3-1.ヒトにだけ必要なI、Cr、Co

生物中の金属を含むタンパク質や酵素を化学的に研究する領域は「生物無機化学」と呼ばれています。元素は単独で作用するよりも、タンパク質と結合した構造をとった方が、生理作用が高まります。Cuを含む酵素にSOD(スーパ-パ-オキシド・ジムスタ-ゼ)があります、SODは細胞内の活性酸素を除去し、生物の寿命を延ばす作用があります。

銅イオンのみによる活性酸素の除去効率を1とすると、SODでは約2000倍に高くなります。赤血球に存在するカタラーゼというFeを含む酵素は、過酸化水素(H2O2)を酸素と水に分解する機能をもっています。やはり鉄イオンのみの反応の強さを1とすると、カタラーゼでは10億倍にも作用が強くなります。但し金属元素を過剰に摂取すると、いろいろなタンパク質や遺伝子などと結合して、思わぬ毒性をあらわすこともあるので、注意が必要です。

3-1.ヒトにだけ必要なI、Cr、Co
I(ヨウ素)
ヨウ素は甲状腺ホルモンの原料です。甲状腺ホルモンが欠乏すると、基礎代謝の低下、成長障害を誘発します。ヨウ素は日本人にとって身近な海藻や魚介類に多く含まれています。ヨウ素の必要量は1日95μg、推奨量1日130μgとされています。日本では、海藻や魚介類を多く摂取する食習慣があるため、1日約1~3mgのヨウ素を摂取しています。甲状腺にヨウ素が充足すると、過剰なヨウ素は尿として排出されます。原子力発電所事故等で放射性ヨウ素が放出された場合、日常的にヨウ素を摂取していれば、放射性ヨウ素の甲状腺への蓄積が低く抑えられます。

Cr(クロム)
Crは血糖値の上昇を抑制するGTF(=glucose tolerance factor、耐糖因子)を構成するクロモデュリンに含まれています。クロモデュリンはCrとオリゴペプチドが結合した物質です。GTFがインスリン受容体に結合し、インスリンの刺激伝達に関与すると言われています。しかしクロモデュリンが健康維持に必須の成分であることは証明されていません。クロモデュリンの発見者であるVincent氏自身もCrの必須性に疑問を投げかけています。クロモデュリン生成に関わる遺伝子のノックアウトを行って、クロム欠乏の影響を調べる必要があります。米国では、糖尿病の予防薬としてCrのサプリメントに人気があります。Crサプリメントが2型糖尿病患者の空腹時の血糖値やHbA1の値を下げるのは事実だそうですが、健常者の糖代謝や脂質代謝に対する有益な効果は認められていないようです。GTFを多く含む食品は、ビール酵母、未精製の穀類、エビ、キノコ類、レバーなどです。

Co(コバルト)
CoはビタミンB12(=cyanocobalamin)に含まれています。ビタミンB12は赤血球や核酸の合成に必要だと言われています。ビタミンB12あるいは葉酸が不足すると赤血球のDNA合成が阻害されて巨赤芽球となり、悪性貧血を引き起こします。ビタミンB12の正常な成人の必要な摂取量は2.0µg/日です。ビタミンB12は魚や動物のレバ-、卵や牛乳に含まれていますが、野菜・果物類には含まれないので、菜食主義は欠乏症になります。ビタミンB12は肝臓や筋肉に大量に貯蔵されているため、吸収障害が起きても欠乏症が出現するまでは3~5年を要します。草食動物は腸内細菌としてプロピオン酸生産菌を保有し、これがビタミンB12を生産しています。ビタミンB12は化学合成が困難であるため、放線菌の培養液から工業生産されています。

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