3.3ヒトと植物の両方に必要なFe、Zn、Cu

・ヒトのFe(鉄)
Feは酸素の運搬、電子伝達、生体エネルギ生成などの生命機能の維持に関わるヘムタンパク質に必須の元素です。Feは細胞内代謝や細胞応答に関与する種々の酵素、サイトカイン、ホルモンなどの活性中心において、活性化機構やシグナル伝達機構を担っています。Feはカタラーゼなどの抗酸化酵素の構成成分でもあります。
大部分のFeはタンパク質と結合して存在しています。例えば、豚肉のヘム鉄、大豆のフェリチン鉄といった形です。Feの65%はヘモグロビンとして機能し、5%が筋肉中にミオグロビンとして、約15~30%がフェリチンやヘモシデリン(崩壊ヘモグロビン)として、肝臓や脾臓、骨髄といった臓器に貯蓄されています。
Feの運搬はトランスフェリンが行っています。食事中の鉄分の多くはFe3+です。Fe3+は胃酸で還元されてFe2+になり、十二指腸から吸収されて、毛細血管に入り、血中でトランスフェリンと結合し、一部は赤芽球に取り込まれます。Fe2+は毒性が強いので、トランスフェリンと結合した血清鉄となることで毒性を抑えています。

・ヒトのFe過剰
Fe不足は貧血を引き起こしますが、Feは能動的に排出できないために、人為的に摂取すると徐々に体内に蓄積していき、Fe過剰になります。そうすると遊離Fe2+よる酸化ストレスを引き起こします。例えばフェントン反応
・ Fe2+ + H2O2 → Fe3+ + OH- +・OH(ラジカル)
により、活性酸素種を産みだします。H2O2と同時に発生するO2- (スーパーオキシド)がFe(III)からFe(II)を再生します。
・ Fe3+ + O2- → Fe2+ + O2
この反応によってH2O2からOHが連続的に生成するようになります。過剰鉄による酸化ストレスは肥満・糖尿病,糖尿病性腎症,骨格筋量の減少に関与しています。過剰な鉄の量を減少させることで糖尿病の発症リスクが低下できると言われています。

・植物のFe(鉄)
植物は光合成をしており、葉では常に活性酸素が発生しています。細胞内に過剰のFe2+が存在すると、危険な状態になります。植物は活性酸素による障害を抑えるため、多くの酵素やアスコルビン酸のような抗酸化物質を用いて活性酸素を消去しています。
雨があまり降らないと土壌がアルカリ性になり、土壌の鉄が酸化されてFe(OH)3となって沈澱し、植物の根がFeを吸収できなくなります。このような時、植物は根から酸を放出して鉄を溶かして吸収します。大麦はムギネ酸を放出し、鉄をキレートの形で吸収します。
 植物は根から吸収した鉄イオンをファイトフェリチンとよばれるタンパク質(分子量;44万)に結合させて細胞内に蓄えます。植物は土壌の条件によって鉄を吸収できるとは限らないので、ある程度の鉄を細胞内に蓄えておくのです。鉄が欠乏すると葉の緑色が薄く黄色になります。極端な時は白色になり、成長できなくなります。

・植物にFeが必要な理由
Feは植物の呼吸や窒素の取り込み、葉緑体の合成、光合成の駆動エネルギNADPHの生産、活性酸素の分解などに用いられる酵素タンパク質の活性中心として必須の元素です。

1)呼吸の電子伝達系
ヘム鉄にはFe2+(還元型)とFe3+(酸化型)が存在し、これらが可逆的に変換することにより電子伝達を可能にしています。様々な酸化還元電位を持つシトクロムの存在は生物体での高いエネルギ効率に寄与しています。

2)窒素の取り込み
硝酸をアンモニウムにする反応とアンモニウムをグルタミン酸にする反応を触媒する酵素にFeが含まれます。グルタミン酸を出発点として、葉緑体が合成されます。

3)葉緑体の合成
葉緑体自体にはFeは含まれませんが、葉緑体(プロトポルフィリン環)の前駆体を作る反応にFeを含む酵素が必要です。

3)光合成の駆動エネルギNADPHの生産
フェレドキシン (ferredoxin) は、内部にFe-Sクラスタを含むタンパク質の一つであり、電子伝達体として機能します。光化学系複合体Iでは還元物質NADPHが生産されますが、このときの電子供与体がフェレドキシンです。光化学系Iによって励起された電子がこの低い酸化還元電位を持つ電子伝達体に電子を譲渡し、フェレドキシン:NADP+酸化還元酵素 (FNR) の触媒により、NADPHが生産されます。

4)活性酸素の分解
SODなどに含まれます。

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