適正なクレアチニン(Creatinine)濃度はいくつでしょうか?

クレアチニンは、筋肉でクレアチニン酸から代謝される老廃物の一つで、腎臓の糸球体から排泄されます。そのため、血液中のクレアチニンの増加は、糸球体の濾過機能が低下していることを意味します。健康診断の腎機能検査では、血中のクレアチニン濃度と尿たんぱくを調べます。適切なクレアチニン濃度は男性で0.6~1.1(mg/100cc)、女性では0.4~0.8(mg/100cc)です。ただし、筋肉が多い人は高めに、筋肉が少ない人は低めの数値になります。正確な測定にはクリアランス検査が必要です。これは2時間以上かけて、尿中と血中のクレアチニン(あるいはイヌリン)の残量からろ過機能を評価するものです。

推算糸球体濾過値eGFR(=estimated Glomerular Filtration Rate)とは

そこで、多くの人のクリアランス検査の結果を利用して作られたのが、eGFR(推算糸球体濾過値です。これは、血清クレアチニン値、年齢、性別から、腎臓が正常値の何%機能しているかを推算したものです。2008年度の改定では、eGFRの算出式は

  • eGFR値(男性)=194・{[血清クレアチン濃度]^-1.094}・[年齢]^-0.287 

となっています。女性の場合は、男性のeGFR値を0.739倍して算出します。

グラフから分かるように、例えば60歳男性でクレアチニン濃度が1.0mg/dlなら、eGFRは正常値の60%ということです。これ以下だと慢性腎臓病に入ってしまします。

年齢が増えると、eGFR値は低下します。健康な人のeGFRは100 mL/分/1.73m²前後なので、eGFR値が60だと正常値の60%しか腎臓が機能していないことになります。eGFRが60 mL/分/1.73m²未満の状態が3カ月以上続くと、慢性腎臓病(CKD)と診断されます。15 mL/分/1.73m²未満は末期腎不全の状態で、透析治療や腎移植を検討しなければなりません。

55歳を超えると、知らない間に、多くの人が慢性腎臓病になっています。血液検査で得られた血清クレアチニン値からeGFR値を算出し、自分の食事、運動、睡眠、ストレス、飲酒、喫煙などの生活習慣を見直しましょう。

eGFRの面積補正

通常のeGFRの単位は(mL/min/1.73m2)です。これは「仮に体表面積が1.73m2であったなら」という条件付きで、1分間に何ミリリットルろ過できるかを示しています。1.73m2は身長170cm、体重63kgの標準体型人の体表面積に相当します。薬物投与設計には面積補正したeGFR(mL/min)を使います。

体表面積(BSA)はDu Bois式

 BSA(m2)=体重(kg)^0.425×身長(cm)^0.725×0.007184

を用いて求め、

  eGFR(mL/min)=eGFR(mL/min/1.73m2)×1.73m2/BSA

によって体表面積補正を行います。例えば、157cm、63kgならば、

  • 1.73m2/BSA=1.73m2/1.63m2=1.06

となります。eGFR=59.0(mL/min/1.73m2)でも、

  • eGFR(mL/min)=59.0×1.06=62.5

となり、60以上の値が得られます。この補正を行わないと、小柄な体格の人はeGFR値が小さくなってしまい、重症患者に分類されてしまいます。従来日本人の体表面積は1.49m2が用いられていましたが、国際的に1.73m2が用いられるようになったため、1.73m2が採用されたということです。

腸内細菌と腎臓病の関係

腎機能は、IgA腎症などの腎臓病以外に、加齢、生活習慣病で決まることをお話ししました。阿部高明教授(東北大)はある種の便秘薬をマウスに投与し、腎臓の機能改善を実証しました。今は臨床試験中です。腸内の悪玉菌は尿毒素を放出し、腎機能を低下させると考えています。便秘薬で、腸内の悪玉菌を減らすことで、腎機能が改善すると考えています。

生活習慣病は腎機能を低下させる

40歳代になると年齢とともに、糖尿病、高血圧、脂質代謝異常などの生活習慣病のリスクが高まります。これらは血管の病気と言われています。血管が密に集まる腎臓では、血管の劣化によって、腎臓病が引き起こされます。また加齢により腎機能は低下します。一度機能が低下すると、通常は元には戻りません。しかし慢性腎臓病には自覚症状がありません。日本には1300万人の慢性腎臓病患者がいると推定されています。

腎臓病は脳卒中や心筋梗塞を引き起こす

腎臓は、主に血液から水分、塩分、老廃物を除去し、尿を作る働きをしています。腎機能が60%以下に低下すると慢性腎臓病と診断されます。腎不全になれば、透析を受ける必要があります。腎機能が低下し、血中のリンが過剰になると、血管壁にリン酸カルシウムが沈着し、動脈硬化を引き起こします。透析患者になる前に、脳卒中や心筋梗塞で死亡する人も多くいるのです。

糸球体(glomerular)は血液をろ過する装置

腎臓には糸球体という血液をろ過する組織が集まっています。1個の腎臓の皮質に100 万個くらいあるとされています。糸球体は直径0.1~0.15mmですから、2cm角サイズの皮質に0.2mm間隔で配列すると100万個になります。しかし日本人の平均の糸球体数は70万個であり、アメリカ人の100万個、ドイツ人の140万個に較べると極めて少ないのです。

心拍出量の約20-25%の血液が腎臓を流れ、血漿成分のろ過が行われます。糸球体血管の内皮にはろ過のために無数の穴が開いています。内皮は陰性に荷電しており、血中タンパク質であるアルブミンや血球などの表面が陰性に荷電している物質を通過させません。糸球体でのろ過圧力は20mmHg程度です。

  • ろ過圧=入口血管圧60mmHg-出口血管圧25mmHg-ボウ-マン嚢圧15mmHg

一日にろ過される原尿は120~170リットルに達し、この99%が糸球体に続く尿細管で再吸収され、実際に尿になるのは1~1.5リットルです。 腎臓は大量の血液をろ過し、休みなく働いているのです。

次に健康診断で得られるクレアチニン濃度から、腎機能がどれだけ正常かを求める方法を紹介します。