植物の成長には日照条件、防風条件、排水条件などの土地条件と土壌条件が必要です。野菜作りは土づくりと言われるように、作物の栽培には、作物に適した土づくりが必要です。作物栽培に適した土壌には以下の6つの条件があります。
1) 土質がいいこと
砂は保水性がなく、養分が吸着しないので、作物が殆ど育ちません。粘土では排水が悪く、根を張れないので、作物が育ちません。土壌粒子がある程度細かく、通気性や排水性がよく、栄養分をよく吸着する保肥力が高い土壌が栽培に適しています。もちろん有害な化学物質で汚染されていないことも必要です。
2)土が団粒構造である
団粒構造の土は排水性、保水性、通気性、保肥性、有用菌特性が良い特徴があります。根は養分を吸収するために水が必要です。一方根は呼吸するために酸素が必要です。土の団粒構造は一見矛盾した特性を兼ね備えることができます。嫌気性生物が形成する腐食が土の団粒構造を作り出します。バームキュライト、黒ぼく土、堆肥、腐葉土は保肥性を高め、作物の増収を実現します。
3)土に有益な微生物が存在している
有益な好気性微生物は有害菌の繁殖を抑制し、植物の生育に必要なミネラルや養分を生成します。微生物は有機質を食するので、微生物を育成するには有機肥料が適しています。同一作物を栽培し続けると、有害な菌類が蓄積され、連作障害が生じ易くなります。連作障害を防止するためには、土中に有益な微生物を育成することが必要になります。有益な微生物を培養した土壌改良剤が開発されています。
4)水素イオン濃度pH(酸度)が適正である
一般的な植物はpH6.0~6.5の弱酸性の土を好みます。大きく酸性に傾けば、土中の粘土分に含まれるアルミニウム化合物がAl3+イオンになり、根を痛めます。基本的に電荷の大きいイオンは生体に有害なのです。またAlはリン酸と反応してAlPO4になるので、植物がPを吸収できなくなります。これを土壌のリン酸固定といい、黒ボク土はFeやAlが多いことからリン酸の効きにくい土壌とされています。作物根の有機酸によって溶ける肥料を用いればリン酸固定を回避できます。
逆にアルカリ性に傾けば植物はMgやFeなどを吸収できなくなります。植物が栄養を無駄なく摂取するには、適度なpHを保つ事が必要です。pHを調整するにはCaなどのミネラル成分を調整します。pHはミネラルの塩基飽和度に関連しています。塩基飽和度70~80%位が弱酸性です。
5)塩基バランスが取れていること
自然界では、風で運ばれる砂や海水、動物の死骸が土地にミネラルを供給します。動物にはCaとMgとKが適正な割合で含まれているので、植物に必要な塩基バランスが取れています。人工的な栽培の場合は、作物を収穫し続けると、畑のミネラルが減少し、塩基バランスも崩れるので、耕作者が調整しなくてはなりません。
健康な作物を栽培できる土壌にはCaとMgとKが適正な割合で含まれていることが必要です。作物によりますが、通常、理想的な割合は、Ca:Mg:K=5:2:1とされています。但しこの比率は、質量の比ではなく、後に説明するモル当量の比率です。葉物野菜の場合は、Caを多くして、Ca:Mg:K=7:2:1を採用する場合もあります。作物に適したpHと塩基バランスを実現するためには、土壌分析や堆肥分析を行い、収穫によって生じたミネラルの不足分を土壌に還元することが必要です。
6)適正な窒素とリン酸濃度があること
NやPはNO2-、NO3-、PO4-という負イオン形態で植物に吸収されます。土壌粒子は負に帯電しているので、負電荷をもつNとPは土壌に吸着されにくく、洗い流されやすいのです。NやPは主に土の中にいる微生物や昆虫や環形動物などの土壌動物に含まれています。自然界では土壌動物の死体が酸化分解されて腐食となり、徐々にNやPが供給されます。あるいはマメ科の植物と共生している根粒バクテリアが窒素分子を分解固定し、植物本体にNを供給しています。
窒素は微生物や昆虫や環形動物などの土壌動物に含まれています。自然界では土壌動物の死体が酸化分解されて腐食となり、徐々にNやPが供給されます。あるいはマメ科の植物と共生している根粒バクテリアが窒素分子を分解固定し、植物本体にNを供給しています。
土壌が乾燥しやすい場所では、微生物の量が減少し、土壌のpHが中性あるいはアルカリ性になるので、NやPが減少・流出し、作物の成長が阻害されます。あるいは畑でとれた作物を収穫し続けると、畑のミネラルが減少し、酸性化し、栽培に適さなくなります。そのため農業ではNとPを補うために、植物性あるいは動物性の肥料を施します。しかしながらより多く収穫するために、土壌が吸収できる窒素量より多く施肥しがちです。
過剰な施肥は植物を病気に感染しやすくするだけでなく、作物を食する様々な昆虫を異常発生させます。その結果、多種類の農薬を大量に使用することになり、環境汚染が進みます。過剰なNやPは地下に浸透して、地下水や河川を汚染(富栄養化)し、その汚染は湖沼や海洋に及びます。大規模な農業は環境破壊の大きな一因となってきました。
NやPは海洋に輸送され、海洋生物に取り込まれますが、結局は海底に沈みます。深層海流が浮き上がる場所では、栄養塩が再びプランクトンや魚などの海洋生物に利用されます。しかし気候変動により、淡水の流入量が増えて、海洋表層の塩分濃度が下がれば、深層水の浮上もなくなる可能性があります。