がんの免疫療法に道

京都大学の本庶佑(ほんじょ たすく)特別教授(76歳)が、免疫系のT細胞にあるPD1(=Programmed Death1)タンパク質の機能を解明し、悪性腫瘍の免疫療法に道を開いた功績が評価され、ノーベル医学生理学賞を受賞しました。

PD1は1992年に本庶研の石田靖雄氏によって発見され、2002年に本庶氏らがPD1の機能を解明しました。PD1は増殖したT細胞が人体の細胞を攻撃しないように、T細胞の活動を停止するスイッチのひとつでした。実際に遺伝子改変でつくったPD1のないラットは、T細胞の攻撃により心臓に炎症を起こし、心臓が肥大してしまいます。悪性腫瘍は、T細胞の停止スイッチを押して、T細胞の攻撃から逃れていたのです。発見から機能解明まで20年もかかりました。

2014年に本庶氏らはPD1の阻害剤であるニボルマブ(Nivolumab)を開発しました。ニボルマブがPD1と結合することで、悪性腫瘍がT細胞の停止スイッチを押せなくなり、T細胞の攻撃に曝されて縮小します。ニボルマブの商品名はオプジ-ボです。オプジ-ボは皮膚がんに対して長期の抑制効果が認められ、認可されました。

オプジ-ボに他の薬を併用することで、肺がんなど、他のがんにも効果があることが確認されており、適用患者の判定法も進んでいます。副作用のない抗がん剤が開発された功績により、開発後わずか4年で受賞につながりました。ただしこの薬は非常に高価です。薬価を下げる課題がまだ残っています。

治療薬の開発に12年もかかったのは、当時の企業はがんの免疫療法に懐疑的だったからでした。その理由はT細胞を活発化させる薬の開発がうまくいかなかったからです。今回の成功は「T細胞を活性化させる」から「T細胞を停止させない」に発想を切り替えたことにあります。T細胞を停止させるスイッチを被覆した状態で、T細胞を活性化させることが重要だったのです。大型成果を得るには研究の継続と発想の転換が欠かせないことがよくわかります。

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