3-4.その他の微量元素の効能

Cu(銅)
Cuの代謝における主要臓器は肝臓であり、主要代謝経路は胆汁系です。Cuは血清アルブミンと結合し、肝、腎でセルロプラスミンに取り込まれ、肝臓に達したCuは胆汁中に分泌され、胆管経路を経て糞中に排泄されます。肝、腎に高濃度に存在しますが、臓器特異性はありません。Cuイオンは各種の酸化還元酵素の補因子として種々の生理作用に機能します。酸素運搬、電子伝達などの生命機能の維持にかかわるCu酵素の活性化機構に関与しています。Cu欠乏はセルロプラスミン、シトクロムC酸化酵素、リシル酸化酵素、チロシナーゼの活性低下を誘発します。先天性の欠乏症としてメンケス病、過剰症としてウイルソン病があります。

植物のMn(マンガン)
Mnは光合成に必要です。Mnを含む植物酵素には、光化学系PSII複合体の構成員と、光化学系から発生する活性酸素種の除去をするSODが含まれます。クロロプラスト中のMnはほぼすべて、チラコイド膜に結合しているPSIIのMn酵素です。葉に存在するSODの90%以上はクロロプラストで、4〜5%だけがミトコンドリアに分布しています。Mn-SODはこの微量の分布先であるミトコンドリアとペルオキシソームにある。Mnが不足するとミトコンドリアの呼吸機能が損なわれます。 Mn酵素は光合成のほか、様々な生理反応に関与しています。

ヒトのMn(マンガン)
Mnはトランスフェリンと結合し、血液循環によりすみやかに各臓器へ輸送され、肝臓を経由して胆汁に移行し、ほとんど全部が腸管壁より糞便に排泄されます。肝、腎、脳下垂体、甲状腺、副腎、すい臓などに多く含まれます。細胞内でのMnはミトコンドリアに局在しています。糖新生過程のピルビン酸カルボキシラーゼ、骨形成時のプロテオグリカン合成に重要なグルコシル・トランスフェラーゼ、抗酸化作用を持つSODの補欠因子として機能します。CaやPはMnの吸収や貯留を妨害することがあります。

Se(セレン)
摂取したSeの体内動態はSeの栄養状態により変化します。Se充足状態では肝、腎に蓄積した後、すみやかに排泄されます。Se欠乏状態では精巣、甲状腺など内分泌器官に優先的に分布します。生体内に吸収されたSe化合物は最終的にセレナイドに代謝され、Se含有タンパク質に取り込まれ、セレノシステインとして存在します。Seはグルタチオンペルオキシダーゼやチオレドキシン還元酵素などの抗酸化酵素、あるいは甲状腺ホルモン(チロキシン)の代謝(T4からT3に変換する)に必要な脱ヨード化酵素の構成成分になります。Se欠乏は心筋症を誘発(中国・克山病)します。Se過剰は神経症状、胃腸障害、成長障害、爪の変色と脱落、脱毛などの症状を誘発します。

Mo(モリブデン)

現在、植物と動物をあわせて約20種類ほどのMo含有酵素が知られています。その中で最もよく知られている酵素は、ニトロゲナーゼです。これは窒素固定における窒素をアンモニアに変換する反応を触媒する酵素です。この酵素はマメ科植物の根に共生する根粒菌(リゾビウム属)の菌体内に含まれ、空気から取り入れられた分子状窒素をアンモニアに変換します。

ヒトの腸内でMoはモリブデートイオン(MoO₄²⁻)の形で吸収され、直ちに血中に入り、1日で尿に排泄されます。Moは肝、腎、脾、肺、脳、筋肉に存在します。体内Moのほとんどはアミノ酸代謝酵素、核酸代謝酵素、硫酸代謝酵素などの酵素の活性中心として存在します。糖質や脂質の代謝を助け、貧血を予防します。Mo欠乏は息切れ、速い心拍数、悪心、嘔吐、方向感覚の喪失、昏睡などの症状を誘発します。食事からの欠乏はありません。肝に多含のアルデヒド酸化酵素、亜硫酸酸化酵素、キサンチン酸化酵素などの活性中心でもあります。MoはCuと拮抗することがあります。Moは通常の食事で充分に摂取することができ、また、他の重金属に比べて比較的毒性が低いため、過剰症が問題となることはほとんどありません
 哺乳類の生体内でMoはキサンチンオキシダーゼ、アルデヒドオキシダーゼ、亜硫酸オキシダーゼの構成成分となっています。

1)尿素合成酵素
キサンチンオキシダーゼ(xanthine oxidase)は尿酸合成に関する酵素です。アデニン (adenine) やグアニン(guanine)は核酸を構成する主要塩基です。グアニンはサンマ等の魚類の銀白色部位を構成する主要成分でもあります。名称の由来は、海鳥の糞の堆積物(グアノ)中から発見されたことによります。これらはCNHとNH3を混合して加熱するだけで合成されるため、原始の地球でもありふれた有機物であったと考えられます。グアニンのプリン環のアミノ基を酸素に置換するとキサンチンが得られます。アデニンのアミノ基を酸素に置換するとヒポキサンチンが得られます。キサンチンオキシダーゼはヒポキサンチンやキサンチンに酸素を付加し尿酸をつくる酵素です。
・ ヒポキサンチン+H2O+O2 → キサンチン+H2O2
・ キサンチン+H2O+O2  → 尿酸+ H2O2
つまりDNAやATPが分解されると尿酸ができます。大部分の哺乳類はウリカ-ゼという尿酸分解酵素を持っているので、尿酸は体内にたまりません。ところがヒトを含む霊長類と鳥類は尿酸を分解する尿酸酸化酵素が遺伝的に欠損しており、尿酸をそのまま体外に排出しますが、尿酸が体内にたまる傾向があります。普通の人の体内には1.2gの尿酸があり、一日約0.6gの尿酸が作られ、0.6gが腎臓から排出されます。食品から入る尿酸よりも細胞代謝で生じる尿酸の方が圧倒的に多いです。血中の尿酸値が7mg/dlをこすと「高尿酸血症」と診断されます。
最近注目されているのが、肥満や高血圧、中性脂肪が高い人ほど、痛風の発生率が高いということです。腎臓の尿酸排泄能力が低い人も痛風の発生率が高いです。痛風は30歳代以降の男性に多い病気ですが、更年期を過ぎた60歳代以降の女性にも起こります。エストロゲンに尿酸の排泄を促進する働きがあるためです。

2)アルコール脱水酵素
アルデヒドデヒドロゲナーゼはアルデヒドをカルボン酸に変換する酵素です。この酵素はアルコールの代謝に必須な酵素で、代謝産物である酢酸は体内でエネルギ源の一つとして利用されます。

3)亜硫酸分解酵素
亜硫酸オキシダーゼ(sulfite oxidase)は、Moとヘムを補酵素として利用する、すべての真核生物のミトコンドリアに存在する酵素です。亜硫酸オキシダーゼは亜硫酸イオンを無毒化し、得られた電子でATPを合成します。具体的にはO=Mo-酵素が亜硫酸SO32-を吸着し、水を分解して、亜硫酸にOを与えて硫酸H2SO4に変化させて、電子を2個得ます。
・ SO32- + H2O → H2SO4 + 2e-
得られた電子はシトクロムcを経由して電子伝達系へ移され、酸化的リン酸化によるATP合成に使われます。これは硫黄を含む化合物の代謝の最終ステップであり、硫酸は排泄されます。

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