Alは植物にどんな問題を引き起こしているのでしょうか?

Alは土壌中の希少なリン酸とキレ-ト結合して[Al≡PO3]の非可給態にします。つまりAlはリン酸基O=P(OH)2の2つのOH基の酸素に挟まれて結合します。あるいは種子に含まれるフィチン酸は、6つのリン酸を含みますが、そのうち4つのリン酸がAlとキレ-ト結合し、難分解性の不溶態[4Al≡フィチン酸]を形成します。糸状菌は、フィタ-ゼという酵素でフィチン酸を分解し、植物にPを供給する手助けをします。しかし糸状菌は[Al≡フィチン酸]を分解することはできません。つまりAlはキレ-ト結合してAl≡PO3を形成し、植物がPを吸収するのを妨げているのです。植物は根からクエン酸などを放出して、リン酸を得ます。

  • [Al≡H2PO4] + クエン酸 → [Al≡クエン酸] + H2PO4

リン酸の拡散係数は小さく、同じ土壌において硝酸イオンが1日に3mm拡散するのに対して、リン酸は0.13mmしか拡散しません。従って植物の根の周りはPが欠乏しています。菌体は植物よりP濃度が25倍高いです。植物は根から糖を分泌し、根の周囲に菌体を引き付け、菌遺体のPを吸収します。

植物はどのようにして難分解性の腐植を分解するのでしょうか?

植物の根の細胞壁はAlと結合することができます。例えば

  • [Al≡有機物] + 根細胞壁 → Al≡根細胞壁 + 有機物

といった反応により、有機物が遊離します。細菌やカビには有機物を摂取する口がありません。細菌は外部に酵素を分泌して、有機物を分解して、吸収します。Alと結合した根細胞は脱落し、根の先端のムシゲルに堆積します。これはやがて細菌のエサになります。

根の細胞壁がAlと結合する理由

植物の細胞壁にはヘミセルロ-スが含まれており、多糖類鎖にはフェノ-ル基を有するフェルラ酸などがあり、フェルラ酸同士の結合により多糖類鎖同士が結合しています。隣接するフェルラ酸の2つのフェノ-ル基はAlをキレ-ト結合します。植物の細胞壁に含まれるポリ・ペクチン酸にはカルボキシル基があり、これもAlとキレ-ト結合します。

難溶性の腐植から有機物を遊離させるもう一つの方法は有機酸を使う方法です。植物の根からは有機酸が分泌されています。例えば

  • [Al≡有機物] + クエン酸 → [Al≡クエン酸] + 有機物

といった反応により、有機物が遊離します。遊離した有機物は細菌によって分解されて、植物の養分になります。植物の根から分泌されるクエン酸やシュウ酸やリンゴ酸もAlとキレ-ト結合をします。

植物はどうやって[Fe3+≡リン酸]からFeやリン酸を吸収しているのでしょうか?

野菜は被子植物です。被子植物には双子葉植物と単子葉植物があります。進化的には単子葉植物の方が新しいです。単子葉植物は、草食動物に対抗するために、成長点が低く、種子に養分を集中させています。単子葉は、養分が少なく、ガラス質で消化され難い特徴があります。

双子葉植物には、細胞壁の内側の細胞膜にFe3+をFe2+に還元する膜タンパク質酵素があります。

[Fe3+≡リン酸] + 膜タンパク質酵素 → Fe2+膜タンパク質酵素+ リン酸

となり、還元されたFe2+は根の表皮細胞の膜輸送タンパク質で細胞内部に輸送されます。

Feの還元力は、リン酸があり、鉄欠乏の条件で発揮されます。

単子葉植物の場合は、根からネムギ酸などの有機酸を放出して、水溶性の[Fe3+≡ムギネ酸]の形にして細胞内に吸収します。

但しマメ科のル-ピンは、クエン酸を使って、Feを吸収します(1983年ガ-トナ-)。双子葉のキマメ(樹豆)は[Fe3+≡リン酸]を利用し、イネ科のソルガム(雑穀)は[Ca2+≡リン酸]からリン酸を得ます。

土壌中でAlはどんな働きをしているのでしょうか?

アルミニウムイオン(Al3+)は価数が3価と大きいので、植物には有害です。Alは植物を構成するのに必要な元素ではありません。しかしAlは土壌中で重要な働きをしています。

1.Alは粘土に不可欠な元素

岩石の50%~70%は石英(SiO2)、15%はアルミナ(Al2O3)、残りはFe2O3やK2Oです。だから物理風化で細かくなった一次鉱物はSiAlFeKを含みます。さらに植物にKを奪われ、化学風化を受けて結晶化した二次鉱物はSiとAl(あるいはFe)を含んでいます。つまり粘土はAl2O3とSiO2から出来ており、Alは粘土に不可欠な元素なのです。

2.Alは土壌のミネラルを保持する

Alは正8面体のシート、Siは正4面体のシート構造を形成しています。例えば代表的な粘土鉱物であるカオリナイトは、Alシ-トとSiシ-トが1:1、スメクタイトは2:1に積み重なった構造をしています。粘土鉱物のAl3+がMg2+やCa2+に置き換わることで、結晶表面はマイナスに帯電(但し側面はプラスに帯電)します。これによって粘土はK+やMg2+やCa2+などの陽イオンを引き付け、CEC(陽電荷交換容量)を得ます。ちなみにカオリナイトのCECは3~15meq/100gであるのに対し、スメクタイトのCECは80~150meq/100gもあります。ここでmeqはミリ・エクイバレント(当量)と読みます。つまりAlのおかげで土壌は養分を保持できるのです。

3.Alは腐植を作り、土壌の有機物を保持する

私たちがよく目にする黒ぼく土は、火山灰なので、粒子が細かいために、多くのSiとAl(Fe)が溶出しています。ところでイネやススキなどのイネ科の植物の葉の縁はSiO2のガラス質で鋭くなっています。イネ科植物は大量のSiとKを吸収するので、土壌中に多くのAlが遊離します。一方有機物には大量のカルボキシル基が含まれています。2つのカルボキシル基の酸素はAlを挟み込みキレ-ト結合をします。つまり遊離したAlは有機物と強固に結合し、 [Al≡有機物]を形成します。これは難分解性の不溶態で、有機物を分解され難く、隙間が多い三次元構造にします。これが腐植と呼ばれる黒褐色の有機物です。つまりAlは土壌の有機物(腐植)を長期間保持する働きがあるのです。

菌遺体に含まれるたんぱく質には粘着性があり、土壌を団粒化します。一方、糸状菌は菌糸の耐水性を高めるグロマリンという不溶性タンパク質を分泌しています。団粒構造が安定に保持されるのは、糸状菌の遺体が団粒構造に耐水性を与えるためです。

ちなみに腐植のCECは30~280meq/100gと幅が広く大きいです。腐植にはカルボキシル基が多く含まれているため、負に帯電しています。カオリナイト土質の場合は、腐食を含む堆肥を入れると、CECが増大するので、作物の収量増加が期待できそうですね。