亜鉛が関わる代謝反応

・植物のZn(亜鉛)
Znは二価陽イオンとして存在し、FeやCuとは異なり酸化還元反応性を持たないため、安定にリガンドと結合します。この化学的特性が、Znの構造、触媒、調節の作用に重要で、、亜鉛が生命活動を営む上で必須となっています。そのためZnが細胞に与える直接的な毒性は非常に低いですが、他の必須元素との競合により細胞に障害を与えるため、細胞質のZn2+イオン濃度はピコ(10-12)モル以下の非常に低いレベルに保たれています。
亜鉛は植物体内の各種酵素の構成成分である。また、植物ホルモンであるオーキシンの 代謝、タンパク質の合成に関与する。高 pH や、りん(P)が多量にあると、吸収されにく くなる。

亜鉛酵素は植物成長ホルモンのオーキシンの代謝、光合成、DNA複製で働きます。亜鉛依存性の炭酸脱水酵素は、葉緑体ストロマにおいて植物体内の炭酸から、光合成の基質である二酸化炭素を供給します。

・ヒトのZn(亜鉛)
人体中の亜鉛は70kgのヒトで ~2.3gあります。これはFeの1/2であり、Cuの30倍、Mnの100倍に相当します。Znが最も多く存在しているのは皮膚で、全体の20%を占めています。亜鉛を含む酵素は300種類以上あります。1963年にヒトの亜鉛欠乏症がはじめて報告されました。それ以来,胎児の発育,皮膚およびその付属器官の新陳代謝、生殖機能、骨格の発育、味覚および嗅覚の維持、精神神経作用と行動への影響、免疫機能維持、抗酸化作用などに亜鉛が係わっていることが知られています。亜鉛は、赤血球から二酸化炭素を転送するためにも必要です。亜鉛の必要量は10~12mg/日で、許容上限摂取量は最大30mg/日です。糖尿病患者では血清亜鉛濃度が約40%低下しているといわています。この低下の原因は、亜鉛の尿への排泄の増加と亜鉛の吸収の減少だとされています。

亜鉛が関わる代謝反応について述べます。

1)アルコール脱水素酵素ADH(=Alcohol dehydrogenase)にはZnが含まれます。ADHは補酵素NAD+ (ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド)の存在下でアルコールの酸化およびアルデヒドの還元を触媒します。
・ CH3CH2OH + NAD + ⟶ CH3CHO + NADH + H+
ADHにおいては、2個のシステイン残基と1個のヒスチジン残基がZn2+の3つの配位座を占め、残りの1つの配位座に水分子が配位しています。

2)アルカリホスファターゼALP(=Alkaline Phosphatase)はアルカリ性条件下(pH=10.2)でリン酸エステル化合物を加水分解し、基質からリン酸部分を取り除く反応をする酵素です。
・ 基質-O-PO32- + H-OH → 基質-OH + HO-PO32-

3)炭酸脱水酵素
炭酸脱水酵素は破骨細胞の骨吸収部位の酸性化に関与していることが知られており、亜鉛の低下は骨の吸収を阻害します。

4)SOD (Superoxide dismutase)
SODがないと体重に対して消費する酸素の量が多い動物種ほど寿命が短くなるはずです。しかしSODが活性酸素を除去するために寿命が延びます。ヒトが長寿命なのはSOD活性が高いからだと言われています。
Cu-Zn-SODは分子量32,500のホモ二量体です。すべての真核細胞の細胞質基質はCu-Zn-SODを含みます。CuおよびZnは6個のヒスチジンと1個アスパラギン酸側鎖に配位しており、1つのヒスチジンはCuとZnで共有されています。SODの作用で活性酸素O2-が過酸化水素H2O2に変化します。
・ Cu+-SOD + O2- +2H+ → Cu2+-SOD + H2O2
SODの働きが低下すると細胞内の活性酸素、過酸化物が増えてDNAや細胞に障害を与えます。大腸菌など多くのバクテリアや植物の色素体ではFe-SODあるいはMn-SODが見られます。細菌の中には六量体Ni-SODをもつものも発見されています。
ヒトや大部分の脊椎動物では3種のSODが存在します。細胞質にあるのは二量体Cu-Zn-SOD、細胞外空間にあるのは四量体Cu-Zn-SODです。ミトコンドリアには四量体Mn-SODがあります。Mnイオンの配位子は3個のヒスチジン側鎖、1個のアスパラギン酸側鎖と水またはOH配位子で、マンガンの酸化数(2+と3+)に依存します。

5)Znを含むペプチダ-ゼ
血圧を調整するペプチドホルモンにアンジオテンシンがあります。アンジオテンシン変換酵素ACE(=angiotensin converting enzyme)は、アンジオテンシンIの末端の2アミノ酸を切り離し、昇圧作用のあるアンジオテンシンIIを切り出します。ACEペプチダーゼは活性中心にZnを有しています。

7)マトリックスメタロプロテアーゼMMP (=Matrix metalloproteinase)
MMPは活性中心に金属イオンが配座しているタンパク質分解酵素です。MMPの活性中心には亜鉛イオン(Zn2+)やカルシウムイオン(Ca2+)が含まれます。コラーゲンやプロテオグリカン、エラスチンなどから成る細胞外マトリックスの分解をはじめとし、細胞表面に発現するタンパク質の分解、生理活性物質の生産など多岐にわたる作用があります。MMPは1962年にオタマジャクシの変態において尾が吸収される過程に関与する酵素として発見されました。1968年にMMPはヒトの皮膚に存在することが示されました。

亜鉛を豊富に含むものは、レバーをはじめとする肉類と、その加工食品や牡蠣などです。亜鉛は小麦や穀類や豆類にも含まれていますが、食物繊維やフィチン酸を含有しているため、吸収され難くなっています。酵母による発酵したパンでは、フィチン酸は分解されます。中近東地方では発酵しないパンの常食で、亜鉛欠乏による小人症が発生しました。
菜食主義者や食物繊維の多い食事をとる人々は、亜鉛欠乏を起こす危険性が高いといえます。高齢者や栄養不良の人、糖尿病、肝臓病、あるいは腎臓病の患者も、亜鉛欠乏症になることがあります。亜鉛欠乏の症状には、食欲の変化、皮膚の肌理の変化、味覚障害、頭髪の傷み、爪の白斑、ならびに創傷治癒の遅れなどがあります。

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