アゾトバクタの酸素バリアに用いられるアルギン酸はどんな物質でしょうか?

アルギン酸は、マンヌロン酸(M)とグルロン酸(G)という2種類のウロン酸が直鎖重合した構造を持つ多糖類です。アルギン酸の鎖状構造の中で、MとGはランダムに存在し、3種類のブロックを構成しながら共存しています。アルギン酸は、増粘剤、ゲル化剤、乳化剤、安定剤、麺質改良剤など食品の品質を向上する優れた機能を持っています。現在、アイスクリーム、ゼリー、パン、乳酸菌飲料、ドレッシング、即席麺、ビールなどさまざまな食品に利用されています。アルギン酸は、ペットフードや養殖魚の餌などに、結着剤や増粘剤として利用されています。

「落ちない口紅」にもアルギン酸が配合されており、唇の表面に被膜をつくって、口紅が移るのを防いでいます。アルギン酸カリウムは、アルギン酸のカルボキシル基にカリウムイオンが結合したかたちの塩です。その性質はアルギン酸ナトリウムと非常によく似ており、冷水や温水によく溶け、粘性のある水溶液をつくるとともに、Ca2+のような多価カチオンに接触すると瞬時にゲル化します。現在は歯科治療に用いる歯型取り剤(歯科印象剤)のゲル化剤として、国内外で広く利用されています。

窒素固定菌は窒素固定を妨げる酸素をどのように遮断しているのでしょうか?

ニトロゲナーゼは窒素に水素を付加する強力な還元剤ですから、酸素と容易に反応してしまいます。ニトロゲナーゼの金属クラスタは酸素に曝されると秒単位で速やかに分解されます。ニトロゲナーゼが失活しない酸素濃度は5~30 nM(モル濃度:M=mol/L)と非常に低いです。したがって、ニトロゲナーゼを駆動するにはO2を含まない嫌気環境が必要です。しかし生物が利用するATP生産の酸化的リン酸化のためには250 μMの酸素濃度が必要です。そのため窒素固定生物は様々な方法で嫌気環境を実現しています。嫌気性の窒素固定細菌は窒素固定に必要なATPを発酵など,酸素呼吸以外の系路によって生産しています。

根粒菌の場合

根粒菌はダイズの根など、レグヘモグロビンを含む根粒細胞に共生しています。レグヘモグロビンは酸素を強く捉え、酸素濃度に対する緩衝作用を有します。根粒の酸素拡散障壁を介した酸素濃度調節により酸素濃度は60nMとなり、レグヘモグロビンの酸素吸着作用、低酸素濃度での呼吸鎖の電子伝達を可能にする酸素高親和性のバクテロイド・ターミナルオキシダーゼによる酸素消費により、遊離酸素濃度は10nM程度になります。ちなみにヒトの血液の場合、遊離酸素の濃度は1μM程度です。

根粒菌の原形質膜の呼吸系はこの低濃度の遊離酸素を消費してATPを生産しています。そしてアゾトバクタと同様、このATPを利用して遊離酸素のない細胞内部に局在するニトロゲナーゼによって窒素固定を進行させています。この様に小さな細菌ではATP生産と窒素固定を、離れたところで進行させて、両立させています。

アゾトバクタの場合

アゾトバクタは、呼吸保護と呼ばれる細胞内酸素濃度を低く維持するための酸素消費速度の調節機構をもっています。呼吸保護には細胞表層に局在する5つのターミナルオキシダーゼによる酸素消費が大きく寄与します。それとともにアルギン酸が生合成され、細胞が覆われるアルギン酸の殻は細胞内の酸素を低くします。セルロース繊維のネットワ-クに水溶性のアルギン酸が裏打ちされると柔軟で酸素ガスを通さない膜が得られます。

細菌の表面膜の呼吸系で酸素を消費してATPを生産しています。アゾトバクタの細胞膜は酸素バリア膜であるアルギン酸膜で覆われています。外部から拡散してくる酸素は、細胞表面で全部消費されるため、細菌の内部には侵入しません。ニトロゲナーゼは酸素のない細胞の内部に局在し、ここで細胞の表面で生産されたATPを用いて窒素固定を行っています。

図1 アゾトバクタ属ビネランディの細胞の模式図

細胞はアルギン酸のバリア膜(黒)で覆われている。紺色のCydABⅠ、Cco、CydABⅡ、Cox、Cdtは5つのタ-ミナル酸化酵素、水色の4つの膜タンパク質Nuo、Sha、Nqr、NdhはNADHユビキノン酸素還元酵素、灰色のCydR、MucR、AlgUなどは制御タンパク質、赤色はATP合成酵素1とATP合成酵素2、紫色のFeSllとRnf1は呼吸保護に関わるタンパク質、黄緑の四角で囲われたものは、酸素暴露に敏感なタンパク質である。

参考文献:Joao C. Setubal, Virginia Bioinformatics Institute, JOURNAL OF BACTERIOLOGY, July 2009, p. 4534–4545,’Genome Sequence of Azotobacter vinelandii, an Obligate Aerobe Specialized To Support Diverse Anaerobic Metabolic Processes’

窒素固定シアノバクテリアの場合

光合成をするシアノバクテリアにも窒素固定をする種があります。光合成によりO2を発生しながら、酸素に弱いニトロゲナーゼを駆動するのは驚きです。ヘテロシストの膜成分は糖脂質です。細胞隔壁が外部からの気体拡散速度を調節することで細胞内酸素分圧を低減化しています。同時にヒドロゲナーゼ活性を高めることで環境中H2を酸化させて酸素を消費して細胞内酸素分圧を低下させています。糸状性シアノバクテリアは、環境中のC/Nが増加し窒素固定の必要性が高まった場合に、窒素固定専用の細胞(ヘテロシスト)にニトロゲナーゼを局在させ、光合成を行っている細胞からATPと 還元力をもらって、窒素固定を行っています。好気性の窒素固定菌は以上の様にして、酸素が窒素固定を阻害しないようにしています。窒素固定により生成したアンモニアは栄養細胞から供給されるグルタミン酸と反応しグルタミンへと変換され窒素源として栄養細胞に移送されます。

名古屋大学の藤田祐一教授は2018年6月にプレクトネマという窒素固定シアノバクテリアの20.8kbの窒素固定遺伝子のクラスタとCnfRという転写制御タンパク質を見つけ、その発現制御機構を解明しました。これらの遺伝子を、シネコシスティスという窒素固定の能力をもたないシアノバクテリアに導入して、窒素固定能を付与し、脱酸素試薬(ジチオナイト)の添加で、低いが有意なニトロゲナーゼ活性が検出しました。

フランキアの場合

フランキアは球状細胞ベシクルを形成することにより酸素の混入を防ぎ窒素固定を行います。ベシクルはホパノイド脂質の結晶からなる多重膜で覆われています。ベシクルの直径は4~5 μmで、ホパノイド脂質膜の厚さは50nm程度です。ベシクルは植物のミトコンドリアに取り囲まれており、これは酸素分圧を低下させる効果があると考えられています。

ニトロゲナ-ゼの反応中心はどのようなものでしょうか?

ニトロゲナ-ゼの反応中心は、[4Fe-4S]クラスタ、PクラスタとFeMo-coから成ります。Mo型ニトロゲナーゼは、容易に分離する2つのコンポーネントFe タンパク質(NifH二量体)とMoFe タンパク質(NifD-NifKヘテロ4量体)から構成されています。Nifは窒素固定Nitrogen fixationの省略記号です。NifHというのは窒素固定に関わるFeタンパク質をコ-ドしている遺伝子Hの名前です。Fe タンパク質は、ATPを加水分解してエネルギを得て、窒素の還元に必要とされる電子を送り出します。MoFe タンパク質は、Fe タンパク質から送られてきた電子を使って実際に窒素分子の還元を行います。

Fe タンパク質にある[4Fe-4S]クラスタは4つの鉄と4つの硫黄がキュバン(cubane)状(=立方体状)に集合したFe-Sクラスタです。MoFe タンパク質は、[8Fe-7S]構造のPクラスタとFeMo-coと呼ばれる[Mo-7Fe-9S-C-ホモクエン酸]の有機金属クラスタを含み、NifDとNifKの2つのサブユニットによるα2β2というヘテロ4量体構造をしています。[4Fe-4S]クラスタから送られてきた電子は、Pクラスタを経由してFeMo-co(フェモコ)に伝達され、FeMo-co上に結合した窒素分子を還元します。PクラスタからFeMo-coに電子を伝達すると、

  • P cluster(還元型)+FeMo-co(酸化型)→ P cluster(酸化型)+FeMo-co(還元型)

となり、還元型のFeMo-coが得られます。さらに

  • FeMo-co(還元型)+ N2 → FeMo-co(酸化型)+ N2H2

となり、改めて生成されたFeMo-co(還元型)とN2H2が反応し

  • FeMo-co(還元型)+ N2H2 → FeMo-co(酸化型)+ N2H4

さらに改めて生成されたFeMo-co(還元型)とN2H4が反応し

  • FeMo-co(還元型)+ N2H4 → FeMo-co(酸化型)+ 2NH3

によってアンモニアが生成されます。つまり還元型FeMo-coの力を3回使って、窒素からアンモニアが生成されます。

但しこれらの金属クラスタはすべて酸素によって速やかに破壊されてしまいます。また、ニトロゲナーゼの3つの構造遺伝子(NifH、NifD、NifK)に加え、FeMo-coの生合成には8つもの遺伝子が必要です。

窒素固定菌はどうやって窒素をアンモニアに変えるのでしょうか?

窒素固定菌はニトロゲナーゼ(Nitrogenase)という酵素を使って、窒素分子をアンモニアへと変換します。炭化水素のC-H間の結合エネルギは約100 kcal/mol程度であるのに対して、N≡Nの三重結合のエネルギは225 kcal/molと高いので、これを還元的に開裂して2分子のアンモニアに変換することは大変なことです。Hoffman教授はニトロゲナーゼを“Everest of enzyme”と呼んだそうです(2009年)。ニトロゲナーゼは、モリブデンMoを含むMo型、バナジウムVを含むV型それに鉄Feのみを含むFe型の三種類あります。特に、土壌細菌のアゾトバクタ・ヴィネランディ(vinelandii)のMo型ニトロゲナーゼがモデル細菌となっています。ニトロゲナーゼは以下のような反応を触媒します。ここでPiはリン酸を表します。

  • N2 + 8H + 8e +16Mg2+≡ATP + 16H2O ——> 2NH3 + H2 + 16Mg2+≡ADP + 16Pi

電子はフェレドキシンなどの電子供与体から提供されます。ギブスエネルギの変化は

  • ΔG’ = -136 kcal/mol N2

です。標準状態(PH7)にも関わらず大きな発熱を生じます。細胞での酵素反応中にATPは、Mg2+≡ATPの状態を取っています。つまりMg2+はATPの2つのリン酸の酸素イオンOにキレ-ト結合しています。ATPの負電荷を覆うことで、Mg2+≡ATPが酵素反応の活性部位の疎水性の裂け目に結合できます。上記反応ではアンモニアに伴い水素が発生しています。ニトロゲナーゼは、ATPの加水分解と共役したプロトン還元の副反応

  • 2H + 2e + 4ATP + 4H2O ——> H2 + 4ADP + 4Pi

が含まれているからです。実際の生理状態においては16ATPではなく、20~30ATPが必要だとされています。ニトロゲナーゼは、反応特異性が低く、様々な窒素化合物や有機化合物を触媒できます。

窒素固定菌はどれくらいの窒素を固定するのでしょうか?

生物による窒素固定量は年間5300万トンと言われています(植村誠次1977年)。その内、マメ科の根粒菌による窒素固定量は年間1400万トン、ハンノキ型根粒などの非マメ科によるものが500万トンで、全体の36%を占めています。それ以外の66%はアゾトバクタ-やシアノバクテリアなどの単独細菌によるものと考えられます。ちなみに人間が工業的に固定している窒素量は年間3000万トンです。

 化学肥料は1ha当たり60kgの窒素分を投入します。マメ科の植物は68kg/haの窒素を固定し、アゾトバクタ-は50~280kg/haの窒素を固定するようです。アゾトバクタ-を有効利用できれば、窒素肥料は要らなくなりますね。

 高橋英一(1982年)によると、窒素固定量は、ダイズ栽培土壌50~100kg/ha、クローバ栽培土壌100~200kg/ha、サトウキビ根圏土壌~60kg/ha、水田30kg/ha、アカウキクサ栽培池60~120kg/haです。

サトウキビが作物体に貯えた窒素の50%近く、サツマイモでは葉中窒素の40%近くが植物細胞に内生するエンドファイト細菌から供給されていると考えられています(涌井2003年)。すなわち、作物は肥料だけで成長するのではなく、窒素固定菌の働きが想像以上に大きいことが分かります。

窒素固定菌にはどのようなものがあるでしょうか?

窒素固定菌というとマメ科の根粒菌(Rhizobium)が有名ですが、他にも単体で窒素を固定するアゾトバクタ(Azotobacter)、クロストリジウム(Clostridium)、藍藻(diazotrophic cyanobacteria)がいます。またフランキア(Frankia)などの放線菌(Actinomycetales)は多くの樹木と共生し、空気中の窒素をアンモニアに変えて摂取しています。土壌の中のアゾトバクタが十分いれば、作物の幼苗は、窒素肥料を殆ど与えなくても、成長します。窒素肥料を与えてしまうと、アゾトバクタと作物との緩い共生関係は無くなってしまいます。牛糞堆肥などを使う有機農法から無肥料栽培に転換するには、土壌中の窒素成分を減らして、微生物の転換を図らなければなりません。

マメ科の根粒菌

 マメ科植物の多くは根に粒状の根粒を形成し、そのなかに根粒菌が共生しています。根粒菌は植物から糖をもらい、植物に空気中の窒素を分解して得た窒素化合物やホルモンを供給しています。マメ科植物は世界各地に分布しており、現在450属、13,000種ほどが知られています。調査された2,000種のうち、根粒を形成しない種類が約10%ありました。

アルファルファ、クロ-バ、エンドウ豆、インゲン豆、ル-ビン、大豆、カウピ-(落花生)、ミヤコグサ、ダレヤ、イガマメ、ニセアカシア、イタチハギ、タチレンゲソウ、ムレスズメなど約20種類のマメ科の植物は、交互に根粒菌を交換しても根粒が形成されます。根粒菌は、土壌中では鞭毛のある小型の球菌ですが、共生する時は桿状大型化し、不規則な形態のバクテロイドになります。根粒組織中にはレグヘモグロビンという赤色の色素がみられます。根粒の寿命は多くは1年以内であって、結実するころから根粒の内容物は寄主植物に吸収され、根粒内の根粒菌は土中に放出されます。

根粒の形成には、好気的条件が必要です。また窒素肥料が多いと根粒が形成されません。リン酸は根粒形成に不可欠で、根粒形成を促進させます。微量元素の硼素(B)は根粒とバクテロイドの形成に、モリブデン(Mo)は窒素固定に必須の元素です。マメ科作物の種子に根粒菌を接種して根粒を形成させる人工接種の手法が開発されています。人工接種すると、無効菌が先に根に侵入する前に根粒が形成されるので、作物の収穫量と品質が向上するようです。

アゾトバクタ

アゾトとはイタリア語で窒素の意味です。クロオコッカムやビネランジは、シュ-ドモナス科アゾトバクタ属のグラム陰性の好気性細菌です。アゾトバクタ属の細菌は単体で自分のために窒素を空気中から取り入れ固定します。アゾトバクタは1gの炭水化物を消費して5~20mgの窒素を生産します。これは根粒菌の10%程度です。

アゾトバクタは、土壌中に広く分布し、中性付近で窒素固定を行うため、酸性土壌にはあまりいません。植物は根から糖を出し、アゾトバクタはアンモニウムを出して、お互いに緩い共生関係を保っています。特にアゾトバクタは光合成細菌と共生します。アゾトバクタは脂肪酸を提供し、光合成細菌は糖を提供します。そのため光合成細菌を施肥すると窒素固定量が増えます。アゾトバクタは大量の酸素を消費するので、環境が嫌気的になりがちですが、光合成細菌は酸素がなくてもATPを生産できるので、アゾトバクタと共生できるのです。

窒素固定細菌に関しては、アゾトバクター属以外に4属が知られています。

  • アグロモナス属Agromonas 酸素分圧の低いところで窒素固定する。
  • アゾモナス属Azomonas 低いpH(4.6~4.8)域で窒素固定する。
  • ベイゼリンキア属Beijerinckia 37℃で生育、熱帯地方で窒素固定する。
  • デルキシア属Derxia メタンを同化でき、熱帯地方に分布し窒素固定する。

クロストリジウム

クロストリジウムは3~4μmサイズのグラム陽性の嫌気性細菌です。繊毛があり運動します。耐酸性があり、あらゆる土壌に分布しています。但し窒素固定力はアゾトバクタより弱いです。クロストリジウム属細菌は、SODやカタラーゼなどの活性酸素を無毒化する酵素を持たないため、酸素がある通常の環境下では不活化します。酸素存在下では、耐久性の高い芽胞を作って休眠することで、死滅を免れます。ボツリヌス菌や破傷風菌やウエルシュ菌はクロストリジウム属の細菌です。サ-モセラム菌は好熱性で酸素なしにセルロ-スを分解できるため、エタノール生産に利用されています。クロストリジウム属菌はガン細胞を選択的に攻撃することが知られており、その応用が研究されています。

窒素固定シアノバクテリア 

単細胞・糸状体種のシアノバクテリアの半数は窒素固定の能力を持ちます。大部分は単生ですが、真核藻類・地衣類・シダ植物・裸子植物などと共生する種もあります。シアノバクテリアは好気生物でしかも光合成は酸素発生型なので、多くの窒素固定シアノバクテリアでは一部の細胞を、光化学系Ⅱを欠いた窒素固定細胞=ヘテロシスト(heterocysts 異型細胞))に分化させることで光合成系と窒素固定系を空間的に分離し、窒素固定と光合成の起こる時間を分離することで酸素感受性の高いニトロゲナーゼを酸素から保護しています。アナベナ(Anabaena)がその代表例です。しかし、嫌気・微嫌気条件でのみ窒素固定活性を発現するレプトリンビア・ボリアナなどの種も存在します。

ソテツ科の植物は9属90種が知られ、これまでにその約1/3に藍藻類が侵入した根粒の着生が報告されています。ソテツの根粒は地表の近くに形成され、多年生で叉状分岐をしており、10cmもの大きさになるものもあります。最近では、ソテツの根粒は、イヌマキの根粒と同様、微生物と関係のない本来の性質であって、藍藻類などの内生菌は2次的に侵入したものと推定されています。

窒素固定メタン菌

深海熱水環境には窒素固定能をもつ好熱性メタン菌が棲息しています。35億年前の深海熱水性の石英脈に保存された窒素分子と(最古のメタン菌由来と考えられている)有機物の窒素同位体組成の関係を調べたところ、当時の深海熱水環境に生息したメタン菌が窒素固定して増殖していた可能性が高いと考えられています。窒素固定遺伝子の大規模な伝播は地球初期の深海熱水環境で起き、生命の共通祖先もしくはメタン菌(当時の深海熱水環境に生息していた)から光合成細菌の祖先に伝播したと考えられています(2014西澤学)。

フランキア菌

フランキアは放線菌門に属するグラム陽性細菌です。フランキアは1886年Brunchorstにより非マメ科植物の根粒中に見出され、その名は彼の師であるスイスの微生物学者A. B. Frankに由来します。フランキアは、多細胞性の菌糸、ベシクル、胞子の3つのタイプの細胞に分化します。通常は、一般的な放線菌と同様に菌糸として生育します。培地中の窒素源が欠乏すると、ベシクルと呼ばれる球状の細胞を分化させ、そこで窒素固定反応を行います。フランキアはベシクルを形成することにより自分自身で酸素防御を行うため、このような好気状態でも窒素固定を行えます。

フランキアが共生する植物は世界で8科14属、総計158種あります。日本ではハンノキ属16、グミ属13、ヤマモモ属3、ドクウツギ属1の計33種について根粒の形成が報告されています。オランダのグルチノザハンノキを主体とした森林では、毎年60~130kg/haの窒素の蓄積が見られます。アメリカのカリホルニア湖では、湖畔に面してハンノキ林が密生していて、湖畔周囲の土壌及び湖水の水が富栄養化し、プランクトンが旺盛に発育しています。ヤマモモは、瀬戸内の石英粗面岩地帯における粘土質土壌の改良に用いられています。マツと混植後12年間に、毎年80kg/haの窒素増加がみられています。

窒素固定エンドファイト(Diazotrophic endophytes)

サトウキビやサツマイモの内部にはエンドファイト細菌が共生しています。エンド(endo)は体内、ファイト(phyte)は植物の意味です。野生イネから分離されたHerbaspirillumはイネの細胞間隙に生息して、窒素固定をします。サツマイモ体内には、窒素固定活性を持つBradyrhizobium属、Pseudomonas属、Paenibacillus属のエンドファイトが生息しています。これらの菌は、土壌にアミノ酸などの有機体窒素があるときに植物体内に入り込みます。化学肥料では入りません。これらの窒素固定エンドファイトは宿主特異性が低く、広範な作物の窒素栄養の改善に利用できます。窒素固定エンドファイトはススキにもあります。