母乳で育てた方がいい理由

生後3か月までの赤ちゃんの胃には胃酸がないので、牛乳などを与えると、胃の中で牛乳が腐敗してしまいます。母乳には、7%の乳糖の他に、白血球や免疫グロブリンが含まれているので、細菌が増殖しません。乳頭はグルコ-スとガラクト-スが結合した2糖類で、徐々に分解してグルコ-スを放出します。小腸の防衛システムが出来上がるのも6か月かかるので、生後6か月は母乳で育てた方が、アレルギー疾患にかかりにくい子どもになると言われています。アレルギー疾患の子どもが増えているのは、乳児期の育て方にも原因がありそうです。

 

草食動物の脳はどうして大きくならないのか?

草食度物は球根(芋)や茎や葉を食べるので、グルコ-スが脳に供給されていると思うかもしれません。例えばウシなどの反芻動物は、細菌の力を利用して、前胃(ル-メン)の中で砕いた食物繊維やデンプンを酪酸やプロピオン酸に分解し、ルーメン壁から吸収することによって、エネルギの80%を得ています。酪酸はケトン体の前駆体であり、脳はケトン体をエネルギにすることができます。ケトン体とはヒドロキシ酪酸や、アセト酪酸などのことです。

ウシは、タンパク質を分解してできる尿素を唾液にまぜて、ル-メンに戻して細菌の窒素源にしています。増殖した細菌は4番目の胃で消化され、牛はエネルギとアミノ酸などの栄養を得ることができます。つまり草食動物は殆どデンプンをブドウ糖に分解していないので、草食動物の脳には危険なグルコ-スがあまり供給されていないのです。ウシも呼吸をするので、酸素を運搬する赤血球を養うために、ヒトの臍帯血の血糖値(35mg/100dL)程度のブドウ糖が必要です。しかしウシの血糖値は~50mg/100dL程度であり、ヒトの血糖値100 mg/100dLより低い値になっています。このように草食動物の脳には過剰なグルコ-スが来ないので、脳が大きくならなかったと考えられます。

ヒトの大脳はどうして大きいのか?

焼き芋は大量のグルコ-スを脳に供給したと考えられます。ヒトの脳は大量のグルコ-スからニュ-ロンを守るために、グリア細胞を増やさなければならなかったのです。つまり焼き芋によって、ヒトの大脳は大きくなったと考えられます。

加熱により食物の消化が良くなったので、ヒトの腸の長さも短くなり、体型がスリムになり、歩き方も洗練されてきたでしょう。広域を移動して、果実や獲物を取ることもできるようになったでしょう。グルコ-スは肝臓だけでなく皮下脂肪として蓄えられるようになったので、体毛が減りました。暑い中でも歩けるように、汗腺(エポクリン腺)を発達させたと考えられます。

ヒトの脳は体重の2%の重量しかありませんが、25%のエネルギを消費しています。脳のエネルギ消費量の90%は、グリア細胞ではなく、ニュ-ロンが消費しています。筋肉は絶えず分解されて脂肪として肝臓に蓄えられ、肝臓は絶えず脂肪を分解しグルコ-スを脳に送っています。血糖値を抑制するために大量のインスリンが放出されます。インスリンは成長ホルモンなのでグリア細胞が増殖します。グリア細胞が増殖するとニュ-ロンの接続数や電気伝達速度が増大し、エネルギ消費量が増えます。人間のエネルギの半分は肝臓と脳で消費されています。

今回、ヒトの本質が焼き芋を食べるサルであることを説明しました。驚くべきことではありますが、分かってしまうと当たり前のことかもしれません。森林を焼き尽くし、石油を消費するのは、人間の本性と関わりがあることなのですね。

グルコ-スとデンプンについて

グルコ-スは環状の有機物ですが、1%ほどは鎖状になっており、先端に反応性の高いアルデヒド基(-CHO)を有しています。これがタンパク質のNH2基と容易に反応しシッフ結合するので、タンパク質は糖化により劣化していきます。赤血球は、狭い毛細血管を通るために核やミトコンドリアがないので、栄養源にブドウ糖を必要とします。赤血球の寿命が4か月しかなのには、ブドウ糖がヘモグロビンを劣化させるからです。

胎盤はブドウ糖を遮断しており、子宮内の胎児には、酪酸などのケトン体の形でエネルギが供給されています。胎盤によって胎児の脳はブドウ糖から守られているのです。もちろんニワトリの卵の中にもブドウ糖は含まれていません。

200万年前に人類は、山火事の後、芋の根が食べやすくなっていることに気づいたのでしょう。土に芋を浅く埋めて、木の葉で覆い、その上で焚火をすることで、芋を加熱して食べる方法を思いついたのでしょう。芋は重要な食糧です。現在の狩猟採種生活民といえども、食料の7割がたは芋や木の実などを食べて生活しています。芋はデンプンですが、生のままでは消化がよくありません。加熱することでデンプンがアルファ化し、食べられるようになります。

デンプンはグルコ-スがグルコシド結合で連なった有機物です。デンプンの直鎖部分(アミロ-ス)は、グルコースがα1-4結合で連なったものです。アミロペクチンは分枝があるデンプンで、分岐は直鎖の途中からグルコースのα1-6結合によるものです。もち米はアミロペクチンが多いため、不透明な白色をしています。

天然のデンプンは、βデンプンと呼ばれ、結晶状態にあります。加熱されたデンプンは、αデンプンと呼ばれ、糖鎖間の水素結合が破壊され糖鎖が自由になった状態にあります。α-グルコース分子が直鎖状に重合している部分は、水素結合によりα-グルコース残基6個で約1巻きのラセン構造になっています。また、ラセン構造同士も相互に水素結合を介して平行に並び、結晶構造をとります。

ヒトの脳について

ヒトの脳の発達はサルとは大きく異なっています。チンパンジを含めサルの脳容積は誕生時に75%あり、生後6か月で大人の大きさになります。それに対してヒトの脳容積は誕生時に23%しかなく、3歳で60%、6歳で90%、9歳でやっと大人の大きさになります。ヒトは脳の成長に合わせて、多くのものを学習していけるようになっています。

ヒトのニュ-ロン(神経細胞)は胎児期の5か月間で産生されます。その後は、ニュ-ロンを取り囲むグリア細胞が増殖を続けます。グリア細胞は、脳細胞の90%を占めており、ニュ-ロンを絶縁し、ニュ-ロンに栄養を供給しています。グリア細胞と赤血球はブドウ糖(グルコ-ス)を乳酸に変えてニュ-ロンに栄養を供給しています。ニュ-ロンはブドウ糖を避けるために、グリア細胞を必要としているのです。

ヒトの大脳はいつ大きくなったのか?

700~100万年前の猿人は、森林やサバンナで昆虫、果物、植物の根、小動物の肉などを採取し食べていたと考えられています。猿人は、顎が大きく、ガニ股でぎこちなく歩く印象があります。肉食動物に狙われてもさほど早く走れなかったでしょう。お互いに助け合って生き延びてきたのだと思います。

200~20万年前になると、原人が出現し、体型も寸胴型からスリム型になり、さっそうと歩く印象があります。顎や歯が小さくなります。草食動物を追跡し、肉食動物に武器や火で対抗できたと思われます。200~150万年前の50万年間に脳容積は400ccから900ccに増大します。ヒトの大脳は、食生活が変わることで、大きくなったのではないかと考えられます。

NHKの番組では、原人は石器を使って動物の遺体の肉や骨の髄を食べたので、脳が大きくなったと放映されていました。それならば、肉食動物の脳はどうして大きくならないのかという疑問が残ります。また直立歩行をして手で道具を作るようになったから大脳が大きくなったと説明されています。しかし進化論的には、大脳が大きくなったから、ヒトは道具を作り、言語を話すようになったと考える方が自然です。大脳の肥大化の原因は未だによく分かっていません。しかし近年、農学博士の林俊郎氏(1949年生)は、糖がヒトの大脳の肥大化を促進したのではないかと考えています。

レーシック手術とは

レーシックLASIK (=LAser in SItu Keratomileusis)は角膜の視力矯正手術です。レーシックは1990年、ギリシャのパリカリス博士によって考案されました。ケラトームという小さな刃物を使って角膜を円形に切り取りはがして、フラップという蓋を作り、角膜の内部にエキシマレーザを照射して、角膜を削って、蓋を閉めて手術します。レーシックは、1995年にアメリカのFDA(食品医薬品局)から認可され、急速に広まるようになりました。今ではフェムト秒レ-ザを用い、非接触でフラップを形成します。費用は片眼で15~30万円かかります。スポーツ選手や著名人がレーシックを受けたことにより、一般人の間でも広く受け入れられるようになりました。アメリカのプロゴルファの間には 2000年以降に視力矯正のためのレーザ治療を受ける人が急増しました。そのため眼鏡をかけたトップ・プレーヤーは居なくなりました。

白内障発症率が高まる60歳以上でのレーシックは推奨されません。レーシックの年齢制限は40歳までといわれます。まだ老眼の症状が現れてない場合でも、レーシック手術により焦点を矯正した結果、老眼の症状を感じやすくなることもあるため、手術前には十分な検査が必須です。老眼や白内障に備えて、レーシックの手術前の眼のデータを入手しておくとよいそうです。レーシックを受けた角膜は変化が生じているため、眼内レンズ度数のズレが生じやすくなるからです。

先月タイガ-ウッズ選手(43歳)のZOZOチャンピオンシップの復帰試合を見に多くのギャラリ-が詰めかけていました。タイガー・ウッズ選手は 1999年に視力改善の為のレーザ治療を受け、その後 2000年には素晴らしい成績を残しています。

レ-シックでは、矯正限度量を-6Dまでとし、充分な同意がなされた場合に限り、-10Dまでの範囲で手術が許可されます。ここで「D」は(Diopter:ジオプター)という屈折度数を表す単位です。裸眼でピントが合う距離をN(cm)として、「100÷N」で計算すると度数が出ます。例えば-10Dの場合は、裸眼でピントが合う距離Nが10cmという強い近視状態です。Nが20cmで-5Dとなり、中程度近視(3~6D)です。
近視の場合は-(マイナス)、遠視の場合は+(プラス)で表され、ともに数値が大きいほど遠視や近視の度合いが高くなります。10D以上に近視が進んでいる人は、充分な視力を得るために角膜を削る量が多すぎるので、レーシック手術を受けられないのです。タイガーウッズ選手の視力は-11.5Dという超強度近視だったので、レーシック以外のレーザ矯正治療を使ったのかもしれません。

白内障の手術

先日、家族が白内障の手術を受けたので、帰省し、病院への送迎と付き添いをしました。白内障とは、眼の水晶体が白濁し、視力が低下する病気です。原因は水晶体を構成するクリスタリンというたんぱく質が会合(結晶化)して、システィン結合で固定されるからです。

白内障(cataract)には加齢の他に色々な原因があり、糖尿病もその一つです。糖尿病患者はインスリンの働きが悪いため、水晶体内に取り込まれたブドウ糖がソルビトールに変質し、水分量の部分的増加やクリスタリンの会合によって、白濁するために白内障になると言われています。濁ると光が散乱してまぶしく感じるので、サングラスをすることがあります。


糖尿病患者は、可能なうちに白内障の手術をしておかないと、眼底が見えないので、糖尿病網膜症の発見が遅れ、失明するリスクがあります。網膜は酸素やブドウ糖が必要なので、出血を放置すると失明します。糖尿病患者は血管が詰まりやすいので、網膜は新生血管を生み出して、酸素や栄養の不足を補おうとしますが、この新生血管は脆いので出血しやすいのです。傷口のかさぶたが網膜を引っ張り、網膜を剥離させる恐れもあります。インシュリンを投与しながら、糖質制限を行うと、血糖値が低い状態が持続し、網膜が低酸素障害を受けて、ある日突然失明することも起こります。

水晶体の中身は交換・補充が利かないので、手術では白濁した部分を除去し、人工レンズを挿入します。20分くらいで終わる簡単な手術です。手術後は、眼を汚さないように注意して、毎日4回ほど点眼をして回復を待ちます。

<白内障手術の手順>
1)細いメスで黒目(角膜)と白目(結膜)の境目に3mm弱の創口を作ります。
2)眼内をジェル状の物質で満たし、作業が安全に行えるようにします。
3)水晶体を覆っている水晶体嚢(袋)前面を剥がして作業用の窓を作ります。
4)水晶体嚢の窓から、超音波棒を入れて水晶体を細かく砕き、吸い取ります。
5)切開創から小さく折り畳んだ人工のレンズ(眼内レンズ)を挿入します。
6)眼内からジェル状物質を抜き、代わりに水を満たし切開創を閉鎖させます。

白内障手術は長い歴史があります。1949年にイギリスのリドレー医師が人工水晶体(=眼内レンズ)を発明しました。更に、アメリカのケルマン医師が超音波乳化吸引装置を発明しました。現在では水晶体も切開可能なフェムトセカンドレーザーが登場しています。レーザ白内障手術は2008年にヨーロッパで最初の手術が行われ、既に世界の最先端医療機関では50カ国以上で導入されています。

パトリシア・バス女史

11月4日はパトリシア・バス(Patricia Era Bath)女史の誕生日です。彼女は眼科医研修を修了した初のアフリカ系アメリカ人です。パトリシアは2019年5月30日に77歳で亡くなられました。

1942年、パトリシアはニュ-ヨ-ク市のハ-レムに生まれました。父親のRupertはNY の最初の黒人の地下鉄の電気技術者でした。母親のGladysはパトリシアに科学実験セットを与える教育熱心な専業主婦でした。パトリシアは4年制の中学校を2年半で卒業し、16歳の頃からがん治療の研究会の助手をしていました。彼女は自分のことを化学オタクだったと回想しています。彼女はハワ-ド大学で医学の学位を取得し、ハ-レム病院でインタ-ンとして働きました。

彼女はハ-レムの患者を無料で治療するように医師たちを説得し、アメリカ失明予防協会(AiPB)を共同設立しました。アフリカ系アメリカ人には緑内障が多く、貧しい区域に住む人々は失明することが多かったのです。彼女は何十年にも渡って、多くの人たちの視力を回復させてきました。パトリシアはUCLAの教授になりますが、黒人女性だということで、不公平な扱いを受け、ヨーロッパに渡り、そこで優れた仕事をしました。1988年に彼女は、46歳にして、白内障のレーザ手術法に関する特許(U.S. patent 4744360)を取得します。これは紫外光のエキシマレ-ザで発熱なく正確に白濁した水晶体を蒸散除去する装置に関する特許です。2000年には、超音波で白濁した水晶体を粉砕し吸い上げて除去する方法も発明しています(U.S. patent 6083192)。

科学者として、運動家として活躍したパトリシアは
「真実の力を信じましょう。あなたの心が多数派の考え方にとらわれないように」
という言葉を残しています。