新しいアミノ酸には酸素ラジカルを消去する効果があるのでしょうか?

Granold博士らは20種の標準アミノ酸に対してペルオキシルラジカル(ROO*)の消去活性を測定しました。その結果、新しいアミノ酸であるトリプトファンWやチロシンYには、高いラジカル消去活性が見出だされました。アミノ酸に脂質を修飾すると、抗酸化効果が高まります。

図A、Bの縦軸はペルオキシルラジカル(ROO*)の消去率、横軸は20種の標準アミノ酸を示します。図Aにはアミノ酸:ラジカル発生剤=1:3の場合、図Bにはアミノ酸:ラジカル発生剤=1:2000の場合の消去率を示します。図Aでは、EgHL~10eVの閾値以下のすべてのアミノ酸(ヒスチジンH以上のアミノ酸)は、フェニルアラニンF以外、ラジカル消去活性がありました。フェニルアラニンは異常に高いラジカル化エンタルピ(58kcal/mol)をもつため、活性は低いと考えます。トリプトファンWとチロシンYのラジカル化エンタルピは37kcal/molと38 kcal/molと低いです。ラジカル発生剤が多い条件(図B)でもトリプトファンWとチロシンYには、高いラジカル消去活性が見られました。

図CにトリプトファンW、アセチル化トリプトファン・エチルエステル(NAc-W-OEt)、NDo-W-OEtの化学構造式を示します。NDo-W-OEtはトリプトファンWの脂質性を高めたものです。脂質性の高いアミノ酸の方が、抗酸化効果が高まります。

図Dに修飾アミノ酸に対する脂質過酸化反応(Lipid peroxidation:脂質の酸化的分解反応)の抑制効果を示します。鉄イオン誘導を用いた脂質過酸化は、脂質酸化ストレスのバイオマーカであるマロンジアルデヒドCH2(CHO)2 (malondialdehyde: MDA)の生成量を測定することでモニタしました。脂質性の高いNDo-W-OEtとNDo-Y-OEtはマロンジアルデヒドの生成量が少ないです。これは脂質性の高いアミノ酸の方が脂質酸化を抑制する効果が高いことを示しています。

図EにNDo-W-OEt あるいはNDo-F-OEtを加えた神経細胞をtBuOOHペリオキサイド(100μM)に浸した時の蛍光顕微鏡像を示します。生きた細胞は赤で、死んだ細胞は青で染色されています。NDo-W-OEtはtBuOOHペリオキサイドのラジカル消去活性が高いために神経細胞は生存しましたが、NDo-F-OEtでは消去活性が低いために、神経細胞は死んでしまいました。

図Fにアミノ酸脂質誘導体による細胞生存率を示します。トリプトファンWとチロシンYの脂質誘導体だけが過酸化毒から細胞を守る効果が見られました。ちなみにトリプトファンやチロシンだけでは細胞を酸化剤から守れません。図Gに示すように、異なるアミノ酸誘導体(10 μM)を加えた繊維芽細胞(fibroblasts)にtBuOO(50 μM)酸化剤を加えた場合の生存率でも同様の傾向が見られました。

20億年前の地球に生じた酸素増大事件によって生体アミノ酸の種類が増加した?

2018年の1月にBernd Moosmann博士が率いるヨハネス・グ-テンベルグ大学の進化生物化学研究グル-プのMatthias Granold博士らは、20億年前の地球に生じた酸素増大事件によって生体アミノ酸の種類が増加したという仮説を支持する報告をしています。

PNAS、vol. 115、no. 1 、P41–46「Modern diversification of the amino acid repertoire driven by oxygen」

有害な酸素から身を守るために、芳香族型アミノ酸であるフェニルアラニンF、チロシンY、トリプトファンWや、硫黄を含むシステインCとメチオニンM、セレンを含むセレノシステインUなどが新しいアミノ酸として登場したと考えています。これらの芳香族型アミノ酸からは様々な抗酸化物質が合成可能です。

*肩の番号は文献の出現順番を意味する

計算機による量子計算によると、マーチソン隕石に含まれる62種類のアミノ酸の最高占有分子軌道(HOMO)と最低非占有分子軌道(LUMO)のエネルギ-ギャップEgHLは11eV程度です。一方で原始的な細菌が進化するにつれて、用いられるアミノ酸のEgHLは減少していることが分かりました。1~13番目のアミノ酸のEgHLは11eV程度ですが、ヒスチジンH、フェニルアラニンF、システインC、メチオニンM、チロシンY、トリプトファンW、セレノシステインUの7種のアミノ酸は10eV~8eV程度と減少しています。

EgHLが10eV以下になると、酸素分子との反応が活発になります。これは新しいアミノ酸程、酸素と反応しやくなっていることを示唆しています。新しいアミノ酸から生成される生化学物質の多くは、EgHLが9~7eVと小さく、抗酸化作用が高い特徴があります。このことは20億年前の大酸化イベントが生じた後、大気中の酸素濃度が10%以上に上昇し、細菌類が酸素から防御するために、新しいアミノ酸と抗酸化物質が生成されたことを示唆しています。

マーチソン隕石(Murchison meteorite)は、1969年9月28日にオーストラリア・ビクトリア州のマーチソン村に飛来した炭素コンドライトの隕石です。隕石中にピペコリン酸といった生体内で見つかる有機酸や、グリシン、アラニン、グルタミン酸といったタンパク質を構成するアミノ酸のほか、イソバリン、シュードロイシンといった、生体では見られないアミノ酸も含まれていました。これらのアミノ酸はラセミ体であったために、地球外で生成され、地球に輸送されたと考えられています。1997年にアラニンに含まれる窒素15N の同位体比が隕石の標本ごとに大きくばらつくことから、アミノ酸の窒素は地球由来のものではないと考えられています。

セレノシステインUは、21番目のアミノ酸と呼ばれており、システインCの硫黄がセレンに置き換わったアミノ酸です。SeH(セレノール)基はシステインの SH(チオール)基より電離しやすいため、より高い抗酸化作用があります。セレノシステインはmRNAのUGAコドン(終止コドン)に対応します。mRNA上のコドンと対合するtRNAの3塩基をアンチコドンと呼びます。セレノシステインのアンチコドンはUCAで、これはセリンに対応します。セリンのOH基をSeH基に置換するとセレノシステインが得られます。真核生物や古細菌では、リン酸化酵素PSTKがセリンをリン酸化し、SepSecSがリン酸化セリンをセレノシステインに変換します(2010年)。

遺伝暗号はどのように進化したのでしょうか?

次にコドンの最初の塩基にアデニンAが追加され、16種類のアミノ酸を生成できる(CAG)NS-原始遺伝暗号が誕生したと考えています。脂肪性のイソロイシンの他に、メチオニン、トレオニン、アスパラギン、セリンといった極性非電荷型側鎖(OH基、SH基、NH2基)をもつアミノ酸、リジンなど側鎖にNH3+をもつアミノ酸が生成できるようになりました。

最終的に、コドンの最初の塩基にウラシルUが追加され、20種類のアミノ酸を生成できる現在の普遍遺伝暗号が誕生しました。人間を初めとする地球上のすべての生物が生きていく上で必要なすべてのタンパク質をこの20種のアミノ酸だけで作り上げることができます。但しミトコンドリアや葉緑体などの細胞小器官では、非普遍遺伝暗号が使用されています。

こした遺伝暗号の進化を支持する証拠として、

1)第一塩基がGのコドンには、非普遍遺伝暗号が全く発見されていない。

2)非普遍遺伝暗号の数が、Cの段、Aの段、Uの段の順に多くなっている。

ことが挙げられます。つまり初期の遺伝暗号ほどより重要であるため、非普遍遺伝暗号が使用される頻度が少ないのです。

どうして4つのアミノ酸を基本的だと考えるのでしょうか?

[GADV]-アミノ酸は、いずれも原始地球上で容易に合成される簡単な構造を持ち、炭素隕石にも多く含まれています。この4つのアミノ酸はタンパク質の様々な二次構造を決める機能を有しています。グリシンはターン/コイル形成能の高いアミノ酸、アラニンはα‐へリックス形成能の高いアミノ酸、アスパラギン酸は化学反応を進めるカルボキシル基を持つ親水性アミノ酸、バリンはβ‐シート形成能の高い疎水性アミノ酸、という優れた性質があります。また4種のアミノ酸をランダムにつないでも、その表面に様々な触媒活性を持ち得る水溶性で球状のタンパク質を高い確率で形成できるからです。

その後、GNS原始遺伝暗号が現れたと考えています。コドンの最初の塩基は必ずグアニンGです。最後のSはGかCのいずれかを表しています。つまりGAGに対応するグルタミン酸が加わり、5種類のアミノ酸から、タンパク質が形成されたと考えられます。グルタミン酸が加わることで、得られるタンパク質の機能が高められたために、GNS原始遺伝暗号が定着したと考えられます。

次にコドンの最初の塩基にシトシンCが追加され、10種類のアミノ酸を生成できるSNS-原始遺伝暗号が誕生しました。ロイシンやプロリンなどの脂肪性アミノ酸の他に、中性アミノ基を側鎖にもつグルタミン(CAG)や、荷電性アミノ基を側鎖にもつヒスチジン(CAC)やアルギニン(CGC)が追加されました。

コンピュータシミュレ-ションで、SNS だけの繰り返し配列でもタンパク質の 6つの構造形成条件、(1)疎水性・親水性度、(2)α-へリックス形成能、(3)β-シート形成能、(4)ターン・コイル形成能、および、(5)酸性アミノ酸含量と(6)塩基性アミノ酸含量、を満足できることが確かめられています。現在の地球上に棲息しているGC含量の高い微生物はSNS遺伝暗号によってコードされる10種のアミノ酸を75%ほども使っています。太古の生物は、わずか10種のアミノ酸で極めて高い能力を発揮していたのではないかと考えられます。

どうして生物は20種類のアミノ酸を使っているのでしょうか?

タンパク質の機能を高めるために、遺伝暗号が進化し、現在の20種類のアミノ酸を生成する普遍遺伝暗号が誕生したと考えられます。アミノ酸はコドンと呼ばれる3つの塩基の組み合わせで決定されます。遺伝に用いられるRNAの塩基は、アデニンA、グアニンG、ウラシルU、シトシンCの4種類です。現在の遺伝暗号は普遍遺伝暗号をよばれ、コドン表が20種類のアミノ酸を規定しています。

池原健二教授は、過去の生物は、少数のアミノ酸からタンパク質を作り、生体を構成していたのではないかと考え、GADVタンパク質ワールド仮説を提唱しています。「GADV」とは、グリシン(G)、アラニン(A)、アスパラギン酸(D)、バリン(V)の4種類のアミノ酸のことです。これらのアミノ酸は、最初のコドンがグリシンGで始まります。つまりコドン表の一番下のGの段のアミノ酸が最古の生物を構成していたと考えています。太古代の生物は、現在と異なる原始的な遺伝暗号(コドン表)を持っていたことになります。最初のものはGNC原始遺伝暗号と呼ばれています。2番目のNはG,C,A,Uの4種類の塩基のいずれかを表しています。

生体タンパク質を構成するアミノ酸20種類(=6+6+3+5)の分類

生体タンパク質を構成するアミノ酸は20種類です。必須アミノ酸は9種類、非必須アミノ酸は11種類です。具体的には、必須アミノ酸は、非極性脂肪族型のバリンV、ロイシンL、イソロイシンI、極性非電荷型のトレオニンTとメチオニンM、芳香族型のフェニルアラニンFとトリプトファンW、極性カチオン電荷型のリジンKとヒスチジンHの9種類です。

非必須アミノ酸は、アスパラギン、アスパラギン酸、アラニン、アルギニン、グリシン、グルタミン、グルタミン酸、システイン、チミン、チロシン、プロリンの11種類です。これらは9種類の必須アミノ酸から合成されます。

タンパクの標準アミノ酸残基の中には修飾されたアミノ酸も存在します。グルタミン酸から合成されるγ-アミノ酪酸(GABA)は、非標準アミノ酸であり、抑制性の神経伝達物質として作用します。

1)非極性脂肪族型側鎖を持つアミノ酸 6種類

グリシンG、アラニンA、バリンV、ロイシンL、イソロイシンI、プロリンPの6種類のアミノ酸は非極性のアルキル基を側鎖に持ちます。それらのアミノ酸はタンパク質の折り畳みの際に内側に入ります。プロリンを除くアミノ酸群はカルボキシ基に結合するα炭素に第1級アミノ基が結合したα-アミノ酸と呼ばれます。プロリンはアミノ基に炭素が2つ結合した第2級アミノ基を持つので、本当はイミノ酸です。

2)極性非電荷型側鎖を持つアミノ酸 6種類

極性アミノ酸は、側鎖に極性のある官能基を持つために、水に溶ける性質があります。非電荷型とは、側鎖の官能基が中性でイオン化していないという意味です。セリンS、トレオニンT、システインC、メチオニンM、アスパラギンN、グルタミンQの6種類のアミノ酸は、側鎖にOH基やSH基などの水素結合供与基、NH2基などの水素結合受容基を持つため、親水的な性質を持ちます。アミノ酸は、水素結合や静電的な相互作用を通じて、薬物と引き合います。システインC、メチオニンMは硫黄Sを有します。セリン、トレオニンは側鎖にOH基、システインはSH基を有します。これらは求核性に優れるために酵素の活性基として機能します。

またシステインは、中性・塩基性条件下において、重金属イオンにより容易に酸化されます。その結果、ジスルフィド結合(S=S)が形成、シスチンが生成します。これは、タンパク質の高次構造を決める上で重要です。

3)芳香族型側鎖を持つアミノ酸 3種類

フェニルアラニンF、チロシンY、トリプトファンWの3種類のアミノ酸は側鎖に芳香環を持ちます。これらのアミノ酸は、芳香環を持つため、π-πスタッキング、CH-π相互作用、非極性相互作用を通じて、薬物と引き合います。また、チロシンYはフェノール類であるため、弱い酸性を示し、水素結合やイオン結合が発現します。トリプトファンWに関しては、NH を介した水素結合が発現します。芳香族側鎖は紫外線を吸収します。

4)極性電荷型側鎖を持つアミノ酸 5種類

極性電荷型側鎖を持つアミノ酸には、カチオン型側鎖NH3+を持つ3種類のアミノ酸とアニオン型側鎖COO-を持つ2種類のアミノ酸があります。

カチオン型側鎖

リシンK、アルギニンR、ヒスチジンHの3種類のアミノ酸は塩基性のNH2基を持ちます。これらの側鎖は生体中で容易にプロトン化NH3され、正電荷を帯びています。したがって、薬物側に酸性官能基があれば、水素結合だけでなく、イオン結合も発現します。電荷同士は方向依存性の小さい長距離クーロン力で相互作用します。

 アニオン型側鎖

これは 酸性官能基を側鎖に持つアミノ酸です。アスパラギン酸D、グルタミン酸Eの2種類のアミノ酸は、側鎖に酸性のカルボキシル基を持ちます。これらの側鎖は生体中で容易に脱プロトン化され、負電荷を帯びています。薬物側に塩基性官能基があれば、水素結合だけでなく、イオン結合も発現します。

細胞内のアミノ酸はどんな状態にあるのでしょうか?

生体の細胞は主にタンパク質と脂質と核酸からできています。細胞内のタンパク質は20種類のアミノ酸が1次元的に結合し、3次元的に折りたたまれた構造をしています。タンパク質は、骨格筋だけでなく、細胞内の様々な化学反応を司る酵素として活躍しています。細胞内のアミノ酸はどんな状態にあるのでしょうか?

実は細胞内のアミノ酸は、酸塩基解離状態にあります。

PHが2.4~9.8の水溶液中では、アミノ酸のアミノ基はNH3、カルボキシル基はCOOに解離しています。生理的条件下でのアミノ酸の状態を両性イオンや双極イオンと呼びます。

アミノ基NH2のNには孤立電子対があり、そこにH+イオンが配位するので、NH3イオンとなります。アミノ酸のカルボキシル基COOHは、H+を放出したあとに、COOイオンになり、共鳴安定化します。アミノ酸のNH3側と別のアミノ酸のCOO側は引き合うので、ペプチドを形成しやすくなっています。

ちなみに酸性溶液中では、アミノ酸のアミノ基はNH3のままで、COOはCOOHになります。アルカリ溶液中では、アミノ酸のアミノ基NH3はNH2となり、カルボキシル基はCOOのままです。ChemSketchでアミノ酸を描いてみました。

アミノ酸は脱水縮合によりペプチド結合を形成します。2個縮合したものはジペプチド、複数結合したものをポリペプチドと呼びます。ペプチドは線状につながるので途中で分岐することはありません。アミノ酸残基とは、ポリペプチドにおける各アミノ酸のことです。タンパクを構成する標準アミノ酸は高々20種類ですが。2個つながっただけでも配列の場合の数は202=400通りもあります。タンパクの多様性は非常に高いことが分かります。

真核生物が多細胞化できたのはどうしてでしょうか?

多細胞化により、複雑な構造と機能をもてるようになり、生物としての多様な展開が可能になりました。多細胞生物というのは、構成細胞が機能的にも形態的にも分化し、役割分担していて、細胞集団全体(個体)として統合されています。脳や心臓などの各組織を形成するには、単細胞生物よりたくさんの遺伝子が必要になります。ゲノム重複は遺伝子を増大させるので、多細胞生物を出現させる大きな一因になりました。真核生物は、細胞が格段に大きく、ゲノム重複で増えた多量のDNAを安定に保持できる核の仕切りをもっています。それによって真核生物は多細胞生物に進化できたのでしょう。

ゲノム重複とは

Hox遺伝子群は発生過程で体の各部分の構造を作り出す13個の遺伝子が配列した遺伝子群です。Hox遺伝子群は、脊索動物のナメクジウオでは1セット、無顎類のヤツメウナギでは2セット、顎口類の魚類以上では4セットあります。4倍体の親同士からは、4倍体の子孫が生まれます。哺乳類は、遺伝子セットの倍化が2回起きた結果、4倍体になりました。但し哺乳類の4セットは、お互いに似ているけれども完全に同じ遺伝子のセットではありません。

ゲノム重複でできた遺伝子は、ラクシャリー(贅沢)遺伝子と呼ばれています。大野乾(すすむ) 博士は、50年も前から、ゲノム重複が生物の新規性をもたらしたという仮説を提唱してきました。ゲノム重複で冗長性が生じると、進化の制約が緩み、タンパク質を変える遺伝子変異などが蓄積し、新しい機能が進化しやすくなるという説です。ゲノム重複は高校の教科書に載せるべき情報なのかもしれませんね。

色覚と明暗のどちらが先に見えるように進化したのでしょうか?

ヒトは暗くなると色を識別できなくなります、しかし夜行性のカエルは夜でも色を識別できるそうです。ところで色覚と明暗のどちらが先に進化したのでしょうか? 

明暗視は桿体細胞のロドプシンが担い、色覚は錐体細胞の視物質が担っています。色覚は情報処理が複雑なので、明暗視の方が先に進化したように思われますが、実際は錐体の視物質を先に創り出し、その後にロドプシンが創り出されました。

但し、魚類や両生類では、ピノプシンという桿体の視物質(光受容タンパク質)が、最初に機能していたことが分かってきました。ピノプシンは爬虫類や鳥類では脳内に存在していますが、哺乳類にはありません。爬虫類や鳥類は脳で明るさを感じられるのですね。

女性の方がより繊細に色を区別できる?

ヒトの赤の視物質には多型が見つかっています。視物質であるオプシン・タンパク質の180番目のアミノ酸がセリンとアラニンの場合があり、同じ赤でも色合いが異なります。赤の視覚多型は男性に6:4の割合で存在しています。実はこの赤の視物質の遺伝子はX染色体上にあります。

女性はX染色体を2本持つので、青と緑と2種類の赤の4色性の色覚を持つ人が存在します。女性の方がより繊細に色を区別できるのかもしれません。

男性はX染色体が1本しかないので、赤緑が区別できないといった色覚異常が生じやすいと言われています。男性の5%には色覚異常があります。赤と青を区別できれば、赤と緑を区別できそうな気がしますが、実際はそうではないようです。赤と緑を区別できないと、森の中で熟した実を見つけられないことになります。だから木の実の採取は女性が担当していたのかもしれません。

ちなみにサルには色覚異常がなく、チンパンジには0.5%程度あります。また中南米に棲む新世界ザルには3色型と2色型が見られます。これはカモフラージュした昆虫の採食では2色型の方が優れているからだと考えられています。

脊椎動物の視物質とその進化

人間は、赤、青、緑に感受性が高い3つの視物質を持っています。その組み合わせで多様な色を見分けることができます。他の動物はどうでしょうか?実は脊椎動物は基本的に5つの視物質を持っています。5つとは、赤、紫、青、緑の視物質と明暗を感じるロドプシンです。そして赤、紫、青、緑、ロドプシンの順番で分岐して進化してきました。

霊長類以外の哺乳類は基本的に赤と青の2つの視物質を持っています。哺乳類は2億5000万年ほど前に現れましたが、6500万年前に恐竜が滅びるまで、夜行性だったので、緑と紫の視物質を失ったのです。しかしニホンザルや霊長類は、赤、青、緑の3色性の視覚をもっています。分子系統樹で見ると、4000万年前に、ヒトの赤の視物質から緑の視物質が出現したことが分かります。金魚やニワトリの方が視物質が多いのは少し驚きですね。

体色を変えるイカは色が分かるのでしょうか?

イカやタコには色素胞と呼ばれる器官があります。その器官には、黄褐色系のオモクロームという色素が含まれています。イカやタコはこの色素胞を収縮弛緩することによって、体色を変えています。それらの色素は層状であるため、多色を出すことができるのです。

イカが認識できる色は青緑(波長450〜500nm)で、赤色を認識できません。海の中のイカは色を認識できず、白灰黒のモノトーンの視覚をもっています。自らは色がわからないのに、変色するのは面白いですね。イカを釣る人は、様々の色の疑似餌(エギ)を使います。しかしアオリイカから見て、定番のオレンジとピンク、赤と紫は同じように見えるでしょう。

魚の色覚はなぜ豊富なのでしょうか?

魚は様々な水環境に適応しているために色覚が豊富です。基本的に魚は黄緑-赤、緑、紫、青の4色視覚ですが、その殆どは色覚多型です。金魚の仲間である骨鰾類のゼブラフィッシュは赤2、緑4、青1、紫外線1、桿体2の10種類の色覚を持っています。棘鰭(きょっき)類のメダカも、赤2、緑3、青2、紫外線1、桿体1の9種類の色覚を持っています。

魚は見る角度によって色覚を変えています。魚の眼球の背側の網膜にはLWS-2(黄緑-赤548nm)、RH2-1(青緑467nm)、RH2-2(緑476nm)の視物質があり、下を見る視覚に使っています。腹側の網膜には、それより長波長のLWS-1(黄緑-赤558nm)、RH2-3(青緑488nm)、RH2-4(緑505nm)の視物質があり、上を見る視覚に使っています。

水深200mの世界には青い光しか届きません。そこでは金目鯛のような赤い魚が増えてきます。赤色の魚は、青い光を反射しないので、目立たなくなります。魚の鱗は赤、青、緑を反射するので銀色になります。捕食者が魚を下から見上げると、太陽の光と魚の輝きは同じ様に見えて、魚は目立たなくなります。

カンブリア紀のカラフルな生き物

眼を持つ生物が出現したことで、色を見分ける生物や、体色や擬態で身を守る生物が生まれたのでしょう。『眼の誕生』の著者アンドリュー・パーカーはシドニーの博物館でウミホタルの研究をしていました。彼は動物化石に構造色を示唆する証拠を発見しました。構造色は、モルフォ蝶、タマムシ、孔雀の羽などにみられる美しい干渉色のことです。モルフォ蝶は櫛葉構造、タマムシは多層薄膜干渉、孔雀は回折干渉で発色します。色素は分解してしまいますが、構造色の構造は化石に痕跡を残します。

ウィワクシア(Wiwaxia)は、約5億年前の海に生息していたバージェス動物群に属する全長約2.5- 5cmの楕円形をした動物です。背面は多数の鱗状の骨片で全面が覆われています。体の背面に中央を挟んで左右1列に生える10本前後の鋭い棘(とげ)があり、これで身を守っていたと考えられます。また背中の鱗の表面には幅数百nmの周期的な溝があり、構造色を示していたと考えられています。カンブリア紀の浅い海の中には極彩色の生物が数多くいたのかもしれません。

視覚のメカニズム

視覚機能を支えているのは、オプシンと呼ばれる光受容タンパク質です。眼の網膜には視細胞が高密度で存在しています。視細胞にはパンケ-キ状の構造があり、その膜に沢山のオプシンが設置されています。オプシンは7個のαヘリックス構造を有しています。

オプシンは、ビタミンAの誘導体であるレチナールを7番目のヘリックスH7に保持しています。つまりレチナールは、H7のアミノ酸リジンの残基とシッフ塩基結合(C≡N)を形成しています。レチナール単体は紫外線しか吸収できないので、オプシンは単にレチナールを結合するだけでは可視光は吸収できません。しかし、分子進化の過程で、オプシン中の3番目のヘリックスH3にあるグルタミン酸のOH基から、シッフ塩基結合(C≡N)のNがHを獲得することで、レチナ-ルの電子構造が変化して、青色をピ-クとする可視光を吸収できるようになったのです。ChemSketchという分子のお絵かき無料ソフトを使って、オプシンのリジンとレチナ-ルのシッフ結合とグルタミン酸との関わりを図示してみました。

オプシンの活性化とシグナル伝達

光を受けていない不活性状態のオプシンにはシス型のレチナールが結合しています。視細胞に到達した光の受容によって、レチナールはシス型からトランス型へ構造変化します。それに伴ってオプシンの構造変化が引き起こされ、活性状態となったオプシンは、視細胞内に存在する3量体Gタンパク質と共役して情報を伝達します。活性化したGタンパク質のGDP-GTP交換反応を介して視細胞内のシグナル情報伝達系が駆動し、そこで生じた電気信号が脳へと伝わって私たちは”見えた”と感じるのです。

水晶体の進化

眼のレンズの水晶体の中はクリスタリンと呼ばれる可溶性のたんぱく質からできています。クリスタリンの組成は動物によって異なっています。脊椎動物はαとβの2種類のクリスタリンを持っています。これに加えて哺乳類はγクリスタリン、また鳥類や爬虫類はδクリスタリンを持っています。さらに鳥類でもアヒルなどには、α、β、δに加えてεとτと呼ばれるクリスタリンが存在します。

 1987年、アルギニノコハク酸リアーゼ(AL)のアミノ酸配列が、ニワトリのδクリスタリンとよく似ている(64%同じ)という驚くべき事実が見出されました。ALはアルギニンや尿素の合成を行なう酵素です。その後の研究により、両生類から爬虫類、鳥類へ進化する頃に、この酵素の遺伝子が重複して、2つになり、その片方が水晶体で強く発現して水晶体構造たんぱく質専用の遺伝子になったことが分かりました。つまり、δクリスタリン遺伝子はすでにあった酵素遺伝子を流用したものだったのです。

眼はどのように進化したのでしょうか?

植物プランクトンは、光合成ができる所に留まるために、周囲の明るさを感知する色素胞があります。貝類は複数の単眼をもっており、明るい場所を感知します。さらに窪んだ所に単眼を作ることで光のくる方向が分かるようになります。さらに眼の窪みが大きくなり、入り口が小さくなることでピンホ-ル眼が、入口にレンズができることでカメラ眼が出現しました。オウムガイはピンホ-ル眼を有しています。タコやイカなどの頭足類は大きなカメラ眼を持っています。頭足類のカメラ眼は、脊椎動物のものとは少し異なり、眼の神経線維網は網膜の下にあります。

眼の進化の主要な段階

 a) プランクトンの眼:光受容細胞が体表に露出している。周りの明るさを感知できる。

 b) カサガイの眼:窪みで光が差す方向を感知でき、細胞を損傷から守る。

 c) オウムガイの眼:ピンホール眼は光の方向を感知でき、入射光は像を結ぶ。

d) ゴカイの眼:眼球が閉じ、液体で満たされることで網膜が守られる。

 e) アワビの眼:シンプルなレンズは鮮明な像を結ぶのに役立つ。

 f) 脊椎動物:可動型レンズを持つより複雑な眼。

ヒトデの目は腕の先端にあります。アメリカムラサキウニは体全体が一つの大きな目のような働きをします。二焦点レンズや反射鏡を備えた目もあれば、上下左右が同時に見える目もあるそうです。ゲーリング博士は「動物の目は、一見異なった構造をしているように見えても、驚くほど共通の発生メカニズムをもっている」ことを見つけました。Pax-6遺伝子は眼を作る工程を担う遺伝子です。マウスやイカのPax-6遺伝子をショウジョウバエに挿入すると、ショウジョウバエに複眼が発生します。今の動物に見られる多様な目も、1つの祖先形からの変化したもと考えられています。

最初に眼をもった生物はなんでしょうか?

眼を持った最初の生物は、6億年前のエディアカラ紀の殻の柔らかい三葉虫(Trilobite)だと言われています。目があると、餌を探し見分けること、敵から逃げることに有利になります。カンブリア紀には、目を使って捕食行動や逃避行動をするために素早く動く多様な生物が発生しました。殻(方解石)の堅い三葉虫はカンブリア紀(5.4億年前)からペルム紀末(2.5億年前)の古生代に生息していました。三葉虫は5cmくらいの大きさの節足動物です。大きいものは70cmにもなるそうです。三葉虫は海底を這って、腐ったものを食べて生活していました。頭部には2組の複眼(数百の単眼)があります。目のレンズは方解石でできており、正面と両側面がよく見えます。三葉虫が堅い殻で覆われていたのは、アノマロカリスなどの捕食者から身を守るためだと考えられています。アノマロカリスの体長は1m近くあり、円形の石臼のような口をもっていました。

古生物学者アンドリュー・パーカーは「眼の進化が軍拡競争を引き起こし、多様な生物の急速な進化の引き金となった」と主張しました。これは「光スイッチ説」と呼ばれています。

植物プランクトンはなぜ小さいのか?

植物プランクトンは光合成のために明るい表層に浮遊しなければなりません。また栄養塩の少ない表層で効率よく栄養塩を摂取するために、表面積が大きくなければなりません。しかし細胞原形質は海水より密度が高いのです。従って植物プランクトンは数十ミクロンの小さな大きさを保っています。動物プランクトンは、浮遊して小さい植物プランクトンを効率よく食べるために、小さくなっています。

植物プランクトンの生産性

植物プランクトンの寿命は6日程度です。1週間すると1回分裂し、その半数は死んで沈降するか他の動物プランクトンに捕食されます。こうした海洋生物は世代交代が非常に速く生産性が高いのが特徴です。実際、海中生物量は3Pg(炭素換算1012kg)ですが、陸上生物量300Pgの1%に過ぎません。しかし海中生物の炭素移動量は陸上生物の80%を占めています。海洋と陸上の平均的P(年間生産量)/B(生物量)比は

・ P/B(海洋)=152[g/m2/年]/10[g/m2]=15.2 [1/年]

・ P/B(陸上)=721[g/m2/年]/12300[g/m2]=0.059 [1/年]

です。大陸棚のP/B比は36となり、海洋平均値15.2の2倍以上になります。海洋は陸上より生産性が260倍(=15.2/0.059)も高いことになります。生産量の観点からすると海洋は陸上より時間が2桁以上速く流れているのです。

レッドフィールド比(Redfield、1890~1983)について

Redfield博士はアメリカ東海岸沖の深層海水中の炭素と窒素とリンの比率は

・ C:N:P=106:16:1

でほぼ一定であることを見出し、海性植物プランクトンのN/P比も深層水中のN/Pに等しいと考えました(1958)。表層のN/P比はばらつきがありますが、16より小さいです。現在500m以深の海水中の硝酸塩とリン酸塩比の平均値は、大西洋で15.0、太平洋で14.8、インド洋で14.3であると報告されています(Falkowski, 2007)。資源競争条件での化学量論モデルによれば、微細藻類の最適N/P比は、対数増殖期で8.2です(Klausmeier、2004)。近年の調査では、プランクトンの栄養含有比はプランクトンが棲息する緯度によって変わり、栄養が少ない赤道では195:28:1、栄養が豊富な極地方では78:13:1と明らかな違いが見られています(Adam Martiny、2013)。 

6-3.理想の土壌とはどのようなものでしょうか?

・塩基バランスがとれた土壌のミネラル含有量
pH6.5でCEC=15meq/100gの土壌でCaO:MgO:K2O=5:2:1(当量比)の理想的な土壌のミネラル含有量を求めてみましょう。pH6.5の塩基飽和度は80%ですから、ミネラル電荷の総量は、土壌100g当たり12meq(=15meq×0.8)となります。
CaO:MgO:K2O=12meq×5/8:12meq×2/8:12meq×1/8=7.5meq:3.0meq:1.5meq
です。合計12meq(=7.5+3.0+1.5)。これを重量比に換算すると
CaO:MgO:K2O=7.5meq×28mg/meq:3.0meq×20mg/meq:1.5meq×47mg/meqより、
CEC=15meq/100gの土壌では、
・ CaO:MgO:K2O=210mg:60mg:70mg=61.8%:17.6%:20.6%(重量比)
となります。当量比(62.5%:25%:12.5%)に比べると、重量比はMgが少し減った分だけKが増えたようにみえます。
もしCEC=30meq/100gの土壌であれば、それぞれ2倍になり
・ CaO:MgO:K2O=420mg:120mg:140mg (合計680mg)
となります。理想的なCaO重量はMgOの3.5倍、K2Oの3.0倍です。
pH6.0の場合は、塩基飽和度は70%ですから、上記の比率を0.875倍(=70%/80%)すれば求まります。CEC=30meq/100gの土壌の場合
・ CaO:MgO:K2O=368mg:105mg:122mg (合計595mg)
となります。pHを6.5から6.0に下げると、85mg(680mg-595mg)のミネラルが減少します。この土質の場合pH1だけ変化させるには、170mg/100gのミネラルが必要です。これは1反当たり170kgの施肥量に相当します。30kg/袋で6袋分のミネラルが必要です。

・不足肥料の計算
 土壌分析の結果に基づいて不足肥料の計算をしてみましょう。例えば土壌分析の結果、CEC=28meq/100gかつ
・ CaO:MgO:K2O=280mg:100mg:94mg (合計480mg)
であったとしましょう。この当量比は
・CaO:MgO:K2O=280mg/28:100mg/20:94mg/47=10meq:5meq:2meq(合計17meq)
となります。飽和塩基度は
・ 17meq/28meq×100=60%
です。土壌pH5.5と酸性になっています。pH6.5にするには、
・ CEC=17meq×80%/60%=23meq
を狙って、23meqを5:2:1に分配します。
CaO:MgO:K2O=23meq×5/8:23meq×2/8:23meq×1/8=14.4:5.8:2.8(合計23)
ですから、電荷比を重量比に換算すると
CaO:MgO:K2O=14.4meq×28(mg/meq):5.8meq×20:2.8meq×47 より
・ CaO:MgO:K2O==403mg:116mg:132mg
となります。不足分は、100g土壌あたり
・ ⊿CaO:⊿MgO:⊿K2O=403mg-280mg:116mg-100mg:132mg-94mg
=123mg:16mg:38mg
となります。これを1反当たりの施肥量に換算します。

・施肥量の計算
まず耕深10cm(ロ-タリ-)、土壌比重1g/cm3を仮定し、1反当たりの施肥重量(kg)を求めます。その後で耕深と土壌比重の計測値から施肥量を補正します。1反は10a(アール)で1000m^2です。肥料を入れる体積は100m^3となります。土壌比重は1g/cm3=1ton/m^3なので、100m^2の土壌重量は100tonになります。CaOを100g当たり123mg投入する場合、100万倍して、1反(100ton)当たり123kg施肥することになります。つまりmgをkgに変更するだけで、1反当たりの施肥量に換算できます。従って施肥量は
・ ⊿CaO:⊿MgO:⊿K2O=123kg:16kg:38kg (10m×100mの面積)
となります。20cm深さの場合は、施肥量を2倍にします。比重1.2の場合は1.2倍します。肥料の種類が異なる場合は換算します。CaCO3ならば、分子量100gなので、CaOの分子量56gに対して、1.78倍(=100/56)の重さの施肥量になります。堆肥のときは、堆肥に含まれる3つのミネラルを分析で求めて、不足分を補うように計算しなければなりません。施肥するときは、もちろん肥料をよく混ぜて、畑に均一に撒いて、深さを一定にして均一に耕さなければなりません。CECの低い土壌は追肥をして収量を上げます。

・収穫量の予想
 収穫量はCECから予想できます。CEC=10meq/100gとします。窒素含有量は20%程度、窒素の原子量は14gなので、土壌100g当たり
・ N量=10meq×0.2×14=28mg/100g
1反の土壌重量は100トンだったので、1反当たり28kgになります。作物は施肥量の70%程度を吸収すると言われているので、
・作物が利用できるN量=20kg/反(=28kg/反×0.7)
です。。肥料の値段は5万円以内でしょう。トウモロコシ1tを作るのに窒素は20kg必要(実に10kg、茎葉に10kg)です。
・ トウモロコシの収穫量=20(kg/反)/20(kg/t)=1.0ton/反
となります。1本400gが200円くらいです。
・ 売上=1000(kg/反)/0.4kg×200円=50万円/反
CEC=30 meq/100gであったとしても、トウモロコシの反収は150万円程度です
一方トマトの場合は、1tを作るのに窒素は5kg必要です。
・ トマトの収穫量=20(kg/反)/5(kg/t)=4.0ton/反
となります。1個200gが200円くらいなので
・ 売上=4000(kg/反)/0.2kg×200円=400万円/反
となります。但しトマトは脇芽の除去など手間がかかります。CEC=15meq/100gで反収600万円なので、生活がなりたちそうです。
それでも息子はトウモロコシ農家になりたいなどと申しております。トウモロコシは6月など早い時期に出荷できれば、9月の3倍の値段で売れます。特別に高価な品種であるとか、お祭りとか娯楽施設など高値で卸せるのであればいいですけど、そうでなければ難しい作物ではないでしょうか。


・塩基バランス
 塩基飽和度とはCECに占めるCa、Mg、Kの合計の割合です。塩基飽和度が80%だとPH=6.5になり、作物の成長に望ましいです。電荷量Eqに換算した比率で「Ca:Mg:K=5:2:1」の割合が理想的な塩基バランスだとされています。この塩基バランスで、作物にあった塩基飽和度のとき、経験的に作物の品質は安定します。
塩基バランスが崩れて苦土が少ないとリン酸が土壌にたくさんあっても吸収できないなどの障害がおこります。塩基バランスを整えると、リン酸の吸収がよくなって病害虫も少なくなり、農薬散布がいらなくなります。また、土壌微生物の環境が改善され有機物の分解と腐植の生成が進み土壌の養分保持力も向上します。塩基バランスや飽和度が崩れた土壌に微生物資材を使っても効果はでません。
 こどもの頃フル-チェというおやつが好きでした。これは果物の糖に牛乳を混ぜてゲル状に固めたものです。ペクチンとCaが反応して固まります。細胞壁はセルロ-ス繊維にペクチンから成っています。Caを摂ると細胞壁が固くなり、病虫害に強くなり日持ちがする野菜ができます。Kは浸透圧を調整しています。Kが多くなると水分が多くなるので果物が膨らんで柔らかくなるイメ-ジです。例えば柔らかいバナナはKが多いです。つまり直観的にはCaは作物を締める働き、Kは作物を緩める働きをします。だからそのバランスをとることが必要です。

6-2土壌分析とはどのようなものでしょうか?

土壌分析や堆肥分析では、100gの土壌に残留している各種ミネラルの質量、土壌や堆肥のpHやCECを得ることができます。収穫したい作物量に必要なミネラル量に対する不足分を求め、適正なミネラルの施肥量を知ることができます。土壌分析は3000円~1万円程度で外注することができます。施肥量の計算ソフトも開発されています。以下に土壌分析に必要な知識について述べます。

・陽イオン交換容量CEC(=Cation Exchange Capacity)
土壌粒子は負に帯電しているので、その周囲にCa2+、Mg2*、K+、NH4+、H+、Na+などの正イオンをよく吸着します。CECは土壌の持つ陰イオン電荷の総数です。つまりCECは土壌が含有できる陽イオン電荷の総数でもあります。CECが高ければ、ミネラルが豊富な土壌ですので、高い収穫量が期待できます。良い土壌は、土壌100g 当たりのCECが15mEq以上と言われています。

mEqはミリ当量(Equivarennt)と読みます。meと表記されることもあります。Eq=原子量/原子価です。つまりEqは素電荷1モル当たりの原子の質量を表しています。農学では陽イオンを酸化物で考えます。
Caの場合、石灰CaOの分子量は56g(=40+16)で、2価なので、1Eq=56g/2=28g
Mgの場合、苦土MgOの分子量は40g(=24+16)で、2価なので、1Eq=40g/2=20g
Kの場合、K2Oの分子量は94g(=39×2+16)で、1価が2つで、1Eq=94g/2=47g
となります。言い換えれば28gのCaOは、電子1モル(=6×10^23個)の電気量、つまり1Fd(ファラディ)の電気量をもちます。1[Fd]=NA・e=96485[C]です。
ここでは、
・ 石灰1mEqは28mg、苦土1mEqは20mg、加里1mEqは47mg
であることを覚えておきましょう。

・CECのイメ-ジ
土壌粒子は、中華料理店の円卓に例えられます。円卓の座席が交換基で座席数がCECです。Ca、Mg、Kのミネラルが座席を占め、残りの席はH+で占められていると考えます。H+の席数が多ければ、土壌酸性度が高い(pH<7)ことになります。酸性化が進行すれば、Ca、Mg、Kのミネラルが減少し、Mn、Fe、Znの可溶化による過剰症を引き起こします。
土壌酸性度が中性(pH=7)とは、すべての席がミネラルで占められていて、H+イオンが殆どない状態です。アルカリ性は座席が満席で、円卓の外にミネラルが溢れている状態です。土壌がアルカリ化するとMn、Fe、Znの欠乏症を引き起こします。酸性土壌がよくないのはミネラルが少ないからです。

塩基飽和度とは円卓の座席を占有するCa、Mg、Kの合計座席数の割合です。pH=6.5で塩基飽和度が80%、pH=6.0で塩基飽和度が70%、pH=5.5で塩基飽和度が60%となります。pHにはpH(H2O)とpH(KCl)の2種類があります。pH(H2O)はH2Oで溶出して測定したpHで土壌水溶液の水素イオン濃度です。pH(KCl)はKClで溶出して測定したpHで、土壌粒子に吸着した水素イオンも含めた濃度です。そのためpH(KCl)の値はpH(H2O)より1程度低くなるのが普通です。その差が土壌粒子に吸着した水素イオン数に対応しています。

・CECの測定方法
CECの測定は、pH7の酢酸アンモニウム溶液(CH3OO-NH4+)1mol/Lを用います。土壌の交換基に付着している様々な陽イオンを全てNH4+イオンに交換し、過剰のNH4+をアルコールで洗浄します。その後、KCl(塩化カリウム)溶液を注いで、NH4+イオンを全てK+イオンに交換し、浸出させて得られたNH4+イオンを定量して、陽イオン交換容量を求めます。NH4+イオンの定量は、KOH、フェノールおよびニトロプルシッドナトリウムの混合溶液と次亜塩素酸ナトリウム溶液を加え、インドフェノールの青色を発色させて比色します。

・交換性塩基(石灰CaO、苦土MgO、カリK2O)の測定方法
pH7の酢酸アンモニウム1mol/L(塩基抽出試薬)を用いて置換溶出して、交換性塩基を抽出します。具体的には土壌1gを計って100mlのポリ瓶に入れ、塩基抽出試薬20mlを加え、30分間振り混ぜた液をろ過します。抽出ろ液、標準液(CaO:150mg/L)、ブランク(塩基抽出試薬)にそれぞれ発色試薬を混ぜて静置した後、分光光度計(波長530nm)で3つの試料の吸光度を測定します。MgOの標準試薬は30mg/L、分光波長470nmで行います。Ca価数は2より、標準液(CaO:150mg/L)は、土壌含量CaO 300mg/100gに相当します。
・試料のCaO含有量(mg/100g)=300/[標準液CaOの吸光度]×[試料の吸光度]×補正値
で算出します。

6-1植物の生育に適した理想の土とはどのようなものでしょうか?

植物の成長には日照条件、防風条件、排水条件などの土地条件と土壌条件が必要です。野菜作りは土づくりと言われるように、作物の栽培には、作物に適した土づくりが必要です。作物栽培に適した土壌には以下の6つの条件があります。

1) 土質がいいこと
砂は保水性がなく、養分が吸着しないので、作物が殆ど育ちません。粘土では排水が悪く、根を張れないので、作物が育ちません。土壌粒子がある程度細かく、通気性や排水性がよく、栄養分をよく吸着する保肥力が高い土壌が栽培に適しています。もちろん有害な化学物質で汚染されていないことも必要です。

2)土が団粒構造である
 団粒構造の土は排水性、保水性、通気性、保肥性、有用菌特性が良い特徴があります。根は養分を吸収するために水が必要です。一方根は呼吸するために酸素が必要です。土の団粒構造は一見矛盾した特性を兼ね備えることができます。嫌気性生物が形成する腐食が土の団粒構造を作り出します。バームキュライト、黒ぼく土、堆肥、腐葉土は保肥性を高め、作物の増収を実現します。

3)土に有益な微生物が存在している
 有益な好気性微生物は有害菌の繁殖を抑制し、植物の生育に必要なミネラルや養分を生成します。微生物は有機質を食するので、微生物を育成するには有機肥料が適しています。同一作物を栽培し続けると、有害な菌類が蓄積され、連作障害が生じ易くなります。連作障害を防止するためには、土中に有益な微生物を育成することが必要になります。有益な微生物を培養した土壌改良剤が開発されています。

4)水素イオン濃度pH(酸度)が適正である
 一般的な植物はpH6.0~6.5の弱酸性の土を好みます。大きく酸性に傾けば、土中の粘土分に含まれるアルミニウム化合物がAl3+イオンになり、根を痛めます。基本的に電荷の大きいイオンは生体に有害なのです。またAlはリン酸と反応してAlPO4になるので、植物がPを吸収できなくなります。これを土壌のリン酸固定といい、黒ボク土はFeやAlが多いことからリン酸の効きにくい土壌とされています。作物根の有機酸によって溶ける肥料を用いればリン酸固定を回避できます。
逆にアルカリ性に傾けば植物はMgやFeなどを吸収できなくなります。植物が栄養を無駄なく摂取するには、適度なpHを保つ事が必要です。pHを調整するにはCaなどのミネラル成分を調整します。pHはミネラルの塩基飽和度に関連しています。塩基飽和度70~80%位が弱酸性です。

5)塩基バランスが取れていること
 自然界では、風で運ばれる砂や海水、動物の死骸が土地にミネラルを供給します。動物にはCaとMgとKが適正な割合で含まれているので、植物に必要な塩基バランスが取れています。人工的な栽培の場合は、作物を収穫し続けると、畑のミネラルが減少し、塩基バランスも崩れるので、耕作者が調整しなくてはなりません。
健康な作物を栽培できる土壌にはCaとMgとKが適正な割合で含まれていることが必要です。作物によりますが、通常、理想的な割合は、Ca:Mg:K=5:2:1とされています。但しこの比率は、質量の比ではなく、後に説明するモル当量の比率です。葉物野菜の場合は、Caを多くして、Ca:Mg:K=7:2:1を採用する場合もあります。作物に適したpHと塩基バランスを実現するためには、土壌分析や堆肥分析を行い、収穫によって生じたミネラルの不足分を土壌に還元することが必要です。

6)適正な窒素とリン酸濃度があること
 NやPはNO2-、NO3-、PO4-という負イオン形態で植物に吸収されます。土壌粒子は負に帯電しているので、負電荷をもつNとPは土壌に吸着されにくく、洗い流されやすいのです。NやPは主に土の中にいる微生物や昆虫や環形動物などの土壌動物に含まれています。自然界では土壌動物の死体が酸化分解されて腐食となり、徐々にNやPが供給されます。あるいはマメ科の植物と共生している根粒バクテリアが窒素分子を分解固定し、植物本体にNを供給しています。

窒素は微生物や昆虫や環形動物などの土壌動物に含まれています。自然界では土壌動物の死体が酸化分解されて腐食となり、徐々にNやPが供給されます。あるいはマメ科の植物と共生している根粒バクテリアが窒素分子を分解固定し、植物本体にNを供給しています。

土壌が乾燥しやすい場所では、微生物の量が減少し、土壌のpHが中性あるいはアルカリ性になるので、NやPが減少・流出し、作物の成長が阻害されます。あるいは畑でとれた作物を収穫し続けると、畑のミネラルが減少し、酸性化し、栽培に適さなくなります。そのため農業ではNとPを補うために、植物性あるいは動物性の肥料を施します。しかしながらより多く収穫するために、土壌が吸収できる窒素量より多く施肥しがちです。
過剰な施肥は植物を病気に感染しやすくするだけでなく、作物を食する様々な昆虫を異常発生させます。その結果、多種類の農薬を大量に使用することになり、環境汚染が進みます。過剰なNやPは地下に浸透して、地下水や河川を汚染(富栄養化)し、その汚染は湖沼や海洋に及びます。大規模な農業は環境破壊の大きな一因となってきました。

NやPは海洋に輸送され、海洋生物に取り込まれますが、結局は海底に沈みます。深層海流が浮き上がる場所では、栄養塩が再びプランクトンや魚などの海洋生物に利用されます。しかし気候変動により、淡水の流入量が増えて、海洋表層の塩分濃度が下がれば、深層水の浮上もなくなる可能性があります。

6.植物は栄養素をどのように摂取するのでしょうか?

植物は根、茎、葉からできています。根は植物を支えるとともに、水と養分を吸い上げ、茎を通り、葉に供給されます。葉は日光を受け、大気中のCO2を取り入れ、水とCO2から糖やセルロ-スなどの炭水化物を生成します。
炭水化物C6H12O6=(H-C-OH)6は鎖状に結合した6個のCの各々に水すなわちHとOHが結合しています。糖は1番目のCと5番目のCの水酸基のOが結合した環状構造です。隣接するCのOH基は近接を避け交互に配置しています。糖は6印環の1つがOなので、極性を持ち、水に溶けます。糖は水溶性なので師管内を容易に輸送できるのです。
日中、葉から水蒸気と酸素が大気に放出されます。光合成では、H2Oを酸素とH+に分解し、酸素を捨ててNADPHを生産し、分解して取り出したH+を使ってATPを合成します。植物は、NADPHとATPのエネルギを用いて、葉緑体にあるカルビン回路でCO2からブドウ糖を合成します。光エネルギがない夜間は、植物は葉から酸素を吸入して、ブドウ糖を消費して、ATPエネルギを得ます。酸素呼吸とは酸素を消費して水に変え、代謝反応に必要なATPエネルギを生産することです。
 葉で生成された糖の20%は根に送られます。根の表面あるいは内部には真菌や菌根菌が共生しています。植物はこれらの親根細菌に糖分を与え、親根細菌は他の病原性細菌から根を保護しています。菌根菌は土壌の栄養素を植物に与えてもいます。根の細胞には葉緑体はありませんが、ミトコンドリアはあります。つまり根も成長するための代謝反応を行ためにATPが必要で、ミトコンドリアで酸素呼吸をすることでATPを生産しています。呼吸のATP生産に用いられるのがクエン酸回路です。クエン酸回路は10段階の有機酸の合成反応のル-プです。そこでは酵素タンパク質の触媒作用によって酸化反応や脱炭酸反応や脱水反応が生じます。


植物には筋肉はありませんが、代謝反応を促進する酵素のためにタンパク質を必要とします。植物はタンパク質の元になる20種類のアミノ酸を自力で合成しています。アミノ酸の合成は根と葉で行われます。根は吸収したNO3-をNH4+に還元し、炭水化物と反応させて、グルタミン酸、グルタミン、アスパラギン酸、アスパラギンの4種類のアミノ酸を合成します。これらはさらに他の器官へ輸送され、各種アミノ酸の合成に使われます。葉での細胞基質では、ミトコンドリアのクエン酸回路で生成された有機酸を根から送られて来たNO3-やNH4+と反応させて、アミノ酸を生成します。植物や微生物における20種類のアミノ酸はクエン酸回路(呼吸)で生成される6種類の有機酸に由来して次の6つの群に分けられます。

1)グルコ-ス5リン酸由来のHis(ヒスチジン)
2)3-ホスホグリセリン酸由来のSer(セリン)→Cys(システイン)、 Gly(グリシン)
3)ホスホエノールピルビン酸由来のTrp(トリプトファン)、Tyr(チロシン)、Phe(フェニルアラニン)
4)ピルビン酸由来のAla(アラニン)、Leu(ロイシン)、Val(バリン)
5)α-ケトグルタル酸由来のGlu(グルタミン酸)→Gln(グルタミン)、Pro(プロリン)、Arg(アルギニン)
6)オキサロ酢酸由来のAsp(アスパラギン酸)→Asn(アスパラギン)、Thr(トレオニン)、Ile(イソロイシン)、Met(メチオニン)、Lys(リシン)

ヒトは8種類の必須アミノ酸(Phe、Trp、Val、Leu、Ile、Thr、Met、Lys)を植物から摂ります。これらの必須アミノ酸の合成は植物が2段階か3段階以上の手順をかけているものです。10種類の非必須アミノ酸は次の4つの有機酸中間体から合成されます。
1)3-ホスホグリセリン酸 → Ser, Cys, Gly
2)ピルビン酸 → Ala
3)α-ケトグルタル酸 → Glu, Gln, Pro, Arg
4)オキサロ酢酸 → Asp, Asn

アミノ酸はタンパク質合成の素材としてだけでなく、グルコースの合成、脂肪酸、ケトン体、コレステロールの合成、ヘムやプリン環やピリミジンヌクレオチド合成の原料としても利用されます。

ビタミンC合成の進化

ビタミンCは抗酸化物質として重要です。ビタミンC は多くの動物では体内で十分な量が合成できるので必須栄養素ではありませんが、ヒトを含む霊長類、モルモット、果物食性コウモリ、魚類は合成できないので、必須栄養素となっています。
古生代の石炭紀には森林の繁栄により大気中のO2濃度が上昇し、CO2濃度は減少しました。地表に照射される紫外線量はまだ多かったようです。当時水棲の魚類から陸上で生活できる両生類が進化し、栄えました。水中では紫外線は吸収されるので、魚類はビタミンCを合成できません。紫外線に起因する過酸化から体を守るため、腎臓でビタミンCを合成できる両生類が陸上では栄えました。爬虫類も腎臓でビタミンCを合成していました。引き続く恒温動物への進化に伴って、酸素消費量が増大しましたが、原始的な鳥類や哺乳類も腎臓でビタミンCを合成していました。


有袋類になると腎臓に加え肝臓で合成するようになりました。さらに進化したスズメなどの鳥類や哺乳類では、ビタミンCを肝臓で合成するようになりました。これは酸素消費量の増大に伴う過酸化物質産生から身を守るため、より多くのビタミンC合成を効率よく行うために、合成部位が腎臓よりも大きな肝臓に移行したためだと考えられています。ヒトを含めた霊長類はビタミンCを合成できないのは合成酵素遺伝子の突然変異のためです。しかしビタミンCを豊富に含む果物が十分摂取できたため生き延びることができました。

Caの吸収を高めるには

牛乳には100cc当たり100mgのCaが含まれています。しかしCaの吸収率は低く、牛乳で50%程度、ほかの食品では20~30%程度しかありません。年齢とともに吸収率が悪くなるので、中高年の場合にはCa摂取量の目標を1000mg/日にして、できるだけ和食を食べるようにしましょう。一時期、「牛乳を摂ると骨が弱くなる」と言われたことがありましたが、科学的には根拠がないようです。

Caを吸収するには、ビタミンDと紫外線(日光浴)、Mg(マグネシウム)が必要です。ビタミンKも必要ですが、これは体内で再生産されるので欠乏しません。ビタミンDには、紫外線によって皮膚でコレステロール前駆体から生合成されるビタミンD3 (コレカルシフェロール)と、食物から摂取されるビタミンD2(エルゴカルシフェロール)の2種類がありますが、両方の代謝経路と作用は殆ど同じです。 ビタミンDは下部小腸から吸収され、蛋白質と結合して血中を運ばれ、まず肝臓において25位が水酸化されて、25(OH)Dへと変換されます。さらに、腎臓近位尿細管の1α水酸化酵素によって1α位が水酸化され、最終的な活性型ホルモンである1,25(OH)2Dが生成されます。活性型ビタミンDは、Caを骨に届けて固定するまでを手助けします。小魚はCaとビタミンDを含みますが、牛乳にはビタミンDは含まれていません。

ビタミンD2 はキノコなどの植物性食品に含まれ、ビタミンD3 は魚類や鶏卵などの動物性食品に含まれます。中華料理に使うキクラゲ(キノコ)1個(1g)にはビタミンD2が4.3μgもはいっており、2個食べるだけで、1日分の摂取量を賄えます。しらすは大さじ2杯(6μg)で1日分の摂取量が得られます。
Caを吸収するには、Mgとのバランスも重要だと言われています。理想の割合は、Ca:Mg=2:1だそうです。Mgを多く含むのは、大豆製品、海藻、緑黄色野菜、ナッツ類などです。Mgの必要量は1日あたり300mgで、Caの半分程度です。

塩分の摂りすぎ
 忘れがちなのが塩分です。塩分(NaCl)を多くとるとCaの吸収が阻害されると言われています。これはCaCl2が腸で析出して排出されるのではなく、Naの増加によって腎臓でのCaの再吸収が阻害されるということです。もう少し詳しく説明します。

腎臓の糸球体からは遊離Ca2+イオン(濃度5mg/dl)が1日5,000mgも濾過されています。濾過されたCaの殆どは再吸収されて、1日100mg強のCaのみが尿中に排泄されます。濾過されたCaの55%は近位尿細管で、25%がヘンレ係蹄、15%が遠位尿細管で、さらに5%が集合管で再吸収されます。つまり糸球体から濾過されたCaの95%以上が腎尿細管で再吸収されます。このうち近位尿細管でのCa再吸収は、Na輸送に伴う受動的なものであり、ヘンレ上行脚でのCa再吸収もClイオンの輸送に伴う電位差に関連した二次的なものです。
これに対し遠位尿細管でのCa再吸収はNa再吸収や電位差に依存せず、PTHの作用により調節を受けます。つまりNaClの摂取量が増加すると、Ca再吸収の80%を占める尿細管(近位尿細管とヘンレ係蹄)でのCa再吸収が阻害されるというわけです。ちなみに活性ビタミンDは遠位尿細管でのCa再吸収を自ら高めるとともに、PTHのカルシウム再吸収を増強します。

私たちが食塩を摂取するのは、野菜自体には塩分が乏しいからなのでしょう。野菜の塩漬は保存をよくするばかりでなく、うまみ味や塩分を補うよい方法です。ヒトの血液には0.85%の塩分が含まれています。料理の味付けはその濃度に近くするといいようです。食塩は1日に7~8gでよいのですが、日本人は平均して2~3g過剰に食塩を摂取しています。塩分の摂りすぎ自体も血管や腎臓に負担をかけることになります。

ごはんには塩は入っていませんが、パンやチ-ズやハムには塩分が入っています。スナック菓子の塩分も多いです。外食が多い人は、塩分の摂りすぎに注意が必要です。運動をする人は汗で塩分が除去されますが、運動量の少ない人は、ラーメンやうどんの汁を残すようにして、塩分の摂り過ぎを避けるといいでしょう。

エストロゲンとCa
女性は妊娠や授乳期などCaを大量に必要とする時期があります。また閉経期を迎えると、卵巣から分泌される女性ホルモンのエストロゲンが急激に減少します。エストロゲンは、骨からカルシウムが溶け出すのを防ぐ役割を担っているので、エストロゲン量が低下すると、骨がもろくなりやすいのです。また血中Caを血管壁が吸収し、血管が固くなるので、閉経後の女性は血圧が上昇しやすくなります。エストロゲンの減少と塩分の摂りすぎが重なると、腎臓でのカルシウムの再吸収量が減って、尿と一緒にCaが排出されてしまいます。
48歳過ぎからは、食事と運動を習慣づけるといいでしょう。子どもが独立する年齢なので、寂しくなります。子犬を飼って散歩につれていくのはいいことなのかもしれません。

P(リン)の過剰摂取について
Caの推奨摂取量は800mg/日程度で、上限量は2500mg/日程度でした。Pの推奨摂取量は1000mg/日程度で、成人のPの耐容上限量は3000mg/日となっています。この量にできるだけ近づかない注意が必要です。骨の構成物質であるハイドロキシアパタイトCa10(PO4)6(OH)2には、P:Ca=6:10の割合で含まれています。つまり骨にはPより多くのCaが必要です。

リン酸塩とpH調整剤の表示があるソーセージのP摂取量は180±70mg/100g(2015年)です。1食200gのソ-セ-ジには約400mgのPが含まれていると考えていいでしょう。加工食品には上限値にならない程度にリン酸塩が添加されています。しかしリン酸はあまりに多くの加工食品に使われているので過剰摂取が心配されています。

法律では加工食品に用途の記載義務はありますが、添加物名の記載義務はありません。しかし加工食品の材料欄に、結着剤、乳化剤、酸味料、pH調整剤といった用途が記載されていればリン酸塩が含まれています。ハムやソーセージのプリッとした食感はリン酸結着剤によるものです。プロセスチーズの乳化剤は複数のチーズを均一に混ぜるために用いられます。ファミレスのドリンクバーで供給されるコーヒーの抽出液にはリン酸が入っています。お湯で抽出するよりも3倍も多く抽出ができるからです。失われた香りは人工的に添加されています。ラ-メンの麺の食感を作り出すかんすいにもリン酸塩が含まれています。缶詰、佃煮、煮豆、味噌の変色防止やpH調整のためにもリン酸塩が用いられています。添加物の摂り過ぎが体に良くない理由を理解した上で、上手に添加物と付き合いましょう。

 

5.食生活で気を付けることはあるでしょうか?

日本人はCa不足
Caは健康に重要な多量必須元素ですが、日本の国土の多くはCa含有量が少ない火山灰地なので、飲み水や野菜にもCaが少ないと言われています。厚生労働省の調査によると18~29歳のCa摂取推奨量が男性で1日あたり800 mg、女性で650mgのところ、実際の摂取量は男性約450 mg、女性約400mgだということです。Caの不足分は男性約350 mg、女性約250 mgにものぼります。ちなみにCa摂取量の上限は、1日あたり2500mgです。日本人のCa摂取量は米国人の1/3と言われています。特に更年期の女性は、女性ホルモンが減少し、骨粗鬆症になりやすいので、食事と運動に注意が必要です。病院に行くと膝や腰や首の具合が悪い人が大勢います。Caを見ていると日本人の様々な問題点が浮かび上がります。

Caの入出力バランス
長期的にCa摂取量が600mg/日を下回ると、骨粗鬆症を引き起こします。600mgのうち小腸で吸収されるのは200mg程度です。逆に消化管から100mg弱のCaが腸に排出されるので、正味100mg強のCaが吸収されます。骨は500mg/日程度のCaを排出し、同量を吸収しているので、100mg強のCaは尿中に排出されます。
 Caの99%は骨に、0.9%は細胞に、0.1%が血液にあります。血清Caの45%はアルブミン蛋白と結合し、10%がCa塩、残りの45%がCa2+イオンとして存在しています。血液中のCa濃度は副甲状腺ホルモン(PTH)や活性型ビタミンD(1,25(OH)2D)などのCa調節ホルモンによって、8,5~10,2mg/dlの範囲に維持されています。

Ca不足が引き起こす疾病
摂取されるCa量が600mg/日を下回ると、血中Ca濃度を一定に保つために、PTHホルモンが分泌されて、不足分以上のCaが骨から放出されます。つまり逆にCa不足により血中Ca濃度が上がる傾向があるのです。それが腎臓結石や高血圧症や動脈硬化を引き起こします。というのは、PTHホルモンは、Caを細胞内に取り込む働きもするので、過剰なCaが血管壁細胞に入り、血管を収縮させ、高血圧を引き起こすからです。

Ca不足は、骨粗鬆症や高血圧だけでなく、痴呆症、細胞の免疫力の低下によるがん細胞の発生、情緒の不安定、アレルギ-疾患、歯質劣化なども引き起こします。細胞膜のCa透過性が低いために、細胞内のCa濃度は10^-8モル台、血中のCa濃度は10^-3モルに維持されています。Ca濃度が高くなると、瞼の痙攣、手足がつる、物忘れ、イライラなどの症状が生じます。これらの症状があればCa摂取不足が疑われます。細胞のNaチャネルの周りにはCaが存在し、Naが細胞内に入るのを妨げています。細胞内の電位は細胞外より70mV低くなっています。Caが不足するとNa陽イオンが細胞内に入り、電位が上昇して、神経が興奮したり、筋肉が収縮したりするのです。成長期の子どもは、骨を成長させるために、よりCaが必要なのですから、Ca不足による学習障害が現われやすいと考えられます。

Ca不足の原因は食生活の欧米化
Caを含む食品には乳製品、小魚、豆類、緑黄色野菜などがあります。小魚としてはシシャモ、小アジの南蛮漬け、しらす干し、サバの水煮缶詰があります。和食はCaを豊富に含む理想的な食事でした。日本人のCa不足を招いている主な原因は、食生活の欧米化にあると言われています。食生活の欧米化により、
1)Caを多く含む食品群を摂らず、
2)Pを含む肉や加工食品や添加物を多く摂る、
3)塩分やPを含むスナック菓子などを多く摂る
ことがCa不足を招いているのです。

過剰なPはCaの吸収を妨げる
肉や加工食品には多量のPが含まれています。Pは食品添加物として、インスタント食品や清涼飲料水などにも多く含まれています。PとCaは骨の代謝に密接に関わり、その比率はP:Ca=1:1~2が理想とされています。Pは骨へのCaの沈着を助ける働きをしますが、Pを摂り過ぎるとCaは体外へ排出されます。腸内でCaPO4結晶ができ、吸収できずに排出されるのです。アルコールは腸でのCaの吸収を妨げます。

4.どうしてそれらの元素は生物の必須元素になったのでしょうか?

それは生物の生きていた環境に利用しやすい形で存在していたからだと考えられます。古代の生物は、海水中に生息していたため、海水によく溶けている元素を利用して進化してきたのでしょう。古代の海洋環境から、海水に溶けていた元素を推定できれば、生物進化の手がかりを得ることができます。
太古代(40億年前~25億年前)は大気も海洋も還元的で、海底にはFeSなどの硫化物が豊富でした。初期の生物は38億年前には存在していたので、硫化物環境で得られる元素を利用したと考えられます。原生代(25億年前~5億年前)初期には、シアノバクテリアが酸素を放出し、大量の鉄酸化物が堆積しました。それによって大気中の酸素濃度は現在の1%程度に増加し、海洋は少し酸化的になりました。顕生代(5億年前)以後は、植物が誕生したことで酸素濃度が劇的に増加し、海洋は酸化的で、海底にはマンガン酸化物などが形成されました。現代型生物は酸化的な環境で得られる元素を利用したと考えられます。
特に22億年前の全球凍結が急速な温暖化によって解除されたとき、花崗岩の風化が進み、海洋のリン濃度が上昇しました。それによってシアノバクテリアが増殖し、大量の酸素を放出したと考えられています。当時の海洋には鉄分が少なく、海底にはマンガン酸化物が堆積し、海洋は急速に酸化的になったと考えられています。その後オゾン層が形成され、紫外線を免れた植物が上陸し、石炭紀には裸子植物の森により現在よりも高い大気酸素濃度が実現されていました。

微量元素の挙動評価には、さまざまな化学環境下における吸着挙動を理解することが重要です。昨年、東京大学の高橋嘉夫教授らは、放射光(XAFS)による測定からW(タングステン)とMo(モリブデン)では、酸化的な海水底にあるFe-Mn酸化物との結合形態に違いがあることを見出しました。WO4^2-はFe-Mn酸化物の表面に内圏錯体として強く結合するために、酸化的な海水中のW濃度は小さいです。一方MoO4^2-はFe-Mn酸化物の表面に外圏錯体として弱く吸着するために、酸化的な海水中のMo濃度は大きくなるというのです。一方、天然試料や室内分析から、還元的な海洋では、FeSが沈殿しており、MoはFeSに吸着しやすいですが、WはFeSに吸着しにくく、Wイオンとして海中に溶けることが分かりました。高橋教授らは、生物にとって、酸化的海洋ではMoの方がWより利用しやすいが、還元的な海洋ではWの方がMoより利用しやすかったと結論しました。現代生物にとってMoは必須元素で、Wは毒性元素となりました。しかし古代生物にとってはWが必須元素で、Moが毒性元素であった可能性があります。

高橋教授らは、酸化的な海水おいてFe-Mn酸化物に接する海水への溶解度が小さい順に各元素を並べました。以下にそれらを4つに分けて表示します。

1)海水に殆ど溶けない元素(酸化的な海水)
・溶解度[10^-10]<Pb<Co<[10^-9]<Mn=Ce=Te<[10^-8]
 CoとMnは微量必須元素である。PbとTeには毒性がある。
セリウム(Ce)酸化物は研磨剤に使われ、毒性はない。
 
2)海水に溶けにくい元素
・溶解度[10^-8]=La=Fe<Ho<Er<Zr<Tl=Cu=[10^-7]
・溶解度[10^-7]<Al<Ni<Zn<Be=W=[10^-6]
 FeとCuとZnは微量必須元素である。Tl、Al、Be、Wには毒性がある。

3)海水に溶けやすい元素
・溶解度「10^-6]<P=V<Sb<Ba=Cr=[10^-5]
・溶解度[10^-5]<As<Cd<Si<Se<[10^-4]=Mo<U<<[10^-3]
 Pは多量必須元素、Cr、Se、Moは微量必須元素である。
Sb、Ba、As、Cd、Uには毒性がある。
Vを必須とする動物がいる。Siは血管や腱に含まれ、有用元素の指摘もある。

4)海水によく溶ける元素
・溶解度[10^-3]<<Sr<Ca<[10^-2]<B<Li<K=[10^-1]=Mg<S<Na<[1]<Cl<Br
 Caは多量必須元素、K、Mg、S、Na、Clは少量必須元素である。
Brは存在量が少なく気化しやすいので、海水によく溶ける元素には有害なものはない。
SrとBとBrを必須とする動物がいる。Brはショウジョウバエで必須(2014)
Bは植物の必須元素。Naに関しては、NAD-ME型のC4植物で必須性が証明されている。
 Liは人体に極微量含まれ、有用元素の指摘もある。

以上の結果から分かること
・微量元素は海水に溶けにくい元素であり、生物が入手困難な元素である。
・多量元素や少量元素は海水に溶けやすく、生物が入手容易な元素である。
・海水に溶けやすい元素に有害なものはない。
・Co、Mn、Feは溶解度が極めて小さく、入手困難な元素である。
・Pは多量元素であるが、溶解度が小さく、入手が容易ではない。

化学種の置かれている環境や化学種の存在形態によって、環境中の存在場所と存在量、移動速度が異なります。地球分子化学では、個々の元素について、そのミクロな性質から環境中の分布量や変化速度などのマクロな性質を解き明かします。細菌はミクロな性質を変えて環境にマクロな変化を引き起こしてきました。植物は、環境に物質を放出して必要な元素のミクロな存在形態を変えて吸収し、環境にマクロな植生変化を生じさせます。例えば、日照りが続くとFeがFe(OH)3という不溶性物質になるので、植物は利用できなくなります。大麦はムギネ酸を生合成し、土壌中に分泌することで、Feとムギネ酸の錯体を形成し、水に可溶化してFeを吸収しています。

3-4.その他の微量元素の効能

Cu(銅)
Cuの代謝における主要臓器は肝臓であり、主要代謝経路は胆汁系です。Cuは血清アルブミンと結合し、肝、腎でセルロプラスミンに取り込まれ、肝臓に達したCuは胆汁中に分泌され、胆管経路を経て糞中に排泄されます。肝、腎に高濃度に存在しますが、臓器特異性はありません。Cuイオンは各種の酸化還元酵素の補因子として種々の生理作用に機能します。酸素運搬、電子伝達などの生命機能の維持にかかわるCu酵素の活性化機構に関与しています。Cu欠乏はセルロプラスミン、シトクロムC酸化酵素、リシル酸化酵素、チロシナーゼの活性低下を誘発します。先天性の欠乏症としてメンケス病、過剰症としてウイルソン病があります。

植物のMn(マンガン)
Mnは光合成に必要です。Mnを含む植物酵素には、光化学系PSII複合体の構成員と、光化学系から発生する活性酸素種の除去をするSODが含まれます。クロロプラスト中のMnはほぼすべて、チラコイド膜に結合しているPSIIのMn酵素です。葉に存在するSODの90%以上はクロロプラストで、4〜5%だけがミトコンドリアに分布しています。Mn-SODはこの微量の分布先であるミトコンドリアとペルオキシソームにある。Mnが不足するとミトコンドリアの呼吸機能が損なわれます。 Mn酵素は光合成のほか、様々な生理反応に関与しています。

ヒトのMn(マンガン)
Mnはトランスフェリンと結合し、血液循環によりすみやかに各臓器へ輸送され、肝臓を経由して胆汁に移行し、ほとんど全部が腸管壁より糞便に排泄されます。肝、腎、脳下垂体、甲状腺、副腎、すい臓などに多く含まれます。細胞内でのMnはミトコンドリアに局在しています。糖新生過程のピルビン酸カルボキシラーゼ、骨形成時のプロテオグリカン合成に重要なグルコシル・トランスフェラーゼ、抗酸化作用を持つSODの補欠因子として機能します。CaやPはMnの吸収や貯留を妨害することがあります。

Se(セレン)
摂取したSeの体内動態はSeの栄養状態により変化します。Se充足状態では肝、腎に蓄積した後、すみやかに排泄されます。Se欠乏状態では精巣、甲状腺など内分泌器官に優先的に分布します。生体内に吸収されたSe化合物は最終的にセレナイドに代謝され、Se含有タンパク質に取り込まれ、セレノシステインとして存在します。Seはグルタチオンペルオキシダーゼやチオレドキシン還元酵素などの抗酸化酵素、あるいは甲状腺ホルモン(チロキシン)の代謝(T4からT3に変換する)に必要な脱ヨード化酵素の構成成分になります。Se欠乏は心筋症を誘発(中国・克山病)します。Se過剰は神経症状、胃腸障害、成長障害、爪の変色と脱落、脱毛などの症状を誘発します。

Mo(モリブデン)

現在、植物と動物をあわせて約20種類ほどのMo含有酵素が知られています。その中で最もよく知られている酵素は、ニトロゲナーゼです。これは窒素固定における窒素をアンモニアに変換する反応を触媒する酵素です。この酵素はマメ科植物の根に共生する根粒菌(リゾビウム属)の菌体内に含まれ、空気から取り入れられた分子状窒素をアンモニアに変換します。

ヒトの腸内でMoはモリブデートイオン(MoO₄²⁻)の形で吸収され、直ちに血中に入り、1日で尿に排泄されます。Moは肝、腎、脾、肺、脳、筋肉に存在します。体内Moのほとんどはアミノ酸代謝酵素、核酸代謝酵素、硫酸代謝酵素などの酵素の活性中心として存在します。糖質や脂質の代謝を助け、貧血を予防します。Mo欠乏は息切れ、速い心拍数、悪心、嘔吐、方向感覚の喪失、昏睡などの症状を誘発します。食事からの欠乏はありません。肝に多含のアルデヒド酸化酵素、亜硫酸酸化酵素、キサンチン酸化酵素などの活性中心でもあります。MoはCuと拮抗することがあります。Moは通常の食事で充分に摂取することができ、また、他の重金属に比べて比較的毒性が低いため、過剰症が問題となることはほとんどありません
 哺乳類の生体内でMoはキサンチンオキシダーゼ、アルデヒドオキシダーゼ、亜硫酸オキシダーゼの構成成分となっています。

1)尿素合成酵素
キサンチンオキシダーゼ(xanthine oxidase)は尿酸合成に関する酵素です。アデニン (adenine) やグアニン(guanine)は核酸を構成する主要塩基です。グアニンはサンマ等の魚類の銀白色部位を構成する主要成分でもあります。名称の由来は、海鳥の糞の堆積物(グアノ)中から発見されたことによります。これらはCNHとNH3を混合して加熱するだけで合成されるため、原始の地球でもありふれた有機物であったと考えられます。グアニンのプリン環のアミノ基を酸素に置換するとキサンチンが得られます。アデニンのアミノ基を酸素に置換するとヒポキサンチンが得られます。キサンチンオキシダーゼはヒポキサンチンやキサンチンに酸素を付加し尿酸をつくる酵素です。
・ ヒポキサンチン+H2O+O2 → キサンチン+H2O2
・ キサンチン+H2O+O2  → 尿酸+ H2O2
つまりDNAやATPが分解されると尿酸ができます。大部分の哺乳類はウリカ-ゼという尿酸分解酵素を持っているので、尿酸は体内にたまりません。ところがヒトを含む霊長類と鳥類は尿酸を分解する尿酸酸化酵素が遺伝的に欠損しており、尿酸をそのまま体外に排出しますが、尿酸が体内にたまる傾向があります。普通の人の体内には1.2gの尿酸があり、一日約0.6gの尿酸が作られ、0.6gが腎臓から排出されます。食品から入る尿酸よりも細胞代謝で生じる尿酸の方が圧倒的に多いです。血中の尿酸値が7mg/dlをこすと「高尿酸血症」と診断されます。
最近注目されているのが、肥満や高血圧、中性脂肪が高い人ほど、痛風の発生率が高いということです。腎臓の尿酸排泄能力が低い人も痛風の発生率が高いです。痛風は30歳代以降の男性に多い病気ですが、更年期を過ぎた60歳代以降の女性にも起こります。エストロゲンに尿酸の排泄を促進する働きがあるためです。

2)アルコール脱水酵素
アルデヒドデヒドロゲナーゼはアルデヒドをカルボン酸に変換する酵素です。この酵素はアルコールの代謝に必須な酵素で、代謝産物である酢酸は体内でエネルギ源の一つとして利用されます。

3)亜硫酸分解酵素
亜硫酸オキシダーゼ(sulfite oxidase)は、Moとヘムを補酵素として利用する、すべての真核生物のミトコンドリアに存在する酵素です。亜硫酸オキシダーゼは亜硫酸イオンを無毒化し、得られた電子でATPを合成します。具体的にはO=Mo-酵素が亜硫酸SO32-を吸着し、水を分解して、亜硫酸にOを与えて硫酸H2SO4に変化させて、電子を2個得ます。
・ SO32- + H2O → H2SO4 + 2e-
得られた電子はシトクロムcを経由して電子伝達系へ移され、酸化的リン酸化によるATP合成に使われます。これは硫黄を含む化合物の代謝の最終ステップであり、硫酸は排泄されます。

亜鉛が関わる代謝反応

・植物のZn(亜鉛)
Znは二価陽イオンとして存在し、FeやCuとは異なり酸化還元反応性を持たないため、安定にリガンドと結合します。この化学的特性が、Znの構造、触媒、調節の作用に重要で、、亜鉛が生命活動を営む上で必須となっています。そのためZnが細胞に与える直接的な毒性は非常に低いですが、他の必須元素との競合により細胞に障害を与えるため、細胞質のZn2+イオン濃度はピコ(10-12)モル以下の非常に低いレベルに保たれています。
亜鉛は植物体内の各種酵素の構成成分である。また、植物ホルモンであるオーキシンの 代謝、タンパク質の合成に関与する。高 pH や、りん(P)が多量にあると、吸収されにく くなる。

亜鉛酵素は植物成長ホルモンのオーキシンの代謝、光合成、DNA複製で働きます。亜鉛依存性の炭酸脱水酵素は、葉緑体ストロマにおいて植物体内の炭酸から、光合成の基質である二酸化炭素を供給します。

・ヒトのZn(亜鉛)
人体中の亜鉛は70kgのヒトで ~2.3gあります。これはFeの1/2であり、Cuの30倍、Mnの100倍に相当します。Znが最も多く存在しているのは皮膚で、全体の20%を占めています。亜鉛を含む酵素は300種類以上あります。1963年にヒトの亜鉛欠乏症がはじめて報告されました。それ以来,胎児の発育,皮膚およびその付属器官の新陳代謝、生殖機能、骨格の発育、味覚および嗅覚の維持、精神神経作用と行動への影響、免疫機能維持、抗酸化作用などに亜鉛が係わっていることが知られています。亜鉛は、赤血球から二酸化炭素を転送するためにも必要です。亜鉛の必要量は10~12mg/日で、許容上限摂取量は最大30mg/日です。糖尿病患者では血清亜鉛濃度が約40%低下しているといわています。この低下の原因は、亜鉛の尿への排泄の増加と亜鉛の吸収の減少だとされています。

亜鉛が関わる代謝反応について述べます。

1)アルコール脱水素酵素ADH(=Alcohol dehydrogenase)にはZnが含まれます。ADHは補酵素NAD+ (ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド)の存在下でアルコールの酸化およびアルデヒドの還元を触媒します。
・ CH3CH2OH + NAD + ⟶ CH3CHO + NADH + H+
ADHにおいては、2個のシステイン残基と1個のヒスチジン残基がZn2+の3つの配位座を占め、残りの1つの配位座に水分子が配位しています。

2)アルカリホスファターゼALP(=Alkaline Phosphatase)はアルカリ性条件下(pH=10.2)でリン酸エステル化合物を加水分解し、基質からリン酸部分を取り除く反応をする酵素です。
・ 基質-O-PO32- + H-OH → 基質-OH + HO-PO32-

3)炭酸脱水酵素
炭酸脱水酵素は破骨細胞の骨吸収部位の酸性化に関与していることが知られており、亜鉛の低下は骨の吸収を阻害します。

4)SOD (Superoxide dismutase)
SODがないと体重に対して消費する酸素の量が多い動物種ほど寿命が短くなるはずです。しかしSODが活性酸素を除去するために寿命が延びます。ヒトが長寿命なのはSOD活性が高いからだと言われています。
Cu-Zn-SODは分子量32,500のホモ二量体です。すべての真核細胞の細胞質基質はCu-Zn-SODを含みます。CuおよびZnは6個のヒスチジンと1個アスパラギン酸側鎖に配位しており、1つのヒスチジンはCuとZnで共有されています。SODの作用で活性酸素O2-が過酸化水素H2O2に変化します。
・ Cu+-SOD + O2- +2H+ → Cu2+-SOD + H2O2
SODの働きが低下すると細胞内の活性酸素、過酸化物が増えてDNAや細胞に障害を与えます。大腸菌など多くのバクテリアや植物の色素体ではFe-SODあるいはMn-SODが見られます。細菌の中には六量体Ni-SODをもつものも発見されています。
ヒトや大部分の脊椎動物では3種のSODが存在します。細胞質にあるのは二量体Cu-Zn-SOD、細胞外空間にあるのは四量体Cu-Zn-SODです。ミトコンドリアには四量体Mn-SODがあります。Mnイオンの配位子は3個のヒスチジン側鎖、1個のアスパラギン酸側鎖と水またはOH配位子で、マンガンの酸化数(2+と3+)に依存します。

5)Znを含むペプチダ-ゼ
血圧を調整するペプチドホルモンにアンジオテンシンがあります。アンジオテンシン変換酵素ACE(=angiotensin converting enzyme)は、アンジオテンシンIの末端の2アミノ酸を切り離し、昇圧作用のあるアンジオテンシンIIを切り出します。ACEペプチダーゼは活性中心にZnを有しています。

7)マトリックスメタロプロテアーゼMMP (=Matrix metalloproteinase)
MMPは活性中心に金属イオンが配座しているタンパク質分解酵素です。MMPの活性中心には亜鉛イオン(Zn2+)やカルシウムイオン(Ca2+)が含まれます。コラーゲンやプロテオグリカン、エラスチンなどから成る細胞外マトリックスの分解をはじめとし、細胞表面に発現するタンパク質の分解、生理活性物質の生産など多岐にわたる作用があります。MMPは1962年にオタマジャクシの変態において尾が吸収される過程に関与する酵素として発見されました。1968年にMMPはヒトの皮膚に存在することが示されました。

亜鉛を豊富に含むものは、レバーをはじめとする肉類と、その加工食品や牡蠣などです。亜鉛は小麦や穀類や豆類にも含まれていますが、食物繊維やフィチン酸を含有しているため、吸収され難くなっています。酵母による発酵したパンでは、フィチン酸は分解されます。中近東地方では発酵しないパンの常食で、亜鉛欠乏による小人症が発生しました。
菜食主義者や食物繊維の多い食事をとる人々は、亜鉛欠乏を起こす危険性が高いといえます。高齢者や栄養不良の人、糖尿病、肝臓病、あるいは腎臓病の患者も、亜鉛欠乏症になることがあります。亜鉛欠乏の症状には、食欲の変化、皮膚の肌理の変化、味覚障害、頭髪の傷み、爪の白斑、ならびに創傷治癒の遅れなどがあります。

3.3ヒトと植物の両方に必要なFe、Zn、Cu

・ヒトのFe(鉄)
Feは酸素の運搬、電子伝達、生体エネルギ生成などの生命機能の維持に関わるヘムタンパク質に必須の元素です。Feは細胞内代謝や細胞応答に関与する種々の酵素、サイトカイン、ホルモンなどの活性中心において、活性化機構やシグナル伝達機構を担っています。Feはカタラーゼなどの抗酸化酵素の構成成分でもあります。
大部分のFeはタンパク質と結合して存在しています。例えば、豚肉のヘム鉄、大豆のフェリチン鉄といった形です。Feの65%はヘモグロビンとして機能し、5%が筋肉中にミオグロビンとして、約15~30%がフェリチンやヘモシデリン(崩壊ヘモグロビン)として、肝臓や脾臓、骨髄といった臓器に貯蓄されています。
Feの運搬はトランスフェリンが行っています。食事中の鉄分の多くはFe3+です。Fe3+は胃酸で還元されてFe2+になり、十二指腸から吸収されて、毛細血管に入り、血中でトランスフェリンと結合し、一部は赤芽球に取り込まれます。Fe2+は毒性が強いので、トランスフェリンと結合した血清鉄となることで毒性を抑えています。

・ヒトのFe過剰
Fe不足は貧血を引き起こしますが、Feは能動的に排出できないために、人為的に摂取すると徐々に体内に蓄積していき、Fe過剰になります。そうすると遊離Fe2+よる酸化ストレスを引き起こします。例えばフェントン反応
・ Fe2+ + H2O2 → Fe3+ + OH- +・OH(ラジカル)
により、活性酸素種を産みだします。H2O2と同時に発生するO2- (スーパーオキシド)がFe(III)からFe(II)を再生します。
・ Fe3+ + O2- → Fe2+ + O2
この反応によってH2O2からOHが連続的に生成するようになります。過剰鉄による酸化ストレスは肥満・糖尿病,糖尿病性腎症,骨格筋量の減少に関与しています。過剰な鉄の量を減少させることで糖尿病の発症リスクが低下できると言われています。

・植物のFe(鉄)
植物は光合成をしており、葉では常に活性酸素が発生しています。細胞内に過剰のFe2+が存在すると、危険な状態になります。植物は活性酸素による障害を抑えるため、多くの酵素やアスコルビン酸のような抗酸化物質を用いて活性酸素を消去しています。
雨があまり降らないと土壌がアルカリ性になり、土壌の鉄が酸化されてFe(OH)3となって沈澱し、植物の根がFeを吸収できなくなります。このような時、植物は根から酸を放出して鉄を溶かして吸収します。大麦はムギネ酸を放出し、鉄をキレートの形で吸収します。
 植物は根から吸収した鉄イオンをファイトフェリチンとよばれるタンパク質(分子量;44万)に結合させて細胞内に蓄えます。植物は土壌の条件によって鉄を吸収できるとは限らないので、ある程度の鉄を細胞内に蓄えておくのです。鉄が欠乏すると葉の緑色が薄く黄色になります。極端な時は白色になり、成長できなくなります。

・植物にFeが必要な理由
Feは植物の呼吸や窒素の取り込み、葉緑体の合成、光合成の駆動エネルギNADPHの生産、活性酸素の分解などに用いられる酵素タンパク質の活性中心として必須の元素です。

1)呼吸の電子伝達系
ヘム鉄にはFe2+(還元型)とFe3+(酸化型)が存在し、これらが可逆的に変換することにより電子伝達を可能にしています。様々な酸化還元電位を持つシトクロムの存在は生物体での高いエネルギ効率に寄与しています。

2)窒素の取り込み
硝酸をアンモニウムにする反応とアンモニウムをグルタミン酸にする反応を触媒する酵素にFeが含まれます。グルタミン酸を出発点として、葉緑体が合成されます。

3)葉緑体の合成
葉緑体自体にはFeは含まれませんが、葉緑体(プロトポルフィリン環)の前駆体を作る反応にFeを含む酵素が必要です。

3)光合成の駆動エネルギNADPHの生産
フェレドキシン (ferredoxin) は、内部にFe-Sクラスタを含むタンパク質の一つであり、電子伝達体として機能します。光化学系複合体Iでは還元物質NADPHが生産されますが、このときの電子供与体がフェレドキシンです。光化学系Iによって励起された電子がこの低い酸化還元電位を持つ電子伝達体に電子を譲渡し、フェレドキシン:NADP+酸化還元酵素 (FNR) の触媒により、NADPHが生産されます。

4)活性酸素の分解
SODなどに含まれます。

3-2.植物にだけ必要なB、Cl、Ni

B(ホウ素)
B(ホウ素)は植物の細胞壁の糊であるペクチンの繊維を束ねるために使われています。このゲルは、細胞壁の骨格であるセルロースの間隙を埋め、細胞壁孔径の調節による物質透過の制御、pH・イオンの緩衝作用、細胞接着、細胞の強度維持など多様な機能を果たします。Bがないと、双子植物は極めて早い時期に完全に枯死します。動物は細胞壁がないのでBを必要としません。

Cl(塩素)
塩素イオンの役割は気孔の開閉です。気孔はK+イオンの移動に伴う浸透圧変化によって開閉しますが、K+の対イオンとして利用されるのが塩化物イオンとリンゴ酸イオンです。塩化物イオンが多く利用できるほど、リンゴ酸イオンの必要量は減ります。タマネギではこのことが重要であり、孔辺細胞葉緑体にデンプンが蓄積されないためリンゴ酸が不足し、このため塩化物イオンがないと気孔は開くことができないそうです。

Ni(ニッケル)
Niは植物において尿素をアンモニアに分解する反応を触媒する酵素であるウレアーゼ(urease)に含まれています。窒素固定細菌においてNiはデヒドロゲナーゼの成分になっています。Niが欠乏すると、尿素が葉に沈積し、葉の先端が壊死します。植物のNi要求量は乾物重の0.1ppm程度と極めて少ないので、土壌で生育している植物がNi欠乏に陥ることはないと言われています。

3-1.ヒトにだけ必要なI、Cr、Co

生物中の金属を含むタンパク質や酵素を化学的に研究する領域は「生物無機化学」と呼ばれています。元素は単独で作用するよりも、タンパク質と結合した構造をとった方が、生理作用が高まります。Cuを含む酵素にSOD(スーパ-パ-オキシド・ジムスタ-ゼ)があります、SODは細胞内の活性酸素を除去し、生物の寿命を延ばす作用があります。

銅イオンのみによる活性酸素の除去効率を1とすると、SODでは約2000倍に高くなります。赤血球に存在するカタラーゼというFeを含む酵素は、過酸化水素(H2O2)を酸素と水に分解する機能をもっています。やはり鉄イオンのみの反応の強さを1とすると、カタラーゼでは10億倍にも作用が強くなります。但し金属元素を過剰に摂取すると、いろいろなタンパク質や遺伝子などと結合して、思わぬ毒性をあらわすこともあるので、注意が必要です。

3-1.ヒトにだけ必要なI、Cr、Co
I(ヨウ素)
ヨウ素は甲状腺ホルモンの原料です。甲状腺ホルモンが欠乏すると、基礎代謝の低下、成長障害を誘発します。ヨウ素は日本人にとって身近な海藻や魚介類に多く含まれています。ヨウ素の必要量は1日95μg、推奨量1日130μgとされています。日本では、海藻や魚介類を多く摂取する食習慣があるため、1日約1~3mgのヨウ素を摂取しています。甲状腺にヨウ素が充足すると、過剰なヨウ素は尿として排出されます。原子力発電所事故等で放射性ヨウ素が放出された場合、日常的にヨウ素を摂取していれば、放射性ヨウ素の甲状腺への蓄積が低く抑えられます。

Cr(クロム)
Crは血糖値の上昇を抑制するGTF(=glucose tolerance factor、耐糖因子)を構成するクロモデュリンに含まれています。クロモデュリンはCrとオリゴペプチドが結合した物質です。GTFがインスリン受容体に結合し、インスリンの刺激伝達に関与すると言われています。しかしクロモデュリンが健康維持に必須の成分であることは証明されていません。クロモデュリンの発見者であるVincent氏自身もCrの必須性に疑問を投げかけています。クロモデュリン生成に関わる遺伝子のノックアウトを行って、クロム欠乏の影響を調べる必要があります。米国では、糖尿病の予防薬としてCrのサプリメントに人気があります。Crサプリメントが2型糖尿病患者の空腹時の血糖値やHbA1の値を下げるのは事実だそうですが、健常者の糖代謝や脂質代謝に対する有益な効果は認められていないようです。GTFを多く含む食品は、ビール酵母、未精製の穀類、エビ、キノコ類、レバーなどです。

Co(コバルト)
CoはビタミンB12(=cyanocobalamin)に含まれています。ビタミンB12は赤血球や核酸の合成に必要だと言われています。ビタミンB12あるいは葉酸が不足すると赤血球のDNA合成が阻害されて巨赤芽球となり、悪性貧血を引き起こします。ビタミンB12の正常な成人の必要な摂取量は2.0µg/日です。ビタミンB12は魚や動物のレバ-、卵や牛乳に含まれていますが、野菜・果物類には含まれないので、菜食主義は欠乏症になります。ビタミンB12は肝臓や筋肉に大量に貯蔵されているため、吸収障害が起きても欠乏症が出現するまでは3~5年を要します。草食動物は腸内細菌としてプロピオン酸生産菌を保有し、これがビタミンB12を生産しています。ビタミンB12は化学合成が困難であるため、放線菌の培養液から工業生産されています。

2. 植物と動物でどんな違いがあるのでしょうか?

・多量必須元素について
ヒトの多量元素はC、O、H、N、Ca、Pの6種類、植物の多量元素はC、O、H、N、P、Sの6種類でした。両者に共通する多量元素はC、O、H、N、Pの5種類です。植物は水とCO2から光合成でH、C、Oを含むデンプンを作ります。ヒトはデンプンを食べてH、C、Oを摂取します。多量のNとPが必要なヒトにとって、タンパク質を多く含む植物の種は重要です。通常の作物のNとPは少ないので、ヒトは大豆あるいは他の動物からタンパク質を摂取しなければなりません。

ヒトではCaが豊富であるのに対し、植物ではSが豊富である違いがあります。ヒトは植物から豊富なSを摂取できます。ヒトはCaを多く必要とするのに、植物にCaが少ないことは問題です。大豆にはCaが含まれていますが、動物の乳製品や小魚の骨などからCaを摂る必要があります。日本人のCa不足について、後で述べましょう。

植物におけるSの生理作用は多岐にわたります。Sは硫黄を含むアミノ酸や有機化合物の構成元素であり、タンパク質、ビタミンB1、ビタミンB7、 脂質等の生体物質の合成に欠かせません。また、相当量のSが植物体内にイオンの状態で存在し、酵素 活性調節、電子伝達、酸化還元調節などに重要な役割を果たしています。

・少量必須元素について
植物の少量元素はK、Ca、Mg の3種類、ヒトの少量元素はS、K、Na、Cl 、Mgの5種類でした。両者に共通する少量元素はKとMgです。Mgは、葉緑体のクロロフィルの活性中心に用いられています。Mgは茎や葉に豊富に含まれているので、ヒトは緑黄色野菜からMgを摂取できます。Mgの奨励摂取量は1日350mgで、摂取量は244mgとやや不足気味です。

Mgは生体内で60%がリン酸塩や炭酸塩として骨に沈着しています。残りの40%は筋肉や脳、神経に存在します。Kに次いで細胞内液に多く存在しますが、細胞外液には1%未満しか存在しません。生体内では、多くの酵素を活性化して生命維持に必要なさまざまな代謝に関与しています。エネルギ産生機構に深く関わっており、栄養素の合成・分解過程のほか、遺伝情報の発現や神経伝達などにも関与しています。また、MgにはCaと拮抗して筋収縮を制御したり、血管を拡張させて血圧を下げたり、血小板の凝集を抑え血栓を作りにくくしたりする作用もあります。

便秘予防薬としてよく処方されるのが「カマグ」と呼ばれるMgO緩下剤、つまり排便を促す薬です。MgOは胃酸で中和され、腸内でMgCl2になります。
・ MgO+HCl → MgCl2+H2O
その後Mg(HCO3)2になります。この重炭酸塩の影響で腸内の浸透圧が上昇します。腸内に水分が引き寄せられた結果、便が水を含み柔らかくなり、その便が腸管に刺激を与えることで排便が促されます。

Kは腎臓での再吸収が弱く、排出されやすい元素です。幸いサルやヒトはKが豊富な果実を食べていたのでK不足になりませんでした。果物の他にKが多いのはワカメや昆布やヒジキといった海産物と大豆です。みそ汁を飲んでいればKが取れます。過剰なKは大部分が尿中に排泄されますが、腎機能が低下するとKがうまく排泄されなくなり、高カリウム血症になります。高カリウム血症になると、筋収縮が調節できなくなり、四肢のしびれや不整脈の症状が現れ、重篤な場合は心停止を引き起こします。

ヒトにはNa、Clが少量元素になっています。植物にとってClは微量元素ですが、マングロ-ブの塩性植物を除くと、通常の植物にはNaは殆ど含まれていません。ヒトは作物からNa、Clを摂取するのが難しいのです。肉食動物は草食動物の血液から塩分を得られますが、草食動物は塩分のある土を食べにきます。ちなみに海水の塩分は3.5%です。ヒトの血中塩分濃度は0.85%です。植物は陸に上がった時点で淡水に適応したので、体内の塩分濃度が極めて低くなったと考えられます。但しNAD-ME型のC4植物ではNaの必須性が証明されています。

・微量必須元素について
ヒトの微量元素はFe、Zn、Cu、Mn、Se、Mo、I、Cr、Coの9種類、
植物の微量元素はFe、Zn、Cu、Mn、Se、Mo、B、Cl、Niの9種類でした。
共通しているのは、Fe、Zn、Cu、Mn、Se、Moの6種類です。野菜を食べていればこれらの微量元素を摂取できる可能性はあります。一方ヒトにのみ必須の微量元素はI、Cr、Coの3種類です。この3種類の必須元素は植物から摂取できません。植物にのみ必須の微量元素はB、Cl、Niの3種類でした。

N、P、Kについて

肥料の三要素の機能について簡単に述べましょう。家庭菜園用の肥料の袋には必ずN:P:Kの比率が記載されています。N(窒素)は光合成に必要な葉緑素や核酸の構成元素です。Nは葉肥とも言われ、葉や茎の成長に欠かせません。Nが多すぎると多汁柔軟となり、病気に弱くなります。Nが少ないと葉の色が淡黄色になり、背丈が小さくなり、分けつが減ります。

P(リン)は核酸や酵素の構成元素です。Pはエネルギ代謝に関わるATPにも含まれています。Pは実肥(みごえ)ともいわれ、開花・結実を促進します。土壌中のリン酸が過剰になると、Zn、Fe、Mgの欠乏を誘発します。少ないと着花数が減り、開花結実が遅延します。

K(カリウム)は植物の構成材料ではありませんが、細胞の浸透圧調整、膨圧維持、膜電位形成、タンパク質合成、光合成、デンプン合成、ビタミン類、抗酸化物質の合成にも関与しています。Kが植物内の様々な化学反応を進める進行役(補酵素)となっていることが分かったのは1980年代のことです。NH3やNO3は植物には毒なので早くアミノ酸にしなければなりません。Kはそうした反応も助けています。植物は糖の濃度を高めることで、浸透圧を高め、乾燥や寒さから身を守ります。カリウムが足りないと、糖濃度が高まらず、乾燥や寒さなどのストレスに弱くなります。あるいは細胞壁の材料であるセルロ-スや接着剤のペクチンが減少し、軟弱になります。Kは根肥とも言われ、根の育成を促進します。土壌中のK過剰はMgとCaの欠乏を誘発します。少ないと側根の成長が制限されます。

ヒトにおいてKは細胞の内液に蓄えられています。細胞膜にあるNa/Kポンプの働きで、Kは細胞の中に、Naは細胞外に輸送されています。インスリンは血糖と一緒にKも細胞内に取り込ませるので、インスリンが欠乏すると、高カリウム血症になります。そうなると不整脈や心停止を引き起こさないように、血液を透析しなければなりませんね。

1.どんな元素が生物に必須の元素なのでしょうか?

ヒトに必須な元素はある程度解明されていますが、完全ではありません。なぜなら人体で元素欠乏の実験をすることは許されないからです。また生物の中には特殊な元素に依存するものがいます。例えばあるツバキ科の植物はF(フッ素)を含む防虫剤をつくります。微量な必須元素については、新しい報告があります。例えば2014年にはBr(臭素)がショウジョウバエに必須の元素であることが報告されました。大雑把に言えば、必須ミネラルの種類は動物種間で顕著な差はありません。しかし植物と動物の必須ミネラルは異なっています。

ヒトにおける必須元素は20元素あり、それらは生命の維持、生体の発育・成長、正常な生理機能には不可欠の元素です。アミノ酸、脂肪、糖に含まれるH、O、C、N、核酸や骨に含まれるCaとPの6種類の元素は多量必須元素と呼ばれ、人体の98.5%を占めています。次に多いS、K、Na、Cl、Mgは少量必須元素と呼ばれ、人体の0.05~0.25%を占めています。S(硫黄)はタンパク質に多く含まれています。KやNaやCl(塩素)は細胞の浸透圧の調整や神経伝達に用いられています。ClはHClとして消化液にも含まれていますね。

多量元素と少量元素を合わせた11元素は常量必須元素と呼ばれ、人体の99.3%を占めています。残りの0.7%は微量必須元素(Essential Trace Elements)と呼ばれ、Fe、Zn、Cu、Mn、Se、Mo、I、Cr、Coの9種類が確認されています。薬学生はこれらの9元素を

「私はどうしても黒柳徹子に会えません」

=「 私(I)はどう(Cu)しても(Mo)くろ(Cr)柳てつ(Fe)こ(Co)に   あえ(Zn)ま(Mn)せん(Se)」

といって覚えるそうです。微量元素は重要な代謝反応を進行させる酵素タンパク質の必須成分として直接関与しています。

一方、植物における必須元素は18元素あります。C、H、Oは細胞壁や糖質の原料であり、葉から吸収されるCO2と根から吸収されるH2Oにより得られています。多量必須元素はC、O、H、N、P、Sの6種類があります。少量必須元素はK、Ca、Mgの3種類です。肥料の三要素はN、P、Kでした。微量必須元素はFe、Zn、Cu、Mn、Se、Mo、B、Cl、Niの9種類です。それらの栄養素を1つでも欠くと、植物は異常生育するか、生活環を完結できません。

Siは必須元素ではありませんが、病害抵抗性を増すために有用元素になっています。SiO2は不溶性ですが、SiO4-は水溶性なので、植物はSiも利用できるのでしょう。水稲は細胞壁が薄いのでSiO2で保護するために、特異的にSiを多く吸収します。

石灰肥料について

Caには作物の葉の茂りや根張りを良くする効果があります。畑の土質を作物が成長しやすい弱アルカリ性にするために石灰肥料が混ぜられます。石灰肥料にも色々あります。生石灰(きせっかい)はCaOで、石灰岩CaCO3を加熱して、CO2を飛ばしたものです。
・ CaCO3 → CaO + CO2
生石灰はアルカリ性が最も強いです。消石灰はCa(OH)2で、CaOに水を加えて作ります。
・ CaO+H2O → Ca(OH)2
白い水蒸気を上げて発熱反応する様は、まるで生きているみたいだから生石灰というのでしょう。消石灰は水に溶けやすく即効性があります。

苦土石灰はMgを含む石灰でドロマイトを加熱して粉末化したものです。有機石灰はカキやホタテなどの貝殻を焼いて砕いたものです。炭酸カルシウムや苦土石灰や有機石灰は遅効性の肥料なので、施肥後すぐに定植可能です。
遅効性の石灰肥料は重要です。Caは水に溶けたCa2+イオンとして根から吸い上げられ葉に届きます。一度細胞壁に取り込まれたCaはもう移動しません。だからCa供給が成長途中で途切れると、下葉にはCaがあるが、上葉や実にはCaがなくなり病気になります。苺の実はCa量が減ると柔らかくなり過ぎて日持ちが悪くなります。ミカンは果皮と果肉の間に隙間を生じてしまいます。遅効性の石灰はCa供給を途切れさせない効果があるのです。Ca欠乏症が生じてしまったら、塩化Caや炭酸Ca水溶液を葉面散布する方法があります。

即効性のある石灰肥料は、窒素肥料と同時に土に混ぜ込むと化学反応を起こして有害なアンモニアガス(NH3)を発生させます。
・ (NH2)2CO(尿素)+Ca(OH)2 → CaCO3+2NH3
・ (NH2)2SO4(硫安)+Ca(OH)2 → CaSO4+2H2O+2NH3
・ 2NH4Cl(塩化アンモニウム)+Ca(OH)2 → CaCl2+2H2O+2NH3
NH3ガスを含んだ土壌に作物を植え付けると枯れてしまいます。そのため、先に石灰肥料を土に混ぜ込んでおき、1週間程度時間をおいて土にならしてから元肥を混ぜ込む必要があります。水に溶けたCaイオンが粘土に吸着され、余分なNが土壌からNH3として抜けるまで待つのです。

地殻の構成元素はO(47%)、Si(28%)、Al(8%)、Fe(6%)、Ca(4%)、Na(3%)、K(3%)です。土にはSiとAlが多く、粘土はSiの4面体とAlの8面体とで構成されています。SiがAlと置換する、あるいはAlがMgに置換するので、通常粘土はマイナスに帯電しています。あるいは水和鉱物はOH端からH+が取れて、O-端になることでマイナスに帯電します。石灰肥料が土になれるというのは、石灰肥料が水に溶けて放出したCa2+イオンが負に帯電した粘土に吸着されるからです。

土壌に石灰を投入しても、土の状態が悪ければ、植物はCaを吸収できません。微生物を増やす、土を団粒構造にする、水はけをよくする、肥料の入れ過ぎや入れる時期に注意する、といったことを守るのは、植物にCaを効率よく多量に吸収させるためなのです。過剰な窒素肥料はCaを消費するし、NH3ガスも出るので、入れ過ぎないようにしましょう。

0.動物と植物の元素構成はどのようなものでしょうか?

ヒトは重量換算で61.5%が水分で、タンパク質は17%、脂質が14%、糖質が1.5%、ミネラルが6%です。C、O、Hの3元素だけで全質量の94%を占めます。体重70kgのヒトの場合、水分は42kgで、その中にO(37.3kg)、H(4.7kg)が含まれています。水分を除いたヒトの固形分にはC(16kg)、O(5.7kg)、H(2.3kg)、N(1.8kg)、Ca(1.0kg)、P(780g)の多量元素が含まれています。多量元素には筋肉や骨を構成する元素が多く含まれています。さらにS(140g)、K(140g)、Na(100g)、Cl(95g)、Mg(19g)の少量元素が含まれています。少量元素の多くは細胞の浸透圧を調整するアルカリ金属です。それ以下の微量元素にはSi(18g)、Fe(4.2g)、F(2.6g)、Zn(2.3g)、Cu(72mg)などがあります。SiとFの他に数十mgのRb、Sr、Br、Pbなどの非必須元素も含まれています。微量必須元素としてはFeとZnの量が多いことが分かります。これらはタンパク質と結合して代謝反応を促進する酵素として働きます。

典型的な植物は90%が水分で、10%が固形物です。植物の固形物の90%はC(40%)、O(40%)、H(4%)、N(4%)、P(1%)、S(1%)の6元素から成ります。残りはK(0.4%)、Ca(0.3%)、Mg(0.3%)で、その他は僅かです。植物は、デンプンやセルロ-スが多く、筋肉や骨がないから、殆ど炭水化物でできており、タンパク質に含まれるNやS、骨の元になるPやCaは少ないのです。S(硫黄)は土壌に比較的多く含まれているので、土壌に不足しやすいN、P、Kが肥料の三要素となっています。Caは細胞壁のペクチンに、Mgは葉の葉緑体に含まれています。Ca、Mgはミネラル肥料として施肥されます。

生体必須元素

生体必須元素は、生体の構成と代謝に不可欠な元素です。これが欠けるとなんらかの病気になります。生体必須元素は、私たちの健康な生活に深く関わるだけでなく、地球と生物の共進化の歴史を解明するカギとなるものとして注目されています。

0.動物と植物の元素構成はどのようなものでしょうか?
1.どんな元素が生物に必須の元素なのでしょうか?
2.植物と動物でどんな違いがあるのでしょうか?
3.必須元素はどのような役割を果たしているのでしょうか?
4.どうしてそれらの元素は必須元素になったのでしょうか?
5.食生活で気を付けることはあるでしょうか?

といったことについて考えてみたいと思います。また動物の代表としてヒトを考えます。少し難しい話しもありますが、興味ある方は是非お付き合い下さい。