新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の受容体はACE2である事は広く知られていました。最近の論文ではACE2の他にCD4、CD147、GRP78の受容体も報告されています。
ACE2は十二指腸、小腸、胆嚢、腎臓、精巣に高く発現しており、副腎、結腸、直腸、精嚢に低く発現しています。ACE2は血圧調節以外に、サイトカイン等の炎症促進物質の抑制、耐糖能の正常化、腸でのアミノ酸の吸収などの働きをしています。高血圧、血管炎症、高血糖、胃腸障害などの基礎疾患がある人はACE2受容体の出現が増加するために、新型コロナウイルスに感染しやすくなると考えられます。新型コロナウイルスにより、ACE2が極度に減少すると、高血圧、急性肺不全、血管の炎症亢進、耐糖性能の悪化、腸障害などの症状がでて、重篤化すると考えられます。このACE2受容体は、炎症を起こし激しい咳き込みを繰り返した時などに多く肺胞細胞表面に発現すると言われています。そのためリコンビナント(組み換え)ACE2の投与実験がマウスにおいて研究されています。大量生産しやすいバクテリア由来ACE2様酵素も症状への効果が期待されています。
新型コロナウイルスが上気道(鼻腔、咽頭、喉頭)に留まっているうちは、ただの軽い風邪です。上気道のACE2密度は低いと言われています。この間は、自然免疫を担うNK細胞(ナチュラルキラー細胞)とウイルスの戦いにより、一週間程度の発熱が続くと考えられています。ウイルスに感染すると発熱するのは、体温を上げてウイルスの活性を低下させるために、血管を収縮させて放熱を下げるような対抗システムが備わっているためです。
肺胞の毛細血管の内皮細胞がACE2受容体を介してウイルスに感染すると、その情報が伝達されて毛細血管の平滑筋細胞が収縮し、体温が上がります。体温が上がると白血球が活性の低下したウイルスを活発に貪食します。ウイルスが消滅すると、体温が回復します。
1918年に流行したインフルエンザでは、感染した米軍兵士がアスピリンを大量に服薬して、症状を重篤化させました。アスピリンは血管を拡張させて頭痛を除去する薬です。血管が拡張すると肺胞に水が溜まり、細菌感染を併発して、多くの人が亡くなったと言われています。流行の第二波ではインフルエンザの変性も生じて、感染率が高くなったと言われています。
新型コロナウイルスが下気道(気管支、肺胞)に拡散すると、自覚症状なく急性肺炎になるので、感染が疑われたら肺のCT画像を撮る必要があります。
CD4(Cluster of Differentiation 4、分化酵素群4)はT細胞、マクロファ-ジ、樹状細胞などの免疫細胞に発現するタンパク質受容体です。CD4はT細胞の分化、B細胞による免疫グロブリン合成の誘導・促進の作用があります。CCD4はインタ-ロイキン(IL)によってTh1、TH2、Th17のヘルパ-T細胞に分化し、それらは各種のインタ-ロイキンやイエンタ-フェロンなどのサイトカインを放出し、細胞内の細菌、寄生虫、細胞外の細菌を攻撃します。しかしそれらのサイトカインが過剰に分泌されると、炎症性疾患、アレルギ-、自己免疫性疾患を生じさせる問題があります。エイズウイルスはCD4受容体から感染するので、免疫系を破壊していまいます。血液1μLあたりのCD4数が200個以下になったHIV陽性患者はAIDSと診断されます。免疫不全になったエイズ患者は弱い細菌に感染して肺炎などで死んでしまいます。新型コロナウイルスはCD4受容体から感染し得るので、免疫系の破壊やサイトカインの過剰分泌を引き起こし、病状が重篤化します。
CD147は、Basiginとも呼ばれるタンパク質受容体で、上皮細胞、がん細胞、活性化されたT細胞に発現しています。免疫が活発になるほどリンパ球が感染して減少するので、がん患者の肺炎が急速に進行します。
GRP78 (Glucose-Regulated Protein)あるいはBiP(Binding immunoglobulin Protein)は、インフルエンザ、エボラウイルスの受容体でもあります。GRP78は細胞内の小胞体に分布しており、タンパク質の折り畳み、癌細胞増殖の阻害、炎症の解消の機能を担っています。新型コロナウイルスがGRP78を介して感染すると、GRP78の機能が障害を受け、肺炎、臓器不全、癌などが進行します。