(123/213)=(12)

この表示法を用いると、合成写像は

KJ=(123/231)(123/213)=(123/231)(231/132)=(123/132)=(23)

と計算できます。ここで(123/213)=(231/132)と書き換えました。つまりこの合成写像の演算は(123)→(231)→(132)の並び替えであり、結局2と3の入れ替えになります。一方

  • JK=(123/213)(123/231)=(123/213)( 213/321)=(123/321)=(13)

となります。JK≠KJ、つまりJとKは可換ではありません。

もっと簡略化した表記では、K=(231)、J=(12)と書きます。これは(231)が(2→3→1→2)なる並び替え、(12)は1と2の交換を表しています。簡略表記では

  • KJ=(231)(12)=(23)

と書けますが簡略表記で演算計算をしない方がいいでしょう。同様に他の演算は

  • K2= (123/231)(123/231)=(123/231) (231/312)=(123/312)=(312)
  • K3=(123/312) (123/231)=(123/312) (312/123)=(123/123)=I
  • JK2=(123/213)(123/312)=(123/213)( 213/132)=(123/132)=(23)

となります。つまり、JKは互換(13)、JK2は互換(23)となります。互換は奇数置換です。奇置換同士の合成演算は奇置換となるので閉じています。巡回KやK2は偶数置換です。遇置換も合成演算に関して閉じています。結局S3の部分群は

  • E={I}
  • C2={I、J}={I、(12)}
  • A3={I、K、K2}={I、(231)、(312)}

の3つです。A3は遇置換の部分集合で、交代群と呼ばれています。C2もA3も1つの元で作られる巡回群です。

<正規部分群>

群Gの部分群HがGの任意の元aに対して、

  •  aHa-1=H

が成り立つとき、部分群HをGの正規部分群と言います。これは集合として

  • {aha-1|h∊H}={ ah1a-1, ah2a-1,ah3a-1,・・・ ahna-1}={h1,h2,h3,・・・hn

等しいことを意味しているのであって、すべての元で

  • ahka-1=hk 

が成り立つわけではありません。実際I、K、K2∊A3⊂S3に対して

JIJ-1=I

JKJ-1=(123/213)(123/231) (123/213)=(123/321) (321/312) =( 123/312)=K2

JK2J-1=(123/213)(123/312) (123/213)=(123/132) (132/231) =( 123/231)=K

が成り立つので、A3はS3の正規部分群です。しかしJ∊C2に対して

  • KJK-1= (123/231) (123/213) (123/312)=(123/132) (132/321)=(123/321)=(13)∉C2

なので、C2はS3の正規部分群ではありません。

<剰余群S3/ A3

対称群S3={I、K、K2、J、JK、JK2}は、2つの集合

  • I A3={I、K、K2}(遇置換)、J A3={J、JK、JK2}(奇置換)

に分割できます。

  • S3 =I A3∪J A3、かつI A3∩J A3=空集合

A3は正規部分群なので、A3による剰余群

  • S3/ A3={I A3、J A3

が定義できます。剰余群の要素I A3、J A3を剰余類と呼びます。JA3は群ではありません。

・JK・JK=JKJ-1・K=K2K=I ∉JA3

任意のa,b∊S3に対して、A3b=b A3が成り立つので、

  • aA3・bA3=a・A3b・A3=a・b A3・A3=ab A3

より、正規部分群による商は群になります。実際

  • I A3・J A3=J A3、J A3・J A3=I A3

なので、剰余群S3/ A3は群になっています。JA3が生成元になって剰余群のすべての要素が作られるので、剰余群S3/ A3は巡回群になっています。

また同様に剰余群A3/E={IE、KE、K2E}も、KEが生成元になって剰余群のすべての要素が作られるので、巡回群になっています。実は剰余群がn次の巡回群であることは、n次方程式が

  • zn=1
  • zk=cos(2πk/n)+i・sin(2πk/n) k=0,1,2,・・・n-1

という形で解けることを意味しています。

3次方程式の解の対称群S3の正規部分群A3とEからなる全ての剰余群S3/ A3とA3/Eが巡回群なので、解を表現する代数体を拡大することで、3次方程式

  • x3+px+q=0

は代数的に解けることになります。

<三次方程式と巡回群>

前回、3次方程式には、x=u+vなる解があり、u3とv3が2次方程式

  • t2+qt-(p/3)3=0

の解になっていることから、

  • u3=-q/2+√D、v3=-q/2-√D
  • D=(q/2)2+(p/3)3

と表せることを示しました。有理数Qにω3=1の根ωを付け加えた代数体Qωを考えます。さらに√Dを付け加えた拡大体をとQω(u3)します。u3とv3を入れ替えることは、√Dの係数1を-1に入れ替えることに相当します。1と-1は1の2乗根であり、x2-1=(x-1)(x+1)=0の2解になっています。剰余群S3/ A3={I A3、J A3}は√Dの係数1を-1に巡回させる変換に対応付けられます。解を構成する代数体をQωからQω(u3)に拡大すると、解が受ける群はS3からA3に縮小されます。さらにuを付け加えると拡大体Qω(u,u3)が得られます。Qω(u,u3)上の3つの解は、

  • α=u+v、β=ωu+ω2v、γ=ω2u+ωv

です。前回示したように変換K

  • K(u)=ωu、K(v)=ω2v

を用いると、3つの解は

  • K(α)=β、K(β)=γ、K(γ)=α

と巡回変換されます。解を入れ替えることは、u、vの係数を1、ω、ω2と変化させることに対応します。これらは1の3乗根であり、x3-1=(x-1)(x-ω)(x-ω2)=0の3解になっています。剰余群A3/E={IE、KE、K2E}は、3つの解を巡回させる変換Kが作る巡回群に対応付けられます。解を構成する代数体をQω(u3)からQω(u,u3)に拡大すると、解が受ける群はA3からEに縮小します。方程式を代数的に解く工程は、解の受ける対称群を巡回群に分解することに相当します。対称群を巡回群に分解できなければ、方程式を代数的に解くことはできません。

 エバリスト・ガロアは、一般の5次方程式では、解の遇置換である交代群A5に正規部分群が存在しないので、巡回群が形成できず、代数体の拡大によって、5次方程式を代数的に解くことができないことを示しました。

剰余類の最も身近な例は偶数と奇数です。整数Zは遇数と奇数に分けられます。偶数と奇数は、整数Zの正規部分群であり、

  • Z=2Z∪(2Z+1)、2Z∩(2Z+1) =空集合

ですから、剰余群Z/2Zの剰余類です。

  • Z/2Z={2Z、2Z+1}

と表せます。

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