日本の崩壊を防ぐためには出産改革が必要です

日本の令和1年の出生数が86万人に落ち込んだニュ-スがありました。九州の産婦人科医の久保田先生が7年後の出生数が50万人まで減少すると予測しています。その理由が近年問題になっている発達障害児の急増によるものだということです。発達障害児を持った母親がその子の育児に手がかかり過ぎて、第2子を生むことが難しくなるからだと思います。これは大変なことです。


発達障害児の増加は指数関数的なので、16年以内に日本の出生数は消失する恐れがあります。このままでは日本の年金、福祉、医療、教育などの制度が崩壊するだけでなく、日本自体が崩壊することは確実だということです。


発達障害児の増加曲線と虐待相談件数の増加曲線は酷似しています。これは発達障害児を育てることは難しく、親が虐待してしまうことを示していると考えられます。ADHDの治療薬の増加は薬を飲まされている重度の発達障害児が急増加していることを示しています。
久保田医師によると、発達障害は遺伝によるものではなく、分娩時の赤ちゃんの低体温と低血糖による脳障害であることが分かっています。1993年に厚生省がユニセフが提唱する完全母乳を導入したために新生児の低血糖が発生し、同様に2007年のカンガル-ケア導入により新生児の低体温症が発生し、脳障害を受けた発達障害児が急増したと考えられます。赤ちゃんの体温は母親の体温より高いので、抱かれた赤ちゃんの体温は低下してしまうのです。カンガル-ケアによる脳性麻痺の発生もあり裁判も起こっていますが。厚生省は自分のミスを認めません。多発する出生事故を受けて60%の病院がカンガル-ケアをやめています。
久保田医師は、生後1時間の赤ちゃんに保温と糖水を与えることで脳障害を予防することを提唱しています。久保田医院ではこのような簡単な方法で15000人の赤ちゃんが成長したときに発達障害は殆ど見られないことを実証しています。皮肉なことに体重2500g以下の未熟児は体温管理と栄養管理を行うので、発達障害児の増加はみられていないようです。
一刻も早く少子化対策を講じなければ、日本は確実に植民地化するでしょう。 先ず、①安全なお産、②無痛分娩をお産の常識に、③徹底した妊婦支援、(労働時間の短縮・週休3日・母親教室の充実・残業なし)、④赤ちゃんに優しい病院の廃止、⑤産科麻酔科専門医制度の新設を久保田医師は提唱しています。

2人目のお子さんを考えている人は是非とも、正しい出産方法が相談できる産科医院を検討して下さい。発達障害児を養育している方も精神薬を飲ませるのでなく、正しい栄養やミネラルを与えるように指導するとよいと思います。
令和は大変な年になりそうです・・・

生理的黄疸と重症黄疸との違いは何ですか?

生まれたばかりの新生児の血液には赤血球(ヘモグロビン)がたくさん含まれており、生まれると同時にこれらの大量の赤血球が脾臓で徐々に分解されるため、ビリルビン(Bilirubin)が一時的に増加し皮膚が黄色くなります。特に新生児の血液は血糖値が低いので壊れ易いのです。新生児期は肝臓の働きが十分ではないため大量のビリルビンを処理しきれず、黄疸が現れてしまうのです。こうした生理的黄疸は生後1週間経つと肝臓の働きがよくなり自然に消失していきます。

ビリルビンはヘモグロビンの分解生成物です。ヘモグロビンはヘム鉄とグロビンからなり、グロビンはたんぱく質でアミノ酸に分解されます。ヘム鉄はポルフィリン環の4つの窒素にFeが結合した構造をしています。ヘムオキシゲナーゼ(HMOX)によりヘム鉄から鉄を抜いてポルフィリン環を開環するとビリベルジンに分解されます。さらにNADPHでビリベルジンを還元したのがビリルビンです。ビリルビンは4つのピロール環のチェーン構造をしています。光に晒すとビリルビンの二重結合が異性化する性質を利用して新生児の黄疸に光線療法が施されています。ビリルビンは水に溶けないのでアルブミンというたんぱく質と結合させて血中を移動し、肝臓で処理されます。

重症黄疸とは血中のビリルビン濃度が病的に高い状態です。ビリルビンには結合ビリルビンと遊離ビリルビンがあります。遊離ビリルビンは、脳細胞のガングリオンという脂質との親和性が高く、特異的に中枢神経細胞を侵し、重症黄疸では脳性麻痺を引き起こします。ビリルビンは解糖系の酵素反応を阻害するので、脳におけるエネルギ産生を減少させます。

結合ビリルビンはアルブミンと結合したビリルビンです。肝臓でグルクロン酸と抱合して、無毒な水溶性の抱合型ビリルビンとなり、肝臓から腸管に排出されます。グルクロン酸とはグルコ-ス(糖)にCOOHが結合した酸です。包摂型ビリルビンは腸内細菌によって水酸化され、より水溶性の高いウロビリノーゲンとなり一部はウロビリン(=尿の黄色色素)となり尿として排泄され、大部分はステルコビリン(=便の茶色色素)に変えられ便中に排泄されます。

しかし排出が遅れると、便中のビリルビンは腸管より再吸収、腸肝循環されるので、血中ビリルビン濃度が上昇します。新生児の腸内細菌は少ないので便の形成には2~3日かかります。低体温になると腸の血流が低下し消化時間がかかり便秘になり黄疸が重症化します。重症黄疸を防止するには、体温を37℃に維持し、早めに粉ミルクを与えて、12時間以内に便を排出させるのが望ましいのです。

 遊離ビリルビンはどうして増えるのですか?

栄養不足で脱水状態の赤ちゃんは、脂肪が分解されて血中の遊離脂肪酸(FFA)が増えています。遊離脂肪酸はビリルビンよりもタンパク質と強く結合するため、飢餓状態ではビリルビンがタンパク質と結合できなくなり、遊離ビリルビンが増加します。

脳内血管壁の細胞は密に接合されているために水溶性物質や高分子量の物質が血管外の脳細胞に拡散できないので、血液脳関門と呼ばれています。新生児は血液-脳関門が未発達なので、血中の遊離ビリルビンは血液-脳関門を通り、脳神経細胞に害を与えます。それが聴覚細胞であれば、難聴を引き起こします。

WHOやユニセフが推奨する完全母乳は、母乳が出ない3日間、新生児を飢餓状態にするので、血中の遊離脂肪酸が増加し、神経毒を持った遊離ビリルビンが脳神経細胞を侵すのを促進してしまいます。完全母乳栄養の場合、生後4日目の赤ちゃんの血中総ビリルビン値は12.8mg/dlと高値です。それに対して体温管理と栄養管理(超早期経口栄養)をしている産院では、血中総ビリルビン値は5.7mg/dlと低値で、この10年間の約5,000例で重症黄疸は発症していません。

高インスリン血症児はどうして生まれるのでしょう?

出生直後のカンガルーケアと完全母乳は低体温と低血糖を生じさせ、発達障害児を増加させる要因になっています。さらに日本には高インスリン血症児が6人に1人の割合で存在しているために、発達障害児の急激な増加がみられています。高インスリン血症児であるかの診断は出生前につかないので、低血糖を未然に防止するための予防策を取り入れるべきです。

高インスリン血症児はどうして生まれるのでしょう? 妊娠中は血糖値が大きく上下し、それに連動してインスリン濃度も大きく上下します。これは妊婦の胎盤からラクトーゲンというホルモンが分泌されてインスリン抵抗性を増大させるからです。妊娠でインスリンの効き目が低下するので、インスリンがあまり出ないと、血糖値が高くなり、妊娠糖尿病(gestational diabetes mellitus; GDM)になります。

妊娠時は冷え性を防止し、適度な運動と食事制限を行い、血糖値を管理する必要があります。母体の血糖値が高くなると、胎児の血糖値も高くなり、胎児のインスリンが高くなります。インスリンは成長ホルモンなので、胎児の生育が加速され巨大児になり難産となります。高いインスリン血症児は出産時に低血糖が加速され、脳障害を引き起こします。またインスリンは胎児の肺サーファクタントの合成を抑制するために、出生後に呼吸困難を発症するリスクが高まります。

妊婦の高血糖を防止する一つの方法として糖質制限食があります。糖質制限食は、脳・骨格筋・心臓などのATP源を糖からケトン体に切り替える体質改善法です。βヒドロキシ酢酸などのケトン体は脂肪酸から産生されます。糖質を制限し、タンパク質や脂肪を十分に摂取することで、血糖値を低く保つことができます。しかしながら現時点ではマウスの実験で赤ちゃんの脳の働きなどに影響する可能性があることが指摘されています。

胎盤にはモノカルボン酸トランスポータ (MCT)という胎児にケトン体を供給する輸送体があります。MCTは妊娠初期から中期には十分にありますが、妊娠後期になると減少します。出産期にはケトン体が胎児に供給しにくくなります。ケトン体はグルコースより25%多く酸素を消費すると言われています。

脳のなかでケトン体活用の違いによって細胞の大きさや形態が違ってくるようです。胎児の記憶形成に関与する歯状回の発育やドパミンの分泌やミトコンドリアの働きに異常を引き起こす可能性が指摘されています。ケトン体を脳内でより活用できるように脳血流関門の通過性が亢進することで、不飽和脂肪酸の脳細胞内の蓄積が過剰になる可能性があります。妊娠前からバランスの良い食事と葉酸やDHAを摂取することが推奨されています。

出産時の赤ちゃんの低体温と低血糖が発達障害児を生む

産科麻酔医である久保田史郎氏は、高インスリン血症児を寒い分娩室でカンガルーケアと完全母乳で管理すると、赤ちゃんは確実に低血糖症に陥り、脳に永久的な神経細胞障害を引き起こすと警告しています。重度の場合は心停止や脳障害が生じます。中度の低血糖の場合は、成長後に発達障害として現れると主張しています。低血糖によりグリア細胞が損傷を受け、ニュ-ロンにおいてグルタミン酸による情報伝達が過剰になるため、発達障害の症状が現れると考えられます。発達障害の原因が不明であった理由は、低血糖症の症状が表に出ないため、周産期側からの調査研究が十分行われてこなかったからだそうです。久保田医師は、2015年3月15日に自民党本部で開催された障害児問題調査会で、厚生省は新生児の低体温症、低血糖症、低栄養症、脱水症を防ぐための管理をすべきであると警鐘を鳴らしています。

福岡市における発達障害の発生件数は、50件/年で推移していましたが、完全母乳が導入された1993年から上昇し、2007年には280件/年に達しました。発達障害の発生件数はカンガル-ケアが導入された2007年から急増し、2018年には1000件/年に達しました。産院によって発達障害児の発生件数は大きく異なることも分かりました。2500g以下の未熟児は、出産直後に保育器で体温管理、酸素濃度管理、水分・栄養分管理が行われてきたために、発達障害の増加は見られていないことが分かりました。30年間、久保田産婦人科麻酔科医院では15000人の赤ちゃんが誕生しましたが、発達障害児の発生は極めて少ないということです。このことから周産期管理が発達障害の大きな要因になっていることが明らかになりました。周産期管理の向上により、NICUに入院する赤ちゃんは激減するでしょう。

米国では発達障害児の急激な増加原因の全国調査では、基準値の低下や被験者の増加による見かけの増加は4割程度であり、残りの6割は正味の増加であると報告されていました。米国カルフォルニアでは1975年に完全母乳運動が推進され、それ以来、自閉症児や発達障害児が増加しています。

日本においては1993年以前の発達障害は遺伝の影響や環境の化学物質の影響が考えられます。しかしここ27年間で増加している発達障害の原因は遺伝や添加物やワクチンの影響によるものではないと考えられます。
発達障害は遺伝病説が根強くありますが、福岡市立こども病院の小児神経医グループと日本自閉症協会長 山崎晃資先医師(精神科医)は、周産期側に問題があると指摘しています。発達障害児防止策は国の最重要課題ですが、周産期側から調査をしようとする動きは全くありません。

ユニセフのガイドラインとはどのようなものでしょうか?

ユニセフ・WHOは1989年に「母乳育児を成功させるための10ヵ条」を制定しました。ユニセフのガイドラインとはどのようなものでしょうか?

1.母乳育児の方針を全ての医療に関わっている人に、常に知らせること
2.全ての医療従事者に母乳育児をするために必要な知識と技術を教えること
3.全ての妊婦に母乳育児の良い点とその方法を良く知らせること
4.母親が分娩後30分以内に母乳を飲ませられるように援助をすること(カンガルーケア)
5.母親に授乳の指導を充分にし、もし、赤ちゃんから離れることがあっても母乳の分泌を維持する方法を教えてあげること
6.医学的な必要がないのに母乳以外のもの水分、糖水、人工乳を与えないこと(完全母乳)医学的な必要とは極度の体重減少や脱水、発熱等がある場合です
7.赤ちゃんと母親が1日中24時間、一緒にいられるように母子同室にすること。(母子同室)
8.赤ちゃんが欲しがるときは、欲しがるままの授乳をすすめること
9.母乳を飲んでいる赤ちゃんにゴムの乳首やおしゃぶりを与えないこと
10.母乳育児のための支援グル−プ作って援助し、退院する母親に、このようなグル−プを紹介すること

現在、134カ国15000の病院が「赤ちゃんにやさしい病院(BFH)」に認定されています。日本国内では、ユニセフから認定審査業務を委嘱された「日本母乳の会」が、その審査を行い、ユニセフへの認定申請を行っています。2015年8月現在、日本には72施設が認定されています。

2018年には、第1条に「母乳育児に関して継続的な監視およびデータ管理のシステムを確立する」ことが追加されました。第4条は「出生直後から、途切れることのない早期母子接触をすすめ、出生後できるだけ早く母乳が飲ませられるように支援する」と改定されました。母乳を与えるのは赤ちゃんに母親の免疫を与えるためです。第4条はカンガル-ケアと呼ばれていました。

ユニセフのガイドラインは一見問題がなさそうに見えます。しかし第4条(早期母子接触)と第6条(完全母乳)と第7条(母子同室)には問題があります。
第4条の途切れることのない早期母子接触は、赤ちゃんの低体温症を招きます。第6条の完全母乳の規定を守り、出産直後の赤ちゃんに水分、糖水、人工乳を与えないと、半数の赤ちゃんは低血糖を加速させて、回復できない脳障害を生じ、成長後に発達障害を発症します。第7条の24時間の母子同質は、母親を睡眠不足にして母乳の産出を低下させ、赤ちゃんを危険にさらします。つまりユニセフは低体温による潜在的な低血糖症を見逃しているのです。

殆どの場合、母乳はすぐには出ないので赤ちゃんには飢餓が生じています。なかには低血糖症や高インスリン血症の赤ちゃんもいます。しかしユニセフは、赤ちゃんの脳のATP源には肝臓から生じるグルコ-ス、脂肪分解から生じるケトン体や乳酸があると考えています。つまり赤ちゃんは栄養を蓄えた状態で産まれてくるため、母乳以外の栄養は必要ないというのです。しかし数日後の新生児はケトン体を生成する力がありますが、出産直後の新生児にはケトン体を生成する力はなく、グルコ-スだけが赤ちゃんのATP源なのです。

NICUでは周産期管理を行います。NICUというのは新生児集中治療管理室(Neonatal Intensive Care Unit)の略です。周産期とは妊娠22週から生後満7日未満までの期間を指し、周産期医療とはこの期間の母体、胎児、新生児を総合的に連続的に取り扱う医療です。NICUでは身体機能の未熟な低出生体重児や、仮死・先天性の病気などで集中治療を必要とする新生児を対象に、高度な専門医療を24時間体制で提供しています。正常体重の新生児でも周産期管理を行えば、発達障害なども防止できると考えられます。

どうして低体温は赤ちゃんにとって良くないのでしょうか?

生まれてきた赤ちゃんは、放熱を防ぐ為に手足の末梢血管を持続的に収縮させます。この時、カテコラミンという血管収縮ホルモンが分泌されます。ところがカテコラミンは肺血管も同時に収縮させてしまうのです。肺動脈が収縮すると肺に入る血流量が減少し血圧が上がり、酸素不足になります。寒さで足の血管が開かないと、心臓に帰ってくる血流量も減少し、新生児は呼吸困難になり、赤紫色になります。これはチアノ-ゼ(低酸素症)といいます。酸素不足はATP産生を抑制し、脳に致命的な損傷を与えます。

出産直後の赤ちゃんは血糖値が低くなっています。寒さで血流量が減少すると、脳に供給される血糖量が減少してしまいます。脳に供給される酸素と糖が減少すると、脳の神経細胞を保護するグリア細胞などに致命的な損傷を与えてしまいます。また低体温になると腸の栄養吸収が低くなり、体が温まらなくなります。低体温になると肝臓の糖新生が低下し、血糖値が低下します。低体温と低血糖の悪循環が生じやすいのです。

 分娩室の温度は25℃程度で赤ちゃんにとっては低温環境です。出生時から1時間で赤ちゃんの中枢体温は36℃まで下がります。手足の深部体温は30℃まで下がり、5時間後でも34℃以下にばらつきます。これは冷え性の状態です。

産科麻酔医師の久保田先生によると、赤ちゃんの本来の体温である37℃にするには、赤ちゃんを保育器に入れて、出産直後の最初の1時間は34℃、次の1時間は30℃で管理し、それ以降は新生児室で26℃に管理するのがよいそうです。出産後の赤ちゃんの中枢体温は37℃以下になりません。手足の深部体温は5時間後に34℃~36℃に保たれます。赤ちゃんが十分栄養を取れるようになれば、次第に自分で適正体温を維持できるようになります。ただし赤ちゃんに産着を着せ過ぎない注意が必要です。着せ過ぎは熱中症を引き起こすからです。

低血糖の問題点は何でしょうか?

出産直後の赤ちゃんは飢えと寒さを覚えています。飢えを感じているときは血中のグルコ-ス(血糖)濃度が低い低血糖状態になっています。グルコースは脳の活動だけでなく神経細胞の形成のATP源としても重要な物質ですから、出産時のグルコースの低下は脳に大きな障害を残します。

通常胎児は母親から糖を貰うので低血糖症になりません。胎児の血糖値は、胎盤の働きで、母親の血糖値より20mg/dl(デシリットル)程度低くなっています。胎児は全身が38℃の環境にいるので血流がよく、脳関門は完成していないので、血糖値は低めに設定されています。母親の典型的な血糖値は100mg/dlですから、胎児の血糖値は80mg/dlになっています。

生まれてくる赤ちゃんは寒い分娩室で震えて熱を出します。その熱は血糖を消費することで発生します。臍帯を切り離すと暖かい血液は流れてきません。赤ちゃんの血糖値は徐々に低下し、1時間目の血糖値は80mg/dlから40~50mg/dlまで低下します。低血糖になると痙攣や無呼吸発作をおこすこともありますが、まったく症状がないこともあります。しかし出産時に症状がなくても、低血糖は脳に後遺症を残すことがあります。35mg/dlより低くなると赤血球が糖不足で崩壊してしまいます。脳の保護のためには、少なくともこの最低値が40mg/dlより低くならないことが重要です。

久保田医師の新生児の周産期管理方式では、出産直後に34℃の保育器に入れているので、生後1時間の血糖値は50mg/dlに下がりますが、生後1時間に30℃に変更し、新生児に5%の糖水20ml~25mlを与えるので、血糖値は60mg/dlに回復します。生後2時間以後は26℃にして、生後4時間で人工乳20mlを与え、3時間ごとに人工乳20mlのペースで与えると、血糖値は出産直後の値60~70mg/dlで安定させられます。これを超早期経口栄養法といいます。赤ちゃんは糖水を与えられると泣き止み、よく飲みます。これだけで発達障害児の発生を予防できるとは驚きです。

肥満妊婦から生まれた赤ちゃんや未熟児(低体重児)には低血糖症が発症することがあります。しかし正常出産で生まれた赤ちゃんの血糖値が40mg/dlより下がることは殆どないと考えられていました。しかし出産直前のお母さんの血糖値が高いと、血中インスリン濃度が高くなります。生まれてくる赤ちゃんは血糖値を下げるために膵臓からインスリンを分泌させ、インスリン濃度が高まります。これを高インスリン血症児と言います。母親のインスリンは胎盤で防御され、胎児にはいきません。

インスリン2分子は肝臓の細胞のインスリン受容体に結合し、細胞内部にシグナルを伝達して、糖を取り込むたんぱく質GLUT1を細胞表面に移動させます。このようにしてインスリンによって血液中のグルコ-スが肝臓に取り込まれるので、血糖値が下がります。

飽食の日本では出生する赤ちゃんの10%~20%は高インスリン血症児となっています。高インスリン血症は赤ちゃんの低血糖症を加速してしまうのです。母乳は体内でグルコ-スとガラクト-スに分解され、ガラクト-スは肝臓でグルコ-スに変換されます。母乳を早く赤ちゃんに与えることが低血糖を防ぎます。

低体温の場合、赤ちゃんは筋肉を緊張させて体温を上げようとします。こうした産熱亢進は血糖を消費するために低血糖を引き起こします。低血糖が進むと筋肉を緊張させられなくなるので、産熱亢進が低下し、体温が下がります。低体温と低血糖の悪循環が生じます。低体温による肝血流の減少も、糖新生を低下させ、低血糖を引き起こします。

出産の科学 健康で賢い赤ちゃんを産むには

少子高齢化が加速している日本において、健康な赤ちゃんを産むことは最も重要なことです。私たち家族の最大の願いでもあります。健康な赤ちゃんを産むにはどうすればいいのでしょうか?まずは赤ちゃんのことを知ることが大切です。

赤ちゃんはお母さんの子宮の羊水の中で10カ月を過ごします。赤ちゃんの体温は38℃で、すべての栄養と酸素は胎盤に注ぎ込む血液によって母親から与えられます。胎盤は羊膜の母体側にある扁平な臓器です。胎盤で母体と胎児の血液は直接混合しません。酸素、栄養分、老廃物などの交換は血漿(けっしょう)を介して行われています。これをプラセンタルバリア (placental barrier) といいます。プラセンタは古代ロ-マの平たいパンケ-キに由来しているそうです。このため親子の血液型が異なっていても、凝血は起こりません。

赤ちゃんは、長い時間をかけて狭い産道を通り、分娩室に出てくると大きな声で泣きます。このとき赤ちゃんは肺胞を開き、酸素呼吸を開始します。医師がへその緒を切った後は、胎盤からくる栄養や水分や酸素はなくなるので。赤ちゃんは自分の口から水分や栄養分を取らなくてはなりません。

赤ちゃんの脳のシナプス密度は1歳半で最大になります。出生時はその40%ぐらいです。その後緩やかに減少し、5歳で一応完成します。脳細胞にはATP源となる糖を貯めることはできません。絶えず糖が血液によって脳に供給されている必要があります。つまり十分な血流と適切な血糖値が必要です。脳の毛細血管壁の内皮細胞は緊密に結合しており、血管内にある水溶性の物質や分子量の大きい物質は、基本的に血管外の脳細胞側に拡散できません。これを血液脳関門(Blood-brain barrier, BBB)といいます。糖は血液脳関門を通過します。EPAなどの脂肪酸は脂溶性なので血液脳関門を通過できます。脳に必要なアミノ酸は、独自のトランスポ-タがあれば、血液脳関門を通過します。ただし赤ちゃんの血液脳関門は未完成です。神経細胞であるニュ-ロンの周囲にはグリア細胞があります。グリア細胞は、有害な糖を無害な乳酸に変換してニュ-ロンに供給します。しかし赤ちゃんの脳はグリア細胞がまだ十分発達していないので、赤ちゃんの脳は高血糖にも弱いのです。

 分娩直後の赤ちゃんに襲い掛かるのは、飢えと寒さです。昔は乳母(めのと)と産湯(うぶゆ)が赤ちゃんを飢えと寒さから守ってきました。出産後3日間は母乳があまり出ないので、乳母が母乳を与えていたのです。現在は粉ミルクを代わりに与えています。産湯は血液や羊水や粘膜で汚れた赤ちゃんを洗い、温めるものです。同時に昔は大量のお湯を沸かすことで、部屋を暖めていたのです。現在は、分娩室の温度は25℃に保たれているので、赤ちゃんの体温を下げないように、濡れた身体を拭いてすぐに産着を着せています。

しかし赤ちゃんと外界の温度差は13℃(=38℃-25℃)もあります。分娩から2時間の間に、赤ちゃんの体温は2~3℃低下して35℃~36℃になります。実は赤ちゃんが健康でいられる体温は37℃なのです。体温が1℃~2℃低いことは赤ちゃんにとって有害です。母親の体温は36℃~36.5℃なので、母親が抱いて温めても赤ちゃんの体温は37℃にはならないのです。

2007年に厚労省はWHOやユニセフが勧めているカンガル-ケア(早期母子接触1989年)を日本に導入しましたが、これによって新生児の低体温症は悪化しました。深夜帯の母子同室も有害です。母親が赤ちゃんの世話で睡眠不足になると、母乳の出が悪くなるからです。お産の疲れが残る母親に、深夜帯も赤ちゃんの体温・栄養・呼吸などの全身管理を任せることは無理です。カンガルーケア中の心肺停止事故の殆どは、生後12時間以内の、最も体温と血糖値が低下する分娩室・母子同室中に発生し、しかも深夜に多いようです。また、カンガルーケア中の心肺停止事故は、母乳育児の3点セット(カンガルーケア・完全母乳・母子同室)を積極的に行う赤ちゃんに優しい病院(BFH)に集中して起きていることが分かっています。しかし、その事実は意外に知られていません。