ジャマイカのウサイン・ボルト選手は2009年のベルリンの世界陸上で、9秒58の世界新記録を樹立しました。その時のボルト選手のスピ-ド曲線を解析してみました。
ボルト選手のトップスピ-ドv1は12.3m/sでした。加速度は時間の1次関数である
- a=a1(1-t/t0)
と仮定して、フィッティングしました。図に最適なフィッティング時の加速度の時間依存性を示します。直線近似なので多少ずれがありますが、初期加速度a1=5.65m/s^2、t0=4.35秒(36m地点)後
- t0=2v1/a1=2×12.3m/s/5.65m/s^2=4.35秒
に加速度がゼロになり、トップスピ-ドに達することが分かりました。
質量mの走者は進行方向と逆向きに見かけの力maを受けます。走者は加速時に前傾姿勢を取ります。地面からの傾斜角度をα、重力加速度をg(=9.8m/s^2)とすると、傾斜する体軸に垂直方向の成分のつり合いから
- mgcosα=masinα
が成り立ちます。
つまり傾斜角度αは加速度aに対して
- tanα=g/a
なる関係を満たします。これは姿勢が前傾するほど、加速度aが大きくなることを示しています。ボルト選手の場合、傾斜角度はスタ-ト直後に60度(体軸と地面のなす角)ですが、徐々に増加し36m地点で90度(直立)になります。傾斜角度を小さくするほど、短時間でトップスピ-ドになります。
走行時に足にかかる力は
- sqrt(a^2+g^2)/g~11.3/9.8=1.15
倍に大きくなります。a=5.65m/s^2の時、体重の15%だけ体が重く感じられます。ボルト選手は93kgだから、加速し始めたときに14kgも重くなります。
トップスピ-ドを高めるためには、ストライド(1ステップの幅)とピッチ(1秒間のステップ数)を大きくします。ボルト選手のストライドは2.75m(身長は1.96m)ピッチは4.48回です。ちなみにカ-ルルイス選手のストライドは2.75m(身長は1.88m)ピッチは4.36回です。ボルト選手は長身ですが、ピッチが大きい特徴があります。またボルト選手はゴ-ル直前まで減速なく走り切りますが、日本の選手は減速が大きいです。
100mの限界タイムは9.27秒と言われています。これはトップスピ-ド12.9m/sに相当し、ゴール前でボルト選手を4m引き離す速さです。