気温減率を用いて上空の気圧を求める

理想気体の静力学平衡の式は
・ dP=-(MairP/RT)gdz=-(g/RairT)・Pdz
でした。よって
・ dP/P=-(g/RairT)dz
となります。
1)温度が一定の場合、上式を積分すると
・ ln(P/P0)=-(g/RairT) (z-z0)=-(z-z0)/H
・ P=P0exp(-(z-z0)/H)
温度を-18℃(255K)とすると
・ H=RairT/g=287[J/KKg]・255K/ 9.8[m/ss]=7.5km
・ P0=1013hPa、Z0=0m
が得られます。

2)上空の温度が気温減率で減少する場合
・ T(z)=T0-Γz、Γ=6.5K/100m
なので
・ dP/P=-(g/ RairT(z))dz=-(g/Rair)・dz/( T0-Γz)
を積分すると
・ ln(P/P0)=(g/RairΓ)・ln((T0-Γz)/T0)
ですから、気圧は
・ P=P0((T0-Γz)/T0)^ (g/RairΓ)  0<z<10km
となります。15℃=288Kでは
・ g/RairΓ=9.8[m/ss]/ 287[J/KKg]0.0065[K/m]=5.25
・ P(z)=1013[hPa]((1-6.5[K/km]・z[km]/288[K])^5.25  0<z<10km
・ P(z=5km)=1013・(1-6.5・5/288)^5.25=1013・0.887^5.25=1013・0.533=540.3hPa
・ P(z=10km)=1013(1-6.5・10/288)^5.25=1013・0.774^5.25=1013・0.261=264.5hPa
となります。

3)10km以上の上空の場合
10kmでの気温 -55℃(218K)が一定となるので
・ H1=RairT/g=287[J/KKg]・218K/ 9.8[m/ss]=6.38km
・ P=246.5[hPa]・exp(-(z-10[km])/6.38[km]) 10km<z
と近似することができます。

飽和水蒸気圧Pvの温度依存性

Pv(T)の関数形
飽和水蒸気圧Pvの温度依存性を求めてみましょう。
・ dPv=QL/ TV・dT
を状態方程式
・ Pv=RvT/V、 Rv=461[J/Kg]
で辺々を割ると
・ dPv/ Pv=(QL/ TV・dT)/ (RvT/V)=(QL/ Rv)(dT /T^2)
となります。これを積分すると、
・ ln(Pv/Pv0)=-(QL/ Rv)(1/T-1/T0)
これをPvについて解くと
・ Pv=6.11・exp{-(QL/ Rv)(1/T-1/T0)} [hPa] for 273K
が得られます。つまり飽和水蒸気圧Pvは、圧力に依存せずに、温度だけの関数になります。

湿潤断熱減率を求める

クラジウス・クラペイロンの式
液体の水と平衡状態にある飽和水蒸気圧Pvの温度係数(dPv/dT)は、潜熱と相変化に伴う体積変化と転移温度に関して、以下の関係
・ dPv/dT=QL/ T(Vgas-Vliquid)≒QL/ TVgas
が成り立ちます。これはクラジウス・クラペイロンの式と呼ばれる式です。Rv=R/Mwater、
・ dPv/dT=(QL/ T)(Pv/PvVgas)=(QL/ T)(Pv/RvT)=(QL/ T)(Pqs/0.622)/RvT
・ 分母=1+(0.622 QL /CpP) (dPv/dT)=1+(0.622 QL /CpP) (QL/ T^2)    (Pqs/0.622Rv)=1+qsQL^2/ CpRvT^2
湿潤断熱減率は
・ dT/dz=-g/Cp{1++QL・qsMair/ RT)}/{1+qsQL^2・Mwater/ CpRT^2}
となります。

クラペイロンの式は、水蒸気と水が共存する系のPV線図において、温度差dTの2つの等温変化と水と水蒸気の相変化を有するサイクルにおいて、相変化で生じる潜熱QLに対してなされる仕事
・ dW=(Vgas-Vliquid)dPv
の割合がカルノ-効率に等しい条件
・ dW/ QL=dT/ T
を表しています。

湿潤断熱減率を求める
温度10℃(=283K)、気圧P=700hPaで飽和している空気塊の湿潤断熱減率を求めてみましょう。データ表から、10℃、700hPaでの飽和混合比は、qs=11.13×10^-3[Kg/Kg]でした。飽和蒸気圧データから、飽和蒸気圧は12.28hPa(10℃)、10.73hPa(8℃)でした。
湿潤断熱減率
・ dT/dz=-g/Cp{1+QL(qsMair/RT)}/{1+(0.622 QL /CpP) (dPv/dT)}
の因子は
・ g/Cp=9.8[m/s^2]/1004[J/KKg]=0.0098[K/m]=9.8[K/km]
となります。分子の中は
・ QL(qsMair/RT)=2.5×10^6[J/Kg]・11.13×10^-3[Kg/Kg]・29×10^-3[Kg]/8.31[J/KKg]/283[K]=0.3425
分母の中は
・ 0.622 QL /CpP=0.622・2.5×10^6[J/Kg]/ 1004[J/KKg]・70000[Pa]=0.0221[K/Pa]
デ-タ表から
・ dPv/dT=(12.28-10.73)/(10-8)=1.55/2=0.775[hPa/K]=77.5[Pa/K]
以上を代入すると、湿潤断熱減率は
dT/dz=-9.8[K/km]・[1+0.3425]/[1+0.0221・77.5]=-9.8[K/km]・0.4945=-4.85[K/km]
つまり約0.5℃/100mであることが示されます。

クラペイロンの式を用いた場合には、
dPv/dT=PQLqs/ 0.622RvT^2
=700[hPa]・2.5×10^6[J/Kg]・11.13×10^-3[Kg/Kg]/{287[J/KKg]・283[K]^2}
=84.73[Pa/K]
となるので、
dT/dz=-9.8[K/km]・[1+0.3425]/[1+0.0221・84.73]=-9.8[K/km]・0.467=-4.58[K/km]
なる0.5℃/100mに近い値が得られました。

乾燥断熱減率と湿潤断熱減率の導出

乾燥断熱減率の導出
断熱過程と静力学平衡の式は比熱比をγ、空気分子1個の質量をMairとすると、
・ dT/T=(γ-1)/γ・dP/P (断熱過程)
・ dP=-(MairP/RT)gdz  (静力学平衡)
と表せました。この式からdPを消去すると
・ dT/T=-(γ-1)/γ・(Mair・g/RT)dz
つまり乾燥断熱減率を表す式
・ dT/dz=-(γ-1)/γ・Mair・g/R
が得られます。空気1モルの重さMは0.029(Kg/mol)ですから
・ dT/dz=-2/7・0.029(Kg/mol)・9.8(m/ss)/ 8.3(J/Kmol)=-9.8℃/km
が得られます。実は空気の定圧比熱は
・ Cp=γ/(γ-1)・R/Mair=(7/2)・287[J/KKg]=1004[J/KKg]
なので、乾燥断熱減率は
・ dT/dz=-g/Cp=-9.8(m/ss)/ 1004[J/KKg]=-9.8℃/km
と表されます。これはおよそ1℃/100mの温度勾配を意味しています。つまり山の斜面で空気塊が押上げらえると、水蒸気が水滴になるまで、100mにつき1℃の割合で空気塊の温度が減少することを示しています。

湿潤断熱減率の導出
乾燥断熱減率はg/Cpであることが分かりました。水滴を含む空気の湿潤断熱減率を求めましょう。湿潤断熱減率を求めるためには、飽和混合比を用います。水蒸気の質量をmv、乾燥空気の質量をmdとすると、飽和混合比qsは
・ qs=mv/md
によって定義されます。qsは圧力と温度に依存しています。乾燥空気と水蒸気の状態方程式はそれぞれ
・ PdV=(md/Mair)RT
・ PvV=(mv/Mwater)RT
で表されます。Pv/P≒3%なので
・ qs=(Mwater/Mair)Pv/Pd=(18/29)Pv/(P-Pv)≒0.622・Pv/P
と表されます。この関係式が重要です。飽和混合比qsは水蒸気圧Pvと全圧力Pの比になっています。両辺の対数を取って微分すると
・ dqs/qs=dPv/Pv-dP/P
となります。後で示しますがPv=Pv(T)、つまりPvは温度だけに依存します。飽和混合比の変化量は
・ dqs=(qs /Pv) (dPv/dT)dT-(qs/P)dP=(0.622 /P) (dPv/dT)dT-(qs/P)dP
と変形できます。湿った空気塊が上昇すると冷えて水滴が発生し、水蒸気圧が低下します。
水蒸気は水滴になるときに凝縮熱QL[J/Kg]を出します。発熱量は
・ d’Q=-QL・dqs=-QL・{(0.622 /P) (dPv/dT)dT-(qs/P)dP}
で与えられます。一方、第一法則は、気体の質量m当たりのエネルギの保存を考えると
・ d’Q=CpdT-(V/m)dP
ですから、両式のd’Qを消去し、dzで両辺を割ると、
・ -QL (0.622 /P) (dPv/dT)(dT/dz)+QL(qs/P)(dP/dz)=Cp(dT/dz)-(V/m)(dP/dz)
・ -Cp{1+(0.622 QL /CpP) (dPv/dT)} (dT/dz)=-{V/m+QL(qs/P)}(dP/dz)
となります。静力学平衡の式
・ dP/dz=-g(m/V)
を代入すると、右辺は
右辺=-{V/m+QL(qs/P)} g(m/V)=g{1+QL(qsm/PV) }=-g{1+QL(qsMair/RT) }
となります。ここでPV=(m/Mair)RTを用いました。乾燥空気の状態方程式を用いるのはよい近似となります。従って湿潤断熱減率は
・ dT/dz=-g/Cp{1+QL(qsMair/RT)}/{1+(0.622 QL /CpP) (dPv/dT)}
と表されます。g/Cpは乾燥空気の断熱減率でした。ここで分母にある(dPv/dT)の値は、飽和水蒸気圧の温度依存性デ-タから求めることができますが、次のように理論的に求めることもできます。

断熱過程と静力学平衡

断熱過程での温度と圧力の関係
(T,P)表示の熱力学第一法則
・ d’Q=CpdT-VdP
に理想気体の状態方程式V=RT/Pを代入すると、
・ d’Q=CpdT-(RT/P)dP=0 (断熱過程)
となります。空気の熱伝導率は小さいので空気塊の上昇は断熱過程(d’Q=0)と考えられます。断熱過程の場合、R=Cp-Cvより
・ dT/T=(R/Cp)dP/P=(γ-1)/γ・dP/P
と書けます。ここでγ=Cp/Cvを比熱比といいます。2原子分子の場合、
・ γ=Cp/Cv=(7R/3)/(5R/3)=7/5
なので、(γ-1)/γ=2/7となります。上式を積分すると
・ lnT=(γ-1)/γlnP+const
・ T/P^(γ-1)/γ=一定
となります。これは圧力が下がると温度が下がること表しています。

静力学平衡
断面積A、高さdZの空気塊に働く圧力差と重力は釣り合っています。空気塊の質量をm、重力加速度をgとすると、
・ ma=A(dP/dz)dZ-mg=0
ですから、V=AdZとして、静力学平衡式は
・ dP=-(m/V)gdz
となります。気体分子1個の質量をMとすると、気体の状態方程式は
・ PV=(m/Mair)RT → m/V=MP/RT
となります。密度m/VはPとTに依存しています。密度を消去すると、
・ dP=-(MairP/RT)gdz
理想気体の静力学平衡の式が得られます。

熱力学の第一法則の表し方

理想気体の状態方程式は
・ PV=RT
で表されます。ここでRは気体定数
・ R=8.314[J/Kmol]
でした。Rは1モルの気体を1K上げるのに必要な熱量です。乾燥空気の分子量はMair=29g/molですから、気象学では乾燥空気の気体定数として
・ Rd=8.314[J/Kmol]/0.0029[kg/mol]=287[J/KKg]
を用います。同様に、水蒸気の気体定数は、Mwater=18g/molなので
・ Rv=8.314[J/Kmol]/0.0018[kg/mol]=461[J/KKg]
となります。両者の比は
・ ε=Rd/Rv=287/461=0.622
となります。

(T,V)表示の熱力学第一法則
熱力学の第一法則は「外部から加えられた熱量d’Qは、内部エネルギの増加量dUと外部にする仕事dWの和で与えられる」と表現されます。
・ d’Q(熱量)=dU(内部エネルギ)+dW(仕事)
理想気体の内部エネルギは、気体の分子間相互作用を無視するために体積に依らないので
・ dU=(dU/dT)v dT+(dU/dV)T dV ≒ (dU/dT)v dT
と書けます。定積比熱
・ Cv=(d’Q/dT)v=(dU/dT)v
を用いると、(T,V)系の熱力学第一法則は
・ d’Q=CvdT+PdV
と表せます。外部から加えた熱は、気体の内部エネルギの上昇と体積膨張によって気体が外部にする仕事の和に等しいことを表しています。ちなみにd’Qのプライムは完全微分ではないことを示すものです。

(T,P)表示の熱力学第一法則
内部エネルギU(T,V,P)は3変数の関数ですが、PV=RTの状態方程式があるので、独立な変数は2つです。先ほどの式は第一法則を2つの独立変数(T,V)で表したものですが、(T,P)を用いて表すこともできます。PV=RTから、
・ RdT =d(PV)=PdV+VdP
が成り立つので、dVをdPとdTで表すことができます。
・ d’Q=CvdT+PdV=(Cv+R)dT-VdP
より、第一法則は(T,P)表示で
・ d’Q=CpdT-VdP
とも書き表せます。ここで定圧比熱
・ Cp≡(d’Q/dT)p=Cv+R (Mayer’s relation)
を導入しました。乾燥空気の定圧比熱は
・ Cp=(7/2)・8.314[J/Kmol]/0.0029[kg/mol]=(7/2)・287[J/KKg]=1004[J/KKg]
です。あるいはエンタルピH=U+PVなる量を用いて、(T,P)表示の第一法則
・ d’Q=dU+PdV=d(U+PV)-VdP=dH-VdP=(dH/dT)pdT-VdP=CpdT-VdP
を導くこともできます。少し分かりにくい形になってしまいますが、圧力と温度は計測や制御がしやすいので、化学系の研究室では、(T,P)表示がよく用いられます。

フェーン(風炎)現象ってどんな現象なの?

フェーン(Föhn)とはドイツ語でアルプスの北麓に吹き降ろす局地風のことだそうです。フェーン現象とは、高山の斜面にあたった湿った空気が雨を降らして山を越え、暖かくて乾いた下降気流となってその付近の気温を上昇させる現象のことです。例えば、標高2000mの山を越える場合、平地で25℃の湿った空気は山頂で15℃となり、山を越えた平地では乾燥空気は35℃になります。その理由は、空気塊が引き上げられる場合、水滴を含むような湿った空気の温度は0.5℃/100m(湿潤断熱減率)の割合で減少しますが、水滴を含まない乾いた空気の温度は1℃/100m(乾燥断熱減率)の割合で減少するからです。つまり山頂から降りてくる乾燥空気の場合は逆に、1℃/100mの割合で増加するからです。

気温減率とは
上空に行くほど気温は低くなります。その低下割合は0.65℃/100mで、気温減率と呼ばれています。登山家は気温減率を用いて山頂の気温を推定します。気温減率はフェーン現象を引き起こす断熱減率とは異なります。地上の平均温度は10℃、10km上空の対流圏での温度は-55℃程度なので、気温減率は温度差65℃を10kmで割った値になります。上空の寒気団の温度によって日々の気温減率は変動します。温度差が大きい方が、大気が不安定になり、対流が活発になります。

ところで乾燥断熱減率や湿潤断熱減率の値はどのようにして求めたのでしょうか?
まず乾燥断熱減率について考えてみましょう。乾燥断熱減率は断熱過程の熱力学第一法則と静力学平衡から求められます。断熱過程の熱力学第一法則は、微小な温度変化dTと体積変化dVの関係を与えます。第一法則の表示を(T,V)系から(T,P)系に変換することで、温度変化dTと圧力変化dPの関係に書き換えることができます。静力学平衡は空気塊の鉛直方向の微小長さdzと圧力変化dPの関係を与えます。従って両者から、温度変化dTと微小長さdzの比である乾燥断熱減率が求まります。