どうして水が1万度の火炎になるのでしょうか?

6月11日のテレビ朝日の羽鳥慎一のモ-ニングショ-で東工大の渡辺隆行准教授(58歳)らが開発した水プラズマ・ジェット火炎(トーチ)が紹介されました。水で1万度以上の火炎が得られるとは、驚きですね。しかし既に水プラズマ技術自体は10年前に開発されました。今回は、ヘアドライヤ感覚で使える水プラズマ・トーチが紹介されました。クリ-ンで低コストの携帯型フロンガス処理装置として注目されています。他にも有用な使い道があるかもしれません。

水プラズマト-チの外観

水プラズマ火炎の発生原理
水プラズマとは1万度以上の高温状態の水素原子と酸素原子と電子の集合体のことです。水プラズマ火炎の発生原理は、電極間に水蒸気を供給し、放電してプラズマにするだけです。従来の装置は、配管で水蒸気を供給していますが、水蒸気が配管の途中で冷えると凝結し詰まってしまうので、配管を100℃以上に保つ必要があり、装置が大きくなります。

発明のポイント
今回は、タングステン繊維の細長いフエルトに水を吸わせて給水する工夫をすることで、直接、水を高温の放電部に供給でき、効率よくプラズマを発生させることができました。放電部は銅製の加熱部で100℃以上に保たれています。陰極にはハフニウムが用いられており、強い酸化性の高温の水蒸気でも長時間、耐えることができます。はじめて液体の水から直接水プラズマを発生することが可能になりました。従来の水蒸気プラズマ装置は、高温の冷却水を捨てていたので、約30%の熱効率でしたが、水プラズマでは90%の熱効率が得られました。


水プラズマのフロンガス処理能力
フロンは電気炉などで2000℃に加熱するだけで分解できます。水プラズマ・トーチの電力は1kWで1時間当たり160gのフロンやハロンを分解することができます。代替フロンとして用いられるフロン134aの場合、1気圧で約20リットル、つまり500cc缶1本分を1時間で分解できます。フロンのフッ素は、アルカリ処理でCaF2(ホタル石)として沈殿します。ホタル石はCaCl2が混じるために純度は低く、高値では売れないようです。
実は、西日本のフロンを処理するために北九州の処理施設まで集めてきます。フロン処理費用の大半は輸送費になっているので、携帯可能なフロン処理装置は輸送費を節約できる利点があります。


水プラズマを利用した廃油処理車
昨年から車載型の廃油分解処理装置が開発されています。自動車のディーゼルエンジンから200kWの電力をまかなっています。水プラズマ火炎にPCBや硫酸ピッチなどの廃油を噴射することで、分解処理します。PCBは有毒な絶縁油です。硫酸ピッチは石油精製の硫酸洗浄工程で発生するタール状の物質です。硫酸ピッチは有害な重金属を含んでおり、水分と反応すると亜硫酸ガスを発生させます。水プラズマ処理で、炭素は二酸化炭素に、重金属は安定な金属酸化物になります。
PCBは処理施設に移動するには法的許可が必要です。硫酸ピッチはドラム缶に詰められ山中に不法投棄されるのが問題になっています。容器のドラム缶が溶けて運べない状態になっていることが多いので、車載型の分解処理装置が役に立ちます。

水プラズマ火炎の他の応用
 渡辺准教授は生ごみも含めて水プラズマ火炎で燃焼し、発生する水素ガスを回収したいと述べていました。有機物を燃やすと灰が残ります。灰はふわふわして扱いにくいし、重金属が含まれていると水に溶け出して危険です。そのため、プラズマを使って灰をガラス状に固めて捨てます。これを灰溶融(ash melting)といいます。

水プラズマ火炎で発生した高温の排ガスは、ガスタ-ビンやTPV、バイオマスなどの発電装置にも使えるかもしれません。

水プラズマ火炎の心配事
 携帯型の水プラズマト-チは、極めて安価で、20mm厚の鉄板を焼き切ることも可能です。金庫やATMや自動販売機の集金箱などは簡単に破られてしまうので、犯罪に用いられる可能性が高いです。水プラズマト-チは、いわば現代の斬鉄剣ですが、コンニャクはうまく切れないようです。

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