マンゴルトの明示公式の導出

<マンゴルトの明示公式>

前回チェビシェブ関数の積分表示

   Ψ*(x)=-1/2πi・∫[c-i∞、c+i∞] ζ'(s)/ζ(s)・xs/s ds

を求めました。今回は積分を実行し、マンゴルトの明示公式を導出します。

 fx(s)=ζ'(s)/ζ(s)・xs/s

とおくと

 Ψ*(x)=-1/2πi・∫[c-i∞、c+i∞] fx(s)ds=-1/2πi・∫C1 fx(s)ds

となります。この複素積分を閉曲線C(c,T,R)

 C(c,T,R)=C1[c-Ti、c+Ti]+C2[c+Ti、-R+Ti]+C3[-R+Ti、-R -Ti]+C4[-R-Ti、c-Ti]

に拡張すると、

 lim[R,T→∞]C2 fx(s)ds=lim[R,T→∞]C3 fx(s)ds=lim[R,T→∞]C4 fx(s)ds=0

となるので、

 Ψ*(x)=-1/2πi・∫[c-i∞、c+i∞] fx(s)ds

    =-1/2πi・lim[R,T→∞]C(c,T,Rfx(s)ds

となります。閉曲線内に含まれるfx(s)の極の留数を計算すれば、Ψ*(x)を求めることができます。

<マンゴルトの明示公式>

チェビシェフの素数pの階段関数

 Ψ*(x)=Σ[n≦x]Λ(n)=Σ[pm≦x] log(p)

に関して

 Ψ*(x)=x-1/2・log(1-x-2)-log 2π-Σ’ρ∊Z0 xρ

がなりたつ。ここでZ0={s|ζ(s)=0なる非自明な零点}である。マンゴルトの明示公式は、素数の分布を表す階段関数Ψ*(x)がゼ-タ関数の非自明な零点の和を含むxの解析関数によって書かれているという不思議な公式です。

閉曲線内の

 fx(s)=ζ'(s)/ζ(s)・xs/s

の零点は、ρ=1、-2n、0、ρiの4種類あります。

まずζ'(s)/ζ(s)の留数を考えます。

 ζ(s)~1/(s-1)+・・

 ζ'(s)~-1/(s-1)2+・・

 ζ'(s)/ζ(s)~-1/(s-1)+・・

なので、極をρとすると、位数Ord(ζ,ρ)について

 Res(ζ’/ζ,ρ)=Ord(ζ,ρ)

が成り立ちます。偏角の原理より、留数は

 Res(ζ'(s)/ζ(s)・xs/s,ρ)=Ord(ζ,ρ) xρ

となります。

1)s=1の留数

 Ord(ζ,1)=-1となります。

 Res(ζ'(s)/ζ(s)・xs/s,ρ=1)=Ord(ζ,1) x1/1=-x

2)s=-2nの留数

 Res(ζ'(s)/ζ(s)・xs/s,ρ=-2n)=Ord(ζ,1) x-2n/(-2n)

R→∞でN→∞となるので

 -lim[N→∞]Σn=1~N x-2n/(-2n)=1/2・log(1-x-2)

3)s=0の留数

  Res(ζ'(s)/ζ(s)・xs/s,ρ=0)=ζ'(0)/ζ(0)=log(2π)

  ζ(0)=-1/2、ζ’(0)=-1/2・log(2π)

4)sの非自明な零点ρiの留数

 Res(ζ'(s)/ζ(s)・xs/s,ρ=ρi)=Ord(ζ,ρi) xρi i

T→∞でN→∞となるので

 lim[N→∞]Σi=1~N Ord(ζ,ρi) xρi i=Σ’ρ∊Z0 xρ

Σ’ρ∊Z0は非自明な零点ρでの位数がmの場合m回和をとると言う意味です。

以上から、マンゴルトの明示公式

 Ψ*(x)=-1/2πi・∫[c-i∞、c+i∞] fx(s)ds

    =-1/2πi・lim[R,T→∞]C(c,T,Rfx(s)ds

    =-1/2πi・2πi・(-x+1/2・log(1-x-2)+log 2π+Σ’ρ∊Z0 xρ /ρ)

   =x-1/2・log(1-x-2)-log 2π-Σ’ρ∊Z0 xρ

が成り立ちます。

偏角原理とは、z=z0でm位の特異点をもちそれ以外で正則な関数f(z)に関して

 Res(f’/f,z0)=Ord(f,z0)=m

が成り立つ定理です。f(z)は、z=z0で特異点をもたない正則関数g(z)を用いて

 f(z)=(z-z0)m・g(z)

と書けます。このとき、

 f'(z) /f(z)=[m(z-z0)m1・g(z)+(z-z0)m・g'(z)]/ (z-z0)m・g(z)

     =m/(z-z0)+g'(z)/ g(z)

なので、f'(z) /f(z)はz=z0で1位の極を持つことがわかり

 Res(f’/f,z0) =m=Ord(f,z0)

が成り立ちます。

マンゴルト関数Λ(n)とチェビシェフ関数Ψ(x)

<マンゴルト関数Λ(n)とチェビシェフ関数Ψ(x)>

自然数nに対して、マンゴルト関数Λ(n)を

  Λ(n)=log(p) if n=pm,  otherwise 0

と定義します。ここでpは素数です。具体的には

 Λ(1)=0、Λ(2)=log2、Λ(3)=log3、Λ(4)=Λ(22)=log2、Λ(5)=log5、

 Λ(6)=Λ(2・3)=0、Λ(7)=log7、Λ(8)=Λ(23)=log2、Λ(9)=Λ(32)=log3、

 Λ(10)=Λ(2・5)=0、Λ(11)=log11、Λ(12)=Λ(2・2・3)=0、・・・

です。単一の素数のべき乗でのみΛ値がゼロではありません。

実数xに対して、チェビシェフ関数Ψ(x)を

  Ψ(x)=Σ[n≦x]Λ(n)=Σ[pm≦x] log(p)

と定義します。ここでpは素数です。Σ[p^m≦x]は、x以下の素数pの冪乗となっている素数pで和をとることを意味します。Ψ(x)は階段関数です。

x=5とすると

  Ψ(5)=Λ(1)+Λ(2)+Λ(3)+Λ(4)+Λ(5)=0+log2+log3+log2+log5

となります。Ψ(x)のステップアップする点で、ステップアップ部分の中点をとる関数をΨ*(x)と書きます。

  Ψ*(5)=log2+log3+log2+1/2・log5

となります。Ψ*(x)では最後の項が1/2倍になります。x=9の場合は

  Ψ(9)=Λ(1)+Λ(2)+Λ(3)+Λ(4)+Λ(5)+Λ(6)+Λ(7)+Λ(8)+Λ(9)

    =0+log2+log3+log2+log5+0+log7+log2+log3

  Ψ*(9)=log2+log3+log2+log5+log7+log2+1/2・log3

となります。xが素数のべき乗でない場合は、両関数は等しくなります。例えば

  Ψ(1000)=Ψ(997)=Ψ*(1000)

に注意して下さい。

ゼ-タ関数ζ(s)

・ζ(s)=Σn=1~∞ 1/ns=Πp∊P [1-1/ps]1

に関して、

 ζ'(s)/ζ(s)=-Σn=1~∞ Λ(n)/ns

となることを示します。

 ζ'(s)/ζ(s)=(logζ(s))’=-(Σp∊P log [1-1/ps])’

です。ここで、テーラ-展開

 log(1-x)=-Σn=1~∞ (xn/n)

を用いると、

 log [1-1/ps]=-Σn=1~∞ (p-ns/n)

なので、sで微分すると

 ζ'(s)/ζ(s)=(logζ(s))’=Σp∊PΣn=1~∞ (p-ns/n)’

となります。ここで

 (p-ns/n)’= (e-nslog p/n)’=-nlog p・p-ns/n=-log p・p-ns

に注意すると、

 -ζ'(s)/ζ(s)=Σp∊PΣn=1~∞log p・p-ns

     =Σp∊P (log p/ps+log p/p2s+log p/p3s+log p/p4s+・・・)

     =log 2/2s+log 3/3s+log 5/5s+log 7/7s+・・・

               +log 2/22s +log 3/32s+log 5/52s+log 7/72s+・・・

      +log 2/23s+log 3/33s+log 5/53s+log 7/73s+・・・

      +log 2/24s+log 3/34s+log 5/54s+log 7/74s+・・・

     =log 2/2s+log 3/3s+log 2/4s+log 5/5s+log 7/7s+log 2/8s

      +log 3/9s+log 11/11s+log 13/13s +log 2/16s+・・・

     =Σn=1~∞ Λ(n)/ns

が得られました。一般に

 D(s)=Σn=1~∞ an/ns

なる級数をディリクレ級数(Series)といいます。同じ数列anに対する階段関数を

 S(x)=Σ*nx an

とします。ここでΣ*はステップアップ部分は中点をとることを意味します。D(s)とS(x)はペロンの公式で結び付けられています。

<ペロンの公式>

D(s)=Σn=1~∞ an/nsがRe(s)>1で絶対収束するとき、c>1に対して、

 S(x)=1/2πi・∫[c-i∞、c+i∞] D(s)xs/s ds

が成り立つ。これを示します。

Re(s)>0において、

 s∫[n,∞] x-s-1dx=s[x-s /(-s)] [n,∞]=1/ns

が成り立ちます。するとディリクレ級数D(s)はRe(s)>1で絶対収束しており、

 D(s)=Σn=1~∞ an/ns=sΣn=1~∞[n,∞] an x-s-1dx

   =s(∫[1,∞] a1 x-s-1dx+∫[2,∞] a2 x-s-1dx+∫[3,∞] a3 x-s-1dx+・・・)

   =s(∫[1,2] a1 x-s-1dx+∫[2,3] (a1+a2) x-s-1dx+∫[3,4] (a1+a2+a3) x-s-1dx+・・・)

   =s・∫[0,∞] S(x)x-s-1dx

となります。

ここで関数f(x)に対するメリン変換Mf(s)を

  Mf(s)=∫[0,∞] f(x)xs-1dx

と定義します。すると

 D(s)/s=MS(-s)

と表せます。逆メリン変換M-1[・]

 M-1[Mf(s)] (x)=1/2πi・∫[c-i∞、c+i∞] Mf(s)x-s ds=f(x)

を用いると、f(x)をS(x)に置き換えて

 S(x)=1/2πi・∫[c-i∞、c+i∞] MS(s)・x-s ds

   =1/2πi・∫[c-i∞、c+i∞] MS(-s)・xs ds

   =1/2πi・∫[c-i∞、c+i∞] D(s)/s・xs ds

が得られました。結局

 -ζ'(s)/ζ(s)=Σn=1~∞ Λ(n)/ns=D(s)

an=Λ(n)のときのディリクレ級数D(s)になります。

Λ(n)に対する階段関数はΨ*(x)でした。

 S(x)=Σ*nx an=Σ*nxΛ(n)=Ψ*(x)

よって、ペロンの公式より、c>1に対して

 Ψ*(x)=-1/2πi・∫[c-i∞、c+i∞] ζ'(s)/ζ(s)・xs/s ds

が成り立ちます。 次回はこの複素積分を実行し、マンゴルトの明示公式を導出します。