6-3.理想の土壌とはどのようなものでしょうか?

・塩基バランスがとれた土壌のミネラル含有量
pH6.5でCEC=15meq/100gの土壌でCaO:MgO:K2O=5:2:1(当量比)の理想的な土壌のミネラル含有量を求めてみましょう。pH6.5の塩基飽和度は80%ですから、ミネラル電荷の総量は、土壌100g当たり12meq(=15meq×0.8)となります。
CaO:MgO:K2O=12meq×5/8:12meq×2/8:12meq×1/8=7.5meq:3.0meq:1.5meq
です。合計12meq(=7.5+3.0+1.5)。これを重量比に換算すると
CaO:MgO:K2O=7.5meq×28mg/meq:3.0meq×20mg/meq:1.5meq×47mg/meqより、
CEC=15meq/100gの土壌では、
・ CaO:MgO:K2O=210mg:60mg:70mg=61.8%:17.6%:20.6%(重量比)
となります。当量比(62.5%:25%:12.5%)に比べると、重量比はMgが少し減った分だけKが増えたようにみえます。
もしCEC=30meq/100gの土壌であれば、それぞれ2倍になり
・ CaO:MgO:K2O=420mg:120mg:140mg (合計680mg)
となります。理想的なCaO重量はMgOの3.5倍、K2Oの3.0倍です。
pH6.0の場合は、塩基飽和度は70%ですから、上記の比率を0.875倍(=70%/80%)すれば求まります。CEC=30meq/100gの土壌の場合
・ CaO:MgO:K2O=368mg:105mg:122mg (合計595mg)
となります。pHを6.5から6.0に下げると、85mg(680mg-595mg)のミネラルが減少します。この土質の場合pH1だけ変化させるには、170mg/100gのミネラルが必要です。これは1反当たり170kgの施肥量に相当します。30kg/袋で6袋分のミネラルが必要です。

・不足肥料の計算
 土壌分析の結果に基づいて不足肥料の計算をしてみましょう。例えば土壌分析の結果、CEC=28meq/100gかつ
・ CaO:MgO:K2O=280mg:100mg:94mg (合計480mg)
であったとしましょう。この当量比は
・CaO:MgO:K2O=280mg/28:100mg/20:94mg/47=10meq:5meq:2meq(合計17meq)
となります。飽和塩基度は
・ 17meq/28meq×100=60%
です。土壌pH5.5と酸性になっています。pH6.5にするには、
・ CEC=17meq×80%/60%=23meq
を狙って、23meqを5:2:1に分配します。
CaO:MgO:K2O=23meq×5/8:23meq×2/8:23meq×1/8=14.4:5.8:2.8(合計23)
ですから、電荷比を重量比に換算すると
CaO:MgO:K2O=14.4meq×28(mg/meq):5.8meq×20:2.8meq×47 より
・ CaO:MgO:K2O==403mg:116mg:132mg
となります。不足分は、100g土壌あたり
・ ⊿CaO:⊿MgO:⊿K2O=403mg-280mg:116mg-100mg:132mg-94mg
=123mg:16mg:38mg
となります。これを1反当たりの施肥量に換算します。

・施肥量の計算
まず耕深10cm(ロ-タリ-)、土壌比重1g/cm3を仮定し、1反当たりの施肥重量(kg)を求めます。その後で耕深と土壌比重の計測値から施肥量を補正します。1反は10a(アール)で1000m^2です。肥料を入れる体積は100m^3となります。土壌比重は1g/cm3=1ton/m^3なので、100m^2の土壌重量は100tonになります。CaOを100g当たり123mg投入する場合、100万倍して、1反(100ton)当たり123kg施肥することになります。つまりmgをkgに変更するだけで、1反当たりの施肥量に換算できます。従って施肥量は
・ ⊿CaO:⊿MgO:⊿K2O=123kg:16kg:38kg (10m×100mの面積)
となります。20cm深さの場合は、施肥量を2倍にします。比重1.2の場合は1.2倍します。肥料の種類が異なる場合は換算します。CaCO3ならば、分子量100gなので、CaOの分子量56gに対して、1.78倍(=100/56)の重さの施肥量になります。堆肥のときは、堆肥に含まれる3つのミネラルを分析で求めて、不足分を補うように計算しなければなりません。施肥するときは、もちろん肥料をよく混ぜて、畑に均一に撒いて、深さを一定にして均一に耕さなければなりません。CECの低い土壌は追肥をして収量を上げます。

・収穫量の予想
 収穫量はCECから予想できます。CEC=10meq/100gとします。窒素含有量は20%程度、窒素の原子量は14gなので、土壌100g当たり
・ N量=10meq×0.2×14=28mg/100g
1反の土壌重量は100トンだったので、1反当たり28kgになります。作物は施肥量の70%程度を吸収すると言われているので、
・作物が利用できるN量=20kg/反(=28kg/反×0.7)
です。。肥料の値段は5万円以内でしょう。トウモロコシ1tを作るのに窒素は20kg必要(実に10kg、茎葉に10kg)です。
・ トウモロコシの収穫量=20(kg/反)/20(kg/t)=1.0ton/反
となります。1本400gが200円くらいです。
・ 売上=1000(kg/反)/0.4kg×200円=50万円/反
CEC=30 meq/100gであったとしても、トウモロコシの反収は150万円程度です
一方トマトの場合は、1tを作るのに窒素は5kg必要です。
・ トマトの収穫量=20(kg/反)/5(kg/t)=4.0ton/反
となります。1個200gが200円くらいなので
・ 売上=4000(kg/反)/0.2kg×200円=400万円/反
となります。但しトマトは脇芽の除去など手間がかかります。CEC=15meq/100gで反収600万円なので、生活がなりたちそうです。
それでも息子はトウモロコシ農家になりたいなどと申しております。トウモロコシは6月など早い時期に出荷できれば、9月の3倍の値段で売れます。特別に高価な品種であるとか、お祭りとか娯楽施設など高値で卸せるのであればいいですけど、そうでなければ難しい作物ではないでしょうか。


・塩基バランス
 塩基飽和度とはCECに占めるCa、Mg、Kの合計の割合です。塩基飽和度が80%だとPH=6.5になり、作物の成長に望ましいです。電荷量Eqに換算した比率で「Ca:Mg:K=5:2:1」の割合が理想的な塩基バランスだとされています。この塩基バランスで、作物にあった塩基飽和度のとき、経験的に作物の品質は安定します。
塩基バランスが崩れて苦土が少ないとリン酸が土壌にたくさんあっても吸収できないなどの障害がおこります。塩基バランスを整えると、リン酸の吸収がよくなって病害虫も少なくなり、農薬散布がいらなくなります。また、土壌微生物の環境が改善され有機物の分解と腐植の生成が進み土壌の養分保持力も向上します。塩基バランスや飽和度が崩れた土壌に微生物資材を使っても効果はでません。
 こどもの頃フル-チェというおやつが好きでした。これは果物の糖に牛乳を混ぜてゲル状に固めたものです。ペクチンとCaが反応して固まります。細胞壁はセルロ-ス繊維にペクチンから成っています。Caを摂ると細胞壁が固くなり、病虫害に強くなり日持ちがする野菜ができます。Kは浸透圧を調整しています。Kが多くなると水分が多くなるので果物が膨らんで柔らかくなるイメ-ジです。例えば柔らかいバナナはKが多いです。つまり直観的にはCaは作物を締める働き、Kは作物を緩める働きをします。だからそのバランスをとることが必要です。

6-2土壌分析とはどのようなものでしょうか?

土壌分析や堆肥分析では、100gの土壌に残留している各種ミネラルの質量、土壌や堆肥のpHやCECを得ることができます。収穫したい作物量に必要なミネラル量に対する不足分を求め、適正なミネラルの施肥量を知ることができます。土壌分析は3000円~1万円程度で外注することができます。施肥量の計算ソフトも開発されています。以下に土壌分析に必要な知識について述べます。

・陽イオン交換容量CEC(=Cation Exchange Capacity)
土壌粒子は負に帯電しているので、その周囲にCa2+、Mg2*、K+、NH4+、H+、Na+などの正イオンをよく吸着します。CECは土壌の持つ陰イオン電荷の総数です。つまりCECは土壌が含有できる陽イオン電荷の総数でもあります。CECが高ければ、ミネラルが豊富な土壌ですので、高い収穫量が期待できます。良い土壌は、土壌100g 当たりのCECが15mEq以上と言われています。

mEqはミリ当量(Equivarennt)と読みます。meと表記されることもあります。Eq=原子量/原子価です。つまりEqは素電荷1モル当たりの原子の質量を表しています。農学では陽イオンを酸化物で考えます。
Caの場合、石灰CaOの分子量は56g(=40+16)で、2価なので、1Eq=56g/2=28g
Mgの場合、苦土MgOの分子量は40g(=24+16)で、2価なので、1Eq=40g/2=20g
Kの場合、K2Oの分子量は94g(=39×2+16)で、1価が2つで、1Eq=94g/2=47g
となります。言い換えれば28gのCaOは、電子1モル(=6×10^23個)の電気量、つまり1Fd(ファラディ)の電気量をもちます。1[Fd]=NA・e=96485[C]です。
ここでは、
・ 石灰1mEqは28mg、苦土1mEqは20mg、加里1mEqは47mg
であることを覚えておきましょう。

・CECのイメ-ジ
土壌粒子は、中華料理店の円卓に例えられます。円卓の座席が交換基で座席数がCECです。Ca、Mg、Kのミネラルが座席を占め、残りの席はH+で占められていると考えます。H+の席数が多ければ、土壌酸性度が高い(pH<7)ことになります。酸性化が進行すれば、Ca、Mg、Kのミネラルが減少し、Mn、Fe、Znの可溶化による過剰症を引き起こします。
土壌酸性度が中性(pH=7)とは、すべての席がミネラルで占められていて、H+イオンが殆どない状態です。アルカリ性は座席が満席で、円卓の外にミネラルが溢れている状態です。土壌がアルカリ化するとMn、Fe、Znの欠乏症を引き起こします。酸性土壌がよくないのはミネラルが少ないからです。

塩基飽和度とは円卓の座席を占有するCa、Mg、Kの合計座席数の割合です。pH=6.5で塩基飽和度が80%、pH=6.0で塩基飽和度が70%、pH=5.5で塩基飽和度が60%となります。pHにはpH(H2O)とpH(KCl)の2種類があります。pH(H2O)はH2Oで溶出して測定したpHで土壌水溶液の水素イオン濃度です。pH(KCl)はKClで溶出して測定したpHで、土壌粒子に吸着した水素イオンも含めた濃度です。そのためpH(KCl)の値はpH(H2O)より1程度低くなるのが普通です。その差が土壌粒子に吸着した水素イオン数に対応しています。

・CECの測定方法
CECの測定は、pH7の酢酸アンモニウム溶液(CH3OO-NH4+)1mol/Lを用います。土壌の交換基に付着している様々な陽イオンを全てNH4+イオンに交換し、過剰のNH4+をアルコールで洗浄します。その後、KCl(塩化カリウム)溶液を注いで、NH4+イオンを全てK+イオンに交換し、浸出させて得られたNH4+イオンを定量して、陽イオン交換容量を求めます。NH4+イオンの定量は、KOH、フェノールおよびニトロプルシッドナトリウムの混合溶液と次亜塩素酸ナトリウム溶液を加え、インドフェノールの青色を発色させて比色します。

・交換性塩基(石灰CaO、苦土MgO、カリK2O)の測定方法
pH7の酢酸アンモニウム1mol/L(塩基抽出試薬)を用いて置換溶出して、交換性塩基を抽出します。具体的には土壌1gを計って100mlのポリ瓶に入れ、塩基抽出試薬20mlを加え、30分間振り混ぜた液をろ過します。抽出ろ液、標準液(CaO:150mg/L)、ブランク(塩基抽出試薬)にそれぞれ発色試薬を混ぜて静置した後、分光光度計(波長530nm)で3つの試料の吸光度を測定します。MgOの標準試薬は30mg/L、分光波長470nmで行います。Ca価数は2より、標準液(CaO:150mg/L)は、土壌含量CaO 300mg/100gに相当します。
・試料のCaO含有量(mg/100g)=300/[標準液CaOの吸光度]×[試料の吸光度]×補正値
で算出します。

6-1植物の生育に適した理想の土とはどのようなものでしょうか?

植物の成長には日照条件、防風条件、排水条件などの土地条件と土壌条件が必要です。野菜作りは土づくりと言われるように、作物の栽培には、作物に適した土づくりが必要です。作物栽培に適した土壌には以下の6つの条件があります。

1) 土質がいいこと
砂は保水性がなく、養分が吸着しないので、作物が殆ど育ちません。粘土では排水が悪く、根を張れないので、作物が育ちません。土壌粒子がある程度細かく、通気性や排水性がよく、栄養分をよく吸着する保肥力が高い土壌が栽培に適しています。もちろん有害な化学物質で汚染されていないことも必要です。

2)土が団粒構造である
 団粒構造の土は排水性、保水性、通気性、保肥性、有用菌特性が良い特徴があります。根は養分を吸収するために水が必要です。一方根は呼吸するために酸素が必要です。土の団粒構造は一見矛盾した特性を兼ね備えることができます。嫌気性生物が形成する腐食が土の団粒構造を作り出します。バームキュライト、黒ぼく土、堆肥、腐葉土は保肥性を高め、作物の増収を実現します。

3)土に有益な微生物が存在している
 有益な好気性微生物は有害菌の繁殖を抑制し、植物の生育に必要なミネラルや養分を生成します。微生物は有機質を食するので、微生物を育成するには有機肥料が適しています。同一作物を栽培し続けると、有害な菌類が蓄積され、連作障害が生じ易くなります。連作障害を防止するためには、土中に有益な微生物を育成することが必要になります。有益な微生物を培養した土壌改良剤が開発されています。

4)水素イオン濃度pH(酸度)が適正である
 一般的な植物はpH6.0~6.5の弱酸性の土を好みます。大きく酸性に傾けば、土中の粘土分に含まれるアルミニウム化合物がAl3+イオンになり、根を痛めます。基本的に電荷の大きいイオンは生体に有害なのです。またAlはリン酸と反応してAlPO4になるので、植物がPを吸収できなくなります。これを土壌のリン酸固定といい、黒ボク土はFeやAlが多いことからリン酸の効きにくい土壌とされています。作物根の有機酸によって溶ける肥料を用いればリン酸固定を回避できます。
逆にアルカリ性に傾けば植物はMgやFeなどを吸収できなくなります。植物が栄養を無駄なく摂取するには、適度なpHを保つ事が必要です。pHを調整するにはCaなどのミネラル成分を調整します。pHはミネラルの塩基飽和度に関連しています。塩基飽和度70~80%位が弱酸性です。

5)塩基バランスが取れていること
 自然界では、風で運ばれる砂や海水、動物の死骸が土地にミネラルを供給します。動物にはCaとMgとKが適正な割合で含まれているので、植物に必要な塩基バランスが取れています。人工的な栽培の場合は、作物を収穫し続けると、畑のミネラルが減少し、塩基バランスも崩れるので、耕作者が調整しなくてはなりません。
健康な作物を栽培できる土壌にはCaとMgとKが適正な割合で含まれていることが必要です。作物によりますが、通常、理想的な割合は、Ca:Mg:K=5:2:1とされています。但しこの比率は、質量の比ではなく、後に説明するモル当量の比率です。葉物野菜の場合は、Caを多くして、Ca:Mg:K=7:2:1を採用する場合もあります。作物に適したpHと塩基バランスを実現するためには、土壌分析や堆肥分析を行い、収穫によって生じたミネラルの不足分を土壌に還元することが必要です。

6)適正な窒素とリン酸濃度があること
 NやPはNO2-、NO3-、PO4-という負イオン形態で植物に吸収されます。土壌粒子は負に帯電しているので、負電荷をもつNとPは土壌に吸着されにくく、洗い流されやすいのです。NやPは主に土の中にいる微生物や昆虫や環形動物などの土壌動物に含まれています。自然界では土壌動物の死体が酸化分解されて腐食となり、徐々にNやPが供給されます。あるいはマメ科の植物と共生している根粒バクテリアが窒素分子を分解固定し、植物本体にNを供給しています。

窒素は微生物や昆虫や環形動物などの土壌動物に含まれています。自然界では土壌動物の死体が酸化分解されて腐食となり、徐々にNやPが供給されます。あるいはマメ科の植物と共生している根粒バクテリアが窒素分子を分解固定し、植物本体にNを供給しています。

土壌が乾燥しやすい場所では、微生物の量が減少し、土壌のpHが中性あるいはアルカリ性になるので、NやPが減少・流出し、作物の成長が阻害されます。あるいは畑でとれた作物を収穫し続けると、畑のミネラルが減少し、酸性化し、栽培に適さなくなります。そのため農業ではNとPを補うために、植物性あるいは動物性の肥料を施します。しかしながらより多く収穫するために、土壌が吸収できる窒素量より多く施肥しがちです。
過剰な施肥は植物を病気に感染しやすくするだけでなく、作物を食する様々な昆虫を異常発生させます。その結果、多種類の農薬を大量に使用することになり、環境汚染が進みます。過剰なNやPは地下に浸透して、地下水や河川を汚染(富栄養化)し、その汚染は湖沼や海洋に及びます。大規模な農業は環境破壊の大きな一因となってきました。

NやPは海洋に輸送され、海洋生物に取り込まれますが、結局は海底に沈みます。深層海流が浮き上がる場所では、栄養塩が再びプランクトンや魚などの海洋生物に利用されます。しかし気候変動により、淡水の流入量が増えて、海洋表層の塩分濃度が下がれば、深層水の浮上もなくなる可能性があります。

6.植物は栄養素をどのように摂取するのでしょうか?

植物は根、茎、葉からできています。根は植物を支えるとともに、水と養分を吸い上げ、茎を通り、葉に供給されます。葉は日光を受け、大気中のCO2を取り入れ、水とCO2から糖やセルロ-スなどの炭水化物を生成します。
炭水化物C6H12O6=(H-C-OH)6は鎖状に結合した6個のCの各々に水すなわちHとOHが結合しています。糖は1番目のCと5番目のCの水酸基のOが結合した環状構造です。隣接するCのOH基は近接を避け交互に配置しています。糖は6印環の1つがOなので、極性を持ち、水に溶けます。糖は水溶性なので師管内を容易に輸送できるのです。
日中、葉から水蒸気と酸素が大気に放出されます。光合成では、H2Oを酸素とH+に分解し、酸素を捨ててNADPHを生産し、分解して取り出したH+を使ってATPを合成します。植物は、NADPHとATPのエネルギを用いて、葉緑体にあるカルビン回路でCO2からブドウ糖を合成します。光エネルギがない夜間は、植物は葉から酸素を吸入して、ブドウ糖を消費して、ATPエネルギを得ます。酸素呼吸とは酸素を消費して水に変え、代謝反応に必要なATPエネルギを生産することです。
 葉で生成された糖の20%は根に送られます。根の表面あるいは内部には真菌や菌根菌が共生しています。植物はこれらの親根細菌に糖分を与え、親根細菌は他の病原性細菌から根を保護しています。菌根菌は土壌の栄養素を植物に与えてもいます。根の細胞には葉緑体はありませんが、ミトコンドリアはあります。つまり根も成長するための代謝反応を行ためにATPが必要で、ミトコンドリアで酸素呼吸をすることでATPを生産しています。呼吸のATP生産に用いられるのがクエン酸回路です。クエン酸回路は10段階の有機酸の合成反応のル-プです。そこでは酵素タンパク質の触媒作用によって酸化反応や脱炭酸反応や脱水反応が生じます。


植物には筋肉はありませんが、代謝反応を促進する酵素のためにタンパク質を必要とします。植物はタンパク質の元になる20種類のアミノ酸を自力で合成しています。アミノ酸の合成は根と葉で行われます。根は吸収したNO3-をNH4+に還元し、炭水化物と反応させて、グルタミン酸、グルタミン、アスパラギン酸、アスパラギンの4種類のアミノ酸を合成します。これらはさらに他の器官へ輸送され、各種アミノ酸の合成に使われます。葉での細胞基質では、ミトコンドリアのクエン酸回路で生成された有機酸を根から送られて来たNO3-やNH4+と反応させて、アミノ酸を生成します。植物や微生物における20種類のアミノ酸はクエン酸回路(呼吸)で生成される6種類の有機酸に由来して次の6つの群に分けられます。

1)グルコ-ス5リン酸由来のHis(ヒスチジン)
2)3-ホスホグリセリン酸由来のSer(セリン)→Cys(システイン)、 Gly(グリシン)
3)ホスホエノールピルビン酸由来のTrp(トリプトファン)、Tyr(チロシン)、Phe(フェニルアラニン)
4)ピルビン酸由来のAla(アラニン)、Leu(ロイシン)、Val(バリン)
5)α-ケトグルタル酸由来のGlu(グルタミン酸)→Gln(グルタミン)、Pro(プロリン)、Arg(アルギニン)
6)オキサロ酢酸由来のAsp(アスパラギン酸)→Asn(アスパラギン)、Thr(トレオニン)、Ile(イソロイシン)、Met(メチオニン)、Lys(リシン)

ヒトは8種類の必須アミノ酸(Phe、Trp、Val、Leu、Ile、Thr、Met、Lys)を植物から摂ります。これらの必須アミノ酸の合成は植物が2段階か3段階以上の手順をかけているものです。10種類の非必須アミノ酸は次の4つの有機酸中間体から合成されます。
1)3-ホスホグリセリン酸 → Ser, Cys, Gly
2)ピルビン酸 → Ala
3)α-ケトグルタル酸 → Glu, Gln, Pro, Arg
4)オキサロ酢酸 → Asp, Asn

アミノ酸はタンパク質合成の素材としてだけでなく、グルコースの合成、脂肪酸、ケトン体、コレステロールの合成、ヘムやプリン環やピリミジンヌクレオチド合成の原料としても利用されます。

ビタミンC合成の進化

ビタミンCは抗酸化物質として重要です。ビタミンC は多くの動物では体内で十分な量が合成できるので必須栄養素ではありませんが、ヒトを含む霊長類、モルモット、果物食性コウモリ、魚類は合成できないので、必須栄養素となっています。
古生代の石炭紀には森林の繁栄により大気中のO2濃度が上昇し、CO2濃度は減少しました。地表に照射される紫外線量はまだ多かったようです。当時水棲の魚類から陸上で生活できる両生類が進化し、栄えました。水中では紫外線は吸収されるので、魚類はビタミンCを合成できません。紫外線に起因する過酸化から体を守るため、腎臓でビタミンCを合成できる両生類が陸上では栄えました。爬虫類も腎臓でビタミンCを合成していました。引き続く恒温動物への進化に伴って、酸素消費量が増大しましたが、原始的な鳥類や哺乳類も腎臓でビタミンCを合成していました。


有袋類になると腎臓に加え肝臓で合成するようになりました。さらに進化したスズメなどの鳥類や哺乳類では、ビタミンCを肝臓で合成するようになりました。これは酸素消費量の増大に伴う過酸化物質産生から身を守るため、より多くのビタミンC合成を効率よく行うために、合成部位が腎臓よりも大きな肝臓に移行したためだと考えられています。ヒトを含めた霊長類はビタミンCを合成できないのは合成酵素遺伝子の突然変異のためです。しかしビタミンCを豊富に含む果物が十分摂取できたため生き延びることができました。

Caの吸収を高めるには

牛乳には100cc当たり100mgのCaが含まれています。しかしCaの吸収率は低く、牛乳で50%程度、ほかの食品では20~30%程度しかありません。年齢とともに吸収率が悪くなるので、中高年の場合にはCa摂取量の目標を1000mg/日にして、できるだけ和食を食べるようにしましょう。一時期、「牛乳を摂ると骨が弱くなる」と言われたことがありましたが、科学的には根拠がないようです。

Caを吸収するには、ビタミンDと紫外線(日光浴)、Mg(マグネシウム)が必要です。ビタミンKも必要ですが、これは体内で再生産されるので欠乏しません。ビタミンDには、紫外線によって皮膚でコレステロール前駆体から生合成されるビタミンD3 (コレカルシフェロール)と、食物から摂取されるビタミンD2(エルゴカルシフェロール)の2種類がありますが、両方の代謝経路と作用は殆ど同じです。 ビタミンDは下部小腸から吸収され、蛋白質と結合して血中を運ばれ、まず肝臓において25位が水酸化されて、25(OH)Dへと変換されます。さらに、腎臓近位尿細管の1α水酸化酵素によって1α位が水酸化され、最終的な活性型ホルモンである1,25(OH)2Dが生成されます。活性型ビタミンDは、Caを骨に届けて固定するまでを手助けします。小魚はCaとビタミンDを含みますが、牛乳にはビタミンDは含まれていません。

ビタミンD2 はキノコなどの植物性食品に含まれ、ビタミンD3 は魚類や鶏卵などの動物性食品に含まれます。中華料理に使うキクラゲ(キノコ)1個(1g)にはビタミンD2が4.3μgもはいっており、2個食べるだけで、1日分の摂取量を賄えます。しらすは大さじ2杯(6μg)で1日分の摂取量が得られます。
Caを吸収するには、Mgとのバランスも重要だと言われています。理想の割合は、Ca:Mg=2:1だそうです。Mgを多く含むのは、大豆製品、海藻、緑黄色野菜、ナッツ類などです。Mgの必要量は1日あたり300mgで、Caの半分程度です。

塩分の摂りすぎ
 忘れがちなのが塩分です。塩分(NaCl)を多くとるとCaの吸収が阻害されると言われています。これはCaCl2が腸で析出して排出されるのではなく、Naの増加によって腎臓でのCaの再吸収が阻害されるということです。もう少し詳しく説明します。

腎臓の糸球体からは遊離Ca2+イオン(濃度5mg/dl)が1日5,000mgも濾過されています。濾過されたCaの殆どは再吸収されて、1日100mg強のCaのみが尿中に排泄されます。濾過されたCaの55%は近位尿細管で、25%がヘンレ係蹄、15%が遠位尿細管で、さらに5%が集合管で再吸収されます。つまり糸球体から濾過されたCaの95%以上が腎尿細管で再吸収されます。このうち近位尿細管でのCa再吸収は、Na輸送に伴う受動的なものであり、ヘンレ上行脚でのCa再吸収もClイオンの輸送に伴う電位差に関連した二次的なものです。
これに対し遠位尿細管でのCa再吸収はNa再吸収や電位差に依存せず、PTHの作用により調節を受けます。つまりNaClの摂取量が増加すると、Ca再吸収の80%を占める尿細管(近位尿細管とヘンレ係蹄)でのCa再吸収が阻害されるというわけです。ちなみに活性ビタミンDは遠位尿細管でのCa再吸収を自ら高めるとともに、PTHのカルシウム再吸収を増強します。

私たちが食塩を摂取するのは、野菜自体には塩分が乏しいからなのでしょう。野菜の塩漬は保存をよくするばかりでなく、うまみ味や塩分を補うよい方法です。ヒトの血液には0.85%の塩分が含まれています。料理の味付けはその濃度に近くするといいようです。食塩は1日に7~8gでよいのですが、日本人は平均して2~3g過剰に食塩を摂取しています。塩分の摂りすぎ自体も血管や腎臓に負担をかけることになります。

ごはんには塩は入っていませんが、パンやチ-ズやハムには塩分が入っています。スナック菓子の塩分も多いです。外食が多い人は、塩分の摂りすぎに注意が必要です。運動をする人は汗で塩分が除去されますが、運動量の少ない人は、ラーメンやうどんの汁を残すようにして、塩分の摂り過ぎを避けるといいでしょう。

エストロゲンとCa
女性は妊娠や授乳期などCaを大量に必要とする時期があります。また閉経期を迎えると、卵巣から分泌される女性ホルモンのエストロゲンが急激に減少します。エストロゲンは、骨からカルシウムが溶け出すのを防ぐ役割を担っているので、エストロゲン量が低下すると、骨がもろくなりやすいのです。また血中Caを血管壁が吸収し、血管が固くなるので、閉経後の女性は血圧が上昇しやすくなります。エストロゲンの減少と塩分の摂りすぎが重なると、腎臓でのカルシウムの再吸収量が減って、尿と一緒にCaが排出されてしまいます。
48歳過ぎからは、食事と運動を習慣づけるといいでしょう。子どもが独立する年齢なので、寂しくなります。子犬を飼って散歩につれていくのはいいことなのかもしれません。

P(リン)の過剰摂取について
Caの推奨摂取量は800mg/日程度で、上限量は2500mg/日程度でした。Pの推奨摂取量は1000mg/日程度で、成人のPの耐容上限量は3000mg/日となっています。この量にできるだけ近づかない注意が必要です。骨の構成物質であるハイドロキシアパタイトCa10(PO4)6(OH)2には、P:Ca=6:10の割合で含まれています。つまり骨にはPより多くのCaが必要です。

リン酸塩とpH調整剤の表示があるソーセージのP摂取量は180±70mg/100g(2015年)です。1食200gのソ-セ-ジには約400mgのPが含まれていると考えていいでしょう。加工食品には上限値にならない程度にリン酸塩が添加されています。しかしリン酸はあまりに多くの加工食品に使われているので過剰摂取が心配されています。

法律では加工食品に用途の記載義務はありますが、添加物名の記載義務はありません。しかし加工食品の材料欄に、結着剤、乳化剤、酸味料、pH調整剤といった用途が記載されていればリン酸塩が含まれています。ハムやソーセージのプリッとした食感はリン酸結着剤によるものです。プロセスチーズの乳化剤は複数のチーズを均一に混ぜるために用いられます。ファミレスのドリンクバーで供給されるコーヒーの抽出液にはリン酸が入っています。お湯で抽出するよりも3倍も多く抽出ができるからです。失われた香りは人工的に添加されています。ラ-メンの麺の食感を作り出すかんすいにもリン酸塩が含まれています。缶詰、佃煮、煮豆、味噌の変色防止やpH調整のためにもリン酸塩が用いられています。添加物の摂り過ぎが体に良くない理由を理解した上で、上手に添加物と付き合いましょう。

 

5.食生活で気を付けることはあるでしょうか?

日本人はCa不足
Caは健康に重要な多量必須元素ですが、日本の国土の多くはCa含有量が少ない火山灰地なので、飲み水や野菜にもCaが少ないと言われています。厚生労働省の調査によると18~29歳のCa摂取推奨量が男性で1日あたり800 mg、女性で650mgのところ、実際の摂取量は男性約450 mg、女性約400mgだということです。Caの不足分は男性約350 mg、女性約250 mgにものぼります。ちなみにCa摂取量の上限は、1日あたり2500mgです。日本人のCa摂取量は米国人の1/3と言われています。特に更年期の女性は、女性ホルモンが減少し、骨粗鬆症になりやすいので、食事と運動に注意が必要です。病院に行くと膝や腰や首の具合が悪い人が大勢います。Caを見ていると日本人の様々な問題点が浮かび上がります。

Caの入出力バランス
長期的にCa摂取量が600mg/日を下回ると、骨粗鬆症を引き起こします。600mgのうち小腸で吸収されるのは200mg程度です。逆に消化管から100mg弱のCaが腸に排出されるので、正味100mg強のCaが吸収されます。骨は500mg/日程度のCaを排出し、同量を吸収しているので、100mg強のCaは尿中に排出されます。
 Caの99%は骨に、0.9%は細胞に、0.1%が血液にあります。血清Caの45%はアルブミン蛋白と結合し、10%がCa塩、残りの45%がCa2+イオンとして存在しています。血液中のCa濃度は副甲状腺ホルモン(PTH)や活性型ビタミンD(1,25(OH)2D)などのCa調節ホルモンによって、8,5~10,2mg/dlの範囲に維持されています。

Ca不足が引き起こす疾病
摂取されるCa量が600mg/日を下回ると、血中Ca濃度を一定に保つために、PTHホルモンが分泌されて、不足分以上のCaが骨から放出されます。つまり逆にCa不足により血中Ca濃度が上がる傾向があるのです。それが腎臓結石や高血圧症や動脈硬化を引き起こします。というのは、PTHホルモンは、Caを細胞内に取り込む働きもするので、過剰なCaが血管壁細胞に入り、血管を収縮させ、高血圧を引き起こすからです。

Ca不足は、骨粗鬆症や高血圧だけでなく、痴呆症、細胞の免疫力の低下によるがん細胞の発生、情緒の不安定、アレルギ-疾患、歯質劣化なども引き起こします。細胞膜のCa透過性が低いために、細胞内のCa濃度は10^-8モル台、血中のCa濃度は10^-3モルに維持されています。Ca濃度が高くなると、瞼の痙攣、手足がつる、物忘れ、イライラなどの症状が生じます。これらの症状があればCa摂取不足が疑われます。細胞のNaチャネルの周りにはCaが存在し、Naが細胞内に入るのを妨げています。細胞内の電位は細胞外より70mV低くなっています。Caが不足するとNa陽イオンが細胞内に入り、電位が上昇して、神経が興奮したり、筋肉が収縮したりするのです。成長期の子どもは、骨を成長させるために、よりCaが必要なのですから、Ca不足による学習障害が現われやすいと考えられます。

Ca不足の原因は食生活の欧米化
Caを含む食品には乳製品、小魚、豆類、緑黄色野菜などがあります。小魚としてはシシャモ、小アジの南蛮漬け、しらす干し、サバの水煮缶詰があります。和食はCaを豊富に含む理想的な食事でした。日本人のCa不足を招いている主な原因は、食生活の欧米化にあると言われています。食生活の欧米化により、
1)Caを多く含む食品群を摂らず、
2)Pを含む肉や加工食品や添加物を多く摂る、
3)塩分やPを含むスナック菓子などを多く摂る
ことがCa不足を招いているのです。

過剰なPはCaの吸収を妨げる
肉や加工食品には多量のPが含まれています。Pは食品添加物として、インスタント食品や清涼飲料水などにも多く含まれています。PとCaは骨の代謝に密接に関わり、その比率はP:Ca=1:1~2が理想とされています。Pは骨へのCaの沈着を助ける働きをしますが、Pを摂り過ぎるとCaは体外へ排出されます。腸内でCaPO4結晶ができ、吸収できずに排出されるのです。アルコールは腸でのCaの吸収を妨げます。

4.どうしてそれらの元素は生物の必須元素になったのでしょうか?

それは生物の生きていた環境に利用しやすい形で存在していたからだと考えられます。古代の生物は、海水中に生息していたため、海水によく溶けている元素を利用して進化してきたのでしょう。古代の海洋環境から、海水に溶けていた元素を推定できれば、生物進化の手がかりを得ることができます。
太古代(40億年前~25億年前)は大気も海洋も還元的で、海底にはFeSなどの硫化物が豊富でした。初期の生物は38億年前には存在していたので、硫化物環境で得られる元素を利用したと考えられます。原生代(25億年前~5億年前)初期には、シアノバクテリアが酸素を放出し、大量の鉄酸化物が堆積しました。それによって大気中の酸素濃度は現在の1%程度に増加し、海洋は少し酸化的になりました。顕生代(5億年前)以後は、植物が誕生したことで酸素濃度が劇的に増加し、海洋は酸化的で、海底にはマンガン酸化物などが形成されました。現代型生物は酸化的な環境で得られる元素を利用したと考えられます。
特に22億年前の全球凍結が急速な温暖化によって解除されたとき、花崗岩の風化が進み、海洋のリン濃度が上昇しました。それによってシアノバクテリアが増殖し、大量の酸素を放出したと考えられています。当時の海洋には鉄分が少なく、海底にはマンガン酸化物が堆積し、海洋は急速に酸化的になったと考えられています。その後オゾン層が形成され、紫外線を免れた植物が上陸し、石炭紀には裸子植物の森により現在よりも高い大気酸素濃度が実現されていました。

微量元素の挙動評価には、さまざまな化学環境下における吸着挙動を理解することが重要です。昨年、東京大学の高橋嘉夫教授らは、放射光(XAFS)による測定からW(タングステン)とMo(モリブデン)では、酸化的な海水底にあるFe-Mn酸化物との結合形態に違いがあることを見出しました。WO4^2-はFe-Mn酸化物の表面に内圏錯体として強く結合するために、酸化的な海水中のW濃度は小さいです。一方MoO4^2-はFe-Mn酸化物の表面に外圏錯体として弱く吸着するために、酸化的な海水中のMo濃度は大きくなるというのです。一方、天然試料や室内分析から、還元的な海洋では、FeSが沈殿しており、MoはFeSに吸着しやすいですが、WはFeSに吸着しにくく、Wイオンとして海中に溶けることが分かりました。高橋教授らは、生物にとって、酸化的海洋ではMoの方がWより利用しやすいが、還元的な海洋ではWの方がMoより利用しやすかったと結論しました。現代生物にとってMoは必須元素で、Wは毒性元素となりました。しかし古代生物にとってはWが必須元素で、Moが毒性元素であった可能性があります。

高橋教授らは、酸化的な海水おいてFe-Mn酸化物に接する海水への溶解度が小さい順に各元素を並べました。以下にそれらを4つに分けて表示します。

1)海水に殆ど溶けない元素(酸化的な海水)
・溶解度[10^-10]<Pb<Co<[10^-9]<Mn=Ce=Te<[10^-8]
 CoとMnは微量必須元素である。PbとTeには毒性がある。
セリウム(Ce)酸化物は研磨剤に使われ、毒性はない。
 
2)海水に溶けにくい元素
・溶解度[10^-8]=La=Fe<Ho<Er<Zr<Tl=Cu=[10^-7]
・溶解度[10^-7]<Al<Ni<Zn<Be=W=[10^-6]
 FeとCuとZnは微量必須元素である。Tl、Al、Be、Wには毒性がある。

3)海水に溶けやすい元素
・溶解度「10^-6]<P=V<Sb<Ba=Cr=[10^-5]
・溶解度[10^-5]<As<Cd<Si<Se<[10^-4]=Mo<U<<[10^-3]
 Pは多量必須元素、Cr、Se、Moは微量必須元素である。
Sb、Ba、As、Cd、Uには毒性がある。
Vを必須とする動物がいる。Siは血管や腱に含まれ、有用元素の指摘もある。

4)海水によく溶ける元素
・溶解度[10^-3]<<Sr<Ca<[10^-2]<B<Li<K=[10^-1]=Mg<S<Na<[1]<Cl<Br
 Caは多量必須元素、K、Mg、S、Na、Clは少量必須元素である。
Brは存在量が少なく気化しやすいので、海水によく溶ける元素には有害なものはない。
SrとBとBrを必須とする動物がいる。Brはショウジョウバエで必須(2014)
Bは植物の必須元素。Naに関しては、NAD-ME型のC4植物で必須性が証明されている。
 Liは人体に極微量含まれ、有用元素の指摘もある。

以上の結果から分かること
・微量元素は海水に溶けにくい元素であり、生物が入手困難な元素である。
・多量元素や少量元素は海水に溶けやすく、生物が入手容易な元素である。
・海水に溶けやすい元素に有害なものはない。
・Co、Mn、Feは溶解度が極めて小さく、入手困難な元素である。
・Pは多量元素であるが、溶解度が小さく、入手が容易ではない。

化学種の置かれている環境や化学種の存在形態によって、環境中の存在場所と存在量、移動速度が異なります。地球分子化学では、個々の元素について、そのミクロな性質から環境中の分布量や変化速度などのマクロな性質を解き明かします。細菌はミクロな性質を変えて環境にマクロな変化を引き起こしてきました。植物は、環境に物質を放出して必要な元素のミクロな存在形態を変えて吸収し、環境にマクロな植生変化を生じさせます。例えば、日照りが続くとFeがFe(OH)3という不溶性物質になるので、植物は利用できなくなります。大麦はムギネ酸を生合成し、土壌中に分泌することで、Feとムギネ酸の錯体を形成し、水に可溶化してFeを吸収しています。

3-4.その他の微量元素の効能

Cu(銅)
Cuの代謝における主要臓器は肝臓であり、主要代謝経路は胆汁系です。Cuは血清アルブミンと結合し、肝、腎でセルロプラスミンに取り込まれ、肝臓に達したCuは胆汁中に分泌され、胆管経路を経て糞中に排泄されます。肝、腎に高濃度に存在しますが、臓器特異性はありません。Cuイオンは各種の酸化還元酵素の補因子として種々の生理作用に機能します。酸素運搬、電子伝達などの生命機能の維持にかかわるCu酵素の活性化機構に関与しています。Cu欠乏はセルロプラスミン、シトクロムC酸化酵素、リシル酸化酵素、チロシナーゼの活性低下を誘発します。先天性の欠乏症としてメンケス病、過剰症としてウイルソン病があります。

植物のMn(マンガン)
Mnは光合成に必要です。Mnを含む植物酵素には、光化学系PSII複合体の構成員と、光化学系から発生する活性酸素種の除去をするSODが含まれます。クロロプラスト中のMnはほぼすべて、チラコイド膜に結合しているPSIIのMn酵素です。葉に存在するSODの90%以上はクロロプラストで、4〜5%だけがミトコンドリアに分布しています。Mn-SODはこの微量の分布先であるミトコンドリアとペルオキシソームにある。Mnが不足するとミトコンドリアの呼吸機能が損なわれます。 Mn酵素は光合成のほか、様々な生理反応に関与しています。

ヒトのMn(マンガン)
Mnはトランスフェリンと結合し、血液循環によりすみやかに各臓器へ輸送され、肝臓を経由して胆汁に移行し、ほとんど全部が腸管壁より糞便に排泄されます。肝、腎、脳下垂体、甲状腺、副腎、すい臓などに多く含まれます。細胞内でのMnはミトコンドリアに局在しています。糖新生過程のピルビン酸カルボキシラーゼ、骨形成時のプロテオグリカン合成に重要なグルコシル・トランスフェラーゼ、抗酸化作用を持つSODの補欠因子として機能します。CaやPはMnの吸収や貯留を妨害することがあります。

Se(セレン)
摂取したSeの体内動態はSeの栄養状態により変化します。Se充足状態では肝、腎に蓄積した後、すみやかに排泄されます。Se欠乏状態では精巣、甲状腺など内分泌器官に優先的に分布します。生体内に吸収されたSe化合物は最終的にセレナイドに代謝され、Se含有タンパク質に取り込まれ、セレノシステインとして存在します。Seはグルタチオンペルオキシダーゼやチオレドキシン還元酵素などの抗酸化酵素、あるいは甲状腺ホルモン(チロキシン)の代謝(T4からT3に変換する)に必要な脱ヨード化酵素の構成成分になります。Se欠乏は心筋症を誘発(中国・克山病)します。Se過剰は神経症状、胃腸障害、成長障害、爪の変色と脱落、脱毛などの症状を誘発します。

Mo(モリブデン)

現在、植物と動物をあわせて約20種類ほどのMo含有酵素が知られています。その中で最もよく知られている酵素は、ニトロゲナーゼです。これは窒素固定における窒素をアンモニアに変換する反応を触媒する酵素です。この酵素はマメ科植物の根に共生する根粒菌(リゾビウム属)の菌体内に含まれ、空気から取り入れられた分子状窒素をアンモニアに変換します。

ヒトの腸内でMoはモリブデートイオン(MoO₄²⁻)の形で吸収され、直ちに血中に入り、1日で尿に排泄されます。Moは肝、腎、脾、肺、脳、筋肉に存在します。体内Moのほとんどはアミノ酸代謝酵素、核酸代謝酵素、硫酸代謝酵素などの酵素の活性中心として存在します。糖質や脂質の代謝を助け、貧血を予防します。Mo欠乏は息切れ、速い心拍数、悪心、嘔吐、方向感覚の喪失、昏睡などの症状を誘発します。食事からの欠乏はありません。肝に多含のアルデヒド酸化酵素、亜硫酸酸化酵素、キサンチン酸化酵素などの活性中心でもあります。MoはCuと拮抗することがあります。Moは通常の食事で充分に摂取することができ、また、他の重金属に比べて比較的毒性が低いため、過剰症が問題となることはほとんどありません
 哺乳類の生体内でMoはキサンチンオキシダーゼ、アルデヒドオキシダーゼ、亜硫酸オキシダーゼの構成成分となっています。

1)尿素合成酵素
キサンチンオキシダーゼ(xanthine oxidase)は尿酸合成に関する酵素です。アデニン (adenine) やグアニン(guanine)は核酸を構成する主要塩基です。グアニンはサンマ等の魚類の銀白色部位を構成する主要成分でもあります。名称の由来は、海鳥の糞の堆積物(グアノ)中から発見されたことによります。これらはCNHとNH3を混合して加熱するだけで合成されるため、原始の地球でもありふれた有機物であったと考えられます。グアニンのプリン環のアミノ基を酸素に置換するとキサンチンが得られます。アデニンのアミノ基を酸素に置換するとヒポキサンチンが得られます。キサンチンオキシダーゼはヒポキサンチンやキサンチンに酸素を付加し尿酸をつくる酵素です。
・ ヒポキサンチン+H2O+O2 → キサンチン+H2O2
・ キサンチン+H2O+O2  → 尿酸+ H2O2
つまりDNAやATPが分解されると尿酸ができます。大部分の哺乳類はウリカ-ゼという尿酸分解酵素を持っているので、尿酸は体内にたまりません。ところがヒトを含む霊長類と鳥類は尿酸を分解する尿酸酸化酵素が遺伝的に欠損しており、尿酸をそのまま体外に排出しますが、尿酸が体内にたまる傾向があります。普通の人の体内には1.2gの尿酸があり、一日約0.6gの尿酸が作られ、0.6gが腎臓から排出されます。食品から入る尿酸よりも細胞代謝で生じる尿酸の方が圧倒的に多いです。血中の尿酸値が7mg/dlをこすと「高尿酸血症」と診断されます。
最近注目されているのが、肥満や高血圧、中性脂肪が高い人ほど、痛風の発生率が高いということです。腎臓の尿酸排泄能力が低い人も痛風の発生率が高いです。痛風は30歳代以降の男性に多い病気ですが、更年期を過ぎた60歳代以降の女性にも起こります。エストロゲンに尿酸の排泄を促進する働きがあるためです。

2)アルコール脱水酵素
アルデヒドデヒドロゲナーゼはアルデヒドをカルボン酸に変換する酵素です。この酵素はアルコールの代謝に必須な酵素で、代謝産物である酢酸は体内でエネルギ源の一つとして利用されます。

3)亜硫酸分解酵素
亜硫酸オキシダーゼ(sulfite oxidase)は、Moとヘムを補酵素として利用する、すべての真核生物のミトコンドリアに存在する酵素です。亜硫酸オキシダーゼは亜硫酸イオンを無毒化し、得られた電子でATPを合成します。具体的にはO=Mo-酵素が亜硫酸SO32-を吸着し、水を分解して、亜硫酸にOを与えて硫酸H2SO4に変化させて、電子を2個得ます。
・ SO32- + H2O → H2SO4 + 2e-
得られた電子はシトクロムcを経由して電子伝達系へ移され、酸化的リン酸化によるATP合成に使われます。これは硫黄を含む化合物の代謝の最終ステップであり、硫酸は排泄されます。

亜鉛が関わる代謝反応

・植物のZn(亜鉛)
Znは二価陽イオンとして存在し、FeやCuとは異なり酸化還元反応性を持たないため、安定にリガンドと結合します。この化学的特性が、Znの構造、触媒、調節の作用に重要で、、亜鉛が生命活動を営む上で必須となっています。そのためZnが細胞に与える直接的な毒性は非常に低いですが、他の必須元素との競合により細胞に障害を与えるため、細胞質のZn2+イオン濃度はピコ(10-12)モル以下の非常に低いレベルに保たれています。
亜鉛は植物体内の各種酵素の構成成分である。また、植物ホルモンであるオーキシンの 代謝、タンパク質の合成に関与する。高 pH や、りん(P)が多量にあると、吸収されにく くなる。

亜鉛酵素は植物成長ホルモンのオーキシンの代謝、光合成、DNA複製で働きます。亜鉛依存性の炭酸脱水酵素は、葉緑体ストロマにおいて植物体内の炭酸から、光合成の基質である二酸化炭素を供給します。

・ヒトのZn(亜鉛)
人体中の亜鉛は70kgのヒトで ~2.3gあります。これはFeの1/2であり、Cuの30倍、Mnの100倍に相当します。Znが最も多く存在しているのは皮膚で、全体の20%を占めています。亜鉛を含む酵素は300種類以上あります。1963年にヒトの亜鉛欠乏症がはじめて報告されました。それ以来,胎児の発育,皮膚およびその付属器官の新陳代謝、生殖機能、骨格の発育、味覚および嗅覚の維持、精神神経作用と行動への影響、免疫機能維持、抗酸化作用などに亜鉛が係わっていることが知られています。亜鉛は、赤血球から二酸化炭素を転送するためにも必要です。亜鉛の必要量は10~12mg/日で、許容上限摂取量は最大30mg/日です。糖尿病患者では血清亜鉛濃度が約40%低下しているといわています。この低下の原因は、亜鉛の尿への排泄の増加と亜鉛の吸収の減少だとされています。

亜鉛が関わる代謝反応について述べます。

1)アルコール脱水素酵素ADH(=Alcohol dehydrogenase)にはZnが含まれます。ADHは補酵素NAD+ (ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド)の存在下でアルコールの酸化およびアルデヒドの還元を触媒します。
・ CH3CH2OH + NAD + ⟶ CH3CHO + NADH + H+
ADHにおいては、2個のシステイン残基と1個のヒスチジン残基がZn2+の3つの配位座を占め、残りの1つの配位座に水分子が配位しています。

2)アルカリホスファターゼALP(=Alkaline Phosphatase)はアルカリ性条件下(pH=10.2)でリン酸エステル化合物を加水分解し、基質からリン酸部分を取り除く反応をする酵素です。
・ 基質-O-PO32- + H-OH → 基質-OH + HO-PO32-

3)炭酸脱水酵素
炭酸脱水酵素は破骨細胞の骨吸収部位の酸性化に関与していることが知られており、亜鉛の低下は骨の吸収を阻害します。

4)SOD (Superoxide dismutase)
SODがないと体重に対して消費する酸素の量が多い動物種ほど寿命が短くなるはずです。しかしSODが活性酸素を除去するために寿命が延びます。ヒトが長寿命なのはSOD活性が高いからだと言われています。
Cu-Zn-SODは分子量32,500のホモ二量体です。すべての真核細胞の細胞質基質はCu-Zn-SODを含みます。CuおよびZnは6個のヒスチジンと1個アスパラギン酸側鎖に配位しており、1つのヒスチジンはCuとZnで共有されています。SODの作用で活性酸素O2-が過酸化水素H2O2に変化します。
・ Cu+-SOD + O2- +2H+ → Cu2+-SOD + H2O2
SODの働きが低下すると細胞内の活性酸素、過酸化物が増えてDNAや細胞に障害を与えます。大腸菌など多くのバクテリアや植物の色素体ではFe-SODあるいはMn-SODが見られます。細菌の中には六量体Ni-SODをもつものも発見されています。
ヒトや大部分の脊椎動物では3種のSODが存在します。細胞質にあるのは二量体Cu-Zn-SOD、細胞外空間にあるのは四量体Cu-Zn-SODです。ミトコンドリアには四量体Mn-SODがあります。Mnイオンの配位子は3個のヒスチジン側鎖、1個のアスパラギン酸側鎖と水またはOH配位子で、マンガンの酸化数(2+と3+)に依存します。

5)Znを含むペプチダ-ゼ
血圧を調整するペプチドホルモンにアンジオテンシンがあります。アンジオテンシン変換酵素ACE(=angiotensin converting enzyme)は、アンジオテンシンIの末端の2アミノ酸を切り離し、昇圧作用のあるアンジオテンシンIIを切り出します。ACEペプチダーゼは活性中心にZnを有しています。

7)マトリックスメタロプロテアーゼMMP (=Matrix metalloproteinase)
MMPは活性中心に金属イオンが配座しているタンパク質分解酵素です。MMPの活性中心には亜鉛イオン(Zn2+)やカルシウムイオン(Ca2+)が含まれます。コラーゲンやプロテオグリカン、エラスチンなどから成る細胞外マトリックスの分解をはじめとし、細胞表面に発現するタンパク質の分解、生理活性物質の生産など多岐にわたる作用があります。MMPは1962年にオタマジャクシの変態において尾が吸収される過程に関与する酵素として発見されました。1968年にMMPはヒトの皮膚に存在することが示されました。

亜鉛を豊富に含むものは、レバーをはじめとする肉類と、その加工食品や牡蠣などです。亜鉛は小麦や穀類や豆類にも含まれていますが、食物繊維やフィチン酸を含有しているため、吸収され難くなっています。酵母による発酵したパンでは、フィチン酸は分解されます。中近東地方では発酵しないパンの常食で、亜鉛欠乏による小人症が発生しました。
菜食主義者や食物繊維の多い食事をとる人々は、亜鉛欠乏を起こす危険性が高いといえます。高齢者や栄養不良の人、糖尿病、肝臓病、あるいは腎臓病の患者も、亜鉛欠乏症になることがあります。亜鉛欠乏の症状には、食欲の変化、皮膚の肌理の変化、味覚障害、頭髪の傷み、爪の白斑、ならびに創傷治癒の遅れなどがあります。

3.3ヒトと植物の両方に必要なFe、Zn、Cu

・ヒトのFe(鉄)
Feは酸素の運搬、電子伝達、生体エネルギ生成などの生命機能の維持に関わるヘムタンパク質に必須の元素です。Feは細胞内代謝や細胞応答に関与する種々の酵素、サイトカイン、ホルモンなどの活性中心において、活性化機構やシグナル伝達機構を担っています。Feはカタラーゼなどの抗酸化酵素の構成成分でもあります。
大部分のFeはタンパク質と結合して存在しています。例えば、豚肉のヘム鉄、大豆のフェリチン鉄といった形です。Feの65%はヘモグロビンとして機能し、5%が筋肉中にミオグロビンとして、約15~30%がフェリチンやヘモシデリン(崩壊ヘモグロビン)として、肝臓や脾臓、骨髄といった臓器に貯蓄されています。
Feの運搬はトランスフェリンが行っています。食事中の鉄分の多くはFe3+です。Fe3+は胃酸で還元されてFe2+になり、十二指腸から吸収されて、毛細血管に入り、血中でトランスフェリンと結合し、一部は赤芽球に取り込まれます。Fe2+は毒性が強いので、トランスフェリンと結合した血清鉄となることで毒性を抑えています。

・ヒトのFe過剰
Fe不足は貧血を引き起こしますが、Feは能動的に排出できないために、人為的に摂取すると徐々に体内に蓄積していき、Fe過剰になります。そうすると遊離Fe2+よる酸化ストレスを引き起こします。例えばフェントン反応
・ Fe2+ + H2O2 → Fe3+ + OH- +・OH(ラジカル)
により、活性酸素種を産みだします。H2O2と同時に発生するO2- (スーパーオキシド)がFe(III)からFe(II)を再生します。
・ Fe3+ + O2- → Fe2+ + O2
この反応によってH2O2からOHが連続的に生成するようになります。過剰鉄による酸化ストレスは肥満・糖尿病,糖尿病性腎症,骨格筋量の減少に関与しています。過剰な鉄の量を減少させることで糖尿病の発症リスクが低下できると言われています。

・植物のFe(鉄)
植物は光合成をしており、葉では常に活性酸素が発生しています。細胞内に過剰のFe2+が存在すると、危険な状態になります。植物は活性酸素による障害を抑えるため、多くの酵素やアスコルビン酸のような抗酸化物質を用いて活性酸素を消去しています。
雨があまり降らないと土壌がアルカリ性になり、土壌の鉄が酸化されてFe(OH)3となって沈澱し、植物の根がFeを吸収できなくなります。このような時、植物は根から酸を放出して鉄を溶かして吸収します。大麦はムギネ酸を放出し、鉄をキレートの形で吸収します。
 植物は根から吸収した鉄イオンをファイトフェリチンとよばれるタンパク質(分子量;44万)に結合させて細胞内に蓄えます。植物は土壌の条件によって鉄を吸収できるとは限らないので、ある程度の鉄を細胞内に蓄えておくのです。鉄が欠乏すると葉の緑色が薄く黄色になります。極端な時は白色になり、成長できなくなります。

・植物にFeが必要な理由
Feは植物の呼吸や窒素の取り込み、葉緑体の合成、光合成の駆動エネルギNADPHの生産、活性酸素の分解などに用いられる酵素タンパク質の活性中心として必須の元素です。

1)呼吸の電子伝達系
ヘム鉄にはFe2+(還元型)とFe3+(酸化型)が存在し、これらが可逆的に変換することにより電子伝達を可能にしています。様々な酸化還元電位を持つシトクロムの存在は生物体での高いエネルギ効率に寄与しています。

2)窒素の取り込み
硝酸をアンモニウムにする反応とアンモニウムをグルタミン酸にする反応を触媒する酵素にFeが含まれます。グルタミン酸を出発点として、葉緑体が合成されます。

3)葉緑体の合成
葉緑体自体にはFeは含まれませんが、葉緑体(プロトポルフィリン環)の前駆体を作る反応にFeを含む酵素が必要です。

3)光合成の駆動エネルギNADPHの生産
フェレドキシン (ferredoxin) は、内部にFe-Sクラスタを含むタンパク質の一つであり、電子伝達体として機能します。光化学系複合体Iでは還元物質NADPHが生産されますが、このときの電子供与体がフェレドキシンです。光化学系Iによって励起された電子がこの低い酸化還元電位を持つ電子伝達体に電子を譲渡し、フェレドキシン:NADP+酸化還元酵素 (FNR) の触媒により、NADPHが生産されます。

4)活性酸素の分解
SODなどに含まれます。