真核生物が多細胞化できたのはどうしてでしょうか?

多細胞化により、複雑な構造と機能をもてるようになり、生物としての多様な展開が可能になりました。多細胞生物というのは、構成細胞が機能的にも形態的にも分化し、役割分担していて、細胞集団全体(個体)として統合されています。脳や心臓などの各組織を形成するには、単細胞生物よりたくさんの遺伝子が必要になります。ゲノム重複は遺伝子を増大させるので、多細胞生物を出現させる大きな一因になりました。真核生物は、細胞が格段に大きく、ゲノム重複で増えた多量のDNAを安定に保持できる核の仕切りをもっています。それによって真核生物は多細胞生物に進化できたのでしょう。

ゲノム重複とは

Hox遺伝子群は発生過程で体の各部分の構造を作り出す13個の遺伝子が配列した遺伝子群です。Hox遺伝子群は、脊索動物のナメクジウオでは1セット、無顎類のヤツメウナギでは2セット、顎口類の魚類以上では4セットあります。4倍体の親同士からは、4倍体の子孫が生まれます。哺乳類は、遺伝子セットの倍化が2回起きた結果、4倍体になりました。但し哺乳類の4セットは、お互いに似ているけれども完全に同じ遺伝子のセットではありません。

ゲノム重複でできた遺伝子は、ラクシャリー(贅沢)遺伝子と呼ばれています。大野乾(すすむ) 博士は、50年も前から、ゲノム重複が生物の新規性をもたらしたという仮説を提唱してきました。ゲノム重複で冗長性が生じると、進化の制約が緩み、タンパク質を変える遺伝子変異などが蓄積し、新しい機能が進化しやすくなるという説です。ゲノム重複は高校の教科書に載せるべき情報なのかもしれませんね。

色覚と明暗のどちらが先に見えるように進化したのでしょうか?

ヒトは暗くなると色を識別できなくなります、しかし夜行性のカエルは夜でも色を識別できるそうです。ところで色覚と明暗のどちらが先に進化したのでしょうか? 

明暗視は桿体細胞のロドプシンが担い、色覚は錐体細胞の視物質が担っています。色覚は情報処理が複雑なので、明暗視の方が先に進化したように思われますが、実際は錐体の視物質を先に創り出し、その後にロドプシンが創り出されました。

但し、魚類や両生類では、ピノプシンという桿体の視物質(光受容タンパク質)が、最初に機能していたことが分かってきました。ピノプシンは爬虫類や鳥類では脳内に存在していますが、哺乳類にはありません。爬虫類や鳥類は脳で明るさを感じられるのですね。

女性の方がより繊細に色を区別できる?

ヒトの赤の視物質には多型が見つかっています。視物質であるオプシン・タンパク質の180番目のアミノ酸がセリンとアラニンの場合があり、同じ赤でも色合いが異なります。赤の視覚多型は男性に6:4の割合で存在しています。実はこの赤の視物質の遺伝子はX染色体上にあります。

女性はX染色体を2本持つので、青と緑と2種類の赤の4色性の色覚を持つ人が存在します。女性の方がより繊細に色を区別できるのかもしれません。

男性はX染色体が1本しかないので、赤緑が区別できないといった色覚異常が生じやすいと言われています。男性の5%には色覚異常があります。赤と青を区別できれば、赤と緑を区別できそうな気がしますが、実際はそうではないようです。赤と緑を区別できないと、森の中で熟した実を見つけられないことになります。だから木の実の採取は女性が担当していたのかもしれません。

ちなみにサルには色覚異常がなく、チンパンジには0.5%程度あります。また中南米に棲む新世界ザルには3色型と2色型が見られます。これはカモフラージュした昆虫の採食では2色型の方が優れているからだと考えられています。

脊椎動物の視物質とその進化

人間は、赤、青、緑に感受性が高い3つの視物質を持っています。その組み合わせで多様な色を見分けることができます。他の動物はどうでしょうか?実は脊椎動物は基本的に5つの視物質を持っています。5つとは、赤、紫、青、緑の視物質と明暗を感じるロドプシンです。そして赤、紫、青、緑、ロドプシンの順番で分岐して進化してきました。

霊長類以外の哺乳類は基本的に赤と青の2つの視物質を持っています。哺乳類は2億5000万年ほど前に現れましたが、6500万年前に恐竜が滅びるまで、夜行性だったので、緑と紫の視物質を失ったのです。しかしニホンザルや霊長類は、赤、青、緑の3色性の視覚をもっています。分子系統樹で見ると、4000万年前に、ヒトの赤の視物質から緑の視物質が出現したことが分かります。金魚やニワトリの方が視物質が多いのは少し驚きですね。

体色を変えるイカは色が分かるのでしょうか?

イカやタコには色素胞と呼ばれる器官があります。その器官には、黄褐色系のオモクロームという色素が含まれています。イカやタコはこの色素胞を収縮弛緩することによって、体色を変えています。それらの色素は層状であるため、多色を出すことができるのです。

イカが認識できる色は青緑(波長450〜500nm)で、赤色を認識できません。海の中のイカは色を認識できず、白灰黒のモノトーンの視覚をもっています。自らは色がわからないのに、変色するのは面白いですね。イカを釣る人は、様々の色の疑似餌(エギ)を使います。しかしアオリイカから見て、定番のオレンジとピンク、赤と紫は同じように見えるでしょう。

魚の色覚はなぜ豊富なのでしょうか?

魚は様々な水環境に適応しているために色覚が豊富です。基本的に魚は黄緑-赤、緑、紫、青の4色視覚ですが、その殆どは色覚多型です。金魚の仲間である骨鰾類のゼブラフィッシュは赤2、緑4、青1、紫外線1、桿体2の10種類の色覚を持っています。棘鰭(きょっき)類のメダカも、赤2、緑3、青2、紫外線1、桿体1の9種類の色覚を持っています。

魚は見る角度によって色覚を変えています。魚の眼球の背側の網膜にはLWS-2(黄緑-赤548nm)、RH2-1(青緑467nm)、RH2-2(緑476nm)の視物質があり、下を見る視覚に使っています。腹側の網膜には、それより長波長のLWS-1(黄緑-赤558nm)、RH2-3(青緑488nm)、RH2-4(緑505nm)の視物質があり、上を見る視覚に使っています。

水深200mの世界には青い光しか届きません。そこでは金目鯛のような赤い魚が増えてきます。赤色の魚は、青い光を反射しないので、目立たなくなります。魚の鱗は赤、青、緑を反射するので銀色になります。捕食者が魚を下から見上げると、太陽の光と魚の輝きは同じ様に見えて、魚は目立たなくなります。

カンブリア紀のカラフルな生き物

眼を持つ生物が出現したことで、色を見分ける生物や、体色や擬態で身を守る生物が生まれたのでしょう。『眼の誕生』の著者アンドリュー・パーカーはシドニーの博物館でウミホタルの研究をしていました。彼は動物化石に構造色を示唆する証拠を発見しました。構造色は、モルフォ蝶、タマムシ、孔雀の羽などにみられる美しい干渉色のことです。モルフォ蝶は櫛葉構造、タマムシは多層薄膜干渉、孔雀は回折干渉で発色します。色素は分解してしまいますが、構造色の構造は化石に痕跡を残します。

ウィワクシア(Wiwaxia)は、約5億年前の海に生息していたバージェス動物群に属する全長約2.5- 5cmの楕円形をした動物です。背面は多数の鱗状の骨片で全面が覆われています。体の背面に中央を挟んで左右1列に生える10本前後の鋭い棘(とげ)があり、これで身を守っていたと考えられます。また背中の鱗の表面には幅数百nmの周期的な溝があり、構造色を示していたと考えられています。カンブリア紀の浅い海の中には極彩色の生物が数多くいたのかもしれません。