少子高齢化が加速している日本において、健康な赤ちゃんを産むことは最も重要なことです。私たち家族の最大の願いでもあります。健康な赤ちゃんを産むにはどうすればいいのでしょうか?まずは赤ちゃんのことを知ることが大切です。
赤ちゃんはお母さんの子宮の羊水の中で10カ月を過ごします。赤ちゃんの体温は38℃で、すべての栄養と酸素は胎盤に注ぎ込む血液によって母親から与えられます。胎盤は羊膜の母体側にある扁平な臓器です。胎盤で母体と胎児の血液は直接混合しません。酸素、栄養分、老廃物などの交換は血漿(けっしょう)を介して行われています。これをプラセンタルバリア (placental barrier) といいます。プラセンタは古代ロ-マの平たいパンケ-キに由来しているそうです。このため親子の血液型が異なっていても、凝血は起こりません。
赤ちゃんは、長い時間をかけて狭い産道を通り、分娩室に出てくると大きな声で泣きます。このとき赤ちゃんは肺胞を開き、酸素呼吸を開始します。医師がへその緒を切った後は、胎盤からくる栄養や水分や酸素はなくなるので。赤ちゃんは自分の口から水分や栄養分を取らなくてはなりません。
赤ちゃんの脳のシナプス密度は1歳半で最大になります。出生時はその40%ぐらいです。その後緩やかに減少し、5歳で一応完成します。脳細胞にはATP源となる糖を貯めることはできません。絶えず糖が血液によって脳に供給されている必要があります。つまり十分な血流と適切な血糖値が必要です。脳の毛細血管壁の内皮細胞は緊密に結合しており、血管内にある水溶性の物質や分子量の大きい物質は、基本的に血管外の脳細胞側に拡散できません。これを血液脳関門(Blood-brain barrier, BBB)といいます。糖は血液脳関門を通過します。EPAなどの脂肪酸は脂溶性なので血液脳関門を通過できます。脳に必要なアミノ酸は、独自のトランスポ-タがあれば、血液脳関門を通過します。ただし赤ちゃんの血液脳関門は未完成です。神経細胞であるニュ-ロンの周囲にはグリア細胞があります。グリア細胞は、有害な糖を無害な乳酸に変換してニュ-ロンに供給します。しかし赤ちゃんの脳はグリア細胞がまだ十分発達していないので、赤ちゃんの脳は高血糖にも弱いのです。
分娩直後の赤ちゃんに襲い掛かるのは、飢えと寒さです。昔は乳母(めのと)と産湯(うぶゆ)が赤ちゃんを飢えと寒さから守ってきました。出産後3日間は母乳があまり出ないので、乳母が母乳を与えていたのです。現在は粉ミルクを代わりに与えています。産湯は血液や羊水や粘膜で汚れた赤ちゃんを洗い、温めるものです。同時に昔は大量のお湯を沸かすことで、部屋を暖めていたのです。現在は、分娩室の温度は25℃に保たれているので、赤ちゃんの体温を下げないように、濡れた身体を拭いてすぐに産着を着せています。
しかし赤ちゃんと外界の温度差は13℃(=38℃-25℃)もあります。分娩から2時間の間に、赤ちゃんの体温は2~3℃低下して35℃~36℃になります。実は赤ちゃんが健康でいられる体温は37℃なのです。体温が1℃~2℃低いことは赤ちゃんにとって有害です。母親の体温は36℃~36.5℃なので、母親が抱いて温めても赤ちゃんの体温は37℃にはならないのです。
2007年に厚労省はWHOやユニセフが勧めているカンガル-ケア(早期母子接触1989年)を日本に導入しましたが、これによって新生児の低体温症は悪化しました。深夜帯の母子同室も有害です。母親が赤ちゃんの世話で睡眠不足になると、母乳の出が悪くなるからです。お産の疲れが残る母親に、深夜帯も赤ちゃんの体温・栄養・呼吸などの全身管理を任せることは無理です。カンガルーケア中の心肺停止事故の殆どは、生後12時間以内の、最も体温と血糖値が低下する分娩室・母子同室中に発生し、しかも深夜に多いようです。また、カンガルーケア中の心肺停止事故は、母乳育児の3点セット(カンガルーケア・完全母乳・母子同室)を積極的に行う赤ちゃんに優しい病院(BFH)に集中して起きていることが分かっています。しかし、その事実は意外に知られていません。