血清(serum)と血漿(plasma)の違いは何でしょうか?

血清と血漿の違いは,全血から細胞成分を取り除いたものの中に凝固因子(フィブリノゲン)が含まれるかどうかにあります。フィブリノゲンとは、血液凝固因子の第Ⅰ因子で、血液凝固の最終段階でフィブリンという水に溶けない網状の線維素となり、血球や血小板が集まってできた血栓の隙間を埋めて、血液成分がそこから漏れ出さないようにしています。
血漿とは抗凝固剤を加えて遠心分離した上清み液で、凝固因子を含みます。抗凝固剤とは血液を凝固させない化合物です。血清は抗凝固剤を加えずに放置した上清み液で、凝固因子を含みません。血漿は凝固反応を起こしていない成分ですから、体内を流れていた時の状態を維持しています。血漿の場合は抗凝固剤に何を用いるかによって更に分類されます。

フィブリノゲンは肝機能検査としても用いられます。これはフィブリノゲンが肝臓で合成されているためで、肝硬変や肝臓がんで肝臓の合成能力が低下すると低値を示します。さらに感染症や急性心筋梗塞などの疑いがあるときにも行ないます。フィブリノゲンは、体内に炎症や組織の変性が生じると血液中に増加して高値を示します。フィブリノゲンが何らかの原因で増加すると、体のいろいろな場所で血栓ができやすくなります。

多種類の抗体はどのように作られるのでしょうか?

抗体は白血球のB細胞で作られ、おもに血液など体液中に存在します。リンパ球のB細胞が抗体を作ると同じ異物が再び侵入したとき、簡単に撃退できるようになります。これが免疫作用です。B細胞が作る抗体の種類は100億を超えます。抗体はすべてY字型の構造をしており、左右に開いた腕の先で抗原に結合します。抗体のアミノ酸の並び方は2万数千個の遺伝子によって決められています。2万数千の遺伝子から、100億の抗体をどうしたら作れるのかを解明したのが、利根川進教授です。

 抗体の腕のたんぱく質をコ-ドする遺伝子領域には、可変なVDJ遺伝子領域と固定領域Cがあります。VにはV1V2V3・・があります。成熟したB細胞のDNAには例えばV2D3J3Cという遺伝子配列が決定しています。この配列をRNAが読み取り、抗体のたんぱく質が合成されます。VDJの組み合わせの仕方が沢山あるので100億種類もの抗体を作ることができるのです。当時DNAに書き込まれた遺伝子情報は一生変わらないと考えられてきました。しかし、1976年に利根川博士は「B細胞だけは自らの抗体遺伝子を自在に組み替えて、無数の異物に対応する無数の抗体を作ることができる」ことを証明したのです。

抗凝固剤の種類と作用について

採血をされているとき、看護師が採血管を何本も使い、採血管の長さやふたの色が異なっていることに気づきます。採血管には、検査目的によって異なる種類の抗凝固剤が入っています。抗凝固剤が入っていない採血管はプレ-ン管と呼ばれ、生化学・内分泌・感染症・自己抗体・腫瘍マーカー検査などに用いられます。抗凝固剤にはヘパリン、EDTA、クエン酸、NaF解糖系阻害剤などがあります。

ヘパリンはトロンビン(Ⅱa因子)やXa因子等の活性型凝固因子の作用を抑制する抗凝固剤です。ヘパリンリチウムは生化学検査、主にNa・K・Clなどの電解質、血液pH、染色体分析、リンパ球培養やコレステロールなどの脂質を測定する検査で用いられます。

EDTAはエチレンジアミン四酢酸(ethylene diamine tetraacetic acid)という二価のイオンのキレ-ト吸着剤です。EDTAは、生化学検査を阻害するので、血球観察や血液学的検査つまり赤血球・白血球・血小板の数やヘモグロビン濃度を測定する検査で用いられます。EDTAを使うと、血液の凝固因子のひとつであるCa2+と非可逆的に結合し、血液が凝固しなくなります。
クエン酸ナトリウムは血液の凝固作用を検査するのに用いられます。クエン酸ナトリウムはCa2+と可逆的に結合します。検査時には血液とクエン酸の混合比を9:1に固定します。採血保管時は凝固系を止めた上で、後で凝固系の測定を行います。
NaFは血糖値の正確な測定に用いられます。NaFはCaを除去し、解糖系の最後のステップを担うエノラーゼを阻害し、グルコースの消費を止める作用があります

真空管採血の場合、1本目の採血管には針を刺した時に流出する組織液が混入し、凝固しやすくなります。そのため1本目には凝固しても構わない生化学に分注します。2本目以降はシリンジ採血と同じ順番になり、凝固しては困るものから順に採血します。また4〜5回の転倒混和も忘れずに行います。激しく振ると溶血してしまうので緩やかに振ります。

生化学(1本目)→凝固(2本目クエン酸)→電解質(3本目ヘパリン)→血算(4本目EDTA)→血糖(5本目NaF)→その他の抗凝固薬なしのプレーン管(6本目)の順番になります。血算とは血球算定検査の略語です。

血液検査は病気の有無の診断だけでなく、疾病の予防や栄養状態の改善にも役立てることができます。血液検査の結果を理解できるようになることは重要になってくると思います。

血液型の違いは何に起因するのでしょうか?

血液型は、赤血球の表面にある糖鎖の違いに起因します。O型の人は、ガラクト-スとNアセチルグルコサミンとカラクト-スの3個の糖がつながった糖鎖を持っています。A型の人はO型の3個の糖に加えてA型になる糖(Nアセチルガラクトサミン)を1個持っていて、B型の人はO型の糖に加えB型になる糖(ガラクト-ス)を1個持っています。つまりA型、B型のもとになっているのはO型です。AB型はA型とB型の糖鎖をそれぞれ持っています。

なぜ血液型が存在するのでしょうか?

 血液型が存在する理由は、21世紀になってからウイルスの蔓延を防ぐためだと考えられています。ウイルスは細胞外に出るときに細胞表面の糖鎖構造をまといます。これには各血液型の特徴が刻まれています。それがまた別の身体に侵入すると、異なる血液型の糖鎖構造がウイルスと一緒に身体に入ってくることになり、抗体が集中攻撃するので、感染し難くなるというのです。血液型の存在は、種の絶滅を回避するためのリスクヘッジになっています。

 

ABO型血液型を発見した人は誰でしょうか?

ABO型血液型を発見した人はオーストリアの病理学者カール・ラントシュタイナー(Karl Landsteiner, 1868年~ 1943年)博士です。ラントシュタイナーは1900年に血液の凝集実験を行い、ABO型血液型を発見しました。1922年にユダヤ人迫害を逃れるために渡米し、1930年に血清学および免疫化学への貢献によりノーベル医学・生理学賞を受賞しました。1940年には弟子のウィーナーとともに新たな赤血球抗原である「Rh抗原」を発見します。ユーロ導入以前の1000シリング紙幣には1997年以降、彼の肖像画が描かれていました。

ABO型血液型発見の経緯

1889年に北里柴三郎(1853-1931)は破傷風菌の純粋培養に成功し、翌年、ベーリングと共に破傷風菌の毒素を無力化する「抗体」を発見し、血清療法を確立しました。ラントシュタイナーが凝集実験を行ったのは、その抗原抗体反応がほぼ解明された時期にあたります。
ラントシュタイナーは、イギリスの病理学者シャタックの「肺炎患者の血球と別人の血清を混ぜていた際に凝集があった」という報告を聞いて、これが正しければ肺炎の診断に利用できないかと考え、追試を行いました。そこで自分を含む22人の健康な同僚の血液を血球と血清に分けて互いに混ぜ合わせる実験を行ったのです。当時は細菌学が全盛で、新しい細菌がしばしば発見されていました。血液の凝集が肺炎菌などの微生物によるものである可能性もありました。そこでまず健康な人の血液で実験を行い、赤血球と凝集反応を起こす抗体が別人の血清に含まれている可能性を調べたのです。

実験の結果、血液の凝集反応は健康な人同士でも起こりうる生理的現象であり、肺炎診断には使えないことが分かりました。しかし凝結には規則性があり、そのパタ-ンはA型とB型とO型の3つに分類できることが分かりました。これは実験対象者にはAB型の人がいなかったからでした。AB型は1902年に同僚の研究者によって発見されました。ちなみにラントシュタイナー博士の血液型はA型でした。血漿中の抗体がグループ外の血球にある抗原を敵とみなして攻撃した結果、凝集が生じることが解明されたのです。これによって運を天にまかせるような輸血が科学に基づく安全な輸血に変わりました。科学の偉大な発見の多くは予期しない実験結果によるものなのです。

残念ながら、発表当初は基礎医学分野の地味な論文として受け止められ、大きな反響はありませんでした。しかし1910年ごろ、アメリカのモスらが、輸血の死亡事故の主な原因は、ラントシュタイナーが指摘している血液型不適合によるものであると宣伝したことにより、血液型を輸血に応用する動きが急速に高まり、輸血の死亡事故は激減しました。戦争では輸血は兵士の命を救う技術になりました。

血液型について

平日の8時15分からテレビ東京で韓国ドラマが放映されています。人を寄せ付けない天才女性外科医が病院船の人たちの優しさに触れて心を開いて行くというドラマです。先日は病院船の乗組員が、銃弾で撃たれたマフィアのボスを救うために献血をするシ-ンがありました。ボスの血液型はB型だったので、乗組員はB型とO型の人は輸血をして下さいと頼まれていました。


O型からB型の人に輸血ができるのはどうしてでしょうか?

血液を取り出して静置しておくと赤血球と薄黄色の血漿(けっしょう)に分離します。血漿には抗体が含まれています。免疫を担う抗体は異物と反応し、異物は除去されます。A型の血液をB型の人に輸血すると凝縮が生じてしまいます。これはB型の人の抗体がA型の赤血球(抗原)を異物と見なして抗原抗体反応を生じさせるからです。ABO血液型は、赤血球の表面に突き出ている糖鎖と血清中のY字型のIgM抗体(たんぱく質)で決まります。A型の人はAタイプの糖鎖とBタイプの抗体を持っています。B型の人はBタイプの糖鎖とAタイプの抗体を持っています。凝縮はA型の血液中の赤血球のAタイプの糖鎖が、B型の人の血清中のAタイプの抗体と結合するために生じます。


一方O型の人はAタイプやBタイプの糖鎖を持たず、AタイプとBタイプの抗体をもっています。O型の血液をそのままB型の人に輸血すると、O型の血漿中のBタイプ抗体がB型の人の赤血球のBタイプの糖鎖と結合するので、凝縮反応が起きてしまいます。O型の血液をB型の人に輸血する場合は、予め遠心分離機を用いてO型の血液から血漿を除去し、O型の赤血球だけB型の人に輸血します。O型の赤血球にはAタイプやBタイプの糖鎖がないので、B型の人のAタイプの抗体との反応は生じません。しかし血漿除去は完全ではないので、輸血は基本的には同じ血液型の人の間で行われます。

ちなみにAB型の人はAタイプとBタイプの糖鎖を持ち、AタイプやBタイプの抗体はありません。AB型の人はAB型の人にしか輸血してもらえません。