[3]素数定理の証明の仕方について

実数x以下の素数の個数π(x)は

  • π(x)=Σ[p≦x] 1

と表せます。π(x)は「素数p(=2、3,・・・P≦x)がx以下の最大の素数Pになるまで1を加え続ければ得られます。π(x)は素数を段差とする階段関数になっています。素数定理は

  • π(x)~x/logx

すなわち

  • Lim [x→∞] π(x) logx/x=1

が成り立つというものです。

まずチェビシェフのシータ関数

  • θ(x)=Σ[p≦x] log(p)

を考えます。この関数には

  • θ(x)≦π(x) logx

なる性質があります。実際

  • θ(x)=Σ[p≦x] log(p)≦{Σ[p≦x]1} log(x)=π(x) logx

によって確かめられます。

  • π(x) logx/x ≧ θ(x)/x →1 as x→∞

ですから、素数定理を示すのに、

  • Lim [x→∞] θ(x)/x=1

すなわち

  • θ(x)~x

が成り立つことを示す必要があります。これは任意のλに対して

  • ∀ λ>1 θ(x)≦λx かつ ∀ λ<1 θ(x)≦λx

が成り立つことと同値です。この命題を否定して、

  • θ(x)≧λx for λ>1 あるいは θ(x)≦λx for λ<1

なるλが存在するとして、矛盾を導きます。 x≦t≦λxなるtに対して

  • θ(t)≧θ(x)≧λx → (θ(t)-t)/t2 ≧(λx-t)/t2

であるから、

  • [x,λx] [(θ(t)-t)/t2] dt ≧∫[x,λx] [(λx-t)/t2] dt=∫[1,λ] [(λ-s)/s2] ds=δ(λ)>0

が成り立ちます。ここでt=sxとおいて、積分変数をtからsに変換しました。積分

  • F(x)=∫[1,x] [(θ(t)-t)/t2] dt → F(∞)as x→∞

が収束すれば、左辺の極限値がゼロ

  • 左辺=F(λx)-F(x) → 0 as x→∞

になり、左辺≧δ(λ)>0に矛盾することが示せます。

先ほどの積分は、x=exp(t) と置いて、xからtに変数変換すると、dx=xdt

  • F(∞)=∫[1,∞] [(θ(x)-x)/x2] dx=∫[0,∞] (θ(et) e‐t-1) dt=∫[0,∞] f(t) dt
  • f(t)=θ(et) e‐t-1

と書けます。ここで、f(t)のラプラス変換

  • g(z)=∫[0,∞] f(t) ezt dt

を考えます。Newman教授は、f(t)が有界で、複素関数g(z)がRe(z)≧0で正則ならば、

  • g(0)=∫[0,∞] f(t) dt

が存在するという解析定理を発見しました。

注意すべきことは、一般に

  • Lim[z→0][0,∞] f(t) ezt dt = ∫[0,∞] f(t) dt

が成立しないことです。例えばf(t)=sin(t)のとき

  • g(z)=∫[0,∞] sin(t) ezt dt=1/(z2+1) → 1 as z→0

となります。しかしg(0)=∫[0,∞] sin(t) dtは存在しません。計算を示します。

  • g(z)=∫[0,∞] 1/2i・(eit‐eit) ezt dt=1/2i・[eitzt/(i-z)+eitzt/(i+z)]t=0,∞

=-1/2i・[1/(i-z)+1/(i+z)]=1/(z2+1)

実際シ-タ関数は、ある正数Kに対して

  • θ(x)≦Kx e.  θ(x)=O(x):オーダ-x

なる性質があるので、

  • |f(t)|=|θ(et) e‐t-1|≦θ(et)/et+1≦K+1

となり、f(t)が有界になります。

複素関数g(z)は、x=exp(t)と変数変換すると、dx=xdt、ezt=1/xz

  • g(z)=∫[0,∞] (θ(et) e‐t-1) ezt dt=∫[1,∞] (θ(x)/xz+2) dx‐1/z

となります。θ(x)を代入して計算すると

  • g(z-1)=∫[1,∞] (Σ[p≦x] log(p)/xz+1) dx‐1/z=Φ(z)/z‐1/z

なる関係が得られます。

  • z∫[1,∞] (θ(x)/xz+1) dx=z∫[2,3] log2/xz+1 dx+z∫[3,5] (log2+ log3)/xz+1 dx+・・・

=-[log2/xz]x=2,3-[(log2+log3)/xz]x=3,5-[(log2+log3+log5)/xz]x=5,7+・・・

=(-log2/3z+ log2/2z)-[-(log2+log3)/5z-(log2+log3)/3z)]

-[-(log2+log3+ log5)/7z-(log2+log3+ log5)/5z)]+・・・

  =log2/2z+log3/3z)+log5/5z+log7/7z+・・・

=Σ[p] log(p)/pz=Φ(z)

関数Φ(s)は

  • Φ(s)=Σ[p] log(p)/ps

ここでΣ[p]は全ての素数の和を取ります。結局

  • g(z)=Φ(z+1)/(z+1)-1/z=[{Φ(z+1)-1/z}-1]/(z+1)

Newmanの解析定理を適用するには、g(z)がRe(z)≧0で正則でなければなりません。

よって

  • Φ(s)-1/(s‐1)がRe(s)≧1で正則である

ことが言えれば良いことが分かります。

ここでリ-マンのゼータ関数ζ(s)

  • ζ(s)=Σ[n=1~∞] 1/ns =1+1/2s+1/3s+・・・

を考えます。この関数はRe(s)>1で収束します。s=1のときは、ζ(s)は調和級数となり

  • Σ[n=1~∞] 1/n =1+1/2+1/3+・・・=log(∞)

対数発散をします。自然数の素因数分解の一意性によって、ゼータ関数ζ(s)は

  • ζ(s)=Π[p] [1/(1‐1/ps)]

とも書けます。これをオイラ-積表示といいます。実際

  • ζ(s)= [1/(1‐1/2s)]・[1/(1‐1/3s)]・[1/(1‐1/5s)]・[1/(1‐1/7s)]・[1/(1‐1/11s)]・・・

    =[1+1/2s+1/22s+1/23s+1/24s+1/25s+・・・]

・[1+1/3s+1/32s+1/33s+1/34s+1/35s+・・・]

・[1+1/5s+1/52s+1/53s+1/54s+1/55s+・・・]

・[1+1/7s+1/72s+1/73s+1754s+1/75s+・・・]・・・

       =1+1/2s+1/3s+1/22s+1/5s+1/2s3s+1/7s+1/23s+1/32s+1/2s 5s

+1/11s+1/22s3s+1/13s+1/2s7s+1/3s 5s+1/24s+・・・

    =1+1/2s+1/3s+1/4s+1/5s+1/6s+1/7s+1/8s+1/9s+1/10s

+1/11s+1/12s+1/13s+1/14s+1/15s+1/16s+・・・

となり、成立しています。ζ(s)のオイラ-積表示の対数を取ると、

  • log[ζ(s)]=‐Σ[p] log(1‐1/ps)

となります。これを微分した導関数は

  • (1/ps)′=exp(‐slog(p))′=‐log(p)/ps

となります。よって

  • ζ′(s)/ζ(s)=‐Σ[p] (1‐1/ps)′/(1‐1/ps)=‐Σ[p] log(p)/ps/(1‐1/ps)

より

  • ζ′(s)/ζ(s)=‐Σ[p] log(p)/(ps‐1)

となります。ここで

  • 1/(ps‐1)=1/ps+1/ ps(ps‐1)

を用いると、

  • ζ′(s)/ζ(s)=‐Σ[p] log(p)/ps-Σ[p] log(p)/ps(ps‐1)

つまり、ゼータ関数ζ(s)とファイ関数Φ(s)の関係式

  • ζ′(s)/ζ(s)=‐Φ(s)-Σ[p] log(p)/ps(ps‐1) 

が得られます。変形すると

  • Φ(s)‐1/(s‐1)=‐[ζ′(s)/ζ(s)‐1/(1-s)]-Σ[p] log(p)/ps(ps‐1)   ・・・(#)

なる表式が得られます。実は右辺2項目はRe(s)>1/2で正則です。

Φ(s)-1/(s‐1)がRe(s)≧1で正則であることを示すためには、

  • ζ′(s)/ζ(s)‐1/(1-s)がRe(s)≧1で正則である

ことを示す必要があります。そのためには

  • ζ(s)がRe(s)=1で零点を持たない。
  • ζ(s)‐1/(s‐1)はRe(s)>0で正則である。

ことを示す必要があります。なぜならそれが成り立てば、ζ(s)はRe(s)>0でs=1に極を持つ有理型関数なので、

  • Lim[s→1] (1-s) ζ′(s)/ζ(s)=1  for Re(s)>1

となるからです。いま

  • 1/(s‐1)=Σ[n=1~∞][n,n+1]1/xsdx

と書けるので

  • ζ(s)‐1/(s‐1)=Σ[n=1~∞][1/ns‐∫[n,n+1]1/xsdx]=Σ[n=1~∞][n,n+1][1/ns‐1/xs]dx
  • |∫[n,n+1][1/ns‐1/xs]dx|≦|s|/nRe(s)+1
  • |ζ(s)‐1/(s‐1)|≦Σ[n=1~∞]|s|/nRe(s)+1=|s|ζ(Re(s)+1)

となります。ζ(Re(s)+1)はRe(s)+1>1で正則なので、ζ(s)‐1/(s‐1)はRe(s)>0で正則関数に拡張できます。つまり素数定理の核心はζ(s)がRe(s)=1で零点を持たないことの証明になります。

 

ゼータ関数ζ(s)のオイラ-積表示

  • ζ(s)=Π[p] [1/(1‐1/ps)]

は興味深い関係式です。もしゼータ関数の零点ρが分かれば、

  • ζ(s)=f(s)・Π[ρ] [s-ρ]

と因数分解できることになります。対数表示をとると

log f(s)+Σ[ρ]log (s‐ρ)=-Σ[p] log (1‐1/ps)

が得られます。これはゼータ関数の零点ρに関する和が、全ての素数pに関する和と関係があることを示唆しています。ゼータ関数の零点には、素数の情報が含まれていると考えられます。ゼータ関数はs=-2k=-2、-4、-6、・・・に自明な零点を持つことが知られています。ζ(0)=-1/2で、s=0は零点ではありません。

  • ゼータ関数の非自明な零点は、Re(1/2)上に存在している

というのが、有名なリーマン予想です。10兆個の零点を調べたところ、全てRe(1/2)上に存在しているようです。しかしその事実を持って、リーマン予想が正しいと結論することはできません。フラクタル曲線で有名なコッホは1901年に、リーマン予想が正しければ、素数の計数関数は

  • π(x)~Li(x)+O(√x・log(x))

と書けると主張しています。リーマン予想は素数分布の予測の精緻化にも役立ちます。

リーマン予想は数論の様々な問題と関連しており、今でも高い関心が注がれています。