ガロア理論2

4次方程式を題材にしてガロア理論を紹介します。

<フェラ-リの4次方程式の解法>

4次方程式は、平行移動で3次の項を消去できるので、一般にp,q,r∊Q[有理数]を用いて

  • x4+px2+qx+r=0  ・・・(A1)

と書き表せます。両辺に2kx2+k2を付け加え、4次の項を平方完成させると

  • x4+2kx2+k2=(2k-p)x2-qx
  • (x2+k) 2=(2k-p)(x-q/2(2k-p))2+k2-r-q2/ 4(2k-p)
  • (x2+k) 2=(2k-p)(x-q/2(2k-p))2+D(k)/4(2k-p)

となります。ここで判別式を

  • D(k)=(k2-r) (2k-p) -q2=2k3-pk2-2rk+pr=0  ・・・(A1)

としました。この3次方程式を解いて、解kを代入すると

・(x2+k) 2=(2k-p)(x-q/2(2k-p))2

を得ます。ここで

  • m=√(2k-p)、n=-q/[2√(2k-p)] 

とおくと上式は

  • (x2+k) 2-(mx+n) 2=0
  • (x2+mx+k+n) (x2-mx+k-n) =0

より

  • x2+mx+k+n=0
  • x2-mx+k-n=0

と書けます。この2次方程式の判別式は、それぞれ

 D1=m2-4k-4n

 D2=m2-4k+4n

です。2つの2次方程式を解くと、結局4次方程式(A1)の解は

  • x1=[-m+√(m2-4k-4n)]/2=[-m+√D1]/2
  • x2=[+m-√(m2-4k+4n)]/2=[+m-√D2]/2
  • x3=[-m-√(m2-4k-4n)]/2=[-m-√D1]/2
  • x4=[+m+√(m2-4k+4n)]/2=[+m+√D2]/2

となります。ここで、k=k(p,r)は3次方程式

  • 2k3-pk2-2rk+pr=0  ・・・(A2)

の解であり、

 k-p/6=u(p,r)+v(p,r)、ωu +ω2v 、ω2u+ωv

m、nは

  • m=√(2k(p,r)-p)、n=-q/[2√(2k(p,r)-p)]、

であります。

<4次方程式のガロア群>

3次方程式の解をu3,v3とすると、3次方程式の場合と同様に、有理数に1の三乗根を付加した固定体Qωを

  • Qω⊂Qω[u]⊂Qω[u, u3]

と拡大することで3次方程式の解が得られます。さらに2つの判別式の項を加えて

  • Qω⊂Qω[u3]⊂Qω[u, u3] ⊂Qω[u, u3, √D1]⊂Qω[u, u3, √D1, √D2]

と拡大することで、4つの4次方程式の解が得られます。Qω[u, u3, √D1, √D2]は固定体Qωのガロア拡大体です。5つの拡大体列に対応する5つのガロア群の縮小正規列は

・S4(対称群)⊃A4(交代群)⊃ B4⊃ C2 ⊃ E={I}

となります。A4はQω[u3]のガロア群、B4はQω[u,u3]のガロア群、C2はQω[u, u3, √D1] のガロア群です。それぞれの体と群の対応をガロア対応といいます。

n次方程式の解が四則演算と冪乗根で表せるガロア拡大体の数であるためには、ガロア拡大体に対応するガロア群の縮小列があって、全ての剰余群が巡回群でなければなりません。4次方程式の場合には上のようなガロア対応が成り立っており、全ての剰余群が巡回群なので、代数的に解くことができます。ガロア群の縮小列が形成できなければ、代数的に解くことはできません。

<4次方程式のガロア群の生成元>

解の入れ替えに関する写像は以下のI,J,K,L,Mの5通りです。J,K,L,Mは4次方程式のガロア群を生成する元です。

I:恒等写像                  :(1234/1234)

J:u → v → u              :(1234/2134)=(12)

K:u+v →ωu +ω2v →ω2u+ωv:(1234/2314)=(123)

L:(x1, x2, x3, x4)→(x4, x3, x2, x1) :(1234/4321)=(14)(23) ;(n,m)→(-n,-m) →(n,m)

M:(x1, x2, x3, x4)→(x3, x4, x1, x2) :(1234/3412)=(13)(24) : √ → -√ → √

  • x1=[-m+√(m2-4k-4n)]/2=[-m+√D1]/2
  • x2=[+m-√(m2-4k+4n)]/2=[+m-√D2]/2
  • x3=[-m-√(m2-4k-4n)]/2=[-m-√D1]/2
  • x4=[+m+√(m2-4k+4n)]/2=[+m+√D2]/2

4次方程式の4つの解の入れ替え写像は、2つの解の入れ替え写像の合成演算により、対称群S4をなします。4元の入れ替えは4!=24通りあります。まずはL、Mの演算について調べてみましょう。

LM=(1234/4321) (1234/3412)=(1234/4321)(4312/2143) =(1234/2143)=(12)(34)

つまり、LMは1⇔2、3⇔4の交換を行います。(x1, x2, x3, x4)の2組の互換は、M、L、LMの3つしかありません。

ML=(1234/3412) (1234/4321)=(1234/3412) (3412/2143)=(1234/2143)=(12)(34)=ML

MM=(1234/3412) (1234/3412)= (1234/3412) (3412/1234)=(1234/1234)=I

LL= (1234/4321) (1234/4321)=(1234/4321) (4321/1234)=(1234/1234)=I

なので

  • B4={I、M、L、LM}

は群をなします。ML=LMなので、B4は可換群です。B4はJ,Kとは可換なので、S3の正規部分群になっています。またB4の全ての元は遇置換です。B4はQω[u, u3]のガロア群です。Qω[u, u3]によってkの値が固定されても、(x1, x2, x3, x4)は影響を受けません。B4の部分群について調べてみましょう。

  • E={I}⊂ C2={I、M}⊂B4

C2はS3の正規部分群になっています。

LL=Iなので、剰余類B4/ C2は巡回群です。√D1の最小多項式の次数は2です。

  • B4/ C2={I C2、L C2

MM=Iなので、剰余類C2/Eは巡回群です。√D2の最小多項式の次数は2です。

  • C2/E={EI、EM]}

対称群S4は、4!=24個の元からなり、

  • S4=JA4∪I A4
  • A4={I、K、K2}・{I、M、L、LM}={I、K、K2}・B4
  • B4={I、L}・{I、M}={I、L}・C2

の様に分解できます。A4は12個の元からなる交代群(遇置換群)です。JA4は群ではありません。

A4={I、M、L、LM、、KI、KM、KL、KLM、、K2I、K2M、K2L、K2LM}

JA4={J、JM、JL、JLM、、JKI、JKM、JKL、JKLM、、JK2I、JK2M、JK2L、JK2LM}

剰余類S4/ A4は巡回群になっています。

  • S4/ A4={I A4、JA4

剰余類の要素の数を位数といいます。S4/ A4の位数は2です。剰余類の位数は、対応する代数体に加えた数の最小多項式の次数と一致します。補助方程式を解くためにu3(=√)をQωに加えたのですが、u3の最小多項式は2次なので、位数2と一致しています。

剰余類A4/ B4は、K B4=B4 Kなので、巡回群になっています。

  • A4/ B4={I B4、K B4、K2 B4

A4はQω[u,u3]のガロア群です。u3、v3からu、vを出すためにuを加えました。Uの最小多項式は3次なので、剰余類A4/ B4の位数3に対応しています。

以上、4次方程式を解いて、そのガロア群について調べてみました。4次方程式の解の入れ替えに関して縮小するガロア群の列が形成でき、その剰余類が一つの元から生成せれる巡回群だったので、4次方程式の場合はガロア拡大体に解を見出すことができることが確かめられました。

ガロア理論1

エバリスト・ガロアはフランスの天才数学者です。20歳の死の直前に書かれた1832年の書簡で、5次以上の方程式は代数的に解くことができないことを群論を用いて示しました。ガロアの理論は難解ですぐには理解されませんでしたが、後世の数学に大きな影響を与えました。ガロア理論とはどのようなものなのでしょうか?

<3次の対称群S3

ガロア理論では代数方程式の解を並び替える写像を考えます。三次方程式の3つの解を(123)とすると、(123)を並び替える写像は3!=6個あります。2つの並び替えを連続して行った結果は1つの並び替えになるので、その合成写像は群の演算となります。(123)の6つの並び替え写像を要素とする集合は3次の対称群S3になります。

ここでは1→2、2→3、3→1に並び替える巡回写像Kを(123/231)と表記します。同様に1→2、2→1、3→3に並び替える互換写像Jを(123/213)と定義します。恒等写像はI=(123/123)です。すなわち

・ I=(123/123)、K=(123/231)=(231)、J=(123/213)=(12)

この表示法を用いると、合成写像は

KJ=(123/231)(123/213)=(123/231)(231/132)=(123/132)=(23)

と計算できます。ここで(123/213)=(231/132)と書き換えました。つまりこの合成写像の演算は(123)→(231)→(132)の並び替えであり、結局2と3の入れ替えになります。一方

  • JK=(123/213)(123/231)=(123/213)( 213/321)=(123/321)=(13)

となります。JK≠KJ、つまりJとKは可換ではありません。

もっと簡略化した表記では、K=(231)、J=(12)と書きます。これは(231)が(2→3→1→2)なる並び替え、(12)は1と2の交換を表しています。簡略表記では

  • KJ=(231)(12)=(23)

と書けますが簡略表記で演算計算をしない方がいいでしょう。同様に他の演算は

  • K2= (123/231)(123/231)=(123/231) (231/312)=(123/312)=(312)
  • K3=(123/312) (123/231)=(123/312) (312/123)=(123/123)=I
  • JK2=(123/213)(123/312)=(123/213)( 213/132)=(123/132)=(23)

となります。つまり、JKは互換(13)、JK2は互換(23)となります。互換は奇数置換です。奇置換同士の合成演算は奇置換となるので閉じています。巡回KやK2は偶数置換です。遇置換も合成演算に関して閉じています。結局S3の部分群は

  • E={I}
  • C2={I、J}={I、(12)}
  • A3={I、K、K2}={I、(231)、(312)}

の3つです。A3は遇置換の部分集合で、交代群と呼ばれています。C2もA3も1つの元で作られる巡回群です。

<正規部分群>

群Gの部分群HがGの任意の元aに対して、

  •  aHa-1=H

が成り立つとき、部分群HをGの正規部分群と言います。これは集合として

  • {aha-1|h∊H}={ ah1a-1, ah2a-1,ah3a-1,・・・ ahna-1}={h1,h2,h3,・・・hn

等しいことを意味しているのであって、すべての元で

  • ahka-1=hk 

が成り立つわけではありません。実際I、K、K2∊A3⊂S3に対して

JIJ-1=I

JKJ-1=(123/213)(123/231) (123/213)=(123/321) (321/312) =( 123/312)=K2

JK2J-1=(123/213)(123/312) (123/213)=(123/132) (132/231) =( 123/231)=K

が成り立つので、A3はS3の正規部分群です。しかしJ∊C2に対して

  • KJK-1= (123/231) (123/213) (123/312)=(123/132) (132/321)=(123/321)=(13)∉C2

なので、C2はS3の正規部分群ではありません。

<剰余群S3/ A3

対称群S3={I、K、K2、J、JK、JK2}は、2つの集合

  • I A3={I、K、K2}(遇置換)、J A3={J、JK、JK2}(奇置換)

に分割できます。

  • S3 =I A3∪J A3、かつI A3∩J A3=空集合

A3は正規部分群なので、A3による剰余群

  • S3/ A3={I A3、J A3

が定義できます。剰余群の要素I A3、J A3を剰余類と呼びます。JA3は群ではありません。

・JK・JK=JKJ-1・K=K2K=I ∉JA3

任意のa,b∊S3に対して、A3b=b A3が成り立つので、

  • aA3・bA3=a・A3b・A3=a・b A3・A3=ab A3

より、正規部分群による商は群になります。実際

  • I A3・J A3=J A3、J A3・J A3=I A3

なので、剰余群S3/ A3は群になっています。JA3が生成元になって剰余群のすべての要素が作られるので、剰余群S3/ A3は巡回群になっています。

また同様に剰余群A3/E={IE、KE、K2E}も、KEが生成元になって剰余群のすべての要素が作られるので、巡回群になっています。実は剰余群がn次の巡回群であることは、n次方程式が

  • zn=1
  • zk=cos(2πk/n)+i・sin(2πk/n) k=0,1,2,・・・n-1

という形で解けることを意味しています。

3次方程式の解の対称群S3の正規部分群A3とEからなる全ての剰余群S3/ A3とA3/Eが巡回群なので、解を表現する代数体を拡大することで、3次方程式

  • x3+px+q=0

は代数的に解けることになります。

<三次方程式と巡回群>

前回、3次方程式には、x=u+vなる解があり、u3とv3が2次方程式

  • t2+qt-(p/3)3=0

の解になっていることから、

  • u3=-q/2+√D、v3=-q/2-√D
  • D=(q/2)2+(p/3)3

と表せることを示しました。有理数Qにω3=1の根ωを付け加えた代数体Qωを考えます。さらに√Dを付け加えた拡大体をとQω(u3)します。u3とv3を入れ替えることは、√Dの係数1を-1に入れ替えることに相当します。1と-1は1の2乗根であり、x2-1=(x-1)(x+1)=0の2解になっています。剰余群S3/ A3={I A3、J A3}は√Dの係数1を-1に巡回させる変換に対応付けられます。解を構成する代数体をQωからQω(u3)に拡大すると、解が受ける群はS3からA3に縮小されます。さらにuを付け加えると拡大体Qω(u,u3)が得られます。Qω(u,u3)上の3つの解は、

  • α=u+v、β=ωu+ω2v、γ=ω2u+ωv

です。前回示したように変換K

  • K(u)=ωu、K(v)=ω2v

を用いると、3つの解は

  • K(α)=β、K(β)=γ、K(γ)=α

と巡回変換されます。解を入れ替えることは、u、vの係数を1、ω、ω2と変化させることに対応します。これらは1の3乗根であり、x3-1=(x-1)(x-ω)(x-ω2)=0の3解になっています。剰余群A3/E={IE、KE、K2E}は、3つの解を巡回させる変換Kが作る巡回群に対応付けられます。解を構成する代数体をQω(u3)からQω(u,u3)に拡大すると、解が受ける群はA3からEに縮小します。方程式を代数的に解く工程は、解の受ける対称群を巡回群に分解することに相当します。対称群を巡回群に分解できなければ、方程式を代数的に解くことはできません。

 エバリスト・ガロアは、一般の5次方程式では、解の遇置換である交代群A5に正規部分群が存在しないので、巡回群が形成できず、代数体の拡大によって、5次方程式を代数的に解くことができないことを示しました。

剰余類の最も身近な例は偶数と奇数です。整数Zは遇数と奇数に分けられます。偶数と奇数は、整数Zの正規部分群であり、

  • Z=2Z∪(2Z+1)、2Z∩(2Z+1) =空集合

ですから、剰余群Z/2Zの剰余類です。

  • Z/2Z={2Z、2Z+1}

と表せます。

代数学の基本定理について

<代数学の基本定理とは>

1799年にフリ-ドリヒ・ガウスは学位論文の中でn次の複素多項式

  • F(z)=zn+an-1 zn-1 + an-2 zn-2+・・・+a1z+a0=0

は、n個の複素解を持つことを証明しました。これは代数学の基本定理と呼ばれています。この定理の証明には実解析的な証明あるいはリウヴィルの定理やルーシェの定理(1862年)を用いた複素関数論的な証明があります。

リウヴィルの定理によると全複素平面において有界かつ解析的な複素関数は定数でなければなりません。任意の z ∈C に対し、F(z)≠0 とすると、G(z) = 1/F(z) は有界な整関数となり、リウヴィルの定理により、F(z) は定数関数となり、仮定に矛盾します。だからF(z)=0となるz∈Cが存在するというものです。

ルーシェの定理によると複素関数f(z)とg(z)が領域Dの境界で|f(z)|>|g(z)|であるなら、D内でf(z)+g(z)とf(z)の零点の個数は一致しなければなりません。ここで

  • f(z)=zn
  • g(z)=an-1 zn-1 + an-2 zn-2+・・・+a1z+a0

とすると、半径Rの円領域Dの境界では、|f(z)|>|g(z)|となり、ルーシェの定理により、D内でのF(z)=f(z)+g(z)=0の零点の個数は、zn=0の零点の個数nに一致します。複素関数論的な証明は簡潔ですが、複素関数論に馴染みがないと、代数学の基本定理を納得するのは容易ではありません。

ガウスはどのように代数学の基本定理を証明したのでしょうか? 今回、n次方程式の実部と虚部を描画して解となる交点の個数を調べてみました。Re(F(x,y))=0とIm(F(x,y))=0のグラフがn個の交点をもつことから、n次の代数方程式F(z)=0にn個の複素数解が存在することが直感的に分かりました。

<ガウスの証明方法>

  • F(z)=zn+an-1 zn-1 + an-2 zn-2+・・・+a1z+a0=0

に対して

  • z=r(cos(nφ)+i・sin(nφ))、r>0
  • an-1=A(cosα+i・sinα)、A>0
  • an-2=B(cosβ+i・sinβ、B>0
  • a0=L(cosλ+i・sinλ)、L>0

とおいて代入すると、実部と虚部は

Re(F(z))=rn cos(nφ)+A rn-1 cos[(n-1)φ+α]+ B rn-2 cos[(n-2)φ+β]+・・+Lcosλ

Im(F(z))=rn sin(nφ)+A rn-1 sin[(n-1)φ+α]+ B rn-2 sin[(n-2)φ+β]+・・+Lsinλ

となります。

[補題] このとき十分大きなRを取ると、

  • rn-√2(A rn-1+B rn-2+・・+L)>0 for r>R

が成り立つ。

[証明] rnで割ると

  • 1-√2・(A/r+B/r2+・・・+L/ rn)>0
  • 1-√2・M(1/r+1/r2+・・・+1/ rn)>0 、M=max{A,B,・・・L}

を示せばよいことになります。今、半径R=1+√2・Mとおくと、r>Rより

  • r>1+√2・M → r-1>√2・M → 1-√2・M/(r-1)>0
  • 1/r+1/r2+・・・+1/ rn < (1/r)/(1-1/r)=1/(r-1)
  • 1-√2・M(1/r+1/r2+・・・+1/ rn)>1-√2・M/(r-1)>0

が示されます。

[1] Re(F(z))=0の線は、複素平面の半径r>R=1+√2・max{A,B,・・・L}の円を2n個の円弧に分割し、Re(F(z))は円弧上で交互に正負の値を取る。

[証明1]

半径r>Rの円上に偏角φ=2π/4nで4n個の点P0、P1、・・P2k-1、P2、P2k+1・・P4n-1を取ります。最初の点P0の偏角はπ/4nとし、P1(3π/4n)、P2(5π/4n)とします。(πは円周率パイのこと)

P2の偏角φ2k=π/4n+2π/4n・2k=(kπ+π/4)/nであるから、Re(F(z))の第一項の cos(nφ)の値は、cos(nφ)=cos(kπ+π/4)=cos(kπ) cos(π/4)=(-1)k/√2 となります。

同様にP2k+1の偏角φ2k+1=π/4n+2π/4n・(2k+1)=(kπ+3π/4)/nであるから、cos(nφ)=cos(kπ+3π/4)=cos(kπ) cos(3π/4)=-(-1)k/√2 となります。点P2と点P2k+1では、rn cos(nφ)の符号が異なります。補題より

  • rn/√2> A rn-1+B rn-2+・・+L

kが偶数のとき

Re(F(z=P2))>rn cos(nφ2)-(A rn-1+B rn-2+・・+L)>rn/√2-rn/√2=0

Re(F(z=P2k+1))<rn cos(nφ2k+1)+(A rn-1+B rn-2+・・+L)<-rn・/√2+rn/√2=0

kが奇数の時

Re(F(z=P2))<rn cos(nφ2)+A rn-1+B rn-2+・・+L<-rn/√2+rn/√2=0

Re(F(z=P2k+1))>rn cos(nφ2k+1)-(A rn-1+B rn-2+・・+L)>rn/√2-rn/√2=0

つまり、半径r>Rの円の2n個の円弧上でRe(F(z))は交互に正負の値をとります。

[2] Im(F(z))=0の線は、複素平面の半径r>R=1+√2・max{A,B,・・・L}の円を2n個の円弧に分割し、Im(F(z))は円弧上で交互に正負の値を取る。

[証明2]

P2の偏角φ2k=π/4n+2π/4n・2k=(kπ+π/4)/nだから、Im(F(z))の第一項の sin(nφ2k)の値は、sin(nφ2k)=sin(kπ+π/4)=cos(kπ) sin(π/4)=(-1)k/√2  となります。

同様にP2k-1の偏角φ2k-1=π/4n+2π/4n・(2k-1)=(kπ-π/4)/nだから、sin(nφ2k-1)=sin(kπ-π/4)=-cos(kπ) sin(π/4)=-(-1)k/√2       となります。点P2と点P2k-1では、rn sin(nφ)の符号が異なります。補題より

  • rn/√2> A rn-1+B rn-2+・・+L

kが偶数の時

Im(F(z=P2))>rn sin(nφ2)-(A rn-1+B rn-2+・・+L)>rn/√2-rn/√2=0

Im(F(z=P2k-1))<rn sin(nφ2k-1)+A rn-1+B rn-2+・・+L<-rn/√2+rn/√2=0

kが奇数の時

Im(F(z=P2))<rn sin(nφ2)+A rn-1+B rn-2+・・+L <-rn/√2+rn/√2=0

Im(F(z=P2k-1))>rn sin(nφ2k-1)-(A rn-1+B rn-2+・・+L)>rn/√2-rn/√2=0

つまり、半径r>Rの円の2n個の円弧上でIm(F(z))は交互に正負の値をとります。

[3]  Re(F(z))は円弧上で交互に正負の値を取るため、中間値の定理より、Re(F(z))=0の線は、複素平面の半径r>Rの円と2n個の点で交差します。Im(F(z))は円弧上で交互に正負の値を取るため、中間値の定理より、Im(F(z))=0の線は、複素平面の半径r>Rの円と2n個の点で交差します。円の内部に入り込んだRe(F(z))=0の線とIm(F(z))=0の線はn個の交点zk (k=1,2,…,n) をもちます。n個の交点zkではF(zk)=Re(F(zk))+i・Im(F(zk))=0となるので、zk (k=1,2,…,n)はn次方程式の解になっています。

[3]の証明は難しいので、いくつかn次方程式の例を用いて、Re(F(z))=0の線とIm(F(z))=0の線がn個の交点zk (k=1,2,…,n) をもつことを確かめることにしましょう。

<10次の方程式の例>

  • F(z)=z10+z9+ z8+ z7+ z6+z5+ z4+ z3+ z2+z=0

について考えます。この方程式はz=0,-1なる実解を持ちます。

  • F(z)=z(z9+ z8+ z7+ z6+z5+ z4+ z3+ z2+z+1)=0
  • z10-1=(z-1)( z9+ z8+ z7+ z6+z5+ z4+ z3+ z2+z+1)=0
  • z0=0、zk=cos(kπ/5)+i・sin(kπ/5) (k=1,2,3,4,5,6,7,8,9)、z5=-1

他の8個の解はr=1の円上にある偏角kπ/5(k=1,2,3,4,6,7,8,9)の複素解です。

図1に複素平面上にRe(F(z))=0の黒線とIm(F(z))=0の赤線を示します。緑色の放射状の領域はRe(F(z))>0の領域で、青緑色の領域はRe(F(z))<0の領域を示しています。黄緑色の放射状の領域はIm(F(z))>0の領域で、緑色の領域はIm(F(z))<0の領域を示しています。これらの2つのグラフを重ね合わせます。

図2にr=3(>1+√2・1)の円を4n=40分割した図を示します。Re(F(z=P2k))>0、Re(F(z=P2k+1))<0となっており、P2kとP2k+1の間にRe(F(z2k))=0となる点があり、Re(F(z))=0の線はz2kを通過しています。同様にIm(F(z=P2k))<0、Im(F(z=P2k-1))>0となっており、P2kとP2k-1の間にRe(F(z2k-1))=0となる点があり、Re(F(z))=0の線はz2k-1を通過しています。Re(F(z))=0の線とIm(F(z))=0の線は円の内部で10個の交点zk (k=1,2,…,10) をもつことが確かめられます。

<5次方程式の例1>

  • F(z)=z5+ z3+z=z(z4+ z2+1)=0

を考えます。z=0を解に持ちます。

  • z6-1=(z2-1)( z4+ z2+1)=0

が成り立つので、

z4+ z2+1=0 の解は、z6-1=0の6個の解の内z=1,-1を除いた4個の解です。

 zk=cos(kπ/3)+i・sin(kπ/3) (k=1,2,4,5)

  =(1+√3i)/2、(-1+√3i)/2、(-1-√3i)/2、(1-√3i)/2

図3で赤線はIm(F(x,y))=0の線、黒線はRe(F(x,y))=0の線を表しています。赤線と黒線の交点がF(x,y)=0の解となります。Re(F(x,y))≅rncos(nφ)、Im(F(x,y)) ≅rnsin(nφ)なので、位相がπ/2回転しています。

<5次方程式の例2>

  • F(z)=z5+ z3+2z2+1=0

を考えます。5次方程式なので実数解を持ちます。図4に5つの解の位置を示します。赤線と黒線の交点がF(x,y)=0の解となります。2次の係数が2なので、解はr=1の円上に並んでいません。5次方程式にはRe(F(x,y)) とIm(F(x,y))が正となる領域が5つ放射状に広がっています。Re(F(x,y))の正領域とIm(F(x,y))の正領域がπ/2回転してずれているので、Re(F(x,y))=0の黒線とIm(F(x,y))=0の赤線が5つの交点を持ちます。

Re(F(x,y))=0とIm(F(x,y))=0のグラフがn個の交点をもつことから、n次の代数方程式F(z)=0にn個の複素数解が存在することが直感的に分かります。