ここではガロア理論を理解するための基本事項について解説します。まず多項式x2-2の根√2を用いて有理数体QをQ(√2)に拡大し、Q(√2)上の同型写像が満たすべき条件について調べます。Q(√2)は基底{1、√2}を有する2次元の拡大体であり、Q(√2)上のQ同型写像は2次の巡回群{e、σ1}を成します。併せてQ(3√2)が体であることを確認する方法を示します。代数方程式の解による拡大体とその上の同型写像が作る群には密接な関係があり、拡大体の次元と群の位数は一致します。次に多項式分解体によるガロア拡大とその上の同型写像によるガロア群について説明し、簡単な例を示します。Q上の4次の規約多項式f(x)=x4-4x2+16の分解体Q(√3、i)を求め、Q(√3、i)が4次の拡大体であり、その上のQ同型写像からなるガロア群が4元の互換変換群であることを確認します。
<体の拡大とその上の同型写像について>
有理数の全体をQとします。Qに√2を添加した体を
- Q(√2)={a+b√2|a,b∊Q}⊃Q
と書きます。Q(√2)は四則演算で
- (a+b√2)+(c+d√2)=a+c+(b+d)√2 ∊ Q(√2)
- (a+b√2)・(c+d√2)=ac-2bd+(ad+bc)√2 ∊ Q(√2)
- 1/(a+b√2)=(a-b√2)/(a+b√2) (a-b√2)=(a-b√2)/(a2-2b2) ∊ Q(√2)
閉じているのでQの拡大体となっています。
√2の最小多項式はx2-2です。√2はx2-2=0の解なので、2次の代数的数と呼びます。a,b∊Qに対して、1a+b√2=0ならばa=b=0となるので、1と√2はQ(√2)の独立な基底となっています。つまりQ(√2)は2次元のベクトル空間と同型です。QからQ(√2)への拡大の次数を[Q(√2):Q]と表すと、[Q(√2):Q]=2となります。
拡大体Q(√2)上のQ自己同型写像σについて考えます。Q自己同型写像σは任意のQの元xを不変に保つQ(√2)からQ(√2)への全単射写像です。
- σ:Q(√2) → Q(√2)、σ(x)=x for ∀x ∊ Q
また同型写像は和と積の演算を保存します。
- σ(x+y)=σ(x)+σ(y)、σ(xy)=σ(x)σ(y) for ∀x ∊ Q(√2)
従って
- σ(1)=1、σ(0)=0、σ(n)=n、σ(-n)=-n、σ(q/p)=q/p
が成り立ちます。つまり有理数xに対して
- σ(x)=x for ∀x ∊ Q
が成り立っています。以下にそれを示しましょう。例えば
- σ(1)=σ(1・1)=σ(1)σ(1) → σ(1)(σ(1)-1)=0 → σ(1)=0またはσ(1)=1
もしσ(1)=0とすると、任意のx ∊ Q(√2)に対して、
- σ(x)=σ(x・1)=σ(x)σ(1)=0
となり、σが全単射写像であることに矛盾します。従って
- σ(1)=1
となります。また
- σ(0)=σ(0+0)=σ(0)+σ(0) → σ(0)=0
です。n=1+1+1+・・・+1(n個の1の和)を代入すると
- σ(n)=σ(1+1+・・+1)=σ(1)+σ(1)+・・+σ(1)=1+1+・・+1=n
です。
- 0=σ(0)=σ(n-n) =σ(n)+σ(-n) → σ(-n)=-n
- q=σ(pq/p)=σ(p) σ(q/p)=pσ(q/p) → σ(q/p)=q/p
となっています。
それではQ上で同型を保つようにσの√2に対する作用を考えてみましょう。
- 2=σ(2)=σ(√2・√2)=σ(√2)σ(√2) → σ(√2)=√2、-√2
となります。∀a,b∊ Qに対して
- σ0(√2)=√2の場合、σ0(a+b√2)=σ0(a)+σ0(b)σ0(√2)=a+b√2
なので、σ0は恒等写像eです。
- σ1(√2)=-√2の場合、σ1(a+b√2)=σ1(a)+σ1(b)σ1(√2)=a-b√2
となります。拡大体Q(√2)上のQ同型写像は{e、σ1}となります。
- σ1・σ1(√2)=σ1(-√2)=-(-√2)=√2=e (√2) → σ1・σ1=e
となるので{e、σ1}は合成写像の二項演算に関して2次の巡回群をなします。
Q上の代数方程式x2-2=0の解√2を用いて有理数体QをQ(√2)に拡大しました。Q(√2)は基底{1、√2}を有する2次元の拡大体であり、Q(√2)上のQ同型写像は2次の巡回群{e、σ1}を成すことが分かりました。代数方程式の解による拡大体とその上の同型写像が作る群には密接な関係があり、拡大体の次元と群の位数は一致します。
次に有理数Qに三乗根3√2を添加した拡大体を考えます。
- (3√2)2=3√4∉Q、(3√2)3=2∊Q
なので、3√4が3√2と同時に付加され、
- Q(3√2)={a+b3√2+c3√4|a,b}⊃Q
となります。Q(3√2)は加減乗除について閉じているので体となります。
- a+b3√2+c3√4+a’+b’3√2+c’3√4=(a+a’)+(b+b’)3√2+(c+c’)3√4 ∊ Q(3√2)
- (a+b3√2+c3√4)(a’+b’3√2+c’3√4)=(aa’+2bc’ +2b’c)+(ab’+a’b+2cc’) 3√2+(ac’+a’c+2bb’) 3√4 ∊ Q(3√2)
Q(3√2)が割り算について閉じていることを示すのには少し計算が必要です。
- 1/(a+b3√2+c3√4)=a’+b’3√2+c’3√4 ∊ Q(3√2)を示します。
1/(a+b3√2+c3√4)=1/c・1/[3√4+(b/c)3√2+(a/c)]
α=3√2とおきます。改めてb/cをb、a/cをcとおいて
- 1/(α2+bα+c)=αの2次式 ∊ Q(3√2)
になることを示せばよいことが分かります。
∃a1、a2、k、r ∊Q なる有理数が存在して
- x3-2=(x-a1)(x2+bx+c)+k(x-a2)
- (x2+bx+c)=(x-a2) (x-a3)+r
が成立します。よって、2式から(x-a3)を消去すると
- (x2+bx+c)=(x-a2) [x3-2-(x-a1)(x2+bx+c)]/k+r
- [1+(x-a2) (x-a1)/k] (x2+bx+c)=(x-a2)(x3-2)/k+r
となります。上式にαを代入すると、α3-2=0より、右辺はrのみになるので、
- 1/(α2+bα+c)=[1+(α-a2) (α-a1)/k]/r=(1/rk)[α2-(a1+a2)α+ a1a2+k] ∊ Q(3√2)
が示されます。つまりQ(3√2)は割り算について閉じていることが分かります。
<多項式分解体とガロア群について>
数αを根とする最小次数のモニック多項式を最小多項式といいます。例えば√2の最小多項式はx2-2です。モニック多項式とはx2+2x+3の様に最大次数の項の係数が1である多項式のことです。
KがQの有限次数の拡大体とします。Kの任意の元αの最小多項式の全ての解がKの元であるとき、KをQのガロア拡大体あるいは正規拡大体K/Qと言います。
Q(有理数)係数のn次多項式f(x)の全ての根α1,α2,α3,…αnを加えた拡大体Q(α1,α2,α3,…αn)をf(x)の多項式分解体と言います。実は、ここでは証明しませんが、KがQ係数の多項式分解体であることはKがQの正規拡大体であることと同値になっています。
今KがQの正規拡大体とします。K上のQ自己同型な写像Aut(K)をKのガロア群といい、Gal(K/Q)と書きます。同じことですが、KがQ係数多項式f(x)の分解体のとき、Aut(K)をf(x)のガロア群といい、Gal(f)と書きます。任意のQの元xに対して、σ∊Gal(f)はσ(x)=xである自己同型写像なので、f(x)=0の解α1,α2,α3,…αnに関して
- f(σ(αi))=σ(f(αi))=σ(0)=0 for i=1,2,…n
が成り立ちます。σ(α1),σ(α1)・・σ(αn)はf(x)=0の解になっています。つまり
- σ(α1),σ(α1)・・σ(αn) ⇔ ασ(1),ασ(2) ,ασ(3) …,ασ(n)
と同一視すると、σで解を変換することは、解の順番を入れ替えることに相当します。
Ex1. Q多項式f(x)=x4-4x2+16を例に、f(x)の分解体とガロア群を求めてみましょう。
f(x)=x4-4x2+16はQ上ではこれ以上因数分解できない規約多項式です。f(x)の分解体とはf(x)=0の解をQに付け加えてできた拡張体のことでした。f(x)を因数分解すると
- f(x)=x4-4x2+16=(x2+4)2-(2√3x)2=(x2+2√3x+4)( x2-2√3x+4)
- =(x-α1) (x-α2) (x-α3) (x-α4)
- α1=√3+i、α2=√3-i、α3=-√3+i、α4=-√3-i
となります。解をQに付加すると
- Q(√3+i、√3-i、-√3+i、-√3-i)=Q(√3,i)
すなわちf(x)の分解体はQ(√3,i)になります。
ちなみにQ(√3,i)=Q(√3+i)も成立します。
- t=√3+iとおくと、t2=2+2√3i、t3=(2+2√3i)( √3+i)=8i
→ i= t3/8、√3=t-i=t-t3/8
より、√3とiは√3+iで表すことができるからです。
結局Q(√3,i)は4つの基底[1,i,√3,√3i]をもつ4次元ベクトル空間と同型でした。Q(√3,i)上の同型写像σは、Qの元は不変に保ち、iと√3は符号を変える変換を含みます。つまり
- -1=σ(-1)=σ(ii)=σ(i)σ(i) → σ(i)=±i
- 3=σ(3)=σ(√3√3)=σ(√3)σ(√3) → σ(√3)=±√3
でした。よってQ(√3,i)の元
- a+bi+c√3+d√3i ∊Q(3,i) for a,b,c,d∊Q
に対するQ同型写像σとして
- σ1(a+bi+c√3+d√3i)=a+bi+c√3+d√3i:恒等写像e
- σ2(a+bi+c√3+d√3i)=a-bi+c√3-d√3i:(i,√3)→(-i,+√3)
- σ3(a+bi+c√3+d√3i)=a+bi-c√3-d√3i:(i,√3)→(+i,-√3)
- σ4(a+bi+c√3+d√3i)=a-bi-c√3+d√3i:(i,√3)→(-i,-√3)
の4種類のQ同型写像が考えられます。今
- σiσj=σjσi for i,j=1,2,3,4
- σiσi=e、σ1σi=σi for i=1,2,3,4
- σ1σ2=σ3、σ1σ3=σ2、σ2σ3=σ1
が成り立つので{e=σ1,σ2,σ3,σ4}はクラインの4元群(Z/2Z×Z/2Z)になります。
具体的にσの解に対する作用を調べてみましょう。
- σ2(α1)=σ2(√3+i)=√3-i=α2
- σ2(α2)=σ2(√3-i)=√3+i=α1
- σ2(α3)=σ2(-√3+i)=-√3-i=α4
- σ2(α4)=σ2(-√3-i)=-√3+i=α3
つまり、σ2は
- σ2(α1、α2、α3、α4)=(α2、α1、α4、α3)=(12)(34)
1と2、3と4の互換変換となります。同様に
- σ3(α1)=σ3(√3+i)=-√3+i=α3
- σ3(α2)=σ3(√3-i)=-√3-i=α4
- σ3(α3)=σ3(-√3+i)=√3+i=α1
- σ3(α4)=σ3(-√3-i)=√3-i=α2
つまり、
- σ3(α1、α2、α3、α4)=(α3、α4、α1、α2)=(13)(24)
1と3、2と4の互換変換となります。同様に
- σ4(α1)=σ4(√3+i)=-√3-i=α4
- σ4(α2)=σ4(√3-i)=-√3+i=α3
- σ4(α3)=σ4(-√3+i)=√3-i=α2
- σ4(α4)=σ4(-√3-i)=√3+i=α1
つまり、
- σ4(α1、α2、α3、α4)=(α4、α3、α2、α1)=(14)(23)
1と4、2と3の互換変換となります。
結局、f(x)=x4-4x2+16のガロア群Gは
- G={e,σ2,σ3,σ4}={e,(12)(34),(13) (24),(14)(23)}
なる互換変換の群であることが分かりました。また
- #G=4(群の個数) ⇔ [Q(√3、i):Q]=4(拡大次数)
が成り立っていることが確認できました。Q上の4次の規約多項式f(x)=x4-4x2+16の分解体Q(√3、i)を求め、Q(√3、i)が4次の拡大体であり、その上のQ同型写像からなるガロア群が4元の互換変換群であることを確認しました。