地球の空が青いのは、日光に含まれる波長の短い青色光が窒素分子に散乱されやすいからです。日没時に空が赤くなるのは、太陽光が大気を通過する距離が長くなり、空気分子の光散乱が増大し、青色光が届かず、赤色光のみが届くようになるからです。月面から見上げた空は黒色です。月には空気がないので、光散乱が起こらないからです。20世紀になるまで空が何故青いのか分かっていませんでした。空気のように透明な媒質が散乱体になるとは思いもよらないことでした。
レ-リ-(Rayleigh)散乱(1910年)
空気の分子のように光の波長の1/10以下の散乱体による散乱をレ-リ-散乱といいます。レ-リ-男爵の本名はジョン・ウイリアム・ストラットです。レ-リ-卿(英国)はアルゴンの発見者で、地震の表面波(レーリ-波)や黒体放射でも有名な物理学者です。レ-リ-散乱の強度は光波長の4乗に反比例します。このことは電磁気学の知識があれば理解できるので、後で解説したいと思います。
液体の分子濃度は気体の1000倍ありますが、液体の光散乱は、気体と比較して5~50倍程度しかありません。ガラスの光散乱も非常に弱いです。これは散乱体が稠密になると、任意の横方向において、散乱波が互いに打ち消し合う分子対が常に存在するためと思われます。光ファイバ-(石英ガラス)ではレ-リ-散乱の小さな波長帯(1.5μm帯)を使っています。
ミ-(Mie)散乱(1908年)
雲を形成する水滴は、太陽からの可視光の波長に比べて同程度ないしはそれより大きい粒子になっています。このような水滴に光が当たると、ミ-散乱が起こります。ミ-散乱では、可視光のどの波長も同じように散乱されますので、雲は白色に見えます。
ブスタフ・ミ-(独)は球形粒子による散乱の理論解析を行い、ミ-散乱は波長にほとんど依存せず、粒子寸法が光波長を越えると、散乱の波長依存性はなくなることを示しました。レ-リ-散乱は等方的ですが、ミ-散乱には異方性があります。ミ-散乱はアンテナやがん細胞の判別に用いられています。
虹(rainbow)
虹は、水滴内を太陽光が屈折反射することで、光が波長ごとに空間分解される現象です。主虹と副虹ができる理由を最初に解明したのはデカルトです。プリズムで太陽光をスペクトル分解して見せたのがニュ-トンです。虹は虫偏なのは、蛇が虫偏なのと同じ理由です。古代中国人は虹を空にアーチを架ける大蛇として見ていたからと言われています。
非弾性散乱
レ-リ-散乱とミ-散乱は光の波長が変化しない弾性散乱です。光の波長が変化する非弾性散乱には、ラマン散乱やブリルアン散乱があります。
ラマン(Raman)散乱(1928年)
ラマン散乱は分子の振動準位や回転準位の遷移に伴い、入射光とは異なる波長の光が散乱される現象です。ラマン散乱を利用して化学物質の判定を行うことができます。白色矮星の質量にチャンドラセカール限界質量があることを示したスブラマニアン・チャンドラセカ-ル(1932年)は、ラマン・チャンドラセカール(印)の叔父にあたります。
ブリルアン(Brillouin)散乱(1922年)
ブリルアン散乱は光と音響子などの凖粒子との相互作用による光散乱です。ブリルアン散乱は光ファイバの歪や温度を検知するのに使われます。レオン・ブリルアン(仏)は量子力学のWKB近似や固体物理のブリルアンゾ-ンでも有名な物理学者です。