糖1分子で生産できるATP数はいくつでしょうか?

結局NADHを電子伝達系で用いる場合には、合計10H+がマトリクスから膜間腔へ輸送されます。FADH2の場合は合計6H+が膜間腔へ輸送されます。膜間腔のH+濃度と電位が高くなっているので、ミトコンドリア内膜を挟んだプロトン駆動力を利用してATP合成酵素がATPを合成します。

ATP合成酵素はF0サブユニットとF1サブユニットによる分子モ-タとして機能します。F0はミトコンドリア内膜に埋まっていて、F1はミトコンドリア・マトリクスに突き出た形で存在しています。F0モーターがH+の濃度勾配によるエネルギを使ってF1モーターを回すことによって、ATPを産生しています。3分子のH+がマトリクスへと輸送されるごとにATP1分子が合成されます。

しかし、実際にマトリクスにおいてATPを合成するためには、ATP合成の材料となるADPやリン酸Piをマトリクス内に取り込む必要があります。また、合成されたATPの大部分は細胞質で利用されるため、マトリクスから細胞質へと輸送される必要があります。

内膜を隔てたATP、ADP、Piの輸送
ミトコンドリア内膜を隔てたATP、ADP、 Piの輸送はアデニン・ヌクレオチド・トランスロカーゼとリン酸輸送体という2つの膜タンパク質によって行われています。アデニン・ヌクレオチド・トランスロカーゼは、ATP-ADP交換タンパク質のことで、細胞質のADP3-をミトコンドリア内へ、ミトコンドリア内のATP4-を細胞質へと対向輸送しています。この対向輸送では、プロトン勾配の電荷の差が用いられています。

リン酸輸送体は、細胞質のPiをミトコンドリア内へと輸送するときにH+も同時にミトコンドリア内へと共輸送します。この共輸送ではH+の濃度差が用いられています。ちなみに、対向輸送とは、膜の内外で異なる物質を相互に逆方向に移動させる輸送のことで、共輸送とは、膜の片側から異なる物質を同方向に移動させる輸送のことをいいます。

ミトコンドリアの外にATPを輸送し、マトリクスにADPを供給するためには、H+1個分のプロトン駆動力が用いられていました。ATP合成酵素は3H+で1個のATPを産出するので、細胞質内でATPを1分子増やすためには、4個分のH +が膜間腔からマトリクスに流入する必要があります。この数はNADHやFADH2が1分子あたりでどれくらいのATPを産生するかの指標となります。

細胞質内のATPを1分子増やすためには、4個分のH +が膜間腔からマトリクスに流入するということを踏まえると、NADH1分子あたり
・10[H+]/4[H+/ATP]=2.5ATP
FADH21分子あたり
・6[H+]/4[H+/ATP]=1.5ATP
が合成されることになります。

好気呼吸では、1分子のグルコースが「解糖系→ピルビン酸のアセチルCoAへの変換→クエン酸回路」という経路でATPやNADH、FADH2を生成していました。解糖の過程で2分子のATPと2分子のNADH、2ピルビン酸→2アセチルCoAの過程で2分子のNADH、クエン酸回路の過程で2分子のATP(GTP)と6分子のNADHと2分子のFADH2が生成されます。

・4ATP+10NADH・2.5[ATP/NADH]+2FADH2・1.5[ATP/FADH2]=4+25+3=32ATP
結局1分子のグルコ-スは、嫌気的代謝では2分子のATPしか生成できませんが、好気的代謝では32分子ものATPを細胞外に生成できることが分かります。

細胞は糖を取り込み、ミトコンドリアで大量のATPを合成できることが分かりました。青森出身の安保先生によると、若い時は解糖系の瞬発力を主に使い、老年期になるとミトコンドリア系の持久力を主に使って活動するので、年齢ともに少食にしていった方が適正体重を保ちやすいそうです。

 

TCA回路と電子伝達系

解糖系では1分子のグルコ-スは2分子のピルビン酸を生成するので2分子のNADHを生成します。さらに1分子のピルビン酸は、細胞内のミトコンドリアに送られ、ミトコンドリアのマトリックス内のTCA(tricarboxylic acid cycle)回路で3分子のNADHを発生させます。ミトコンドリアは外膜、膜間腔(まくかんこう)、内膜、マトリックスの2重膜構造を有しています。細胞によっては100~3000個ものミトコンドリアが含まれています。

運動してミトコンドリアが増えると同じ呼吸量でもATPの生産効率が高まるので、楽に走れるようになります。運動前は空腹にしておいて、最初に筋肉トレ-ニングをして汗をかいて有酸素運動状態に入ってから30分歩くだけでミトコンドリアは増加します。サウナの後に水風呂に入るとミトコンドリアは増加します。週末の2日間は摂取カロリを30%減らすのが有効です。日本医科大学の太田成男教授によると1日2時間の運動を1週間続けるだけでミトコンドリアは30%増加すると言われています。

TCA回路ではATP を直接作るのではなく、NADHやFADH2を作ります。さらにNADHやFADH2が呼吸鎖系でミトコンドリア内膜に水素イオンH+の濃度勾配を形成することにより、ATPを産生します。TCA回路は糖代謝だけでなく、アミノ酸代謝、尿素回路、糖新生など多くの代謝経路の仲立ちをしています。

TCA回路の全体反応は
・CH3-CO-S-CoA+3NAD ++FAD+2H2O+GDP+H3PO4
 → S-CoA+2CO2+3NADH+FADH2++2H++GTP
です。

NADHとFADH2はミトコンドリア内膜に埋め込まれた4つのたんぱく質複合体と反応してNAD +とFADに戻り、その際にミトコンドリアのマトリックスから膜間腔にH+を放出します。NADHは、解糖系で2分子、ピルビン酸脱水素酵素で2分子、TCA回路で6分子、合わせて10分子のATPを発生します。複合体ⅠでNADHはFMN(フラビン・モノヌクレオチド)と反応し、FMNに水素を渡します。FMNH2はFeSクラスタを介して、CoQ(ユビキノン)に水素を渡します。
・NADH+H+ +FMN→ NAD++FMNH2
・CoQ+FMNH2→CoQH2+FMN
複合体Ⅱでは、コハク酸がフマル酸(2重結合あり)に変化するときには自由エネルギ変化が小さいのでFADが使われます。
・HOOC-CH2-CH2-COOH+FAD →HOOC-CH=CH-COOH+FADH2
この反応で膜間腔に放出されるH+はありません。FAD (=Flavin Adenine Dinucleotide) はフラビン・アデニン・ジヌクレオチドの略語で、酸化還元反応における補酵素の一種です。FADの酸化還元電位は -219 mV で NAD 系より100mV程高く、開放エネルギが少なくNAD が使えないような反応で脱水素することができます。FADH2ではFADの左上の環が3つ並んだ部分の2つの酸素の二重結合がOH基になります。FADはADPにC5系炭素鎖と3環系のキノンが結合した構造をしています。

複合体Ⅲが行う電子伝達はQサイクルと呼ばれます。この反応では、まず、2分子のユビキノール(CoQH2)がユビキノン(CoQ)に変換される過程で4Hを膜間腔へと放出します。
・2CoQH2→ 2CoQ+4H++2e+2e
・CoQ+2H++2e→CoQ H2
・Cyt(Fe3+)+2e-→Cyt(Fe2+)
なる反応が生じ、シトクロムcが還元されます。シトクロムcは膜間腔側にありヘム鉄(=鉄+ポルフィリン環)が含まれています。
複合体Ⅳは、シトクロムcオキシダーゼと呼ばれ、シトクロムc(Fe2+)を酸化して酸素を還元します。複合体 Ⅳが行う電子伝達の第一段階では、シトクロムc の電子がCuAに渡されます。その後、電子はヘムa→ヘムa3→CuBを経て、最終的に酸素(1/2O2)へと渡され、水(H2O)に変換されます。酸素分子の酸化還元電位は約 +810 mVであり、FAD よりはるかに電子を受け取りやすくなっています。
・Cyt(Fe2+)+2H++1/2O2 → Cyt(Fe3+)+H2O
このシトクロムcから酸素に電子が2個渡される過程で、2分子のHがマトリクスから膜間腔へと輸送されます。複合体Ⅳにはヘム鉄(ヘムa)が多く含まれていますので、青酸カリがこのヘム鉄に配位すると、電子伝達系を阻害して、窒息してしまいます。

生物の活動メカニズムについて

私たちは炭水化物を食べてエネルギ、すなわちATP(=Adenosine TriPhosphate)を生成して活動しています。1939年にEngelhardtらによって、筋収縮のタンパク質であるミオシンがATPを加水分解することが発見され、1942年にセント=ジェルジによってATPが筋収縮に関わるエネルギ源であることが解明されました。ATPはリボ-スの両側にアデニンと3リン酸が結合した構造をしています。

生体内では、ATPにリン酸1分子が離れたり結合したりすることで、エネルギの放出・貯蔵、あるいは物質の代謝・合成が行われています。ATPは加水分解によりエネルギを発生させます。酵素反応がATPの加水分解反応と共役することで、物質の代謝・合成が行われるのです。すべての真核生物がATPを直接利用しているため、ATPは生体のエネルギ通貨とも呼ばれています。
・ATP+H2O → ADP(アデノシン二リン酸)+ H3PO4(リン酸)
・ΔG°’ = −30.5 kJ/mol (=−7.3 kcal/mol) 標準自由エネルギ変化
細胞内では、ATP濃度はADPの10倍程高く、リン酸濃度も標準状態の1%以下であるため、細胞内の環境ではATPの加水分解に伴って放出される自由エネルギは−10〜−11 kcal/mol にもなります。

糖からATPはどのように産出されるのでしょうか?

炭水化物は胃腸で消化されて糖となります。糖は腸で吸収され血液と共に各細胞に送られ、細胞質内の解糖系で分解されてピルビン酸(CH3-CO-COOH)になります。嫌気的条件下ではピルビン酸は乳酸になります。好気的条件下ではピルビン酸は、CO2(=ピルビン酸のカルボキシル基に相当)を排出し、アセチル基(CH3CO-)になり、脱水素酵素においてNAD+を還元して、補酵素(HS-CoA)と不可逆的に反応し、
・CH3-CO-COOH+NAD+ → CH3-CO-S-CoA+CO2+NADH+H+
アセチルCoA(CH3-CO-S-CoA)を生成します。反応にはビタミンB1が必要です。これは不可逆反応なので、動物は脂肪酸から糖を合成できません。脊椎動物の細胞では糖から乳酸になるのは 4% 程度で、殆どは好気的にアセチルCoAを生成します。脂肪やたんぱく質も分解されてアセチル CoAとなってTCA 回路に入り、最終的に二酸化炭素 にまで酸化されます。過剰のアセチルCoAは中性脂肪を生成するため、アセチルCoAの代謝を抑制することで動脈硬化、高脂血症を防ぐことができます。アセチルCoAはADPに2つのペプチド結合を有する側鎖がついた構造をしています。

NAD (=Nicotinamide Adenine Dinucleotide) は ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド) と呼ばれる電子運搬体です。NADは2つのHを同時に引き抜き、自分がNADHになりつつ水素イオンH+を放出します。NADの酸化還元電位は‐320 mV と低く、異化代謝系で比較的大きなエネルギが解放される場合に、酵素反応に共役して脱水素反応を担います。NADはアデノシン・モノリン酸にニコチンアミド・リボ-ス・リン酸が酸素を介して結合した構造をしています。

血清(serum)と血漿(plasma)の違いは何でしょうか?

血清と血漿の違いは,全血から細胞成分を取り除いたものの中に凝固因子(フィブリノゲン)が含まれるかどうかにあります。フィブリノゲンとは、血液凝固因子の第Ⅰ因子で、血液凝固の最終段階でフィブリンという水に溶けない網状の線維素となり、血球や血小板が集まってできた血栓の隙間を埋めて、血液成分がそこから漏れ出さないようにしています。
血漿とは抗凝固剤を加えて遠心分離した上清み液で、凝固因子を含みます。抗凝固剤とは血液を凝固させない化合物です。血清は抗凝固剤を加えずに放置した上清み液で、凝固因子を含みません。血漿は凝固反応を起こしていない成分ですから、体内を流れていた時の状態を維持しています。血漿の場合は抗凝固剤に何を用いるかによって更に分類されます。

フィブリノゲンは肝機能検査としても用いられます。これはフィブリノゲンが肝臓で合成されているためで、肝硬変や肝臓がんで肝臓の合成能力が低下すると低値を示します。さらに感染症や急性心筋梗塞などの疑いがあるときにも行ないます。フィブリノゲンは、体内に炎症や組織の変性が生じると血液中に増加して高値を示します。フィブリノゲンが何らかの原因で増加すると、体のいろいろな場所で血栓ができやすくなります。

多種類の抗体はどのように作られるのでしょうか?

抗体は白血球のB細胞で作られ、おもに血液など体液中に存在します。リンパ球のB細胞が抗体を作ると同じ異物が再び侵入したとき、簡単に撃退できるようになります。これが免疫作用です。B細胞が作る抗体の種類は100億を超えます。抗体はすべてY字型の構造をしており、左右に開いた腕の先で抗原に結合します。抗体のアミノ酸の並び方は2万数千個の遺伝子によって決められています。2万数千の遺伝子から、100億の抗体をどうしたら作れるのかを解明したのが、利根川進教授です。

 抗体の腕のたんぱく質をコ-ドする遺伝子領域には、可変なVDJ遺伝子領域と固定領域Cがあります。VにはV1V2V3・・があります。成熟したB細胞のDNAには例えばV2D3J3Cという遺伝子配列が決定しています。この配列をRNAが読み取り、抗体のたんぱく質が合成されます。VDJの組み合わせの仕方が沢山あるので100億種類もの抗体を作ることができるのです。当時DNAに書き込まれた遺伝子情報は一生変わらないと考えられてきました。しかし、1976年に利根川博士は「B細胞だけは自らの抗体遺伝子を自在に組み替えて、無数の異物に対応する無数の抗体を作ることができる」ことを証明したのです。

抗凝固剤の種類と作用について

採血をされているとき、看護師が採血管を何本も使い、採血管の長さやふたの色が異なっていることに気づきます。採血管には、検査目的によって異なる種類の抗凝固剤が入っています。抗凝固剤が入っていない採血管はプレ-ン管と呼ばれ、生化学・内分泌・感染症・自己抗体・腫瘍マーカー検査などに用いられます。抗凝固剤にはヘパリン、EDTA、クエン酸、NaF解糖系阻害剤などがあります。

ヘパリンはトロンビン(Ⅱa因子)やXa因子等の活性型凝固因子の作用を抑制する抗凝固剤です。ヘパリンリチウムは生化学検査、主にNa・K・Clなどの電解質、血液pH、染色体分析、リンパ球培養やコレステロールなどの脂質を測定する検査で用いられます。

EDTAはエチレンジアミン四酢酸(ethylene diamine tetraacetic acid)という二価のイオンのキレ-ト吸着剤です。EDTAは、生化学検査を阻害するので、血球観察や血液学的検査つまり赤血球・白血球・血小板の数やヘモグロビン濃度を測定する検査で用いられます。EDTAを使うと、血液の凝固因子のひとつであるCa2+と非可逆的に結合し、血液が凝固しなくなります。
クエン酸ナトリウムは血液の凝固作用を検査するのに用いられます。クエン酸ナトリウムはCa2+と可逆的に結合します。検査時には血液とクエン酸の混合比を9:1に固定します。採血保管時は凝固系を止めた上で、後で凝固系の測定を行います。
NaFは血糖値の正確な測定に用いられます。NaFはCaを除去し、解糖系の最後のステップを担うエノラーゼを阻害し、グルコースの消費を止める作用があります

真空管採血の場合、1本目の採血管には針を刺した時に流出する組織液が混入し、凝固しやすくなります。そのため1本目には凝固しても構わない生化学に分注します。2本目以降はシリンジ採血と同じ順番になり、凝固しては困るものから順に採血します。また4〜5回の転倒混和も忘れずに行います。激しく振ると溶血してしまうので緩やかに振ります。

生化学(1本目)→凝固(2本目クエン酸)→電解質(3本目ヘパリン)→血算(4本目EDTA)→血糖(5本目NaF)→その他の抗凝固薬なしのプレーン管(6本目)の順番になります。血算とは血球算定検査の略語です。

血液検査は病気の有無の診断だけでなく、疾病の予防や栄養状態の改善にも役立てることができます。血液検査の結果を理解できるようになることは重要になってくると思います。

血液型の違いは何に起因するのでしょうか?

血液型は、赤血球の表面にある糖鎖の違いに起因します。O型の人は、ガラクト-スとNアセチルグルコサミンとカラクト-スの3個の糖がつながった糖鎖を持っています。A型の人はO型の3個の糖に加えてA型になる糖(Nアセチルガラクトサミン)を1個持っていて、B型の人はO型の糖に加えB型になる糖(ガラクト-ス)を1個持っています。つまりA型、B型のもとになっているのはO型です。AB型はA型とB型の糖鎖をそれぞれ持っています。

なぜ血液型が存在するのでしょうか?

 血液型が存在する理由は、21世紀になってからウイルスの蔓延を防ぐためだと考えられています。ウイルスは細胞外に出るときに細胞表面の糖鎖構造をまといます。これには各血液型の特徴が刻まれています。それがまた別の身体に侵入すると、異なる血液型の糖鎖構造がウイルスと一緒に身体に入ってくることになり、抗体が集中攻撃するので、感染し難くなるというのです。血液型の存在は、種の絶滅を回避するためのリスクヘッジになっています。

 

ABO型血液型を発見した人は誰でしょうか?

ABO型血液型を発見した人はオーストリアの病理学者カール・ラントシュタイナー(Karl Landsteiner, 1868年~ 1943年)博士です。ラントシュタイナーは1900年に血液の凝集実験を行い、ABO型血液型を発見しました。1922年にユダヤ人迫害を逃れるために渡米し、1930年に血清学および免疫化学への貢献によりノーベル医学・生理学賞を受賞しました。1940年には弟子のウィーナーとともに新たな赤血球抗原である「Rh抗原」を発見します。ユーロ導入以前の1000シリング紙幣には1997年以降、彼の肖像画が描かれていました。

ABO型血液型発見の経緯

1889年に北里柴三郎(1853-1931)は破傷風菌の純粋培養に成功し、翌年、ベーリングと共に破傷風菌の毒素を無力化する「抗体」を発見し、血清療法を確立しました。ラントシュタイナーが凝集実験を行ったのは、その抗原抗体反応がほぼ解明された時期にあたります。
ラントシュタイナーは、イギリスの病理学者シャタックの「肺炎患者の血球と別人の血清を混ぜていた際に凝集があった」という報告を聞いて、これが正しければ肺炎の診断に利用できないかと考え、追試を行いました。そこで自分を含む22人の健康な同僚の血液を血球と血清に分けて互いに混ぜ合わせる実験を行ったのです。当時は細菌学が全盛で、新しい細菌がしばしば発見されていました。血液の凝集が肺炎菌などの微生物によるものである可能性もありました。そこでまず健康な人の血液で実験を行い、赤血球と凝集反応を起こす抗体が別人の血清に含まれている可能性を調べたのです。

実験の結果、血液の凝集反応は健康な人同士でも起こりうる生理的現象であり、肺炎診断には使えないことが分かりました。しかし凝結には規則性があり、そのパタ-ンはA型とB型とO型の3つに分類できることが分かりました。これは実験対象者にはAB型の人がいなかったからでした。AB型は1902年に同僚の研究者によって発見されました。ちなみにラントシュタイナー博士の血液型はA型でした。血漿中の抗体がグループ外の血球にある抗原を敵とみなして攻撃した結果、凝集が生じることが解明されたのです。これによって運を天にまかせるような輸血が科学に基づく安全な輸血に変わりました。科学の偉大な発見の多くは予期しない実験結果によるものなのです。

残念ながら、発表当初は基礎医学分野の地味な論文として受け止められ、大きな反響はありませんでした。しかし1910年ごろ、アメリカのモスらが、輸血の死亡事故の主な原因は、ラントシュタイナーが指摘している血液型不適合によるものであると宣伝したことにより、血液型を輸血に応用する動きが急速に高まり、輸血の死亡事故は激減しました。戦争では輸血は兵士の命を救う技術になりました。

血液型について

平日の8時15分からテレビ東京で韓国ドラマが放映されています。人を寄せ付けない天才女性外科医が病院船の人たちの優しさに触れて心を開いて行くというドラマです。先日は病院船の乗組員が、銃弾で撃たれたマフィアのボスを救うために献血をするシ-ンがありました。ボスの血液型はB型だったので、乗組員はB型とO型の人は輸血をして下さいと頼まれていました。


O型からB型の人に輸血ができるのはどうしてでしょうか?

血液を取り出して静置しておくと赤血球と薄黄色の血漿(けっしょう)に分離します。血漿には抗体が含まれています。免疫を担う抗体は異物と反応し、異物は除去されます。A型の血液をB型の人に輸血すると凝縮が生じてしまいます。これはB型の人の抗体がA型の赤血球(抗原)を異物と見なして抗原抗体反応を生じさせるからです。ABO血液型は、赤血球の表面に突き出ている糖鎖と血清中のY字型のIgM抗体(たんぱく質)で決まります。A型の人はAタイプの糖鎖とBタイプの抗体を持っています。B型の人はBタイプの糖鎖とAタイプの抗体を持っています。凝縮はA型の血液中の赤血球のAタイプの糖鎖が、B型の人の血清中のAタイプの抗体と結合するために生じます。


一方O型の人はAタイプやBタイプの糖鎖を持たず、AタイプとBタイプの抗体をもっています。O型の血液をそのままB型の人に輸血すると、O型の血漿中のBタイプ抗体がB型の人の赤血球のBタイプの糖鎖と結合するので、凝縮反応が起きてしまいます。O型の血液をB型の人に輸血する場合は、予め遠心分離機を用いてO型の血液から血漿を除去し、O型の赤血球だけB型の人に輸血します。O型の赤血球にはAタイプやBタイプの糖鎖がないので、B型の人のAタイプの抗体との反応は生じません。しかし血漿除去は完全ではないので、輸血は基本的には同じ血液型の人の間で行われます。

ちなみにAB型の人はAタイプとBタイプの糖鎖を持ち、AタイプやBタイプの抗体はありません。AB型の人はAB型の人にしか輸血してもらえません。

久保田産科麻酔医へのQ&A 

産科麻酔医 久保田史郎の過去のニュース!
ー赤ちゃんは震えているー
この朝日新聞の記事は1997年(平成9年)5月17日に掲載されたものです。なんと23年前に学会で発表していました。低体温症(低血糖症⇒発達障害)を誘発する出生直後のカンガルーケアと飢餓を招く完全母乳(低血糖症・重症黄疸⇒発達障害)を即刻廃止させなければなりません。日本周産期新生児学会、他7学会が推奨する寒い分娩室におけるカンガルーケアは「低体温症⇒低血糖症⇒発達障害」を、生後3日間の完全母乳は脳に障害を遺す低血糖症・重症黄疸・脱水を引き起こしています。高インスリン血症児(日本では6人に1人)を出生直後に低体温症に陥らせると確実に低血糖症に陥らせます。日本の赤ちゃんが障害なく元気に育つためには前記学会と現行の助産師教育を見直さなければなりません。
出生直後の赤ちゃんを34℃に温められた保育器に2時間だけ入れるとチアノーゼ(低酸素血症)・初期嘔吐・重症黄疸・低血糖症を予防する事が出来ます。

 Q1. 私は久保田先生の言っている事はまともだと思いますが、どうして他の医者たちは賛同してくれないのでしょうか?

久保田  産科学教科書が、カンガルーケアには体温上昇作用があると事実と異なる発表をしているからです。教科書の間違いを改訂しない限り、低体温症に陥る新生児が増え、その結果、赤ちゃんは低血糖症(発達障害)になります。もう一つの問題は、出産後の新生児管理(体温・栄養)は助産師任せになっている事です。未熟児など、異常の新生児管理は産科医・新生児科医が行いますが、正常に元気に生まれた赤ちゃんの管理は助産師任せになっています。正常に生まれた赤ちゃんが低体温と飢餓(低栄養+脱水)の犠牲になっているのです。発達障害がこれからも増えるかどうかの鍵は、助産師次第です。カンガルーケアと完全母乳を積極的に実践する国立病院機構・日赤病院などの「赤ちゃんに優しい病院」で教育を受けた助産師は間違いを刷り込まれているため危険です。助産師教育を徹底的に見直さなければなりません。

Q2    糖質制限をしていない通常食の妊婦の場合、出産直後の新生児の脳のATP源はグルコースのみで、ケトン体は殆ど利用できない、という理解でよろしいでしょうか?

久保田  ケトン体では体温調節が出来ません。つまり、ケトン体は殆ど利用できない、が正解です。


 ありがとうございます。だからグルコースだけで議論しているのですね。ユニセフのガイドラインにはケトン体や乳酸も利用できると書いてあったのでお伺いしました。

久保田  宮下助産師は厚労省の「授乳と離乳の支援ガイド」の策定委員会で-15%までを生理的体重減少としている。7%以上は飢餓と考えるべきです。Q3.   久保田先生、ご説明ありがとうございます。産科学教科書を書いたり、助産師教育をするのは医者ではないですか? これだけ筋の通った説明を何十年もしているのに、医者が賛同してくれない理由が理解できません。

久保田 助産師教育の殆どは助産師が行っています。そのため助産師は産科医の言うことを聞き入れません。医者(産科医)が賛同してくれない理由は、これまで生理的と考えられていた医学的常識が完全に崩れ、非常識(病気)になるからです。産科医はこれまでの過ちを認めたくないのです。久保田式新生児管理法をお産の常識にすると小児科やNICUに入院する赤ちゃんが激減します。空きベッドが増えると、病院は赤字になります。例えば、完全母乳を促進すると重症黄疸の赤ちゃんが増えます。重症黄疸は飢餓(低栄養+脱水)が原因だからです。大きい病院では重症黄疸の治療はNICUに入院して行っています。重症黄疸の入院治療費は最低でも1日 10万円です。小児科にとって入院患者は大事なお客様なのです。また重症黄疸は難聴の原因という事が分っています。難聴の赤ちゃんが増えると耳鼻科は忙しくなります。近年、精神科病院がきれいになったのは、発達障害の子供が増えたからです。

Q4.  助産師が産科医の言うことを聞き入れないとは、驚きです。早期新生児の15%もの体重減少は生理的ではなく、隠れ高インスリン血症などの病気やカンガルーケアによるものだということですね。全ての医者が患者ではなく病院の利益ために働いているということですか。残念ですが、あり得ることです。発達障害の相談室は半年待ちです。久保田先生が危惧しておられたように、近年の出生数の減少は危機的状況です。change.orgなどで改革の賛同者を募るのはどうでしょうか?

久保田 「発達障害の原因と予防」を2015年3月に自民党本部で講演しましたが、その時の委員長が現在の衛藤少子化相です。これで日本は終末期も同然です。私が開業を辞めたのは医系組織からの強烈なパワハラ(冤罪)があったからです。一度だけではありません。

久保田 これ以上やると私が消されます。

 う~ん、絶句です

久保田  まさに“事実は小説より奇なり”です。福岡市の久保田産婦人科麻酔科医院のHPをご覧になってください。私は40年前から発達障害の増加を予測していました。「久保田史郎」・「発達障害の原因と予防」で検索すると記事が出てきます。去年の夏までは、「発達障害」だけで私の記事がトップに紹介されていましたが、現在は削除されています。

http://www.s-kubota.net/

http://www.s-kubota.net/Stan/01.htm

Q5 .  全部読みました。素晴らしいです。発達障害の原因が気になっていました。溝口徹さんの「発達障害は食事でよくなる」を読んで久保田先生のことを知りました。

久保田  音楽療法・運動療法と溝口徹先生の「発達障害は食事でよくなる」の組み合わせに頼るしかありません。

久保田 「赤ちゃんに優しい病院」では-15%までの体重減少は当たり前の様です。この事例(赤線)、その後、発達障害と診断されました。

久保田  発達障害と診断された赤ちゃんの出生直後からの体重減少は著しく、生後5日間の体重曲線は、その殆どが-10 % ~ -15%だと考えられます。カンガルーケアで低体温症に陥った赤ちゃん・高インスリン血症の赤ちゃんは確実に低血糖症に陥っています。発達障害を防ぐためには、生理的体重減少を-5%以内にすべきです。

久保田  日本産婦人科医会は科学的根拠なく-10%までを生理的体重減少と決め付けています。怖いことに、出生体重に回復する時期は「3週間以内」つまり、1週間以上は間違いなく飢餓状態にあるのです。出生直後の赤ちゃんを1週間も飢餓にすれば確実に脳に障害を引き起こします。日本産婦人科医会は完全に崩壊しています。久保田式新生児管理法では4日で戻っています。久保田産婦人科では出生時の体重に回復しなければ退院許可が出ませんでした。黄疸による再入院は、1例もありませんでした。


久保田史郎 「赤ちゃんに優しい病院」で有名な久留米市の聖マリア病院でも-15%までを生理的体重減少としていました。

久保田史郎 その他のデータです。論文はGrowth Patterns of Neonates Treated with ThermalControl in Neutral Environment and NutritionRegulation to Meet Basal Metabolism 久保田産婦人科医院のHPに掲載しています。

少子化対策の前に! (久保田医院のHPより)
国は少子化対策に待機児童の解消・教育の無償化などの育児支援を唱えていますが、少子化の改善にどれだけの効果があるのか心配です。そう考える理由は少子化対策に於いて最も重要な妊婦支援(図46)が欠如しているからです。仮に、人口が増えたとしても発達障害(図21)・児童虐待(図27)・医療/社会福祉費は人口増加に比例して確実に増えます。何故ならば、新生児管理の基本である出生直後の体温と栄養に関するお産の設計図(産科学教科書)が根底から間違っているからです。
 
日本で発達障害が増える理由は、母乳が滲む程度しか出ない生後3日間、糖水・人工ミルクを全く飲ませない完全母乳で哺育された赤ちゃんが世界一の飢餓(低栄養+脱水)に陥っているからです(図32)。教科書の間違いとは、日本産婦人科医会が完全母乳(母乳分泌不足)による出生直後からの著しい体重減少(飢餓)を生理的体重減少と定義していることです(図31)。そのため赤ちゃんの飢餓が放置され脳の発達に悪影響を招いています。赤ちゃんを出生直後に低体温症や飢餓に陥らせる医療行為はまさに児童虐待(ネグレクト)そのものです。母乳が出ない生後3日間の完全母乳と寒い分娩室(平均25℃)でのカンガルーケア(早期母子接触)を中止しなければ日本で生まれる6人に1人(図22)の高インスリン血症の赤ちゃんは出生直後に低血糖症(図23)に陥り、脳に永久的な障害を引き起こします(図21・図44)。私は早期新生児の低血糖症と飢餓こそが発達障害の主原因と考えています

私は1983年の開業当初から、発達障害の原因と予防法についての研究を行ってきました。発達障害の予防に関する周産期側からの研究は世界でも例がありません。長年の研究で解明できたことは、発達障害は遺伝やワクチンなどではなく、早期新生児の冷え性と飢餓による低血糖症・重症黄疸・脱水が原因と確信し得たことです(図44)。厚労省や医学会などが推進する母乳育児推進運動が日本の赤ちゃんを低血糖症・重症黄疸・脱水に陥らせているのです(図23・図45)。この事は平成27年3月12日に自由民主党本部(障碍児者調査会:衛藤 晟一会長)において、発達障害の原因と予防策について講演させて頂きましたが、3年経っても何ら改善されません。発達障害の原因とされる新生児の低血糖症・重症黄疸・高Na血症性脱水は母乳が満足に出ない生後数日間の飢餓が原因です。幸い、それらの疾病はお産に予防医学を取り入れた久保田式新生児管理法(生後2時間の保温+超早期混合栄養法)でほぼ完全に防ぐ事が可能です(図26・図43)。出生直後の低体温症(図1)を防ぐための生後2時間の体温管理(図2:下段)と母乳の出が悪い生後数日間の栄養不足を人工ミルクで補足する事によって出生直後からの体重減少は著しく改善(図32・図33・図34)され、発達障害の危険因子である低血糖症・重症黄疸・脱水を防ぎ(第9章参照)、ひいては医療費/社会福祉費などの抑制効果は数兆円規模(図42)と予測します。

お産に予防医学を導入し病気を防ぎ無駄な医療費を削減することによって、少子化対策(妊婦支援+育児支援)に予算を充当することが出来ます。小池都知事が災害時用に「液体ミルク」の準備を進められている様に、出産直後の母乳が出ていない時期(とくに、生後3日間)には人工ミルクを積極的に飲ませ赤ちゃんを飢餓から守るのが新生児管理の基本です。出生直後の新生児冷え性を防ぐための保温と生後数日間の飢餓を防ぐために人工ミルクを飲ませるだけで発達障害は最低でも1/5~1/10に激減します。当院は開業当初(1983年)から閉院する2017年7月まで34年間 約15000人の赤ちゃんに対して、久保田式新生児管理法(図26)を行ってきました。事実、当院で生まれた赤ちゃんに発達障害児が極めて少ないとの情報が市関係者や福岡市立こども病院の小児科医からありました。情報公開が可能になれば発達障害の原因解明・予防策は簡単です。発達障害は遺伝病ではなく予防可能である事を知った妊婦さんは安心して自信をもって妊娠・出産に臨める様になります。個人情報保護法の厚い壁が医学の進歩を妨げ、発達障害児を増やし、少子化を加速させているのです。

私は平成29年7月に医療法人 久保田産婦人科麻酔科医院を閉院しましたが、この度、『妊婦と赤ちゃんに学んだ冷え性と熱中症の科学』の本を東京図書出版から11月7日に上梓しました。日本のお産の常識(自然主義)がいかに非科学的か、科学(予防医学)の知識が届かないところで発達障害児・医療的ケア児・脳性麻痺が増えているのです。この事実を周産期医療の関係者だけでなく、他科の医師・医学生・助産師・看護師・保育士・保健所・政治家・報道などに是非とも知って頂きたく、産科開業医の生の声(書籍)をお届けする次第です。厚労省が後援する『赤ちゃんに優しい病院(BFH)』の認定制度が日本に存続する限り発達障害は増え続けます。何故ならば、助産師の多くがカンガルーケアと完全母乳を積極的に行う赤ちゃんに優しい病院の助産師学校出身者だからです。とくにBFH出身の助産師は出生時から-15%までの体重減少を生理的体重減少と教育されています。助産師への誤った教育が赤ちゃんを飢餓に陥らせているのです。発達障害の増加に歯止めを掛けるためには、まず助産師教育の見直しを急がなければなりません。日本のお産の一番の間違いは病気(発達障害)を防ぐ為の予防医学が欠如している事です。この本は、当院で出生した約15000人の赤ちゃんからの皆様へのメッセージです。日本の明るい未来のために役に立てて頂ければ幸いです。

平成30年1月7日 

久保田史郎(医学博士)
日本産科婦人科学会専門医、麻酔科標榜医
株式会社 風(かぜ)
久保田生命科学研究所(代表)
佐賀市富士町下無津呂三本松1559

日本の崩壊を防ぐためには出産改革が必要です

日本の令和1年の出生数が86万人に落ち込んだニュ-スがありました。九州の産婦人科医の久保田先生が7年後の出生数が50万人まで減少すると予測しています。その理由が近年問題になっている発達障害児の急増によるものだということです。発達障害児を持った母親がその子の育児に手がかかり過ぎて、第2子を生むことが難しくなるからだと思います。これは大変なことです。


発達障害児の増加は指数関数的なので、16年以内に日本の出生数は消失する恐れがあります。このままでは日本の年金、福祉、医療、教育などの制度が崩壊するだけでなく、日本自体が崩壊することは確実だということです。


発達障害児の増加曲線と虐待相談件数の増加曲線は酷似しています。これは発達障害児を育てることは難しく、親が虐待してしまうことを示していると考えられます。ADHDの治療薬の増加は薬を飲まされている重度の発達障害児が急増加していることを示しています。
久保田医師によると、発達障害は遺伝によるものではなく、分娩時の赤ちゃんの低体温と低血糖による脳障害であることが分かっています。1993年に厚生省がユニセフが提唱する完全母乳を導入したために新生児の低血糖が発生し、同様に2007年のカンガル-ケア導入により新生児の低体温症が発生し、脳障害を受けた発達障害児が急増したと考えられます。赤ちゃんの体温は母親の体温より高いので、抱かれた赤ちゃんの体温は低下してしまうのです。カンガル-ケアによる脳性麻痺の発生もあり裁判も起こっていますが。厚生省は自分のミスを認めません。多発する出生事故を受けて60%の病院がカンガル-ケアをやめています。
久保田医師は、生後1時間の赤ちゃんに保温と糖水を与えることで脳障害を予防することを提唱しています。久保田医院ではこのような簡単な方法で15000人の赤ちゃんが成長したときに発達障害は殆ど見られないことを実証しています。皮肉なことに体重2500g以下の未熟児は体温管理と栄養管理を行うので、発達障害児の増加はみられていないようです。
一刻も早く少子化対策を講じなければ、日本は確実に植民地化するでしょう。 先ず、①安全なお産、②無痛分娩をお産の常識に、③徹底した妊婦支援、(労働時間の短縮・週休3日・母親教室の充実・残業なし)、④赤ちゃんに優しい病院の廃止、⑤産科麻酔科専門医制度の新設を久保田医師は提唱しています。

2人目のお子さんを考えている人は是非とも、正しい出産方法が相談できる産科医院を検討して下さい。発達障害児を養育している方も精神薬を飲ませるのでなく、正しい栄養やミネラルを与えるように指導するとよいと思います。
令和は大変な年になりそうです・・・

生理的黄疸と重症黄疸との違いは何ですか?

生まれたばかりの新生児の血液には赤血球(ヘモグロビン)がたくさん含まれており、生まれると同時にこれらの大量の赤血球が脾臓で徐々に分解されるため、ビリルビン(Bilirubin)が一時的に増加し皮膚が黄色くなります。特に新生児の血液は血糖値が低いので壊れ易いのです。新生児期は肝臓の働きが十分ではないため大量のビリルビンを処理しきれず、黄疸が現れてしまうのです。こうした生理的黄疸は生後1週間経つと肝臓の働きがよくなり自然に消失していきます。

ビリルビンはヘモグロビンの分解生成物です。ヘモグロビンはヘム鉄とグロビンからなり、グロビンはたんぱく質でアミノ酸に分解されます。ヘム鉄はポルフィリン環の4つの窒素にFeが結合した構造をしています。ヘムオキシゲナーゼ(HMOX)によりヘム鉄から鉄を抜いてポルフィリン環を開環するとビリベルジンに分解されます。さらにNADPHでビリベルジンを還元したのがビリルビンです。ビリルビンは4つのピロール環のチェーン構造をしています。光に晒すとビリルビンの二重結合が異性化する性質を利用して新生児の黄疸に光線療法が施されています。ビリルビンは水に溶けないのでアルブミンというたんぱく質と結合させて血中を移動し、肝臓で処理されます。

重症黄疸とは血中のビリルビン濃度が病的に高い状態です。ビリルビンには結合ビリルビンと遊離ビリルビンがあります。遊離ビリルビンは、脳細胞のガングリオンという脂質との親和性が高く、特異的に中枢神経細胞を侵し、重症黄疸では脳性麻痺を引き起こします。ビリルビンは解糖系の酵素反応を阻害するので、脳におけるエネルギ産生を減少させます。

結合ビリルビンはアルブミンと結合したビリルビンです。肝臓でグルクロン酸と抱合して、無毒な水溶性の抱合型ビリルビンとなり、肝臓から腸管に排出されます。グルクロン酸とはグルコ-ス(糖)にCOOHが結合した酸です。包摂型ビリルビンは腸内細菌によって水酸化され、より水溶性の高いウロビリノーゲンとなり一部はウロビリン(=尿の黄色色素)となり尿として排泄され、大部分はステルコビリン(=便の茶色色素)に変えられ便中に排泄されます。

しかし排出が遅れると、便中のビリルビンは腸管より再吸収、腸肝循環されるので、血中ビリルビン濃度が上昇します。新生児の腸内細菌は少ないので便の形成には2~3日かかります。低体温になると腸の血流が低下し消化時間がかかり便秘になり黄疸が重症化します。重症黄疸を防止するには、体温を37℃に維持し、早めに粉ミルクを与えて、12時間以内に便を排出させるのが望ましいのです。

 遊離ビリルビンはどうして増えるのですか?

栄養不足で脱水状態の赤ちゃんは、脂肪が分解されて血中の遊離脂肪酸(FFA)が増えています。遊離脂肪酸はビリルビンよりもタンパク質と強く結合するため、飢餓状態ではビリルビンがタンパク質と結合できなくなり、遊離ビリルビンが増加します。

脳内血管壁の細胞は密に接合されているために水溶性物質や高分子量の物質が血管外の脳細胞に拡散できないので、血液脳関門と呼ばれています。新生児は血液-脳関門が未発達なので、血中の遊離ビリルビンは血液-脳関門を通り、脳神経細胞に害を与えます。それが聴覚細胞であれば、難聴を引き起こします。

WHOやユニセフが推奨する完全母乳は、母乳が出ない3日間、新生児を飢餓状態にするので、血中の遊離脂肪酸が増加し、神経毒を持った遊離ビリルビンが脳神経細胞を侵すのを促進してしまいます。完全母乳栄養の場合、生後4日目の赤ちゃんの血中総ビリルビン値は12.8mg/dlと高値です。それに対して体温管理と栄養管理(超早期経口栄養)をしている産院では、血中総ビリルビン値は5.7mg/dlと低値で、この10年間の約5,000例で重症黄疸は発症していません。

高インスリン血症児はどうして生まれるのでしょう?

出生直後のカンガルーケアと完全母乳は低体温と低血糖を生じさせ、発達障害児を増加させる要因になっています。さらに日本には高インスリン血症児が6人に1人の割合で存在しているために、発達障害児の急激な増加がみられています。高インスリン血症児であるかの診断は出生前につかないので、低血糖を未然に防止するための予防策を取り入れるべきです。

高インスリン血症児はどうして生まれるのでしょう? 妊娠中は血糖値が大きく上下し、それに連動してインスリン濃度も大きく上下します。これは妊婦の胎盤からラクトーゲンというホルモンが分泌されてインスリン抵抗性を増大させるからです。妊娠でインスリンの効き目が低下するので、インスリンがあまり出ないと、血糖値が高くなり、妊娠糖尿病(gestational diabetes mellitus; GDM)になります。

妊娠時は冷え性を防止し、適度な運動と食事制限を行い、血糖値を管理する必要があります。母体の血糖値が高くなると、胎児の血糖値も高くなり、胎児のインスリンが高くなります。インスリンは成長ホルモンなので、胎児の生育が加速され巨大児になり難産となります。高いインスリン血症児は出産時に低血糖が加速され、脳障害を引き起こします。またインスリンは胎児の肺サーファクタントの合成を抑制するために、出生後に呼吸困難を発症するリスクが高まります。

妊婦の高血糖を防止する一つの方法として糖質制限食があります。糖質制限食は、脳・骨格筋・心臓などのATP源を糖からケトン体に切り替える体質改善法です。βヒドロキシ酢酸などのケトン体は脂肪酸から産生されます。糖質を制限し、タンパク質や脂肪を十分に摂取することで、血糖値を低く保つことができます。しかしながら現時点ではマウスの実験で赤ちゃんの脳の働きなどに影響する可能性があることが指摘されています。

胎盤にはモノカルボン酸トランスポータ (MCT)という胎児にケトン体を供給する輸送体があります。MCTは妊娠初期から中期には十分にありますが、妊娠後期になると減少します。出産期にはケトン体が胎児に供給しにくくなります。ケトン体はグルコースより25%多く酸素を消費すると言われています。

脳のなかでケトン体活用の違いによって細胞の大きさや形態が違ってくるようです。胎児の記憶形成に関与する歯状回の発育やドパミンの分泌やミトコンドリアの働きに異常を引き起こす可能性が指摘されています。ケトン体を脳内でより活用できるように脳血流関門の通過性が亢進することで、不飽和脂肪酸の脳細胞内の蓄積が過剰になる可能性があります。妊娠前からバランスの良い食事と葉酸やDHAを摂取することが推奨されています。

出産時の赤ちゃんの低体温と低血糖が発達障害児を生む

産科麻酔医である久保田史郎氏は、高インスリン血症児を寒い分娩室でカンガルーケアと完全母乳で管理すると、赤ちゃんは確実に低血糖症に陥り、脳に永久的な神経細胞障害を引き起こすと警告しています。重度の場合は心停止や脳障害が生じます。中度の低血糖の場合は、成長後に発達障害として現れると主張しています。低血糖によりグリア細胞が損傷を受け、ニュ-ロンにおいてグルタミン酸による情報伝達が過剰になるため、発達障害の症状が現れると考えられます。発達障害の原因が不明であった理由は、低血糖症の症状が表に出ないため、周産期側からの調査研究が十分行われてこなかったからだそうです。久保田医師は、2015年3月15日に自民党本部で開催された障害児問題調査会で、厚生省は新生児の低体温症、低血糖症、低栄養症、脱水症を防ぐための管理をすべきであると警鐘を鳴らしています。

福岡市における発達障害の発生件数は、50件/年で推移していましたが、完全母乳が導入された1993年から上昇し、2007年には280件/年に達しました。発達障害の発生件数はカンガル-ケアが導入された2007年から急増し、2018年には1000件/年に達しました。産院によって発達障害児の発生件数は大きく異なることも分かりました。2500g以下の未熟児は、出産直後に保育器で体温管理、酸素濃度管理、水分・栄養分管理が行われてきたために、発達障害の増加は見られていないことが分かりました。30年間、久保田産婦人科麻酔科医院では15000人の赤ちゃんが誕生しましたが、発達障害児の発生は極めて少ないということです。このことから周産期管理が発達障害の大きな要因になっていることが明らかになりました。周産期管理の向上により、NICUに入院する赤ちゃんは激減するでしょう。

米国では発達障害児の急激な増加原因の全国調査では、基準値の低下や被験者の増加による見かけの増加は4割程度であり、残りの6割は正味の増加であると報告されていました。米国カルフォルニアでは1975年に完全母乳運動が推進され、それ以来、自閉症児や発達障害児が増加しています。

日本においては1993年以前の発達障害は遺伝の影響や環境の化学物質の影響が考えられます。しかしここ27年間で増加している発達障害の原因は遺伝や添加物やワクチンの影響によるものではないと考えられます。
発達障害は遺伝病説が根強くありますが、福岡市立こども病院の小児神経医グループと日本自閉症協会長 山崎晃資先医師(精神科医)は、周産期側に問題があると指摘しています。発達障害児防止策は国の最重要課題ですが、周産期側から調査をしようとする動きは全くありません。

ユニセフのガイドラインとはどのようなものでしょうか?

ユニセフ・WHOは1989年に「母乳育児を成功させるための10ヵ条」を制定しました。ユニセフのガイドラインとはどのようなものでしょうか?

1.母乳育児の方針を全ての医療に関わっている人に、常に知らせること
2.全ての医療従事者に母乳育児をするために必要な知識と技術を教えること
3.全ての妊婦に母乳育児の良い点とその方法を良く知らせること
4.母親が分娩後30分以内に母乳を飲ませられるように援助をすること(カンガルーケア)
5.母親に授乳の指導を充分にし、もし、赤ちゃんから離れることがあっても母乳の分泌を維持する方法を教えてあげること
6.医学的な必要がないのに母乳以外のもの水分、糖水、人工乳を与えないこと(完全母乳)医学的な必要とは極度の体重減少や脱水、発熱等がある場合です
7.赤ちゃんと母親が1日中24時間、一緒にいられるように母子同室にすること。(母子同室)
8.赤ちゃんが欲しがるときは、欲しがるままの授乳をすすめること
9.母乳を飲んでいる赤ちゃんにゴムの乳首やおしゃぶりを与えないこと
10.母乳育児のための支援グル−プ作って援助し、退院する母親に、このようなグル−プを紹介すること

現在、134カ国15000の病院が「赤ちゃんにやさしい病院(BFH)」に認定されています。日本国内では、ユニセフから認定審査業務を委嘱された「日本母乳の会」が、その審査を行い、ユニセフへの認定申請を行っています。2015年8月現在、日本には72施設が認定されています。

2018年には、第1条に「母乳育児に関して継続的な監視およびデータ管理のシステムを確立する」ことが追加されました。第4条は「出生直後から、途切れることのない早期母子接触をすすめ、出生後できるだけ早く母乳が飲ませられるように支援する」と改定されました。母乳を与えるのは赤ちゃんに母親の免疫を与えるためです。第4条はカンガル-ケアと呼ばれていました。

ユニセフのガイドラインは一見問題がなさそうに見えます。しかし第4条(早期母子接触)と第6条(完全母乳)と第7条(母子同室)には問題があります。
第4条の途切れることのない早期母子接触は、赤ちゃんの低体温症を招きます。第6条の完全母乳の規定を守り、出産直後の赤ちゃんに水分、糖水、人工乳を与えないと、半数の赤ちゃんは低血糖を加速させて、回復できない脳障害を生じ、成長後に発達障害を発症します。第7条の24時間の母子同質は、母親を睡眠不足にして母乳の産出を低下させ、赤ちゃんを危険にさらします。つまりユニセフは低体温による潜在的な低血糖症を見逃しているのです。

殆どの場合、母乳はすぐには出ないので赤ちゃんには飢餓が生じています。なかには低血糖症や高インスリン血症の赤ちゃんもいます。しかしユニセフは、赤ちゃんの脳のATP源には肝臓から生じるグルコ-ス、脂肪分解から生じるケトン体や乳酸があると考えています。つまり赤ちゃんは栄養を蓄えた状態で産まれてくるため、母乳以外の栄養は必要ないというのです。しかし数日後の新生児はケトン体を生成する力がありますが、出産直後の新生児にはケトン体を生成する力はなく、グルコ-スだけが赤ちゃんのATP源なのです。

NICUでは周産期管理を行います。NICUというのは新生児集中治療管理室(Neonatal Intensive Care Unit)の略です。周産期とは妊娠22週から生後満7日未満までの期間を指し、周産期医療とはこの期間の母体、胎児、新生児を総合的に連続的に取り扱う医療です。NICUでは身体機能の未熟な低出生体重児や、仮死・先天性の病気などで集中治療を必要とする新生児を対象に、高度な専門医療を24時間体制で提供しています。正常体重の新生児でも周産期管理を行えば、発達障害なども防止できると考えられます。

どうして低体温は赤ちゃんにとって良くないのでしょうか?

生まれてきた赤ちゃんは、放熱を防ぐ為に手足の末梢血管を持続的に収縮させます。この時、カテコラミンという血管収縮ホルモンが分泌されます。ところがカテコラミンは肺血管も同時に収縮させてしまうのです。肺動脈が収縮すると肺に入る血流量が減少し血圧が上がり、酸素不足になります。寒さで足の血管が開かないと、心臓に帰ってくる血流量も減少し、新生児は呼吸困難になり、赤紫色になります。これはチアノ-ゼ(低酸素症)といいます。酸素不足はATP産生を抑制し、脳に致命的な損傷を与えます。

出産直後の赤ちゃんは血糖値が低くなっています。寒さで血流量が減少すると、脳に供給される血糖量が減少してしまいます。脳に供給される酸素と糖が減少すると、脳の神経細胞を保護するグリア細胞などに致命的な損傷を与えてしまいます。また低体温になると腸の栄養吸収が低くなり、体が温まらなくなります。低体温になると肝臓の糖新生が低下し、血糖値が低下します。低体温と低血糖の悪循環が生じやすいのです。

 分娩室の温度は25℃程度で赤ちゃんにとっては低温環境です。出生時から1時間で赤ちゃんの中枢体温は36℃まで下がります。手足の深部体温は30℃まで下がり、5時間後でも34℃以下にばらつきます。これは冷え性の状態です。

産科麻酔医師の久保田先生によると、赤ちゃんの本来の体温である37℃にするには、赤ちゃんを保育器に入れて、出産直後の最初の1時間は34℃、次の1時間は30℃で管理し、それ以降は新生児室で26℃に管理するのがよいそうです。出産後の赤ちゃんの中枢体温は37℃以下になりません。手足の深部体温は5時間後に34℃~36℃に保たれます。赤ちゃんが十分栄養を取れるようになれば、次第に自分で適正体温を維持できるようになります。ただし赤ちゃんに産着を着せ過ぎない注意が必要です。着せ過ぎは熱中症を引き起こすからです。

低血糖の問題点は何でしょうか?

出産直後の赤ちゃんは飢えと寒さを覚えています。飢えを感じているときは血中のグルコ-ス(血糖)濃度が低い低血糖状態になっています。グルコースは脳の活動だけでなく神経細胞の形成のATP源としても重要な物質ですから、出産時のグルコースの低下は脳に大きな障害を残します。

通常胎児は母親から糖を貰うので低血糖症になりません。胎児の血糖値は、胎盤の働きで、母親の血糖値より20mg/dl(デシリットル)程度低くなっています。胎児は全身が38℃の環境にいるので血流がよく、脳関門は完成していないので、血糖値は低めに設定されています。母親の典型的な血糖値は100mg/dlですから、胎児の血糖値は80mg/dlになっています。

生まれてくる赤ちゃんは寒い分娩室で震えて熱を出します。その熱は血糖を消費することで発生します。臍帯を切り離すと暖かい血液は流れてきません。赤ちゃんの血糖値は徐々に低下し、1時間目の血糖値は80mg/dlから40~50mg/dlまで低下します。低血糖になると痙攣や無呼吸発作をおこすこともありますが、まったく症状がないこともあります。しかし出産時に症状がなくても、低血糖は脳に後遺症を残すことがあります。35mg/dlより低くなると赤血球が糖不足で崩壊してしまいます。脳の保護のためには、少なくともこの最低値が40mg/dlより低くならないことが重要です。

久保田医師の新生児の周産期管理方式では、出産直後に34℃の保育器に入れているので、生後1時間の血糖値は50mg/dlに下がりますが、生後1時間に30℃に変更し、新生児に5%の糖水20ml~25mlを与えるので、血糖値は60mg/dlに回復します。生後2時間以後は26℃にして、生後4時間で人工乳20mlを与え、3時間ごとに人工乳20mlのペースで与えると、血糖値は出産直後の値60~70mg/dlで安定させられます。これを超早期経口栄養法といいます。赤ちゃんは糖水を与えられると泣き止み、よく飲みます。これだけで発達障害児の発生を予防できるとは驚きです。

肥満妊婦から生まれた赤ちゃんや未熟児(低体重児)には低血糖症が発症することがあります。しかし正常出産で生まれた赤ちゃんの血糖値が40mg/dlより下がることは殆どないと考えられていました。しかし出産直前のお母さんの血糖値が高いと、血中インスリン濃度が高くなります。生まれてくる赤ちゃんは血糖値を下げるために膵臓からインスリンを分泌させ、インスリン濃度が高まります。これを高インスリン血症児と言います。母親のインスリンは胎盤で防御され、胎児にはいきません。

インスリン2分子は肝臓の細胞のインスリン受容体に結合し、細胞内部にシグナルを伝達して、糖を取り込むたんぱく質GLUT1を細胞表面に移動させます。このようにしてインスリンによって血液中のグルコ-スが肝臓に取り込まれるので、血糖値が下がります。

飽食の日本では出生する赤ちゃんの10%~20%は高インスリン血症児となっています。高インスリン血症は赤ちゃんの低血糖症を加速してしまうのです。母乳は体内でグルコ-スとガラクト-スに分解され、ガラクト-スは肝臓でグルコ-スに変換されます。母乳を早く赤ちゃんに与えることが低血糖を防ぎます。

低体温の場合、赤ちゃんは筋肉を緊張させて体温を上げようとします。こうした産熱亢進は血糖を消費するために低血糖を引き起こします。低血糖が進むと筋肉を緊張させられなくなるので、産熱亢進が低下し、体温が下がります。低体温と低血糖の悪循環が生じます。低体温による肝血流の減少も、糖新生を低下させ、低血糖を引き起こします。

出産の科学 健康で賢い赤ちゃんを産むには

少子高齢化が加速している日本において、健康な赤ちゃんを産むことは最も重要なことです。私たち家族の最大の願いでもあります。健康な赤ちゃんを産むにはどうすればいいのでしょうか?まずは赤ちゃんのことを知ることが大切です。

赤ちゃんはお母さんの子宮の羊水の中で10カ月を過ごします。赤ちゃんの体温は38℃で、すべての栄養と酸素は胎盤に注ぎ込む血液によって母親から与えられます。胎盤は羊膜の母体側にある扁平な臓器です。胎盤で母体と胎児の血液は直接混合しません。酸素、栄養分、老廃物などの交換は血漿(けっしょう)を介して行われています。これをプラセンタルバリア (placental barrier) といいます。プラセンタは古代ロ-マの平たいパンケ-キに由来しているそうです。このため親子の血液型が異なっていても、凝血は起こりません。

赤ちゃんは、長い時間をかけて狭い産道を通り、分娩室に出てくると大きな声で泣きます。このとき赤ちゃんは肺胞を開き、酸素呼吸を開始します。医師がへその緒を切った後は、胎盤からくる栄養や水分や酸素はなくなるので。赤ちゃんは自分の口から水分や栄養分を取らなくてはなりません。

赤ちゃんの脳のシナプス密度は1歳半で最大になります。出生時はその40%ぐらいです。その後緩やかに減少し、5歳で一応完成します。脳細胞にはATP源となる糖を貯めることはできません。絶えず糖が血液によって脳に供給されている必要があります。つまり十分な血流と適切な血糖値が必要です。脳の毛細血管壁の内皮細胞は緊密に結合しており、血管内にある水溶性の物質や分子量の大きい物質は、基本的に血管外の脳細胞側に拡散できません。これを血液脳関門(Blood-brain barrier, BBB)といいます。糖は血液脳関門を通過します。EPAなどの脂肪酸は脂溶性なので血液脳関門を通過できます。脳に必要なアミノ酸は、独自のトランスポ-タがあれば、血液脳関門を通過します。ただし赤ちゃんの血液脳関門は未完成です。神経細胞であるニュ-ロンの周囲にはグリア細胞があります。グリア細胞は、有害な糖を無害な乳酸に変換してニュ-ロンに供給します。しかし赤ちゃんの脳はグリア細胞がまだ十分発達していないので、赤ちゃんの脳は高血糖にも弱いのです。

 分娩直後の赤ちゃんに襲い掛かるのは、飢えと寒さです。昔は乳母(めのと)と産湯(うぶゆ)が赤ちゃんを飢えと寒さから守ってきました。出産後3日間は母乳があまり出ないので、乳母が母乳を与えていたのです。現在は粉ミルクを代わりに与えています。産湯は血液や羊水や粘膜で汚れた赤ちゃんを洗い、温めるものです。同時に昔は大量のお湯を沸かすことで、部屋を暖めていたのです。現在は、分娩室の温度は25℃に保たれているので、赤ちゃんの体温を下げないように、濡れた身体を拭いてすぐに産着を着せています。

しかし赤ちゃんと外界の温度差は13℃(=38℃-25℃)もあります。分娩から2時間の間に、赤ちゃんの体温は2~3℃低下して35℃~36℃になります。実は赤ちゃんが健康でいられる体温は37℃なのです。体温が1℃~2℃低いことは赤ちゃんにとって有害です。母親の体温は36℃~36.5℃なので、母親が抱いて温めても赤ちゃんの体温は37℃にはならないのです。

2007年に厚労省はWHOやユニセフが勧めているカンガル-ケア(早期母子接触1989年)を日本に導入しましたが、これによって新生児の低体温症は悪化しました。深夜帯の母子同室も有害です。母親が赤ちゃんの世話で睡眠不足になると、母乳の出が悪くなるからです。お産の疲れが残る母親に、深夜帯も赤ちゃんの体温・栄養・呼吸などの全身管理を任せることは無理です。カンガルーケア中の心肺停止事故の殆どは、生後12時間以内の、最も体温と血糖値が低下する分娩室・母子同室中に発生し、しかも深夜に多いようです。また、カンガルーケア中の心肺停止事故は、母乳育児の3点セット(カンガルーケア・完全母乳・母子同室)を積極的に行う赤ちゃんに優しい病院(BFH)に集中して起きていることが分かっています。しかし、その事実は意外に知られていません。