N、P、Kについて

肥料の三要素の機能について簡単に述べましょう。家庭菜園用の肥料の袋には必ずN:P:Kの比率が記載されています。N(窒素)は光合成に必要な葉緑素や核酸の構成元素です。Nは葉肥とも言われ、葉や茎の成長に欠かせません。Nが多すぎると多汁柔軟となり、病気に弱くなります。Nが少ないと葉の色が淡黄色になり、背丈が小さくなり、分けつが減ります。

P(リン)は核酸や酵素の構成元素です。Pはエネルギ代謝に関わるATPにも含まれています。Pは実肥(みごえ)ともいわれ、開花・結実を促進します。土壌中のリン酸が過剰になると、Zn、Fe、Mgの欠乏を誘発します。少ないと着花数が減り、開花結実が遅延します。

K(カリウム)は植物の構成材料ではありませんが、細胞の浸透圧調整、膨圧維持、膜電位形成、タンパク質合成、光合成、デンプン合成、ビタミン類、抗酸化物質の合成にも関与しています。Kが植物内の様々な化学反応を進める進行役(補酵素)となっていることが分かったのは1980年代のことです。NH3やNO3は植物には毒なので早くアミノ酸にしなければなりません。Kはそうした反応も助けています。植物は糖の濃度を高めることで、浸透圧を高め、乾燥や寒さから身を守ります。カリウムが足りないと、糖濃度が高まらず、乾燥や寒さなどのストレスに弱くなります。あるいは細胞壁の材料であるセルロ-スや接着剤のペクチンが減少し、軟弱になります。Kは根肥とも言われ、根の育成を促進します。土壌中のK過剰はMgとCaの欠乏を誘発します。少ないと側根の成長が制限されます。

ヒトにおいてKは細胞の内液に蓄えられています。細胞膜にあるNa/Kポンプの働きで、Kは細胞の中に、Naは細胞外に輸送されています。インスリンは血糖と一緒にKも細胞内に取り込ませるので、インスリンが欠乏すると、高カリウム血症になります。そうなると不整脈や心停止を引き起こさないように、血液を透析しなければなりませんね。

1.どんな元素が生物に必須の元素なのでしょうか?

ヒトに必須な元素はある程度解明されていますが、完全ではありません。なぜなら人体で元素欠乏の実験をすることは許されないからです。また生物の中には特殊な元素に依存するものがいます。例えばあるツバキ科の植物はF(フッ素)を含む防虫剤をつくります。微量な必須元素については、新しい報告があります。例えば2014年にはBr(臭素)がショウジョウバエに必須の元素であることが報告されました。大雑把に言えば、必須ミネラルの種類は動物種間で顕著な差はありません。しかし植物と動物の必須ミネラルは異なっています。

ヒトにおける必須元素は20元素あり、それらは生命の維持、生体の発育・成長、正常な生理機能には不可欠の元素です。アミノ酸、脂肪、糖に含まれるH、O、C、N、核酸や骨に含まれるCaとPの6種類の元素は多量必須元素と呼ばれ、人体の98.5%を占めています。次に多いS、K、Na、Cl、Mgは少量必須元素と呼ばれ、人体の0.05~0.25%を占めています。S(硫黄)はタンパク質に多く含まれています。KやNaやCl(塩素)は細胞の浸透圧の調整や神経伝達に用いられています。ClはHClとして消化液にも含まれていますね。

多量元素と少量元素を合わせた11元素は常量必須元素と呼ばれ、人体の99.3%を占めています。残りの0.7%は微量必須元素(Essential Trace Elements)と呼ばれ、Fe、Zn、Cu、Mn、Se、Mo、I、Cr、Coの9種類が確認されています。薬学生はこれらの9元素を

「私はどうしても黒柳徹子に会えません」

=「 私(I)はどう(Cu)しても(Mo)くろ(Cr)柳てつ(Fe)こ(Co)に   あえ(Zn)ま(Mn)せん(Se)」

といって覚えるそうです。微量元素は重要な代謝反応を進行させる酵素タンパク質の必須成分として直接関与しています。

一方、植物における必須元素は18元素あります。C、H、Oは細胞壁や糖質の原料であり、葉から吸収されるCO2と根から吸収されるH2Oにより得られています。多量必須元素はC、O、H、N、P、Sの6種類があります。少量必須元素はK、Ca、Mgの3種類です。肥料の三要素はN、P、Kでした。微量必須元素はFe、Zn、Cu、Mn、Se、Mo、B、Cl、Niの9種類です。それらの栄養素を1つでも欠くと、植物は異常生育するか、生活環を完結できません。

Siは必須元素ではありませんが、病害抵抗性を増すために有用元素になっています。SiO2は不溶性ですが、SiO4-は水溶性なので、植物はSiも利用できるのでしょう。水稲は細胞壁が薄いのでSiO2で保護するために、特異的にSiを多く吸収します。

石灰肥料について

Caには作物の葉の茂りや根張りを良くする効果があります。畑の土質を作物が成長しやすい弱アルカリ性にするために石灰肥料が混ぜられます。石灰肥料にも色々あります。生石灰(きせっかい)はCaOで、石灰岩CaCO3を加熱して、CO2を飛ばしたものです。
・ CaCO3 → CaO + CO2
生石灰はアルカリ性が最も強いです。消石灰はCa(OH)2で、CaOに水を加えて作ります。
・ CaO+H2O → Ca(OH)2
白い水蒸気を上げて発熱反応する様は、まるで生きているみたいだから生石灰というのでしょう。消石灰は水に溶けやすく即効性があります。

苦土石灰はMgを含む石灰でドロマイトを加熱して粉末化したものです。有機石灰はカキやホタテなどの貝殻を焼いて砕いたものです。炭酸カルシウムや苦土石灰や有機石灰は遅効性の肥料なので、施肥後すぐに定植可能です。
遅効性の石灰肥料は重要です。Caは水に溶けたCa2+イオンとして根から吸い上げられ葉に届きます。一度細胞壁に取り込まれたCaはもう移動しません。だからCa供給が成長途中で途切れると、下葉にはCaがあるが、上葉や実にはCaがなくなり病気になります。苺の実はCa量が減ると柔らかくなり過ぎて日持ちが悪くなります。ミカンは果皮と果肉の間に隙間を生じてしまいます。遅効性の石灰はCa供給を途切れさせない効果があるのです。Ca欠乏症が生じてしまったら、塩化Caや炭酸Ca水溶液を葉面散布する方法があります。

即効性のある石灰肥料は、窒素肥料と同時に土に混ぜ込むと化学反応を起こして有害なアンモニアガス(NH3)を発生させます。
・ (NH2)2CO(尿素)+Ca(OH)2 → CaCO3+2NH3
・ (NH2)2SO4(硫安)+Ca(OH)2 → CaSO4+2H2O+2NH3
・ 2NH4Cl(塩化アンモニウム)+Ca(OH)2 → CaCl2+2H2O+2NH3
NH3ガスを含んだ土壌に作物を植え付けると枯れてしまいます。そのため、先に石灰肥料を土に混ぜ込んでおき、1週間程度時間をおいて土にならしてから元肥を混ぜ込む必要があります。水に溶けたCaイオンが粘土に吸着され、余分なNが土壌からNH3として抜けるまで待つのです。

地殻の構成元素はO(47%)、Si(28%)、Al(8%)、Fe(6%)、Ca(4%)、Na(3%)、K(3%)です。土にはSiとAlが多く、粘土はSiの4面体とAlの8面体とで構成されています。SiがAlと置換する、あるいはAlがMgに置換するので、通常粘土はマイナスに帯電しています。あるいは水和鉱物はOH端からH+が取れて、O-端になることでマイナスに帯電します。石灰肥料が土になれるというのは、石灰肥料が水に溶けて放出したCa2+イオンが負に帯電した粘土に吸着されるからです。

土壌に石灰を投入しても、土の状態が悪ければ、植物はCaを吸収できません。微生物を増やす、土を団粒構造にする、水はけをよくする、肥料の入れ過ぎや入れる時期に注意する、といったことを守るのは、植物にCaを効率よく多量に吸収させるためなのです。過剰な窒素肥料はCaを消費するし、NH3ガスも出るので、入れ過ぎないようにしましょう。

0.動物と植物の元素構成はどのようなものでしょうか?

ヒトは重量換算で61.5%が水分で、タンパク質は17%、脂質が14%、糖質が1.5%、ミネラルが6%です。C、O、Hの3元素だけで全質量の94%を占めます。体重70kgのヒトの場合、水分は42kgで、その中にO(37.3kg)、H(4.7kg)が含まれています。水分を除いたヒトの固形分にはC(16kg)、O(5.7kg)、H(2.3kg)、N(1.8kg)、Ca(1.0kg)、P(780g)の多量元素が含まれています。多量元素には筋肉や骨を構成する元素が多く含まれています。さらにS(140g)、K(140g)、Na(100g)、Cl(95g)、Mg(19g)の少量元素が含まれています。少量元素の多くは細胞の浸透圧を調整するアルカリ金属です。それ以下の微量元素にはSi(18g)、Fe(4.2g)、F(2.6g)、Zn(2.3g)、Cu(72mg)などがあります。SiとFの他に数十mgのRb、Sr、Br、Pbなどの非必須元素も含まれています。微量必須元素としてはFeとZnの量が多いことが分かります。これらはタンパク質と結合して代謝反応を促進する酵素として働きます。

典型的な植物は90%が水分で、10%が固形物です。植物の固形物の90%はC(40%)、O(40%)、H(4%)、N(4%)、P(1%)、S(1%)の6元素から成ります。残りはK(0.4%)、Ca(0.3%)、Mg(0.3%)で、その他は僅かです。植物は、デンプンやセルロ-スが多く、筋肉や骨がないから、殆ど炭水化物でできており、タンパク質に含まれるNやS、骨の元になるPやCaは少ないのです。S(硫黄)は土壌に比較的多く含まれているので、土壌に不足しやすいN、P、Kが肥料の三要素となっています。Caは細胞壁のペクチンに、Mgは葉の葉緑体に含まれています。Ca、Mgはミネラル肥料として施肥されます。

生体必須元素

生体必須元素は、生体の構成と代謝に不可欠な元素です。これが欠けるとなんらかの病気になります。生体必須元素は、私たちの健康な生活に深く関わるだけでなく、地球と生物の共進化の歴史を解明するカギとなるものとして注目されています。

0.動物と植物の元素構成はどのようなものでしょうか?
1.どんな元素が生物に必須の元素なのでしょうか?
2.植物と動物でどんな違いがあるのでしょうか?
3.必須元素はどのような役割を果たしているのでしょうか?
4.どうしてそれらの元素は必須元素になったのでしょうか?
5.食生活で気を付けることはあるでしょうか?

といったことについて考えてみたいと思います。また動物の代表としてヒトを考えます。少し難しい話しもありますが、興味ある方は是非お付き合い下さい。